01-16 Bathroom

第1部 After The Okutama Lake Side


(16)Bathroom *****************************************************************1382文字くらい




撩は自室へ戻り、扉を閉めた。

そして、そのまま背を預けて寄りかかり、少し上向き加減で、

大きく溜め息をつく。



「っはぁ〜っ。」

(ボクちゃん、けっこーガマン強いかも。)



今までも、何度も何度も、

普段の生活をしている香に触れたい衝動が襲い、

その度に無理矢理押さえ込んで来た愛おしい者への強く深い欲。

傍にいることさえも危険だと思い、夜の街に逃げ込んでいた日々。




しかし、今は違う別のガマンが必要かと、

くつくつと込み上がってくる願望になんとかフタをした。

撩は、ぷるぷると頭を振って、

素早くスウェットと下着を持ち、脱衣所へ向かった。

脱いだ服をランドリーバスケットに放り込む。

浴室に入り、シャワーのコックをひねった。

ややのぼせ気味の頭を冷やすのに、まずは冷水を浴びる。

両手を伸ばして壁につき、

目を閉じて天井を向いた撩は、思考の泉に入り込んだ。

筋肉質の裸体をなぞるように落ちる水が、足元へと集まり排水溝へ流れて行く。



(俺は…、どんな未来を期待しているんだ?)



いつ死んでもおかしくない闇の生活の中で、

未来への希望や期待は、タブーのようなもの。

アメリカにいた頃は、あえて考えもしなかった。

ただ、今を生きてればいいと。

ましてや、自分にとって大切な人間を作ることなど、

生きる上で、デメリットにしかならないと思っていた。



しかし、槇村と出会い、香と出会い、失っていた、

誰かのために「生きたい」「生き抜きたい」という思いが芽生えてきた。

幼き頃、かつて、その誰かとは、オヤジと呼んだ海原であり、マリーの父親であった。

自分を生かすために訓練を施してくれた育ての親たちのために、

生き抜く、それが使命のような思いもあった。



しかし、海原に裏切られ、ゲリラ生活が終わり、

裏の世界に身を置くうちに、

「生きたい」という思いよりも

「いつ死んでもいい」と考えるほうに等符号が開き、

未来への願望を自分の中から排斥したはずだった。



しかし、日本に来て、

この兄妹と出会い「生き抜きたい」という感情が再び蘇った。

その思いの目的語が「香」であることを自分で認めることは、

決して開けてはならない扉が破られるようなもの。

何重にも鍵をかけ、幾重の扉で壁を作り、表に出てこないようにしていたその感情。



いつしか、扉の厚さも薄氷のようになり、

鍵も壊れかけ、ミックの登場がきっかけで、

しまい込んでいたモノが一気に奥底から水位を上げてきた。



「…まぁ、限界だったんだろう、な……。」



ぼそっと、独り言がこぼれる。

何年抱え込んで来た想いだったか、

それがついに限界を超え溢れ出てしまった今日を振り返り、

また苦笑する。



まずは、さっさと土や硝煙で汚れた体を洗いすべく、

撩は、わしわしと全身を洗い始めた。

なまじ、さっきまで、やっとこさ想いを交わした相手と密着していたら、

余計にこの離れている距離がもどかしい。

ふと、泡だらけの元気な息子が目に入る。



「何だ、お前も限界か?」

苦笑する撩は、誰に言い聞かせる訳でもなく、話しかける。

「まぁ、焦るな。姫の気持ちが第一だろ。」

ざっと泡を流すと、すぐに浴室を出ようとしたが、ふと思い立って、

浴槽に熱い湯を勢いよく注いだ。



「ふっ…。」



勢いといい、温度といい、たまっていく様は、

まるで自身の心の内のようだと、

取ってきたタオルで体を拭きながら、浴槽を眺めていた。


***********************************************
(17)へつづく。






撩はすっかり気分はもっこりモードですが、
必死に押さえてガマンしちゃってます。
「泡だらけの元気な息子」は、第274話の隆々泡盛をご参照下さいませ〜。
原作のミック登場から海原戦の流れを経験しているこの2人なら、
もういつ合体してもおかしくない空気を持っていたはずなんですけどね〜。
もし、海原戦の後の香の一時的な記憶喪失がなかったら、
どんなストーリーが紡がれていたのか、
これもまた妄想が広がりますが…。
とりあえず夕食タイムへ〜。


【追記】
サイトオープンから早1ヶ月経ちました。
いつの間にやらカウンターも2600を越えて、
日々お立ち寄り頂いている皆様に改めて感謝申し上げます。
別で運営している表のブログでは、
一つの記事に拍手が二ケタ越えることは
滅多にないので、
こちらでは当方の拙い創作にこんなに拍手を頂き、
恐縮しております。
他のサイト様では、訪問者の皆様に、
丁寧な返信をされている方が多くいらっしゃり、
ファンの心を大切にされていることが
とてもよく伝わってきて、ただただ頭が下がります。
当方、諸事情により
双方向でないスタイルをとらせて頂いておりますことを
重ねて深くお詫び申し上げます。
(表サイトもコメント&メッセージ非設定だったりして…)
皆様からの反響を目で見られる拍手とカウンターの数字を励みに
今後暫くは、一日おき更新を続けていきたいと思います。
基本、いんちき主婦ですが、
末長くどうぞよろしくお願い申し上げま〜す。


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01-15 My Home

第1部 After the Okutama Lake Side


(15) My Home *****************************************************************1374文字くらい




夕方、帰宅ラッシュが始まる前。

予定時間より早く冴羽アパートに到着すると、

撩は、先に運転席を降りて、助手席にまわり、

ドアを開けた。



香は、ポーチを持って自分で出ようとしたところだったから、

撩のエスコートスタイルの再来に、また驚いた。

まるで瞬間移動したかのような素早さ。

優しい瞳で自分を見下げる撩の姿に、

体が動かなくなる。




「こいよ。」



撩は香の手をそっと取ると、

立ち上がらせ、ドアを閉め、ロックをした。

照れて赤面している香が

歩き出そうと一歩足を踏み出したところで、

ひょいっと、体が浮く。

「っえ?って!?撩っ!だから、あ、あたし歩けるってば!」

驚く香は、また沸騰状態。

本日二度目のお姫様抱っこに頭が混乱する。

「いいから。ここは俺の好きにさせてくれ。」

(えええーっ?!これで6階まで上がるつもりなのぉ?)



今までの撩とあまりにも違いすぎるギャップに、

思考が、脳が、体がついていかない。



撩は、軽い足取りで、

階段をスタスタと昇っていく。

揺れるので、ずり落ちないようにと、香はおのずと撩の肩に手を回す。

お互いの顔が近くて、更に香の顔がかぁと赤くなる。

香と視線を合せた撩は、登りながらふと口角をあげると、

そのまま目を閉じ、背中を支えている腕を少し上にずらして、

香にぱくっと口をつけた。

「んんん?!」

撩は、慌てふためく香に、ますます愛らしさを感じながら、

色々な形のキスを繰り返す。



キスと一言で言っても、名前をつけられている種類だけでも

20種類以上ある。

バードキス、サーチングキス、ストローキス、ピクニックキスと、

よくここまで分類するもんだと、

撩は手持ち情報を思い浮かべた。

ちなみに、

日本ではフレンチキスは軽いキスと思われているらしいが、

これはデープキスと同意語。



「…もうちょい、顔寄せて…」

唇を離さないまま、要望を出してみる。

香は、ちょっと間を置いて、

ぎこちなくも、そっと撩の首に腕を回して来た。

これで動きやすさが数段増す。



早く部屋に着きたい思いと、

この時間を先延ばししたいという矛盾した欲がぶつかる。

登り慣れた階段、

口付けをしながら目を閉じていても目的地には行ける。

一時も、離れていたくない、少しでも触れ合っていたい。




(俺が一人の女にこんな思いを抱くようになるとはなぁ。)




香は、お姫様抱っこの上に、

複雑なキスをされながら家へと帰るこのセッティングに、

現実であることが、まだ信じられない気分だった。

香の体は、熱を帯びて指先までほってっている。

玄関まで来ると、

撩は器用に香を抱っこしたまま鍵を開け、中に入る。



「も、も…、降ろして…。」

真っ赤にゆであがった香が照れながらそう言った。

「了解。」

名残惜しげに、そっと足をつかせる。

本音は、このまま自分の部屋に運んでしまいたい気分だったが、

抑えに抑えて、次の動きを宣言した。



「さて、まずは風呂かな!クロイツの奴らとドンパチやって、埃だらけだ。」

日常に戻ってきた。

しかし、これまでの日常とは、もう大きく違う。



「そっ、そうねっ。撩っ、さ、先に入って。

そ、その間に、ぁ、あたし食事の用意するからっ。」

「あぁ、そうさせてもらうわ。」

ぎくしゃくしながらキッチンに向かう香、

苦笑しながら着替えを取りに行く撩、

2人が離れた時、

お互い体温が離れた淋しさを同時に味わっていた。


*********************************
(16)につづく。




さて、ようやく我が家へ戻ってきました。
2人が過ごす日常の空間に立ち入った時、
きっと大きな戸惑いやギクシャク感が出てくるとは思いますが、
それ以上に撩ちんは、
香ちゃんにや〜っとこさ触れられるようになったことが、
実は嬉しくて楽しくて気持ちよくて仕様がないのではと。
次はそんな2人のやり取りを出して行こうと思います。

01-14 Uragami Family

第1部 After the Okutama Lake Side


(14)Uragami Famiry *********************************************************2927文字くらい




八王子を抜けて日野に入る頃、再び香が話しかけて来た。

「…撩…、あ、あのね…。」

「なんだ?」

「誕生日で思い出したんだけど…、あの盲腸で入院した時にね…。」

撩は、浦上親子のことがポンと頭に浮かんだ。

「まゆこちゃんと誕生日の話しでもしたの?」

「へぇ?なんで?」



このプロポース事件のことは、忘れようにも忘れられない。

香との別れを本気で覚悟していたくせに、それに耐えきれない予感を抱えていたあの心理状態。

息苦しさが心の端に甦る。



「…だって、ソニアさんが来た時、まゆこちゃん、

誕生日プレゼント持って来てくれたでしょ。」

香は続けた。

「…私から教えていなかったはずだから、

撩がまゆこちゃんに教えたってこと?」

香は、なぜ浦上まゆこちゃんが、香の作った俺の誕生日を知っていたのか、

「謎」の一つとして気にかかっていたらしい。



「あー、あれね。」

俺は香の疑問に素直に答えることにした。

「いや、実はさ、あの時、リビングで休んでいたら、

まゆこちゃんがさ、どぉーしても俺の誕生日を聞きたいって、

ガンとしてひかなくってな…。」

「え?それって、入院中じゃなくて、ウチに来てから?」

「そっ。教えてくれるまでそこから動かねぇっつーから、答えたの。」

「へぇー、そんなことがあったんだ…。」



今となっては、あの『波』も懐かしい思い出。

まゆこちゃんの勘違いだったとは言え、自分の中に『もしも』が渦巻き、

香が自分の元から去っていく想定を思い描くだけでも、言い様のない苦しさを味わい、

自分の本心といやおうなしに向き合わされた。



「いやー、あんときゃ、言い渋っていたらさ、まゆこちゃん、かなりしつこくってな、

どうして教えてくれないの?って、白状するまでくいついて離れなかったからなぁ。」

香は、リビングで2人が押し問答する様子を思い浮かべて苦笑した。

撩がどんな表情で、まゆこちゃんに、自分の誕生日を教えたのか。

押し付けがましいことだったかもしれないと、少し気になっていた

自分が作った撩の記念日。

その日付を、ためらいながらも、まゆこちゃんに言った撩の対応を、

なんだか、とても嬉しく思えた。



「今頃、どうしているかしらね。」

「親子3人、順調に仲良く暮らしているだろうよ。」

香の思考は、まだ思い出の中にあった。

あの入院生活のことや、山荘でレーザー銃に撃たれそうになった時のこと、

まゆこのプロポース予告を聞いた時のこと、

どれを思い返しても、今となっては懐かしいの一言だ。



「…あん時も、ホント色々あったなぁー。」

撩も同じように過去の記憶に思い巡らせていた。

「何が?」

「おまぁが、キャッツで倒れたって電話が来た時とかさ。」

始まりは、香の急性虫垂炎。

「病名を聞いてから脱力したわ〜。」

「何ですって?」

ちょっと不機嫌な顔になる香。

「い、いや、だからなぁ、美樹ちゃんも言ってだろ?

こんな商売しているから、毒でも盛られたんじゃないかって」

確かに、病院でそんなことを話していたようなと、香は思い出す。

「だから、電話で病名聞くまでは、けっこう焦ってたのっ!」

珍しく当時のことを正直に吐露する撩。



香の入院騒ぎから始まった、浦上親子との出会い。

最初の第一報で、自分はたぶん取り乱していた。



— 香、何があっても死ぬな! —

— 俺より先に逝くんじゃない! —



電話を受けて、「香が倒れて入院」という単語が脳に届いた瞬間、

頭の中は、最悪の設定ばかりが映像化された。

香を失うかもしれない恐怖が、一瞬で自分を包み込んだ。

自分が生死をさまよっても感じることのなかった恐怖感、

もう二度と味わいたくない思いだと、撩は思い返した。



病名を電話越しに聞くまで、

わずかコンマ数秒間だったが、あの時は、心底ほっとした。

(でもって、誰も見ていないのを分かっていても、

コスチュームファイルを出して自分をごまかしたりもしたがなぁ。)



それでも、入院中の香に優しくすることもできずに、おちゃらけていた自分を振り返る。

そこに、あの浦上親子の登場。

まさか、事件までからんでくるとは思ってもみなかったが、

揺れ動いた自分の潜在意識、長年抱えた想いが溢れ出るリミッターさえも感じた。



焦ったと言う、撩を意外だわと思いながら、香も続ける。

「まさか、撩も続けて同じ盲腸で入院するなんて、思ってもみなかったけどね。」

そう、山荘で自分が急性虫垂炎になったことも、もはや、今では笑い話だ。

正直、あの痛さは撩も、被弾したと勘違いするくらいだった。

その後、香の適切な機転と行動で、入院することになったのだが、

目の見えないまゆこちゃんと、激痛で動けない自分の2人を抱えて、

よく対処できたものだ、と思い返す。

(さすが、俺のパートナーだよ。)



「……勘違いでよかった…。」

「は?」

目的語のない香の突然の小さな呟きに、驚く撩。

「まゆこちゃんの勘違いで、本当によかったって、そう思ったの。」

当時の撩の心の声を、香が代弁した形になった。



「もし、…本当に浦上さんが私にプロポーズしていたら、

たぶん、…撩は私を表に返そうとして、きっと止めなかった、…そうじゃない?」

撩はギクリとした。

「もしかしたら、無理にでも、つきはなして、多少乱暴な言動をしてでも、

自分の元を去るようにすることを、考えていたんじゃない?」



あの時、入院最終日の夜に、

撩が抱えていた悶々としていた心理を、香は完全に読んでいた。

香は続ける。

「…私も、…本気で迷っていたの。

あたしなんかが、撩のそばにいたら…、撩が、…もっと危険にさらされる、

あたしのせいで、撩が死ぬようなことがあるくらいなら、

…パートナーを辞めた方が、いいのかなって…。」

香はくっと唇を噛み締めた。



「でも…、それでもね、

……あたしは、撩の傍にいたい、離れたくないって思っちゃって…。」

すんと鼻をすする。

撩の身の安全よりも、自分の欲が勝るような心理に、

自分の弱さと醜さを改めて思い起こし、情けなくなる。



「…香。」

撩は、香に視線を向けた。

香があえて口に出さなかった部分まで、その口調と表情で読み取れる。

冗談抜きで、連れて行かれるかもしれなかった事実に、

浦上のプロポーズの相手が違っていたことが、どんなに幸運だったかを知る。



「……離れる必要なんか、もうないだろ?」

香の肩がぴくっと動く。



(俺も…、まゆこちゃんの勘違いで、ほっとしたよ…。)

思っても言葉には出来ず、抱きしめたくなる衝動が込み上がって来る。

しかし、今はハンドルを握っている。

高速での脇見運転を承知で、首を少しのばして、香の髪にキスをし、その衝動を流した。

もちろん、すぐに向き直って安全運転に切り替えたが。

「…りょ…。」

赤く染まった頬で撩を見上げる香。

「お、もう高井戸か。新宿までもうちょいだな。」

近付く道路標識を目で追いながら、話しの流れを変える軽い口調を発する撩。

「……早いね。」

撩の腕に寄り掛かり直し、頭の居場所を落ち着かせる。

「あぁ、おしゃべりしてるとな。」



奥多摩を出た時、最初は、きっと香は疲れて寝てしまうかもしれない、

と思っていたが、会話のネタにつきない。

依頼人の話しや、槇村の話題、共通の思い出に、時間はあっという間に過ぎ、

新宿インターへ降りていった。


*******************************
(15)につづく。






私の中ではまだ答えが出ていないのですが、
第234話の香が入院した一方を受けた撩の
「なにぃ 香が!?入院っ!?」のセリフと表情。
これ、素なのかフェイクなのか、
判断材料がないんですよね〜。
作品中、撩の「素」が出るコマって少ないので、
これも電話先の
美樹ちゃんor海ちゃんorかすみちゃんに対してのフェイクで
やや取り乱しの感を演じているのか、
それとも本気で紡がれた言葉なのか、
次頁の「撩ちゃん編纂都内制服一覧②」の登場を見ると、
やっぱりフェイクか?と思いたくなりますが、
答えは北条さんじゃないと分からないか。

【改変しました】
アドバイスを頂き、一部改変致しました。
2014.01.10.

01-13 Novemver 12

第1部 After The Okutama Lake Side


(13)November 12 **************************************************************4268文字くらい




「…ねぇ、撩…。」

暫くして、沈んでいた気分を切り替えるように、香が小さく声を出した。



「んぁ?トイレ休憩か?」

「ううん、違うの。まだ休憩はしなくても大丈夫。…あ、あのね。」

今度は、何を言い出すのか、次の言葉を待ってみる。

また、ほんのり顔が赤くなり始めた。



「…えーとね、たぶん、さゆりさんが来た頃だったと思うんだけど…。」

「さゆりさんって、立木さゆりさん?」

撩にとっては、かなり特別度が高い元依頼人だ。

何と言っても、香の実の姉である。



「3年くらい前か。」

「あぁ、もうそんなになるんだ…。」

何年前かは、香自身ちゃんと記憶していなかったようだ。

「その年のね…、11月12日の深夜って、何をしていたか、…覚えてる?」

突然具体的な日付を言われて、何のことだ?と

あの頃のことを記憶の引き出しから色々出してみた。



「んー、さゆりさんが帰った後?」

「そう。たぶん、そのちょっと後くらいよね。11月って。」

「深夜って、午前1時とか2時とか?」

「日付は12日に変わっていたと思う。」

(ちょっと待て?

だいたい、その時間は、俺は飲み屋のおねーちゃんと騒いでいるとか、

オカマバーで遊んで情報収集とか、裏の仕事をする時間帯だな。)

「うーん…。」



撩は考えを巡らす。

(さゆりさんが来た頃の…、3年前の11月、3年前の11月…12日。)

「あ…。」

記憶の引き出しから該当する場面が出て来た。



撩は、教授経由の依頼で、

麻薬組織の重要人物を狙撃したことがあった。

確かその日付と同じだ。



そして、久しぶりの殺しの仕事に、さゆりの件の余韻も残り、

どこかしら、撩の心に表現しがたい揺らぎが出ていた。

以前なら、女を買って一時的に気を紛らわすことをしていたが、

その時は、そんな気にもなれなかった。



深夜2時頃にアパートに帰った撩は、

ライフルから醸し出された硝煙の臭いを落とすため、

まずはシャワーを浴びた。

浴室を出て、右に曲がろうとしたが、

寝る前に何となく香の寝顔が見たくなって、つま先は左に向いた。

客間の扉の前。

首にタオルをかけたままの撩は、

気配を読んで香が寝ていることを確信してから

そっとノブに手をかけた…。



「……か、かおり、しゃん…。」



記憶が鮮明になっていき、こめかみから汗がつっと落ちる。

「……もしかして、あの日、……起きて、…たの?」

ハンマー、こんぺいとう覚悟で、恐る恐る聞いてみる。



「……思い、出した?」

香は、撩のその一言で、話しを続ける決心をした。

寄り掛かったまま、少しばかり緊張する。

フロントガラスの奥に視線を向けつつ、香はゆっくりと呼吸を整える。



あの日、全力で気配を消して、香の部屋にそっと入った撩は、

寝顔を見たらすぐに部屋を出るつもりだった。

しかし、窓から漏れる夜の街の明かりが

香の横顔を妖艶に照らしている様が目に入り、

その光景に見惚れてしまった。

そのまま、撩はドレッサーから静かに椅子を引いて来てゆっくり腰を下ろし、

しばらくベッド脇で香を眺めていたのだ。

おのずと腕が動き、指先でくせっ毛につと触れてみる。



不思議な感覚だった。

殺しの仕事をした後にいつも感じる、

どす黒いものが渦巻くような心の中を、

香の寝顔を見ているだけなのに、

それが、スーと浄化されていくような、何かがリセットされるような、

まるで自分の中の何かが、

新しいシーツに取り替えられたような、そんな気分を味わってしまった。

ふいに、香が寝返りをうち、艶やかな口元からかすかな声をもらした。



「…りょ……。」



気付いたら、香の唇に自分の唇を重ねていた。

殆ど触れるか触れないかの超ライト級のフェザーキス。

無意識かつ反射だったとしかいいようがない。

「……ん…。」

香はわずかに身じろいだ。

慌てて身を離した撩は、年甲斐もなく心臓がバクバクと弾んでいた。



焦る一方で、心は壮快かつ爽やかになり、

寝顔とキスで、自分の闇が溶けてなくなったような気もした。

何かが溢れ出てきそうになる。

これ以上、ここにいてはセーブがきかなくなると、

撩はふっと口角をあげ、音を立てずに立ち上がると、

また椅子を元に場所に慎重に戻し、

そっと部屋をあとにした。



「…11月12日はね、アニキの、…誕生日なんだ。」



グッと撩の胸の中の何かが握られた。

(確か、あいつの運転免許証をちらっと見たことがあったが、

たしかそんな日付だった気がする。

男の誕生日なんて覚えてらんねぇしと、データからは消えかかっていた。

命日は忘れようがないが…。)



香は、ゆっくり話を続けた。

「……ずっとね、…夢を見てたに違いないって思ってたの……。」

(だって、お前、しっかり寝息たててたぞ。)

「…撩も、翌日は何もなかったように、ごく普通に過ごしていたし。」

(そりゃそうだ。)

「きっと、アニキが誕生日の記念に見せてくれた夢だって、そう思っていたの。」

(熟睡していると確信していたんだが、こりゃバレてたってことだよな…。)

「…でもね。」

ちらっと、香が俺のほうに潤んだ視線を送る。

「髪の毛に触れた指も…、残り香も…、

ドアが閉まる音も…、どれも感覚が覚えているみたいで…。」

すぐに逸らされた、恥じらいと戸惑いとを宿す瞳。

それはすぐにある決意の眼差しへ変わった。




「今までは、自分に都合のいい夢を見ていただけ…、

そう信じていたけど、

今日のことで、…夢じゃ、…なかったことに、しようかな、…と思って。」



撩は白旗を上げた。

(まいった…。本当にまいった…。)

隠し通すことは完全にあきらめた撩。

(まさか、槇村の誕生日だったとは。

だからこそ日付までも香は覚えていたのか…。)



「……じゃあ、槇ちゃんの誕生日が、ファーストキスの記念日だな。」



ついに観念して、撩は白状した。

香は目を見開いた。

「………。」

(ハンマーか、簀巻きか…、いや運転中は勘弁してくれぇー。

帰ったらいくらでも甘んじて受けますっ、受けさせて頂きますからっ!)



「…アニキの誕生日なのに、あたしがプレゼントもらっちゃった訳だ…。」



穏やかな口調で紡がれた言葉に、今度は撩が、目を見開いた。

「……すまん。」

「え?何が?」

「あ、い、いや、…その、…お、おまぁの同意も得ずに

随分勝手なことをしたな、…と。」

撩は、もう目を合わせられずに、運転もそぞろになりかける。

そんな撩の姿を見ながら、香はくすりと笑う。



「……部屋に来たの、1回だけ?」

(ぐっ!)

ハンドルを握る手が汗ばむ。

(さぁ、どうする?何と答える?俺!)

「……おまぁは、何回だと思う?」

「え?」

香の表情は分かりやすい。

今、その顔は、その1回だけじゃなかったの?と

書いてあるように見える。

(しまった…。墓穴だ…。…これも白状しちまったほうがいいか…。)

「……俺も、回数は分からん。」

「は?」

(いや、本当なんだって。

死ぬまで秘密にしておくつもりだったけど…、

バレちまったもんはしかたないなぁ。

それだけ香ちゃんにメロメロだって証拠よん♡)

なんてことは、口に出せる訳なく、

決して、いい加減な気持ちではなかったことを

どうやって伝えようかを、持っている国語力をフル回転させた。



しかし、そんな撩の焦りをよそに、香が先に口を開いた。

「………そのうちの何回かは、…寝たふりしてた、って言ったら信じる?」

撩は、運転中なのに、白目になりかけた。

きっと飲み物を飲んでいる最中に聞いていたら、

間違いなく霧状に吹き出している。

(今、香何ってった?)

ちらっと横を見ると、香はくすくす笑っている。

「ぷっ、ふふふふ、あーっおっかし!」



ここは怒るところで、笑うところでははないのだろう、

と疑問符が頭に浮かぶも、

アクセルを踏みながら、展開が推測できないことに焦りを覚える撩。

(寝たふり?いや、覗きに行ったときは、

完全に熟睡している気配に間違いないと自信があったのだが。

俺が騙されてた?スイーパーのこの俺が?)



「…いくつか、…謎が、解けたわ。」

「謎?」

「そう、謎だったこと。

撩…、教えてくれて、ありがと。…秘密のキス。」

からませた腕にキュッと力が入る。

照れと動揺と焦りが撩の全身を駆け巡る。

「かっ、香?おまぁ、怒んないの?ハンマーは?こんぺいとうは?」

「……あんた、そんなにあたしに潰されたいの?」

「い、いえ。遠慮させて頂きます…。」



てっきり、激怒の香を見ることになると覚悟していたが、

また読みがはずれた。

秘密のキス、絶対にバレてはいけない、

自分だけの秘密のはず、だった。

まさか、ここで香からこの話題を持ってこられるとは。

(…やっぱ、おまぁは、すごい女だ。)



最初の11月12日を境に、

寝顔とフェザーキスを頂きに、何度しのびこんだことか、

撩自身ももはやカウントできない。

半ば中毒となっていたのかもしれない。

どんなにアルコールを胃に流し入れても、

どんなに女を買っても、癒されることのなかった、

黒く濁っていたものが、香の寝顔だけでクリアになるのだ。




気配を消した撩と寝ぼけた香、日常のやりとりがやりとりなだけに、

夢か現実かと迷った時、

「現実であるはずがない」と芽生えたかすかな可能性を否定し、

どんなに紛らわしいことがあっても、

「夢に違いない、自分の醜い欲望が見せた夢」

香はそう片付けることにしていた。



夢か現実か分からなかった「秘密のキス」の謎が解け、

決して、悪ふざけやイタズラなどの

いい加減な気持ちでされたものではなかったことを感じ、

数年間持ち続けて来たモヤモヤ感が一気に晴れた。

それを「怒らないのか?」と問う撩に、

何だか母性をくすぐられる感覚が降って来た。



簀巻き、コンペイトウが出てこないことに安堵した撩は、

次のセリフに迷っていた。

「んじゃ、これからは秘密にしなくてもいいんだもんねぇー。んっー。」

わざとスケベ顔の緩んだ表情で尖らせた唇を向けてみる。

「ぶっ!」

計算通り、ミニハンマーが顔面にめり込んだ。

「ちゃんと前向いて運転してちょーだい。」

「しゅ、しゅびばせん…。」

ぽろっと落ちたハンマーにいつもの空気を感じ安心感を覚えた。



香は、撩の腕に寄り掛かり、自分の腕をからませたまま、

小さく呟いた。

「ほんと、さゆりさんの時もそうだったけど、

今までいろいろあったわよね…。」



撩も、これまでの道のりを思い返す。

ますます手放せなくなっていくことを実感しながらも、

表に返さねば、自分と一緒にいてはいけないと、

天秤が揺れ動き続けていたこの数年。



銀狐の時、さゆりの時、マリーの時、ソニアの時、ミックの時、

そして海原の時、と過去のページがめくられる。



(様々な波が次々と押し寄せたのに、お前は波にさらわれることなく、

俺の元にとどまってくれた。)



もう、迷いはない。

撩は、早くアパートに戻りたくて、中央自動車道に入ると、スピードをあげた。


***********************************
(14)につづく。





多くのCHの二次小説で、
撩がこっそり秘密のキスをしていたお話しは、
もはや共通設定になっていると言ってもいいかもしれません。
ワタクシもこの仮説は大賛成。
次原舞子ちゃんが登場する初回の第134話では、
1987年9月ということで最終話から約4年前、
この時は、きっと撩ちんはちょっとお遊びモードで
気配を消さずにカオリンの部屋に侵入、
隣のビルへの侵入で真の目的(寝顔だけ見に来た?)を
ごまかしたっぽいですが、
あの香ちゃんのドキドキする表情が可愛くて、
もうそのまま襲っちゃえーという気分でした。
たぶん、撩にとってもそのシチュは忘れられない
心地良い思い出になっていたかもと。
そして、その1年後、さゆりが来た年のタイミングで、
また香の部屋に入ってしまった撩を捏造しました。
さゆり登場滞在を1988年9〜10月として
その後しばらくしてという時期を11月12日にした訳ですが、
気付いた方はいらっしゃいますでしょうか?
アニキ槇村秀幸の声優をされていた田中秀幸さんのお誕生日を
当方のサイトでは槇兄ぃの記念日として頂戴しました。
秀幸の名前も声優さんからもらったものであるのは、
知る人ぞ知るネタですが、
だったらお誕生日も同じにしちゃえ!と、
香と撩の一つの記念日に重ねさせて頂きました〜。
ちょっと無理矢理すぎ?

【追記・改稿】
さっき、1988年11月12日の月齢を調べたら、
細い三日月でした…。
香の寝顔を照らしていた「月明かり」の表記を
「夜の街の明かり」に変えさせて頂きました…。
くっそー、せめて半月だったらそのまま変更なしだったのにぃ。
下調べ不足で失礼しました…(泣っ)。
2012.05.21.14:58


01-12 To East (side Ryo)

第1部 After the Okutama Lake Side


(12)To East (side Ryo) *********************************************************1331文字くらい




奥多摩から新宿までは、国道411号線沿いをひたすら東に進む。

中央自動車道を使えば、2時間もかからない。

狭いクーパーの中で、2人だけ。

エンジン音が響く。



いや、今まで何度となく、

香と2人きりで車に乗ることはしてきているが、

「あんなこと」の後だ。

どうにもこうにも自然体になれず、どことなく緊張している。

自分も香も。

俺が照れてんのか?……ったく、らしくねぇなぁ。

しばしの沈黙が続く。



「……撩は、どこもケガして、ない?」

まだ奥多摩町を出ないうちに、香がふと聞いて来た。

「ああ、上着はぼろっちくなったが、血なんかどこも出てやしないよ。」

「よかった…。」

「………お前こそ…。」

続きの言葉につまった。

生きるか死ぬかの際どいやりとりが、ついさっきあったばかり。



とは言え、人数こそ多けれど対処方法は心得ていたから、

香を救い出す自信は十分あったし、

今回の事件も、今までの経験値からすると、

本当の生死の境を彷徨うという状況からは、まだ遠い方だ。



しかし、元々表の世界で普通に学校に通い、

兄という家族と至って平凡に過ごしてきた香にとっては、

俺と6年以上も一緒に生活してきた中で、

それまでの一般的な暮らしとは比べ物にならない程、

危険な体験を繰り返しているのだ。



「…よく頑張ったな…。」

あの時、死を悟った香の表情が甦る。

俺のために、命を投げ出すことを本気で決めた顔、

目を閉じた時、香は何を思っていたのか……。

腕によりかかる香の頭を、信号待ちの時に、

左手でくしゃくしゃと撫でた。

軟らかい猫毛は、これが出来るから心地良く飽きない。



「………誕生日を…。」

「ん?」

「あの時、…もうこれで、

…生きて一緒に誕生日を過ごせなくなるかもって、思ってたの…。」

香は、ゆっくり続けた。

「…もう、死んでも後悔しないって、…本気で覚悟したけど…、

アニキと撩にごめんって思いながら、目を閉じたの…。」

以心伝心か、テレパシーか、

俺がなんとなく聞きたいけど聞けないなと、思っていた

「あの時」のことを、香が自分から話してくれた。



「……死なせやしないって、言ったろ?」

「……。」

香の返事がない。その代わりに、

俺の左腕に自分の右腕をそっとからめてきた。

「……でも、今のままじゃ、きっと…。」

この最初の出だしで香が何を言おうとしているか、すぐ読み取れた。

「大丈夫だ。」

「…せめて、身を守るための技術を少しでも身につけたい。」

何度も何度も拉致監禁され、依頼人を守ることも、

自分の身を守ることも、このままでは不十分だと、

香自身が身をもって分かっている。

「……そのことについてなんだが、…俺に腹案がある。」

「え?」

「ウチに帰って、落ち着いたら、そのうち、ゆぅーっくり相談しような。」

「?」

一体なんのことだろうと、不思議そうに俺の顔を見つめる香。

うあ、ツボだ…。

その長いまつげの下から見えるくりくりとした色の薄い虹彩の瞳で、

必殺上目使い、首かしげ。

はぁ、きっと本人は無意識なんだろうなぁ〜。



らしくなく香の視線だけで揺れる心を鎮め、

気をとりなおして、運転に集中する。

青梅市の手前まで来た。

同じ東京でも新宿とは本当に風景が違うもんだ。

視界に広がる緑はどこまでも柔らかかった。


*****************************
(13)につづく。





さて、帰路です。
香ちゃんのクロイツ直後の心理として、
撩との距離がいきなりゼロになったことよりも、
パートナーとして、連れ去られた落ち度のことの方が
重くのしかかっていたのではと感じました。
ツボだと撩に思わせた香の顔は、
第309話の指輪を抜かれた後撩を見上げるカオリンでどーぞ。
車内でのやりとりで、
気分をポジティブに切り替えようとする香は、
次である話題に触れることに…。



01-11 Break Up

第1部 After the Okutama Lake Side


(11)Break Up  *****************************************************************2111文字くらい



「あ、冴羽さん。香さんはこの先の右の部屋よ。もう教授も出たと思うわ。」

廊下で会ったかずえが香の現在地を教えてくれた。

「あぁ、サンキュ。」

「何の心配はないわ。少し手首に擦れた痕があるけど…。

香さん、本当に無事でよかったわ…。あなたもね。」

「あんなじゃじゃ馬、連れ去った方の身が危険だぜ。」

「何言ってるの。早く行ってあげて。」

かずえは、全てを承知しているかのような微笑みで撩を促し、その場を離れた。




「香?開けるぞ。」

香は、呼ばれた声ではっと我にかえった。

チャッと扉が開くと、撩が逆光で入り口に立ち、表情が見えにくい。

「どうした?」

香は、椅子に座ったまま放心していたので、

どれくらい時間が過ぎたか全く分からなかった。

が、とにかく撩を心配させないようにと気分を切り替えた。

「あ、あ、あのね、教授にも、かずえさんにも問題なしってお墨付きもらえたわ。」

立ち上がりながら明るく答える香に、撩は演技が少し混じっていることを感じた。



(かずえちゃんが先に診察を終えたってことは、

教授と香が2人でいた時間があったってことだよなぁ。

もしかしたら、教授が香に余計なお節介事でもしたのかもしれないな。)

香のやや不自然な言動から、勘の良い撩はそこまで先読みする。

(まぁ、いっか。)



「もう、みんな帰る準備をしている。俺らもそろそろ動くか。」

「うん。」

撩は、香に手を差し出して、自然とエスコートする。

かぁっと照れを隠せない香。

気絶させられるほどの、衝撃を鳩尾に受けた体で、

拘束されて、銃口を向けられて、

どうして、そんなに気丈に振る舞えるのか。

普通の人間だったら、疲労と恐怖の余韻で口もきけないだろう。

そんなことを考えながら、撩は、香の華奢な肩を支え、

一緒に教会の外へ歩いて行った。



すでに、教会前の広場では、片付け終わった面々が撩たちを待っていた。

「じゃあ、俺たちは教授の家に向かうから。また連絡するよ!」

ミック、かずえ、教授、美樹、ファルコンは目的地を同じにし、

2台の車は出発した。



かすみは、ファルコンと店の打合せをして、見送り、

麗香もかずえや教授のサポートが終え、あとは冴子の手伝いが残るのみに。



「冴羽さん、香さん、私たちも出るわ。」

麗香が言う。

「今日みたいな結婚式なんて、そうそう体験できないわね。」

かすみも続けた。



「心配かけたな。」

祝い事に招待されて、事件に巻き込まれた形になった2人に、

撩も香も、やはり申し訳なく思っていた。

「いーえ、美樹さんも、香さんも、

きっと大丈夫って、最初から思ってましたから!」

かすみが陽気に答えた。

「麗香さん、かすみちゃん…。」



そんな自分たちと向き合っている撩と香の様子を見て、

麗香とかすみは、ふぅと小さく溜め息を重ね、

お互いの顔を見合わせ、声を揃えて言った。

「「あーあ、私たち完全に失恋だわぁ〜。」」

「え?」

「は?」



撩と香は2人の突然のアドリブに同時に驚いた。

ここでも、何も言っていないのに、

目の前の2人が、一歩進んでいることを、

当たり前のように知っているかのような反応に、

香は、さっきと同様の疑問がまた沸いてくる。



「私たちも、もっと素敵な人を見つけましょうね!」

麗香とかすみは、手をとりあって、協力体制をアピールした。

撩は、フッと薄く笑い、香は彼女たちの気持ちを察しながら、

それぞれの車に乗り込む2人を見送る。

「じゃーね!冴羽さん、香さん!お先に〜!」

寸分違わぬセリフがそれぞれの車から聞こえた。



「みんな、行っちゃった、ね…。」

「あぁ、俺らも帰るか。」

車が見えなくなったのを見計らって、

撩は、香の肩を片手で抱き直し、下から掬い上げるように、

軽く触れるだけのキスをした。

ボン!と瞬時に紅潮する香の表情に、

撩は可笑しくて、可笑しくて、

更に困らせて苛めたくなる衝動にかられてしまう。

「香君、これはまだ入門編だぜ?」

悪戯っぽくにやついた表情でそう言いながら、クーパーへと促した。

(はぁ?にゅ、入門編?)

若干パニック気味の香は、言葉を咀嚼できないでいる。



(さて、奥多摩から新宿までの2時間弱。どうやって過ごしますかね。)

引き続き、香への助力を惜しまず、

助手席のドアを開き、手を添えて座らせ、

シートベルトまでつけてやるという

今までの撩では考えられない大サービス。

まだ、香の顔は赤いままで体は化石のようにカチコチなっている。



撩は運転席に乗り込むと、香に問いかけた。

「よっかかってくぅ?手ぇつないでくぅ?」

悪ガキのような表情で返事を待つが。

「っ〜〜〜〜。」

もう、香は言葉も出ないほどにトマト顔。

撩はくすりと笑ってすっと手を出した。

「じゃあ、よっかかってな。」

「ひゃっ!」

短く驚きの声を上げる香。

撩は香の頭をくいっと左の上腕に引き寄せ、

エンジンをかけ教会を出発した。



まさに、人生の節目。

幾度か、紙のようにも薄くなっていた壁、

かと思えば鉛板のような厚さにもなったそれは、

質と強度を変動させながら、

ずっと撩と香の間に居座り続けた心の堰堤。

それが、この奥多摩でやっと崩壊した。



「あいつらに、感謝、だな…。」

撩は、ふと呟いた。

香に聞かせるつもりはなかったが、

つい口から出てしまったセンテンスに、

香も、赤い顔のまま、

「本当に…、そうだね…。」

と、小さく答えた。


***********************************
(12)につづく。





ようやく教会を出発するところまで辿り着きました。
帰路のクーパー。
多くのファンサイトでは不評の及川優希が登場した回で、
当方も第278話の車内の描写がどうしても許せなかったんですよ〜。
これを香ちゃんに置き換えたいっ!
撩の表情も穏やかバージョンにしちゃって下さい。
という訳で脳内補正よろしく〜。
これからの雰囲気は、
海原戦前夜抱き合ったの2人の距離感とイメージを復活ということで、
車内の会話が始まります。


01-10 Record

第1部 After the Okutama Lake Side


(10)Record ********************************************************************1436文字くらい




美樹の部屋を出た撩は、ミックに捕まった。

「リョウ。」

「あぁ、こいつを返しておくよ。お陰で捜索の手間が省けた。」

撩は、ポケットに手を突っ込み、

ミックがクロイツの部下の車につけた発信機と受信機を手渡した。

「Oh!こいつには金がかかってるからな。壊れてないだろうな?」

そう言いながらスイッチを入れてみた。

「…ドコーン!ドンドン!………パラタタタ…『海坊主!右だ!』チュドーン!」

「!!!」

撩は、ぎょっと青ざめた。

「ちょ、ちょっと待て!ミック!!」

慌てて、受信機を奪おうと手を伸ばした。

ミックは、それをかわすと、

ニヤッと笑みを浮かべながら、撩を見つめた。

「あれ?リョウ、気付かなかったか?

これお前らが出発してから、ずっと録音機能が働いていたんだぜ。」



撩は自分の血圧が下がるのを感じた。

顔面が更に青くなる。

(ぬぅわんだとぉー、盗聴機じゃなくて、録音機を兼ねていたのかぁぁぁ!)

撩は、本気で焦る。

下がった血圧が一気に上がった。

(まずい、これはヒジョーにまずい。

あのやりとりが全部コレに記録されているってことかよっ〜!)

ミックは、さっき感じた違和感が何だったのかを

この撩の反応で確信した。



「ミック、悪いことは言わん。おとなしくそいつを俺に渡せ…。」

「あぁ?What are you saying!

こいつは金かかっているっていったろ?

それとも何だ?聞かれちゃまずいことでも、この中に入ってんのかよ。」

もはや今の撩の頭は、

ミックの手の中にある受信機兼録音機を

どうやって奪って破壊しようか、

そのことしか考えていない。



その間、再生された録音はどんどん進んでいく。

(まずいっ、まずいっ!クロイツのキャンプに到着したところからは、

何があっても聞かせらんねぇーっっ!!)

撩は、シリアス顔でパイソンを取り出し、ミックに向けた。

「悪いが、そいつを破壊する。」

ミックは、撩の逆鱗に触れたことに気づく。

これでは、

これを持ってどこに逃げても的確に目的を果たしてくるだろう。

自分も殺されかねない殺気だ。

ひくっと唇の端が引きつり、こめかみに一筋の汗。



「……Wait a minute…、

こいつは、壊したくない商売道具なんだ。

中のメモリーを、……渡すよ。」

ミックはそう言いながら、受信機の中から記録媒体を取り出した。

「これで、本体は壊さなくてもいいだろう?」

脂汗を流しながら、聞きたい気持ちを抑えて、

撩に記録媒体を手渡した。

撩は、安全のために本当は本体まで壊したかったが、

本体に録音情報が残っていない可能性を信じて、受け取った。

すぐに握りつぶそうかと思ったが、

正直なところ、

香のあの愛の告白だけは、自分も後で聞きたいと思い、

そのままポケットに忍ばせておくことにした。



ミックは、悟ったような表情に切り替えて撩に言った。

「ふーん、聞かれちゃマズいことをしゃべっていたんだ。…カ・オ・リと!」

「っるせー。」

「……もう、カオリを悲しませるなよ…。」

「っち、どいつもこいつも同じこといいやがって…。」

一応目的を果たした撩は、

ミックと目を合わせないように、香のいる部屋へ向かった。



そんな撩の後ろ姿を、ミックは目を細めて見送る。

「……あのバカ、よーやく決心できたようだな。

…カオリ、ホントーによかったな…。」

(あぁ、俺の初恋の君がぁ〜。)

言葉と裏腹に、この先の展開に、

オオカミさんに食われる赤ずきんを思い出し、

「shit!」と小さく呟く。

悔しいやら、嬉しいやら、悲しいやらの

複雑な気分が渦巻き、

悶々とする気分を取り払うかのように、

かずえのもとに向かって歩き始めた。


*******************************
(11)につづく。





おまけのやりとりです。
ミックの小道具があの後どうなったのかな〜と
妄想したら、こんな流れを作ってみました。
たぶん、メモリーを受け取った撩は、
教授あたりに同機種を注文して、
なんらかの形で聞き返せるようにしちゃうかも〜と、
思った次第です。
AHでは携帯に残った香の声を保存していた撩なので、
こっそりこんなことをしてても
いいかなと〜。
でも、やっぱり原作撩とアニメ撩とAH撩は
キャラに有意差をどうしても感じてしまいますが、
個人的には原作撩が一番いいな〜。

01-09 Medical Treatment

第1部 After the Okutama Lake side


(9)Medical Treatment *********************************************************1743文字くらい




かずえに連れられて、

別室に入った香は腹部を見てもらい、

異常がないことを確認してもらった。



「よかったわ。気絶するほどの衝撃だったのに、

内蔵のダメージはないようで安心したわ。痣もないようだし。」

かずえは、聴診器をはずしながらそう言った。

「そう言えば、あの時、

一瞬だけ腹筋に力を入れて耐えたことを覚えているわ。」



窓ガラスが割れた時、

素早い動きで男たちが自分に接近してくるのが分かったが、

身を守るものを何も持っていなかった。

故に、動きを読んで攻撃を避けるか、

避けきれなくても、まともに受けないようにと、

瞬時に判断したが、

男たちの動きは思った以上に早かった。

鳩尾(みぞおち)に来るっ!と思った瞬間、

かばう時間がなかったので、

確かに反射的に腹筋へ力を入れていたのだ。



「香さん、もう現場慣れしてるわね。」

教授から香が連れ去られた状況を聞いた時、

かずえは、内蔵の内出血レベルは覚悟していたのだ。

「でも、いつも撩には迷惑をかけてばかり……。」

香は、結局さらわれてしまった自分が情けなく、

このような事態を

自分で防げなかった不甲斐なさで、己を責めている。



「あら、それはどうかしら?」

かずえは、イスに座っている香に向かって、

しゃがんで視線の高さを同じにした。

「あなたじゃなきゃ、できないことが沢山あるはずよ。

きっと冴羽さんもそれを理解しているわ。」

「かずえさん…。」



そこへ教授が入ってきた。

「ふぉっほっほっ、香君、問題なさそうじゃの。」

「教授…。」

「さて、今度はワシが、手首の擦り傷を診てやろうかのう。

かずえ君、すまぬが美樹さんの荷物をまとめて、

ワシの家に運べるように手はずを整えてもらえんか。」

教授は、かずえに指示を出すと、

ドクターズバッグから消毒液とピンセットを取り出し、

筋や骨が痛んでいないか、軽く触診する。

「うむ、大丈夫じゃな。」

太い麻紐できつく後ろ手に縛られていた香の腕は、

血こそ出ていなかったものの、

薄皮がはがれ、所々紐の痕が残っていた。

服の上からの拘束だったから、

この程度ですんだのだろう。



「香君、そのまま聞いて欲しいことがあるんじゃが…。」



おもむろに、教授が手当をしながら話し始めた。

「実はな、ワシの知るところではのう、

この3年ほど、撩が遊んだという情報が殆ど入っておらん。」

「はぁ?」

きょとんとする香。

(撩の遊びって?バーとかスナックとかの通いだったら日常なのに?)

「いや、つまりじゃの、

あやつが新宿の種馬とか言われておるのは知っとるじゃろ?」

(へ?今度は種馬の話?)

「そんなあいつが、この数年女遊びを殆どやっとらん。

少なくとも、素人に手を出した様子はないのう。」

「???」

(はぁ?素人って?

でも撩はいつもナンパばっかりで、夜も出かけて朝帰りばかりで…。)

「ほほ、訳が分からないという表情じゃのぉ。」

教授の言う通り、

年中発情期のような撩の生態を見て来た香にとって、

教授の話は、

自分の知っていることと大きくかけ離れている。



「もう一つ…。」

教授は続けた。

「撩はのう、小さい頃から戦場にいて、

不衛生な状況下で何回も治療や輸血を受け、

エンジェルダストも投与され、

アメリカでもかなりハメをはずして遊んでおったが……、

幸運にもヤツは、その手の病気は全く持っておらん。」



教授は、消毒液を塗り終えると、

道具をカバンにしまった。

「香君、あんたも以前ワシの家で治療を受けた時、

一通り血液検査をしたが、2人も全く問題なしじゃ。」

ぽかんとする香に教授は、扉に向かいながらさらに続けた。

「安心して、愛し合うといいじゃろう…。ほっほっほっほっ。」

バタンと扉が閉まる音で、香は我に返った。




「〜〜〜〜んんんなぁんでぇぇ??」



血液が沸騰しそうだ。

まだ、誰にも何も言っていないのに、

教授は、もう自分たちがさっきキスをしてきたことを

知っているかのような言動。

そして、その先のことまでを読まれて、

アドバイスまがいの話しを聞くことになるとは。

(…っまさか、突然、あ、あ、んなことを、い、言われるなんてぇ〜。

あ、あ、愛し、あ、あ、うって…、〜〜〜あぅ〜。)

香は、この後、自分がどうしていいのか分からず、

青くなったり、赤くなったりしながら、

イスに座ったまましばしフリーズしていた。


********************************
(10)につづく。






香ちゃんって、気の毒なくらい何回も拉致監禁され、
浦上まゆ子ちゃんの時には、
見事に鳩尾に食らっていたので、
いやぁーんと思わず自分の腹を撫でてしまいました。
ああ、マリーにもやられていましたね(泣っ)。
原作では教会での拉致シーンでは、
明確な表記はされていませんでしたが、
スタンガンか鳩尾かで香を気絶させたのではと。
当方では過去に経験がある鳩尾パンチで連れ去られたと
仮定しました。
そして、教授のこの一言は、この先の流れ上、
どうしても捏造したかったので、ここで言わせてしまいました〜。
撩が女遊びを辞めた流れは、
「My beloved」の芹霞さんのお話しがとっても共感できたので、
僭越ながら参考にさせて頂いております。



01-08 Miki

第1部 After the Okutama Lake Side


(8)Miki  ***********************************************************************2970文字くらい




扉を開けると、簡易ベッドに横になる美樹がいた。

失血のためか、少しだけ顔色が悪く見える。



「美樹。」

「…ファルコン…。」

美樹がそっとファルコンの腕に手を伸ばした。

手術のためにドレスを脱がされ、

薄手の掛け布団からは、両肩が露(あらわ)になっている。

「大丈夫よ。何も心配いらないわ。」

その様子を撩と香は、無言で見つめていた。



「ふふ…、しばらくは教授のところで休養ね。」

「ああ、ゆっくり休むんだ。」

「あら、あなたもね。」



笑顔を見せる美樹に、少し安心したものの、

やはり香は謝らずにはいられなかった。

目に映る、負傷した花嫁に、

汚れ傷んだタキシードを着る花婿。

「美樹さん、海坊主さん、ごめんなさいっ!

……私たちのせいで、

……結婚式に、……大事な式の日に、こんなことにっ…。」



「ストップ!」

美樹は、左手を挙げて香の謝罪を止めた。

彼女は、意識が戻った時ミックや冴子から、

自分が狙撃された理由や、香が攫われたこと、

撩とファルコンが救出に向かったことを

ざっと聞いていたのだ。



「謝っちゃダメ。」

「え?」

「ねぇ…、香さん、

これ、もし立ち場が逆だったら、香さん、私になんて言う?」

「え?」

「香さんがベッド、私がそこに立ってるの。」

「あ…。」

香は、美樹の言わんとすることがぼんやりと分かり、

胸の前で両手をきゅっと包み込んだ。

「そ、そうね…、きっと、あたしも…『謝らないで』って言っちゃうかも…。」

「でしょ?」

美樹はふっと笑った。

「香さん、私たちは何があっても大丈夫。

むしろ、このことをずっと気にして、

香さんたちを許せないって、私が考えているなんてことを、

あなたたちに思われてたら、それこそ悲しいわぁ。」



香は、美樹の心使いが痛い程伝わってきたが、

それでもやはり、結婚式という女性にとって特別な日に、

自分たちが原因で、銃で撃たれ、

手作りのウェディングドレスを血で染めさせたのだ。

沸き上がってくる申し訳なさで

ポーチにぐっと力をこめた。



「香さん、わたし、元傭兵よ。こんな傷、いくつもつくっているの。

撃たれたのも初めてじゃないわ。」

「でも……。」

「はい、もう謝るのはおしまい!!」

気丈に振る舞う美樹に、

撩もチクッとくるものがあった。



「……分かったわ…。美樹さん。ゆっくり休んで

早く怪我を治してお店に戻ってきて…。」

「もちろんよ…。」

微笑んで美樹は答えた。

「何よりも、あなたたち3人が無事に戻ってこれて、

本当によかったわ…。」

「美樹さん…。」



そこにかずえが入ってきた。

「香さん、ちょっと診察しましょう。」

「?」

かずえは、香の手首の擦り傷を指差して、

「奴らに捕まった時に、縛られたんでしょ?

連れ出されるときも鳩尾(みぞおち)に……。」



香は、窓ガラスが割れてクロイツの部下が入ってきた時のことを思い出した。

(そうだった。お腹を殴られて、気を失ったんだった。)

「教授に見てもらって。香さん。」

美樹が退出を促した。



ついて行こうかと撩が迷っていたところに、美樹が声をかけた。

「あ、冴羽さん、ちょっと待ってくれる?」

本音は、さっきの会話で初めて知った

香が鳩尾を殴られたという事実に、気が気でなかったが、

ここは自分も美樹とちゃんと話をしなければと、向き直った。



傍のイスを引き寄せて腰を下ろしながら、口角をあげる。

「やっぱ、謝らせてくんねぇーの?」

ダメモトで言ってみる。

「そう、だめ。謝っちゃ。」

美樹は悪戯っぽく笑った。

が、少し話し過ぎたのか、一息深呼吸した。



「美樹、無理はするな。こんなもっこり男、相手にしなくてもいい。」

「何だと!タコ坊主!」

「さ、え、ば、さん。私、聞きたいことがあるんだけどぉ。」

意味深な口調で美樹は続ける。



「あなた、香さんを救出してから、何にもなかったの?」

「は?」



いきなり現場を知っているような見透かされた一言に、

撩はにわかに動揺した。

その気配を感じたファルコンは、意地悪っぽくにやりと微笑んだ。

「この状況での救出劇でしょ?

なぁんにも無いはずは無いと踏んでいるんだけどぉ?」

この一言で、

ポーカーフェイスが得意なはずの撩の額には、

汗がうっすら滲んできた。



彼女は、海原の船で自分たちがガラス越しのキスをしたことを、

ナマで目撃している唯一の女性。

ファルコンは目が見えないので、

現場の雰囲気だけは知っている。

後に美樹からその状況を聞いて、

ガラス越しにお互いの手の平を合せている風景も

イメージ済みだろう。

そして美樹が香を妹のように大事に思っていることも、

撩もファルコンも重々承知済み。



クロイツから香を救出した時、

途中までは、ファルコンが現場にいた。

しぶとく反撃しようと銃を構えたクロイツを、

香に気づかれないように潰してくれたのもファルコンだ。



(きっと、あいつのことだ。

香の気配の違いも気付いているだろうし、待たされた時間を逆算して、

何があったかは、だいたい察しがついているだろう。

それが美樹ちゃんに伝わるのも時間の問題か…。)



しばらく何も言えないままでいる撩に、

美樹はゆっくりと続けた。

「……私には、聞く権利があると思うんだけど…。どう?冴羽さん?」

(まいった…。)

ソニアが来た時にも同じセリフを言われたことがある。

撩は、眉をハの字にして頭をがしがし掻いてみた。

「『け・じ・め』はつけられた?」

(まったく、美樹ちゃんの先読みした推察力はかなわないな…。)

もう、どうあがいても誤摩化すことは出来そうにない。

ふっ、と軽く呼気を出し、顔の緊張を解く。



「………あぁ。」



撩は、観念して、

肯定の言葉を短く口に出した。



撩の返事と穏やかな表情を確認した美樹は、

心から安心したように、微笑みを浮かべた。



「そう、…よかった。本当に…。

……私たちの結婚式が、きっとあなたたちにも、

…いいきっかけになる、そう思っていたわ。」



ふぅ、と一呼吸置いて、美樹は続けた。

「あなたたちは、本当にじれったいんだから…。いくらなんでも時間かけすぎよね。」

嬉しそうにクスッと笑う。

「香さんを泣かせるようなことがあったら、私とファルコンが容赦しないからね…。」



撩自身、一度「けじめ」を本気で覚悟したことがある。

海原の船から戻ってきた後だ。

あの時、一時的な香の記憶喪失に

つけこんでごまかし甘えるようなことをしなければ、

たぶん、もっと早く変化があっただろうし、

冷静になる時間をなどと言い訳しながら、

調子に乗って元の生活に戻して、

香に悲しい思いも苦しい思いも

させずにすんでいただろう。

(それもこれも、俺の決断力が足りなかったせいなんだがな…。)



『愛する者を守り抜く。愛する者のために生き延びる。』



香の前で素直に己の口から出た言葉はまぎれもなく本心。

これを強く決心するのに、

確かにファルコンと美樹の式は、

撩にとって大きな後押しとなった。



(俺たちのことまで考えての結婚式となんとなく感じてはいたが、

……感謝してるよ。海坊主、美樹ちゃん。)

「……わかってるよ。」

美樹の問いに、やや間を置いてそう答えた撩は、

ゆっくり立ち上がると、

振り向き様に軽くウインクをしてそっと部屋を出た。



撩の表情と口調で、

心底安堵した美樹は視線をゆっくりとファルコンに送った。

「……ファルコン…。あなたも、無事でよかった。」

「……美樹…。」

「これからも色々ありそうだけど、末永くよろしくね…、あなた…。」

「……ああ。」

ファルコンは、

美樹の手にそっと自分の大きな手を重ねた。


****************************
(9)につづく。





ファルコンと美樹がパートナーを組み結婚に至ったのも、
撩と香の大きな協力があったという背景を考えると、
撩と香が人生の節目を得るのは、
やはりファルコンと美樹の結婚式と同じ日であって欲しいと、
勝手に思い描いています。
連載の設定上とホトトギスの花期を考えると
時期は11月上旬かなぁ?と。
ホトトギスきりぎり咲いているっていう感じですが。
ここは北条先生の日付明記が欲しかったぁ〜。
そしたら同じ日に結婚しようという
ファンもいたかもしれないのにぃ。
(撃たれちゃかなわんですが)
連載時の時間軸や服装を見返すと、
撩がファルコンの頭に「Happy New Year」と落書きしたコマは、
あまり適切ではなかったかもと思います。
「Happy Wedding」や「Congratulations!」のほうがひっかかりがなくて
よかったかも?
美樹の態度やセリフは、
木ノ下林檎さんの「Sweet Factory」で紹介されている
「Daily new beginnig」と偶然雰囲気が重なりました。
これも一つの共通設定かもしれませんね。



01-07 Back To THe Church

第1部 After the Okutama Lake side


(7)Back To The Church *********************************************************1725文字くらい




「よぅ、待たせたな!」

ランクルに寄りかかるファルコンに、明るく声をかける撩。

「海坊主さん!」

ぼろぼろになったタキシード姿のファルコンを見て、

香は言葉を失った。



「待ちくたびれたぞっ!さっさと乗れ!美樹が待ってる。」

「ああ、悪かった。」

撩は、後部座席に香を座らせると、シートベルトをさせ、

自分は助手席へ乗り込んだ。



「あれから1時間以上経っているから、もう美樹の処置も終わっているだろう。」

「海坊主さん、ごめんなさい!

こんな大切な日に、こんなことになってしまって…。」



「香…。」

撩はちらっと後ろを振り向いて、

申し訳なさそうにうなだれている香を見た。

そして運転席に視線を戻し、ファルコンがどうでるか、様子をうかがった。

「香、そんなことを言っていると美樹が余計悲しむぞ。」

「え?」

ファルコンは、後ろを向いてにやっと笑みをこぼした。

「結婚式にも装備は忘れない。それが俺たちの生き方だ。」

後部座席に転がっているバズーカ砲をその大きな手で指差した。



「海坊主さん…。」

香は、持っていたブーケの切れ端をきゅっと両手で胸につけた。

「スピードをあげるぞ!」

「ちょ、ちょっと待て!タコ!

お前、目が見えねぇくせして、山道を高速で運転してんじゃねぇーっっ!」

「う、海坊主さんっ。」

香もぎょっとする。

撩も、香もファルコンが失明していることを

またすっかり忘れさせられていた。

「信用しろ!黒蜥蜴の時も問題なかっただろうが。」

ファルコンは涼しい表情で、器用にアクセルとハンドルを操った。

撩は、風を受けながらふっと短く息を吐き、ファルコンの横顔から視線を外した。



程なくして、木立の間から教会の建物が姿を現す。

キキーッ!ザッ!

ブレーキ音とともに、砂埃が低く舞う。

教会につくと3人は、美樹がいるであろう部屋へ向かった。

「撩!」

冴子がランクルのエンジン音を聞いて既に教会の外に出ていた。

「おう、冴子。後始末たのむぜぇ〜。

身柄を拘束しなきゃならん人数はざっと3ケタだ。本部にそう伝えとけぇ〜。」

「冴子さん!美樹さんは?」

冴子は香の姿を見て安心した。

(よかった…、大きな傷はなさそうね。)

「香さん、無事で本当によかったわ。

安心して、美樹さんも教授がちゃんと応急処置してくれたから。」

「ほんとに?よかった…美樹さん…。」

ぐずっと鼻をすする香を見て、冴子は、香が自分のことよりも

何より他人を大切にしてしまう基質をこの一言でも感じた。



「じゃあ、私はこれからの後処理で忙しいから。」

車に向かいながら、別行動することを告げた。

すれ違ったその時、撩と香の醸し出す空気が今までと微妙に違うのを、

敏感な冴子は感じ取っていた。

二人の距離や、表情、撩の手の位置、瞬時に視覚に入ってきた情報で、

ある結論が導かれた。

そんな冴子の思考の展開などはつゆ知らず、3人は控え室に足早に向かう。



「ミック!教授!」

部屋の前で話していた2人を見つけて、香が声をかけた。

「Oh!カオリ!ケガはないかい!本当に大変だったね。

バカリョウはもっと早く助け出せなかったのか?」

「だまれ、ミック。」

ミックは、ちらっと撩のほうを見ると、どこか違和感を覚えた。

「?」

悪い違和感ではない。

しかし、その違和感がどこから来るのか、よく分からなかったので、とりあえず、

ミックはかずえから預かっていた香のポーチを渡した。

「はい、カオリ。これはキミのだろ?」

拉致された時に、あの部屋に置きっぱなしだったのだ。

「あぁ、ありがとう。もう荷物を持ってたことも忘れてたわ。」

香は思い立って、素早くポーチの中から薄い手帳を出し、

持っていたホトトギスを形が崩れないよう注意しながら手早く挟んだ。



「それよりも、美樹さんの様子はどうなの?」

手帳をしまった香は、自分たちのために傷ついた美樹のことが心配で、

とにかく早く会いたいと気がせいていた。

「ほほ、香君、大丈夫じゃよ。もう意識がはっきり戻っておる。

先にファルコンに入ってもらおうかのう。」

と、美樹の亭主を先に部屋に促した。

「いや、撩、香、一緒にこい。」

何か思うところがあったのか、

ファルコンは2人も一緒に美樹の休む部屋へ入るように言った。


***************************
(8)につづく。





やっと教会に戻ってきました。
撩がわざと香の襟首に添えたと思われるあのホトトギスは、
あの後どうしたのかな?と
この流れで妄想した結果、
香ちゃんの手帳の中で押し花行きということにしました。
ただ、実際のホトトギスはあまり綺麗に押し花にならない質感…。
今年、庭のホトトギスが咲いたら
試してみようかな〜。
クロイツ親衛隊の数、おおよそ3ケタ前後というのは、
ファルコン20、撩21、+27+香に銃口を向けていた10人、
+αというイメージで。
ファルコンのセリフの「あれから1時間以上」というのは、
クロイツの「私の親衛隊がわずか小一時間の間に…」という
モノローグから。



01-06 In THe Forest

第1部 After the Okutama Lake Side


(6)In The Forest ****************************************************************1710文字くらい




撩は、中腰になって、両腕を香の膝裏と背中にまわし、

ひょいっと抱き上げた。

いわゆるお姫様抱っこのスタイルだ。

「わっ!ちょ、ちょっと!自分で歩けるわよ!」

赤くなって驚く香にかまわず、撩はそのまま小走りに現場を離れた。

「いいから!タコが車で待っているはずだ。

あまり遅いと、後で何を言われるか分かったもんじゃねぇ!

ちゃんと掴まってろよっ。」

そう言いながら、過去のことに想いを巡らす。



(香をお姫様抱っこするのって何回目だっけ?)

ジェネラルを倒した時のことや、

北原絵梨子の水着事件、

手錠の鍵を犬に飲まれた時、院内を突っ走ったことなどを思い出す。

(リビングから客間へ運んだことも何度かあったよなぁ。

あ、一度俺の部屋に寝かせたこともあったか…。)

むしろ軽いとも言える心地よい重さと温かさ。

しなやかな体の柔らかさも直に感じ、おのずと顔が緩む。



撩は、道とは言えない森の中、倒木をひょいひょいと越え、

視界には木漏れ日の影が次々と横に流れて行く。

端から見ると、大人一人を抱えているとは思えないくらいの

軽い足取りとスピードに、

香も改めて撩の基礎体力の高さを思い知る。

(うぅ〜、なんだか恥ずかしいぃ。

自分は、大柄なほうだからお姫様抱っこなんて、

そうそう縁がないものと思っていたのにぃ。)

耳からもしゅうしゅうと湯気が出る。



と、進んでいた撩の歩みが少し遅くなった。

この先は、撩とファルコンが親衛隊と闘った痕が、そのまま痛々しく残っている。

抉られた木の幹に、葉や枝は所々焼け焦げ、銃弾の痕もそこかしこに目に入る。

流血したまま倒れた兵士も夥しく、生臭い血の匂いも皮膚が焼けた焦げ臭さと一緒に漂い、

呻き声が所々で漏れる中で、銃器も熱を持ったまま転がっている。



しばしの躊躇の後、香に声をかける。

「香、このまま森を突っ切るぞ。」

森を抜ける道を進みながら、香は撩の方を見る。

「たぶん、死んではいないと思うが…、

俺とタコが倒したクロイツの兵士がそこら中に転がっているけど、

遠回りしているヒマがねぇ。」



戦いの痕跡をさけて森を抜ける手もあったが、

待たせているファルコンのことを思うと、

余計な時間はかけたくない。

戦闘の後をそのまま戻ることにしたが、

撩の本心は、砲弾や銃弾で痛んだ森の様子と、

出血して呻き倒れている兵士たちの姿を香の目には入れたくなかった。

自分を救出するために、

瀕死の重傷を負わされている人間を

多数目に入れることが、香の心理にマイナスになる予感もあったからだ。




しかし、過去を思い返せば、

シュガーボーイの香に出会った時でさえ、

不世井重工の社長宅での荒療治を目の当たりにしても

取り乱すこともなく、

海原戦で看板の上に転がる多数の海原の部下たちを見ても、

香は動じなかった。

香の前で、人を死に至らしめたことも何度もある。



隠す必要はない、自分たちの生きる世界がこんなものだと、

再認識させる機会の一つでもあるかもしれない。

撩はそう考え、あえて目を閉じろという言葉を飲み込んだ。




「うん、わかった。」

香は撩の瞳の奥にあるものを感じながら、太い首と肩に腕を回した。




所々に、複数の男たちがまとめて縛り上げられて

木の幹に括(くく)りつけられている。

恐らく、ファルコンが車に戻る途中で、

意識が戻って身じろいでいる兵士に気付き、

拘束したのだろう。



あの親衛隊の数から受けた攻撃の中で、

相手に致命傷ギリギリの傷を負わせた上で戦闘能力を奪うことは、

撩もファルコンも、やや難しい状況だった。

しかし、闇に身を置く立ち場ではあるが、

必要がなければ、二人とも

「大量殺戮」という事案はあまり作りたくなかったのだ。

「急所を外すゆとりがない」という切羽詰まった状況ではなかったが、

むしろ中米にいた頃のほうが急所を外すことができなかった。



もしかしたら、一部は絶命している可能性があるが、

それでも、できる限り「命は奪わない」形を選んで

撩とファルコンは香の救出を成功させた。

中途半端に動けるようにしたら、

自分たちの命が危険にさらされるのだから、

生半可な戦闘力ではできない。

ただ、早めの処置をしないと失血死もありうる倒し方故、

冴子への連絡は早めのほうがいいなと、

撩は、教会に戻ったら、

すぐにクロイツ親衛隊の現状を伝えることを、

頭の片隅で考えていた。


**********************************
(7)につづく。





勝手な妄想ですが、
一度ファルコンの部隊を殲滅させた撩にとって、
複数人全員の息の根を止めるシチュは可能な限り
選ばないような気がします。
そういう技術を持ち合わせていることが前提ですが、
まぁ撩なら可能でしょう。
これまで原作の中で、完全に殺傷したのは、
だいたい「単品モノ」だったと思いますし、
美樹を撃った狙撃兵も「単品モノ」としてとらえれば、
木から落ちて来た時絶命していると仮定してもいっかと。
冴子と頭目エランの所に行く前にヘリから乱射した(第38話)のも、
たぶん急所ははずしてんじゃない?と
都合良く補正してます。



01-05 Together Foever

第1部 After the Okutama Lake side


(5)Together Forever *************************************************************1921文字くらい




− あなたを、愛してる −



すっと撩の目が優しく細くなる。

撩は、香の告白に、

カラだった入れ物が全て満たされるような

今まで感じ得たことのない心地よい感覚に、

またしても人生初ともいえる体験をしていた。

(香を自分の腕の中に抱いて、包んでいるのは俺なのに、

俺が全体を包まれている感覚になるのはどうしてだ?)



もっと浸っていたいと思いながら、

香の両頬を伝う大粒の涙を、片方は親指ですくい取り、

片方は目を閉じながらキスで吸い取った。

塩分を感じる水滴は、初めて味覚が感知する香の涙の味。

胸の奥で感じる、物理的力でぐっと強く掴まれるような感覚に周章する。



撩は、香をきゅっと抱き寄せて、耳元に口を寄せた。

「……香。」

(足りないんだよな…。

この気持ちを表現するには、愛するって言葉だけじゃ……。)



自分のこの溢れた想いを単語にするには、『愛している』という言葉では言い尽くせない。

自分が使うには、陳腐さや滑稽さが伴ってくる。

終生、自分の命に代えてでも守りたい存在、

自分が自分らしくあることの必要条件とも言える存在。

こんな感情が自らに芽生えるとは、アメリカ時代は露とも想像していなかったのに。



「…りょ…。」

腕の中で香の体温が更に上がった。

抱き寄せる力をまた込め直しながら、愛より上の表現を考え巡らせる。

しかし、どの国の言語も、やはり、ぴったりくる言葉は見つからない。



「………これからも、……ずっと、一緒だ…。」



言葉が見つからなければ、これから香とどうしたいのか、

そう素直に考えた瞬間、口からぽろっと出た言葉。

このセリフは大脳を介していない、ほぼ脊髄反射であった。

撩自身がそれに驚いた。



どうも、香と真剣に向き合うことを決めてから、

今まで全てを計算尽くの上で発していた言動が、

『つい』や『うっかり』、『無意識』の連発になっている自分にやや焦りも感じる。

こんなことを感じさせ、こんなことを言わせる女も初めてだ。



照れと恥ずかしさをごまかすために、

香の頬を包み、小さな顔を上にそっと向かせ、

撩はまた濃厚なキスを続けた。

お互いの唇が、独特の音を奏でる。

飽きない。

いつまでも触れていたい。

こんなことを本気で思っている自分にまた一驚する。



香は、蕩けそうな頭の中で、撩のセリフを繰り返し反芻していた。

これもまた信じられないことだった。

不器用で天の邪鬼で秘密主義で意地っ張りで、

自分の想いの内を簡単には明かさない撩が、

あの時、「愛する者」とその口でしっかりと言葉にした上に、

更に自分にとって、最上級の言葉を紡いでくれるとは、本当に思ってもみなかったのだ。



香は、きっとこの男は、自分に好きとか愛しているとか、

好意を表現する直接的な言葉を絶対に言うはずはないと、

心のどこかで確証めいた思いを持っていた。



だからこそ、今、自分だけでも、ちゃんと想いを伝えておきたいと思って、

やっと音に出来た言葉だったのに。

そこに返ってきた言葉は、生きる未来が共にあることを宣言するものだった。



後ろ頭を支えられ、深く抱き込まれたまま、お互いの接点から熱が醸し出される。

「ん…、ふ…、ん。」

もう、心臓は走り終えたマラソン選手のように、激しい拍動を続け落ち着こうとしない。

鼻だけの呼吸では、もう追いつかない。

撩の告白に対して、ありがとうと感謝の言葉も言いたいのに、まぶたが重たい。

熱っぽく、足も地についていない感覚だ。



「っりょ…。」

しばらくして、香は息絶え絶えに、ゆっくりと口を離した。

「りょ…、ちょ、っと、……ご、めん。

ぁ、…あた、し、なんだか、…急に、…体調が…。

は…、体が、…熱くて、足元も…なんだか、…ふわふわしているの。

ど…しちゃったの、…かしら?」

顔をほてらせ、目は潤み、息の荒い状態のまま、伏せ目がちで訴える。

支えられている撩の腕にすがりつく形でなんとか立っている状態だ。



「…ま、まさか、…か、風邪でも、…ひき、はじめてるの、か、な…?」

撩は、自分の体の変化に理解がついて行けてない香の姿を見て、

自身のブレーキが焼き切れそうになった。

(か、香っ、その表情はやばいって!)

このままでは色んな意味でヒジョーにマズいと感じ、飛散しかけた理性をかき集め、

ここで一区切りつけて、教会へ戻る決心をした。



撩は頭をぶんぶんと横に振り、もう一度、香の口に狙いをさだめて、

唇全体をちゅーっと吸い上げポンッと離す。

「っん。」

「よ、よしっ!続きは帰ってからだっ!きょ、教会へ戻るぞっ!」

(は?続き、…って?)

脳内がメルトダウンしそうな香は、その『続き』の意味が分からなかった。

撩は、その香の表情を見ながら苦笑した。

(…俺、帰るまでもつかな…。)


*************************************
(6)へつづく。






本気になった香だからこそ、
安易に「愛してる」って言葉を使えないと思うんですよね。
ヤツは…。
でも、たまにそれを言葉で欲しがるカオリンにも萌えちゃいます。
すいません、ここもリョウカさんの雰囲気やセリフをお借りしてます。
らしさを表すセンテンスってどうしても限られてしまって…。
ボキャブラリーのなさに反省です。
ちなみに、リョウカさんのブログでは、引用オッケーと記載がありますので、
このご配慮にかなり救われております。
さて、お二人とも教会に早く戻りましょう〜。


01-04 I Love You

第1部 After the Okutama Lake Side


(4)I Love You *******************************************************************1304文字くらい




撩に「愛する者」と言われた。



この言葉が聞けた時、

もう死んでもいいと本気で思った。



それが、たとえ

「仕事上のパートナーとして愛する者」でも

「妹のような家族として愛する者」でも、

言われたことが素直に嬉しかった。



綺麗ごとだと分かっていても、

女性としての愛する者という立ち場には、

終生なり得なくてもいい。

その言葉が聞けただけでも、思い残すことはない。

ロケット弾が自分に向かって来た時、

そう覚悟を決めていた。




病院の屋上で聞いた撩とミックの会話で、

告白とも言える

「種族維持本能ではない」と言った撩のことを思い出しても、

よくよく考えれば、もともとから異性として見られていないのなら、

種族維持本能ではないという発言も当然。



さっき自分が撩に問うた、

「これって種族維持本能なのかな?」という言葉も、

「ばぁか」と濁された。

肯定とも否定ともとれる返事に、抱きつきたいという思いが勝り、

その胸に飛び込んだ。

それは、パートナーとして、相棒として、と自分に言い聞かせながら。




仮に、もし生死を目の前にした時に起こる心理ではないとしても、

素直じゃない自分たちのこと、

きっとまた気持ちを交わせないまま、

同じ毎日がずっと繰り返されるのかもしれない。



そんなことも料感しながら、

それでも命尽きるまで一緒に居続けたいと思っていた。



しかし、今、深い口付けを自分にしている撩を感じながら、

言葉以上に「女性として愛されている」と、

体の芯まで染み渡っていくのを覚えた。



言ってしまったら、口に出してしまったら、

今までの関係が崩壊するかもしれない怯えに苛まれ、

もはや、禁忌と念じていたこの想いを、

今ここで撩に、言いたい、今の自分の気持ちをちゃんと伝えたい。

香はそんな想いにかられ始めた。



酸欠と体温の上昇で、意識が飛ぶ寸前の香は、

やんわりと離れ、小さく呟いた。



「りょ…。」

真っ赤な顔をしながら肩で息をし、足元が震えている香を見て、

撩はその体をしっかり支えた。



「おいおい、大丈夫か?」

(……こんなにした当の本人が何を言っているかしら?)

香は、撩のセリフに可笑しくも思いながら、

ゆっくりと口を開いた。



「りょ…、はぁ、……あの、ね。」

まだ息が整わない。

「ちゃんと…、言っておきたく…て…。」



香は、ホトトギスを手にしたまま、ゆっくり両腕を撩の厚い腰に回した。

そっと服の上からひたりと添え置く。

撩の体が少し揺れた。

そのまま、撩を見つめながら、掠れがちに言葉を紡ぐ。



「絶対、……口にしちゃ、だめって、思ってたけど…」



「あのね…、りょ…。」



「………ぃしてる。」



肩が上下して、うまく声がでない。



「あなたを………、ぁぃ、してる…。」



生まれて初めて口にした言葉。

禁句、禁断の言葉として、

お互いが心の奥底にしまい込んでいたその感情。

氷河の先端が海に落ちていくように、

それは音として解き放たれた。



目の前が、水中越しでものを見ているかのように揺らいで、

撩の顔がはっきり見えない。



まばたきを1回したら、溜まっていた涙が零れ落ち、

いっきに視野がクリアになる。

見上げた撩の顔は、目を見開き、クーパーと同じ色になっていた。


*******************************
(5)へつづく。





香ちゃんが先に言っちゃう設定を作ってしまいました。
まぁ、撩も一応『愛する者』と香の前で言っちゃっている訳ですが、
もうこれで十分っしょ。
この2人には、とてもじゃないですが、
LOVEでは表現が追いつきません。
さて、撩ちゃん、あーたどうする?


01-03 No Windwpane

第1部 After The Okutama Lake side


(3)No Windowpane **************************************************************2458文字くらい




「……あの夜の続きを、してもいいか…?」



「え?続きって?」

「……だ、か、ら、目ぇつぶれって…。」

さっきから、

高速で打ち付けている香の脈がさらに加速する。

(つ、つ、続きって、ま、まさかっ。)

手を添えられた香の顔は、

ゆっくりと角度を上向きにさせられる。

目はまだ見開いたまま。



「…ったく、もう…。」

(あんまり待ってる時間もないんだよなぁ)

撩は、ちょっと困った顔をしながら、

頬を包んでいた左手を少しずらして、

人差し指は右のまぶた、

親指は左のまぶたに触れ、

そっと目を閉じさせた。



「……ぁ。」



香の小さな戸惑いの声が漏れる。

撩は、軽い深呼吸を一回して、意を固める。

そして、首を僅かにずらし、

ゆっくり背中を傾けて距離を縮めた。





(これで、終わりだ…。)





そう思いながら撩も目を閉じた。

「!!」

薄く開いた形のいい香の唇に、

撩はそっと口を寄せる。

その瞬間、

撩の腕に香の全身が硬く強張るのが伝わってきた。

想像以上の心地良さを持つ感触と弾力。

撩も目を閉じたまま、

左手で香の右耳にかかる髪をかきあげながら、

角度に少しずつ変化をつけつつ、

柔らかいバードキスと

プレッシャーキスを優しく繰り返した。



ずっと長い間

しっかりと触れたいと思っていた香の唇に、

今、自分が口付けをしている。



そう思うだけで、撩の心は昂り、

何かが溶け出しそうな心境になった。

やっと、きちんと触れる決心をし、

長い間踏み出せなかったその一歩を

ようやく行動に移すことが出来た。




(これで、やっと壊せた…。)




時に薄氷のようになり、

時に鋼鉄のように厚くなりと、

その厚みや質を変化させながら、

二人の間に高く立ちはだかっていた心の壁を、

溢れた大きな波の塊が、

激しく決壊させた。

熱がうねりを持って流れ込んで来る



(うそ、うそ、うそっ!あたしが撩とキス???)

信じられない、

ありえないという感情が渦巻く香は、

全身の体温がさらに上昇するのを感じていた。



撩の温かく大きな手が、

ゆっくりと耳の後ろや、腰回りを撫でるに従い、

撩の腕の中で、僅かずつ香の硬直が解けていく。

(気持ちいい…。ガラス越しじゃ、ない…。

で、でも本当なの?これって夢じゃないの?現実なの?

あ…だめ、何も考えられなくなる…。)



睡眠薬を飲ませるためでも、

救命救急の人工呼吸でもない。

初めて本気になった愛おしい者への愛情表現としてのキスに、

撩自身が人生初の感覚に包まれている。




(もっと…、もっと深く触れたい。)



「……香。」

少し掠れた低い声で、名を呼び、

ほんの僅かに顔を離して、

香の表情を確認する。

閉じていた長い睫毛を纏うまぶたが、

震えながらゆっくりと上がる。



「……りょ…。」



香の潤んだ大きな瞳の中に、

自分の姿を見つけ、

らしくもなくドキリとする。

揺れる茶色い虹彩で撩を見つめながら、

真っ赤な香は震える小さな声でゆっくり尋ねた。




「あ、あなた、…どっかの誰かと、あたしを、

勘違いしている訳じゃ、ない、わよね……。」




この後に及んでも、

まだ信じられない香は、

どこぞのもっこりちゃんと思い違いをしてるんじゃないかと、

また、からかわれているんじゃないかと、

また、ほのかな期待からどん底に突き落とされるのではと、

心中に微かな暗雲が漂っていた。



撩は、こんな場面でも

香にそんなことを言わしめてしまった自分に

心底腹立たしく思った。



(信用しろって言っても、

今までの俺の姿を見てりゃ無理もないよなぁ。)



撩は溜め息まじりで、

自分の唾液で艶がでた香の下唇を、

そっと左の親指の腹でなぞってみた。

瞬間、香も撩も同時に

背筋にぞくぞくと電気信号が這い上がってくる。



「……ちゃんと、おまぁの名前を呼んだだろうが…。」




「りょ…。」

「…香。」



お互いの名を口にしあったその刹那、

終わったと思った口付けが再び始まった。



香の唇が、

撩のそれで全て覆われ吸い付かれる。

角度を少しずつ変えながら、

上唇も下唇も撩の唇で挟まれ、

全周を舌で撫でられ、また全てを口で覆われと、

香は息継ぎがうまく出来ずに、

初めての接触に戸惑うばかり。



苦しそうな香に気づいた撩は、

唇の端に少し隙間を作った。

そこから酸素を吸い込んで苦しさが軽くなったと思いきや、

撩の生温かい舌が、

香の口の中にそろりと入って来た。

歯と歯茎の境目をゆっくりとなぞって移動していく。



(こ、こ、これもキスなのぉ???)



初めての行為に、

体がつい逃げ腰になるが、

腰と後ろ頭を撩の手でしっかり固定され、

撩のなすがままに濃厚なキスが繰り返される。

時折、水気を含む音が耳に届く。



「んっ………、ふっ…。」



漏れた声は、

あまりにも色香をたっぷり纏う響き。

初めて聞く香の甘い声に、

撩は脳の裏が痺れるのを感じた。

同時に、

もっと奥にと欲に火がついてしまう。



「……少し、口、あけて…。」



唇を離さないまま、撩が小さく囁いた。

香は軽いパニック状態になっていたが、

言われるままに、

ほんの少しだけ口元を緩めてみたら、

まるで生き物が口の中で探検しているかのように、

撩の舌が上顎の裏や、歯の内側を移動し始めた。

そして香の舌とぶつかると、

思わず香は舌をひっこめてしまったが、

それを撩は追いかけて、

舌同士を絡めゆっくり踊らせた。



「んんっ…。」



官能的な筋肉の質感に、体がざわざわとする。

香は、ふとタバコの風味の中に甘さを感じた。

(これは?撩の唾液の味?)

そう認知したとたんに、

体がさらにカーッと熱くなる。



呼吸も十分できず、意識は朦朧。

立っているのがやっとで、

頭と腰を支えてもらって

ようやく直立している状態に。

香は鼻だけで苦しげな呼吸をし、

肩が震えながら上下する。



撩の息使いも少し乱れている。

何度も何度も角度や深さを変えながら、

撩は香の唇と口腔内を味わっていく。

もはや時間の進み具合など

完全に意識の外に追いやられた。



香は自分の左手から、

そして密着している腹部から、

体温と共に撩の心拍の震動をかすかに感じた。



(早い…、

きっと私もそれ以上に早く脈打ってる…。)



香は、自分の耳の奥で響いている自身の鼓動に、

心音が共鳴するかのような錯覚を抱いていた。


**************************************
(4)につづく。




やっと、ちうまでこぎつけました。
他のサイトさんでも、
奥多摩湖畔でのキスシーンのイラストが
複数アップされていて、
やっぱこうでしょ〜っ!と萌えておりました。
絵を描けないワタクシ、
勝手に脳内で補正しています。
だって、ここでちゅううってしなかったら、
ひねくれたお二人、
ほんと、数ヶ月くらい更なるオアズケは間違いなしっ。
奥多摩後、進展がなかなかないシチュもかなり萌えますが、
当方では、ガマンできなくて、ここでさせちゃいました〜。
やっとこさ、こーすることが出来る関係になったお二人、
さて、この後どうする?




【誤植発見ありがとうございました!】
「撩の心は高ぶり」⇒「撩の心は昂り」
修正させて頂きました!
こんな大事なシーンでも
しっかり凡ミス…。
情けなや〜。
mさん発見ご報告ありがとうございました!
合わせて若干改稿致しました。
2016.01.27.09:25


01-02 Zero Distance

第1部 After The Okutama Lake Side


(2)Zero Distance ****************************************************************2283文字くらい




「したいこと?」



香は、まだ分からないようで、

きょとんとした瞳を撩に向けたまま。

(冴子さんに連絡とかしなきゃいけないのかな?

さっき、式の前に撩と冴子さんが話していた事ってこれのことだろうし。)

そんなことを考え巡らせていたら、

ふいに視界が影になって、

後ろ頭に添えられている手に少し力が入ったかと思ったら、

左頬に柔らかく温かいものが触れた。

同時に撩の前髪が目の前にかかる。



「?!?!」

心臓がはぜた。

眼輪筋が外に広がり、一気に血圧と体温が上がる。



撩の唇が自分の左頬に触れた。

しかも唇にかなり近いところの頬に。



脳がそう認識すると同時に、

全身の肌がかぁーと朱に変わるのを感じた。



撩の誕生日を作ったときに、

額に軽いキスをもらった。

ソニアと別れた後、

あの公園で少しだけ抱き寄せられた。

海原の船に乗り込む前夜、

撩の腕の中に包まれた。

あの船から脱出する直前にガラス越しのキスをした。

幾度か、触れ合って来た微妙な距離。



ただそれ以降大きな変化はなく、

もう自分と撩はこれ以上近付くことが出来ないのかもしれない、

撩はこの先の進展を望んでいないのかもしれないと、

香はネガティブな思考を抱えたままで過ごしてきた。



ミックのところから撩の元へ戻った後も、

なんら変わりのない関係。

淡い期待を持ち続けることが、

苦しみとなり、心の限界を感じていた。

今まで通じ合ったと思った瞬間のことを、

なかったことのように過ごす毎日。



自分の心が壊れる前に、

その持っている期待を全て捨てようと、

自分なりに気持ちを整理し決着をつけたのは、

つい先日のこと。

ただ、仕事上のパートナーとして、

撩の傍にいることを許されるだけでも、

共に生きてこの仕事が一緒にできるだけでも、

十分幸運ではないか、と

自己防衛のように、

自分の撩に対する想いや欲を深く押さえ込むことにした。

自分は妹のような家族であり、相棒であり、

撩からは、女として愛されることはない、

香の中でいわば既成事実のように固まってしまった概念がそれだった。




それが、いきなりゼロ距離になり、

瞬間香の全ての思考が停止した。

撩は、大きく開いた目を潤ませて真っ赤になった香を見つめながら、

ふっと目を細めた。




「…キスするときは、目ぇつぶるもんだって、あん時教えたろ?」




そう言いながら右手をそっと頬に添えた。

撩の手の平の温かさがじんわりと広がってくる。





「………。」





香は、まだ頭の中で情報の伝達がうまくいかないでいる。

撩の言葉が意味することが左脳の言語野に辿り着くまで、

どれだけの時間がかかっただろう。





(……あ、あの時って、あの時のことって、

もしかして、あの港でのことを言っているの?)





香は、口もとが震えてうまく喋ることもできない。

「りょ……、あ、あの時、」

聞きたい気持ちと知りたくない気持ちが、強くぶつかり合う。

「……あたしだって、気付いて……たの?」



撩は、ついうっかり言ってしまった

シンデレラデートのときのセリフに、

次の言葉を何も用意していなかった。



(しまったぁ。ここは、正直に言うしかないか…。

慎重に言葉を選ばないと場面が悪い方に展開しかねないな…。)



「分からないはずないだろ…。何年一緒にいると思ってんだ。」

表情を見られるのは得策ではないと思い、

撩は、香を自分の胸板に埋めさせた。

小さな声で質問が続く。

「……最初から、……分かってた、の?…」

ほろ苦い思い出が、

二人の思考の中にスライドショーのごとく流れて行く。



「…あぁ、…絵梨子さんの気遣いだったってこともな。」



香は、次の言葉に悩んだ。

溢れる疑問。

それを今、口に出してもいいのだろうかと一拍迷う。

「…りょ……、どうして…。」

ノドの奥が張りつめて、うまくしゃべれない。

「あの時…、気付かないことに、したの?」

撩は、きっと聞かれると覚悟していた問いに、

素直に答えることにした。

ふぅと細い息を吐き、ゆっくり口を開く。




「……お前がミックに決闘を挑んだ時、俺が言ったこと覚えてるか?」




香は、廃墟になったビルの屋上での出来事を思い出す。




「ローマンを渡した時、言ったろ?ずっと迷っていたって。」

撩は、ミックがアパートにやってきてから、

ずっと長い間、深いところにしまい込み、何重にも鍵をして、

決して表に出してはいけないと思っていた感情に、

自分の制御がもはや殆ど効かなくなっていることを思い知らされた。

だが、もう迷わない。もう揺らがない。




「あの時…、まだ何の決心も、つけきれていなかったんだよ…。」




「撩…。」




香は、撩の顔を見上げたいけど、

頭をしっかり胸にくっつけられ動かせなかった。

「そんな中途半端な気分で、

あのセッティングは、かなりやばかったんだよなー。」

「へ?やばいって…?」

「…いんや、何でもない…。」

(おまぁが綺麗過ぎて、俺が動揺しまくったなんて言えっかよ。)




「……でも、結局お前に苦い思いをさせてしまったな…。」

撩は、くしゃっと香の髪を掻き上げた。

「まぁ、もしあの時、お前が自分で、

『あたしは香だ』とはっきり言っていたら、

また違う展開だったかもしれんがな。」

そう言いながら、くすりと1年8ヶ月前を振り返る。



香は、鮮明に浮かぶあの時のことを思い出しながら、

今知った事実を理解しようとしていた。

(そう、そうだった。

私のほうから正体を隠し、

ちょっとしたイタズラのはずだったのに。

残ったのは深い苦しさだけ。

そっか、撩は、……知ってたんだ。

……ということは、たぶん、

あの落としたイヤリングが戻ってきていたのは、きっと…。)



一昨年のことなのに、

あまりにも解像度の高い港でのシーンを思い出す。

寸止めのキス、

正体を分かった上で付き合ってくれた撩の行動に、

胸の奥でつきんと痛みが走った。


***************************************
(3)につづく。





ここでまず最初の「都会のシンデレラ」のネタを出してしまいました。
最初のというからには、
のちのちまた触れる予定でございます〜。
きっと撩も、こういうときはある程度緊張していたと思うので、
言うつもりがなかった言葉がぽろっと出てしまうのではと。
それが「キスするときは…」のセリフだとしたら、
寸止めのちうの話題に触れない訳にはいかなくなりますよね。
撩の右手が香の左頬に添えられる場面は、
ミックが公園で香にちうをしようとしたあの時のコマを
補正してみてください。
さて、撩ちゃん次で頑張れ〜。
(2015.01.26.すこーし改稿)

プロフィール

Author:きまりも
since 2012.03.31.

中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。

ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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アンソロ完成!お疲れさまでした!

やっとまともに表示できたっ!2013.12.15

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