3000拍手記念にCH小説書きに50の質問に答えてみました

2012年8月31日にちょうど日付が変わった頃、

管理画面を見てみたら、

拍手累計3000パチパチを頂いておりましたっ!!



おりしも、サイトオープンから丁度5ヶ月。

なんて偶然!!

ほんと、この数字が増えていくのは嬉しい限りです(涙っ)。

日々、ぽちっとクリックして下さる皆様、

心より感謝申し上げますっ!





という訳で、3000パチ記念に

CH小説書きに50の質問

に答えてみました〜。


→続きを読む

スポンサーサイト

06-14 How To Invite (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(14)How To Invite (side Ryo) ***************************************************4268文字くらい



奥多摩湖畔から帰宅して3日目の夜。

教授宅から戻り、駐車場に車を入れると、

俺は着替えやらトラップの残りが入ったカバンを、

香はバスケットを持って階段を登った。



奥多摩から戻ってきた時は、唇を合せながらのお姫様抱っこで、

翌日は恥ずかしがり屋の香に先手を打たれて後ろからついて行って、

次の日は背中を押してもらいながらの家路。



この6階までの階段を移動する間でさえも、

香に触れながら昇りたいと、体温を求めた欲求が渦巻いてくる。

しかし、なにせトラップをしかけるのに、

埃だらけの場所をうろついていたので、

かなり結構汚れてしまった格好だ。

とりあえず、小さく我慢をしておく。

そんなことを考えながら、玄関を開け、香を先に中に入れた。



「俺、先に風呂入ってくるわ。」

「うん、そうして。あ、着替え持ってってあげる。」

「ああ、頼む。」

俺は、そのまま浴室に向かった。

香は、弁当殻の入ったバスケットをキッチンに運んで、

俺の部屋へ服を取りに、階段を登って行った。



浴室に入り、シャワーのコックを緩めて、体の汚れをざっと流していく。

髪の毛の中も埃まみれなので、いつもよりしっかり洗うことに。

二晩のインターバルをとりあえずは置いた。

香も疲れはあまりなさそうだ。



あいつは、今晩2度目の行為に及ぶことを受け入れてくれるだろうか。

他の女を誘う時は、いくらでも出て来る言葉が、

初めて本気になった相手では、どう切り出していいかさっぱり分からない。

体の泡を流しながら、セリフを色々思案してみる。



「ボクちゃんと、今夜ももっこりナイトどう?……違うな…。

香、明日はのんびりできるんだろ?今夜は寝かせないぞぉ。

……だめだ。

これじゃあ、恥じらいハンマーくらって、客間に逃げられるか…。」

頭をがしがし掻いても良い案は出てこない。



「あああっ!もうっ!俺、何やってんだ?」

文言に悩んでいたら、もっこりセンサーがポンと反応する。

「んー?」

どうやら香が着替えを持って来てくれたようだ。

脱衣所に、少しだけ緊張した気配がある。

それは、すぐにパタパタというスリッパの音と共に、

廊下へ消えて行った。

「顔くらい覗かせてもよかったんでないかい?」

ふと顔が緩む。



この今のギクシャク感は、嫌いじゃあない。

むしろ楽しんでいる自分がいる。

まだ、ケジメをつけてわずか3日。

触れられるだけでも、一緒に寝られるだけでも、深く高い満足感を味わっている。

だが焦りは禁物だ。



「でもぉ、ボクちゃん、我慢できなぁ〜い♡」



誰も見ていないと分かってはいても、

くねくねおねえスタイルでおちゃらけてみる。

矛盾した思いがせめぎあうが、とりあえず出るか。

脱衣所に上がると、パイソンの横に、

スウェットの上下とトランクスが丁寧に畳んで置いてある。

「サンキュ、香…。」



香と暮らすまで、

人の気配があることが、愛おしい存在が傍にあることが、

こうも心地良いものだとは、思ってもみなかった。

自分のテリトリーの中で、他人が常時いるなんてことは、

かつては考えられないことだったはず。

一人での生き方が当たり前だったが、

いつの間にかあいつとの生活が居心地よく、

手放さなければ、表に返さなければという思いとは裏腹に、

もう少しだけ、

お前との暮らしを先延ばししたい心境に

錘(おもり)がどんどん積み重なっていった。



この世界にとどめるべきではないと理屈では分かってはいても、

表の世界で他の男と一緒になる香の姿を

どうしても認めきれず、

滅多に夢を見ない自分が、

それに似た悪夢に幾度も苛(さいな)まれ、脂汗をかいて目覚め、

非常に後味の悪い朝を迎えたこと複数回。



お前がいない生活は、

もはや自分の中で受け入れられなくなっていった。

そんな想いは随分と前に自覚していたのに、

ごまかし続け、香を傷付け、危険に晒(さら)し、覚悟から逃げていた。

どこまでも、卑怯で身勝手な己に情けなくもなる。



「もう、逃げはしないさ…。」

無意識に呟く。

「だから、槇村よ。化けて出て来るなよ…。」



俺は、スウェットを着込んで頭にタオルを乗せたまま洗面所に行き、軽く口を漱いでおく。

あとは、寝るだけにするために、トイレもすませておく。

さて、香はキッチンかリビングか、客間か。

廊下に出て気配を探ると、キッチンから水音が聞こえて来た。

わざとあいつが気付くように足跡を立ててキッチンの扉を開ける。



「おーい、上がったぞ。おまぁも早く入ってこいよ。」

顔だけ覗かせると、弁当の容器を洗い終わるところだった。

「あ、うん。そうするわ。何か飲む?」

自分のことよりいつも相手のことを優先する香は、

ごく自然に俺にそう聞いてきた。

「いや、自分でするよ。」

「そぉ?じゃあ、シャワーだけ浴びて来るわ。

なんか1日2回も使うともったいないけど。

美樹さんの髪洗った時、けっこう汗かいちゃったから。」

エプロンを外しながらそう言う香に、そっと近付く。



「お前も、今日もよく働いたな。」

くしゃりと茶色のくせ毛を掻き回し、感触を楽しむ。

それだけで、かぁっと頬を朱に染める香がとにもかくにも愛おしくて、

それ以上に触れたくなるが、そこは何とか押さえて、風呂へ促す。

「さ、行ってこいよ。」

「うん。」

香は、エプロンを持ったまま、客間経由で浴室に向かった。



「さてと。」

あいつの風呂上がりに合せて、何か飲むもん用意しとくか。

冷蔵庫を覗いて見ると、缶ビールが目に入る。

これでいっか。

2本取り出してテーブルの上に置く。

今常温に出しておけば、冷えすぎない程度の温度になるだろう。

晩秋に近い季節、あいつの体をあまり冷やすわけにはいかない。

この間に、戸締まりやらなんやら確認しておくか。



いったん、キッチンを出て警報機のチェックや鍵の施錠をざっと見て回る。

抜け穴やら、トラップやらさながら忍者屋敷状態のところもあるが、

これが俺たちの日常。

このところの首都圏でも

一般家庭に警報機や監視カメラが置かれることは珍しくなくなってきた。

それでも、まだ治安の良さは欧米に比べたら遥かにいい方だろう。



キッチンに戻ると、右手側の壁の向こうには既に気配はなかった。

お?もう出たのか?

素早いな…。

あ、そっか。髪は俺が昼に洗わせたんだった。

キッチンをざっと見回してみる。

炊飯器のセットがされていないっつーことは、朝飯はトースト系か。

食パンとバケットがある場所に視線が移る。

いや、たぶん起きるのは下手したら昼頃になるかもしれん。

メシ作りは俺がすることを考えた方がいいだろうな。

なぜかって?みなまで言わすな。



「あ、あれ?リ、リビングにいるかと思った。」

風呂から出た香がナイティーに身を包んでキッチンにやってきた。

「ああ、戸締まりの方先に見てきた。一緒に飲むか?」

缶ビールをひょいっと投げる。

「ひゃあ!」

パシッとギリギリで受け取った香。

「あ、ありがと。サンゴー缶のサイズだったら、大丈夫、かな。」

そう言いながら、素直にプルタブを引いた。

大丈夫というのはきっと翌日に残らない量として問題なしということだろう。



俺は、流しに寄り掛かり立ったままで、きゅーと一気に飲んだ。

ふーと息を吐きながら、コンとシンクに空き缶を置く。

香は、扉近くのイスの端に腰を下ろし、ゆっくり味わっている。

「はぁー、今日もあっという間だったわ。」

足を浴室側に伸ばして、缶を持った両手も、うーんと言いながら斜め下につっぱらせた。



「お疲れさん。」

「……撩もね。」



香は、少し赤らみながら答えた。

残りのビールを飲み干すと、立ち上がってシンクに持って行こうとしたが、

俺はすかざすそれを受け取った。

「あ、ありがと。」

コトンと缶を置く音と同時に香が一言発したが、

そのまま腕を引っ張り込んで、自分の腕の中にふわりと納めた。

「ぁ。」

香の身がきゅっと硬くなる。

外出する前にソファーで抱きしめて以来だから、

12時間振りくらいか?

たった半日触れていなかっただけなのに、

えらく久しぶりな感触だ。



香の体温がどんどん上がって来る。

右腕は腰にまわし、左手を香の後頭部の髪に差し込んで、少し上を向かせた。

その顔色はもう完熟トマト並。

瞳の表面はうるうると揺らいでいる。

思わず吹き出しそうになった。



「まぁーだ、慣れないのぉ?香ちゃん。」

俺は、前髪をかき分けて額にそっと唇を寄せた。

「うひゃっ。」

どくんっと、心拍の跳ねる様が胸骨を越えて伝わって来る。

こうもカチコチに硬くなっていると、どうも次に及びにくいが、

その反応が楽しくて、ストップが効かなくなる。

香は、もはや返事をすることも出来ないくらいに、

硬直している。

とりあえず、おかまいなしにそのまま唇を鼻筋から上唇へと移動させた。



「んん…。」



香は、くっと目を閉じて、俺の胸部の生地を両手で握り込み、

恥ずかしがりながらも抵抗せずに受け入れている。

上唇下唇を啄むバードキスから、少しずつ湿り気のある口付けに変えていく。

ビールの風味が残るキスはたぶんお互いが感じている味だろう。



「…ふっ。」



時折漏れる香の声に、自分の気分が増々加速していく。

怖がらせたくない、怯えさせたくない、ヘタ打ったらこの先がないかもしれない。

そんな緊張と慎重さも同時に込み上げてくる。

まだ硬い香の体をさすりながら、唇を離さないまま言ってみる。



「キンチョーしてんの、おまぁだけじゃないんだからな…。」



「…ぇ?」

そのまま深いキスに移行させた。

「んんんっ…。」

そう、本気になった初めての相手、

余裕のない自分が可笑しくてしょうがない。



キッチンでお互い立ったままの抱擁、

唇を寄せ合っての甘い空気が時間を忘れさせる。

香の足が少し震え始めた。

息使いも荒くなる。

そっと唇を離し、鼻先だけをくっつけた。



「……この続きは、どこがいい?」

「は?」

香がパチッと目を開けた。

「ココがいい?お前の部屋?俺の部屋?」

お互い超至近距離で、たぶん視線が注がれているのは効き目のほうか。

香は今にも気を失ってしまうんじゃないかというほど、

茹で上がっている。



「ぁ…、ぅ…。」



口だけぱくぱくして声が出ない香。

「ボクちゃんは、どこでもいいんだけどねぇ〜♡」

またちゅっと軽く唇に吸い付いてみる。

また香の心拍の変化が自分の皮膚に伝わってきた。

きゅっと抱き寄せ、髪を撫でながら、

肩口に顔を埋めて返事を待つことにした。



「どうする?」



「……ぁ、……リョ…の部屋が…ぃぃ。」

まさに蚊の鳴くような小さい呟きが聞こえた。

思わずにやりとしてしまう。

「了解!」

まだこういうことをわざわざ言わせるのはちと酷かと思ったが、

慣れてもらうためのステップアップということにしておこう。

腕の中の香は、急速に体温が上昇していった。



**********************************************************
(15)へつづく。





撩の「この続きはどこがいい?」のセリフは、
各所で見かける言い回しでございますが、
当方も、便乗させて頂きました〜。
という訳で、早く連れていっちゃえー。
ところで、ビール飲んで歯磨きなしってどうなん??
うち、お酒飲まない家なもんだから、
飲んだまま寝ちゃうっつーシチュがピンとこなくて〜。
てか、学生時代、サークルの飲みでは仲間や後輩先輩は、
そのまんま爆睡だったか…(苦笑)。
ま、いっか。


【誤植情報感謝!】
Sさま:千錠→施錠の変更やっと出来ました〜。
ご連絡本当にありがとうございました!
2013.11.16.03:00

06-13 Talk In The Cooper

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(13)Talk In The Cooper  ***************************************************** 1579文字くらい



教授宅を出たクーパーは、

夜の都内をやや急ぎ気味で走る。

「その作業着どうしたの?」

薄汚れてしまった撩の服を見ながら香は訊ねた。

「あ?」

「うちにあったのかなと思って。」

「色んな変装ができるように、常備してあんの。」

「へぇー、…って一体どこにしまい込んであったのよ?

撩の部屋では、そんなの見たことないよ。」

クーパーに乗り込んだ2人の会話は服装のことから始まった。



「あー、使ってない階の部屋。」

「……どうりで。

他の階の掃除もたまにしているけど、気付かなかったわ。」

ふぅと納得混じりの溜め息をつく香。



「まぁ、滅多に使わんもんだからな。とりあえず洗濯頼むわ。」

「はいはい、って、明日着ていくの?」

撩の方を見る香は、

今晩洗濯機をまわさねばならないのか気になった。

「いんや、いつもの服で行くよ。その方が動きやすい。」

どれだけの敵を相手にしなければならないのか、

普段の服装を良しとした撩の判断に、香は少し不安になった。



「明日は、夜9時頃埠頭に行く。」

「……そっか。」

なるべく心配している気持ちを外に出さないようにと

出来るだけ平静に振る舞う。

「教授んちで、メシくって、タコと一緒に出かけて、

とっととケリ付けて戻って来るから。」

助手席に手を伸ばして、香の髪をくしゃりと撫でる。

「だから心配すんな。」

穏やかな視線だけ香に送り、そう答えた撩に、

香は自分の心が読まれていると感じた。

「……うん。」

香は、恥ずかしがりながらも、

そっと撩の左腕に寄り掛かった。



ふっと口角をあげつつ、

らしくもなくドキリとする自分がバレないように、

会話を続けた。

「明日の午前中はのんびりできそうだな。」

「たぶんね。買い物は間に合ってるし、特に予定もないし。」

香はゆっくりと返事をする。



「……ねぇ、撩。」

「なんだ?」

「こっちの動きは、向こうにはバレてないの?」

「大丈夫だ。

そんなヘマは俺たちも教授もミックもしてないよ。」

「……元から断つって提案したのは撩だって、

教授が言ってた。」



「……あのおしゃべりじじぃが。」

撩は苦笑した。

「……1回の密輸を阻止しても、

また同じことをしでかすような国だったら、

大元にダメージを与えた方がいいだろ。」

「意外と世話焼きなのね。」

「俺だけじゃないさ。

教授もミックも好き好んで手ぇ出してやがんだ。」

口を尖らせてそっぽを向く。

(まぁ、ミックはこっちが巻き込んだんだがな。)



元はと言えば、

ファルコンが昔の傭兵仲間から個人的に受けた依頼に、

裏の世界のトップクラスの人材が

自ら絡んで協力しようというのだ。

滑稽と言えば、滑稽かもしれないが、

基本コンセプトはみな『自分が気にくわない』と思ったら

縁があったものに対して行動するだけ。



それに、

撩自身はファルコンが早く仕事が終われば、

香の慌ただしさも軽減されることを見越しての行動。

根底には、

香のためというのがコアにあるが、

それを本人に直接言える程の素直さは、

まだ持ち合わせていない。



「……何にもしないで待つって、なんかヤダな。」

「だから、前も言ったろ。

おまぁは美樹ちゃんが俺たちのことを心配しなくてもいいように、

傍にいてやることが役目なんだよ。」



確かに、

何も知らされずに待つよりも、

今回は遥かに心持ちが違う。

それでも、

かつていつも通り帰って来ると思っていた唯一の家族が

帰ってこなかった心の痛みは、

終生忘れようがない。

同じ思いを二度としたくないと、

不安と怯えに潰されそうになったことも数えきれないが、

今は、ただ撩を信じて待つしかないと、

そして出来うる限りのプラス思考で、

無事を祈るだけだと、

香は自分に言い聞かせた。



「…ん。…わかった。」



小さく返事をする香に、

撩は眉を少し八の字にしてくすりと笑った。


*********************************
(14)へつづく。





冴羽アパートの未使用部屋、
いったいどうなっているんでしょうね〜。
たぶん、香が401に入居する時に、
他の住民には、穏便に立ち退きをさせたと思いますが、
そもそも初期の段階で、スイーパーの立ち場の撩が、
同じ建造物内に、
他人を住まわせること自体が流れとしてヒジョーにひっかかるので、
亜月菜摘の回での犯人侵入シーンで、
アパート住民と思われる輩(やから)が撩の部屋にどやどやと入ってきたのも、
初期の設定が不安定だったことを伺わせます。
北尾刑事が使った部屋は501でしたが、
各部屋に、いざって時のためのなんやらかんやらを
隠し持っていそうですね〜。


【修正しました!】
「…どうりて」⇒「…どうりで」
に置換しました。
mさん、発見ありがとうございます!
2016.02.07.04:03



06-12 Join & Break Up

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(12)Join & Break Up  ********************************************************* 2889文字くらい



美樹と香は、キッチンでハーブティーをたしなんでいた。

「これ、かずえさんが息抜きに飲んでって言ってたお茶なの。」

洗髪後、二人は一息つくためとおしゃべりタイムを楽しむために、

テーブルのコーナを挟んで座り歓談中。



「えーと、カモミールとレモングラスとジャスミンと、

あとハイビスカスのブレンドみたい。」

香はパッケージを見ながら説明した。

「あー、リラックス効果と疲労回復にいいものばかりかも!」

「うん、なんか酸味と甘みが両方いい感じね。」

「お店でも出してみようかしら?」

美樹もパッケージを手にとってまじまじと眺める。

「あ、それいいかも!」

「ケーキセットと一緒に出してもいいかもね。」



そんなやりとりをしていたら、屋敷の玄関先で賑やかな気配がした。

「あら、ファルコンと冴羽さん、戻ってきたみたいよ。」

「まったく、あやつらには、警報装置は役に立たんのう。」

教授が廊下を歩きながらぶつくさ呟くのが2人の耳に入る。

香は、ふと時計を見た。

(この時間に戻ってきてくれたんだったら、今日中には家に戻れそうね。)



何やら会話を交わすいくつかの言葉が

やや離れたところから二人に聞こえてくるが、

撩もファルコンもなかなか中へ入ってこない。



「何かトラブルでもあったのかしら?」

ちょっと心配になって立ち上がろうとする香。

「どうやらミックとかずえさんも合流したみたいよ。」

声を聞き分けた美樹が落ち着いて言った。

「みんな帰ってきたのね。じゃあ、コーヒーでも煎れようかしら。」

香は、ポットの湯の量を確認して、カップを用意し始めた。



「あぁ、手伝うわ。」

自分のケガのことを忘れて美樹は砂糖やスプーンを探そうとしたが、

香に慌てて止められた。

「ああっ!だめだめっ!美樹さんは座っててっ!」

「はいはい、分かったわ。

あまりにも薬が良く効いているから肩のこと忘れてたわ。」



体を銃弾が突き抜けたとは思えないくらいの回復ぶりに、

つい香も普通通りにキャッツでの会話と同じような錯覚に陥っていた。

ここに今自分がいるのは、美樹さんの一刻も早い退院のためと、

二人で笑い合いながら改めて心の中で言い聞かせた。



香は、豆を挽きなが玄関先で交わされる5人のやりとりに

耳を済ませていたが、まったく聞き取れない。

「あ、食堂の方にみんな行くみたいよ。」

気配を読んだ美樹が顔をそちらに向けた。

「じゃあ、向こうに運ぼうかしら。」

5人分のカップをお盆に乗せ、

早く撩の姿を確認したいと逸る気持ちを抑えながら、

美樹と一緒にみなのところへ合流した。



「ファルコン、冴羽さん、おかえりなさい!」

「お、お前、あ、あ、あんまり出歩くんじゃないっ!」

平気でうろついている美樹にファルコンは注意した。

「ごめんなさい。香さんに髪の毛洗ってもらって、ちょっとお茶してたの。」

「香、すまなかったな。」

感謝しつつすまなそうにしているファルコンに、香は逆に照れくさくなった。

「そんな、気にしないで…。って、撩も海坊主さんもなんで作業着なの?」

「あー、変装だ、変装。」

撩が面倒臭そうに答える。



「ほほ、二人で色々イタズラをしてきたようじゃぞ。」

「かずえさんも、ミックもお疲れさま。」

「ちょうど、みんな同じ時間に戻ってこれて、色々と打合せができたよ。カオリ。」

さっき、玄関先でなにやら時間がかかっていたのは、それだったのかと、

香は合点した。

「とりあえず、コーヒーでも飲んで一服しましょ。」

香は、テーブルにそれぞれのカップを並べた。



「かおりさん、今日もありがとう。明日も、夕方からお願いするわ。」

かずえが、日程の確認を告げた。

「わかったわ。かずえさんも、実験で大変だと思うけど、無理しないでね。」

「香さんもね。」

お互い労(ねぎら)いの言葉を交わす。



「明日の動きは、さっき話したとおりじゃが、他に確認することはないかの。」

教授がコーヒーをずずっとすすりながら、伏せ目で言った。

「No probulem!proffesor、全て順調です。」

ミックは自信満々の笑顔で答える。

「んじゃ、コーヒー飲んだらさっさと帰るか。香、おまぁ、もう出れるの?」

「あ、うん。あとは食器を片付けるだけ。」

「あら、香さん、この後のことは大丈夫よ。」

かずえがすかさず言った。

「で、でも。」

「いいから、気にしないで。」

意味ありげにウィンクをして香の帰宅を促す。



「……じゃあ、お言葉に甘えて今日は帰らせて頂くわ。」

香は残りのコーヒーをすすり、カップを置くと、

少し申し訳なさそうな表情で、

ファルコンと美樹とかずえとに目を向けた。

「それじゃ、また明日ね。」

「ええ、またメモ書きを用意しておくから。」

かずえの指示書があることで、香も随分助かっているので、

その一言で安心感が湧いて来る。



「香さん、ありがと。」

美樹も見送りながら礼を告げる。

「か、香、む、む、無理するんじゃないぞ。」

ファルコンがどもりながら感謝の代わりに言った。

「それは、美樹さんに言わなきゃ。」

ちらっと香は美樹のほうを見て、視線が合った二人はまたクスクスと微笑んだ。

「そんじゃま、お先ぃ〜。」

とっくにコーヒーを空にした撩は、先に玄関へ向かおうとした。

「おい!リョウ!カオリに無理させんなよっ!」



がしゃんっ!!!



撩の顔半分が入り口のドアに激しく接触。

「ってぇ〜。」

偶然にも一昨日美樹から言われた全く同じセリフをミックも発した。

「ミック、うるせぇぞ!」

首だけ振り返ってミックをじろりと睨む撩。



どうにでも取れるこのセリフは、まだ香にはピンとこなかったようだ。

「え?あたしは大丈夫よ?」

この天然な反応に一同、溜め息をついた。

「さ、行くぞ!香!」

多少苛ついている撩を怪訝な表情で暫し見つめたが、

とりあえず慌ててハンドバックを持って後を追った。

「それじゃ、また!」



「ほほほ、若いことはいいことじゃのう。」

見送る視線はにやつきながら、教授は指を後ろ手に組んで書斎へ向かった。

「カズエ、俺は今日ここに泊まっていくよ。」

「うれしいわ。」

「あー、お、俺は一旦店に戻る。美樹を頼む。」

「ファルコン、あたしは大丈夫よ。」

美樹はファルコンにすりよってきた。

「明日本番でしょ。あなたこそ無理しないでね。」

ぼしゅっと沸騰する音を聞きながら、ミックとかずえは負けじと肩を寄せ合う。

「じゃあな、ファルコン、俺たちはもう引っ込むぜ。」

「美樹さん、おやすみなさい。」

「おやすみなさ〜い。」

かずえは、人数分のコーヒーカップが乗ったワゴンキャリアーを押しながら、

そう言うと、

ミックの腕がかずえの腰にまわされ、そのまま2人は奥の台所に消えていった。



「ファルコン、やっぱりあなたも泊まってく?」

「っば、ば、…お、俺は明日の準備が、あ、あるからな!」

茹で蛸になりながら、そっぽを向く。

「と、とにかくお前は早く休め。そして傷を一日でも早く治すんだ!」

「もちろんよ。」

「じゃ、じゃあ、行くぞ!」

「おやすみ、ファルコン。」

美樹は左手でファルコンの右手をとって指に軽く唇をつけた。

どかん!と頭部が爆発する音がミックのところまで聞こえたが、

あえて気にしないことにして、かずえとの時間を優先した。

どこかしら、ずたぼろになったファルコンは、

よろよろとしながら教授宅を後にしたのであった。


*******************************
(13)へつづく。





教授宅の通い2日目はこうして終了〜。
この数年、お茶コレクションなんぞも始めてしまって、
クマザサ茶、ツユクサ茶、アケビ茶、ビワの葉茶とズバリ種名が
明示されている商品を買い集めてはパッケージをキープ。
しかし、キャッツにはちょっと田舎臭過ぎるかぁ?と
セーブしてオシャレハーブティーを二人に
飲ませてみました〜。
今晩はハイビスカスティーでも飲んでみっか。
(買い過ぎてよりどりみどり〜)
この4日間でイベント5連チャン。
アラフォーにはちと辛いぜ…。
CHで気力体力を回復させねばっ。

訪問者リストに足跡を残して下さった皆様へ (パス付だけど年齢制限なし)

この記事を閲覧するにはパスワードが必要です
パスワード入力

06-11 Trap (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori

奥多摩から3日目


(11)Trap (side Ryo) ********************************************************** 2155文字くらい



夜の大井埠頭。

平らなアスファルトが広く続く中で、

各所にコンテナが高く積み上げられている。

倉庫も整然と並んで、なんとも無機質な空間だ。

前日の下見で見つけた、ちょうど死角になる場所に車を止める。

しかも、関係者の出入りに見せかけるように、

怪しまれない場所を選んだので、

いたって自然な侵入だ。



エンジンを止めた車内で、まずは気配を読む。

深夜に到着する大型船の貨物を受け取るための、

作業員が二ケタは動いている。

目視で、周辺を見ると、やはりいた。

恐らく、前日の見張り役であろう、

南ガルシア政府の関係者らしきスーツ姿の男が数名。

怪しいモンですって自分から言っているようなもんだ。

顔立ちはアングロサクソン系。

左胸の膨らみは、銃の所有の証。

素人に毛が生えたようなもんだ。



「ふ…ん。」

「撩、把握は出来たな。」

「あぁ。」

「今日はやり合う気はない。全ては明日だ。」

「わぁーってるよ。」



明日の荷の運び出しは、相当数の雑魚が集まることが予想される。

片っ端から殺しちまってもいいが、

後々冴子が処理に苦労することや、香に不安な思いを増やすことにも

つながるだろうから、

致命傷の寸止めで戦闘能力を奪うのが、

このところの俺とタコの暗黙の了解。

まぁ、俺だって必要のない殺しはしたくない。

あっちにいた頃は、こんなことは考えもしなかったが。



「出るぞ。」

「ああ。」



俺らは外に出ると、リアハッチを開けて、荷物を取り出した。

つなぎの作業着を着ているので、

端からみれば、本当にただの作業員だ。

タコの巨体を除けばな。

明日のターゲットのスーツ男たちから見えない位置に移動。

まぁ、気づかれてもなんとかなるだろ。



打合せ通りに、破壊力を落としたプラスチック爆弾、

閃光弾と催涙弾に模した手榴弾を複数箇所に仕掛けていく。

怪しまれない動きで、かつ死角になるように作業開始。

鉄骨やドラム缶の側面、階段下など、めぼしい場所を絞り込む。

プラスチック爆弾は、建物への被害が殆ど出ないように調整してある。

とにかく今まで公共施設をぶっ壊して

冴子にこっぴどく苦情を言われたので、

俺たちなりの配慮。



基本は、弾丸で打ち抜いて作動させることを前提にするので、

ワイヤーやタイマーは使わない。

分かるように仕掛けちゃだめだ。

しかも、弾を撃ち込めるように一部露出させなければならない。

そして、証拠隠滅のために全ての仕掛けを使用するお約束付き。

数にモノを言わせてくる相手方に対しての

ちょっとしたイタズラだ。



ジャングルで暮らしていたあの時は、生死を決めるシビアな背景のトラップ作り。

ソレとは違う余裕を含んだこの作業に、

なんだか、香がトラップをしかける時の気分が少し重なった気がした。

ちょっと楽しいぞ、これ。



「おい、撩、何をニヤニヤしてんだ。」

「何でもねぇよ、っておいタコ!お前に俺の顔見えるわけねぇーだろ。」

「ふん!雰囲気、気配、息づかいで分かるんだ!」

これは、否定しなかったことを少しばかり後悔。



「撩、お前、今トラップしかけながら香のことを考えていただろ。」

「っ!」

図星を当てられ、やや動揺するも、表情筋は動かさないままで答える。

「はん、これにやられる雑魚共の姿を連想してたらおかしくなっただけだ。」

「まぁ、そういうことにしといてやる。次は隣の棟だ。行くぞ。」

海坊主は、全てお見通しという空気で荷物を背負い直した。







「……こんなもんか?」

ほぼ空になったザックとカバンを持ち直し、

海坊主に言った。

「ああ、これだけありゃ、明日相当楽ができる。」

「拘束用のロープと針金は?」

「あそことあそこだ。」

海坊主は3カ所を指差し、隠し場所を伝えた。

「了解。」

船が入って来る位置は聞いといたが、当日そこに着岸するとは限らない。

船体の特徴も、今ある情報と違う可能性もある。

そして、密輸出されるコンテナもダミーがあるかもしれない。

いずれにしても、俺らが仕事をしている間、

ミックと教授の情報操作によって、

南ガルシア政府の根幹が揺るぐ事案が明るみになり、

奴らは、それを速報で聞きながら戦闘意欲喪失状態ということになるだろう。



とりあえず、海坊主が暴れている間、

俺はブツの入ったあの巨大な箱を海にドボンとするだけ。

ハエが多くて煩わしそうだが、クロイツ親衛隊レベルではないだろう。

30分でカタを付けたいところだ。

明日のイメージが固まってきたところで、撤退を促す。



「海ちゃん、そろそろ帰ろうや。」

「あぁ、明日は10時頃にここにくればいいはずだ。」

「んじゃ、メシは教授宅でゆっくり食えるな。」

「食い過ぎて動けないなんてことになるなよ。撩。」

「余計なお世話だ。」



空の荷物を車に放り込み、運転席へどかっと座った。

「さっさと乗りな。」

また狭苦しそうに巨体を助手席に沈めて、んと大変だな。

左に沈んだ車体をぐいんとUターンさせ、

俺らは教授宅へスピードを上げた。

家には、今日中に帰れそうだな。



「撩、違反で捕まったらシャレにならん。落ち着いて運転しろ。」

タコがぼそっと言った。

はは、早く帰りたいのがバレちまっているか?

「っせーなー。お前よりも遥かに安全運転だ。」



尾行してくるヤツもいない。

ああ、早く終わらせちまいたいぜ。

既に俺の頭の中は、

今晩香とどう過ごすかで満たされていた。


*****************************************
(12)へつづく。





まぁ、この二人にはこんな小細工なしで、
当日いきなり本番スタイルでも問題ないと思いますが、
今回は予備情報が入っているということで、
冴子ちゃんに気ぃ遣ってます。

06-10  Dinner In The Car (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(10) Dinner In The Car (side Ryo) *******************************************2056文字くらい



海坊主と美樹ちゃんの結婚式から3日目の夜。

俺とタコは、再び大井埠頭に向かった。

その前に、キャッツに寄り道して、車を変える。

もちろんナンバーもニセモノに変えてあるものだ。

クーパーに積んであった必要な道具は、

教授宅を出る時にタコの車に移し替えたが、

さらに引っ越しをさせる。



昨日と同じ車では、もし下見にあちらさんがいたら怪しまれる。

下準備でも、こういった用心はかかせない。

ついでに、作業服に着替える。

港にいてもおかしくない作業員に扮するため。

着ていた服は、作業服を入れていたカバンに詰め込み、

乗り換える車にも放る。

タコも着替えたが、よくそのサイズのつなぎがあったもんだ。

特注か?

かえって目立ちそうだぜ。

ワンボックスカーに乗り込み、再出発。

運転は俺。



「おい、メシどうする?」

俺は、後部座席の香の弁当をミラーでちらっと見ながら言った。

「……後で食うか、先に食うかってことか?」

海坊主のセリフに若干照れが入っている。なぜだ?

「あと、どこで食うか。」

んだよ、このタコの微妙な空気は。

「お、お前に任せる。」

おいおい、そこ赤くなるところじゃないだろう!

「んじゃ、先に俺らの燃料補給っちゅーことで、首都高のパーキングにでも寄りますか。」



車のライトが必要になった頃、

大井埠頭から一番近いパーキングに止まり、

狭いが我慢して車内で食べることに。

現場の近隣でむやみに外に姿をさらさないほうが、

リスクが低くなるからだ。



バスケットから2つある大きな重箱を持ち上げ、1つをタコの膝に乗せた。

「ほれ。」

「あ、ああ。」

ちょっとぎこちないタコ、訝しがる俺。

いったい何なんだその反応は。

ひとまず弁当を開ける。

まだ、温かさが残っている。

にぎり飯とサンドイッチが両方楽しめる欲張りなメニュー。

タンパク質系も野菜系もクシが刺してあり、

手を汚さずに、片手で食べられるようになっている。

まぁ、よくもあの短い時間でこれだけ用意できたもんだな。



「さっさと食っちまおう。」

「あ、ああ。」

さっきからどうもタコの様子がおかしい。

調子が悪いという気配ではないが、なんでこの状況で赤面してんだよ。

気色わりぃな。

ハグハグと食べ始めた俺を気にしながら、

タコもメインのおかずに手を伸ばした。



「ふん、香の料理は店で出せる価値があるな。」

「おいおい、お世辞は本人の前で言ってくれよ。」

がつがつと食っている俺に向かって、

タコはふっと唇を緩ませた。

「……香には、気を使わせてすまんな。」

「は?」

俺はにぎり飯を頬張ったまましばし固まった。

「あっ、いや、その、なんだっ、お、お前も、香とゆっくり、その、

す、す、すっ、ごっしたいん、じゃ、っないのか?」

ぼしゅっと蒸気機関車のごとく様相が変わった。



おいおい、俺と一対一で香のことを話すときまでも、

どうしてそこまで沸騰できるんだろうねぇ。

もしかして、それが言いたくて、挙動不振だったっつーの?

俺は思わずふっと口角があがった。



ぱくっとおかずを口に放り込みながら、返り討ちを狙う。

「お前だって、新婚早々美樹ちゃんを残して仕事やってんだ。

一緒にいたいっつーのはむしろ美樹ちゃんの方だろ。」

「ぐっ、…だ、だ、から、その、おまえたちは、その、

よ、よ、ようやくだなっ、……。」

そこまで言ったタコは、これ以上ないくらい茹で蛸になり、

言葉が止まった。

「い、いや、な、何でもないっ。」



しゅーしゅー言いながら何でもないとはないだろ。

あー、つまり、こいつは、俺らがやっとこさ、ケジメをつけたことを感じて、

一大事とも言える人生の節目の直後に、

こうして自分の仕事に付き合わせていることに

罪悪感を持っているっちゅー訳だな。



「余計な心配すんなっつーの!」

口をサンドイッチで膨らませてもぐもぐしながら、

澄まし顔で言ってみる。

海坊主は、少しだけ、はっとしたように体が動いた。

「んなことより、さっさと食っちまって、さっさと片付けようぜ。」

片付けるというのは、メシのことではなく、

今晩現場ですべき小細工のこと。



前の俺だったら、

“あんな男女とゆっくり過ごすだぁ?冗談過ぎるぜぇ”

とか、

“ようやくってなんのことだぁ?アイツはただの仕事のパートナーだっ”

と、否定しながら、ごまかすのがセオリーだった。

海坊主の言葉を肯定するような言い回しをした己に自分でもやや驚く。



しかし、冗談抜きでさっさと終わらせちまいたい。

早く教授宅へ戻って、

香と一緒に一刻でも早くアパートに帰りたいんだが、

そんな気配を少しでも出そうもんなら、

またコイツやミックにからかわれるのがオチだ。



お、水筒の中身は、ほうじ茶か。

ぐびりと飲んで、自分の分は平らげた。

「ごっそさん!お前もさっさと食えよ。」

「あ、ああ。」

海坊主の手のサイズには、にぎり飯もサンドイッチもみな小さく見えるが、

そこそこ量があったので、

俺らはとりあえず一食分満足して晩飯を終えた。



「じゃあ、出るぞ。」

すっかり辺りは暗くなり、街の光が賑やかに見えるのを

視界の端に捉えながら、

目的地へと急いだ。


***************************************
(11)へつづく。





あの湖畔での二人のハグシーンを最も近くで見ていた(感じていた)海ちゃん、
待たされた時間や、直後の二人の雰囲気、
翌日に教授宅で感じた変化などなど、
もうファルコンには、いやっていう程、コトの状況は分かっていると思います。
いつも自分たちの前できゃんきゃん喧嘩ばかりしている2人が
大人の関係になっちゃったことも、しっかり認識しているでしょうし、
ついそーゆーシーンを想像しちゃって、勝手に沸騰しちゃったりぃ〜。
自分の仲間が増えたと、海原戦の直後に喜んでいた姿もあるので、
本当は、撩に祝福の言葉でも伝えたいところかもしれませんが、
海ちゃんも、香に負けず劣らず超照れ屋なので、
結局ここでは言い損ないました〜。

06-09 Miki's Bath Time

第6部 A Day Of Ryo & Kaori

奥多摩から3日目


(9)Miki’s Bath Time  ********************************************************* 2753文字くらい



美樹のケガは、

右肩の貫通射創で、

幸いにも傷の出入り口が小さく、

骨や大きな血管を傷付けずに抜けたので、

とにかく動かさないようにし、

痛んだ筋肉が修復されるのを待つ状態である。



ただ、痛み止めが切れると、

かなりの激痛が常時神経を襲う。

毎食後の薬の服用はかかせない。

美樹は部屋に戻って、こくりと錠剤を飲むと、

タオルを持って浴室に向かった。



すでに、

香は短パンに履き替え、シャツも腕まくりして、

美樹の座る椅子まで整えている。

「じゃあ、美樹さん、ここに座って。」

「ありがと。」



香は、

美樹の首周りにうなじが見えるようにタオルを巻いて、

かずえに用意してもらっていた

散髪用のビニール製ケープで、

美樹の上半身を覆った。

「熱かったら、ちゃんと教えてね。」

そう言いながらシャワーのコックをひねる。

「ええ。」



美樹は座ったまま、

頭を浴槽に突き出す形で、

ウェーブのかかった黒く長い髪の毛をゆらりと垂らした。

香は、

斜め後ろから優しくお湯をかけていく。



「あ、あたし、他の人の髪の毛洗うの初めてだから、

何だか緊張するわ。」

「ふふっ、記念に好きにいじってもいいわよ。」

俯いたまま美樹は楽しそうに返した。

「いやだ、なんかドキドキしてきちゃったわ。」

二人ともぷぷっと笑う。



充分お湯が回ったところで、

香は一度シャワーを止めた。

シャンプーを手にとり、濡れた美樹の髪に馴染ませる。

「1回目のシャンプーは余洗いだから、2回洗うわね。」

かずえのアドバイス通り、

入浴が制限されて、やや頭皮の脂がまわった髪は、

泡が立ちにくいと香は実感した。



「香さんの指が気持ちいいわぁ。」

その言葉にちょっと照れてしまう。

しゃかしゃかと髪全体をもみあげ、

一通り泡がまわると、

香はシャワーからお湯を出し、

丁寧に漱(すす)いだ。




「美樹さんの黒髪ってツヤツヤしてて、

すごく健康的に見えるわ。」

流しながら、素直な感想がぽろりとでる。

ボリュームのある波を描く髪に、

香は少しうらやましく思った。



「そうかしら?

これでも手入れが結構めんどうなのよねぇ。」

「あたしも、

伸ばしたらとんでもないことになるから…。」

香は話しながら2回目のシャンプーを

同じように髪に梳き込ませた。



「あら、でも色は地色でしょ?

明るい栗色で、ふわっとしていて、

とても触り心地がよさそうだわ。」

香は、ぼぼっと赤くなった。

「そ、そんなことないわよっ。」

美樹の言葉に、

つい撩が自分の髪をくしゃっとする場面が

ポンと頭に浮かび、

洗う手の動きがぎこちなくなる。

それでも、

明らかに先ほどより泡立ちがいいのがよく分かった。



「じゃ、じゃあ流すわね!」

余計なことを考えて、

赤面しているところがバレないようにと、

洗髪になんとか集中する。

「はいはい、お願いしま〜す。」

美樹は、香の言動の変化に、

何を思っていたかが手に取るように分かり、

ついクスクスとにやけてしまった。



「つ、次は、リンスね。」

原液を洗面器で薄めて、

全ての髪がコーティングされるように、

十分に液体をまわした。

美樹の白いうなじが、

同じ性を持つ香にとっても、妙に色っぽく見え、

どきまぎする自分にやや戸惑う。



「私も昔は、ショートカットだったのよ。」

「え?美樹さんも?」

「そう、少年兵っぽく見えるように、

もはや男装といった感じだったけどね。」

懐かしそうに、美樹は語り始める。

「……ファルコンが日本にいるって分かってから、

やっと探し当てて、久しぶりに再会した時に、

彼すっごく驚いてたの。」

「海坊主さんが?」

「だって、ファルコンは短い髪の私しか知らなかったから、

いきなりロングヘアで押しかけて来た私に、

もう言葉が見つからないってくらいワタワタしてたわ。」



香は、

驚きと照れであたふたするファルコンが

容易に頭に浮かび、

肩を揺らして笑った。

「ぷっ、ふふ、海坊主さんらしいわ!」



「そんな中で、私が結婚を迫ったものだから、

ますますファルコンは慌ててね、本当に苦し紛れに

『冴羽を倒したら考えてやる!』って、

顔を真っ赤にしながら言ったのよ。

あの時は、必死だったなぁ…。」



「ほんと、美樹さんと最初に会ったあの時は、

かなり驚いたけど、

今となっては、懐かしい限りね。」

「まったく、そぉーよねぇー。」

香は、髪を丁寧に揉みながら、

美樹の店に初めて訊ねた時のことを

思い返していた。



「じゃあ、そろそろリンスも流すわね。」

「ええ、お願い。」

香は、シャワーのコックを開き、

ぬるいお湯でリンスを洗い流した。

「んー、気持ちいい!」

「タオルで水気を取るから、体起していいわよ。」

「よっと。」

背筋を伸ばした美樹の後ろに立った香は、

しっとりとした髪の毛をバスタオルでそっと包んだ。



「私の髪の毛、乾きにくいのよねぇ。」

「大丈夫よ。ドライヤーもかけるけど、もうちょっと拭いてからね。」

「ありがとう。香さん。」

香は、ケープを取って、

美樹の髪に適度な圧をかけて水分をタオルにすわせた。



香は美樹を脱衣所に促し、

洗面台の前のイスに美樹を座らせる。

「ドライヤーも熱かったら言ってね。」

そう言って、

スイッチをオンにするとゴォーというモーターの音が響く。

「そんなに、気を使わなくてもいいのよ。香さん。」

「ううん、これが今、私ができる数少ないことだもの。」

(だから、精一杯努めたいのよ。)

香は、まだ美樹の傷に対して罪悪感が払拭できずにいる。



「でも、嬉しいわ。香さんとこんな時間を過ごせるなんて。」

美樹の言葉に少しドキリとした。

「そ、そう?」

ドライヤーの音でやや聞こえにくいので、

お互いいつもより声が大きくなる。



「だって、こんなことそうそうにないわよ。

普段は、私はお店で、

香さんはカウンターっていうパターンが殆どでしょ?」

「言われてみればそうね。」

お互い鏡越しに視線が合う。

「思えば私たちの出会いも、なんだか運命って感じだわ。」

「っほんと、不思議な巡り合わせよねぇ〜。」

二人とも、

お互いの顔を鏡で見ながらくくっと笑った。



数分後、カチリと熱風をオフにする。

とたん静かになる洗面所。

「さ、もう乾いたみたい。こんな感じでいいかしら?」

香の言葉に、

美樹は自分の左手でうなじから髪をかきあげた。

「ええ、ちゃんと中まで乾いたわ。ありがとう、香さん。」

「どういたしまして!」

そう答えながら、いつか自分も撩の髪を洗ったり、

洗われたりということがあるのだろうかと、

ふと考えただけで、勝手に体が熱くなる。



「じゃ、じゃあ、ちょ、ちょっとお茶でも飲みながら、

い、一服しましょうか?」

「そうね。」

くすりと微笑みながら返事をした美樹は、

急に照れ始めて噛みまくる香が、

何を想像したか、

先ほどと同じく、

美樹はなんとなく分かってしまった。



「え、えーと、こ、これはここに戻してっと。」

香は自分の妄想をごまかすように、

バタバタと周辺の後片付けを軽くした後、

美樹と一緒に、キッチンへ向かった。


*************************
(10)へつづく。





うーん、
確かに香が美樹の洗髪をするというシーンは、
他ではあまり見たことないですね〜。
美樹ちゃん、いいな〜。
ワタクシも洗ってもらいたい〜。
次はお弁当持って出かけた二人のシーンです。


【誤植発見ありがとうございます!&若干改稿しました】
「勤めたいのよ」⇒「努めたいのよ」に修正しました!
mさん、ご連絡ありがとうございました!
2016.02.07.03:58

若干改稿
2017.02.13.22:39




06-08 Home Cooking

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(8)Home Cooking  ***********************************************************3656文字くらい



香は、キッチンに戻ると、大食い2人分のお弁当を整えて、

お茶の入った水筒も2本自宅から持ってきていた。

夕食は3人分、肉野菜炒めはすでに温めるだけ。

ご飯、味噌汁、豆腐サラダにフルーツと、和風で揃えた。



そこへ、撩がやってきた。

「香ぃ〜、俺らそろそろ出るからなー。」

「え?海坊主さんは?」

「ああ、さっき着いた。今教授と話してる。」



自分が美樹と話していた間に

ファルコンが到着していたことにやや驚く。

「あ、撩これ持って行って!」

重たいバスケットを手渡す。

「なんだ?これ?」

「お弁当。夕食代わりに、車の中とかで食べられそう?」

「ああ、助かる。」

香は受け取ってもらい、少しほっとした。

じゃまだと、置いていかれることも覚悟していたのだ。



「俺とタコが、どっかで外食したら、目立つし、

 金かかるしでいいことないからなぁ。有り難く持って行くよ。」

「撩、気をつけてね…。」

「心配するなって。今日はさっさと終わらせてすぐ戻るから。」

「撩…。」

「美樹ちゃんとおしゃべりでもしながら待ってな。」

また髪の毛をくしゃりとされ、香はほんのり赤くなる。

(うー、これだけで、ほてってくるなんて〜。)



「撩、そろそろ行くぞ!」

ファルコンの野太い声が聞こえた。

キッチンに入ってきた大男は、香に向かって言った。

「香、すまんな。美樹を頼む。」

「もちろん。早く戻ってきてあげてね。」

「ああ。」

「じゃっ、行きますか!」

撩はバスケットを携えてファルコンと一緒にキッチンを出た。

「いってらっしゃい!」

男たちの後ろ姿を見送った香は、ふぅーと息を吐いた。

「本番は明日なのよね…。」



言い様のない不安は、いつものこと。

今回は、具体的に何があるかを教えてもらっている。

今、自分がすべきことは、美樹さんと彼らの帰りを待つこと。

「さ、食卓に運ばなきゃ。」

香は、食堂に配膳を終え、美樹と教授を呼びに行った。





「ほほ、今日は和食か。香君、ご苦労じゃったな。」

「わぁー、美味しそう!頂きます!」

3人での食卓は、初めてのパターン。

「工夫がないメニューでごめんなさいね。」

香は、なんだか申し訳なさそうに、自分の箸を伸ばす。



「十分すぎるわ。嬉しい。お豆腐好きなのよ。」

相変わらず左手で器用に箸を使う美樹は、

次々とおかずを口に運ぶ。

「まったく、撩がうらやましいのう。」

何だかいやらしい笑みで、茶碗を持つ教授は、

にやつきながら、香を見る。

「きょ、教授っ。」

赤くなる香に、美樹もくすくす笑う。



食べながら、教授は続けた。

「かずえ君が多忙で、二人には苦労かけるが、もうしばらく辛抱してもらえんかの。」

「あ、大丈夫です。さっき、かずえさんとちゃんと打合せしましたし、

こちらも、依頼が入ってないんで、気になさらないで下さい。」

香は、冗談など抜きで、まじめに教授に答えた。

「そうですよ。教授、転がり込んだのは私の方なんですから。」

美樹もすぐに反応した。

「現場ですぐに教授に手当てしてもらったからこそ、

こうして食事も出来るんですし。」

微笑みながら感謝を表した美樹は、治療中の肩口をそっと見つめた。



「まぁ、美樹君もファルコンから聞いておると思うが、

今回の相手は、南ガルシア共和国の軍部がターゲットじゃ。」

美樹もある程度聞いていたようで、反応してきた。

「最初は、密輸の阻止だけということでしたよね。」

「その通り。じゃが、撩が元から潰そうと言って来てな。」

「撩が?」

初めて聞いたことに、香は驚いた。

「大丈夫じゃ、もう手は打っておる。」

香は、ここまでの話しで、

すでに教授が裏で何らかの操作をしていることを知った。

「今日は、武器のチェックと、現場でトラップをしかけるくらいじゃろう。」

「明日の夜には終わるんですよね。」

香は、なるべく明るい口調で教授に聞いた。

「ほほ、ちぃーとばかし雑魚が多いようじゃが、大丈夫じゃろう。」

つい、先日100人近くのクロイツ親衛隊を相手にしたばかりなのに、

また大勢を相手にする現場に行くことになろうとは、

あの2人がそういうものを呼ぶのだろうかと、

3人同じことを思い描いていた。



「ミックも適当に動いていることじゃし、

今回は準備時間もある。心配はいらんじゃろ。」

連れ合いを待つ二人の女性を安心させるかのように、

教授は穏やかな口調で宣言した。



「それにしても、美味しいのう。滋味と温かさのある家庭の味じゃ。」

教授は顔をほころばせて、食事を進める。

「そう、そうなのよ。香さんの手料理って家族愛を感じる味付けなのよねぇ。」

美樹も教授の意見に乗る。

「うーん、中学の頃からアニキと分担して食事作っていたせいなのかしら。

教えてもらったのは、殆どアニキからだし。

あとは料理本見て独学も入っているけど…。」

香は、二人の意見に困惑する。



「相手を思いやる愛ある食卓なんじゃよ。裏の人間には縁遠いもんじゃ。」

教授はもうすぐ食べ終わりそうな気配。

「そうなのよね。

昔は、コンバットレーションばかり食べていたから、

本当に、日本の主菜、副菜がそろっている食卓って、

無条件で心の栄養になる気分なのよね。」

美樹が続けた。



「コンバットレーション?」

香が初めて聞く言葉に、疑問符を付ける。

「軍隊用の携帯保存食のことなの。

缶詰とか乾パンとか、レトルトの詰め合わせとか。

ろくな味じゃなかったわ。」

眉を寄せて話す美樹の表情から、本当に美味しくなさそうなことが伝わった。

「きっと、撩も、香君の食事を口にする度に、

美樹君と同じことをいつも感じているんじゃないかのう。」



戦場で生きて来た撩の食生活を垣間知り、

香はドキリとした。

綺麗に食べ終わった教授は、丁寧に手を合わせた。

「ごちそうさま。いい味じゃった。香君。」

「あ、ありがとうございます。あ、あのお茶煎れて来ますわ。」

席を立とうとした香だが、教授にやんわり止められた。

「いや、今日はわしが煎れるかのう。

食事の途中で席を立たせるのは忍びないしのう。ほっほっほ。」

と、空の食器を持って教授はキッチンへ向かった。



その姿を見送った後、美樹は香に視線を向けた。

「ねぇ、香さん、昨日も言ったけど、今度お料理教えてくれない?」

「そ、そんなっ!私が美樹さんや海坊主さんに教わりたいくらいなのに!」

香は、食事が喉につまりそうになりながら答えた。

「違うのよ。お店で出しているサンドイッチやパスタは、あくまでもよそ行き。

ただ、普段の毎日の食事は、香さんのところのような形も導入したいのよ。」

「あはは、うちは、大食いが1人いるから、質より量って感じで、

安くて、たっぷりで、美味しくて、と3拍子揃えば

何でもいいってスタイルだから…、あはは。」



正直、自分の作った普段着の食事で、教授と美樹がここまで、

プラス評価を語るとは思わなかった香は、

どう反応していいか分からず、もうしどろもどろでごまかしている。

「こっちも大食いがいるから似た条件よっ。だから、ね!」

その二人の大食いを思いながら、くすくすとお互いに笑った。



「いい顔じゃ。女性はやはり笑顔がいいのう。」

ちょうど教授がお盆にお茶を3人分乗せて持って来た。

「あまり上手な煎れ方ではないんじゃが、茶葉はいいはずじゃ。」

二人の前に湯飲みを差し出しながら、教授は言った。

「ありがとうございます。」

香は、いい茶葉と聞いて昨日のことを思い出した。

「あ、あの、昨日も、こ、こ、高価なワインをありがとうございました!」

「ほ、撩に聞いたのかい。」

にやっと笑みを浮かべて教授は返した。

「び、びっくりしました。あんなワインがあるなんて…。」

香は、クーパーの中で値段を聞いたときの緊張が甦る。

「ま、もらいもんじゃ。」

「私たちは、かなりラッキーですわ。ご相伴させてもらって。」

美樹も少し興奮気味。




「…いや、本当に幸運なのは、

あんたらと出会うことのできた、あの男共じゃろ。」

静かに緑茶をすすりながら、教授は穏やかにそう言った。



「教授…。」

香は、教授のその一言に目を開く。

「問題は、撩もファルコンも、自分たちは幸運だが、

お前さんたちを不幸にしたと思い込んでおる。

まったく、しようがない奴らじゃ。」



「ファルコンったら。まだそんなこと。」

美樹も呆れたように溜め息をついて、湯飲みに口をつけた。

「そうじゃないことを、ちゃんとしっかり伝えていきますわ。」

美樹は、毅然とした態度ではっきりと言った。



香は、一昨日、教授が自分に言っていた

『普通の女性が得られる幸せを奪ってしまった』というフレーズを思い出す。

もう少し教授が知っている撩のことを聞きたいと思ったが、

今はあえて尋ねるのをやめることにし、

黙ったままお茶を飲んだ。

「教授の煎れてくれたお茶、美味しいです。」

「ほほ、言ったじゃろ。茶葉だけはいいもんじゃからの。」

3人とも淡い笑い声を交差させながら、食事を終える。



「じゃあ、美樹さん。片付け終わったらお風呂に行きましょうか。」

「分かったわ。準備してくる。」

「ワシは、書斎でもう少しイタズラしみるかのう。」

3人ともそれぞれの方向に向かい、食卓を後にした。


*************************************************
(9)へつづく。





奥多摩から4回目の夕食です。
えーと、鶏モモ肉の照り焼きに、アジのマリネに、
パキスタンカレーに、肉野菜炒めと、
自分もそろそろ記憶が混乱。
献立表が欲しくなります。
とにもかくにも、
こいつらにはしっかり食事をしてもらわんとね。

06-07 The Code Of Flower

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(7)The Code Of Flower *******************************************************2961文字くらい



香は、ある程度、作業に区切りがついたところで、

買って来た花を美樹の部屋に持って行くことにした。

剪定バサミと花束を抱えて、廊下を進むと、

日本庭園の奥で、

教授と撩がこちらに背中を向けて何やら話している姿が見えた。

「なんだか、ろくなことを話していないように見えるのは思い込みかしら?」

香は、あえて気にしないことにして美樹の部屋に向かった。



コンコンと軽いノックをする。

「はい?」

美樹の明るい声が聞こえて来た。

「美樹さん、今いいかしら?」

「どうぞー。」

かちゃりと扉を開けると、昨日と変わらない姿の美樹が出迎えてくれた。

持っていた本を脇に置いて、笑顔を向けた。



「いらっしゃい、香さん。」

「今日の気分はどう?美樹さん。」

花を持った香がベッドに近づきながら、美樹に尋ねた。

「薬がよく効いているせいだと思うけど、痛みは殆どないわ。ただ…。」

自分の右肩を見つめながら続ける美樹。

「ただ…?」

「ヒマなのよねぇー。体も動かしたいけど、上半身はそうもいかないし。」

「上半身って。」

「足腰は動かしてるのよ。

スクワッドこっそりしているのは、ファルコンにも教授にも内緒ね。」

きょとんとする香と目があった美樹、二人同時にぷっと笑った。



「まずは、お花取り替えてくるわ。」

美樹の様子に安心した香は、笑顔で花瓶を脇に抱えた。

「ふふ、ありがと。」

香は、洗面所で花を整えながら、美樹の元気そうな姿にどこか救われる思いがした。

やはり、大事な日に、

自分たちが原因でこんな大ケガをさせてしまった事実は変わらない。

とにかく1日でも早く傷が治り、お店に立つ美樹さんが見たいと

真剣に願わずにはいられないのだ。



「お待たせー。ちょっと香りがきついかもしれないけど…。」

香は、ベッドサイドに新しく生け直した花を飾った。

「ううん、この香り好きよ。

ピンクのバラが一番良い香りを出してるみたいね。」

美樹は、目を閉じてくんと鼻を鳴らしてみる。

「花屋さんでね、

花言葉に『回復』って言う意味がある種類を選んでもらったの。」

香が買って来た花は、イタドリにスズラン、桃色のバラ。

美樹は、その香の気遣いにじんとくるものを感じた。

「ありがと。香さん、とても嬉しいわ。それにしても花言葉って面白いわねぇ。」

花瓶を眺めながら、美樹は優しい表情になる。



「私やファルコンは、傭兵時代に作戦とかの暗号として、

花言葉を使ったことがあったけど、

あの時は、

なかなか花を愛でるっているゆとりがなかった気がするわ。」

香は、はっと美樹を見つめる。

あまり語られない彼女の過去に、

改めて今まで生きて来た世界が違っていたことを感じた。

美樹も撩と同様、幼い頃に両親をなくし、戦場で生きて来たのだ。



— 銃で撃たれたのも初めてじゃないわ。 —



そう語った美樹の言葉を思い出した。

美樹が撃たれたその時、ファルコンの気持ちはいかほどだったか、

考えると、胸が締め付けられた。



そんな香の表情に気付いた美樹は、続けた。

「今は、みんなのおかげで、その“ゆとり”を貰っているわ。香さん。」

「美樹さん…。」

美樹の微笑みに、香もふっと表情が緩む。

お互い、ふふっと小さく笑った後、香は今後の動きについて話題を切り出した。



「海坊主さんと撩は、

今日は準備で出かけるって聞いたから、一応お弁当用意しているの。」

「まぁ、ありがと!きっと喜ぶわ!」

「そ、そんな…、たいしたものじゃないからっ。で、でね。」

と照れながら続ける香。

「今晩は、私と美樹さんと教授の3人で夕食を食べて、遅くにかずえさんが戻ってくるから、

また明日夕方ここにくるわね。」

「ありがとう、香さん。」

「それで、今日はあたしが美樹さんのお風呂を

お手伝いするように言付かっているんだけど…。」

「ああ、お願いするわ。

体はかずえさんとファルコンに拭いてもらっていたけど、

髪の方は、あれからまだなのよ。

そろそろむず痒くなってきたわ。

戦場では、何日も入浴できないのは当たり前で平気だったのに…って…、あら?」



ファルコンに拭いてもらったという言葉に過剰に反応してしまった香は、

かぁあ〜と頬が染まった。

「か、香さん、大丈夫?」

しゅーしゅーと湯気を出す香に苦笑する美樹。

(本当に香さんって可愛いわぁ)

「え?あっ、ええ!大丈夫!」

と赤い顔をしながら、ぶんぶんと顔を振る香。



「そ、それでね、かずえさんの話しでは、

全治約2週間ってところで、その後リハビリを1週間かけてするんだって。

今日が3日目でしょ。

で、かずえさんがあと4日ほど実験から手が離せないみたいなの。」

「かずえさんも大変ねぇ。

私は実験とか全く分からないから、彼女の研究って未知の世界だわ。」

「免疫系が専門みたいだけど。」

「だから、ミックのリハビリにも最適な役割だったのね。」

あの二人がこのような形で出会い、心が通じ合ったのも、

何かの運命を感じざるを得ない、と美樹と香は同時に思っていた。



しばしの沈黙の後、香は続けた。

「で、あと4日は、あたしたちがここに通うから。

あとは、かずえさんが終日動けるって言ってた。あ、でも待って、確か…。」

香は手帳を見直す。

「あさっては、かずえさんが一日こっちにいるって。」

「香さん、本当にありがとね。

なんだか、冴羽さんから香さんを取っちゃっているみたいで、申し訳ないわぁ。」

また、香は沸騰状態。



「い、い、いやだわっ、み、み、美樹さんっ!そ、そんなこと全然、な、ない、からっ!」

そんなに噛んでいては、誰も信じないわと、美樹は香の反応が面白くて、

ついつい、続けてしまった。

「そんなことあるって。きっと冴羽さん、

香さんとあまり離れていたくないんじゃないかしら?」

あうあうと、言葉にならない音を発している香がちょっと気の毒になった美樹。

(少しからかい過ぎたかしら?香さんのその可愛い反応なら、

冴羽さんも過保護になる気持ちも分かるわぁ。)



美樹は、微笑みながら、また口を開いた。

「香さん、そんなに照れなくていいのよ。」

「み、み、み、美樹さんっ、

あ、あいつは相変わらずだからっ!じゃ、じゃあ、あたし食事の準備してくるからっ!」

と、高熱を出したまま、急ぎ足で美樹の部屋をあとにした。



美樹は、ふふっと笑いながら、口元に手を添えた。

「『相変わらず』じゃないことは、バレバレなのに。

ふふ、そのうち、お惚気話しを色々聞かせてもらえるかしら?」



長年、じれったい関係を続けてきた二人が、

ようやくケジメを付けて、一緒に生きる決意をしたのだ。

乗り越えなければならないことは、

これから沢山あると思うが、

きっと香が思う以上に、撩の愛は大きいと、

妹のような彼女がこれから味わう生活を美樹も心から祝福した。



(きっと、冴羽さんは香さんを闇に堕としてしまったと、

自責の念や、後悔を、きっと拭いきれないままかもしれない。)

美樹はふっと窓の外を見る。

自分たちが生きる世界を振り返れば、これから先にどんな闇がからんでくるか、

全く分かったものではない。

しかし、それをお互い理解した上での、ケジメなのだ。

決して安易な選択ではない。

それは、自分もかずえも香も同じはず。



(大丈夫よね。)



彼女には、乗り越える強さがある。

分かっていないのは当の本人たちくらいだ。

だから、無用な心配はいらない。

そんなことを思いながら、美樹はまた本を手とった。


****************************************
(8)につづく。




花は、季節外れのモンばかりで、
ハウス栽培ということにして下さ〜い。
しかし、銃創の治癒がどれくらいかかるか
まったく分からんままなので、
流れに矛盾が出てくるかもしれませんが、
とにかく、美樹ちゃん早く治ってちょーだい。

06-06 Previous Arrangements

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(6)A Previous Arrangements ***************************************************2017文字くらい



香は昼食を終えた後、食器を片付け、

洗濯物を取り込みたたんで指定席に大急ぎで移した。

戸締まりをして、買い物メモを用意し、アパートを出たのは2時ちょっと過ぎ。

花屋とスーパーマーケットに寄って、教授宅に着いたのは3時半頃。



「こんにちはー。」

呼び鈴で、撩と香が到着したことが分かると、かずえが出迎えてくれた。

「いらっしゃい。お二人さん。

思ったより早く来てもらえて驚いたわ。」

「早過ぎたかしら?」

ちょっと心配になって尋ねる香。

「いいえ、むしろ助かるわ。」

笑顔で答えるかずえ。

「海坊主のヤツは?」

撩がファルコンの気配がないことに気付いて、尋ねた。

「夕方来るそうよ。」

「了解。」



「香さん、さっそくキッチンへ来てもらえる?打合せをしたいの。」

「わかったわ!」

「んじゃ、ボクちゃん、

美樹ちゃんに挨拶してこーようっとっ……ぶっ!」

後頭部にまたミニハンマーがめり込む。

「ってーな!あにすんだよ!」

「撩、大人しくしててちょーだい。」

じろりと睨む香に、かずえは思わずププッと笑った。

「なあに?相変わらずなのねぇ〜、お二人さんは。」

「え?」

「は?」

意味深なかずえの言葉に、きょとんとする撩と香だったが、

とりあえず、3人ともキッチンに行くことにする。



「今日は夕方出かけたら、夜中には戻れると思うの。

だから、明日は午前中大丈夫だから。」

席に座った二人。

かずえは手帳を開いて、指示書を出し香と予定を打ち合わせる。

「午後は?」

香もスケジュール表に書き込みながら、続きを尋ねる。

「たぶん、今日と同じ感じかもね。

 夕食後に出かけて夜中に戻ってくるパターンね。」

「撩と海坊主さんは?明日……でしょ?」

香がやや不安な表情で俺を見る。



「俺らは、今日はとりあえず、日没後に現場入りするわ。

明日はココでメシ食ってから出発、

日付が変わる前に片付けたいんだがなー。」

撩はテーブルに片手をついて、二人の予定表を眺める。



「ミックがもう行動を始めているわ。たぶん明日の夜もここにくると思うわ。」

「ほぅ。あいつ原稿が片付いたのか。」

撩は片眉を上げた。



「じゃあ、明日の夜も、かずえさんでしょ、ミックに教授に、

美樹さんに海坊主さんに、あたしと撩とで7人分の夕食が必要ね。」

「まあ、みんなで待っててちょうだいな。俺らも夜中にはこっち戻るから。」

「撩…。」

少し八の字になった香の柳眉。

撩は、ふっと笑いながら、香の頭をくしゃりとして、出口に向かった。

「心配すんなって。ちょっくら教授の部屋に行って来る。」

片手をひらひらさせて、キッチンを出た。



「……冴羽が人前で香さんにそんなことするなんて、ものすごい進歩ね。」

「え?」

かずえがくすりと笑いながら香に言った。

「あら、気付かなかった?

単に頭に手を置いただけじゃくって、彼、指に香さんの髪の毛からませてたわよ。」

「え?!あっ…、そ、それは、そ、そのっ。」

日本語が話せなくなる香に、かずえは優しく微笑む。



「ほんと、ミックの言う通り、少ぉ〜しずつ素直になっていくみたいね。」

香は顔を赤らめながら、昨日の食卓で聞いたミックをセリフを思い出す。

くすりと微笑みつつ、かずえは続けた。

「そっ、『あいつは捻くれているから、

今まではカオリに優しい言葉一つかけてやってなかっただろうが、

一回、箍が外れちまったら、きっと本人も無意識で素直になっていくよ。

時間はかかるかもしれないけどね。』

って、すっごく得意気な顔で言っていたわ。」



多少なりとも心当たりがある香は、おのずとかぁーと赤くなる。

昼に聞いた撩の『箍がはずれた』というフレーズをここでも聞くことになり、

その『箍』が何なのか、ぼやぁと輪郭が見えた気がしたのだ。

「これからが楽しみだわ!か・お・り・さん!」

ウインクするかずえに、ますます香は赤い石と化した。



「あさっては、終日ここにいるから、香さんはお休みしても大丈夫よ。

また明々後日はたぶん、今日と同じ感じになるかもしれないけど。」

二人は、かずえの実験が落ち着くと思われる、

4日後あたりまでの流れを簡単に確認した後、

香は指示書を受け取り、食事の準備に取りかかった。



途中まで一緒に作業をしていたかずえは、時計をちらりと見て、

持っていた台拭きを軽く絞った。

「じゃあ、私そろそろ大学に行くわ。何かあったら教授に気軽に聞いてね。」

「うん!気を付けて、いってらっしゃい。」

かずえを見送った香は、まずは大量の米を研ぐことにした。

撩とファルコンに弁当を持たせようと夕食の献立と一緒にイメージしながら、

作業に集中した。



「今晩は、教授と美樹さんと私の3人の晩餐ね。」

香は、食材を整えながら、はっとなる。

また教授にヘンなことをつっこまれたらどうしよう、と

切り返しの術を持たない自分に、

食事の時の会話をどうやり過ごせるか、やや不安。

「ううー、まぁ、いっか…。なるようになるっ!」

気分を切り替えて、香はシンクに向き合った。


***********************************************
(7)につづく。




打合せタイムです。
かずえちゃんを都合のいいように出入りをさせていますが、
私の足りない脳内メモリーでは、
キャラの動向についていけず、
複数の主要キャラが同時に動くと、
こっちもあっぷあっぷです。
どっかでボロがでるかも〜。

【ロンドンオリンピック】
あっという間に閉会式。
スタイルのいい選手を見たりすると、
思わずR&Kと被せて妄想することも。
以前は、筋肉の付き方とか気にしなかったのに、
CH中毒になってからは、
オリンピックもかなり見方が変わっちゃいました〜。
撩ちゃんなんかが出場したら、
オール金を攫ってくるんだろうなぁ〜とかね。
選手のみなさん、本当にお疲れさまでした〜。

06-05 Unnatural

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(5)Unnatural  ***************************************************************** 2081文字くらい



「撩…、お昼できたよ…。」



香は少しドキドキしながら、

そっとリビングの扉を開けて、

隙間から覗いてみる。

さっきのことがあるので、

まともに顔を合わせられない。



L字型ソファーの長辺で

頭を出入り口側にして仰向けになっている撩。

愛読書を顔にかぶせたまま動かない。

両手は頭の下にある。

足音を立てずに、

ゆっくり近づいてみると、

すー、すーと寝息が聞こえてきた。

(寝てる?い、いや、寝たフリかもしんない!)

射程距離からすぐ逃げられるように身を構えた上で、

愛読書をぺりっと剥がしてみる。



「撩!お昼ご飯できたわよっ!」

まだ、すーすーと目を閉じたまま。

(たぶん、タヌキ寝入りね…。)

「スイーパーが、

こぉーんな無防備なところ、見せる訳ないもんねぇー。」

わざと大きな声で言ってみる。



「せっかく呼びに来たのに。

食べる気がないんだったら、そのまま寝てなさい!」

と踵を返そうとしたとたんに、

右手首をきゅっと握られた。

「あ!」

そのままどさっと、

撩の胸に倒れ込んでしまう。

(しまったぁぁーっ。

捕まったっ!

こ、こ、これじゃ、さっきと同じじゃないっ!)

自分の読みが甘かったことを即反省。



「食べる気あるって…。」

耳元に囁かれて香はドキリとする。

(うう〜、このやりとり、んとに心臓に悪いよ…。)

「じゃ、じゃあ、早く起きて食べちゃって!」

「それじゃ遠慮なく、いっただきまーすっ!んー♡」

さっきと同様スケベ顔で迫って来る撩に、

また脊髄反射で恥じらいミニハンマーを食らわせてしまう。

「ぐはっ!」

「あたしは、食いもんじゃないっ!」

撩の力が緩んだスキに、

香はするりと抜け出した。

「さっさと起きてちょーだいっ!片付かないからっ!」

バタンッとリビングの扉が閉まった。



「はいはい、今行きますよぉー。」

撩は、くすくす笑いながらハンマーをコロンところがし、

むくりと起き上がった。

(慣れさせるためとは言え、ちと調子に乗り過ぎたか。)

香の可愛い反応がたまらなく楽しい。

(撩ちゃん、クセになっちゃいそう〜。)

ご機嫌な気分で、

撩はキッチンに向かった。



廊下を出たらすぐに、

ミートソースとオリーブオイルの香りが漂ってきた。

キッチンでは、香がコンソメスープを用意している。

「あ、やっと来た。」

まだ顔を染めている香の表情に、

撩は笑いたくなるのをこらえる。

「は、早く食べちゃって。きょ、教授の家に行く前に、

か、か、買い物があるから。」

「はいよ。」

どもりながらの口調に、もうこっちも吹き出しそうだ、と

撩はくすくす笑う。

「な、なによ。」

「いや、かぁーいーなぁと思って。」

ボンっと水蒸気爆発する香。

持っていたオタマがコンソメスープの中にばしゃんと落下。

幸い飛び散らかりはない。



そんな彼女をよそに、

テーブルに並べられた食事を自分の方に引き寄せ、

フォークを差し込む。

本日のランチは、

ミートソーススパゲッティとサラダとスープ。

「いっただきまーす。」

撩はたっぷりパルメザンチーズをふりかけて、

わざとさっきと同じ口調で言ってみる。

勢い良くソースの絡まったパスタを吸い上げた。

仰せの通り、早く食べてあげましょうとばかり、

大盛りだったお皿はみるみる減っていく。



「りょ…、やっぱり、あんた、ヘンよ…。」

「んあ?」

対面の席について、

カップのスープをすすりながら、

香が赤くしてぼそぼそと話す。

「第一あんたが、

あたしを可愛いなんていうこと自体、

かなりヘン。

絶対あたしを他の誰かと勘違いしているんじゃないかって思うくらい、

すごぉぉぉーく不自然…。」

スパゲッティをくるくると巻きながら続ける。

「今までと違い過ぎて……、

何だか、色々慣れるのに、やっぱり、…時間、かかりそう…。」

香は、溜め息まじりで、口に最初の一口を運んだ。



そんなセリフを言わせるのは、

すべては俺の長年の言動のせいだと、

撩はまた自己嫌悪の念が沸く。

「まぁ、今までが逆に、不自然、だったんだろうな…。」

ぼそっと、食いながら言った言葉に、撩自身驚いた。

香もはっと顔をあげた。



恋人でもない。

夫婦でもない。

兄妹でもない。

正式な家族でもない。

ただの仕事のパートーナーという立ち場だけで、

お互い、命を預ける信頼を交わして来た仲。

そして、

表の世界に戻さなければという言い訳をしながら、

香の想いと自分の心から逃げていた撩。

相思相愛でありながら、

健全な大人が同じ屋根の下、

綱渡り状態に近いギリギリのプラトニックな日々。

6年8ヶ月も生活を共にして、

何もなかったほうが不自然だったのだ。



「撩…。」

「いいんじゃね、少しずつ慣れていけば。」

「撩、あんた、やることなすこと、

180度変わってるってこと分かってる?」

「もっちろん。」

わざとにやけて返事をしてみる。

「ボクちゃん、箍がはずれちゃったみたいだしぃ〜。」

「はぁ?」

フォークを持ったままきょとんとする香。

撩の言う、

箍がはずれたという意味が一体何をさすのか、

香は分かっていない。

そんな相方の表情を見ながら、

ぷっと笑う撩。

「さ、早く食っちまおうぜ。これから出かけるんだろ?」

「ううー。」

まだ、どこか納得いかない香も、

とりあえず食事を進めた。


******************************************
(6)につづく。





そうなのよ!!!仕事上便利だからと、
同居・同棲している状態で、
いい大人のあんたたちは何やってんのよ!!と
振り返れば振り返る程はがゆい時間でしたね〜。(⇒「は」が抜けてました!mさん感謝!)
「CHパーフェクトガイドブック」では、
香が401から5階、そして6階の客間へ
引越しをしてきたことが説明されていますが、
それを許し受け入れた撩の心理もまた、
嬉しさや心地良さと共に、
困惑や罪悪感も常にあったのかもしれませんね〜。
撩にとって、香は一緒に暮らすことを心から許せる
最初の家族的存在だったかもと。
最初ということは、
流れでは次に得られる家族もあると思いたくなりますよね〜。
でも、まだお子ネタは、当分当サイトでは、
捻出できそうにないです〜。
読むのは大好きなんですが〜。

06-04 Smell Of Gun Powder

第6部 A Day Of Ryo & Kaori

奥多摩から3日目


(4) Smell Of Gun Powder ***************************************************** 2739文字くらい



6階に着くと、

撩はそのまま香の両肩を後ろから押して、

脱衣所に誘導した。

「香ちゃんはこっち〜。」

「え?え?なんで?」

仕切りカーテンの前で、立ち止まり撩を振り返る。

「硝煙浴びちまってるから、シャワーで流してこい。」

「は?」

「いいから、早く行ってこいって。」

と、ポンと背中を押される。



「え?どういうこと?って、なんで着替えまで用意してあんのよっ!」

脱衣籠には、ジーパンにシャツに下着まで置いてある。

「あ、あいつっ!あたしの部屋から勝手にっ!!」

(し、しかも!あたしのお気に入りの下着を!!)

タンスをあさられるのは、

今に始まったことではないが、

伝言板を見に行っている間に

整えたに違いないこのセットに、

ますます意味が分からなくなる。



「な、なによっ、

自分だって硝煙の匂いが染み付いているって、

由香里さんの時に言ってたくせにっ。」

と、とりあえずしぶしぶ浴室に入った。

昼食の準備もあるので、手早く全身を洗って

ぶつぶつ言いながらも着替えをすませる。

ドライヤーで髪の毛を乾かすと、

リビングへ足を運んだ。



「撩、一体どういうこと?」

ソファーで横になっている撩に、

訝しがりながら声をかける。

「まぁ、こっちこいや。」

と涼しい顔をして起き上がり手招きをする相方。

香は一瞬、身が引いたが、

しかたなく撩の隣に座って、

次のセリフを待ってみた。

「……匂いは取れたな…。」

撩は、

そう言いながらくいっと引き寄せて、

当たり前のように髪に鼻を埋めた。



一方香は、

この状況に恥ずかしく照れながらも、

どこか納得がいかなかった。

「ねぇ、…あたしに硝煙の匂いがつくのは、嫌なの?」

「………。」

香を抱き込んだまま沈黙する撩は、

自分の矛盾した思いをどう説明するかしばし悩んだ。

「撩?」

「んー。いや、わかってんだけどさぁ。悪あがきだって…。」

「悪あがき?」

「おまぁさぁ、美樹ちゃんところで練習してた時は、

あっちでシャワー浴びてから帰ってくることもあったろ。」

「!!」

香の体がピクッと反応する。



「硝煙の匂いってさ、意外と残るもんでな…。」

髪に指を絡められる。

「髪や露出していた肌を洗い流しても、

硝煙かぶった服をまた着ると、匂いがまた移っちまうんだよ。」

香は、撩にバレないようにと

匂いを落としていったつもりの小細工が

いとも簡単に見破られていたことと、

撩に隠し事をしていたことが、

すでに知られていたことに、

不甲斐なさや罪悪感が胸の中で渦巻いた。



「……自分でも矛盾してるっつーのは分かってんだけどさ…。」

撩は続けた。

「こんな世界で、お前と一緒に生きていくって決めたんだ…。」

髪を優しく撫でながら、

香を自分の胸に埋めさせる。

「射撃の腕を上げる必要があるのは分かっててもさ、

お前には、

洗っても落ちないような硝煙の匂いは、

つけて欲しくなくってな。」




「………りょ。」




撩の言葉に心室心房が跳ねる。

「で、で、でも!もうあたし随分前から、トラップ使ってるから、

か、火薬の匂いは結構な付き合いよ。」

噛みながら早口でつい出た言葉。

「……俺の中では、火薬と硝煙の匂いは別もんなんだよな…。」

ゆっくりと返事をしながら、

腕に少し力を込めた。

香は、

撩の服の襟を両手できゅっと握り、胸板に頬を寄せる。

そして、少し考えた後、

すっーと鼻で息を吸い込んだ。




「……あ、あたしは、撩の硝煙の匂い、…き、きらいじゃ、ない、よ。」



ずっと一緒に暮らして来て、慣れ親しんだ撩の匂い。

硝煙とガンオイルと、タバコの香り。

こうしてお互いの距離が短くなってからは、

その匂いがより近く強く感じるようになって、

それが撩の命がちゃんとあることを証明してくれているようで。




「……なんだかね、安心する匂いだから…。」




撩は、香の言葉にドキリとして、肩が少し揺れた。

「……香。」

「ごめんね……、内緒で、練習してて……。」

香は、ここで謝っておかなきゃと、口を開いた。

「…パートナーなのに、隠し事してちゃ、だめだよね…。」

ふっと撩の呼息が聞こえた。

「あんれぇ?香ちゃーん、隠し通せると思ってたぁ?」

香は、右頬に手を添えられ、上を向かされた。

全てはお見通しという、

黒い瞳に、香はかっと赤くなる。

「りょ…。」

接近して来る撩のドアップ。

(くるっ!)

と、目をきゅっと閉じる。

そっと優しく重なる温かい唇に、

心臓がバクバクと鳴り響く。

やんわりと触れた唇は、初めは啄むライト級だったのが、

だんだん湿っぽい接触になっていく。

撩は、角度を何度も変えて、

浅く深く上唇下唇を動かしていく。




「ふっ、…ん。」




静かなリビングに、

甘い水音と息使いのみが耳に伝わる。





「……だめだ。」





「ぇ?」

そっと離れた撩は、眉間に皺を寄せて、香を抱き直した。

「このままじゃ、夜まで、待てねぇ…。」

「へ?」

どさっと音が聞こえたのは、自分がソファーに倒された音。

気付いたら、香の首筋に撩の唇が這っている。



「りょっ!ちょっ!ちょっとっ!」

(だ、だめっ!い、い、いくらなんでもっ、

こ、こ、こ、こ、こんな真っ昼間から、こんな明るいところでっ!!!)

焦る香をよそに、撩の手は香の体を撫で始めた。

「ま、ま、まってっ!りょっ…。こらっ!!」

「んー、香ちゃぁ〜ん♡。」

「待てって言ってるでしょうがぁあああ!!!!」

ドーンという音と震動がリビングに響く。

恥じらいハンマー100トンを招集させ、

これまた見事にクリーンヒット。

ソファーとハンマーの間で痙攣する撩から離れた香は、

顔を恥ずかしさで真っ赤にしたまま、

口をはっと押さえた。





「はっ、し、しまった!いつものクセでついっ…。」

とりあえず、

この場から退散したほうがいいと判断した香は、

後ずさりしながら扉に向かった。

「あはは…、撩、ごめんねー。

あ、あたし、お昼用意してくるからー。」

パタンと閉まる音と同時に、

香はキッチンへダッシュ。



撩は、

しばらくハンマーの下敷きになっていたが、

熱が冷めるのを待って、

ようやくコロンと100トンを押しどけた。

「はぁー。危なかったぁ…。」

自分の管制室がもはや機能しないことを痛感する。

(おまぁがハンマーを出さなかったら、んとに無理矢理やりかねなかったぞ。)




— あたしは、撩の硝煙の匂い、きらいじゃないよ。 —

— なんだかね、安心する匂いだから…。 —



(おまぁが、あーんなこと言うから、

元々少ない理性がぶっ飛んじまった。)

がしがしと頭を掻きながら、またごろんと横になる撩。

(でもな、

やっぱりお前から硝煙の匂いが漂うのが嫌だというのは、

間違いなく俺のエゴなんだろうけど、

どうしようもないんだよなぁ。)



矛盾を分かっていて、銃を扱わせることに、

いつ心の整理がつくのやらと、

ふぅと一息吐き出す。

撩は愛読書を顔にばさっと被せて、

リビングに差し込む昼前の日差しを雑誌の隙間から感じながら

ゆっくり目を閉じた。


*******************************
(5)へつづく。





実はですね、
高校時代にハワイに行った時、
実弾を撃つ機会がありました。
で、その時、花火とは明らかに違う火薬の匂いが漂ったのが印象的でした。
まぁ、思い込みも入っているかもしれませんが。
今、思えばもっとしっかり取材モードで、
自分が使った2種の銃がなんだったのかを確認しておけばよかったっと、
かなり後悔しています。
ソファーで撩が潰れるシーンは、
ミックを追い出してと香が撩に迫る、決闘前の昼のリビングのカットと
重ねて下さいませ〜。



【誤植発見有り難うございます!】
Aさま!やっと修正致しました!
「早く口」⇒「早口」ご指摘感謝申し上げます。
他、改行、言い回し等若干いじっております。
ご連絡本当にありがとうございました!
2016.01.28.02:18


【タイトル大間違いやんけ!】
今更修正です〜。
タイトルの「Smell Of Gun Powder」
をずーっと「Gum」としたままでしたっm(_ _;)m。
ゴム粉って何のこっちゃいですよね〜(バカバカっ)。
ご連絡くださった
ma様、本当にありがとうございました!
2017.02.13.22:49


06-03 Shooting Coach (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(3) Shooting Coach (side Ryo) ***********************************************4053文字くらい



掃除と洗濯を終え、伝言板を確認しに駅まで往復した香は、

大急ぎでアパートに戻ってきた。

リビングのソファーで寝っ転がっていた俺。

まじめ系の本に目を通していたのだが、

香の気配を感じて、いつもの愛読書に持ち替えた。

いや、別に隠すことじゃないが、なんとなくな。

一体、誰に言い訳しているのか、自分でもこの奇行に苦笑いする。



最近不穏な動きも聞かないし、伝言板はとりあえず一人で行かせたが、

情報屋から怪しい話しを少しでも聞いた時は、

ナンパという名の護衛が常。

人知れず、香を狙ったおバカを退治した数なんてもう分からないほどだ。




「撩、ただいま!依頼はなし。他に変わったこともなし!」

リビングに元気な声と一緒に入って来る香。

「了解。」

愛読書をテーブルの上に投げ、むくっと起きる俺。

「で、予行練習って何するの?」

ガラステーブルに持っていたカバンを置いて、俺の顔を覗き込む香。

「おまぁ、ローマンそのバッグに入ってる?」

「あ、うん。」

「じゃあ、それ持って地下に来い。」

「え?」

香の分かりやすい驚きがダイレクトに伝わって来る。

「特別短期授業すっぞ。」

「!!」

香は、あわててバッグ取り、そのまま持ってついて来る。



一緒に、射撃場へ降りていくと香が尋ねて来た。

「撩…、あたし、てっきり護身術からだと思ってたんだけど。」

「あー、それもいずれな。」

背中を見つめられている香の視線を感じつつ、目的地へ到着。



「撩、ミックが来た時、あんた、あたしに二度とここを使うなって言ってたけど。」

「んあ?それ、取り消し。」

「は?」

簡単に前言撤回する俺の言葉に唖然とする香。

「じゃねぇと、訓練できねぇだろ?」

俺は、返事をしながら壁面の収納から、銃弾の入った箱を持って来る。

「今日は13発だけな。」

「え?13?」

「弾は入ってんな。」

俺は耳に使用済みの弾頭をねじ込む。

香も自分用にキープしてある口径の小さい弾を耳栓に使った。



「まずは、最初に6発撃ってみろ。」

俺は腕組みして、香の斜め後ろに立ち、指示を出した。

あらかじめ香が外に出ている間に用意した新しいブルズアイ型の的がすでに、

奥にぶら下がっている。

香には、本当はマンターゲットの的は使わせたくないが、

そうも言ってられなくなるな…。

あ、そういえば、キャッツの地下は人型だったか…。

まぁー、仕方ないか。



「じゃ、じゃあ、撃ちます。」

つい『ですます調』での言葉が出てしまう香に、

ふっと顔が緩んだが、

香はそれも気付かずに、真剣な眼差しで静かに息を吐いた。

足は肩幅、脇も締めている。持ち方も問題なし。

ガァーン!! ガァーン!! ガァーン!!

射撃場に6発の銃声が響く。

「ふぅー」

と小さく息を吐く香。



「ほぉー。」

まじで驚いた。

照準を合わせたのは、ミックが来た時。

それ以来、美樹ちゃんのところで、時々練習しているのは知っていたが、

8ヶ月間で、その回数は、そんなに多くないはず。

決して十分とは言えない練習期間でここまで上達していることに、

正直衝撃を受けた。

美樹ちゃんの指導の賜物か。

そんな俺の心理は微塵も見せずに、とりあえず褒める。



「やるじゃん。円の中に入りゃいいほうかと思っていたが、

中心から、3円分にみんな当たってんじゃん。」

しかも、半分は2円分に入っている。

香は元来運動神経はいいほうだ。

鍛えたら、こちらの思惑以上に上達しそうな気配を感じた。

「あの同心円は、直径60センチだ。

香の弾は落ち着いて撃てば、直径30センチの枠には収まるってことだ。」

俺は、スイッチを押して的をブースまで戻した。

そして新たな的を付け、定位置に戻す。



それを目で追う香を見ながら、俺は自分のパイソンを取り出した。

「しかし、30センチだと、仮に肩や腕を狙ったとしても、頭や心臓に当たっちまう。」

香の肩がピクッと揺れる。

「的が絞れるように、衝撃に慣れて手ぶれを少なくしないとな。」



そう言いながら、香のローマンを取り上げて、

パイソンを持たせた。

「ええ?!」

香が俺のほうに困惑した目を向ける。

もちろん、直接撃たせたことなんてない。

唯香の救出の時に、照準を合わせてもらったが、

これは女の腕で扱える銃ではない。



「撩…。」

目を大きく開け、複雑な表情で銃と俺を見つめる。

「これで撃ってみろ。」

「ど、どいういうこと?」

この展開が飲み込めない香は、重そうにパイソンを両手で持つ。

「一度衝撃の大きい銃を撃っておけば、手ぶれが軽減される。」

「っでも!」

冗談抜きで不安な顔になった香。

「大丈夫だ。たぶん後ろにふっ飛ぶだろうが、俺が支えるから。」

「…重たい。」

本体100グラム強の重量差は、手首だけの支えだと、

ローマンに慣れた手では当然重い。



「だから、これは1発だけ。」

ごくりと唾を飲む音が聞こえる。

「下手に腕に力を入れると肩を脱臼するかもしれんぞ。」

ドキンと飛び上がる香に苦笑する。

「両手でしっかり持て。あまり狙いに長くかかっていると重心が下がるぞ。」



香は意を決したように、ふぅと息を吐いて、

すぅっとパイソンを構えた。

真後ろに立っている俺はその表情を見ることはできなかったが、

きっと射抜く強い視線で的を見ていることだろう。

想像するだけで、ぞくりとする。



香の指にくっと力が入る。

ガァーンンンン!

「きゃあっ!」

予想通り、香は弾かれて俺の腕の中にどさっと飛んで来た。

「はい、ご苦労さん。」

「いったぁー、手が痺れるぅ。こんなの当たりっこな…。」



「………。」



俺と香は、的を見て暫し沈黙。

「……当たってんじゃん。」

円の外ではあるが、的に穴は空いていた。

しかも円の近く。

いや、的にかすりもしないだろうと思っていたのが、

これまた想像を裏切られた。

たいしたもんだ。

柏木圭子の時、彼女は相当数撃ってやっと当てられた。

比較対象には置けないが、それでも最初の1回で穴を開けるとは。



「撩の銃って、こんなに衝撃が大きいなんて知らなかった。」

腕の中で、香が小さな声で言う。

「あ?」

「だって、いつも片手で軽々とポンポン撃っているんだもの。」

パイソンを俺に渡しながら膨れっ面の香。

「鍛え方が違うの!」

「あんたの腕、丸太みたいだもんね。」



香は、自分の腕が巻き付かれたときの重さを思い出しているようで、

今自分が俺の腕の中にいることに気付くと

はっとして顔を赤らめた。

あわてて、体勢を立て直そうとする香。

かなりギクシャク気味だ。

たったこれだけで、恥ずかしがるとは、んとかぁいんだから〜。



「じゃあ、次はまたローマンで撃ってみな。」

まじめな顔を作りつつ次を促す。

「は、はい。」

本当に生徒のような返事に、俺も調子に乗ってきそうだ。

受け取ったローマンに装弾し構える香。



「あ、軽く感じる。」

「油断するな。」

「はい。」

脇を締め直して、足も踏み直す。



ガァーン!ガァーン!ガァーン!



さっきと同じ6発を連続で撃ち込む。

硝煙の匂いが濃く立ち上る。

「え?」

「こりゃ、効果抜群だな。」



同心円の2円分に全て弾痕は収まった。

驚くことに、かなり中心に集中している。

「直径20センチに縮まったぜ。」

明らかに、ついさっき撃った成果とは違う結果に、

香は呆然としている。



「うそ…。」

「うそじゃねぇって。」

ローマンをじっと見つめ、また的を見る香。

「……たった1回、撩のパイソン撃っただけで?」

「ま、こんなもんじゃね。」

ゆっくり腕を降ろして、ふーと肩で息を吐く。

「……信じらんない。」

薬莢をパラパラと落とす音が響く。

「世界一のスイーパーに指導してもらってんだ。成果が出て当然だろ。」



本当に特別短期授業の名の通り、

短い時間で香にとって大きなステップを踏ませてしまった。

複雑な気分だ。

上達して欲しいような、して欲しくないような。

いや、俺たちの関係が変わった以上、上手くなってもらわなきゃならんのだが、

どうもまだ心のどこかで、なんかひっかかってんな。



香も俺も耳から弾頭を抜き取り、銃弾の入った箱の横に置いた。

「だが、香、忘れるな。…お前には、

人を殺めるようなことは絶対にさせない。」

俺は、あの廃ビルの屋上で伝えたことを繰り返す。

彼女のローマンを取り上げて、ブースのテーブルに置きながら、

腰をくいっと引き寄せた。

「そのためには、ある程度正確に撃ち込めるようにならなければ駄目だ。」

「りょ…。」

そのまま香の細い体を抱き込んだ。

服越しに困惑が混じった緊張と照れが伝わってくる。



「相手を生かしつつ、戦闘能力を奪う方法はいくらでもあるが、

殺してしまうより、そっちのほうが格段に難しい。 

銃もナイフも数センチ違うだけで絶命させてしまう。」

香の体がぴくりと強張る。

「そんな間違いが起こらないように、俺がしっかりコーチしてやる。」

「撩…。」

茶色い猫毛に指を通す。

硝煙を浴びた香の髪の匂いが、沈めていた後悔の念を引っ張り出してきそうだ。



「授業料は高いぞー。」

自分のもやもや感を勘ぐられまいと、おふざけモードで言ってみる。

「はぁ?これって有料なの?」

「まーさか、ンな訳ねぇだろ。」



きょとんとする香には皆まで言おうか迷ったが、

ひとまず『授業』を終えることにした。

「今日はここまで!」

香の両肩に手を乗せ、名残惜しいが身から離す。

「あ、はい。」

まだ『ですます調』で話す香は、

慌てて落ちた薬莢を拾い、ダストボックスへまとめて入れ、

ローマンに充填し、弾の入った箱を素早く元の場所に戻した。

射撃場の使用は一時禁止していたが、

銀狐の時以来、銃火器の管理は任せていたので、

てきぱきと勝って知ったる動きで、後片付けをした。



「的はどうすっか。」

俺はモーターのボタンを押して戻ってきた穴の空いた的をぴっと取った。

「記念に、取っておこうかな…。」

いつもはすぐにゴミ箱行きであるが、

初めてパイソンで開けた穴1つプラス6つの覗き穴が出来た的を

香はそのまま受け取った。

「じゃあ、上がるか。」

「はい。」

まだ、生徒気分で返事をする香が可笑しくて、

つい、ぷっと笑ってしまった。

「なによ。」

「べぇ〜つにぃ。」

香の肩を押しながら、

射撃場の照明を消し、防音扉を開けて、一緒に地下を後にした。


************************************
(4)へつづく。





カオリン「ですます調」の自覚ナッシングです。
香が銃を扱うことに、撩もかなりの心理的な揺れがあると思います。
そもそも、香が人を傷付けることそのものに大きな抵抗を持っていると思いますが、
身を守るための手段までは、
なんとか許容範囲と思っているかもしれません。
原作では、バズーカで敵を気絶させる無意識のスキルがあることが表現されていましたが、
香が銃で実際に人に当てたシーンはゼロだったはず。
そんな彼女が、いつか自分の銃で人を撃ち当ててしまう未来を撩がどんな思いで、
受け止めるのか、これは安易な言葉では言い尽くせないかもしれません。
しかし、香は、きっと撩を守るためなら、
例え相手が絶命しても引き金を引くことはためらわないでしょう。
黒蜥蜴の時に、反射的に乱射した彼女の心理を思うと、
自分よりも撩の命というのは、変わらないコアなのかもと。
ただ、香自身も自分が人を殺めてしまったら、
撩の背負う苦しみがいかほどかは、十分理解していると思いますので、
撩の訓練でちゃんと急所を外せる技術を身につけることでしょう。
カオリン、基本素質はあんのよ。
ミックのコーチの時に、短時間で集中してど真ん中当てたしね。
だからAHの射撃はヘタだった設定は、どーも納得いかん。

06-02 Breakfast (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(2)Breakfast (side Ryo) *********************************************************2307文字くらい



トイレ経由で洗面所に行き軽く顔を洗い、口を漱いでから、ヒゲをそる。

なるべく音を立てないように、

首にタオルをひっかけて、キッチンへ向かう。



静かにそっと扉を開けてみる。

テーブルの上には、

焼き上がったばかりのトーストとハム付きのスクランブルエッグ。

流しでサラダを準備している香の後ろ姿をロックオン。

いつものジーパン姿に、トレーナーでエプロンを纏う。

俺は、気配を消してゆっくり接近する。



包丁は使ってないな。

はずみでどこに飛ばされるか分からんから、

これはちゃんと確認しておかんと、ケガさせちまうかもしれんし。

真後ろに立っても、まだ気付かない香。

こりゃ気配を読む訓練もしっかりせんとなぁ。

香の匂いが鼻腔に流れ思わず顔が緩む。



その刹那、香の肩がピクッと動いた。

同時に、自分の両腕をひょいっと香の胴に絡ませた。

「きゃああっ!!」

シンクに、ちぎっていたレタスが舞って散乱する。

まぁ、なんとも愛らしい声で。

そのまま香の右肩に顔を埋める。

より強く感じる香の持つ心地良い匂いが脳を刺激する。



「ちょっ!ちょっとっ!な、な、なにすんのよ!急にっ!」

真っ赤になって振り返る香の心拍が早くなっているのが分かる。

「朝飯食いにきた〜。」

「け、気配消して突然ヘンなことしないでよ!

あーあ、レタスもっかい洗わなきゃあ。」

「あー、これ気配読む訓練つーことでぇー。」

鼻を香の首筋にすりつけながら、言ってみる。

「ひゃ!」

せっかく拾いあげたレタスがまた手元からこぼれ落ちる。

「香ちゃん、感じやすいのねぇ〜。」



香のヘソの位置でクロスさせた腕のさらに力を込めた。

とたん、顔面に衝撃が来る。

いや、来るのは分かってはいたんだが、長年の習慣でよけられないんだなこれが。

べしっという音と同時に、視界を遮っていたのは、

ハンマーでなく鍋だった。

「邪魔しないでちょーだい!さっさと席について食べちゃって!」

顔は照れで赤くなりながらも、

いつもの香のセリフにどこかほっと安心する。



「し、しどい…。ボクちゃんはカオリンのために…。」

スコーンと飛んで来たのは、今度はミニハンマー。

顎にクリーンヒット。

「食事の支度、邪魔するのがあたしのため?」

じろっと睨まれる。

「しゅびばせん…。」

落ち込んだフリをして、とぼとぼと大人しく席に座る。



何にもない時は、昼前までベッドでうだうだしていることが多いが、

こうして朝食をまともな時間に香と2人で食うことも、

依頼人がいる時以外は、

割合としてはかなり少なかったかもしれんな。

遅く起きて来るとだいたい朝昼兼用の飯になるし。

おおかた、ラップをかけられて、一人で温め直し、

伝言板確認と買い物をしに行った香を待つパターンが日常を占めていた。



そんなことを考えながら、トーストを手に持って齧りつつ、

テーブルに置かれている新聞に目を通す。

国際面に小さくクロイツの強制送還の記事が載っていた。

これでヤツはシャバには二度と出られないだろう。



「さ、食べよ。」

サラダとドレッシングを用意した香も席について、

フォークを手にとった。

「いっただっきまーす。」

さっきのやりとりからしても、

至って健康そうだ。疲労も殆ど残っていないようだな。

新聞越しに、香の健康チェックで一安心する。



「おまぁ、伝言板見に行ったあと、昼前に戻ってこれるか?」

「え?た、たぶん、買い物は午後で大丈夫だから、

 行ってすぐ帰れると思うけど。な、なんで?」

「教授んちに行く前に、

ちょぉーっとだけ、訓練の予行練習しよっかなぁーと思ってさ。」

はぐはぐと玉子とハムを口につっこみながら、

伏せ目で言葉を返す。



香の目が大きく開く。

肩から緊張する様子が対面から伝わって来た。

まぁ、そりゃそうだろうな。

こんなことを言うのは初めてだからな。



「うん、分かった。すぐ戻ってくるわ。」

想像以上に、まじめな返事を耳にして、

なんだかこっちまで緊張してきちまった。

「じゃ、じゃあ早くやること片付けないと。」

と、香はパクパクと食事を進めた。



「撩、パンのおかわりは?」

「ああ、頼む。」

自分の分をある程度食べ終わった香は、

再びトースターに食パンを入れ、食器をシンクで洗い、

コーヒーの準備も始めた。

ミルを挽く音が心地良い。

豆は、美樹ちゃんのところと同じもんのはずだが、

煎れる人間が違うと、微妙に味も違ってくる。

なんだかんだ言いながら、

何年も慣れ親しんだ香の煎れてくれたコーヒーの味が一番旨く感じる。

って、こーゆーこと、面と向かっちゃ言えないよなー。



「はい、どーぞ。」

コーヒーと焼き色のついたパンが同時にやってくる。

「サンキュ。」



一般的には、当たり前の朝食の風景かもしれないが、

こんな日常は、槇村と香に出会うまで自分の時間の流れの中には、

ありえなかったものだ。

この「普通で当たり前の日常」がいつ壊れるか分からないのが、

裏の世界の常識とは言え、

表で暮らしていてもそのリスクは決してゼロではない。

それでも、いつ命を落とすとも分からない、闇の住人に、

こんな家庭的で穏やかな空気を与えてくれたのは、槇村と香だ。



お前とこうして過ごせる時間が、

俺にとってどんなにも価値あるものか、

お前はきっと分かっていないだろうな…。



自分の目の前で、コーヒーを飲む香に、つと視線を流す。

ふっ、まだ緊張してやがんの。



「あ、あたし洗濯と掃除してくる!」

コーヒーを飲み終わった香は、自分のカップをさっと洗い、

慌ただしくキッチンを出て行った。



「さぁてと、特訓の前に準備しとくか…。」

俺もさっさと食事をすませ、洗いもんを片付ける。

ばたばたと忙しく動き回る香の気配を感じつつ、

伸びをしながら、今日の時間の使い方に思考を巡らせた。


*******************************
(3)へつづく。




朝食としては、奥多摩から2回目の食事シーン。
ああ、1回目も卵料理だったわ…。

06-01 Morning Of The Third Day (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori (全15回)

奥多摩から3日目


(1)Morning Of The Third Day (side Ryo)*****************************************2227文字くらい



海坊主と美樹ちゃんの結婚式から3日目の朝。

先に目覚めていた俺は、腕の中の香が覚醒する気配で、

目を開けた。

「……ん。」

なんともまた可愛らしい声を出すもんだ。



まだ目を閉じていて欲しいような、

まだ起きる時間が来て欲しくないような、

まだこのままでいたいような、

でも、その目蓋が開くのが待ち遠しいような、

早く、自分を呼ぶ声を聞きたいような、

なんとも矛盾した気持ちが沸き上がり苦笑する。



俺の右肩口を枕にしたまま、向かい合って横になる香。

目が覚めて隣に女が寝ているなんて、

用が済んだらさっさと部屋を出て行くのが当たり前だった頃は、

殆どあり得なかったことだ。



ああ?冴子に酔い潰された時?

ありゃフェイクに決まってんだろっ。

騙されると分かった上で、

もっこりなしを承知で芝居に乗ってやっただけだっ!

槇村の大事な連れ合いのためになっ!

だいたい、あいつが酔いつぶれた男を一人で運べる訳ないだろっ。

酔ったフリでぜぇーんぶ、計算済みだったんよっ!(読者に言い訳中)



なんてことを考えていたら、

香の目蓋が微かに震えた。

その様子を見つめながら、そっと左手で茶色いくせっ毛を撫でてみる。

手触りが伝わったのか、思いの外早い動きでパチッと目蓋が開いた。

大きな瞳とパチンと目が合う。

「おはよ。」

髪をそのまま撫でながら朝の挨拶。



「………。」



香は、返事が出来ないまま、大きな目を見開いて、固まっている。

目蓋だけが、パチパチと忙(せわ)しく瞬く。

「香ちゃん?」

名を呼んだとたんに、香の顔が瞬時に全面朱色に染まった。

体もピキーンと硬くなる。



おいおい、まだこの状況に慣れない?

その姿が可愛くて、前髪をかき分け、額に唇を押し付ける。

「おはよ。」

もう一度言ってみる。

さらに石化する香、体から水蒸気が吹き上がる。

「ぁ、…ぉ、ぉ、は、よ…。」

体温39度ってとこか。

腕の中でかっかしている香が愛おしく、両腕で柔らかく抱き直す。

もうちょっと、こうしていたいんだがなぁ。



「なんか、…ヘン……。」

「あ?何が?」

腕の中で香がぼそっと言った。

「だって、……いっつもあたしが、撩を起しに来ていたのに…。」



ふっと顔が緩むのが自分でも分かるくらい、にやけてしまった。

確かに『あれ』以来、元気な香の声で叩き起こされることがまだない。

あれはあれで、

結構好き好んで起されるのを待っていたりしていたんだがな。



「まぁ、一緒に寝てりゃそうなるわな。」

弛み顔がバレないように、さらりと言ってみる。

また体温があがる香。

おまぁ、どこまで上昇させる気だ?



「い、い、今、な、何時?」

ベッドサイドの時計をちらっと見る。

「7時ちょい過ぎ。」

「やっぱり、…ヘン。」

「は?」



同じ言葉を繰り返す香にちょっと驚く。

「だって、この時間に、起きている撩とまともな会話していること事態が、変。」

「へ?」



香は、頬を染めたまま、眉を寄せて上目使いで続ける。

「だって…、こんな時間帯で撩が家にいる時は、

朝帰りで酔って訳分かんないこと言っているか、

いびきかいて寝ているかのどっちかしかなかったもん。」



まだ、変化に慣れないまま、今まで染み付いてしまった数々の習慣から、

違和感を拭えない香のささやかな訴え。

「んー、まぁ、その通りかもなぁ。」

否定は出来んと、同意の返事をする。



「っあ、あたし、も、もう起きなきゃ。」

顔を赤らめたまま、腕から抜けようとする香を、

つい引き止めてしまった。

「もうちょっと寝よぉ〜。」

わざと甘ったれた猫撫で声で、抱きしめ直す。



香は目を開いてびっくりするが、

照れながらも抵抗を始めた。

「だ、だめっ!これから起きてすることが沢山あるのっ!

だ、だから、は、は、放してちょーだいっ!」

「やだぁ〜。」

と駄々をこねる真似をする。

とたん、スコーンと10tハンマーが顔面にヒット。

「がっ!」

そのスキにするりとベッドから抜け出た香。

正確には、逃がしてやったというところだが。



「と、とりあえずっ、あたし、さ、さ、先に降りるからっ。」

まだ、どもりながら赤面している。

「食事出来る頃には、ちゃんと起きて来てよっ!」

とパタパタと部屋を出て行った。



わざと食らったハンマーをころんと転がす。

ふっと笑みを漏らしながら、

両手を後頭部で組み、ばさっと枕に仰向けになる。



『あれ』から、香と向かえる目覚めは3日目であり4度目であり、

あ、いやソファーの膝枕を入れたら5度目か。

その度に、表現し難い満足感を得ている自分に、

昔だったらありえないと、思わず過去と比べてしまう。

目を閉じ、先ほどまでの感触を思い出す。



愛おしい。



その細く、柔らかで、華奢な体に、

いったいどれほどのものを抱え込んでいるのか。



早ければ、海原戦の後には、

すでに薄くなっていた壁を崩すのには十分な条件が揃ってはいた。

ただ、香の一時的な記憶喪失につけ込み甘えて、

それをだらだらと先延ばしにしたのは、紛れもなく俺。

そのために上乗せされた時間は、きっと香も相当苦しかったはず。



お陰で、俺たちの間にあった壁はさらに厚みを増してしまった。

完全な自業自得だ。

分かっていたのに、関係を崩すのにお互い怯え、逃げていた日々。



「まぁ、ゆっくり穴埋めしていくさ…。」



もう手放せやしないのだから…。



トーストが焼ける香りが、かすかに漂って来る。

「さて、そろそろ行きますかね。」

俺はとりあえず、頭をぼりぼりかきながら、6階に降りることにした。

今日はどんな1日になることやら。


*********************
(2)につづく。





第6部スタートです。
って今回も15回もあんのかっ!!
奥多摩から3日目も慌ただしい1日になりそうです。

05-15 Pillow Taik

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(15) Pillow Talk ****************************************************************4345文字くらい



香は、シャワーを終え、

キッチンで翌朝の朝食の仕度と、

今日の午前中にし損なっていた片付けを進めていた。



「ふぁ〜あ…。」




無意識に欠伸(あくび)が出る。

いつの間にか日付が変わる直前。

「明日は夕方から教授宅だから、

それまではこっちの家事が出来るわね。」



そこへ、

撩がチャッと扉を開けた。

「俺、シャワー浴びてくるわ。」

そう一言告げると、

香の返事を待たずに、

さっさと目的地に向かってしまう。

香が浴室にいる間に、

ミックへ連絡し、武器庫へ行き、

自室で衣装チェックを超特急で終わらせて、

6階に来た次第。

(シャワーも、とっとと終わらせよう。)

早く香とゆっくりしたいという思いで、

おのずと素早い行動になっている次第。




「あれ?もう行っちゃった?」




と振り返ったら

いなくなっていたので、

空耳だったかしらと

勘違いしそうになるくらいの、

短いピットイン。

「まぁ、いいわ。コーヒーでも準備しておきましょうかね。」

香は、一通り台所仕事が済むと、お湯を沸かし始めた。

ミルから挽くコーヒーは我が家の定番。

(アニキと暮らしていた時は、お茶が多かったなぁ。)

ふと思い返す10代の日常。



二十歳の誕生日から人生が変わったと言ってもいいくらいの

大きな転換期を経て、

あっという間に、6年以上が過ぎた。

あと4ヶ月そこそこで、7年目となる。

その間に、

こんな風にコーヒーをいれること数知れず。



思いを寄せる人のために、

コーヒーをいれられることそのものが、

実はものすごく幸運なことのだと言い聞かせ、

溢れそうな欲を押さえながらの日々。

そして唐突に迎えてしまった人生最大級の節目。




まだ、信じられない。




「ふぅー。」

小さく息を吐く。

お湯を待っている間に、

椅子にかけていたタオルで、

まだ水気の残る髪を包んで揉んだ。





— それとも、一緒に浴びるぅ? —





突然、

さきほど撩の残したセリフが頭に浮かんでしまった。

「や、やだっ!」

シャワーを浴びている時は、

明日の朝食のメニューをどうしようかとか、

教授宅で作る夕食の予定なんかをイメージしていたので、

すっかり忘れていた。




「だ、だ、だめっ!絶対だめっ!は、は、恥ずかし過ぎる!」




香はタオルに顔を埋めた。

頭から蒸気が上がる。

いらぬ想像をしただけでこの調子だ。

もし『そんなこと』になったら、

羞恥心で即死するかもしれない。





「……はぁ。」




香の心境と連動するように、やかんが高く鳴いた。

「あっ…と。」

立ち上がって、コンロの火を緩めると、

半開きの扉からかすかな物音が聞こえた。

ちょうどいいタイミングかもしれないと、

コーヒーを2人分いれ、

リビングへ運ぶことに。




カップを持って、キッチンの電気を消し、

目的地に着けば、

ガラステーブルにコーヒーをそっと置いた。

自分も腰を下ろしたところで、

撩の登場。

Tシャツとスウェット姿。

「あ、寝る前だけどコーヒー飲む?」

「ああ、サンキュ。」

若干湿った髪が色っぽく見えたのはお互い様。

撩は差し出された

いつものコーヒーカップを受け取りながら、

香の右横に遠慮なくドサリと座った。



以前だったら、

来客時以外には

隣り合って座ることは殆どなかったソファーで、

L字型の長辺側に並んで腰を下ろしている。

その距離でさえも、

香はこっ恥ずかしく、撩と目を合わせられない。

それをごまかすように、

両手でカップを包んで

顔を伏せがちにしてコーヒーを啜(すす)る。



その一方で、

緊張しながらも、

自身の五感が色々と拾ってしまう。

リビングに漂うコーヒーの香りと、

風呂上がりの石けんやシャンプーの香り。

左隣りから、

すっと液体が流れる音と、

こくりと喉が動く音がする。

ふぅーと息を吐き出すかすかな空気の流れさえも感じた。




「……やっと、落ち着いたな。」




左手にカップを持ち、

右手はソファーの背もたれにひっかけ、

深く体を預けた姿勢で座る撩から

まずは言葉が出た。

「う、うん。」

これは、素直に共感できる。

なんだかんだ言いながら、

本当に濃密で慌ただしい1日だった。




香は、

コーヒーの馥郁(ふくいく)とした芳香をすぅっと鼻腔に導いた。

疲れ気味の体と頭が少しクリアになった気がする。

コーヒーの香気成分に浸りながら、

少しずつ喉に流す。

そんな香の飲む早さに合せるように、

撩ものんびりカップを傾けた。



「ふぅ。」



底が見えたコーヒーカップを

コトリとテーブルに置くと、

それを待っていたかのように、

ふわっと撩の腕に抱き込まれた。

腕をまわすと同時に、

持っていたカップを当たり前のように

その隣に並べる。

「あ。」

「お疲れさん。」

さっきと同じ優しく柔らかい声が降って来る。

香は、かぁーと赤くなりながらも、

そのまま撩の腕の中で身を委ねた。




「ん……。」




心地いい。

感触が、温度が、匂いが、その全てが心地いい。

撩が自分の髪の毛に顔を寄せているのが分かる。

頭皮に感じる鼻からの呼気が

妙にくすぐったい。




「……もう、今日はやることないんだろ?」

「ぅ、うん、た、たぶん。」

浸っていたところに突然の質問、ドキリとする。

「じゃあ、寝るか!」

ふっと体が浮く。

「えっ!」



気付いたら、またお姫様抱っこ。

すでにリンビグの電気が消され、

廊下を闊歩中。

まるで瞬間移動のような素早い動きに

驚き声もでない。

競歩のようにすたすたと歩く撩は、

あっという間に7階の自室に着いた。




部屋は暗いままで、

かすかに外の人工的な光が漏れ入るくらいの

青みがかった照度。

「はい、到着ぅ〜。」

そう言いながら、また『あの時』のと同じように、

そっとベッドの奥側へと香を降ろした。

すでに全身真っ赤っかの香は、化石寸前の状態。

くくっと笑う撩は、

そのまま一緒に横になり、香を引き寄せた。





「んなに硬くなるなって…。」

「そ、そんなこと言われてもっ。」




器用に体を寄せられ、

いつの間にか

撩の左肩を枕にする形で

体を密着させている自分に気付き、

硬直は増すばかり。



ここに寝かせられたってことは、

昨日は見送ってもらったけど、

またあのようなことが待っているのだろうかと思うだけで、

恥ずかしさで身が動かなくなる。




「……明日、頑張ってもらおっかなぁー。」






「……え?」

「だから、体力温存しとけ。」

そう言いながら、横抱きに香を腕で包む撩。

(は?明日?頑張る?体力温存って?)

『何を』『何のために』と明確に言わない撩の言葉に、

香は、きょとんとした目で顔を上げた。



「今日は朝からハードだっただろ?」

視線が合った撩の口からそう呟かれた。

「そ、そう言われてみれば、ね。」

確かに、

もうそのまま引き込まれそうなくらいの

強烈な睡魔がそこまで来ている。

撩の左手がゆっくり香の髪を撫でる。

それだけで、

胸部から心臓の形がそのまま飛び出てきそうになる香。



「おまぁ、このまま寝たら、明日の朝寝癖だらけになるぞ。」

ドライヤーで乾かし損なったややウェットなくせっ毛に、

撩の指が絡まる。

眠気と戦いながらの返答。

「……りょ、撩だって、まだちゃんと、乾いてない、じゃない?」

「じゃあ、二人とも起きたら寝癖だらけだな。」

香は、目を閉じ髪の毛に触れられている感触を

くすぐったく感じながら、照れを隠しきれない。

「んー、も、もうこの状態じゃ、

ドライヤーで乾かしにいくのも、面倒ね。」

自分で言った、『この状態』という単語に、

あっと、指先で口を押さえ、勝手に赤面する。




すると、

ふっと鼻から息が軽く出る音を感じた。




「……お前と、こんなふうにピロートークできるなんてな。」




優しく甘い声に、またドキリとして目が開く。

「ピ、ピロー?」

近過ぎる撩の顔にまたかぁーと体温が上がっていく。

「そ、ピローは枕のこと。トークは会話。つまりベッドで交わす会話のこと。」

撩は目を閉じながら、そっと香の鼻先に唇を寄せた。

「ひゃ!」

香の肩がピクッと上がり、瞳がきゅっと閉じられた。

その目蓋にも撩の上唇と下唇が薄く開いたまま滑って行く。




「……ずっと、こうして、触れたかった…。」




小さく掠れ気味の声で、つい漏れ出た本音。

撩の左手は相変わらず髪を優しく撫でる。




「……ずっと、触れてはいけないと、思っていた…。」





小声で更に続く、

撩の偽りのない呟き。

長く太い指が香の前髪を掻き揚げ、

額に唇が降ってくる。




「りょ……。」



撩も相当に苦しんでいたことを

屋上で聞いた言葉と共に思い返す。




「……あ、あたしも、…ずっと、…そう思ってた。

…今までの関係を、

…その、…壊すのが、すごく、……怖くて。」

香の声がさらに小さくなった。

「……自分の、気持ちを口に出したら、

もう、…ここに、いられなくなるんじゃないかって、

だ、だから、ずっと…、ずっと…。」



そこまで言ったところで、

撩の温かく柔らかい唇が、

香のそれをそっと塞いだ。

「んっ…。」

ミドル級のやや湿っぽい口付けを暫し続けた後、

そっと唇を離すと、撩は香の耳元で囁いた。




「……ずっと、一緒だって、言っただろ?」



赤くのぼせた香は更に体温を上げてしまい、

頭もぼんやりしてしまう。

「んと、おまぁはよく赤くなるなぁ。」

そんな香を見つめながら、くすりと笑う撩。

「しょ、しょうがないでしょっ!」

目を閉じたままそっぽを向こうとする香は、

そのまま撩の胸に頭を押し付けられ、

身動きがとれなくなった。

太い足も自分の両脚にからんでくる。



「りょ…。」



丸太のような太い左腕も、

自分の脇腹から腰回りに巻き付いている。

(ひゃあ…、大きなヘビにからみつかれているみたい…。)

密着度が高くなり、ますます照れが沸き上がるが、

同時に、撩の匂いと体温と心音に、深い安心感を得て、

さらに目蓋が重たくなってきた。



もう睡魔が舞い降りる直前と感じた撩は、

ふっと微笑んで小さく言った。

「……おやすみ。」

「ぇ?……ね、寝て、ぃぃ、の?」

とおずおず聞いてくる香が可笑しくて、

ついくくっと笑ってしまった。



「だ、か、ら、明日、頑張ってもらうって言ったろ。だから今日は休め。」



香は、

さっき分からなかった『何を』頑張るのかという目的語が、

今の撩の言葉でなんとなく理解でき、

またボボッと赤くなる。

その意味に気付かなかったフリをするのは苦しいかもと思いつつ、

小声で言葉を返した。



「…ぅん、ぉやすみな、さぃ…。」



香は、そのまま抵抗もなく

撩の腕の中ですーと眠りに落ちていった。



撩は、

まだ右手で香の髪の毛を撫でている。

鼻先をくせっ毛に埋めて、

その感触にじっくり浸る。

「撩ちゃん、しゃ〜あわせかもぉ〜。」

ぼそっと口をついで出てしまった言葉に、

はっとなり、

慌てて香が起きていないかを確かめる。



(ほっ、しっかり寝てるぜ。)



気持ちは、

2回目のもっこりタイムを楽しみたいところであるが、

初貫通から2日はインターバルを置きたいと勝手に決めつけ、

教授宅での働き振りからも、

香の疲れはいつも以上のはずと、

今晩も抱き込んで休むだけと決心していた撩。



一緒にベッドに寝るようになって、

やっと3日目。

こうして触れ合っているだけでも、

言い様のない満足感を得られる。




「んと、おまぁは、すごい女だよ…。」




小声でまた本音が零れる。

もちろん聞こえていない香は、

すーすーと静かに寝息を立てている。

再度、香の髪にキスを落とす。




「……ずっと、……傍にいてくれ…。」




抱き直す腕に少し力を込めて、

そのぬくもりを確かめながら、

撩も静かに目蓋を閉じた。


***************************************
第6部(1)へつづく。





自主オアズケです。
実はそーとーガマンしていますが、満足もしているおかしな心境。
このあたりの空気もシツコイですが、
海原戦前夜の二人の雰囲気を重ねてもいいかもなぁ〜と。
だって、ベッドのそばでハグですよ〜。
あの二人がっ。
冷静に思い返すと、かぁーなりすごいシーンかも。
よく朝ベッドの上にいたりするしぃー。
という訳で、やっとこさ第5部終了でございますぅ〜。
次は奥多摩から3日目が始まります。
いつ、美樹ちゃんのお店復活まで辿り着くんだろうぅぅ。
こんな超鈍行の時間軸だと、飽きちゃうわよねぇ〜。

【ロンドンオリンピック】
カオリ、リョウと読みが同じ人がアナウンスされるだけでも
うれしくなってしまうぅ〜。

【今更修正】
煎れる⇒いれるに訂正巡礼中。
Sさんお知らせ感謝!
って、今ソチ冬期オリンピックの最中だし…。
2014.02.12.00:05

【今更修正】
自分で言ったこの『状況』を
自分で言ったこの『状態』に修正しました。
他若干改稿〜。
mさんありがとうございました!
(1年以上前に御連絡を頂いてましたのに〜)
2017.02.13.22:19



プロフィール

Author:きまりも
since 2012.03.31.

中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。

ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



アンソロ完成!お疲れさまでした!

やっとまともに表示できたっ!2013.12.15

かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: