08-12 Wait Ready

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(12)Wait Ready *****************************************************************1609文字くらい



ランドクルーザーは、大井埠頭の敷地内で停まった。

大きな車体であるが、

下見の時に駐車しても目立たない場所を見つけていたので、

そこに滑り込ませる。

ちょうどいい角度に駐車すれば、埠頭が見渡せる場所だ。



いつものスタイルの2人は車内で待機。

撩もファルコンも普段より、かなり多めに弾丸を備えてはいるが、

見た目では何を持っているか判らない。

撩はパイソンにサイレンサーをきりきりと音を立てながら装着した。



「おい撩、お前ノクトビジョン使うか?」

「あ?いやいい。動くのにかえって邪魔だ。」

「単眼式で腰に差せるヤツだ。倉庫の中だと光源は期待できんぞ。おれはなくても同じだがな。」

「んじゃ借りとくか。」



撩は細いペンライトのような金属の筒をベルトの腰にひっかけた。

いつもやっている跳弾で火花を散らして騒々しくしてしまうのは、

前半戦では作戦上避けた方がいい。

しかし気配を消す訓練をされていない連中が多いという情報もあり、

目を閉じていても場所は判るだろうと、

撩は、ノクトビジョンは余程のことがない限り出番なしと見込んでいた。



既に南ガルシア行きの船貨物も埠頭に着岸している。

9時台、まだ変化はなし。

闇の中、沿岸の人工的な営みの光が海との境界を飾る。

車内にまでやや強く感じる潮の匂いと船のオイルの匂い。

微かに岸壁に打ち付ける波の音が聞こえる。

今はいたって静かで平穏な埠頭が、もうすぐちょっとした戦場となる。



「撩、来たぞ。」

「ああ。」



その2人の声からやや経って複数のエンジン音が聞こえ出す。

10時直前、

埠頭にハイエースタイプがぞろぞろと十数台入ってきた。

広いアスファルトの一角にランダムに停められていく。



「なんなら、大型バスでくりゃいいのになぁ。」

撩が寄り目でにやつきながら呟く。



1台に12人前後乗っているとしたら、ここで軽く100人オーバー。

ここまでは情報として想定内。

バラバラと黒服の男たちが降りて来た。

ベタな姿に苦笑する。

みなお揃いで武器は懐の中らしい。

アングロサクソン系とアジア系人種が入り交じる。

指揮指導をしている男が1人。

それぞれが配置に付くため埠頭に散らばり始めた。

数人が船に続くタラップを足早に昇っていく。

国力を左右するブツを運ぶとあって、奴らの緊張感が埠頭に漂う。



他の船舶が入港しない時間を狙っての動きであることは承知済み。

港湾関係の職員も、

この日の積み荷の上げ下ろしが丁度端境の時間で、

若干手薄な状態。

そのタイミングにさっさとコンテナを積んで出航しようという目論みに、

いささか稚拙さも感じる。



船からも黒服の陰が甲板に増えて来た。

港に100、船に50、ざっと150人の見張り役がそれぞれ配備につく。

コンテナはまだ到着していない。

コンテナトラックが到着する前に、

陸側の雑魚を少なくとも半分は黙らせておきたいと、撩は計算を巡らす。

しかし、みな無線機持ち故、

異変を勘付かれるのは相応に早いだろう。



「撩、マイクだ。」

「ああ、さんきゅ。」

ファルコンは、肌色のイヤホン兼マイクを撩に渡した。

耳介と耳穴で固定される超小型無線機。

ほんの数センチだけ、マイク用の受話器が伸びている。

これで、ファルコンと別行動しても闘いながら情報交換が可能だ。



10時過ぎ、トレーラコンテナトラックが入って来る。

コンテナの長さ約12メートル、40フィートの大きなタイプだ。

「ん?3つ分乗っけてやがる。」

聞いた情報は2台。1台余分にある。

事前情報通りにいかない話しは珍しいことはない。



(あれに乗せられる前に、海へ捨てんとな。

ちょっともったいない気もするが、

粗悪な品だというから、海水に一晩浸かったら、もう不燃粗大ゴミ行きだ。

って誰が処分するんだ?)

そんなことを考えながら、撩は戦闘準備を整えた。



目指すはコンテナ3つ、偽札と武器一式のお掃除だ。



「…撩、行くぞ。」

「あいよ。」



バタンとランクルのドアが閉まった。


*********************************************
(13)につづく。





やっぱり、この二人が一緒にお仕事しているのはいいっすね〜。
それに描写が追いついていませんが〜。

【訂正】
実はこのサイトの流れは、1991年11月の月齢カレンダーを
参考にお話しを進めているところがあるのですが、
よくよく確認してみたら、
この日は、新月の翌日でした…。
という訳で、撩のセリフの「月明かりがあるしな」を削除し、
ファルコンのセリフも一部変更致しました。
この後、上弦の月も登場してくるので、
とりあえず修正させて頂きます。
[2013.09.17.01:16]


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08-11 Anxety

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(11)Anxiety  ****************************************************************** 2758文字くらい



「全治3週間、か…。」

美樹は香と一緒に病室に戻ると、

ベッドに腰をかけるやいなや、

そう呟いた。



「美樹さん…。」

香は、心底申し訳なさそうに、

吊り下げられた腕を見る美樹に歩み寄った。

「……ごめんなさい、

……こんなことにならなければ、

海坊主さんと一緒に仕事をすることができたかもしれないのに。」



美樹ははっとして、

大急ぎでこの空気を変えようと口調を明るくした。

「やだぁ、香さん!

全治3週間って私の経験からは、

かなり短い方なのよ!」

美樹は、少し腰を浮かせて

香の肩にそっと手を添え、

自然に自分の隣に座るように促した。

ベッドに並んで座った2人は、

サイドボードの上にある薬が目に入る。



「昔ね、

前線で大けがを負った時は、薬品も包帯もなかったわ。」

「……そ、そんな。」

「衛生兵に連れて行かれて、

何ヶ月も病院から動けなかったこともあったし。」

美樹は少し上向きで天井を見上げ、

政府軍の傭兵として闘っていた頃を思い出していた。

その時、

自分に怪我を負わせ守れなかった不甲斐なさで、

ファルコンも精神的に落ち込んでいたことが

懐かしいシーンとして浮かんで来た。

怪我から回復して、

それでも一緒に傭兵として生きていくと、

心に決めファルコンに意思を伝え、

まもなく突然の別れを強要されたのだ。



「だ、か、ら、こんなの軽傷中の軽傷よ。」

香は柳眉を八の字にしたまま美樹を見つめた。

「それに、言ったでしょ!謝らないでって!」

笑顔で返す美樹に、

香は彼女の強さのオーラーを感じる。

「……そ、そうね。そうだったわね。」

くすりと微笑み返して、

美樹と視線を絡ませた。

「香さんこそ、

冴羽さんについて行きたくてしょうがないでしょ?」

「え?」

「顔に書いてあるわ。」

「……だめよ。私なんかが着いていったら、

撩の足手纏いにしかならないから。」

香は目を伏せ俯いた。

「彼、心配するな、って念を押しに来たわよ。

2人で大人しく待ってろっ、だって。」

「うん、あたしも言われた。

どんなことをするかもちゃんと説明してくれたから、

今回は、いつもよりも不安は少ないけど、

でもやっぱり心配なのよね…。」



美樹は、

香の気持ちが痛い程共感できた。

いつ間違いが起きてもおかしくない裏稼業、

美樹自身も

ファルコンが内緒で危険な仕事をこなしていることは、

随分前から認知していたし、

待つ者としての不安に押しつぶされそうな心理は、

家族を、両親を

戦火で失った過去があるからこそ、

より深く抉られる。



「大丈夫よ。すぐ戻ってくるわ。」

「うん。」

美樹は、左手を香の手に優しく重ねた。



「……さっきね、

ミックが気になることを言っていたの。」

「ミックが?」

「読んでいた数よりも何倍だとか…。」

美樹は、左手を顎にそえて首をかしげた。

「警護兵が多いと聞いていたけど…。

ね、香さん、教授の部屋に行ってみましょ。」

「書斎に?」

「教授とミックの悪戯がどんなものか見てみましょうよ。」

美樹は思い立ったら即行動、

とすっと立ち上がって、ドアに向かった。

「あっ!待って美樹さん!!」

香がちょっと大きな声を出した。

「痛み止めと促進剤飲んでから!」



促進剤とは、

裂傷などの傷口のタンパク質合成を助ける薬剤のことだ。

美樹も痛み止めがないと、

こうして歩いたり話したりすることが困難になることは

分かっていたので、慌てて踵を返した。

「あ、ごめんなさい!忘れていたわ。」

「お水これでいい?」

そばのポットとコップに手を伸ばし、飲み水を用意する香。

「ありがと。」



白い三角巾が目に入らなければ、

本当にいつもの美樹の姿そのものだと、

普段の空気を感じた香は、どことなく安堵した。

撩からは、

美樹が安心して待っていられるように、

一緒にそばにいることが

今回の役目だと言いつかってきてはいるが、

むしろ不安で心がくすぶっているのは、香自身の方。

ミックの言葉の意味も気になり、

表情も硬くなっているのが自分でも分かる。

「さ、行きましょうか。」

薬を飲み終わった美樹に声をかけられ、

2人は書斎へと向かった。



奥の書斎は、

初めてきた時とたいして変化がない。

白黒のモノトーンのスクエアが床を彩り、

ほんの少しだけ書斎独特の古い本の香りを感じる。



「カオリ、ミキ、休んでなくていいのかい?」

ミックが回転椅子をくるりと反転させ、

入り口に声をかけた。

「ええ、ちょっと様子が気になっちゃって。」

美樹が教授のほうへ歩み寄る。

「ほほ、いい時間になったら、あの国にとって都合の悪そうな情報が

全部ネット上に流れるはずじゃ。」

教授は楽しそうにコロコロと答えた。



「ねぇ、ミック。さっき撩に言っていた、1.5倍とかって、何のことなの?」

「…あぁ、聞こえてたんだね。」

ミックは、

ちょっとバツが悪そうな表情でパソコンの画面を見つめた。



「……隠しても仕方がないから、言うよ。

本当は余計な心配はキミたちにはさせたくなかったんだが…。」

ミックは、軽く息を吐き出すと、

香と美樹を交互に見つめた。



「当初、積み荷を守る雑魚の数は

多くても100人くらいだという情報だったが、

……どうやら、船内にも大勢引き連れて来ているらしい。

たぶん実動部隊50名ほど、

だから最初の情報の1.5倍くらいはいるかもなって話しを

撩に伝えたってワケ。」

「1.5倍?、ひゃ、150人?」

香は目を見開いた。

「なぁに、奥多摩でも

訓練されたクロイツの親衛隊100人をあっという間にねじ伏せたんだ。

今回は、下見もしてあるし、心配ないって。」

ミックが柔らかく微笑む。



立ちすくんでいる香に教授も声をかけた。

「以前も言ったがの…、撩が本気になったら、

東京を壊滅させるくらい訳ないことじゃ。

多少ハエがうるさいかもしれんが、

やることはちゃんとやって戻ってくるじゃろ。」



「そうよ、香さん、

ファルコンも一緒なんだから、心配しないの!」

「…え、…あ、うん…、そうよね。

ここで心配ばかりしても意味ないもんね。」

「まぁ、二人ともそこら辺に座って、待っててもよかろうし、

病室で休んでいてもいいんじゃが?」

「ここにいてもいいですか?」

香が控え目に呟いた。

「もちろん!」

ミックは少し元気がない香の肩を抱いて、

自分の近くの席へ促そうとする。

「ミックゥ〜、

あまり調子に乗るとかずえさんに言いつけるわよぉ。」

美樹がじろりと金髪の男を睨んだ。



「Oh ! No ! 

やましいことは決してないよ!ねっ、カオリ!」

慌てて触れていた手を離すミック。

「「かずえさんも大変ねぇ。」」

香と美樹のアドリブが重なり、4人は声を出して笑った。

「さて、そろそろ注意しておきますかね。」

教授とミックはそれぞれのパソコンに向き合い、

キーを叩き始める。



「あ!その前にあたし、洗い物片付けてくるわ!」

香はかずえから出かけ際に言いつかったことを

すっかり忘れそうになっていた。

「すぐに戻ります。」

そう言って一人キッチンへ向かった。


*****************************************
(12)へつづく。






んとに、
雑魚ばっか集めてもしょーがないんですけどね。
戦火の中にいた時の、ファルコンと美樹、
きっとちょっとでも美樹が傷を負うことがあったら、
その度に、海ちゃんは苦悩していたかもしれません。
(あちこちで描かれてているケガしたカオリンに悶々とする撩と同じかそれ以上で)
当サイトの設定では、海ちゃんの決別決意の前に、
美樹ちゃん大怪我の捏造をしてしまいましたが、
8歳から恐らく10代ラストくらいまで一緒にいたと想定すると、
この2人がこの間重ねて来た10年近くの時間もまた、
色々と切ない思いが湧いてきます。
別れた直後に、撩によって部隊殲滅という流れがあれば、
美樹を空港に置いてきて良かったと、
選択は間違っていなかった的な空気があったかもしれません。
この2人の関係も、
撩と香に負けず劣らず熱いものを感じます。

【誤植発見感謝!】
裏家業⇒裏稼業に修正いたしました。
ご連絡ありがとうございました!
2016.02.07.10:26

08-10 Coffee Break

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(10) Coffee Break *************************************************************1670文字くらい



「教授、どうぞ。」

かずえから差し出されるミルクの入ったコーヒーを受け取った教授は、

目を細くして香りと味を楽しんだ。

「撩と海坊主さんはブラックね。」

香は別のトレーをもって席をまわった。

「ああ、サンキュ。」

かずえとミックはカフェオレで、

香は砂糖入りのコーヒ、

美樹はレモングラスティーでそれぞれ食後の余韻を味わう。



「撩、ここを出る時間は9時じゃったかのう?」

カップに口をつけながら、教授は目だけ撩のほうを向けた。

「はい、それでもゆとりがありすぎると思いますが。」

余裕を見せる撩。

「まぁ、たいして時間はないが、それまでのんびりしていくがよい。」

「教授、あとは打合せ通りにお願いします。」

「まぁ、心配するな。」

ミックが口をはさんだ。

「万事良好だ。」

「すまんな、ミック。」

ファルコンも今回のミックと教授の参戦で、

予想以上の結果を得られる予感がしていた。



「さてと、香さん、

私は今からちょっとだけ大学に戻って残ってる用事を済ませてくるわ。」

かずえが立ち上がった。

「あら、もうそんな時間?」

「申し訳ないけど、片付けだけお願いしてもいいかしら?」

「もちろん。」

「たぶん日付が変わる前には戻って来れると思うわ。」

「リョウたちが先かカズエが先か、いい勝負だな。待ってるよハニー。」

ミックが頬杖をつき、にやつきながら、カップをすすった。

「…ばか、じゃあ、行ってきます。

心配はないと思うけど、冴羽さん、海坊主さん、気をつけてね。」

「かずえちゃんも、無理すんなよぉー。」

かずえは、撩の軽い口調の送り出しに少し微笑んで、

自分のカップとソーサーを持って食堂を出ると、

裏口から教授宅を後にした。



「じゃあ、俺と教授はパソコンの前で待機してる。

タイミングがいい時に、例の情報を発信するよ。」

「ああ、頼む。」

「撩よ、見送りはせんからな。」

細い目でニヤっと笑った教授はそう言うと、書斎に向かった。



「……リョウ、たぶん読んでいた数の1.5倍はいるかもしれん。」

ミックは、教授についていこうとしたが、

ふと思い立ったように、撩に近づき耳打ちをした。

香は、その様子を訝しがったが、

全ての単語を聞き取れなかった。



「まっ、お前らなら2倍だろうと、3倍だろうと、問題ないだろうけどなっ!」

バシッと撩の背中の中心を叩いたミックは、

さっきのセリフより一回り大きな声を出した。

「ってーなーっ!」

「じゃあなっ!」

ミックは白い手袋をひらひらさせながら教授のいる書斎へ続いた。



「くっそ、あいつ遠慮なしに叩きやがって!」

背中をさすりながら機嫌の悪さをあらわにする撩。



「撩、そろそろだ。」

ファルコンが声をかける。

「ああ。」

「じゃあ、行ってくるわ。」

「あ、外まで一緒に行くわ。」

美樹が立ち上がった。



ランドクルーザーに乗り込む2人を玄関先まで送り出す。

エンジンをかける直前、助手席の撩に香が金属製の小物を手渡した。

「撩、何かあったら使って。教授が前に私にくれたものなの。

撩も使い方は知っているって言ってた。」

「あー、あの007に出てくるようなヤツだな。サンキュ、もらっとくよ。」

一見、ボールペンのように見える2本の物体を、

撩はジャケットの内ポットに差し込んだ。



「撩、行くぞ。」

「大人しく待ってろよ。」

撩は、本当はそのまま香を引き寄せて唇を味わいたかったが、

そこはぐっと押さえて、香のくせっ毛をかき回すだけにしておいた。

「もうっ!余計なことしてっ!」

香は顔を赤らめながら、乱れた髪を直そうと指を通す。



「出るぞ」

ファルコンの短いセリフと同時に、

グォンというエンジン音を残しながら、車体は勢いよく出発した。



「無事に、戻ってきて…。」



香は、無意識にそう呟く。

2人は、車が見えなくなるまで、そこにたたずんでいた。

「……香さん、中に入りましょうか。体が冷えるわよ。」

「ええ。」

「大丈夫よ。きっとさっさと終わっちゃうはずだから。ね。」

「うん。」

2人の戦士を送り出した香と美樹は、言葉少なげに病室へ戻って行った。


*****************************
(11)へつづく。





やっとお仕事にとりかかります。
美樹ちゃんは療養中はノンカフェインってことで〜。
ああ、もうすぐ10月になっちゃうよぉ〜。

【追記:もりゅ様ありがとうございます】
美樹ちゃんの嗜好飲料、今家族に人気がなくて
わたくしが一人でちびびち飲んでいる
レモングラスティーに変更させて頂きました〜。
こんなこったから管理栄養士の試験落ちるんだわ〜。
もりゅ様ご指摘感謝です!
まだまだこんな感じのボロがあるかと思いますので、
拾えた方ご遠慮なく通報をばと…。
ちなみに、単品種名の明らかなお茶のパッケージが欲しくて
飲んでいる各種ティーシリーズ。
種類ばかり増えてなかなか減りません。
2013.03.11.

08-09 Boeuf Bourguignon

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(9)Boeuf Bourguignon ********************************************************* 2344文字くらい



「教授、お食事が出来ましたよ。」



かずえが書斎を開けた。

「おぉ、もうそんな時間になったかのう。

さて、撩もしっかり食べていくんじゃな。」

「食べ過ぎで動きが鈍くなるかもな。」

ミックがにやりと呟いた。

「うっせぇ、ミック。

あー、かずえちゃん、タコはもう着いた?」

「ええ、さっき美樹さんのお部屋に行ってましたよ。」

「あいつ、ぎりぎりまで何やってたんだか。

じゃ行きますか。」

かずえ、教授、撩、ミックの4人は食堂へ向かった。






「美樹さん、お食事の準備が出来ましたよー。

って、あら海坊主さん、いつ着いたんですか?」

「ついさっきだ。」

美樹の部屋にいたファルコンに出会い、

その到着をまったくチャッチできなかった香は、

驚いたと共に、まだ気配を読めない自分に

やや反省の思いも心の隅に芽生えた。

それを悟られるような表情に出さないままに、

食堂へ2人を促すことに。

「さ、夕食を食べましょう!今日はブルゴーニュ風の肉料理よ!」

「へぇー、聞くだけで美味しそう!」

美樹も食欲をそそられたようだ。

「この香りは赤ワインだな。」

ファルコンも小さく答える。

「かずえさんの得意料理なんですって。

行きましょ。」



食堂に7人がそろった。

料理からは湯気がのぼり、

食欲をそそる香りが室内に漂う。

テーブルには煮込まれた大きな牛の肩ロースが、

それぞれの皿に盛り付けられていた。

特にファルコンとミックと撩の皿には

特大の塊が盛られている。

「今晩は赤ワインの牛ロース煮込みがメインメニューよ。」

香が配膳しながら、みなを席に促した。

他にも、大盛りサラダ、スープ、色とりどりのフルーツ、

ライスとパンは選べるようになっていて、

パスタも2種類用意されている。



「ほほ、これはこれは、豪勢じゃのう。」

教授の嬉しそうな言葉にフォークを並べていたかずえが振り返る。

「この人数と大食漢揃いなんですもの。

きっと残らないと思いますわ。」

「ブフ・ブルギニョンか…。」

撩も料理名を知っているようで、

ちょっと嬉しそうに椅子に腰を下ろした。



「さ、腹減った!食べようぜ!」

ミックが待ちきれないと言った様子で食器を手にする。

2日前にみんなでワインをたしなんだ時と同じ席で、

7人が食卓についた。



「どうぞ、召し上がって。」

かずえがゴーサインを出すと、

男性軍はさっそく肩ロースにフォークを入れた。

「いっただきまーす!」

ミックは遠慮なくかつ上品に、

柔らかく煮込まれた牛を頬張った。

「ん?これは…。味付けはカオリのオリジナルだね。」

「え!どうして分かったの?」

「カズエの料理とビミョーに味が違う。」

「ご、ごめんなさい、マズかったかしら?」

瞬時に暗い表情になった香に慌ててミックが説明した。

「No! No! 違う!違う!

2人とも個性が表れている味付けってことさ。

俺はどっちも好きだよ!

たぶん、

入れる調味料の量とタイミングと加熱時間で差がでてくるんだろうな。」



そこにかずえがフォローに入る。

「仕込みは私がやって、

最後の仕上げを香さんにお願いしたの。

お好みの味に整えてねって。ね!香さん!」

「ぁ、あ、…そ、そうなの。

とても簡単にできる料理だから、驚いちゃった。」

「ほ、かずえ君と香君の合作じゃな。

柔らかくて年寄りも楽しんで味わえるぞよ。」

教授ももぐもぐと口を動かしながら、味を堪能する。

「ファルコンも撩も、これから多少運動するんじゃったら、

たっぷり食べていかんと、向こうで腹が減っても知らんぞ。」

教授はこれから戦闘に赴く2人に視線を流した。

「そんなの関係なく、

食える時に食っときゃいいんですよ。」

ばくばくと口に運びながら、

撩がつまんなそうな表情で答えた。

ミックが味付けをすぐに見破ったことが面白くないのだ。



「おい、撩、食い過ぎて動きが鈍くなっても、

おれは責任持てんぞ。」

ファルコンが突っ込んだところで、

ミックがぶっと吹き出した。

「それ、俺もさっきリョウに言ったばっかりだっ!」

「ったく、どいつもこいつもおんなじセリフばっかり言いやがって…。」

既にメインを空にした撩は、

パスタとサラダとパンを口に突っ込んで

もごもごしながら文句を言った。



「出発までは、まだ時間があるんでしょ。

落ち着いてゆっくり食べてよ。」

香は半ば呆れ顔で撩に言う。

「毎回毎回、美味しい食事が出来て嬉しいわ。

かずえさん、香さんありがとう。」

美樹が片手で食事をしながら、2人に笑顔を向けた。

「ふふ、他の病院に入院してたら、

こんなメニューは出てこないかもねぇー。」

かずえは悪戯っぽく笑いながら、

自分が出入りしている大学病院を思い出していた。

「でも、ほんと、味が良くしみ込んで美味しいわ。

赤ワインにお肉と玉ねぎとローリエとニンニクを浸け込んで、

煮込んだだけなのに。」

香が不思議でしょうがないという顔で

肉の刺さったフォークの先を見つめる。

「仕込んだのは2日前だからね。」

「え!そうだったの?」

「2日前?」

驚く香と美樹に、かずえはクスリと微笑む。

「そうなの。仕込んでおけば後は煮るだけ。簡単でしょ?

あとでレシピあげましょうか?」

「嬉しいわ!是非お願い!」

美樹は提案に飛びついてきた。



「賑やかな食卓はいいのう。」

教授がしみじみとまわりを見渡す。

口には出さなかったものの、

もしこの3組のペアから、

次の世代に命が紡がれたら、

孫かひ孫が出来たも同然。

さしずめ自分はじいちゃん扱いかと、

遠からぬ違った賑やかな食卓を思い浮かべていた。

そんな7人は他愛もない会話を交わしながら、

大量に用意された料理をすっかり空にしてしまった。





「あー、食った、食った。

ガソリン満タンってとこだな。」

撩はげっぷをしながら、腹部をさする。

「食後の飲み物を用意してくるわ。」

「あ、手伝うわ。」

かずえの動きに香も一緒に下膳し、

コーヒーの準備を始めた。


**********************
(10)へつづく。





もらったワインを持て余し、
1回だけ作ったことがあるんですけどね、
何を失敗したのか、
ときめくような味に仕上がらなくて、
再チャレンジできないままでごぜえます。
海ちゃん、
美樹ちゃんのドレスの洗濯、染み抜き、修繕をしていたってことで、
到着遅くなりました〜。


【誤植修正感謝!】
撩の台詞の「ビーフ・ブルギニョン」を
「ブフ・ブルギニョン」に変えさせて頂きました。
フランス語統一を推奨して頂き合点でございます。
前者だと、「ワン,ツー,さん,し,ご」と
二カ国語ごちゃ混ぜカメレオンという感じの表記になるので〜。
「下善」⇒「下膳」に修正致しました。
mさん、発見ありがとうございました!
2016.02.07.04:29


08-08 Miki & Ryo

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(8)Miki & Ryo  *****************************************************************1293文字くらい



2人は、伝言板を見てから教授宅へ到着した。

香はかずえと一緒にさっそく夕食作りへ。

ミックと教授は、書斎で打合せ中。

撩は、美樹のいる部屋へ向かい、

少しでも安心させるために中間報告を伝えに行った。



「あれ?タコはまだ来てないの?」

美樹の病室に入った撩はあたりを見回した。

気配がなかったので、隠れているかと思いきや、

ヤツが隠れられる場所はここにはないかと、椅子に腰を降ろす。

ベッドの上で上半身を起した美樹はくすりと微笑んだ。



「ええ、お店でまだすることがあるって、たぶんもうすぐ来ると思うわ。」

「あいつから、今日の詳しいことは聞いてる?」

「ええ、だいたいね。」

「じゃあ、細かい説明はいっか。」

「え?」

「美樹ちゃんが心配しないように、

今晩の仕事の簡単さを教えに来たんだけどねぇ〜。」

「大丈夫よ、大まかなことは把握しているわ。冴羽さんも気をつけてね。」

「なーに、軽い仕事さ。」

「冴羽さん、ありがと。ファルコンもきっと心強いと思うわ。」

「香も着いて行きたがっているし、美樹ちゃんもそうだろうけど。

余計な心配しなくていいから。

教授もミックも上手に動いてくれているし。

みんなで安心して待っててくれ。」



美樹はふぅと息をつく。

「っほんと、こんな時に身動きできないなんて、悔しいったらないけど、

冴羽さんがついてくれるんだったら、とっても安心だわ。」

「美樹ちゃんのためならお安いこって。」

「あたしじゃなくて、香さんのためでしょ?」

「へ?」

にやりと微笑みをよこす美樹に、撩は言葉が詰まった。



「な、なぁーに言ってるのかなぁ?美樹ちゅあ〜ん。」

「ごめんなさいね、冴羽さん。……あなたたちの好意に甘えっぱなしで。

こんな時に、香さんをあなたから取り上げちゃって、申し訳ないわ。」

ダイレクトな表現に撩は、らしくもなくうろたえた。

「みみみみ美樹ちゃんっ、

謝るのは、なしって、この前言ってただろ?

そ、それにっ、美樹ちゃんだって、ハネムーンもなしで放ったらかしだろ?」

思わず早口でツバが飛ぶ。



「くくくっ!あーおっかし。冴羽さんがそんな反応するなんて、

滅多に見られないわぁ。」

美樹はふっと表情を戻して、撩に視線を送った。

「香さんのためにも、無事2人で帰ってきてね。」

撩は、口角をくっと上げてゆっくり立ち上がった。

「心配無用!じゃ、またメシん時にな。教授んとこ行ってくるわ。」

片手をひらひらさせながら、美樹の部屋を出て行った。



美樹は、今回の依頼がそう簡単な仕事ではないことも、

ファルコンの仕事を撩が手伝ってくれているのも、

ファルコンと自分が早く一緒に過ごせるように配慮していることも、

香の教授宅通いを早めに切り上げさせたい思いがあることも、

全てを承知していた。



せっかく、そしてようやくお互いの気持ちを通わせた直後だというのに、

この慌ただしさに巻き込んでしまい、

申し訳ない思いはどうしても拭えないが、

これが自分たちの住んでいる世界なのだと、

暗黙の了解を再確認する。



「ファルコン…、無事に戻ってきてね。」



美樹は夕暮れに染まる窓際を見つめながら、

食事の時間を待つことにした。


****************************************
(9)へつづく。





美樹ちゃんも、なにもかもお見通しぃ〜。

08-07 I'd Like To Kiss

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(7)I′d Like To Kiss  ***********************************************************1951文字くらい



「……ん。」

身じろぎながら、香は目を開けた。

「目ぇ覚めたか。」

はっと細い体が揺れた。

「い、今何時っ?」

上半身を起したとたん、香の視界に撩のドアップが飛び込んできて、

ぼぼっと血液が顔面に集る。



「え?あ?な、な、なんで?」

寝起きの香は、若干混乱気味。

「今、4時前。」

涼しい顔をして、そう言った撩。

時間を聞いて我に返った香は、なんとか時間軸を思い出した。



「あ、あ、も、もう出かける準備しなきゃっ!」

「まぁ、待てよ。」

撩は、慌てる香を抱き寄せて、耳朶に唇を寄せた。

「うひゃあっ!」

「教授んとこ行く前に、一発どう?20分もあれば…っぐえ!!」

さらにボボッと朱色を重ねた香は、恥じらいハンマー100tを出現させた。

「おのれは、明るいうちから何考えとんのじゃっ!」

リビングが揺れる震動と共に、カエルが潰れたような悲鳴が重なる。

「ま、まったくもうっ!」



香は赤くなりながら、足早にベランダに向かった。

「は、早くたたんで、準備しなきゃ!」

大急ぎで干されていたものを回収し、窓際の床でテキパキと衣類をたたむ香。

「よ、よかった。ちゃんと乾いている。」

その気配を感じながら、ソファーとハンマーの間でまだ痙攣している撩。

「ちょっと、撩!いつまでも挟まっていないで、出かける準備しちゃって!」



「し、しどい…、かおりしゃん。こ、この一発ぢゃなくて……。」

ハンマーをごろんとずらして脱出した時には、

香は洗濯物をかかえてリビングを出るところだった。



脱衣所でフェイスタオルとバスタオルを指定席に置きながら、

香は予定を思い描いた。

「えーと、駅に寄って伝言板も見なきゃね。買い物はしなくても大丈夫のはずっと。」



7階に撩の服を運びながら、一つ思い出した。

「あ!そうだ!あれ使えるかしら。」

撩の部屋で服をしまうと、香は自室に駆け込んだ。

「あった。おもちゃレベルかもしれないけど、

教授がくれたものだから、使えなくはないよね。」

ドレッサーの引き出しを開けた香は、

金属性の細長いものを2本手にしてショルダーバッグの中にしまい込んだ。



自分の衣類も片付けた後、

戸締まりをしながら、撩を呼ぶ。

「りょー!準備できたぁ?」

「あいよー。」

トイレから水の流れる音と同時に声が聞こえた。

香はキッチンに寄って、イスにかけてあった上着に袖を通して、

コップに少しの水をつぎ、軽く喉を潤した。

「さ、早く行かなきゃ。かずえさんが待ってるわ。」



廊下に出ると、撩がジャケットを羽織りながら近づいて来た。

ホルスターに入っているパイソンがちらりと見えて、

相棒もちゃんと撩の胸に収まっていることを知り、香はおのずと安心する。

「特に持って行くものはないわよね。戸締まりもしたし。」



先に玄関まで来た香が、ふと振り向くといきなり視界が暗くなった。

「みんなんところじゃ気軽に出来ないからな…。」

至近距離で聞こえたそのセリフを頭が理解するまえに、

口を塞がれてしまう。



「ふっ、んんんっ!」



突然深く抱き込まれて、湿度の高い口づけを受けた香は、

再び混乱に陥った。

この出かける前の慌ただしいときに何をやっているのかと、

思わず撩の胸板を押し返し、ハンマーを出そうとしたが、

撩の温度を感じつつ、頭の片隅で冷静になる部分が生じて来た。

これから危険な仕事に赴く撩を思うと、

無事に戻ってきて欲しいという切なる願いが込み上げてくる。



香は、しばし躊躇いながらも、

初めて自分からも求めるようなキスを返してしまった。

それに気付いた撩は、一瞬動きが止まったが、

香の後ろ頭をしっかりと固定して、しばしその甘い口腔を味わい続けた。

狭い玄関に、お互いが接している部分から水音と吐息が漏れる。



「……も、…でなきゃ…。」



か細い香の声で、お互い飛びそうになった気分から引き戻された。

「だな…。」

撩も唇を合わせたまま答える。

「で、伝言板確認してから、教授のとこに行こ…。」

撩の胸をそっと押して、やんわりと離れる香。

顔を真っ赤にしたまま、小さな声でなんとか喋る。

かなり離れ難い思いが渦巻くが、時間がないことはお互い承知済み。

致し方なく撩も同意する。

「ああ。」



玄関を出ると撩はその形のいい細い肩を優しく抱いて、二人は駐車場まで降りて行った。

クーパーに乗り込むと、香は照れをごまかすように、シートベルトをしながら言った。

「こ、今夜は何時に戻ってこれるかしら、ね?」

「さぁてね、雑魚さんたちの力量次第かな。」

エンジン音が駐車場に響き、タイヤが鳴った。

「帰ったら、……覚悟しとけよ。香ちゃん!」

「へ?」

顔は正面のまま、にんまりと助手席に視線を送ってくる撩に、

香はぞわぞわっと背中に何かが走った。



撩はくすりと笑い、アクセルを踏む。

「じゃ、駅に行くぞ。」

クーパーは、勢いよく幹線道路を進んで行った。


*************************************
(8)につづく。





えー、えー、もう新婚カップル状態のお2人でございますぅ〜。
そうそう、冴羽アパートの玄関ね、たぶん彼らの居住空間に繋がる
玄関のある階は5階じゃなかろうか。
だから、海原父ちゃんがやってきた時、
カオリンの「あの足で6階まで?」というのは、
たぶん5階の間違いかもと。
玄関に入ってすぐに、登り口の階段があり、
そこが6階の吹き抜けに繋がる間取りだと思いまっせ。
サリナちゃん&アルマ女王が来た時には、
すでにその設計になっていたような。
それより以前は、あの玄関に通じる階段は描かれていなかったかもかも〜。

【お詫び】
2回連続、「もくじ」へのリンクが滞り、大変失礼致しました〜。
宿泊客対応&後片付け&天然記念物関係の対応で、
ばたばたしておりましたぁ〜。
更新そのものは、約2ヶ月先までは自動的に1919で
アップされるように整えておりますが、
諸事情で、「もくじ」と「につづく。」のURLの張り付け作業が
追いつかない時もございますので
要領の悪いワタクシをお許し下さいませ〜。
現在、短編「Dentist」の続きをちまちま作っています。
区切りのいい時にお披露目できればと…。
取り急ぎお詫びでしたぁ〜。
2012.09.19.21:20

08-06 Slumber

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(6) Slumber *********************************************************************3016文字くらい




ガチャ!

「うわ!」

「きゃあ!」



リビングの扉を開けたとたんに、

撩の持っていた空の洗濯カゴと

香の持っていたコーヒーを乗せたトレーが接触する。

反射的に右手の指3本で撩はトレーを支えた。

「ほぉー、セーフ。おま、まさかコーヒー持っているとは思わなかったぜ。」



撩は向かう扉越しに、香の気配を感じていたものの、

開けて驚かしてやろうかという悪戯心が先走っていたので、

何かを持っている可能性があるかは思慮していなかったのだ。



「あー、驚いたぁ。コーヒーの海を作っちゃうところだったわ。」

「そりゃ勘弁なだ。」

「も、もう干し終わっちゃったの?」

「おぅ、カゴ置いてくるわ。」

「は、早っ…。」

ベランダを見て驚いた。

(どんなスピードで干したのよ。)



カシャリと、ガラステーブルにトレーを置いて、窓際に向かう。

今日の夜、戦闘態勢になるというのに、

穏やかな風に揺られる洗濯物が大きなギャップを感じさせる。

窓の桟(さん)に右手を添えて、街並を眺め、これからのことを考える。

今は1時台。

夕方4時頃には家を出て、教授宅へ向かわなければならない。

3時間はフリータイム。



「掃除って気分には、なれないわね…。」

香がそう呟いたところで、撩がリビングに戻ってきた。

「この天気ならすぐに乾くだろ。」

コンと撩の右肘が窓枠に当たる音が頭の上から聞こえた。

そっと視線を後ろに流すと、

緩く丸めた右手をこめかみに当てて寄り掛かり、

左手はズボンのポケットに入れ、

香の真後ろに立つ撩がいた。

近さに、かぁと顔が赤くなる。



「あ、ありがとね。助かったわ。」

「たまには、って言っただろ。」

くしゃりと頭に手を乗せる。

「さ、飲もうぜ。一休みだ。」

「うん。」



撩はソファーの短辺にどさっと腰を降ろした。

香は、長辺側に行こうかとガラステーブルをまわろうとしたが、

つま先の方向を変えたとたんに、手首を引っ張られた。

「おまぁは、こっち!」

「うわっ。」

撩の左隣にどさっと座らされた香は、その近さにまた赤面する。

撩は左手で香の肩を抱き寄せたまま、右手でコーヒーカップを口に運んだ。

ブラックの苦みが心地良い。

香は、視界の端に映る撩の左手の指が気になって、カチコチになっている。



「おまぁ、カップ持てないようだったら、口移しで飲ませてやろーか。」

悪戯顔でにやつきながらの視線を送る撩。

「はぁ?ばっ、な、な、なにを、と、突然っ!」

赤い顔のまま舌を噛みそうになりながら言葉を返す。

慌てて自分のコーヒーを持ってすする香は、流し込む場所を間違えて、激しくむせ始めた。

「ゴホッ、ゴボッ」

「おいおい、落ち着けったら。」

撩は苦笑しながら,左手で背中をさすってやった。

「ぅぅぅ…。」

この初心な反応がいつまで楽しめるのか、関係が変わった今、

ますますその動き一つ一つが愛おしくてしょうがない気分だ。



「あんた、絶対、か、からかって面白がっているでしょ…。」

コーヒーカップを両手で持ったまま、

前屈みの姿勢から、ちょっと潤んだ怒り目で、撩をきっと軽く睨む香。

その目は反則だろ、と自分の動揺を隠しながら、ポーカーフェイスで返事をする撩。

「わかるぅ?カオリンの反応がとーっても楽し…ぎゃっ!」

言い終わる前に、ミニハンマーが左頬にヒットした。



「もうっ!」

香は頬を染めたままお怒りモードで、残りのコーヒーをすすり始めた。

撩はその様子を見ながら、ふっと微笑んで、また香の肩を抱き直し、

目を伏せながらコーヒーを空にした。



香も飲み終わり、視界の左端に見える撩の指が気になりながらも、

そっとカップをテーブルに戻す。

撩は、右肘をソファーの縁にひっかけ、左手の指を香の髪にゆっくりと絡ませた。



「……お前に、今晩のことを、説明しておく。」

一瞬、香の肩がピクリと動いた。

「……うん。」




「前も話した通り、

埠頭でコンテナが船に積み込まれるのを邪魔するのが仕事だ。」

撩の指が香のくせっ毛をくるくると弄ぶ。

「たぶん、中身は偽札と銃器。

これが運べるかどうかで、国の軍事力を左右すると思い込んでいる。」

「思い込む?」

「そっ。実際には役立つか怪しいシロモンだからな。だが奴らは必死だ。」

撩はそのまま左腕で自分に香を引き寄せた。

「積み荷を守るために、雑魚共がうじゃうじゃ集るらしい。」

「……。」

香の身が少し硬くなった。



「かなり鬱陶しそうだが、そのために夕べ、埠頭にタコとイタズラをしてきたから、

仕事は楽に出来そうだ。」

「警察は動かないの?」

「冴子には、事が収まるまで待機するように言ってある。

サツだけじゃ阻止は出来ないよ。」

撩は人数の多さから、密輸しようとしているブツの押収は、公僕では無理と判断した。

「下手なタイミングで警察が動くと、銃撃戦で犠牲者がでるだろうし、

コンテナの中身を使える状態で押収されたら、またそれを狙って、次の襲撃が起こる。

だから、海に沈めて使用不可にするのさ。」

作戦を詳しく語る撩を、香は切なげに眉を寄せて見上げた。



「……ついていっちゃダメなんだよね…。」

「言っただろ?

おまぁは、美樹ちゃんが不安がらないように、そばにいてやることが役目だ。

美樹ちゃんも自分のケガを押してでも、タコと一緒に行きたいと思っているはずだ。」



美樹も香も同じ気持ちでいることは、ファルコンも撩もちゃんと分かっている。

だからこそ、教授宅で待機することを素直に選ばせる方が難しいことも理解している。

「さっさと済ませて戻ってくるから、大人しくみんなで待っとけ。」

「ん…。」



香は話しを聞きながら、今のこの状況が、

あの海原戦の前夜に二人で話していた空気と似ていることを思い出した。

「日付が変わる頃には、みーんな片付いているはずだ。」

撩は、香を抱きかかえながら、頭をコーナー側にしてソファーにごろんと仰向けに転がった。

常備してあるクッションが枕になる。

「ひゃああ!」

「んー、いー抱き心地♡」



自分の両脚で香の脚も挟み込む。

「っちょ、ちょっと!人を抱き枕かなんかと一緒にしないでよっ!」

かっかとしながら、自分の上でジタバタする香をやんわりと締め、

重さと感触と匂いを楽しむ。

「ボクちゃん専用の抱き枕だもんね。」

「ぅぅー。」



しばらくジタバタしていたが、

逃げられないと諦めた香は暴れるのをやめて、

大人しく体重を預けることにした。



今までのことを思うと、

撩と自分がここでこんなことをしているなんて、

心底信じられない。

初めての体勢に、自分の心臓が暴れている。

同時に撩の規則正しい心音が右頬から伝わって来て、さらにドキリとする。

恥ずかしさもあるが、それ以上に心地いい。



香は目を閉じたまま、ゆっくりと体の力を抜いた。

握りしめていた指も、そっと開き撩の胸板にぺたりと広げる。

Tシャツの布越しに熱を感じ、またぽっと赤くなる。

すると、わずかに撩の体が揺れた。

撩は、左指を香の後頭部に埋め、右腕はその細い腰に回して、

静かに瞼を降ろした。



「……ぁったかぃ…。」



香が小さく呟く。

その声に、このまま夜まで離したくない、このままでいたいと、

撩は抱き込み直し、腕に少し力を入れた。



「……ねぇ、この後どうするの?」

「ん?」

「武器の準備とか、……しなくていいの?」

「大丈夫だ。昨日のうちに必要なもんは全部用意してあるよ。」

「そっか…。」

「洗濯もん乾くまで、お昼寝タイムだ…。」

「……そ、…だね…。」



ずっと、こんな時間が続けばいいのに。

口には出さずとも、同じことを思いながら、午後の陽だまりの中で、

二人はまどろむことにした。


********************************************
(7)につづく。





ソファーでのお昼寝シーン。
マリーちゃん来日時の「リョウが育ったところは日本じゃないのよ」の
リビングのコマを無理矢理強制修正して下さいませ〜。
えーと、タバコは削除、手足はカオリンにからめて、穏やかに目を
閉じてもらいましょう!
うう、自分で挿絵を描けんのがぐやしいぃ〜。
いや、子育て4コマまんがなんかは、
たまに描いていますけどね。
北条さんのあの時代のあのタッチは、
プロのアニメーターでも再現困難。
まだ手を出す勇気は持ち合わせておりませぬ〜。
ああ、脳内イメージをそのまま画像にできるソフトが欲しい!

08-05 Sunny-Side Up (side Kaori)

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(5)Sunny-Side Up (side Kaori) **************************************************2528文字くらい



廊下にベーコンの焼ける香りが漂う。

「撩…。」

キッチンの戸を開けて声をかけた。

「おう、もう出来るから座ってろ。」

「あ、手伝うわ。」

撩のそばに行くと、言葉通り完成直前。

「もう、皿に移すだけだから。」

じゅーという音と共に、

厚切りベーコンをたっぷり使った目玉焼きが

ソーサーにするりと移動した。

「さて、食うか。」

フライパンをガスレンジに戻し、

グラスを2つテーブルに置いた。

「あ、あたしが注(つ)ぐわ。」

冷えた軟水のミネラルウォーターが出されていたので、

それぞれに注(そそ)いだ。

いつもの食卓が整う。



「あー、腹減った!いっただきまーす!」

撩は、さっそく自作の主食にフォークを伸ばし、

器用に卵とベーコンを一緒に刺して口に運んだ。

「そ、そんなに卵食べるの?」

6個は目玉がある。

「朝昼兼用だからな。おまぁ2つで足りんのか?」

「ん、充分。ありがと…。」

ちょっと沈み気味で返事をしてしまった。

「ごめんね、あたしが用意しなきゃいけないのに…。」



目の前には、

たっぷりのサラダとフルーツ、ヨーグルトまで用意され、

食パンとバケットもすでにトーストされている。

短い時間でセッティングされた

まるでホテルの朝食のような配膳に、

撩が、自分以上に料理ができることを、

改めて思い知らされる。



「気にすんなって。」

口一杯に、レタスやら、キュウリやらを詰め込んで

もぐもぐしながら撩は答えた。

「起きれないようにしっちゃってるのは、

ボクちゃんのせいだしぃ〜。」

4個目の目玉焼きを突っ込みながら、

にやりとした顔であたしを見る。

ぼっと顔が朱に染まった。

「冷めちまうぞ、早く食べろよ。」

「はぁ〜、やっぱ慣れない…。」

あたしは、左手で左右のこめかみを押さえた。



「…い、いただきます。」

ふぅーと息を吐き出して

ぷすっとベーコンと白身をフォークで掬い取った。

ぱくっと口に放る。

絶妙な加熱加減に程よい塩味とコショウの刺激。

卵の旨味が口に広がる。

「…おいしい。

……撩ってさ、普段はちゃらんぽらんのくせに、

何やっても器用にできるのよね…。」

「褒めてんの?けなしてんの?」

あたしはトーストに卵とベーコンを乗っけながらちらっと撩の方を見た。

「……両方。」



そう言いながら、

複雑な気分を隠すように涼しい顔をして、

即席ベーコンエッグサンドをぱくっとかぶりついた。

撩の作ってくれた食事を普段の生活で味わえるなんて。

これって、かなり贅沢なことよね。

もぐもぐしながら思いを巡らす。



「……うん、悔しいくらい美味しい。」

「使っている食材は、

いつもおまぁが作っているもんと変わらんぞ。」

「……でも、あたしが作るのより美味しい…。」

撩は、左手で頬杖をついてふっと笑った。



「……人が作ったもんってだけで相乗効果で旨く感じるもんさ。

まぁ、テクニックもちったぁ入っているかもしれんがな。」

「……火加減とか、切り方とか?」

「そっ。」

「……やっぱり悔しい…。」

いじわるそうな顔でニヤニヤしている撩をじろっと睨んで、

お互い、ふっと笑った。



「おまぁ、今日はちゃんと動けそうだな。」

「え?」

「この前はかぁーなり辛そうだったからなぁ。」

「そ、そ、そんなことはな…。」

「バレてないと思ってんのぉ?」

あたしが言い終わる前に、そう言った撩は

サラダを口に突っ込みながら、にやついて

ちろりとこっちを見る。

「…ぅ。」

はぁ、撩に隠し事なんて無理なのよね。



食べ終わった撩は、

くすりと笑いながら、のっそりと立ち上がった。

「ごっそんさん。俺、洗濯もん見てくるわ。」

シンクに食器を運びながら、撩はそう言った。

「あ、あ、もう仕上がってるかも。あ、あたしがやるわ。」

「いーの、おまぁはゆっくりメシ食ってろ。」

撩は、片手をひらひらさせながら、

キッチンを出て行った。



は、は、は…、ち、違い過ぎる。

あいつが、食器をちゃんと自分で運ぶなんてっ!

今まで話していた相手は、本当に撩なんだろうかと、

あるいは撩が私を

他の別人と取り違えているのではないかと

まだ思ってしまう程に、

今までとは違い過ぎるやり取りに、

まだ困惑が続く。



かと言って、

あの曖昧な関係に戻りたいのかというと、

決してそうではない。

後戻りなんて、望む訳がない。

だけど、この激変に、

自分の身も心もついていっていない。



「……まだ、たった4日よ……。

ずっと一緒に居るって心に決めたんでしょ…。

焦らなくても、いいじゃない、の、かな?。」



サラダの具をフォークにプスプスと重ねながら、

この先の長さと、

ケジメをつけてからの短い時間を振り返る。

無理に慣らすことはないだろうけど、

いちいち心臓への負担が大きく、

いろんな意味で身が持ちそうにない。



でも、……『ずっと』って言っても、

いつ終わりが訪れるか分からない。

明日かもしれないし、

数ヶ月後かもしれないし、

数年後かもしれないし、

数十年後かもしれないし。

常にその覚悟を持って生きて行くことを思えば、

恥ずかしいとか、照れくさいとか、慣れないとか、

言っている場合じゃないのも、……分かるんだけど……。



「でも、やっぱり慣れないのよぉぉぉ〜。」



あたしは、フォークを持ったまま、

両手で顔を覆ってしまった。

耳から頭皮からしゅうしゅうと湯気が出る。

あれだけ、男女だとか、唯一もっこりしないとか

散々言われ続けていたのに、

この変貌振りは一体なんなのよぉ。



「い、嫌な訳じゃ、ない、んだけど、ね…。」

指の隙間から食べかけの食事が目に入る。

「うー、とにかく早く食べて台所片付けよう!」

あたしは、作ってくれた撩に感謝しながらも、

大急ぎで残りをかき込んだ。



「ご、ごちそうさま!」

がたっと席を立ち、

食器や調理器具やらを素早く洗い、

コーヒーの準備に取りかかった。

ミルを回しながら、今晩の動きにも思いを巡らす。

「とにかく無事に終わって欲しい。」

無意識に出た声。

ヤカンが鳴き、はっと我に返る。



自分の想いに気付いてから、ずっと思っていたこと。

好きな人のために、しかも初恋の相手に、

こうしてコーヒーを煎れることが、どんなに幸運なことか、

今でもその想いでお湯を注ぐ。



「撩…。」

焙煎の香りが漂う。

「あたし、幸運すぎるわ。」

揺れるカップの黒い水面を見つめながら、

あたしはコーヒーをリビングに持って行くことにした。


*********************************************
(6)へつづく。





撩ちゃん2回目の手料理です。
「ハウルの動く城」の目玉焼きを重ねて下さいませ〜。
いつか訪れる終わり、とーぶん先であって欲しいですが、
ケシさんもおっしゃっている通り、
なんだかんだ言いながら天寿をまっとうしちゃうかも〜。


【誤植発見感謝!】
「ソサー」⇒「ソーサー」に直しました!
mさん、ご連絡ありがとうございました!
2016.02.07.04:08

08-04 Confusion Of Kaori (side Kaori)

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(4)Confusion Of Kaori (Kaori side) *********************************************1576文字くらい



横になったまま、撩が出て行った扉を見つめながら、

あたしは唇にそっと指を当てた。

この4日間の激変に、脳がついていっていない。

撩が、あんなことを言うなんて、信じられない…。

本当に、信じられないっ。



—  お前が望む未来を諦める必要はない —



折りしも、教授に3日前に言われた同じセリフが、

撩の口からも紡がれた。

撩、あなた、それがどういうことか分かってるの?



とっくの昔にケリを着けていた事案が蒸し返された。

それもかなり強烈な加熱での蒸し返し。

望んではいけない未来であるはずのことなのに。

撩は、その道筋を断ち切るつもりはないと、宣言した。

それが、たとえ自分へのリスクとしかならなくても。



なぜ?



頬をまた涙がつたう。

やっぱりあの男は優し過ぎる。

殺し屋をするには、残酷な程相応しくない優しさ。



撩…。



あなたも、あたしも、

本当の産みの親を知らない。



家族が欲しいと思ったことはない、と言えば嘘になる。

しおりちゃんが、うちに来た時は、

間違いなく赤ちゃんがいる生活に憧れを持った。

しかし、それは所詮実現不可能なことと、

考えることを遠くかなたへ追いやった。



撩の子を宿すことは、その子供にも危険が降り掛かって来る。

あたし以上に無防備な小さな子が命を狙われ続けることは必至。

それをあなたは、自分への危険を省みず守り通そうというの?

撩…、あなたは家族が増えることを、受け入れられるの?

それをあたしに許してくれるの?

涙が零れ枕に染みてしまう。



望む未来の選択肢は、まだ冷静に見据えることができない。




「…ああ、いけない。…早く、降りなきゃ。シャワーもだわ。」



考えにふけっていたら、

さらに時間が押してしまった。

慌てて涙を拭って、起き上がり、パジャマを羽織って、客間へ急いだ。

一昨日と比べたら、体のだるさは殆どない。

ちょっと異物感が残るけど…。

大丈夫。

ちゃんといつも通り歩ける。



トイレに寄って、着替えを取りに自分の部屋に入る。

あれから使われることのない自分のベッドにぎしりと腰を降ろす。

ここで、何度か撩に秘密のキスをされていたことを思い出す。



髪の毛の時もあれば、頬だったり、限りなく唇に近かったりと、

もう、夢だか現実だか訳が分かんなくて、

きっと自分の夢の中のこと、

妄想が見せた気の迷いだろうと、

深く考えることを敢えて拒否していた。



それが現実だと教えられた時に、

撩自身も苦しんでいた想いが、波のように心に流れ込んで来た。

お互い、相手のためだと思い、気持ちを交わすことから逃げていた。



今までの関係を壊し変えられたことが、まだウソみたい…。



このままだと、本当にこの部屋は、客間専用になっちゃうかも。

と、とにかく、服持ってシャワー浴びなきゃ。

タンスを開け、

ジーンズとパステルカラーのシャツを選び、

慌てて部屋を出る。



何だか最近、お風呂の頻度が高いわ。

夜は入らなくてもいいように、

今日の後半の動きはなるべく汗をかかないようにしなきゃ。



あたしは、大急ぎで

浴室に入って熱いお湯を全身にかけた。



ん?ちょっと待って。

今夜は、海坊主さんと一緒に、密輸阻止の本番の日よね。

そんな日に、撩に家のことしてもらうなんて、できないわよ。

さっさと出なきゃっ。



超特急で、髪の毛を洗って、全身を流し、脱衣所に向かう。

ドライヤーで髪を乾かし、歯を軽く磨いて、服を着込むと、

洗濯機のスイッチを入れる。



そのまま客間に飛び込み、軽く化粧水や美容液を施す。

メイクとまでは言えない簡単な作業。

ルージュを使う習慣は殆どないので、絵梨子からもらったものも、

もったいないけど殆ど使ってない。

墓地に行った日だけは、心の正装を意識して薄く施したくらい。



今までの経験から、

あたしが化粧をすることを撩はとても嫌がっているのは分かっている。

鏡の前で、ふぅと溜め息をつく。



「何をしても無駄なのも、分かってるけどね…。」



早く動かなきゃ。

あたしは、足早にキッチンへ向かった。


***********************************
(4)へつづく。






【またまたちょいと長めの関連考察】
いやー、カオリン確かに混乱困惑しまくるでしょうね〜。
奥多摩の結婚式の前のストーリー(橘葉月編)は、
ヒグラシが鳴いていた夏中盤。
(ミックと自販機の前で会話する背景にヒグラシのカナカナ効果音あり)
美樹の結婚式は一応当方のイメージでは11月上旬。
で、この3ヶ月強の期間、
きっと変わりない生活をしていたと思うと、
奥多摩直後に一線越えちゃって、子作りの話になっちまったら
そらぁ〜思考が追いつかなくなるのも当然だわな。

ソニア編での公園ハグの後も進展なし、
海原戦のガラス付きちゅうの後も、何にも変化なしで、
さらに、病院の屋上で「種族維持本能じゃない」という文言を聞いていても、
その後なぁ〜んにも撩のアクションがなかったら、
「やっぱり期待しちゃいけなかったんだ…」とか、
「やっぱりあの時『妹みたいになってくれや』と言われた通りなんだ…」とか、
カオリン、ブルーに自己解決しちゃうだろうし。
仮に、撩がこの3ヶ月強の間、
それとなぁーく、アピールしていても
自分のことに関して超超鈍感なカオリンは
全く気付かない可能性大だろうし〜。

今、こうして一日一日の2人の生活を文字にしていると、
進展なし数ヶ月っつーのは、
想像するだけでも、結構ソーゼツかもぉ〜と。

多くの二次創作で奥多摩後の進展なし状態は、
ワタクシにとっては、
この1991年8月〜11月の間に相当しているかもと感じております。
もやもやモードでの数ヶ月間変化なし、
そろそろマジで限界じゃ〜、溢れる寸前っというところに、
事件発生拉致監禁救出告白ちゅう合体の流れは、
美樹の結婚式での事案に重ねちまってもよかろうと。
起爆剤としては、あまりにも贅沢過ぎるシチュですがね〜。
あんな表情で「愛する者」って言っちまったら、
もうごまかせないっしょ。
しかし、あのセッティングをモノにできない撩は、
ソートーのヘタレの烙印ポン!です。

まぁ、それも撩ちんらしく、
奥多摩後、進展なしバージョンも大大好物なので、
考えうる複数の未来を楽しませて頂いておりま〜す。

08-03 Hope (side Ryo)

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(3)Hope (side Ryo)*************************************************************3746文字くらい



「ところでさぁ〜、ちょぉ〜っとくらいは、

俺とこうなることを見越して飲んでいた訳じゃないのぉ?」



いきなり口調を変えて軽いノリで聞いてみた。

目的語は、もちろんピルのこと。

香は目を見開いて俺を見つめる。

すると細い柳眉が切なく八の字になった。

目を伏せ再び俺の胸に額をすり寄せ身を預ける。



「……み、見越して、なかった…。」

「はぁ?本当かよ?」

香はがばっと顔を上げた。

「ほ、ほんとよっ!だって、だって、撩はっ…。」

そこで止まってしまい、しばし沈黙が流れる。



「……だって、撩は…」

押し殺した香のか細い声。

「あの、…船であったことを、

……なかったことに、するのがいいような態度だったし…。」

初めて香から記憶があったことを打ち明ける揺れる声。

伏せられる瞳。



「……あたしを完全に女として見てないんだって、思ってた、から。」



つきんとまた胸に痛みが走る。



「仕事上のパートナーとして、それ以下でも、それ以上でもないって、

ずっと自分に言い聞かせて、た…。」



さらに香の声が小さくなる。



「……撩とこうなるなんて、……絶対あり得ないだろうって思っていたから、

……あんたは、……そんな関係を、望んでいないって、

……思っていたから、

……本当に、……撩とのことを、…考えて、飲んでいた訳じゃ、ないの…。」



俺は盛大に溜め息をついた。



「な、なによっ!撩よりも、

どっかのチンピラにバージン奪われる可能性のほうが

よっぽど高いって思っていたから、ちゃんと身を守らな…っ。」

俺は唇で香の口を塞いだ。

聞くのが辛い。

自分から聞いたのが大馬鹿だった。

「んん…。」

香が言おうとしたことを吸い取るかのように、深いキスをした。

香の体が小さく震える。

じっくり温度をあげてから、

ちゅっと音を立てて、そっと唇を離した。




「……お前、ピル飲んでることバレないように、相当努力してただろ。」

「!!っ……し、知ってたんだっ。」

茹で上がった顔のまま素で驚く香。

「んー、気付いたのは少し後だったがな。」

視線が泳ぎ、伏せ目になった香は小さく続けた。

「た、確かに必死に隠していたけど…、

りょ、撩に、その、き、き、期待してるって、

思われるのがイヤだったから、

だ、だから、も、もうこっそり飲むのが、しゅ、習慣になってた、し…。」

はぁと香は深く溜め息をつく。



「ほ、ほんと、かずえさんの言う通りだわ…。」

「なんだよ。」

「あんたが、とっくに知っていたってこと。」

「そりゃな。」

「……じゃあ、……も、もしかして、

一昨日も、そ、その、………ピルなしでも、大丈夫、だった、のは、…わ、分かって、た?」

「もっちろん。」

俺の速答に、香が更にかぁーと朱に染まる。

ちょっと直球で言い過ぎたか。

「香ちゃんの女の子の日は、匂いが微妙に違うから、

大体リズムが分かっちゃってるの、ぼくちゃん。」

香は、増々全身を赤くした。



俺は、香の髪の毛を梳きながら、抱き込み直し、

初めての時に考えていたことを、今伝えることにした。

避妊具なしで身を繋ごうとしたとき、

もし命を授かったら、

それを受け入れる覚悟を持っていたことを。



俺の血なんて、残す必要は全くない。

命のバトンなんて、己で途切れてしまえばいい。

女を孕ませるなんて、もっての他。

数多(あまた)の命を奪い去ってきた自分にそんな資格なんぞ

持つことも考えることも許されるはずがない。



そう考えていたことが、

見事に逆転し、

香となら全てを受け入れられると、あの瞬間思考の大改革が起こった。



多分に、この2、3年未成年のチビたちが、

自分たちの生活空間に出入りしていたことも、

自覚していなかった父性本能なんぞを引っ張りだしていたのかもしれない。



香となら『そういう未来』も悪くはない。

あの時、本気でそう思ったのは間違いない。



俺は、すっと息を一息吸って、ゆっくり口を開いた。

「あのな、香、……もし、……お前が望むんであれば、

……ピルを飲むのをやめてもいいんだぞ。」

はっと香が顔を上げる。

「りょ…。」

抱きしめる腕に力を込めた。




あ〜あ、言っちまったぁ〜。

自分の甘甘なセリフに、耳が熱くなるのが分かる。

香と目を合わせられず、胸にわざと抱き込んだ。

って、胸がどんどん濡れて来るじゃねぇーか!

そんなに泣くなよぉ、香ぃ〜。



「…………め、……なこ、と。……出来ない。」

「か、香?」

嗚咽と共に小さく答える香。

細かく肩が震えている。



「……もう、……あたしの、中では、……ずっと前に、

……決着が、ついているの。

その話し、は、……望む、べきものでは、…ない、って…。」

顔を伏せたまま、涙声で途切れ途切れに単語が繫がる。



なぜと、聞きたかった。

しかし、返って来る言葉は、容易に想像がついた。

また、自分が足手纏いだと言い、自分さえも守れないのに、

更に守るべきものが増えたら、俺が傷つくと。

パートナーとしていられなくなるとも思っていたかもしれない。

香は、とっくの昔に、それを悟り、完全に望みを捨てていたのだ。

俺のパートナーであり続けるがための、一つの犠牲として。



真柴由香里の時以降、

香が折々に小さな子供や同年代の親子連れを見ては、

沸き上がる羨望を抑え、切ない表情をしていたのを知っている。



女性としての権利を捨てさせていたのは、俺自身。

俺は…、一体どれほどの、権利や希望を香から奪っているのか…。

もう捨てさせたくはない。

お前の人生を背負う覚悟はもう出来ているんだ。

だから…、

もう捨てなくてもいいから。



「……香、……お前が望む未来を、…諦める必要はない。」



暫しの沈黙の後に、俺が零したセリフで

香が少し震えながらゆっくり顔を上げた。

真剣な表情と目でじっと見つめる。



「りょ…。」



困惑の表情をした香は、目元が涙でぐちゃぐちゃになっていた。

香の頬を左手で包み、人差し指の背で涙を拭う。

そっと瞼に唇を寄せると、香は大人しく目を閉じた。



俺の覚悟を、ちゃんと受け止めてくれ。

香の体がやや強張る。

「時期が来たら、また考えればいいさ。」

「りょ…。」

そっと開いた瞼。

視線が絡む。



香の体が今度はふるふると小刻みに震え始めた。

大きな瞳から、ぼろぼろとこぼれ落ちる大粒の涙。

もったいなくて、優しく吸い取っていく。

その温かい滴が持つ塩分でさえも愛おしい。



「ヒック、りょ…、ヒック、…、ヒック。」



たぶん、気配からすると、悲しみの涙ではないはずだ。

声を殺した鳴き声が、嗚咽がしばらく続く。

たぶんに、相当苦しい決心をしていたんだろう。



「あー、でもガキは、も少し後がいいなぁー。」

ちょっとだけ軽い口調で言ってみる。

「え?」

「生まれたら、おまぁ付きっきりになるだろ?

ボクちゃんほったらかしにされるかもしんないしぃ〜。」

額に口づけを落とす。

「だ〜か〜ら〜、しばらくは、俺たちだけで楽しみたいな〜っと」

「………ば、か。」

ぐずっと、鼻をすすりながら、香が微笑んだ。

「今更だろ?」

「……んとうに、…ば、か、なんだ、から…。」



こんな危険な世界に生きる闇を背負った男にとって、

家族を持つこと自体が、自らのリスクを大きく増幅させる、

そんなことは、もちろん承知済みだ。

普通だったら、そんな甘ったれた愚かしいことは選ばないだろう。

考えうるありとあらゆるリスクを跳ね返す自信がなければ、

香にこんなことは言えない。



ただ、香と共に生きていくことを決心してから、

内的な精神面の強さと、

物理的かつ本能的なエネルギーが高まっている自覚がある。

半端な関係だった頃とは比べ物にならないくらいのそれは、

自分でも想定外の変化だ。

あの湖畔で告げたことに偽りはない。

何が何でも生き抜いて、お前の未来を守り通す。

だから、安心して俺の傍に居て欲しい。



俺は深く香を抱き直した。

「りょ…、まだ、…言って、なかった……。」

「ん?何を?」

「お、はよ。」

涙でくしゃくしゃになった香の微笑みを見ながら、

ミラー効果で、俺も薄く笑った。

「おはよう。香ちゃん。」

ぎゅっと抱き込む。

細い体から水蒸気が上がる。



「……腹へってないか?」

「え?」

「もう、昼前なんだけど。」

「う、うそっ!」

「嘘じゃねえって。」

「はぁ〜、どうしてぇ?」

「何が?」

「……ここで、寝ると、…ちゃんと、…起きれない…。」

がっくりと力を落とす香。

「いいんじゃない?」

「だ、だ、だめよっ!あたしは、朝起きてから、

料理とか、ゴミ捨てとか、掃除とか、洗濯とか、伝言板とか、

色々することがあるのにっ!」

抱き込まれたまま、真顔で抗議する姿がまた可愛らしくて。




「そんなのは、俺がしておくって。」

「え?」

「だから、気にしないで、目が覚めるまでゆっくり休め。」

「りょ…。」

「で、もう起きるか?」

「……な、なんか、やっぱり、

あんたが、あたしにそんなセリフ吐くなんて、なんか、…気持ち悪い。」

「あぁ?」

「……やっぱり、当分、…かかりそう。…慣れるのに。」



俺は、くすりと笑って、上半身を起し、

右手で香の頭部をくしゃっとした。

「先にシャワー浴びてこいよ。その間に、メシ作っとくから。」

「撩…。」

俺はベッドから足を降ろすと、トランクスだけ履いて、立ち上がった。

背中に視線を感じる。

自分のシャツとズボンを引っ張り出し、さっさと着込んだ。



ふと思い立って、ベッドの周りの香の服を回収して、

横になっている香の横にぱさりと置く。

「トーストでいいよな。」

ベッドサイドに右手をかけ、身をかがめ、左手で香の右頬を包み、

軽く唇に触れた。



すぐ赤くなる反応は、なんとなく暫く続いて欲しいと思ってしまう。

こんなことをしている俺の姿は、昔の俺からは全くのイメージ外。

一体誰だコレと言いたくなる。



「おまぁも、早く降りてこいよ。」

湯気を出している香からそっと離れて、

先に部屋を後にした。


***************************************
(4)につづく。





うわー、撩が甘甘ですぅ〜。
「時期がきたら、また考えればいいさ。」のところは、
カラス越しのキスをする直前の見つめ合う二人の
表情で代用して下さいませ〜。


【ちょいと長いですが撩と香の子供の有無について語っちゃいます】

実際、現在子育て中の自分を振り返ると、
あまりにも、社会的にかかわる部分が多くなり、
あんな生き方を選んだ2人が子供を持つことは
以前は前向きにイメージできなかったのですが…。

一線越えたら、この事案を無視することは出来ないでしょうし、
撩自身も責任や覚悟を決意しての行動だと想定すると、
香となら全てを受け入れられるというコアも持っていてもおかしくないかと。

さらに、
実生活で娘さんを持つ北条さんのことや、
AHで娘を持つ撩の姿、
これまでにCHで登場した子どもたちと撩のやりとり、
美樹の「いいなぁ…ね ファルコン わたしたちもこういう子がほしいわね」(第216話)と
するりと出た子を持つことに肯定的な発言、
香自身が子供好きであることを撩が分かっていることなどを総合的に見返すと、
香が30歳になる前までに、
この2人の気持ちが、
自分たちの愛の結晶を作りたいという心理になっても、
また家族を作りたい、増やしたいという気分になっても、
不思議ではないと感じるようになりました。

ワタクシの中では、原作終了時(1991年11月)の2人の年齢は、
香26歳、撩32歳、もうすぐ27と33。
(とりあえず、香プロデュース採用で撩と北条さんの年齢は
 リンクしているという設定ですが。←訂正しました:25と31で書いてましたが26と32で)
その後3、4年くらい2人でいちゃついていれば、
そろそろどうする?と考えてもいいのかもと思います。
その間に美樹やかずえが出産するかもしれないしぃ。

最大の敵とも言えるユニオンも再活の恐れが限りなく低い背景も加味し、
教授のサポートの存在もあれば、
躊躇いに繋がる要素はかなり小さくなってくるはず、と。
仕事が入っても教授宅に、キャッツに、ミックのところにと
お互い託児ができるでしょうし〜。

子供ができれば、
当然お父さんはどんなことをしている人なの?
と家族内でも外部からでもその疑問は降り注ぐ訳で、
まぁ、これまで通り「ビルの管理人」でもいいでしょうし、
ビラ配りで既に発信している「よろずや探偵業」兼業でもいいでしょうし、
戸籍上は撩が記載されなくても、
法律上は「槇村○○ちゃん」もしくは「槇村○○くん」でどうにでもなるでしょうし、
芹霞さんの「フランス婚」的親子の位置づけ採用ならば、
全く問題なさそうだし、
戸籍復活が法律上可能でも、
撩はそれを選ばないだろうしぃ、と
こちらも妄想をしていくにつれ、
子持ちキャラへの移行に箍が外れてしまいました。

そして何かきっかけさえ出てくれば、
「撩、あ、あの、ね…」とかわいく子供を欲しがる香に
撩ちゃんはノックアウトではなかろうかと。
きっと必要以上に頑張りそうですが〜。

個人的には、すでにかずえと美樹が母親になっているところに、
たまに、2人の子供を預かったりして、疑似体験しちゃってから、
神宮寺遥ちゃんあたりに再登場してもらって、
彼女が結婚し、かわいい赤ちゃんを世話している姿が、
話題のきっかけとなり、
子作りの起爆剤になったら面白いかも〜と。

ただね、ケニーとソニアの一件が撩にとって
けっこうトラウマ的なんじゃないかと。
せっかく幸せな父親と可愛い娘の姿を目の当たりにし、
同業者のケニーが家族を思う愛と、
家族を持つからこそ得られる強さを
この時少なからず感じていたと思いますが、
結果、その親子を引き裂くことになってしまったので、
大事なものは作るべきではないと、
更に心を固める事案であったかもしれません。
この経験を前向きに受け止めるのは、
かーなり苦しそうです。
しかし、もし同じようなことに撩が巻き込まれたとしても、
きっと最善の選択肢で無事解決できるスキルはあるはずと
踏んでいます。
そーゆーことが複数回発生しても、
それを乗り切れる精神力もきっとこの2人には育っていると思いますがのう。

長くなりました〜。
こーゆー妄想が楽しくって〜。

SS-02 Dentist (6)

Dentist


(6)******************************************************************************1520文字くらい



「ただいまー!」

1階の扉が開く気配から感じとっていた撩は、

朝、香と会っていないので、

穴埋めがしたくてしょうがなかった。

玄関から聞こえる元気な声にほっとする。

L字ソファーの角にもたれながら、んーと伸びをして、

「やっと帰って来たか……。」

と、一人呟く。



本当は、歯科までそっとついて行きたかったのだが、

また情報屋やミックにそんな姿を目撃されたら、

どんなウワサを流されるか分かったもんじゃないと、

じっとアパートで我慢していたのだ。



さっきの元気な声とは対照的に、リビングの戸がそっと開く。

「…りょ、…ただいま。」

おとなしげに、扉から顔を出した香。

撩は、少し顔に赤みがかっているのに気づいた。

(まさか、風邪じゃないよな。さっき元気よかったし。)

「おぅ、どうだった?」

撩は、早く香を抱き寄せたいと、

自分の隣のクッションをぽんぽんとたたいて、

座る席を指定した。



香は、ゆっくり撩の右隣に座って、指を膝の上で組んだ。

「うん、すごく丁寧に診てもらった。」

今すぐにでも撩に抱きつきたいと思っていたけど、

そんなことをしたら、きっと呆れられちゃうと思い、

なんとか自制していた。

「ものすごく美人な歯医者さんだったわ。」

見たままのレポート。

「なに?もっこり美人か?」

「そう、撩好みの3人姉妹。他の職員さんもみーんなモデルさんみたいだったわ。」

香も見惚れるほどの可愛いタイプや美人タイプが忙しそうに働いていた。

「なにー!今度は俺が虫歯になって行くっ!」

拳に力を入れる撩。

「残念でした。女性患者限定の歯医者さんなんですって。」

「そっか…、撩ちゃん、ざんねーん…。」

わざとらしく落ち込む撩に、香はクスッと笑う。



(ああ、もうだめ…。)

「……撩。」



ソファーのコーナーに向き合って座る2人。

ゆっくりと香の細い腕が撩の逞しい胴にまわる。

香は頬を撩の厚い胸板に預けて、はぁと一息つく。

撩は、リビングに入ってきた時から、

香の様子がいつもと違うことを何となく勘付いていた。



「かおりちゃーん、どーっしちゃったのかなぁ?」

とりあえず、おちゃらけて聞いてみる。

「…撩、…知ってたんでしょ?女性オンリーの歯医者さんだって。」

一瞬、撩の胴がピクッと動くのが分かった。

「とても、いい歯医者さんだった…。」

「…香。」

「安心して治療してもらえた…。」

ふっと優しい表情になった撩は、腕をまわして香をそっと包む。



「ありがと…、撩…。」



香は、撩の心拍数がわずかに上がるのを、

熱い大胸筋越しに聞こえる心音で感じた。

撩は、他の男に香の口や唇、ましてや口腔内を触られたくなかった。

香は、診察を受けながら、触ってるのが女性でよかったと、心底安堵した。

受付嬢の説明の後、藪さんやミックの話しから、

全てが撩の配慮と気遣いであったことを知り、

それがうれしくて、うれしくて、自分ではどうしようもないくらい、

気持ちを持て余していることを感じていた。



そして、医師の葵に診察中に触れられた指や器具の感触が撩を思い起こさせ、

今はただひたすら、

自分が撩との触れ合いを求めていることを思い知らされているのだ。



「……香。」



頭の上から撩の低い甘い声がした。

ふっと見上げると視線がからんだ。

撩の少し乾いた指が香の唇をゆっくり撫でる。

初めてじゃないのに、その刺激の大きさは、まさに最大級モノ。

撩に触れてもらっている。

それだけで、カーッと顔が熱くなり、心臓がバクバクと激しいリズムを刻む。

二人の心音が同調する。



「…おかえり…。」



その言葉と同時に、撩の唇が降って来た。

お互いを抱く腕に力がこもる。



(そう、これが欲しかった…。)



香は、溶けそうな頭の中で、素直にそう思った。



************************************************
一応ここでENDのつもりが、
「その後」を作ってしまいました〜。
(7)へつづく。2012.11.12





このあと、当然撩ちゃんに美味しく頂かれちゃうカオリンであった。
ちーとばっかし、実体験入っちょります。
2万Hit記念、駄文妄想にお付き合い頂きありがとうございました〜。
調べてみたら、加茂歯科医院さん、けっこういっぱいあるみたいですぅ。
エンブレムもみなカモシカ、もしくはシカっぽい。
考えることが一緒で、なんか嬉しいぞぉ。

SS-02 Dentist (5)

Dentist


(5)****************************************************************************** 3603文字くらい



「予約時間は9時だったわよね。」

香は、寝不足がちな目をこすりながら、

朝食の準備と、掃除、洗濯を進める。


昨晩、遅い夕食を食べ、遅い入浴と思っていたら、

お風呂でも仲良しタイムになり、

またそのまま撩の部屋へ拉致された。


幸せな時間には、間違いないが、翌日に予定を控えている身としては、

多少の選択権が欲しいところ。

しかし、本当に疲労困憊している時やケガ、病気、生理中の時なんかは、

ちゃんと弁(わきま)えてもらっている。

(こうして、動けるということは、

あいつも私の余力を計算した上でことに及んでいるのかしら…。)



「はぁ、眠い。」

まだ部屋から出てこない相方。

香は、撩の朝食にラップをかけて、置き手紙を残して、家を出た。

(昼前には戻ってこれるわね。)



駅に寄り、伝言板を見た後、

昨日もらったメモの歯医者まで、徒歩で行くことにする。

駅の反対側、比較的近い場所だ。



「ここか。」



シンプルな作りのビルの3階に加茂歯科医院はあった。

予約時間の10分前に受付窓口に到着。

多くもなく、少なくもなく患者が待合室で各々順番を待っている。



「薮さんとミックのお勧めって他と何が違うんだろう?」

確かに、花や観葉植物、上品な絵画が飾られ、

流れている音楽も、θ波(しーたは)が脳から出そうな心地良いゆらぎの曲。

椅子や壁紙も、まるで歯科医院とは思えない、女性好みのお洒落系ばかり。

(こういうところが違うのかな?)



問診票を書き初診の手続きを済ませ、呼ばれるまで待つことに。

と、香はふと気づいた。

(女性の患者さんが多いわね。)

違う。多いというのは間違いだ。正確には女性しかいない。

(へぇー、こんなこともあるんだ。)



特に気にせずに、近くにあった雑誌を手に取り、順番を待つことにする。

そんなに長く待たされることなく、

「槇村香さん、2番へお入り下さい。」

と促される。

最初に、初診ということでレントゲン室に通された。

歯を固定するために、消しゴムサイズの紙質の塊を噛み、撮影してもらうこと数枚。



「では、3番の前でお待ち下さい。」

案内された場所は、久しぶりに見る治療台。

小学校の時の検診か何かで、行ったきりの歯医者さん。

キーンという他の患者さんが受けている治療の音に、思わず身がすくむ。

ふと、まわりを見渡すと、女性だけ。

女性だらけと言ってもいい。

治療している医師も歯科衛生士もみな美人だ。

(あれ、男の歯医者さんはいないの?)



ちょっと気になり始めたところに、声がかかった。

「槇村さん、どうぞこちらへ。」

治療台に緊張しながら座る。



「初めての方ですね。私は、ここの医院長の加茂葵といいます。」

撩好みのもっこり美女に、香はつい緊張してしまった。

「よ、よろしくお願いします。」

「ここは、私たち3人姉妹で医師をしていまして、あそこで治療しているのが妹たちです。」

香は、左となりに目を向けた。

同じような診察台があと2台ある。

「へぇー、ご姉妹で同じ道で同じ職場ってステキですねー。」

素直に驚く香。

「歯医者って恐怖を感じる場所の一つなので、

みなさんに少しでもリラックスして過ごしてもらえたらと思っています。」

葵はニコっと微笑んだ。

「じゃあ、さっそく診せてもらいますね。椅子が倒れますのでご注意下さい。」

モーターの音と共に、背もたれが20度程まで傾く。

そばにいた助手らしき女性が、香の顔にそっと不織布のような生地をかぶせる。

明るさを保ったまま視界が塞がれた。



「では、お口を開けて下さい。」

香はあーんと口を大きく開いた。

「最初は、一通り全部の歯をチェックしますねー。」

「ふぁい。」

口を開けたまま返事をする香。

葵の指が、口の端にあたる。

そっとやさしく触れてるのが分かる。

あの小さな丸い鏡のついたスティックが、

自分の歯茎の側面を滑っていく。



突然それが、撩の舌の動きと重なった。

いきなり思考が撩との甘い情事に向いていく。



(や、やだっ!あ、あ、あたしったらっ!こんな時、何考えてんのっ!)

赤くなったのが、自分でも分かった。

そんなことを感じていると、ふわりと目隠しが取られた。

「はい、一度そこのコップでお口をすすいで下さい。」



突然の放熱を沈めたくて、すすぎ用の水をそのまま飲みたくなったが、

かろうじて、すすぐ目的のみに使った。

香は、大人になってから、

口のまわりを撩以外の人にこんなに触れさせるのは、

初めてのことで妙に反応している自分にかなり困惑した。

「とてもいい歯並びで、お手入れも丁寧にされていますね。

歯石もないですし、美しい口腔ですわ。」

いきなり褒め言葉が並び、また香は驚いた。



「そ、そうですか?」

特別きれいに磨こうとしていたのではなく、ごくごく普通にしていただけなのだが、

歯の専門医にそう断言され、どことなく照れくさかった。

(そっか、私は並びいいんだ。あまり気にしたことなかったわ。)

「問診でありました、上の奥歯の黒い点ですが…。」

(そう、それをとってもらいにきたのよ!)

香は、本来の目的を思い出した。



「よく見つけられましたね。

本当に小さくて、肉眼でぎりぎり見えるかどうかのサイズです。」

(え?だって、うがいするとき、上向いたら見えたんだけど。)

「この大きさなら、ほんの少しだけ削って、

再石灰化を促す薬剤と歯磨き粉で対処できます。」

「そうなんですか?」

葵は、再び不織布をそっと香の顔に被せた。

「では、さっそく処置をしますね。そのまま口を開けていて下さい。」



香は、言われるがままに開口する。

唇に葵の指がつっと触れる。

頬の内側に、長い指が入っているのが分かる。

大口を開けて、目隠しをされ、されるがままの香は、

口の中で、器具や医師の指が動いていることに、違う刺激を感じ、

だんだん恥ずかしくなってきた。



(はぁ、撩の舌がほっぺの内側に入っている時に、感覚が似ている…。)

また下唇を葵の指がつと触れた。

どきっとする香。

改めて医師が女性で良かったと、この医院を紹介してくれた薮さんに感謝した。

これが、男の医師だったら、きっと色んな意味で耐えきれなかったかもしれない。



(撩以外の男の人の指が自分の口に入ったり、

唇と指が触れるなんて想像もしたくないわ。)



そんなことを考えているうちに、

香は無性に、撩とキスをしたい甘い衝動にかられていた。

(な、な、なんで、こんなこと考えちゃうの?)



虫歯を削るための道具が、患部に当てられ、

キーンと高い音を出して、歯と接する。

香は、思わず目をきゅっとつむたが、

「はい、これで虫歯は削り取れましたから。」

とあっという間の葵の処置に、また驚かされた。

「あとは、再石灰化の為の薬剤を塗りますので、もう少しそのままでお願いしますね。」



先が鍵になっているスティックが歯に当たるのが分かる。

丁寧な動きであることが、シロウトながら伝わってくる。

その時も、葵医師の柔らかな細い指が、口の周辺や頬に触れ、

香はまた脳がトリップしそうになった。



「はい、終わりました。お疲れ様でした。」

治療台が自動で起き上がり、香の上半身が床と垂直になる。

「また、お口をすすいでくださいね。」

「あ、はい。」

ライトを動かしながら葵は優しい表情で語りかけた。 

「また様子を見たいので、次回の予約を受付で確認して下さい。

1週間後くらいでいいですか?」

葵の笑顔にどきっとしながら、香は答えた。

「は、はい。お世話になりました!」

前掛けをはずされ、看護士に促されて、待合室へ移動した。



「ふぅー。」

香は、どきどきしながら、そっと自分の唇を指で撫でた。

(撩に触れて欲しい…。)

と、思ったとたんにボッと顔が赤くなった。

(ほ、ほ、ほんとうに、さ、さっきから何を考えとんのじゃあ〜)



「槇村さん。」

「ぁ、は、はいっ。」

受付から呼ばれ、ちょっとドキッとする。

あまり待たされずに、支払いと予約の手続きをする。

再石灰化を促す歯磨き粉が処方され、説明を聞いた。

おつりを受け取る時、香は受付の美女に尋ねた。



「ここは、女性に人気なんですね。患者さん、みなさん女の方で驚きました。」

受付嬢は、クスっと笑って答えた。

「あら、入り口の看板ご覧になりませんでした?」

「え?」

「この加茂歯科医院は、女性専用の歯医者なんです。」

「ええ?女性専用?」

「はい、男性の歯医者さんが苦手な女性のために、

職員も全員女性で、患者さんも女性のみ受け付けております。」

「へぇー。」



「理由は様々ですが、

男性に治療されることに抵抗をお持ちの女性の方が結構いらっしゃるので、

院長がかねてから、

女性が安心して心地良く治療を受けてもらえるように、

思案して始めた取り組みですなんです。

全国でも珍しいみたいですね。」



香は、今日何度驚かされただろうかと、初めて知った事実に、

なるほどと痛く感激した。

最初に女性が多いなぁ、と思ったのは気のせいではなかったのだ。

薮さんやミックが勧めた理由と、この受付嬢の話しが合致した。

そして、同時に撩の気持ちが胸に流れ込んで来た。

香は、うれしくて、受付嬢もはっとするような笑みで、答えた。

「本当に有り難いわ。来週もよろしくお願いしますね。」

と、幸せな気分で加茂歯科医院を後にした。



(早く撩に会って、

頬でも髪でも唇でもどこでもいいから、

撩に感謝のキスをしたい。)

そんな気持ちで一杯だった。

香は、頬を染めたまま小走りに近い歩みでアパートへと急いだ。



************************************************
(6)につづく。






歯科医 加茂葵(カモアオイ)の名前は、
ウマノスズクサ科のフタバアオイの別名からもらいました〜。
ずばり種名が苗字や名前に当てられているのに勝手にときめくワタクシ、
オリキャラもそれで統一したいと密かに目論んでおりますが、
そうそう出演はないかも〜。
しかし、加茂で始まる他の植物は
カモガヤとか、
カモジグサとか
カモノハシとか(動物だけではなく植物にもこの名があるのだ!)、
どうひねっても人の名前にならんもんばっかで、
結局、葵ちゃんつけちゃいました。
ちなみに、みんなに嫌われている?プリンセス優希の
及川姓も「オイカワ」って魚がいるので、
名前だけは好きなのよ。

08-02 Contraception (side Ryo)

第8部  Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(2)Contraception (side Ryo) ***************************************************2866文字くらい



「……すまなかったな。お前に、言う前に…、中で出しちまった。」

俺は、香の髪を撫でながら謝罪を伝えた。

「……ううん、大丈夫。」

一瞬どこか躊躇う表情が見えたが、すっと息を吸って決心したように、

香は口を開いた。

「……ちゃんと、飲んでるから…。」

初めて香がピルを飲んでいることを自ら俺に吐露した。



さて、どうしようか。

前から知っていたと言うべきか、

今初めて知ったと芝居をするか。

考えているうちに、香からまた話し始めた。



「そ、それにね、教授からね…、教えてもらっていたの。」

「教授から?」

「あ、あの、きょ、教会でね、…傷を診てもらっている時に。」

ああ、あの時か。

「撩もあたしも、……何も、問題ないから、……安心しろって。」

「……そうか…。」



俺は目を閉じて香を抱きしめ直した。

自分の生活の日頃が日頃だし、過去も過去なので、

恐らく、何も知らないままだったら、

香に余計な心配や怯えを与えていたのかもしれない、と

今回ばかりは教授の計らいに感謝した。



「でも、おまぁが嫌だったら、ちゃんとゴム使うぞ。」

「ゴムって?」

がくっと脱力した。

この言葉から教えなきゃならんのかぁ?



「ああもうっ!避妊具のコンドームのこと!」

「ああ、それね…。高校の時に保健体育で習ったけど、

でもなんでゴムって言うの?」

香の素朴な質問に、

いかにこの女が色事に関して縁遠いものであったかを思い知る。



「基本成分が天然ゴムで出来ているせいだろ。

パッケージも輪ゴムが入っているように見えるし。」

「あたし、見たことないからわかんないけど、輪ゴムみたいなの?」

「気になるんだったら使ってみるか?」

片眉を上げて、半分冗談、半分本気で言ってみた。

「ぅぅ…。」

香は赤くなって口をつぐんだ。

「……りょ、撩は、……どっちが、ぃぃの?」

「へ?」

俺に質問を返すのか?

「そりゃ、何も隔てるもんがないほうがいいけどな。」

素直に答えてみる。

「じゃ、じゃあ、…使わなくても、いいよ。」

「お、おい。」

思わず身を起こした。



「ぁ、ぁたしも、……間に、なにもないほうが、ぃぃ…。」

お前の言葉は嬉しいが、

避妊を全面的に香に委ねる形に少なからず抵抗を感じる。

お前にばかり責任をなすりつけるようで、

胸にちくりとくる。



その一方で、今まで殆どナマでしたことがなかったところに、

最愛の相手と小道具なしで中に放出しまった快感は

はっきり言って捨て難い。

欲と責任がせめぎあう。



「…あのね、…今まで、ずっと黙っていたんだけど…、

実はね、…ピルを、…飲み始めてから、…もう3年くらい、たつの。」

香がまるで懺悔をするような面持ちで話し始めた。

「…きっかけは、生理痛だったんだけどね、

使うのを真剣に考えたのは、…結構前なの。」

香は目を伏せゆっくりと続けた。

「…冴子さんの依頼で、アスレチッククラブであたしが捕まった時に、

この仕事を続けるなら…、必要かもって思っていたの…。」



随分前の話しだ。

香は、あの時3人の男に危うく貞操を奪われるところだった。

俺が助けに来るのがあとわずかに遅かったら、

一体どうなっていたか、苦い過去の記憶に思い出すだけでも

ぞっと身震いがする。

きっと香もそれ以上の恐怖を感じていたに違いない。



「…実際に飲み始めたのは、

柏木さんのボディーガードの依頼の時からだったんだけどね。

…あたしが油断したせいで、ホテルに攫われたじゃない。」

男装した柏木圭子のことを思い出す。



あれも、初対面から女だって気付かない振りするの結構大変だったんだぞ。

アカデミー賞モンの演技に自画自賛だぜ。

水道管ぶち抜きの件がなけりゃ、

俺も終始圭子を男扱いするつもりだったんだが、

そうもいかなくなって、もっこりモードに切り替えたんだよなー。

あの時、初めて香に発信機のことを話したっけな。



「…アスレチッククラブの時は、…まだ身動きできて、反撃できたけど、

…あの時は、ベッドで雁字搦めだったから、…抵抗できないまま

襲われたらどうしようって考えちゃって…。」

ぎくりとする。

あの時、すぐに隣の部屋に入ったら、ちょうど圭子がロープをほどこうとしていた。

完全に自由を奪われていた香の姿を思い出し、

もしそれで、あの男が覆いかぶさっていたとしたらと、

リアルな想像が浮かび、一瞬血圧が下がる。



たまたま敵が、手を出さなかったから良かったようなものだ。

一刻でも早く居場所を特定するために、

発信機をチャッチできる最短ルートを割り出し、

間違いが起こる前にと、内心は大きく焦っていた当時を思い返す。



腕の中で、目を閉じながら静かに語る香が小さく儚く見えてしまった。

そっと肩を抱き寄せる。

「…あたしのような、…女か男かわかんないようなのに、

欲情するヤツなんていないだろうって、…思っていたけど、

悪い方ばかりに想像が膨らんじゃってね…。」

俺の胸に顔を埋めながら、香は続けた。



「……いくら、……男言葉使って乱暴な振る舞いしてても、

……体は女でしょ。

いつ、どんな間違いが起こるか、…分からないし、

もし、起きても、……望まない子ができないようにしなきゃ、

って思っていたところに、

かずえさんが、生理痛にピルが効くこともあるって

アドバイスくれたの。

性病がうつされる危険はピルでは避けられないけど…、

避妊の方がまずは重要だと思って…。」



少なからずショックを受けた。

ただの生理痛緩和のための服用かと思っていたら、

繰り返し連れ攫われる香の経験から、

自分なりに身を守るための策という意味合いをしっかり含んでいたのか…。

抵抗できないまま襲われる可能性を考えていたとは…。

胸が、握りつぶされそうだ…。



「そ、それにね、もし長期間拉致されても、ちゃんと飲めるように、

荷物とか靴とか服に、小分けで隠して持ち歩いてい…。」

俺は香の唇に人差し指を添えた。



「…もう、いいよ。それ以上話さなくていい…。」

こっそり香の荷物を確認して、初めてピルの服用を知ったのは、

たぶん柏木圭子の護衛から結構過ぎてからだったはず。

香も証拠を残さないように、

錠剤の飲み殻をダイレクトにゴミ箱に捨てることはしなかった。

飲む場所も時間も、きっと俺にバレないようにと、

かなり注意を払っていたんだろう。



ピルの存在を知ってから、香の動きに注意していたら、

かずえちゃんからこっそり処方されていることを確認し、

読唇術で体調管理のためにというやりとりも見ていた。

それを知るまでは、

まさか香が他の男と関係を持っているかもしれないという、

あらぬ疑いと困惑でどす黒い感情が渦巻き、どうしようもない気分だったが。



しかし、まさか、

拉致された時に起こりうる、望まぬ妊娠をしないための手段として

自分から防衛することを加味していたとは。

香の考えや行動が読めていなかった自分に嫌悪する。

んっとに、情けねぇな。



「……間違いは、絶対に起させない……。」



俺は香を強く抱き込んだ。

「もし、敵に連れ攫われても、奴らが手を出す前に、俺が必ず助け出す。」

強い口調がおのずと紡がれる。

「りょ…。」

「だから、俺を信じてちゃんと待ってろ。」

「……ぅん。」

小さく香は答えた。


*********************************************
(3)につづく。





ちょいと長いですが、関連考察をば。
拉致監禁を複数回経験している香が、
自分が犯される可能性のことを全く考えていなかった訳ではないと
思っています。
撩に隠れての自己防衛がこういう形で行動に移していても
おかしくはないかと、
かずえの協力を得て上記のような設定を作ってみました。

ちなみに、撩は初めっから柏木圭一が女であることを分かっていた設定にしておりますが、
これは、オカマボスの時も、ギャンブラーで出てきたベティーちゃんも、
撩は分かっていて、道化師を装っていたと思われます。
あいつが初対面で性別を見抜けないはずはないと思いますし、
ソ二アの時のように、
年齢を重ねても同一個体と識別できる能力があることは、
疑いの余地なし。

ましてや、
変装をした美樹やシンデレラの香が分からなかったワケないというのが、
当方の思い込み。
だから、原作中の(戦闘シーンとか以外の)撩のモノローグなんて、
あてにならんのよね〜。
まさに自分さえもごまかさないと照れくさいんじゃない?という
美樹の推察に賛成〜!

このあたり、撩の二重人格的なものの匂いが…。
ダークな生い立ちから、明るい道化師を演じ、
無意識に心のバランスを保っているとかね。
ミックの「でもすっげぇ〜スケベだったナ」の証言や、
海原氏の「相変わらず楽しい男だよ」と呟いていたセリフからも、
ゲリラ時代から陽気な性格の振る舞いをしていたことが伺えますが、
戦中戦後のPTSDってシャレにならんくらい影響大という話もあるので、
幼少時代から過酷な環境に置かれた撩なりの
防衛本能的な自身のキャラ創造ってのは、考え過ぎ?
このあたり、また本編でもちらっと触れる予定〜。

SS-02 Dentist (4)

Dentist


(4)**************************************************************************** 3705文字くらい



香は、食器を片付け終わった後、

加茂歯科に予約の電話をし、

午前中掃除ができなかったところに掃除機をかけていた。



(撩は、たぶん地下かね。)



アパートを出る時の外出は、何かしら出かけるぞ宣言がある。

それがないまま玄関の靴がないというのは、たぶんまだアパートのどこかにいて、

消去法で地下であろうと現在地を絞った香。

射撃中だったら、声をかけにくいので、

探しに行かず、出かけることにする。



『買い物に行ってきます。発信機つけてます。』



香は、ガラステーブルにメモを残して、

ポーチを手に取ると玄関を出た。







今日は、特売日。

ついつい水分含量の多いものを沢山買い込んでしまった。

買い物袋4つ。うち2つはマイバッグ。

最近、マイバッグ持参でポイントを出すお店が僅かずつ増えてきたので、

香も持ち歩きがほぼ習慣になりつつある。

安く美味しく沢山撩に食べてもらうための、ささやかな努力。



車で行くには近過ぎて、軽装の歩きでちょうど良い距離のスーパー。

しかし、重装備での道のりは、少々辛い。

アパートまであと数百メートルというところで、

ミックと会った。



「Hi!カオリ!今日もいい笑顔だね!」

さらっと、女性を褒める言葉が出てくるのはお国柄というだけじゃなさそうだ。

「あら、ミック。仕事終わったの?」

「今日は、原稿が早く片付いたんだ。荷物持ってあげるよ!カオリ。」

と、さらりと荷物を全部自分の手に持ち替えたミック。

白い手袋につい目がいってしまう。

が、その素早さに驚くも、レディーファーストが当たり前の生き方故、

なんとかミックの行動にも慣れて来た。



「でも悪いわ、ミック。すぐそこまでだから大丈夫よ。」

荷物を返してもらおうと、買い物袋に手をのばすが、叶わず。

「これ、水物(みずもの)多いじゃないか。ショーユ、ミソ、ミリン、ギュウニュウ、フルーツ。」

(あ、たしかに…。)

「バカリョウは、車も出してくれないのかい?」

と言いながら、ミックは前方の風景の中から殺気を感じた。

撩は、アパートのベランダから自分たちが2人で歩いていることを見ているはず。



(まったく、妬きもち焼くくらいなら、

もっと気軽に香に手を差し伸べてやればいいだろうに。)



思考が撩のヘタレ行動に向いていたら、

香が返事をした。

「ううん、撩はきっと別のことで忙しいと思うから、

あたしは自分で出来ることは自分でしているだけよ。」



以前だったら、

「ほんっと、アイツったら」とリョウを否定する俺に同調していたのだが、

最近は、無意識にリョウを立てる言動が多い。



「何に忙しいのかな?今日だって、

もっこり歯医者を探して、情報屋を訪ねて回ってたって話しだぜ。」

ミックがキャッツで聞いた噂話を口に出してしまった。



「は?もっこり歯医者?」

香は、すぐに渡されたメモのことを思い出す。

「え?ミック、聞き回ってたってホント?」

「あぁ、キャッツで、ミキちゃんやカスミちゃんが、話してたよ。

あいつ虫歯でも出来たのかい?」



香は、撩から聞いた薮さんの話を思い返していたが、

聞き回っていたというのは、撩の話と合致しない。



「ううん、違うの。歯医者に行くのはあたし。」

「え?カオリが?」

「ええ、奥歯に小さな黒い点があるから早めに治療しようかと思って。」



ミックは、この香の話と撩のウワサの接点を探し始めた。

もうアパートの前まで来た。6階のベランダには撩の影。

香は気づいていない。



「ミック、もう大丈夫よ。本当にありがとう。」

荷物を受け取ろうとする香を制して、

「No、玄関先まで運ぶよ。」と

さらにミックは前進する。

きっと断っても強引に実行しそうな感じだったので、

香はあきらめて、アパートの扉の鍵を開けた。



ミックの昔の虫歯の話しなどを聞きながら、

一緒に階段を登って行く2人。

ミックには殺気がどんどん強くなっていくのが分かる。

そして、ふと、思い当たった。



「カオリ、明日なんて歯医者に行くの?」

「加茂歯科医院よ。」

「そっかっ!なるほどっ!謎が解けた!すっきりしたよ!」

もうすぐ目的地だ。

「え?それどういうこと?」

「はい到着。カオリ、そこは安心して治療を受けられるよ。僕もお勧めだ。」



ミックは、玄関のドア越しにビシビシと刺さってくる強い殺気に、

早く撤退しなければと焦っていた。

本当はカオリに別れ際、ご褒美代わりのライトキスでも

頬にしたかったのを諦めて、階段を下りて行く。



「じゃあ、帰るよ。カオリ、またね。」

「ミック、ありがとう。」

ミックは、横顔だけ見せて、片手を上げながら

「No proburem!」と母国語で答えた。

(調子に乗ってライトキスなんかしたら、

それこそドア越しにパイソン撃ち込まれるぜ。)

背中にまだ感じる撩のオーラに苦笑しながら、

ミックは隣のビルへ帰って行った。



香は、ミックのお墨付きももらった加茂歯科医院が

一体どんなところなのか、気になり始めた。

(まさか、ヘンなところじゃないでしょうね?)



香は、玄関の鍵を開けて買い物袋を中に入れた。

「ただいまー。」

撩は、素早くリビングに戻っていたが、

荷物を持つのを手伝って欲しいと香が呼んでくれることを、

ソファーに寝転んで待っていたのだ。

しかし、「ただいまー」の後は、なにもアクションがなく、

よいしょ、と小さな声を漏らしながら、

4つの買い物袋を重そうに運んでいる気配が廊下から伝わって来た。



「ったく、ちったぁ甘えろよー。」

と撩はソファーから立ち上がった。



以前なら、「ちょっとは手伝え!」と怒鳴られていたパターンである。

今回は、ミックにその役割を取られ、

さらに、自分に助けを求めてこない香に、

もやもやした苛立ちが沸いて出て来た。



廊下に出ると、もう香はキッチンの入り口に到着していた。

「おいおい、何だよその大量の買い物は!」

追いついて、後ろから声をかけてみる。

「ふー、重かった。今日は特売日だったの。

普段あまり買えない、いいお味噌とかもあるから、

美味しい味噌汁作ったげる。」

撩が、買い物に付き合わなかったことや、

玄関に迎えに出なかったことに対して何の文句も言わず、

撩のためにと明るく言い切る香に、撩はどこかちくちくしてきた。



「あのね、途中でミックに会ってね、

そこまで荷物運んでもらったの。」

撩は、香がミックと出会ったことをちゃんと報告してくれたので、

内心ほっとした。

ベランダから見ていたことを、香はたぶん知らないはずだが、

ミックのことを、そのままスルーされていたら、

不快な隠し事としてしか受け止めきれなかっただろう。



「ほぅ、あの出しゃばりが。」

何も知らなかったように言ってみる。



「でね、ミックもね、加茂歯科医院のこと知ってたの。

僕もお勧めの歯医者だよ、って。」

と言いながら、香が撩のほうを振り返る。

「え?」

視線の先の撩は見事に白目になっていた。

しかも膝間づいている。

どうしたらここまで眼球がひっくり返るのかしらと、

香も驚きを隠せない。



「ちょ、ちょっと撩、どうしちゃったの?」

駆け寄って脱力した撩の肩に手をかけてがくがく揺すってみる。

トリップ中でまだ戻ってこない。



撩は、今日の動きがどうやら筒抜けであったことを

香のその一言から悟ってしまった。

男の歯医者に診せたくないがために情報集めに奔走したということが、

ミックにまでバレている。

(だぁー、一体誰だよっ!口の軽いヤツはっっっ!)



撩は、開き直って、香に確認することにした。

「あ、戻ってきた。大丈夫?もしかして貧血とか?」

眼球の位置が正常にもどった撩を見て、香はほっとした。

と思いきや、いきなりのハグ。



「ええっ?ちょ、ちょっと、りょ、撩?どうしたの?気分悪いの?」

ひたすら自分のことを心配する愛しい女に、撩は着火寸前。

「……ミックは、何て言ってた?……」

「は?だから、僕もお勧めの歯医者だよって。」

「…他には?…」

「他に?…えーとミックの子どもの頃の虫歯の話しで大変な目にあったとか、

キャッツで撩のうわさを聞いたとか…。」

(キャッツで、か…。)

後半のセンテンスを聞いて、撩は完全に諦めた。

なんだか、イタズラが見つかってバツの悪い子どものような心境だ。

もやもや、イライラの感情が行き場を求めて心の中をざわざわしている。



(……きめた。)

「よし!撩ちゃんが、

診察の前にカオリンの虫歯をチェックしてさしあげましょう!」

「きゃっ!」

いきなりガバ!と立ち上がると同時に、

香を肩に担いでダッシュで自室に向かった。

「ちょ、ちょ、ちょ…、り、りょう!買った物、冷蔵庫に入れなきゃ!」

「んなもん後からでいいだろ。」

「どうしたのよーっ!突然っ!」

香はこれからの展開が見えて来て、体温が上がる。

こうなったら、もう逃げられない。



「俺はいつも突然だっておまぁ言ってなかったけ?」

「…っ、確かに言ったけどー!」

「ささ、食事前の運動をしましょう〜。」

いつのまにか撩のベッドの上、

座ったまま、口を塞がれ、そのままシャツもブラも素早く取られていく。

「んんんんっ!」

あまりにもあざやかな手さばき。

ころんと横にされたと思いきや、

あっという間に2人ともすっぽんぽん。

香は、朦朧としながら、

(ああ、今日の夕食何時に作り始められるの…)

と、我が愛しのパートナーの急襲に、身を任せるしかないのであった。



***********************************************
(5)につづく。





勝手にやってくれ…。
つーても、こーゆー2人も好きでのう♡

SS-02 Dentist (3)

Dentist


(3)*******************************************************************************1413文字くらい



撩は、地下射撃場の中にある銃火器倉庫にいた。

銀狐の事件以来、ここの管理を香に任せている。

勝手に使ったことの反省もさせる意味もあったが、

香の仕事として“させてもいいと”、

パーソナルスペースの壁を取り外したのだ。



忙しい毎日の中、

定期的にチェックし、きちんと磨かれ、埃もかぶっていない。

銃弾や爆薬の管理表などもちゃんと整理されている。

消耗品の補充だけは、俺が随時しているが、

思った以上にいい仕事をしている香に苦笑する。



(今さら表に返す気はさらさらないが、この感情はやはり罪悪感か?)



人や物を傷つけ壊す道具の管理を一任していることに、

まだどこか迷いが残っているのか。

倉庫の確認を終えると、撩は自分のパイソンを取り出し、

おもむろに全弾ワンホールショットを瞬時ですませた。

腕がなまっていないかの確認も兼ねての軽いトレーニング。



「筋トレでもすっか。」



撩は、銃火器倉庫の奥にある、トレーニングルームに向かった。

かすみの2度目の依頼の時に持ち出した複数のバンベルは、

この部屋が指定席だ。

自重で十分な運動にはなるが、たまに負荷を大きくして筋トレをしている。

(まぁ、あいつに隠すようなこっちゃないが、スイーパーとしての日々の努力は、

こっそりするほうが俺には合ってるからな。)

と、心地良い汗をかきながら短い時間で基本メニューをこなしていく。

「まったく、歯医者ごときで、俺なにやってんだろ…。」

筋トレをしながら、数時間前のことを思い出す。



撩は、今日の午前中、知り合いの情報屋に、

女性職員だけの腕のいい歯医者が近くにないかと、聞き込みをしていたのだ。

(処置する医者が、女ならまだ許せる。男は絶対ダメだ!

まわりに男の看護士がいるもの避けたい。)

そんな思いで、半ば必死で信頼のおける情報屋に訪ねてまわった。

そして、薮さんが教えてくれたのが加茂歯科医院だった。

表向き、撩はもっこり美女の歯医者さんがいるかを知りたいと言っていたが、

薮はすぐに、香が治療する場所を探していると読み取った。



「撩ちゃんは、過保護だね〜。」

薮の一言に、ぎくっとするも、情報が欲しい撩としては薮からいいネタを手に入れたい。

「何だ?藪さん、もう誰が歯医者に行くか分かっちまった?」

「香ちゃんのためだ。情報料はいらないよ。」

と、ポケットから紙とボールペンを出してさらさらっとメモをした。

「まぁ、わしらも香ちゃんファンだから、撩ちゃんの気持ち分かるよ。」

撩にメモ紙を手渡しながら、にやっと笑った。

その住所を見た撩は、思いの外近場にあることに驚いた。

けっこうな遠出をしないと、

望む条件の歯科はないと思っていたからだ。

自分のデータになかったのは、完全予約制であり、

開院からまだ1年以内で、

不審な輩(やから)が関わっているところでもなく、

自身に滅多に縁のない施設だったためか。



「サンキュ、恩にきるよ。」

撩は薮の胸ポケットに紙幣をねじ込んだ。

「言ったろ、香ちゃんのためなら、お代はいらねえって。」

ポケットの中のものを返そうとしたが、

「たのむ、もらっといてくれ…。」

と、その手を撩が押さえた。

薮は苦笑した。

「この分、香ちゃんに使ってやんなよ。」

立ち去りながら、撩は顔だけ薮に向けてフッと口角を上げた。

「今、使っただろ!」



こんなやりとりがあったなんて、香は露知らず。

「こんなことがばれたら、たまったもんじゃないな。」

撩は、情報屋たちが秘密裏にしてくれることを信じながら、

筋トレの区切りがいいところで、地下を後にした。



********************************************
(4)につづく。






てな訳で、撩ちんウラでこそこそです。
ところで、薮さん健康保険持っているかいな?
(それよか2、3度入院したことのある撩は保険なしでどうしただぁ?
かなり医療費高くつきそう〜。
それとも教授からニセ保険証作ってもらってるとか?)
ちなみに、原作で出て来た情報屋って、
PCPを打たれ撩に首ちょんぱされたタレコミ屋の名無しさんくらいしか
記憶がないんだけど、
どうだったかいな?
アニメではよく使われていたような…。


【あり?】
おっかしぃなぁ〜。
夕方からカウンターが20465から動かなくなっちゃった。
なぜ?
→あ、再起動してみたら治った!
 2012.09.08.21:35

08-01 The Fourth Day Morning (side Ryo)

第8部   Oi Wharf (全17回) 

奥多摩から4日目


(1)The Fourth Day Morning (side Ryo) ******************************************2932文字くらい



結局、香はあれからぐっずりと寝込んでしまい、

朝日が拝める時間となった。



まだ2回、されど2回。

香と一緒に朝を迎えられること、4回。



あれだけ、迷っていたのに。

身を繋げる直前まで、躊躇(ためら)っていたのに。

いざ一線を越えてしまってからの、この自身の変わり様は、

自分でも笑い飛ばしたくなる。



夕べは、きつく締まっていく香の中に、自分の想いを注いだ後も、

しばらくは、そのまま香を横抱きにし体を合せたままでいた。

やや乱れた息使いが落ち着くまで、と思ったが、

離れ難い思いが勝ってしまい、体を動かせずにいた。



2ラウンド目を欲する息子を押さえに押さえ、

ただじっと繫がったまま。

その間に香の中が蠢くのを感じながら、

何度も襲いかかって来る甘い衝動を受け流し、

自分の命と同等ともそれ以上とも言える存在を愛おしく抱きしめ続けた。



揺すったり、頬を叩いたりして、

香を起してもよかったのだが、

そのままにしてやりたいと素直に思った。



この2回で、自分がいかに香に溺れきっているかを、

思い知らされる。

もっと抱きたい、もっと感じたい。

触れれば触れる程に、その欲求は膨らむばかり。

一人の女に、こんな感情が生まれるなんて、今でも信じ難い。



どれくらい時間が過ぎたか、

さすがに、長く入れっぱなしだと、そのまま朝もっこに移行しかねないので、

いたしかたなく、そっと香から身を引いた。

離したくない、そんな思いと闘うこと数十秒。

甘美な抵抗のある体内からソレを完全に抜いた後、

香の体を用意したティッシュで丁寧に清める。



出血はない。

少しほっとする。

額の汗も乾きかけていたが、新しいティッシュで一緒に拭ってやる。

自分の左手も愛液まみれのままだったので、それも拭き取っておく。

香る匂いに、また背筋に糖度を伴った痺れが走る。



しかし、とにかく香に無理はさせたくない。

くったりと横になっている姿を目にすることで、なんとか鎮火する。

処理を終えた後、また香を抱き直して、

すー、すーと聞こえる寝息にくすぐったい幸福感を覚える。



右肩口を枕代わりにさせ、

髪を撫でながら、鼻先も柔らかいくせ毛に埋め、背中をしっかりと支えた。



「ありがとな…。」



香が寝ているからこそ、素直に出てくる感謝の意。

俺を受け入れてくれて、俺と出会ってくれて。

ふぅと目を閉じ、そのまままどろむことにした。






そして、迎えた朝。

いつもなら、香はすでに起きている時間だ。

しかし、まだ目覚める気配はない。



初心者にとって俺の相手は相当な負担なんだろう。

それとも感じやすい敏感な体に、

俺が多くの刺激を与え過ぎて、疲れさせてしまっているのか。

その両方かもしれないが、

次からは寝ちまっても起しちまうかもしれない。

意識のない女を抱く趣味はない。

相手の反応があってこそ。

香相手なら、なおさらだ。



先に起き上がって、飯の準備でもしようかと迷ったが、

香の目が覚めた時に、やはり傍にいたいと思い、

そのまま抱き込んで朝の惰眠を選ぶことにした。






暫くして、いい加減俺も腹が減ってきた頃、

腕の中の香がふるっと身震いをした。

そろそろ起きるか?

さて、今回はどんな反応を見せることやら。

狸寝入りをしてもいいが、

今回は謝っておかなきゃならないことがある。

覚醒する気配を醸し出している香の髪を撫でながら、

その瞼が開くのを待つ。



わずかに長い睫毛が揺れたかと思ったら、

ぱちっと目が開いた。

明るい栗色の虹彩が鮮やかだ。

同時に、黒い瞳孔がきゅうっと絞られていくのが見える。



「…まぶ、し…。」



ブラインド越しに陽がまともに顔に当たり、

眉間に浅い皺を寄せて、いったん目を閉じたが、

はっと息を飲む音と一緒に再び見開いた。

髪を撫でる左手をとめて、頬を包んだ。

香の視線が上を向く。

カチリと目が合い、香は瞬時に全身が沸騰した。



「おい、おい、大丈夫か?」



おはようと、言い出す前に、香の瞬発的変化に驚かされ、

出て来る言葉が変わってしまった。

お互い素っ裸でくっついているから、

直で上昇中の体温を感じる。

まるでインフルエンザにかかった時のような高熱に、

本気で慌ててしまった。



俺はくすりと笑いながら、香を抱き込んで、ぽんぽんと背中を叩いた。

「ったく、一体いつになったら、慣れんのかねぇ。」

少しずつ落ち着いていく心拍。

「……当分、無理…。」

暫くして小さく聞こえた香の声に、ちょっと意地悪したくなった。

「当分って?」

香は俯いたまま小声で返事をする。

「……当分って言ったら、…当分っ。」

あまりにも可愛らしい言動に、俺も本音がぽろりと零れる。



「……俺も、そうかも、な…。」

「………ぅ、そ、……撩は、…こんなの、慣れっこなんでしょ?」

掠れ声で言い返して来る香の声で、

思っていたことが声になって出てしまっていたことに気付いた。

またやってしまった、と思いつつ、包み隠さず伝えることにする。



「……嘘じゃないさ。」

香の髪に指を深く絡ませる。

「……一緒にそのまま寝ちまったのは、お前だけだよ。」

「え?」

「だからぁ〜、撩ちゃんもこうして朝を迎えるのは慣れてないのぉ〜。」

照れ隠しにおふざけモードでちゅうを迫ってみる。

スコンッと1tハンマーが顎に当たる。

「って!」

「も、もう!朝からスケベ顔で迫ってこないで!」



よしよし、元気はよさそうだ。

体調確認も兼ねてハンマーを出させたが、

また香が赤くなって、困惑した表情になった。

「ぁっ」

小さく声を出す。



「…どうかしたか?」

「……ぁ、ぁの、ね…。」

説明するのにかなり躊躇しているようだ。

「なんだ?」

「……、ぁの、い、今のハンマーで、お、お腹に、力入れたら、

そ、その、りょ…のが、少し、で、でちゃった、みたい……。」

もじもじしながら、香は心底恥ずかしそうに説明した。

「あぁ、悪かった。」

ティッシュをパスパスと抜いて渡そうとした。

「拭いてやろうか?俺のせいだし。」

「いいいいいっ、いい!自分でする!」

手と顔を力一杯横に振って拒否のジェスチャー。

ティッシュを受け取った香は、ちらっと俺を見た。



「りょ、撩…。ちょっと…、むこう、向いててくれる?」

上目使いでお願いされたら断れないだろ。

「今更恥ずかしがることないだろ?」

「お、お願いだからっ!」

「へいへい。」

俺は、クスクスと笑いながら、左肘で腕を立て、頭を支えた姿勢で

ごろんと香に背中を向けて転がった。

「こ、こっち見ないでよ。」

「へいへい。」



香は、用心深く横になったまま布団の中で、

出て来た残渣を拭き取っているようだ。

「ひゃあ。」

「どうした?」

振り返ろうとしたが、またミニハンマーが飛んで来た。

「がっ!」

「こ、こっち向いちゃだめ!」

たぶん、量が多くてびっくりしてんだろうな。

最初の時は、俺が出来るだけ中まで拭き取っていたが、

今回は横着して外だけしか拭っていなかったからなぁ。

片付ける気配がしたので声をかけた。



「終わったか?」

「…ぅん。」

寝返ると、まだ真っ赤なままの香が

薄い掛け布団をしっかり纏って顔半分だけ出していた。

布団はじゃまだとばかりに、めくりとって香の柔らかい裸体を抱き直す。

「きゃあっ。」

短い悲鳴は無視して香の体温と香りを力一杯吸い込む。



俺は、香が寝ちまって、言えなかったこと、

つまりは、コトが終わった後に、すぐ謝るべきだったことを

伝えることにした。


****************************************
(2)につづく。





ヤっちゃった後としては、
2回目の目覚めでございます。
撩ちん何を言う気でしょうかぁ〜。
という訳で、第8部、奥多摩から4日目がスタートですが、
今回は全17回っ!
1ヶ月以上かかるやんけ〜。
すいません…、ベッドでの会話とお仕事シーンが長くなりそうで…。
気長にお付き合い頂ければと思いますぅ〜。

SS-02 Dentist (2)

Dentist


(2)*******************************************************************************2593文字くらい



翌朝、撩のベッドから先にそっと抜け出して、

(もちろん撩はしっかり分かっていてワザト逃がしてやっている)

自分の朝食は先にすませ、相方の分を整え終わると、

洗濯やら掃除やらに勤しんでいる香。



「うぅ、寝不足だわ……。」

香は下腹部をさすりながら、無意識にぼやいた。

「おしりが筋肉痛って感じ…。」



そこへ、珍しく起こしに行く前に降りて来た撩。

「えっ?どうしたの?今日なんかあるっけ?」

洗濯物のカゴを持って必要以上に驚く香に、涼しい顔で答える。

「おまぁ、“おはよう”もなしかよ。」

「だって…。」

と疑問たっぷりの香。

「俺、メシ食ったらちょっと出かけるわ。おまぁ歯医者は明日?」

「へ?あ、うん。今日は雑用がたまっているから、

明日の午前中にでも行くつもりだけど。」

「ふーん。」

と聞いときながらも興味無なさげな返事をしてしまう。

「あー、腹減った!」

と、頭をがしがし掻きながらキッチンへ向かった。

「なんなの、一体?」

どこか違和感を覚えた香だったが、

手に持っていた洗濯カゴのことはっと思い出し、

「あ!早く干さなきゃ!」と

家事モードに入った。




。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


昼前、撩がアパートへ戻って来る。

「かおりー、めしー!」

玄関から、ドタバタと音がする。

「あーら、ナンパは失敗?」

伝言板チェックが終わり、先に帰宅した香は、

撩がいつ帰るか分からず、昼の仕度で困っていたのだ。

ちょっと嫌味を込めて言ってみる。



「ボクちゃん、今日はナンパじゃないのっ!」

ちょっとグレる真似をする撩。

ナンパじゃないのは事実。

「ちょうど今から作るところなの。何が食べたい?」

そう言いながら、香はエプロンを着けて冷蔵庫を開けて食材を確認する。

「カオリンが食べ」

全部言い終わらないうちに、ミニハンマーが側頭部に命中した。

「ぐへっ!」



「…特にご要望はないみたいね!」

と、香はさらりと言いながら、

キッチンの床に転がる撩をきれいに無視して、

高菜チャーハンを作ることにした。

(朝の残りご飯もいっぱいあるし、美味しい高菜漬けも美樹さんからもらったし。)

メニューのイメージを描きながら、卵をたっぷり用意して割り始めた。



そんな、香の後ろ姿を、のそりと白木の長椅子に座り直し、新聞越しに眺める撩。

いつも、自分のために食事を用意してくれる人間がそばにいる、

それ自体、撩が槇村や香に会うまでは考えられなかったことだ。



(あー、俺こんなベタな幸せに浸ってていいのかよー。)



香は、そんな撩の視線に全く気づかず、

ネギを刻み、溶き卵を温めた残りごはんに大量にかけてまぶし、

同時にわかめスープ用の中華出汁と具も整える。

中華鍋が充分熱を持ったところで、

オリーブ油を入れて、白い湯気を合図に一気にご飯を流し込む。

油と食材が美味しそうな音を奏でている。

卵を纏ったご飯は、あっという間にパラパラになり、

高菜漬けとネギの投入と同時に、香ばしい香が更に追加された。

仕上げは、ちょっといいお醤油をかけまわし、

メイラード反応で、醤油の焦げる香が立ち上れば完成。



「はい、おまたせー。」

少し額に汗をかいた香の顔が、また色っぽく見え、

撩は本気でメシの前にカオリンと思ったが、

機嫌を損ねて、仲良しタイムがお預けになるもの苦渋なので、

理性に集合をかけて、食事をすることにした。



「あー、待たせられたっ。いっただっきまーす!」



本当は、そんなに待たせられたという感覚は殆どないが、

とりあえずそう言っておく。

山盛りいっぱいの高菜チャーハンとわかめスープに、フルーツはリンゴ。

(よく、素早くここまで用意できるもんだ。)

言葉とは裏腹な思いが沸くのはいつものこと。

あっという間に、撩の皿は空になった。



「ごっそさん!」

「あんた、ちゃんと噛んでんの??」

相変わらず滅多に『美味しい』と言わない相棒。

関係が深くなっても殆ど変わらないやりとりだ。

ただ、いつも残さず平らげてくれることが、

とりあえずは不安解消にややプラス。

(たまには、具体的に感想を聞きたいけどね。)

そんなことを考えながら香が食べ終わると、

撩がおもむろにポケットから紙切れを出した。



「香、これ薮さんお勧めの歯医者だと。」

「え?」

食器をシンクに運んで席に戻った香は、

突然、薮さんの名が出たので、疑問符が頭の上で複数同時発生した。

薮は、新宿の情報屋としてトップクラスの信頼と実績を持つ老舗だ。

「は?なんで薮さんが?」

「たまたま、薮さんと会ってな、薮さんも歯医者に行きたがっててな…。」

撩は、さりげなく『たまたま』を強調する。

「新宿界隈で、いい歯医者知ってるっていうから聞いといた。」



白いメモ紙を開くと

『加茂歯科医院 03-1919-◎△◎△  新宿◎丁目32-98』

「か、かもしか医院?ぶぷっ!」

香は、院名を読むと突然吹き出した。



「な、なんだよ。おまぁ、その歯医者知ってんのか?」

「ククク、ち、ちがうの!初めて聞くけど、名前が面白くて…。ぷぷぷっ。」

メモを持った指が震えている。

俺は何が何だか分からないままだ。

「名前?何がだよ?」

「だって、加茂歯科でしょ?これ、漢字じゃなかったら、

動物のカモシカを思い出しちゃうんだもの。」

香の口から、意外な単語が出てきた。

「カモシカだって?」

「撩も知っているでしょ。動物のカモシカ。

私本物見たことないから、

シカとカモシカの区別できないかもしれないけど。」



俺は、頭の情報引き出しから野生動物に関するデータを引っ張り出してみる。

(カモシカ、日本にいる野生動物、山間地、山岳地帯が生息地。

確か、特別天然記念物だ。

シカという名でありながら、実際はウシの仲間だっけか。)

「このまま、カモシカ医院って聞くと、

絵本とかで出てくる動物の格好をしたお医者さんが出てきそうで、

思わず笑っちゃった〜。」



香はまだクスクス笑っている。

歯医者の名前だけで、ここまで反応するとは、

だから、香といると展開が読めなくて面白い。

「ほんと、ナイスな名前だわ。

で、薮さんお墨付きのいい歯医者さんってことね。」

やっと本題に戻ってきた。

「間違いはないと思うぜ…。」

そこに行くことを前向きに考えている様子の香に、

バレないようほっと安堵する。



「じゃあ、明日行ってくるわ。撩ありがとう。」

香は、メモを持って自室に向かいカバンの中にしまった。

(予約の電話は、食器洗いが終わった後かけようかしら。)

と、明日のスケジュールを脳内で整理しながら再びキッチンに戻った。

すでに、撩の姿はなかったが、出かける予告はなかったので、

リビングか自分の部屋に行ったのだろうと、

特に気にせずキッチンの片付けに入った。



****************************************
(3)につづく。





加茂歯科医院、実在します。
以前「ズームイン」かなにかで紹介されていて、
看板のエンブレムもカモシカでした〜。
ワタクシ的に大ヒットのネーミングに印象的でした〜。
でも、お話しとは全く無関係で〜す。

SS-02 Dentist (1)

Dentist  (全6回)


カウンター20000HIT 記念SS

原作以上

奥多摩から1年後くらい?

香ちゃんが歯医者さんに行くお話し。



(1) ****************************************************************************1158文字くらい



「…歯医者さん行こうかな…。」



偶然、脱衣所の前を通りかかったら、

扉の向こうから香の声が聞こえた。

そのままリビングへ直行する予定だった撩は、

気になって、洗面所へお邪魔することにした。



「なんだ?おまぁ、虫歯でもあるの?」

「きゃあ!」

突然の相方の登場に、いつも驚かされる香。

「…っ!…ま、また、あんたは気配を消して近づいてくるし!」

ちょうど歯磨きを終えたところの香は、

パジャマ姿で、歯ブラシを握りしめている。

「歯医者って聞こえたけど?」

香がまだ落ち着かないのを気にすることもなく、

背後に立ったまま、腕を回す。

「わっ!」



香は一線を越えても、ちょっとしたことで、

まだまだ恥ずかしがりモードで敏感に反応してくる。

それが可愛くていじらしくて、つい撩もちょっかいを繰り返すのだ。

鏡越しに視線を合わせる。

「虫歯菌はちゅうでうつるからな〜。」

と言いながら、頬に頬を寄せてくる撩。

香は、顔を赤くしながらも、なんて甘々バカップルかしら、

と客観的な気分でいた。



「今まで、歯医者は殆どお世話になったことがないんだけどね…。」

香は続ける。

「上の奥歯に黒い小さな点が一つあるのよ。」

香は軽く口を開けて、左指で歯を指した。

「今まで、気づかなかったわー。」

「えー?、撩ちゃんも虫歯菌うつされちゃったのぉ??」

とおかまスタイルでくねくね動く撩。

ジト目になった香、次の瞬間にはハンマーの下敷きになった撩がいた。

「るさい。もう今更でしょ!」



口腔内細菌を全て共有しているだろうと思われる日々のコミュニケーションに、

確かに、虫歯の存在は気持ちいいものではない。

「小さいうちに削ってもらおうなか。」

撩のためにも、自分のためにも。

早めの治療する決心をした香は、撩をそのままにして洗面所を出た。



むくっと起きた撩。

「歯医者か…。」

と、もっこりナースちゃん、こと美人歯科衛生士の姿がポンと頭に浮かんだ。

むふっと思うのも束の間。

治療を受けている香を想像して、はっ!と我にかえった。



(ま、まてよ。歯医者に行くってことは、口の中を診てもらうってことだよな。

で、医者の指が香の唇とか顔に触れることもあるんだよな…。)

男の医者が、香の顔に近づくところをリアルに脳内で映像化してしまった。



「だぁー!だめだ!だめだっ!」



自分たちの関係が変わってから、自分の独占欲が高まることは

ある程度、撩自身も想定していたが、

実際は、その計算を見事に覆すほど執着心が増幅。

それは日を重ねるごとに、むくむくと大きく育っているのだ。



「自分以外のヤローが、香の口の中を触るなんぞ許せるか…。」



撩は、床であぐらをかいたまま、

頭の中で猛烈なスピードで作戦を企てた。

「よし!」

することが決まったと、撩は軽い足取りでリビングへ向かう。

もちろん、入浴後くつろいでいる香を自室に拉致するために。


*************************************
(2)につづく。





07-02の記事でもお知らせいたしましたが、
9月5日の夜になんと、
カウンターが2万HIT超えを表示していました〜。
サイト開設から5ヶ月ちょっとですが、
これって、カウンター壊れているかもとか、
自分のアクセスを拾っているかもとか、
きっと何かが間違っているかもとか、
そんな疑いを持ちながら5ケタ目の数字が変わったことに
かぁーなりビックリしております。
という訳で10000HITの時と同様、
本サイト2本目の記念SSをアップすることに致しました〜。
こちらは、全6回毎日更新「1818」でアップさせて頂く予定です。
でも、今現在SSの貯金はこれだけ〜。
追加生産できるか全く未定でございますぅ〜。
本編以外のコネタですが、
日頃のお礼の代わりに、、、になるかしら???

07-02 The Second Half Of Game (side Kaori)

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07-01 The First Half Of Game (side Kaori)

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06-15 Interval (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(15)Interval (side Ryo) **********************************************************1571文字くらい



俺は、パジャマ姿の香の背中と膝裏に腕をまわし、ひょいと抱き上げた。

「ひゃあ!」

「では、参りましょうか!」



あんなに触れることに怯えていたのに、

あんなに女として見てはだめだと、

膨張する想いを深く奥底に押し込めていたのに、

あの朝以降、こんなにも浮かれて喜びを感じている己に、

全くどうしようもなく呆れてしまう。



香をお姫様スタイルで抱きかかえたまま、キッチンの電気を消し廊下出る。

顔を赤くしたままの香と目が合い、

そのまま目を閉じてまた唇を寄せた。

「んっ。」



驚く香におかまいなく、

吸い付くような口使いをしながら、

右手首を動かし、廊下や階段の電気を消しつつ、7階へ向かう。

自室の部屋は、香の膝裏から伸びる左手でノブをまわして開けた。

ベッドまでの距離がもどかしい。

俺は、唇を触れさせたままゆっくりと香を寝床の真ん中に降ろした。



そのまま香に覆いかぶさり、

右手で半分にたたんであった掛け布団をひっぱりあげ、

マントのようにかぶる。

その手をベッドサイドのライトにかけ、一番暗い照明に調節する。

ライトキスをしながら、肘を付き両手で香の頬をそっと包んだ。

一旦、そっと離れ同意の確認をする。



「……香、……いいか?」



ほてりっぱなしのまま目を閉じていた香はゆっくりと薄く開けた。

しばし見つめ合いながらの沈黙の後、香の唇が動いた。

「……ぅん。」

小さく聞こえたイエスの返事。

なのに、つい再確認をしてしまいたくなる。

「そ、そのなんだ…、

夕べは、今日頑張ってもらうって言ったけど、

おまぁがしんどかったら、無理しなくてもいいんだぞ。」



香は、ふるふると首を横に振った。

「ぅぅん、……だ、大丈夫。」

その声はやはり小さい。

「そ、その、…き、緊張しているだけ、だから…。

ほ、ほら、昨日一昨日って、何もなかったらから、

やっぱり、…ぁ、たしじゃ、…ダメだったのかな、なんて思ってて…。」

「………。」



控え目な声で本音を伝える香が、

なんだかそのまま仄暗い闇に消え入ってしまいそうで、

思わずそのまま掻き抱いた。



「ばぁーか、……お前じゃなきゃ、ダメなんだよ…。」



香が息を飲むのを感じた。

腕に力がこもる。

正直驚いた。

まさか、そんなことを考えていたとは、

香のことは全て分かっているつもりでも、

読めない思考をまだまだ持っていることを思い知る。



初貫通の傷を癒すための中2日のインターバルを勝手に決め込んでいたが、

その理由をちゃんと話さなかった俺が悪い。

そのせいで、香に余計な不安材料を与えていた。

この流れを見通していなかったとはな…。



香の肩口に顔を埋めたまま、言い損なった内容を話すことにした。

「……香、……二晩開けたのは、……お前の傷が癒えるのを、待っていたからだ。」

ゆっくりと静かな語り口調で伝えてみる。

「え?」

「ボクちゃん、結構ガマンしてたのよぉ〜。」

翻って、おちゃらけ調で本心を零し、そのまま香の首筋に唇を這わせた。

「ぁんっ!」

とたんに香の背中がやや反った。



「…ん、…よかった…。もぅ、…あれっきり、

なのか、……なって、思ったりもしたから…。ぁんっ。」

香の呼吸がやや乱れてきた。

本当に全身性感帯のようだ。

背中を撫でながら、髪を撫でながら、香の紡ぐ言葉を

一言も聞き漏らさないようにと集中した。



「……だ、…だから、…はぁんっ、……うれし…ぃ、よ。…りょ…。」



耳介を甘噛みしていた俺の鼓膜に飛び込んで来た言葉は、

思わず俺も涙腺が緩みかけるほどだった。

「じゃあ、…今夜もお付き合い頂けますかね、パートナー君?」

鼻尖をくっつけながら、ゆっくり優しく穏やかな口調で言ってみる。



「……ぅん。」



赤い顔の香は俺の肩に腕をまわしながら、

短く小さい声で同意の意思を示した。

俺は、そのまま目を閉じた香の目蓋にキスを落とし、

待ちに待ったセカンドナイトのスタートを切った。


********************************************************
第7部(1)へつづく。第7部はパス付きでございま〜す。





撩ちゃん、舞い上がっています。
冷静を装いながら、
きっとオッケーをもらった気分は
「い〜やっほうっ♡」てところでしょうか?
という訳で次は2nd nightです。カオリン頑張れ〜。
2日のインターバルは、芹霞さんの設定に強く共感し、
参考にさせて頂きました〜。
次はパスモノだからって、
あんまり期待しないで下さいね〜。

プロフィール

Author:きまりも
since 2012.03.31.

中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。

ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



アンソロ完成!お疲れさまでした!

やっとまともに表示できたっ!2013.12.15

かなり便利なサーチツール

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試運転中…

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