SS-06 January 16、1989 ( side Kaori )

12万HIT企画

今更ですが、カウンターキリ番企画消化ネタです。
アンソロ2014の完成お祝い&日頃のご訪問の御礼と言いつつ、
自己満足でごめんなさい。

内容は原作以上です。
本編設定が土台の、奥多摩から2ヶ月後の1月16日の夜が舞台。
成人式が1月第2月曜日になったのは2000年からなので、
ここでは旧成人式の日取りです。
(日付けに合わせてアップしたかったの…)




【 SS-06 】January 16、1989 ( side Kaori ) ************************** 3629文字くらい




1992年1月16日木曜日。



成人式の翌日の夜。

あたしは、アパートの屋上にいた。

空には、

半月と満月のちょうど間くらいのお月様。



コートを着込んでいても寒い。

お風呂上がりに

ここに来るワケにはいかなかったので、

まだジーンズにハイネックとトレーナーという

動きやすい普段着のまま。




吐き出す息が白く流れる。




あの時から、3年。




昨日は、キャッツで

美樹さんとかすみちゃんの誕生日パーティー。

それこそ3年ぶりだった。




あっという間。



3年なんて、

中学校3年間、

高校3年間と同じ長さなのに、

この年になって感じる3年の短いこと短いこと。





このところ、色々とあり過ぎて、

気がついたら年を越してしまっていた。




つい2ヶ月前、

あたしと撩は、

公私ともにパートナーとなって、

大きな大きな節目を一緒に跨いだ。




考えるだけでも、

寒かった体が熱くなる。

未だにこの手のことに、

大した進歩も進化も適応もしていないあたしは、

奥多摩という単語が思い浮かぶだけでも、

じゅわっと背中から湯気があがる。




熱を下げるために、

コンクリートの柵に両肘をついて、

自分の頬を両手で挟んだ。




はぁ…。




緩い風に乗って、

白くなった空気がまた流れていった。




目の前には、

遠くまで見えるビル群の明かり。

眼下には、

幹線道路を行き来する車のライトにエンジン音。




今、この街のどこかで、撩は夜のパトロール中。





どうでもいいことなんだけど、

とても些細なことなんだけど、

今日は、

あたしにとって意味ある記念日。

きっと、

生涯忘れることができない日の一つ。





マリーさんから撩の過去を聞いた日。

撩の誕生日を勝手に決めた日。

それから、ここで撩があたしに…。




って、もう恥ずかし過ぎて

頭の中でも先が続かない。




そ、そりゃね、それまで、

こっそりなんかされてるかも?って

感じはあったのよっ。

で、でも確信なかったし!

言い出すことなんて出来なかったし!

奥多摩で、本当に、そ、その、し、してもらうまでは、

それこそ墓場まで持って行かなきゃと思っていたくらいの

秘密のほにゃららだったし!

そもそも撩が、あたしなんかに!と思っていたし、

だ、だからこそ余計にね、

驚きっていうか、衝撃が大きかったのよ!




思わず、ぷるぷると顔を横に振ってしまう。




寝ている時じゃない、

目が覚めている時に、

撩の唇がはっきりおでこに触れたのを感じた時は、

全ての時間が

完全に止まったと思った。




あたしは、目を閉じて、

右手の人差し指と中指を揃えて

ひたりと自分の額に当ててみる。

冷たい。

自分の指先も、おでこの表面も。




もう幾度となく、

撩と唇を合わせ、

キスをされていない場所なんか

ないんじゃないのと思うくらいの

関係になっても、

あの日、

ここでもらったキスの感触は忘れない。




同じように、ひんやりと冷たかった。

ほんの少しだけ、かさついていた。

そして、

わずかに撩のぬるく濡れた舌先が

唇の間でかすめられ、

ほんの少しだけ湿り気を残して、つぶやかれた言葉。




———  サンキュー、パートナー  ———




台詞と一緒に、

肌で受けた温かい湿度のある息。

握られていた右手首に

くっと少しだけ力が込められたのは

気のせいじゃなかったと思う。





一瞬、ほんの一瞬。




これからもよろしくねと、

あたしが何の違和感もなく差し出した手を、

撩は、素早い動きで握手にオプションを加えた。




もはや、オプションではなくメイン。




同じ日付けで、

同じ場所にいるだけで、

鮮明に思い浮かぶあの夜の出来事。

日中も10度届かない冬空の深夜、

放置されたあたしが身動きできずに

これまた勝手に風邪をこじらせたのが懐かしい。




立ちっぱなしの間、

頭の中はぐるぐると同じ言葉がメリーゴーランド状態で

まわり続けていた。




撩にキスされちゃった、撩にキスされちゃった、撩にキスされちゃった

撩にキスされちゃった、撩にキスされちゃった、撩にキスされちゃった




きっと夢見ているのよ。

目を覚まさなきゃと、

今しがた起ったことが現実とは思えずに、

のぼせた頭は文字通り処理能力を越えて

ヒートアップ。





美樹さんが、

屋上に様子を見に来なかったら、

あたし、ここで凍死していたかも。




それが、3年前。



あたしは目を閉じたまま少しだけ上を向く。

ふぅーと細く息を吐き出すと、

タバコの煙のように白くゆらめいて頭上で消えた。



ふと、小さく耳に届いた聞き慣れたエンジン音。

コンクリートの低い壁から腕を組んで覗き込むと、

赤い車が目に入る。

それが減速して車庫に入る直前に、

運転席からひょいっと右腕が出てきた。




「なっ…!」




あたしが、屋上にいることを運転中に気付いたのか、

それとも、道行く知人への挨拶だったのか、

でも、もうそんなに人が出歩く時間でもないし?




そんなことを考えていたら、

ガチャリと屋上の扉が開く音が聞こえた。



まーた、このオトコは、

まるで1階駐車場の扉を開けたら

屋上に直結しているんじゃないかって思うくらいの

どこでもドア的な瞬間移動で現れる。

いい加減、これにも慣れてきたけどね。




「おまぁ、なぁーにやってんの?」



すぐに振り向いて、

嬉しさ丸出しの顔を見せるのもシャクだから、

あたしは、背中を向けたまま、体をコンクリート柵に預けて、

そっけなく答える。



「べっつに。

あんたも珍しいわね、こんな時間に戻って来るなんて。」




日付けが変わるまで、まだ1時間以上ある。

近付いて来る、落ち着いたスリッパの足音。

一緒に、くすっと撩の笑いを含んだ息が聞こえた。




とたんにずしっと背中が重くなる。

「ちょっ、ちょっと!重たいじゃない!」

ロングコートを着た撩は、

あたしを後ろから包み込むように抱きついてきた。

柵の上に組んでいたあたしの腕に、

自分のそれを重ねてきて、

左肩越しから頬を合わせられる。



「……30分以上はここにいただろ?」




ほぼ正解。

たぶん、ほっぺたの冷え具合からの逆算。

こんなことはお手の物だしね。

当てられたのが悔しいので、

とぼけてみる。

「いつからって覚えてないわよ。」

もう周辺が温まってきた。

こんな撩の行動にもまだ慣れないあたしは、

当然体の中からも温まって来るワケで…。



外回りのはずだったのに、

それを思わす匂いがあまりしない。

強いお酒の香りも、タバコの残り香も、

バーのママさんが付けている香水の芳香も…。

ちょっと安心したのが、

撃ちたての硝煙臭もしないこと。




平和な見回りだったみたいね。




「ったく、この季節に

ここに長くいたら体調崩すのは経験済みだろうが。」

「え?」

がばっと体の向きを変えさせられた。

撩のコートの中にすっぽりと収まっているあたしは、

目をぱちくりとさせながら、

聞いた言葉を反芻する。




2人の吐く白い息が、

ゆっくりと横になびいていった。




ふいに撩の右手がせり上がってきて、

あたしの額をかき分ける。

って、ちょ、ちょっと!

驚いて、少しだけ身をのけぞらせたら、

背中にある太い腕がぐいっと動いて、

より密着させられた。




目を閉じながら、

ゆっくりと近付いてくる撩の顔のアップ。

寸前に見えた視線の先は、唇ではなくその上。

あたしは、慌てて目を閉じた。



ちゅっと押し付けられた、

あの時と同じ場所に同じ唇。

まるでデジャブ。

また体が沸騰しそう。

肩幅がきゅうと狭まって、足も腕もカチコチになる。




撩は、そのまま

何回か薄い皮膚をついばみ、

狭い範囲を吸い付いた。

あたしの頭に添えられていた温かい右手は、

するりと落ちて、

顎のラインに添えられる。

強制的に斜め上を向かさせることになり、

薄目を開けたら、

また近過ぎる相方のいたずらっこ的顔。




「……あんとき、こっちにちゅうしてたら、

どーなっていたことやら…。」




バクンと心臓が反応する。

細く開けていた目がパチっと開いた。

撩が、親指をあたしの下唇に触れるか触れないところで

緩慢に横へ滑らせる。

も、も、もしかして、撩、わ、わ、わかってる???




撩はいつものように、ふっと息を吐き出し、

素の穏やかな表情をする。

その小首が少し傾いたと思ったと同時に、

またちゅっとついばまれた。

今度は、唇。

一度吸い付かれるとなかなか離れない撩の口は、

今回は珍しく超ライト級で、次のアクションに。



「冷えたかおりちゃんを温めてあげるには、

やっぱここじゃぁダメだよなー。

ささ、早く中に入りましょーねー。」

と、明るく軽い口調で言いながら、

撩は、あたしをひょいっと抱き上げた。

気がついたら、屋上の扉を閉められ、

足早にお姫様抱っこで階段を降りている。




「りょ、撩!ちょっと!あ、あたし、ま」

と、ここまで言って、言葉が止まる。

まだお風呂に入っていないんだから!と言ったら、

きっと、

そのまま浴室で仲良しタイムになる可能性大!

とてもじゃないけど、

それはまだ恥ずかし過ぎる。




ど、どうしようぅぅぅ!



妙にご機嫌な撩にしがみつきながら、

この後の展開にどうすべきか、

火照った頭で考え巡らす。



妙案も浮かばず、

撩がこの日の意味を知っているか否かも分からず、

いつのまにか、7階の撩の部屋の前。




あたしが撩に誕生日を作った日。




今日もまた、

こうしてぬくもりをそばで感じることが

素直に嬉しくて…。




あたしは、この後のことなんて、

もうどうにでもなれと、

半ばやけくそで、

さらに撩に強くしがみついた。



****************************************
中途半端でおしまい!






リアルでは、今日は
でこちゅう記念日から26年目。

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SS-05 Shadow (side Kaori)

60000HIT企画

原作穴埋めバージョン
1989年9月頃
第231話(完全版23巻) 「愛と悲しみの誘拐犯」の巻
香が伍島あずさを尾行するお話し。


【SS-05】 Shadow ( side Kaori ) *********************************** 3551文字くらい



「……たぶん、自作自演、だな。」

「え?」



伍島社長の邸宅を出てから、あたし達はアパートに戻り、

リビングのソファーに腰を下ろした。

すると撩が先に口を開いた。

なんのことかとすぐには理解できなかったあたしは、

ぽんとガラステーブルの上に投げられた

茶封筒の宛名に目を丸くした。



「な、なにこれ?」

「社長の部屋でみっけちゃった。」



訝しがりながら、そっと封を手にして中身を見てみる。

「!?…っこれって!脅迫状じゃない!」

「そ。」

「ぞ、象牙の密輸?」

「そ、ハナから怪しいとは思っていたんだが、

その内容から見て、ほぼ間違いない。あずさくんが差出人だ。」

「え!」

「しかも、密輸は明日の夜だ。」

「あっ、ホントだ。」

「彼女は間違いなく明日中に行動を起こすはずだ。」

「密輸をやめさせるために?」

「んもぉ〜、あずさちゃんたらぁ、動物のことで頭いーっぱいなんだもんなぁ〜。」

撩は頭の後ろに手を組んで、んーっとのけぞった。

あたしは、封筒と手紙をテーブルの上にそっと戻す。

一瞬、これにあたし達の指紋がついたままでいいのかしら?

と心配になるも、撩が何もそのあたりに言及しないので、

気に留めないことにした。



「香、おまぁ、明日は見張り役な。」

「え?」

「とりあえずぅ〜、朝からお邪魔しちゃってぇ〜、

あずさくんに一日、ぴぃ〜ったりくっついておかんとなぁ〜、ぐふふっ。」

あたしはひょいっと1トンハンマーを投げる。

「でっ!な、なにすんでいっ!」

顎をさすりながら、撩は抗議するも、

あたしは何を言っても明日の未来が変わりそうにない気がして、

言葉少なめで返すことに。

「その、ぐふふってなによ。ぐふふって。」

「いや、仕事に打ち込まねばという

意気込みと気合いに決まっているではないかっ。」

胸を張ってポンと拳で自分の胸板を叩く撩に、

はぁ、と溜め息を出すあたし。



「で、あたしは尾行?」

「そ、車でな。」

「わ、わかった。」

撩は封筒の中に手紙を戻すと、ジャケットの内ポケットに仕舞い込んだ。

そしておもむろに立ち上がる。

「俺、ちょっと出かけてくるわ。メシまでには戻る。」

「そ、そう。」

たぶん、これから裏情報の収集やら密輸に関する小細工やらを整えに、

行くであろうということがなんとなく分かったけど、

あえて言葉には出さないでおいた。



「ちょ、ちょっと!へんなところ行って、

余計なツケとか作ってくんじゃないわよっ!」

「へいへーい。」

撩は片手をひらひらさせながらリビングを出て行った。

気をつけて行って来てね、と言えない変わりの言い回しに、

ふぅと溜め息をつく。



「あずささん…。」



確かに、初めてあずささんと出会った時から、

彼女はターゲットにされている人が持つ特有の

恐怖心によるゆとりのなさというものが

全く見受けられなかった。

それを早くから感じ取り、今日あの短い時間で社長の部屋を特定し、

素早くこんなものを見つけてくるなんて…。

まぁ、人が見られたくない物を隠す場所を絞るなんて、

撩にはお手のもんだろうけどね。



「明日、か…。」



その後、遅く帰宅した撩に軽くハンマーを喰らわし、

食事と入浴をすませ、あたしたちはさっさと休むことにした。



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。



翌朝、早めの朝食を済ませ、

あたしと撩は別々の車であずささんの住むRマンションに向かう。

とりあえず2台とも車内電話が搭載してあるから、

離れても連絡はとれる。

先に、撩が彼女の部屋に向かって、

あたしはマンションからやや離れたところで、車内待機。



「撩のヤツ、まぁーた彼女に

やあらしぃことをしてんじゃないでしょーねぇ??」

心配と不安が沸きつつあったところで、

思ったよりも早く2人が外に出て来て、ちょっと驚く。

車内に常備してある双眼鏡で様子を伺う。



「え?歩いて行くの?」



てっきりクーパーに乗って2人でどっかに行くかと思っていたら、

最初っから予想を裏切られる。

向かう先は、あずささんのマンションから徒歩15分ほどのところにある

最寄り駅裏の歓楽街。



あたしは、気付かれないよう慎重に徐行しながら

2人のあとをつけた。

「っま、まさか、りょぉ〜、ほんっとにホテルに入る気じゃないでしょ〜ねぇ〜。」

握るハンドルに思わず力が入る。

会話が聞こえないので、やりとりはさっぱり分からない。

しかも、あずささんが嫌がっている感じじゃないし〜。

あ!彼女がホテルを指差した!

あそこに入るっていうの???

かろうじて見える看板の名前に、一瞬ひるんだ。



「ホテルアニマルハウスぅ???」



えーっ!も、もしかして、あたしも中にはいんなきゃだめなの?

2人であんなとこ入ったら、撩が大人しくしているワケないじゃない!

ど、どうしよう…。

ううん、出てくるのを待つほうがいい?

だ、だめっ!あずささんが危険だわ!

と、とにかく出入り口が他にないか確認して追わなきゃ!

なんてことを考えながら、駐車する場所を目で探していると…。



あ、撩があずささんから離れたわ。

まったく一人にさせないようにって自分で言ってなかったっけ?

あああっ!あずささん!どこ行くの!



ホテルの入り口で職員となにやら話している撩から、

足早にあずささんが離れる。

「も、もうっ!」

あたしは、あずささんが死角にならないように、

車を少し移動させた。

そもそもこんな場所、心理的に良くないわっ!

角を曲がったところで、

あずささんが路駐している車に素早く乗り込んだ。

「え?」

全てスモークガラス。

中が見えない。

少しだけ運転席の窓が下がり、そこからあずささんの悲鳴が響く。

「キャアアアア」

大きくエンジン音が轟(とどろ)いた。

「冴羽さーーん!!」

グォォォン!

「これか!」

あたしは、すぐにアクセルを踏み、間を少し開けて後を追った。




たぶん、これは撩の計算の範疇。

追跡の失敗は許されないわ。

ばれないように、適当な距離を保って見失わないようにしなきゃ。

たぶん、撩はこの間に、大急ぎであずささんのマンションに戻って、

駐車場に停めてあるクーパーに乗り、

発信器でまずはあたしの居場所を確認するはずだわ。

進行方向が分かれば、きっとすぐに追ってくるはず。



あずささんは、あの車をあらかじめあそこに置いていたのかしら?

マンションの駐車場じゃないところに停めておくなんて、

やっぱり撩をこっちに誘ったには計画的だったってこと?

ん?それでも、撩が来ることなんて絶対的なものじゃなかったし…。

そもそも、あの車はあずささんのもの?

ううん、誘拐劇を仕組むなら、本人の車の可能性は低いわ。

でもレンタルだとそこから足がついちゃうし、誰かから借りたのかしら?

朝はそんな動きしようがなかっただろうから、

昨日の夜のうちに仕組んだってこと?



そんなことを考えながらも、あたしは、

前方に神経を集中させ尾行を続ける。

「……埠頭に、向かってる?」

車窓から東京湾がちらほら見える。

あずささんの車はスピードをあげ、港の倉庫街に入って行った。

これ以上近い距離だとバレてしまうわ。

あたしは、ぎりぎり視界に入る距離を保ちながら

車が止まる場所を見定める。



すると一つの倉庫の前で、あずささんの乗った車が止まった。

あたしも離れた場所の影に停車する。

双眼鏡で確認するも、乗っている人はたぶん彼女一人。

「……さらわれたフリ、か。」

切羽詰まっている彼女を思うと切なくなってきた。

あずささんが倉庫の大きな扉を細く開け、中に入ったのを認めると、

あたしはすぐに車内電話で撩のクーパーに連絡を入れた。



「撩、今横浜の埠頭にいるの。」

『あいよ。もう向かってる。』

「場所は、一番南の倉庫街よ。」

『りょーかい。もうすぐ着くから、大人しく待ってな。』

「なによ!大人しくって!」

『余計なことすんなってこと。

そこからあずさくんが移動するかもしれないから、しっかり見張っとけよ。』

「あ、うん、わかった。」

『んじゃ、あとでな。』

ぷつっと切れた受話器に目をやるも、

なんだか心は複雑な気分。



こうして、久しぶりに仕事らしい仕事の動きをしているのに、

これが依頼人の娘による自作自演の誘拐脅迫事件で、

しかも動物学者である彼女の出来うる範囲の抵抗であり、

さらに、密輸は今夜。

「撩は…、どうやって決着をつけるのかしら?」

たぶん、夕べのうちに撩が色々と手回しをしていたのは

なんとなく分かるけど…。



とりあえず、あたしは車の外に出て撩の到着を待つことにした。

言葉通り、撩はあたしの予想よりも早い時間で現場入り。

聞き慣れたエンジンとブレーキの音に振り返る。



「お早いお着きね 撩!!」

「あそこか」

「ええ あの倉庫の前」

「まちがいない あずさ君をさらった車だ」

車を一瞥する撩。

「ほんじゃ 行きますか」




あたしたちは、建物に近付き

倉庫の扉をわざと大げさに開放した。

撩、どうするかお手並み拝見だわ。




あとは、みなさんご存知の通り。


**********************************
END





シンデレラデートの時も顕著でしたが、
香がきょとんとしたり、怒ったり、くすくす笑ったり、むかぁっとしたりと、
短時間でころころ表情や感情が変わる様が
なんとも愛らしくて、
本編でもそんな場面をちまちまと作っております。
きっと、このあずさの尾行の時も、
緊張したり、怒ったり、戸惑ったり、焦ったりと、
複数の思いが出たり入ったりのカオリンだったのではと。
そんなワケで、
原作ではきっちりカットされた尾行シーンを
勝手に思い描いてみました。
しかし、あの誘拐劇に使った車、
本当にどういう計画であそこから発進できるようにしていたのか、
かなり謎でございます。
カオリンに代弁させてみました。
友人知人に鳥類学者とか森林学者がいたりするもんで、
この伍島あずさ編は生き物屋的にも好きな作品故、
またどっかで使っちゃうかもしれません。
もちろん密輸現場が横浜というのも何の根拠もございません〜。
香の車にも電話付き設定も原作では見受けられなかったネタですが、
携帯も使っていなかった2人が合流するのに、
発信器だけでもなんとかなったかもしれませんが、
とりあえず少し便利にしといてあげました。
というワケで6万ヒット御礼企画でした〜。

SS-04 Brooch

50000万ヒット記念企画


原作穴埋め、1989年10月下旬頃。
第245話(完全版24巻)「コートの秘密!?の巻」で
登場した盗聴器の猫のブローチが香に手渡されるお話し。


SS-04  Brooch (side Kaori) *************************************2729文字くらい



「ほれ。」

「え?」



キラリと光り弧を描いてあたしの方に飛んでくる何か。

「わわっ。」

慌てて両手を出し、胸の前で受け止める。

「な、何これ?」

固い金属片のような感触。

そっと手の平を開けてみた。



「?」



首をかしげる。

猫の顔を象(かたど)ったブローチのように見えるけど…。

あたしは、いつも通り伝言板を見に行って昼前に帰宅。

撩に、お昼に食べたい物を一応聞いてからキッチンへ行こうと、

リビングのドアを開けたとたんに、これが放られた。




「教授が、おまぁにって。退院祝いだと。」

撩はソファーに寝転がったまま億劫な空気で答えた。

「え?きょ、教授がぁ?な、なんで?」

「さぁーねぇー、ボクちゃんにはなんにも出さねぇーでやんの。あーつまんね。」



ついこの間、あたし達2人は、

揃いも揃って急性虫垂炎で入院した。

その時出会った浦上まゆこちゃんの事件が無事解決し、

また日常が戻ってきたところで、

この出来事。



「どうして教授が入院のこと知ってるの?あんた話したの?」

「うんにゃ、あのじぃーさんのこったから、こんな情報筒抜けなんだろ。」

「そ、そっか…。あ、お礼のれんら」

「あー、しなくていいよ。俺から言っといた。」

「そ、そう…。」



あたしは、ブローチを目の高さに持って来てマジマジと見る。

指先に違和感を覚えて、裏をひっくり返してみた。

「それ、発信器兼盗聴器になっているから、

仕事が入っている時はスイッチオンにしとけ。」

「は?盗聴器?」

「試作品だと。」

「はぁー、だから裏にへんなのがついてるのね。」

安全ピンや爪楊枝で押すであろう小さな凹スイッチの場所を確認して、

また表面をひっくり返す。



「……キャッツのマークみたい。」



あのエンブレムにそっくり。

「あたしより、美樹さんのほうが似合うかもね…。」

可愛くシンプルな猫のデザインに、

あたしにはこれが似合うような要素がない気がして、

少しだけ口調が暗くなった。



ソファーの短辺側でドアの方に頭を向けて仰向けに転がっている撩は、

持っていた雑誌をばさっとガラステーブルに投げた。

「……そいつは、スーツでもカジュアルでもどっちでもつけられるさ。」

むくっと起き上がると、

ソファーに座ったまま、んーっと伸びをする。



「あー腹減った。メシは?」

「あ、今から作るわ。何が食べたい?」

「食えりゃあいい。」

「もう!たまには作る側が助かるような要望とか言ってよね!」

「だから、何でもいいって。」

撩は頭をぼりぼり掻きながら、面倒臭そうに答える。

「何でもいい、が一番困るのよっ。」



あたしは、リクエストを聞くことを諦め、

撩に背を向け廊下に出た。

キッチンに進みながら、

肩から下げていたショルダーバッグにブローチをそっとしまう。

ボタン付きの服じゃない時は、

とりあえずこれを持ち歩いた方がいいわね。



正直、今まであたしに分からないように付けられていた

ボタン型の発信器は、折々の洗濯やクリーニングで

付けたり外したリが面倒だから、

こういうアクセサリー系のほうが断然助かる。

でも、敵を欺くには

ボタンとかベルトの部品とかの方がいいのよね…。



あたしは、荷物を白木の椅子の上に置き、エプロンをまとった。

「何つくろ…。」

冷蔵庫を開けて庫内チェック。

「パスタ系にしよっかな。」



だけどアクセサリー系の小道具は初めて。

ただ素直に身に付けるには、ちょっと抵抗があるのよね…。

たまぁーに、あたしがイヤリングやネックレスをつけると、

撩はあからさまに苦い顔して、

こう言うの。



— そんなもんは、もっと似合うカワイ子ちゃんが付けてナンボのもんだろぉ ー
 
— アクセサリーも付けられる相手を選びたいんでねぇのぉ? —



どうせ男女には必要ないだろうという表現にずきりとしながら、

本気で傷付いたことを知られない様、

その度にハンマーを出してごまかすの。



だから、できるだけこんなものは使いたくないのに…。

今回は、あいつから依頼時には付けとけって…。

使ったら使ったで言われることはきっと一緒。



ベーコンとバジルソースを取り出し、

冷蔵庫をパタンと閉める。



うーん、せっかく教授からプレゼントもらったのに、

なんだか気分が沈んでいくなんて、

まったく誰のせいよ、誰のっ。



パスタが入っている引き戸を開け、

スパゲッティを400グラム取り分けた。

あたしは100、撩は300…で足りるかな。

かがんでシンクの下から30センチ鍋を取り出して、

たっぷりと水を注ぎコンロにごとりと座らせる。

フタをして火をつけて、次はベーコンを切らなきゃ。



まな板を前に包丁を手にしたところで、

また余計なことを考えてしまう。



そうよ、いちいち撩の言葉に落ち込んでる場合じゃないのよ。



ワケのわからない腹立たしさと悲しさにまかせて、

厚いベーコンをざくざくと切り分ける。

美樹さんから分けてもらった、本格的な手作りベーコン。

ログハウス住まいの知り合いが、

いい豚肉を使って自家製の薫製器で燻し上げた

塩以外無添加の一品。

次はイノシシ肉で作りたいんだとか。



なんかもったいないな。

少しずつ使いたいけど、

でも撩にはたっぷり食べてもらいたいし…、

うーん、まぁいっか。



「撩のためなら…、か。」



包丁を動かしながら、思わずつぶやきの声が出てしまった。

はっとして口元を押さえる。

指先についた薫製の香りがくんと鼻に届く。

自分の頬が染まるのが分かった。



も、もうっ!

今、腹立ててなかったっけ?あたしったら!



動きが止まったあたし。

手元のまな板と包丁とベーコンを見つめる。



……たぶん、うれしいんだわ、これって。



教授からの退院お祝いって分かっているけど、

撩からあーゆーモノ受け取ったの、

は、初めて、なのよ、ね…。



思わずくすりと鼻から軽い息が出て、口元がにやついた。

たった、これだけのことで…、

撩からのプレゼントではないと分かっているのに、

撩から手渡された、もとい手渡しじゃなくて放られたけど、

ただ、撩を経由したけなのに、

たったそれだけで、嬉しいだなんて…。



「……あたしって、なんてお安いのかしらね。」




こんな調子だったら、もし直接撩から何かもらっちゃったりしたら、

どうなっちゃうのかしら。

まぁ…、そんな心配はしなくてもいいんだろうけど、ね。




「ふん、仕事の時つけろって言ったの撩なんだから、

またぐちぐち言ったらハンマーだからね。」



あたしは、どこかくすぐったい気持ちが沸き上がり、

それをかき消すように、

またベーコンを切り始めた。



バッグの中に収まっている小さな仕事用のアクセサリー、

その後、すぐに絵梨子の件で、

ブローチが役立つことになるとは、

この時のあたしは知る由もなかったけどね…。


********************
END




うーん、何だかよくまとまりませんでしたが、
腹が立ったり、沈んだり、喜んだりと、
気分が上下して忙しい香ちゃんでした。
ベーコンとバジルのスパゲッティ、
話しの中で最後まで作らせられんかった…。

【忘れてはならない日】
9.11、1.17、3.11と1が並ぶ日取りで
忘れてはならない数字と重なり、
今日もまた、振り返るべき日が巡ってきました。
生きたくても生き得なかった多くの人々の思いは
あまりにも重たく、
安易に陳腐な言葉では触れることもはばかられますが、
生かされていることに改めて感謝しながら、
多くの命を犠牲にして得られた教訓を
しっかりと次世代に伝えていかねばと思います。

SS-03 Hidden Scar (side Kaori)

Toad Lily Short Short 03

40000Hit感謝企画

1991年夏から秋

ちょっと切ない香です。



【SS-03】Hidden Scar(side Kaori)************************************1837文字くらい



ふと気付いた。



暑い季節でも、そうでない時も、

撩が、上半身裸で家の中をうろつくことは珍しくなかった。



それが、

海原戦後、教授宅での療養を終えてアパートに戻ってきてから、

撩は自分の体をあたしの前で露(あら)わにすることが

全くなくなってしまった。



最初に違和感を覚えたのは、

日下美佐子さんの依頼が片付いてから間もない頃、

梅雨も開け、都内は夏日に近い気温で、アパートも熱がこもっていたのに、

起こしに行った時、

撩はTシャツを着たままでベッドに寝ていた。



「こんなに暑いのに、

オールヌードじゃないなんて、どうしたのかしら?」



これまでは、

あたしが同じフロアに暮らしていることを気にもとめずに、

自分の裸体を晒(さら)したまま就寝することが日常だった撩。

それが、きっかけで思い起こしてみれば、

お風呂上りも、寝る時も、

撩はあの早春以降、

あたしに上半身の肌を見せないようにしている、

そう感じるようになった。



なぜ?



思い当たるのは、

海原との撃ち合いで傷つけられた左胸の銃創。

恐らく、

鎖骨から10センチくらい下を平行に走っているだろうと思われる

表皮と一部の筋肉が抉(えぐ)れてしまった傷痕は、

目立つ裂傷となって残っているに違いない。



それをあたしに見せないようにしている。

まるで、あの時の記憶を蘇らせないように、

何もなかったと、

船の中での出来事を共有することを拒むように。



そう、考え始めてしまったら、

ますます撩の日々の言動に、

喩えようのない気分が黒く渦巻く。



お互い、

生きることを約束して船底から脱出したのに、

ガラスの向こうに見た曇りのないあの瞳で見つめられながら、

共に死んで悲しませないと誓い合ったのに、

それを全てなきものとして、

これまで通りの日々を重ねる撩の姿に、

あたしは、何かを見失ってしまった。



ミックのところに転がり込んでから、

うやむやのうちに、アパートに戻った後も、

それは変わらないまま。



9月の残暑が厳しい中でも、

あたしは、撩のあの傷がどうなったのか、

知ることのないままに、

季節は、

冬の使者であるロシアからの渡り鳥が各地に飛来していることを

ニュースが伝える時期になってしまった。





もう、変化を求めることに意味はない。





「このまま、…ずっと、このままで、……それでも」





それでも、そばに居られるならば、

パートナーとして生きることができれば、

他の望みを捨てることに、

もう迷いはない。




「……わ、…笑わなきゃ、ね。」




この苦(にが)さはなんだろう。

一緒にいることを望んでいるのは自分なのに、

それを苦に感じてしまうのは、

あたしの弱さなのか。



「……もっと、…強く、ならなきゃ…。」



期待や羨望は、もういらない。

そう心に決めた途端に、

強烈な苦しさが胸を押し潰す。



「……りょっ…。」



奥歯を噛み締める。

声を出して泣くわけにはいかない。

だけど思いに反して頬を伝うものを止められない。



「……ク、……ヒック、…フッ。」



あたしは床に座り込み、

そのままベッドに突っ伏してしまった。



苦しくても、

あたなのそばで、生きたい。

もう、他に何も望まないから、

そばに居させて欲しい。

あなたのパートナーとして生きることが、

あたしの幸せであることに変わりないから。



あなたが、

もうあたしを必要じゃないと本気で突き放す日までは、

あたしが生きる意味を

あなたに求めることを許して欲しい。



「……りょ…。」



あたしは小刻みに震える自分を強く抱き込みながら、

きつく目を閉じ、

そのまま声を押し殺して込み上がる何かに耐え、

浅い呼吸を繰り返した。







いつのまにか

寝てしまったことに気付いたのは、

翌早朝のこと。

スズメたちの鳴き交わす声が耳に届き、

カーテン越しに、朝の光が部屋に注ぐ。



緩慢に身を起こし、

しびれた足を引きずって、ベランダの窓をカララと開ける。

冷えた空気が流れ込んでくる。



見慣れた街の風景が横からの陽を受け、

茜色に反射する。




あたしは、ここで生きていく。




窓枠に右手を添え、眩しさに少し目を細めながら、

大きく息を吸い込んだ。



「笑え。」



陰気臭い顔に、

唇の端を少し吊り上げ笑顔の仮面を貼り付ける。

今日も一日、

あたしたちはお互い何も気付かないことにしながら、

過ごすのだろう。

それでも、いい。




それでも、そばに居たいから…。




「よしっ!顔洗って、洗濯して、食事作って、掃除して、

伝言板見て、買い物して、今日もすることたくさんあるぞ!」



あたしは、自分の頬を両手でパンと叩いて、

部屋に向き直り、写真の中のアニキと目を合わせた。



「……心配、しないでね。」



そう小さく声をかけ、

自分の部屋の扉を静かに開けた。


***********************************
END






香のプチ家出は1991年8月9日(美樹の被害記録帳より)、
アパートに戻ったのは、
香の手帳のスケジュール表から、
同年9月19日(木)となっています。
海原戦後からプチ家出、そして奥多摩の結婚式の少し前、10月下旬まであたりの
香を抜き出してみました。
う〜、辛そうぅ〜。
で、この時部屋の外に撩ちんがいたりするのだ。
原作でも、あの傷が見えるシーン、なかったですよね。確か。
どなたか絵描きさんに、あの海原に撃たれた傷跡のある撩の裸を描いて欲しいな〜。
(また他力本願、あ、こーゆー時にキリリクとかを使うのか?)

SS-02 Dentist (9)

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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