01-01 Lake Side

第1部 After The Okutama Lake Side (全22回)
 
原作最終回、奥多摩湖畔のラストシーンより。


(1)Lake Side *******************************************************************3038文字くらい


 

「……香。」



ふと、撩が香の名を呼んだ。

「え?」

「ちょっと、こいつらが目に入らないところまで移動しよう。」



撩は、右手に持っていたパイソンを後ろ腰に挿しながら、

左手で香の肩をそっと押して、湖畔の方へ少し進んだ。

ファルコンの視線が気になっていたのだが、

いつのまにかその気配が遠のいている。

(海坊主、悪いな。先に車のところで待っててくれ。)



「撩…、クロイツのテントに爆弾か何か仕掛けてるの?」

「はぁ?」

「避難するんだったら、もっとここから離れたほうが…。」



ここからは、

クロイツ親衛隊の拠点となっていたベースキャンプの屋根だけ見える。

ほんの僅かに離れただけ。

撩は、ただ単にこれからやろうとしていることの環境に、

ファルコンの気配があることや、

自分が倒した兵士達が、

足元にゴロゴロ転がっているのが嫌だったわけで、

香の思考の展開に苦笑した。



「大丈夫だよ、爆発なんかしねぇって。」

「え?じゃあどうして…。」

「みんなんとこに戻る前に、しておきたいことがあってな…。」

そう言いながら撩は香の腰をそっと引き寄せて、

今度は両腕でしっかりその胸に彼女を抱き寄せた。

「え?ちょっ、ちょっと!りょ、撩ぉ!?」

戸惑いながらも抵抗する様子はない。

撩は、先ほどよりも感じる

相棒の体温と匂いに改めて安堵する。



湖畔のさざ波が視界の端で光を反射し、

周辺は軟らかい緑をまとう落葉広葉樹の林。

BGMは、風のそよぐ音にカラ類のさえずり。

しかも心地の良い快晴。

人生の節目を迎えるには、

恵まれ過ぎている。



(さっきは、パイソン握ったままだったし、

クロイツが起き上がろうとしてたし、親衛隊のうめき声は聞こえるし、

タコは覗いているしで、落ち着かんかったからなー。)



撩の右腕は、香の細い腰に巻かれ、

左手は香の後ろ頭を支えて、

ぐっと自分のほうに押し付けた。

香の髪に頬を寄せ、

その感触にも心地良さを感じ入る。



香は、湿った土の臭いと

強い硝煙の残り香を鼻腔に感じ取りながら、

少し場所を変えて、

さっきより強く抱き直されたことに、

やや混乱しつつ、

わずかにある種の予感が体に走った。

しかし、今までの経験から、

すぐにその予感を全面否定することにした。

そんなことを考えている香は、

左手を撩の右の大胸筋に添え、

右手にはホトトギスを持ったままで、

撩の腕の中に大人しく収まっている。





「無事で…、よかった…。」





撩の、やや掠れた小さな声が漏れる。

香はその声にドキリとした。

(立ってお前とこんなに密着したのは、

シンデレラデートのチークタイム以来か?

あ、いや、確か北尾刑事をごまかす時もどさくさ紛れで、

抱き込んだこともあったか…。)

似た過去の思い出に、ふっと口角があがった。

香の心拍が服越しに撩へと伝わってくる。

香が生きていることを実感できることに、

いつまでもこうして体温を感じていたい気分にもなる。



撩は、

クロイツ親衛隊の攻撃を突破しながら、

ある決意を固めていた。

香を助け出したら、何をすべきか、

ようやく自身の中で

一つの選択肢を選び取ることに迷いを捨て去った。



きっと、この機会を見送ってしまったら、

かなりの天の邪鬼で、

重篤な程に素直じゃない自分たちのこと、

また曖昧な毎日で、香を苦しめ続け、

自身をごまかす日々が繰り返されるだろう。

6年以上費やした時間に、

さらに上乗せする気はもはやない。

お互いの心を押さえ込む期間があまりにも長過ぎた。



撩は、

ミックのところから戻ってきた香が、

時折部屋で声を抑え嗚咽していることは知っていた。

しかし、

その扉を開ける覚悟もできていなかったし、

そんな香に近づいて、

まともでいられる自信もなかった。

この中途半端な状況は、

撩にとっても限りなく臨界に近付き、

香の心も崩壊寸前であったことは十分に分かっていた。




そこへ突然の結婚式の招待状。



タキシードをまとったファルコンの姿を目にし、

同じ裏社会で生きる同輩が、

その決心をしたことに、

否が応でも自分たちと重ね合わせられた。




− おまえ……らしいな −

− でも すごいよ おまえ… こんな世界でそんな決心をするなんてさ…… −




本音が漏れたあの時、

同時にかずえを受け入れたミックも思い出し、

なら自分はどうなんだと、

強制的に向き合わされる。

あいつらに出来た決心が、

俺に出来ないというのは、

同じ男として情けなくないか。



そして、

美樹のドレス姿と涙と笑顔を見た時、

一瞬、脳が勝手に首から上を香にすげ替えてしまった。

あいつの、その笑顔を見たい。

そうイメージした時、

頭の片隅で思ったこと。





”……あいつらに あてられて やっても いいか…… ”





背中を押すきっかけとしては、

充分過ぎるお膳立て。

恐らく式を挙げた本人たちも、

その目論見を多少含んでいたのだろう。

ただ、

まさかの敵襲来という大きな付録があったのは、

想定外だったが、

自分の心を固める後押しとして必要条件は、

見事に揃ってしまった。




今、

お互いの深い意思を確認し合う言葉が交わされた直後。

ホトトギスの存在を、

このタイミングで気付くようにしむけたのも、

フラワーコードの意味を

香が知っていると分かっていての行為。

もうこれ以上の舞台設定はない。





(……便乗してもバチは当たんねぇよな。)





静かに苦笑する撩は、

そんなことを考え巡らせながら、

腕の中のぬくもりを感じつつ、

次のセリフを紡ごうとしていた。




(こういうチャンスじゃないと、

素直になれないというのもどうかと思うがな…。)




しばしの沈黙が流れた後、

撩は、穏やかな表情で軽く深呼吸をした。




「……香、

このシチュエーションで次は何があるか、おまぁに分かる?」

香は、ふっと顔を上げ、

きょとんとした表情で、撩の目を見た。

「この、次に?……あっ!!そうよっ!

み、美樹さんは?!ま、まだ教会なの?!」

(………はぁああ、し、しまったぁ。香は国宝級の天然だった……。)




撩は、一瞬膝が崩れ落ちそうになった。

小さく溜め息をつく。

決して遠回しのつもりで言ったのではなかったが、

香にとって、

ダイレクトに伝わるには単語が足りなかった。

ついさっきまで、

拘束されていた上に10人もの兵士に銃口を向けられ、

死を覚悟したやりとりをしたばかりの身だというのに、

いつもでも、どんな状況でも

自分のことより他人を優先する性格はここでも変わらない。

そんな香に、ますます愛おしさが沸いてくる。




(まずは、ちょっとは安心させてやらんと、

このまま俺が置いて行かれそうな勢いだな。)




撩は、香を抱き込んだまま、

ゆっくりと口を開いた。

「きっと大丈夫さ…。俺が被弾したところを見た時、

急所は確実にずれていた。

大きな血管も骨も傷ついていない…。

使われた銃も口径が小さいヤツだ。

教授もいつも対応できる装備を持っているから…、

美樹ちゃんの体力からしても、

今、死ぬようなことは絶対ねぇーよ。」

「……ほ、ほんとに?」

香は、

自分が連れさらわれる直前に聞いた教授の話しをたぐり寄せ、

弾道をも読める動体視力を持つ撩の情報と重ねて、

美樹が死ぬかもしれないという不安を、

少しだけ軽くすることができた。




「ああ、第一あの美樹ちゃんが、

新婚早々タコを『男やもめ』にするはずないだろ?。」

撩は、少し目を細め、

腕の中にいる香を見下ろした。

香は、この瞳をソニアと公園で別れた後に見た

あの時の撩の目と似ていると

かすかに思い出していた。



「早く戻ったほうがいいが、

その前にしたいことがあるって言ったろ?」



撩は、そう言いながら、

香の髪の毛に指を埋めた。


**********************************
(2)へつづく。




つ、ついに始めてしまいました。
あの奥多摩のハグシーンの後に、
撩にどうしても、
両手でしっかり香ちゃんを包んでもらいたかったので、
パイソンは後ろ腰に入れるシーンを作ってしまいました。
ちなみにカラ類というのは、
シジュウカラ、エナガ、ヒガラ、コガラなどの
小鳥を指します。
はっきり言って、この後も無駄に長いです。
(2015.01.25.すこーし改稿)


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プロフィール

Author:きまりも
since 2012.03.31.

中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。

ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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とりあえず作ってみた
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拍手1000パチ記念につけちゃいました。



アンソロ完成!お疲れさまでした!

やっとまともに表示できたっ!2013.12.15

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試運転中…

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