11-10 Can I Help You?

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(11)Can I Help You?  *****************************************************4765文字くらい



香は、台所に戻ると、まずは米研ぎを始めた。

今晩の夕食の下ごしらえを簡単にすませ、

次の作業に移ろうと思った時には、もう4時を回っていた。



「いけない、乾燥機見てこなきゃ。」



乾燥機がある脱衣所は、

もう一度美樹の部屋の前を通らなければならない。

進行方向に向かっていたら、

撩と鉢合わせになる。



「っと。」

「あら?なんで、撩ここにいるの?

あ…、あんた、まさか美樹さんにちょっかい出しにいったんじゃないでしょうねぇ?」



ちょうど病室を数歩出たところの撩。

さっきの会話の余韻が残り、

らしくもなくセリフがスムーズに出てこない。



「へ、へん!教授が邪魔だったから、出て来たんだよーんだ。」

「まったくもー。」

「あ、そうだ。……おまぁ、今日はここを何時頃出れそうだ?」

「うーん、夕食食べて片付け終わった後も、ちょっとすることあるから。

なんで?」

「うんにゃ、なんでもねぇー。」

「撩さ、さっきから、違う意味でヘンよ?どうしたの?」

「ああ?」

「お店を出る時から、なんか調子狂ってない?」

「あー、気のせいだろ。俺、ちょっくら調べもんがあるから、書斎にいるわ。」

「…うん、わかった。」



そう言い残すと、

撩はがに股でひょこひょこと廊下の奥に消えて行った。



「何、調べるんだろ?」

香はまた訝しがりながら、小走りで脱衣所へ入った。

慌てて乾燥機の蓋を開ける。

かずえの指示書通り、

既にひとしきり終わった布類が収まっている。

「よいしょ。」

香は、それらをカゴに移して、和室に向かった。




「あ、ここね。」

その部屋には、アイロン台とアイロン本体が用意してあり、

すぐに作業に取りかかることができた。

教授の寝間着から、美樹の入院着に下着、タオルに、ベッドのシーツと、

見た目よりも結構な量があり、

手際良く進めても、これまたあっという間に時間が過ぎて行った。





「……はぁ、ようやく終わったわ。かずえさん、これ今まで一人で?

あ、明後日からは本当にフルタイムか…。大変だわ。」

香は、今日明日でお役目御免と言われても、引き下がりにくく感じた。

「さてと、指定席に戻さなきゃ。」



丁寧に整われた布の数々を手持ちとカゴで運び、

香は、指示書を思い出しながら、教授の寝室、脱衣所、リネン室と、

それぞれの場所に収めてきた。

(ほんと、何だか看護婦か家政婦になった気分かも。)

最後に、美樹の衣類を風呂敷に包んで再び病室に向かった。



ノックをしての再訪問。

「美樹さん、何度もごめんなさい。洗濯が済んだものを持って来たの。

ここでいい?」

香は、ベッドそばの椅子の上に衣類の入っている風呂敷を置いた。

「何から何まで悪いわぁ。」

読んでいた本を脇に置く美樹。



「ううん、これかずえさんがもう仕上げてくれていたものなの。

あたしはアイロンをかけただけ。じゃ、また後で呼びに来るから。」

「夕食、楽しみだわ。」

「あ、あまり期待しないで。がっかりさせちゃうかもしれないし。」

「もう、ほんと香さん謙遜しすぎよ。」

「美樹さんこそ、褒め過ぎよ。」

くすくすと笑い合う。

「じゃあ、またあとで。」

「ええ。」



一人でいるよりも、こうして気心の知れた仲間、

もう一人の姉とも言えるような相手と

飾りなく交わす会話の投げ合いが心地いい。

もし、こうしてここに通う役回りがなかったら、

もっと暗く落ち込んでいたかもしれない。

多少忙しく慌ただしくなっても、

ここにこられる巡り合わせに香は感謝した。





「さてと、今日のメインディッシュは…。」

香は台所に立つと、食材に手を伸ばそうとした。

しかし急に、台所の入り口で何かの空気を感じ、動きが止まった。

(撩?…ううん、違う。この距離で、こんな気配を感じさせるヤツじゃない。)



「う、海坊主さん?」



振り返っても、誰もいないそこに、視線を走らせると、

右袖から影が動いた。



「か、か、香、な、何か手伝うことはないか?」



やや顔を赤く染め、どもったセリフを吐きながら、

ファルコンがのっそりと入ってきた。



「だ、大丈夫です。」

「そ、そうか。」

「あー、み、美樹の部屋にいるから、な、何かあったら呼んでくれ。」

「あ、ありがとう。海坊主さん。」

「ふ、ふん!」

そのままギクシャクしながら、台所から巨体が出て行った。



「どうしちゃったのかしら?

海坊主さん、なんか妙にギクシャクしちゃって。

で、でも、美樹さんのところに行く前にこっちに顔だしてくれたなんて、

何だか気を遣ってもらってるみたい。」

香は気を取り直して、準備にかかった。



メニューは、クリームシチューと、サケのムニエル、サラダ、フルーツ。

美樹、ファルコン、教授、自分と撩、そして遅く帰って来るかずえの分で、

6人前だが、やはり大食らいがいるので、

10人前以上を用意しなければならない。



大鍋にぶつ切りの鶏モモ肉が炒められ、

オリーブオイルの香りが立ち上る。

一口大に切り分けられた野菜が投入される。

油が回ったら、水をたっぷり入れて煮込み開始。

その間に、副菜を作り、ムニエルの下ごしらえをする。



「本当は、ホワイトスースから作りたかったけど、

今日はルーで横着させてもらお。」

ここで、夕食を作るのは4度目。

洋食が多いので、明日の昼は和食のメニューにしようかと、

食材とスケジュール表を確認する。



ふと、今日の撩の様子が頭に浮かぶ。

「聞き間違いだったかしら…。」

あの時、買い物が終わって車を出発させる前に、

撩がぼそっと呟いた独り言。

(ガキができたら…って言っていた気がする。バキ?ザキ?ダキ?

ううん、やっぱり『ガキ』よねぇ。)

持っていたタバコから、

自粛というのもきっと喫煙のことかもしれない。

聞き間違いでなければ、その呟きは一体何を意味するのか。



「たたた、たぶん、美樹さんと海坊主さんの所に赤ちゃんが出来たらってことよねっ。

そうよ、お店でもタバコ吸えなくなるかもしれないし!」

(でも、あの時の慌て様は、たぶん『素』っぽいわよね…。)

つい先ほど、教授の部屋で目が点になっていた撩も、

おふざけやフェイクと言った計算した表情ではないと感じた。



「撩、どうしちゃったのかしら?」



長くあの男と一緒にいて、あんな顔を見た記憶はあまりない。

車椅子のこずえのところへの通いがバレた時や、

マリーの時に、結婚話しで慌てふためく姿に似ているが、

また違った感じもする。



そんなことを考えていたら、大鍋のフタがカタカタと鳴り、

鍋の縁に吹き出そうな飛沫がジュっと音を立てた。

「あ、いけない。」

香は慌てて弱火にした後、

たっぷりのパセリをみじん切りにし始めた。

が、ふと、その包丁を持つ手が止まる。



「こおぉらっ!撩っ!料理の邪魔するんじゃないのっ!」

パーンという音と、悶絶する声が重なる。



「ぁ、ああ!ミック?!」



香のタイトスカートから見えている魅惑的な黒い太腿を、

後ろから手を伸ばして触ろうと、

気配を消してしゃがんで接近していた白いスーツの男が、

顔にフライパンを受けて台所の床に仰向けに転がっていた。



「ご、ごめんなさいっ!

てっきり撩かと思って手加減なしでやっちゃった。

だ、大丈夫?」



白い手袋をはめた手の平をぴくぴくさせていた墮天使は、

フライパンの柄を持ちながら、よいしょっと上半身を起した。

「や、やぁ、カオリ。今日もキュートだねぇ。」

白い顔に赤い鼻血がより鮮血に見える。

受け身でちゃんと100%で食らわないようにしているが、

鼻血は演出の一つ。

「ああ!血が出てるっ。ちょ、ちょっと待って、ティッシュもって来るわ!」

「No、No!自分で持ってるから。

ボクが調子に乗ってイタズラしようとしたのが悪いんだ。

カオリは謝ることはないよ。」

スーツの内ポケットから、小さなペーパータオルを出して鼻血を拭うミック。

「しかし、驚いたな。よくボクがそばに来たことが分かったね。」



ミックは、完全とまではいかなくても、気配を消し、

香にタッチできるものだと思って接近したのだった。

「え?あははは、撩のスケベオーラと似ていたから、てっきりあいつだと思って…。」

バツが悪そうな香に、ミックはなるべく自分の驚きを隠そうとした。



後ろをとらせなかった香。

少なくとも気配を消していた自分の接近をキャッチできたセンサー。

フライパンを食らうのは、目的達成後と読んでいたのに、

元スイーパーに手を触れさせなかったことは、

ミックにとって大きなショックだった。



「ミック、仕事は?」

動揺を隠しながら答えるミック。

「ああ、区切りが良かったんで、今日はこっちに泊まろうかと思って。」

「そっか、かずえさんのことは聞いてる?夜には戻るって。」

「だから、今日はカオリの手料理を食べにきたのさ。」

「かずえさんも忙しくて大変そうだけど、ミックも毎週締切があるんでしょ?」

「No Probulem!ちゃちゃっと終わらせて、しっかり稼いでるから心配ないよ。

ところで、何か手伝うことはないかい?」



ファルコンと同じセリフに、香はクスリと笑った。

「さっきも、海坊主さんが同じこと言いに来たわ。」

「Oh!先を越されたか!」

「大丈夫、もうあと15分ほど煮込めば出来るし、魚も焼くだけだから。

気持ちだけもらっておくわ。」

「そっか、もっと早く来るべきだったね。」

ミックはテーブルの椅子に座って、頬杖をついて足を組んだ。

まな板に向かう香の後ろ姿を愛おしそうに眺める。



「……カオリ。」

「え?」

「……俺と組んだ時にも言ったけど、

こうして生きていられるのもカオリ、君のお陰さ。」

香は目を見開いてミックに振り返った。

「……ミック。」

「……あの時、……カオリが俺を止めなかったら、俺はここにはいなかった。」



香は、一度撩の元を離れ、ミックの所に転がり込んだ、

この夏のことを思い出した。

オフィスでまじめな会話を交わした時の内容は、

今でも受けた衝撃が生々しく思い出される。



あの船で、香がミックに飛びつき動きを止めなかったら、

確実に撩に息の根を止められていたと。

そして、撩はミックが一番苦しまない方法を選び、

体の全ての急所に6発の弾丸を一瞬で撃ち込むつもりだったであろうと、

静かに語るミックの姿と、今そこに座る青い目の男が重なった。



「おかげで、カズエとも出会えた。」

すっと立ち上がったミック。

「感謝してるよ。カオリ。」

「ミック…。」

「じゃあ、教授のところに行って来るから、またディナーで。」

本当は、かずえにはすまないと思いながらも、

命の恩人であり、初めて本気になった女である香を、

この場で抱き寄せたいという思いもあったが、

台所の外にいる男に気付いたので、諦めて結局触れることが出来ないまま、

その場を後にした。



「ミック…。」

香はしばし固まっていたが、

はっと思い返して、再び料理に取りかかった。




台所から離れた通路で対峙する2人の男。

「おい、かずえちゃんがいねぇーのに、なにのこのこ来てんだよ。」

「当然、カオリの美味しいディナーを食べにきたのさ。」

「お前の皿には、俺が毒を盛ってやる。」

「フフーンだ。……ところで、リョウ、

お前、カオリにもう訓練でも始めたのか?」

「あ?」

「……いや、何でもない。」

「……あいつの訓練は、ここの通いが終わってから始めるつもりだ。」

「ほぉ!」

ミックが片眉をあげる。

「お前も、気付いたようだな…。」

「……ああ。」

撩は、さっきのミックと香の台所でのやりとりを途中から盗み聞きし、

何があったか分かっていての話し。



「……あいつは、病院の屋上で俺たちが話していた時、

どうやら近くにいたようだ。」



撩は、奥多摩で香が口にした『種族維持本能なのかな?』というセンテンスから、

あの場にいたことを確信していた。

「な、なんだって?じゃあ、あの時の会話は聞かれちまったってことか?」

撩の話しに、今度は両方の眉が上がる。

「ということは、俺たち2人とも、

カオリの気配に気付けなかったってことだよな。」

ミックが複雑そうな顔で答えた。

「ふっ、敏腕スイーパーの男2人もいながら、な。」

そう言いながら、撩は後ろ頭に手を組んで上を見上げる。

「お笑い草だな。鍛えるのが怖くなりそうだ。」

ミックも溜め息まじりに言う。

「……だな。」

「まぁ、がんばれよ!」

ミックは撩の背中をパンと叩いた。


*************************************
(11)につづく。






手伝うことないかい?のくだり、
「ラピュタ」のワンシーン、
ドーラの息子たちがシータの調理中に訪問する場面が
勝手によぎりました。

カオリン、原作の所々で気配を消していることが描かれていましたよね〜。
ただ、浦上親子宿泊時の時に、2度ほど香の登場に驚く撩が描かれていますが、
これが素なのかフェイクで驚いているフリをしているのか、
前後からはなかなか読み取れなくって〜。
いずれにしましても、終盤の香は
無意識に気配を消すことを身につけているいるような感じです。
病院の屋上でミックと撩が語っているシーンも、
おそらくあの2人は
香に気づいていなかったことを伺わせるやりとりと表情をしています。
よって、奥多摩湖畔で香が「これも種族維持本能なのかな?」と
聞いてきた時には、撩はまじめに驚いていたのかも〜。
それの照れ隠しが、あの「ば…ばぁか!!」だったら、なんか可愛いぞ〜。

【Sさまご連絡感謝!】
リネン室修正いたしました!
もう頭では分かっていたのに、
商売上生物分類学者の「リンネ」をよく使うためか、
指は、人物名を打っちまいました…。
発見ご指摘、本当に有り難いです!
ご協力に改めて感謝申し上げます!
[2013.12.11.08:26]

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11-09 Consultation Time

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(9) Consultation Time  *******************************************************2760文字くらい
 


「美樹さん、お待たせ。教授に診てもらいましょう。」

美樹の病室についた2人は、ベッドまわりを軽く整え、

美樹は上半身を起した。



「痛みはどうかね。」

「動かさなければ殆ど痛みはないです。」

「どれ、傷を見せてもらおうかの。」

「はい。」



美樹はそっと三角巾から右腕をはずすと、少し顔を歪ませた。

羽織っていた着衣を脱いだ美樹の半身に、どうしても目立ってしまう白い包帯。

傷の位置が位置なので、もちろんノーブラだ。

包帯がさらし代わりに胸部にも巻かれている。



教授は器用に、右肩と脇を通る包帯をほどき、ガーゼの部分まで辿り着いた。

メディカルテープをそっとはずし、ガーゼがめくられると

美樹の銃創があらわになった。

円状に盛り上がった境界部分に、傷を縫い合わせた黒い糸が生々しい。

香は、くっと奥歯を噛んだ。

教授は、消毒液を浸したコットンを傷にちょいちょいと当てた。

裂傷治癒の促進剤も塗り、

指で傷の周囲を確かめながら、背中も同じように処置を施した。



「ふむ、前も後ろも化膿もしておらんし、縫い痕も問題なしじゃ。

抜糸まで、あと1週間じゃな。」

教授はカバンから新しいガーゼと包帯を取り出した。

「香君、ちょっとここを押さえててくれんかの。」

ガーゼを施すために仮止めを香の指を頼り、教授はてきぱきと手を進めて行く。

「こっちの端も持ってもらえんか。」

包帯を巻く時も、教授と協力の元で速やかに巻き終わった。

「美樹さん、寒いでしょ。はやく上を羽織らなきゃ。」

香が入院用の前開きの着衣を引き上げ、袖を通させた。

「ありがと、香さん。」

「は、早く、傷が治るといいのにね。」

泣きそうなのをガマンして、後片付けの手を動かす。



撩が人を撃つ所は何度も見ているし、

撩自身が海原戦やファルコンとの決闘でつけられた銃創も知っている。

しかし、縫い糸が残っている状態の銃創を直で見るのは初めてで、

香にとって衝撃が想像以上に大きかった。

女性の体につけられたこの傷は、薄くなることはあっても、恐らく消えることはないだろう。

香は、まるで自分が撃たれたかのような心境になった。



「香さぁーん、気にしちゃ嫌だって言ったでしょ?」

「美樹さん…。」

「何だったら、あとでお風呂の時に、あたしの傷、全〜部見てみるぅ?」

ちょっと色気を塗った声色に、香はボボッと赤くなった。

「いやだ、美樹さぁん、そのセリフ危ないわぁ。」

2人でクスクスと笑い合った。

教授もふっと微笑む。

「あたし、これから食事と衣類の整理があるから、

また準備ができたら呼びにくるわ。」

香は、先ほどのティータイムセットのトレーを持って、

美樹の病室を出て行った。



「美樹くんよ、リハビリの件じゃが、すぐには銃を撃てんはずじゃ。」

カルテをかき込みながら教授が語る。

「はい、承知してます。」

「普段の生活では左手でも十分じゃろうが、銃火器はやはり利き手にかかっておる。」

「そうですね。今のこの肩では、衝撃は受け止めきれません。」

「傷が完全に塞がってから、残り数日をリハビリに費やしても、

銃の腕の感覚が完全に戻るのには少しロスタイムが必要じゃ。」

「ふふ、それまではここで女王様生活ですね。

戻ったら、違う意味で仕事が出来なくなるかも。」

「まぁ、早く店を再開させたい気持ちも、

ファルコンと一緒に仕事をしたい思いも十分分かっておるから、

出来うる限りで協力させてもらおうかのう。」

「ありがとうございます、教授。」



ちょっと間を置いて、教授が出て行こうとしたところに、

撩が入ってきた。

「やっほぉ〜、みっきちゅうあ〜ん。」

「撩、静かに入ってこんか。騒々しい。」

「教授、かまいませんわ。私しかいませんし。」

「えー、もう診察終わっちゃったの?

じゃあ今度は撩ちゃんが診てあげま」

最後まで言う前に、美樹の左手で持っているポットが撩の顔にめり込んだ。

「間に合ってますから…。」

「まったく『外』では相変わらずよのう…。」

「み、美樹ちゃん…、これなら早く退院できるんじゃね?」

「ふっ、そう願いたいわね。」

顔をさすりながら、撩はそばの椅子に座なおした。



「とっころでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどぉ。」

「あら、何かしら?」

「かすみちゃんの連絡先知ってる?」

「かすみちゃん?」

「前はキャッツに住み込みだったけど、今は1人暮らしだろ?

ちょっと彼女に頼みたいことがあってな。

バイトも今休みだろうし。」

「あら?何かしら?」

「へへ…、ひ、み、つ。」

「ふむ、香君がらみじゃな…。」

「教授っ、さっきから余計な説明が多過ぎっすよ!」

美樹は、教授のその一言で、撩が何を考えているか、

なんとなくイメージが湧き、協力すべきと判断した。



「わかったわ、ちょっと待ってて。」

美樹はサイドボードから筆記用具を出し、

左手で器用にかすみの連絡先を書いた。

「はいこれ。」

「サンキュ。」

メモ書きを受け取る撩。

「くれぐれも悪用しないでね。」

「たく、人聞き悪りぃな〜。」



「……ねぇ、冴羽さん、

…香さんって、今まで仕事がらみで、

撃たれたり、大怪我したことないわよね…。海原の時以外は…。」

「な、なに?美樹ちゃん、突然、そんなこと聞いたりして。」

「……冴羽さん、もし、香さんが…。」

「ストップ。」

撩は、手の平をピタッと美樹の前にかざした。

「冴羽さん…。」

撩はすっと立ち上がって、ふっと目を細めた。

「撩…。」

教授も撩を見上げる。



「みーきちゃん、なぁーんも心配するこたぁないから。

早くケガ治して、お店開けてちょーだい!じゃ、また後でな。」

おちゃらけ笑顔とおちゃらけ口調で、そう言いながら、

片手をひらひらさせて、撩は美樹の病室を出て行った。



教授と美樹は顔を見合わせた。

教授は、ふっと顔を緩める。

「……以前の撩じゃったら、

もし香君が今のおまえさんのように被弾するようなことがあったら、

即パートーナーを解消し、

香君の前から姿を消していたかもしれん…。」

「教授…。」

「あやつの言う通りじゃ。もう、なんも心配することはなかろう。

今の撩なら、たとえ香君がどんな状況になっても、

離れることはあるまいて。」

「……そうですね。私も、そう思いますわ。」



美樹は、一瞬過(よぎ)った不安を、今の教授の言葉で一掃できた気がした。

恐らく、香が銃弾を受けるようなことがあったら、

あの男が背負う苦しみは、

例えるものがない程に

果てしなく深いものになるであろうことは、

美樹も教授もファルコンも、そしてミックも冴子も理解している。



決してゼロではない可能性、むしろこの仕事が長く続けば続く程、

その危険は対数曲線的に増えていく。

その中で、共に生きると覚悟を決めた男の後ろ姿を、

美樹は穏やかな想いで思い返す。



「さて、わしは書斎に戻るかの。」

「ありがとうございます、また食事の時に。」

教授はにこやかに病室を後にした。


***************************
(10)へつづく。





当方、実は4回交通事故に遭って、なぜか生きていますが、
2回目の時、左手の平がぱっくり割れて7針くらい縫いました。
その時使われたのが黒い糸だったんです。
何かの映像で見た時は透明な糸だったのですが、
医療系詳しくないので、何が違うんだろうか〜と。
とりあえず宿題にしておきますかね。
しかし、そもそも銃創って縫えんの?
で、ちょっと迷ったんですよね。
ファルコンと美樹が国外で傭兵をしていた頃、
ファルコンが美樹に怪我を負わせるようなミスをするだろうかと。
やむを得ず別行動をしていたとか、
美樹の幼いながらの判断ミスとか、
色々そうなりえそうな原因を考えてみましたが、
やはり、滅多にありえない不幸な偶然が重ならないと、
美樹が負傷することはなさそうな気がしてきました。
小ケガは多少あってもね。
自分を責めて、立ち去ったファルコンと、
もし香が負傷してしまった場合の以前の撩だったらという部分は、
結構重なりそうな感じです。
(男ってすぐ逃げるもん?)

11-08 Teatime

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(8)Teatime  ******************************************************************1785文字くらい
 


「美樹さん、おかげんはいかが?」

ノックのあと、香は美樹の病室を開けた。

「あら、香さん、…ということは、かずえさんは、もうお出かけ?」

「ええ、夜には戻るみたい。」

香は、ポットと洋菓子をサイドテーブルに置くと、

ジャーマンカモミールの葉に、

お湯を注いだ。

「あ、いい香り。」

「かずえさんが、これが今日のおやつタイムですって。」

「うれしいわぁ。」

「この後、教授に傷の消毒をしてもらうことになっているみたいだから、

後で呼んでくるわね。」

「ええ、お願い。」

「海坊主さんは?」

「彼も夕方こっちに来るって言っていたわ。」

「あ、こっちの古い方のポットは持っていっちゃうわね。

あと、検温もあるけど、それは、大丈夫かしら?」

「ええ、朝昼晩と3回食前にちゃんと記録とってるから、気にしないで。」

「えーと、あとは、夕食後にお風呂とシーツ交換があるの。」

「じゃあ、また食べ終わった時、声かけてもらえるかしら?」

「分かったわ。香さん、あんまり頑張り過ぎないでね。」

「え?そ、そ、そんなことないわよっ!

あ、あたし下手に頑張ると失敗ばかりしちゃうから、

『適当に』を覚えようと思ってさ、あははは…。」

見透かされていることに、どきまぎとしながら返事をしてしまった。

「ま、また後でね。」

「はーい。」

香は慌ただしく病室を出て行った。

「香さん、あとで疲れが出なければいいけど…。」

美樹は苦笑した。





香はポットをかかえて、また台所に戻り、

今度は教授のお茶菓子と緑茶を用意した。

鎌倉彫のお盆に乗せて、書斎に向かって零さないように慎重に廊下を進む。

それが、無意識に気配を消していたことに繋がったのだろう。

コンコンというノックの音に、教授も撩も目を見開いた。

「教授、お茶を持ってきました。」

かちゃりと扉が開く。

「か、香?」

「おお、もうそんな時間かね。」

教授は何もなかったかのようにいたって普通に答える。

「かずえさんから、今日はこれを出してと言付かって。」

「ほほ、ありがたく頂くとするかの。」

「この後、美樹さんの診察をお願いします。消毒を兼ねて経過観察と聞いています。」

「ふむ、かずえ君からしっかり引き継いでいるようじゃな。」

ずずっと緑茶をすすりながら、教授はにこやかに答えた。

撩はまだ呆然としている。

「撩、どうしたの?あなたもおやつ欲しいの?」

「ばっ、ち、ちげぇーよっ。」

「何、香君の成長に驚いておるだけじゃ。」

「きょ、教授っ!」

「は?セイチョウ?」

(整腸?成鳥?生長?)

きょとんとしている香の表情で、漢字変換が出来ていないことを悟った2人は、

香らしさに、ふっと顔が緩んだ。

「撩、コーヒー欲しかったら煎れてくるわよ。」

「あー、頼むわ。菓子はいらねー。」

「はいはい。」

急ぎ足で香は書斎を出て行った。



「……全く気付かなかったのう。」

「……たぶん、あれは無意識だと思います。」

「ほほ、コントロールできるようになるのは、そう遠い未来じゃなさそうじゃの。」

「ふっ。」

複雑な表情の撩に教授はバームクーヘンを齧りながら話しを続けた。

「さっきの件じゃが、場所の希望は?」

「できるだけ、民家、公共施設から遠い方がいいです。」

「だとすると、ちぃーとばっかし標高が高いからのう、

使うんじゃったら早い方がいいじゃろ。

凍死でもしたら元も子もないわい。」

「そんなヘマはさせませんよ。」

「……ところで撩よ。」

「なんです?」

「香君とは、もう何回シたんじゃ?」

がしゃんっ!!

寄り掛かっていた椅子ごと倒れた撩。

「ほーほほほ、まーだまだ青いのう〜。」

「っきょ、教授っ!」

ずずっと緑茶をすすり湯飲みをカラにした教授は、

ドクターズバッグを開けて中身を確認した。

そこへ香が戻ってきた。

「失礼します。撩コーヒー持ってきたわよ。って、撩、なに座り込んでんの?

あら、教授、もう行きます?」

「ああ、香君も一緒にくるかね。」

ちょっと躊躇ったが、香は逃げてはならないと、背筋を伸ばした。

「そうします。あっ!撩は来ちゃだめよ!」

「ええ〜、なぁんでぇ〜、撩ちゃんも美樹ちゃんの半裸見たぁーい。」

スコーンとハンマーが飛ぶ。

「ぐっ!」

「大人しくここでコーヒー飲んでてちょーだい。さ、教授行きましょう。

教授も美樹さんにヘンなことしたらハンマーですよ。」

「か、香君、お、お手柔らかに…。」

肩をすぼめてとぼとぼ歩く教授と、背の高い香とのアンバランスな後ろ姿を

撩は苦笑しながら見送った。


********************************
(9)につづく。






第193話の武田季実子のお茶運びシーンでは、
たぶん撩ちん、素で接近に気づいていなかったような表情です。
殺気込みでは、数キロ先からのオーラも感じちゃうような奴ですが、
条件によってはセンサーにかかりにくい時もあるってことで?

11-07 Instruction Of Kazue

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(7)Instruction Of Kazue ********************************************************2575文字くらい



午後2時半、クーパーが教授宅に到着した。

「なんだよ、この重さぁ。」

「水モノが多いのよ。さぁ、運びましょ。」



自宅用は常温保存が可能な物ばかりなので、

そのままクーパーに残し、

教授宅に持ち込む買い物袋を2人でぶら下げて、呼び鈴を押す。

かずえがすぐに応対した。

『いらっしゃい、待ってて、今開けるわ。』



アナログに見える日本家屋の入り口も、最新鋭の防犯装置付きで、

開閉も警報機の解除も監視カメラも室内から自動で操作できる。

ガララララと、横開きの戸が開くと、撩と香は荷物を持って中に入った。

「おじゃましまーす。」

「香さん、お疲れ様。あ、荷物一つ持つわ。」

「ありがと。」

「かずえちゃーん、ボクちゃんの荷物は?」

「黙って運ぶ!」

「へぶっ!」

なぜかミニハンマーが飛んでくる。



台所についた3人は、荷物をどさりと降ろして、

これからの予定を打ち合わせた。

「買い出し、助かったわ、香さん。こっちでなかなか身動きがとれなくって。」

「かずえさんもご苦労様。連日遅くまで実験分析でしょ?」

「ううん、たぶん明日でケリが着くはずだわ。」

「明日?」

「そう、だけど、終日大学にいることになるから、香さん、

悪いんだけど朝から来てもらうことって出来るかしら?」

「もちろん。いいわよね、撩。」

振り向くと、眉をハチの字にしている情けない撩の顔。

「ええ〜っ、ボクちゃん、低血圧だから朝弱いのぉ〜。」

じろっと撩を睨む香。



かずえは、腕を組んでうーんと考えると時間を少しずらす提案をした。

「あー、だったら昼前でお願いしてもいい?」

「あら、それで大丈夫なの?」

「伝達事項を今日の内にしちゃって、

明日の朝の仕事を今日中にできれば、たぶん問題なしだと思うわ。

じゃあ、さっそく説明するわね。」

「じゃあ、ボクちゃんは、フリーターイムっ!じゃあねぇ〜。」

「あ!撩!こら!待ちなさいって!」

すたこらさっさと撩は台所から出て行った。



「ほんと、冴羽さんって相変わらずね。」

(う、変わり過ぎて大変なんだけど)

思わず声に出そうになったのを、慌てて飲み込んだ。

「で、今日、明日のことなんだけど、詳しいことはこの指示書に書いてあるわ。」

「ありがと。いつも分かりやすくて作業しやすいわ。」

「明日は、夕方には戻って来れるから、夕食から私が作るわ。

香さんたち、明日の晩はどうする?」

「うーん、撩と相談してみる。

あいつも、普段していることを先送りしているっぽいから。」



香は、撩が夜の情報収集に出ていないことや、

銃器の手入れをする時間が取れていないのではと、思い返す。

「……ごめんなさいね。二人に負担かけちゃって。

その代わり、教授が報酬を奮発してくれるみたいだから、

楽しみにしててね。」

香は目を見開いた。

「ええ!? ほ、報酬って、そ、そんな、受け取れないわよ!

もともと、この件は私たちが原因なんだし!」



香は完全ボランティアのつもりでいたので、

かずえの情報にかなり驚いた。

「私の代わりのアルバイト料よ。」

「で、でもっ。」

「いいから。きっと教授に直接断りに行っても無駄だと思うから、

受け取れる時に受け取っといて!」



香は、困った表情で言葉に詰まる。

「そ、そんな…。」

「で、打合せの続きなんだけど、明日の朝は、私8時にはここを出る予定なの。

だから、お昼の用意から入ってもらって、夕方まで。

これが終われば、もう通いはなくても大丈夫よ。」

「かずえさんも、1週間大変だったわね。」

「香さんこそ。」

「じゃあ、詳しく話すわね。」



香とかずえは、スケジュール表と指示書とを見比べながら、

細かな打合せに入った。

思いの外、項目が多い。

今日と明日、やや慌ただしくなりそうな気配。



その内容を、台所を出て行ったはずの撩は、

ざっと屋敷内の防犯チェックをして、再び台所のそばに戻ると、

戸の外から2人の会話を終わりの方だけこっそり聞いていた。



「そう言えばミックは?」

「彼も不規則な動きなの。取材で現場に泊まり込みがあったり、

原稿の締切は毎週あるし、何もない時は、自宅かこっちかね。」

「そうかぁ、締切かぁ、うう、聞くだけでも体温下がりそう。」

「こなして行くと慣れてくるそうよ。」

香は、思わず『慣れてくる』というフレーズに過剰反応し、

ドキンと心臓が跳ねた。



「ミックもいきなりこっちに顔出すかもしれないけど、適当にあしらっといて。」

「あはは…、了〜解。」

「じゃあ、もし分からないことがあったら、教授に聞いてね。

あ、もうこんな時間。そろそろ行ってくるわ。」

腕時計をちらりと見る。

「ええ、気をつけて!」

隠れていた撩は、かずえの接近を感じて、素早く天井に移動した。

そのままかずえは、パタパタと裏口に向かって屋敷の廊下を進んで行った。

撩は、音もなくまた元の位置に戻り、ふっと表情を緩めた後、

教授の部屋に向かった。



台所に残された香は、指示書を冷蔵庫に張り付け、買い物袋に向き合う。

「まずは、買ったものをしまわなきゃね。」

素早く頭の中で、タイムテーブルをイメージする。

「早く片付けて、美樹さんのところに行かなきゃ。」

手早く常温保存、冷蔵保存、冷凍保存のものを分けて行く。

まとめ買いは、かるく100品目を超えるので、

それだけでもけっこうな作業。

「あとは、消耗品ね。」

キッチンペーパー、トイレットペーパー、ラップ、アルミホイル、コーヒーフィルター、

石けん、食器洗い用洗剤と、日用品の分別にかかる。



香はトイレットペーパーをかかえて、レストルームに行き、

自分も用をすませて、指定席にペーパーを置いた。

「ここも、掃除しといたほうがいいかもね。」



素早く台所に戻り、エプロンをつけ、お湯を沸かす。

「えーとここかしら?」

食器棚の上に、洋菓子の箱があり、それを背伸びで取り下ろす。

「あ、あった、あった。」

高級銘菓のバームクーヘンとマドレーヌの個装。

美樹と教授のティータイム用だ。

かずえは、もちろん香も一緒にと伝えていたが、今はその時間ももったいないので、

まずは、二人分のおやつセットを用意する。

湯が沸いて、美樹の部屋に持って行くポットに注ぐ。

「先に美樹さんのところね。」



香は、指示書を確認して、トレーとポットを持って美樹の病室に向かった。

午後3時前、廊下には日本庭園から心地の良い秋の風が流れている。

紅葉も散り始め、緑のコケの上では、

一足早いクリスマスカラーの組み合せ。

「あっという間に年の瀬が来そうね…。」

香はぽつりと呟いた。


**********************************
(8)につづく。






イメージとしましては、11月の第2週あたりです。
低地でも紅葉が堪能できる日取りかなと。
というワケで、もうすぐ通いも一区切りです。

11-06 The Scene Of Supermarket

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(6)The Scene Of A Supermarket *************************************************3440文字くらい



食器を洗って、今晩の分の米を研ぎ、アレンジ用に昨日の残りを使った、

ミニハンバーグを解凍目的で冷凍庫から冷蔵庫に移し、

卵の個数を確認する。

まだ顔が火照ったままの香は、

家を出る前にすべきことをなんとか片付け、

撩の部屋の窓も閉め、自室に戻りショルダーバッッグと上着をとり、

やっと出発できる準備が出来た。

予定より若干遅れ気味。



「撩、もう出れる?」

リビングに顔を出すと、ベランダで惚けている撩がいた。

「あ?もう準備できたのか?」

火のついていないタバコをくわえたまま振り返る。

香は、その画になる姿にドキリとする。

ノーマル、かつ素の真面目な顔は、立っているだけでも様になる。

やっと冷めた熱が、またじわじわと上がってくる。



「じゃあ、撩ちゃん、トイレ行ってくっから、先に玄関行ってろ。」



入り口で、すれ違い様に髪をくしゃりとからめられる。

思わず、へなっと座り込みそうになったが、

扉の端を掴んで立ち直った。



「忘れもんはないか?」

「だ、大丈夫。持って行くものは、そ、そんなにないから。

買い忘れだけないようにしなきゃ。」

玄関でローパンプスを履きながら、交わす会話にも、まだどきまぎする。



「行くぞ。」



促されて、我が家を出る。

階段を下りる足音が妙に耳に響く。

少し先を進む撩の広い背中を見ながら、すぅーと息を吸う香。

撩の体が纏う諸々の匂いをかすかに感じる。

普段、撩の後ろ頭を見下げることは少ない。



(どうして…、どうして……、

こんな風変わりな男を、好きになってしまったのかしら…。)



殺しが仕事のスイーパー、裏の闇の中で生きてきた男。

その腕と知識は世界一、

法の枠外がライフワークで、超もっこりドスケベ変態男。

もうこの男の傍でないと

生きて行けないとも思える存在にまでなってしまい、

終生同じ道を歩んで行くと決意までさせた唯一の男。



その男の残り香が、衷心から安心するもので、

香はまたすっと鼻でなびく空気を吸い込んだ。

さっきまで、高血圧のままだった血流が落ち着いてくる。

撩の言うとおり、ゆっくり慣れていけばいい。

ずっと傍にいると誓ったのだから。

そんなことを考えていたら、あっという間に1階駐車場に着いた。



「ほれ、乗りな。」

クーパーの助手席を開けて、香の小さな背中をそっと押す撩。

手の平の温度が温かい。

「ぁ、ぁりがと…。」

せっかく落ち着いた心拍がまた上がってきた。

血圧が上がったり下がったり、心筋がせわしない。

「じゃあ、出るぞ。」

開いたシャッターをくぐり、赤い車は勢い良く出発した。



「いつもの店でいいな。」

「う、うん。まとめて買うから、カゴ4つ分くらい必要かも。」

香は、火照りがバレないようにと、なるべく普通を装って返事をする。

手元のメモ書きに目を走らせながら、

今晩のメニューと、自宅用の買い出しに底値の情報を整理する。



「美樹ちゃんも、早く復活してもらわねぇーと、キャッツが開かねぇからな。」

「そ、そうね。あ、あたしも伝言板見た後、

キャッツに寄らないと、なんか調子狂っちゃって。」

「タコが一人で店番やっても、客が逃げちまうしな。」

「全治3週間って言ってたから、……あと2週間ね。」

「はぁーあ、つまんねぇーの。」

そんな会話のやりとりをしながら、店に到着。





「ちょっと急いで買物しなきゃ。かずえさん、待ってるわ。」

そう言って香はカートにカゴを上下と子供席に計3つ積む。

「撩は、レジが見えるとこで待ってて。」

そう言って大急ぎで店内を回り始めた。



「んと、よくちょこまかと動くもんだこと。」



エスカレーターとレジの間にあるベンチにどさっと腰を下ろし、

ポケットに手を入れる。

「っと、ここは禁煙か。」

待っている間、手持ち無沙汰代わりのタバコがだめとなると、

手も目も行き場に困る。



「はぁ。」



足を組んで、左手で頬杖ついて、周辺を見渡す。

隣のベンチにも、自分と同じくらいの男が待ちぼうけ状態。

かちっと目が合う。

お互い距離がそこそこ近かったせいか、

向こうが声かけしてきた。



「……あなたも、奥さん待ちですか?」

「あ?…あぁ、まぁそんなとこです。」

奥さんというフレーズに、どきりとする。

そこに、その男の連れ合いが戻ってきた。

「あなた、待たせてごめんなさい。」

カートには、3、4歳くらいの女の子が座っている。

「じゃあ、行こうか。お先に。」



男は撩に軽く会釈をして3人でその場を去って行った。

無意識に撩はその後ろ姿を目で追ってしまった。

普通の家庭、普通の幸せ、それを間近で見せつけられたようで、

表現しがたい何かが湧いて出て来る。



ふと視野を広げてみた。

親子連れに、女性単独、恋人か夫婦同士か、

若いペアから、老熟のカップルまで、

様々な組み合せが目に入る。

頬杖をついたまま、しばし周辺観察に意識が向く。



「ぱぱ、これ、かってほしい!」

「ママに相談してみようか。」

「あなた、今日は魚でいいかしら?」

「お前に任せるよ。」

「あら、これ安いわね。買いだわ。」

「おかしいわね、買物メモがなくなったわ。忘れてきたのかしら。」



元来、聴覚も視覚もスバ抜けている撩の耳に、

様々な会話が飛び込んで来る。

ありふれた日常の風景で交わされる人々の会話。

今、自分がその普通の日常の風景に同化していることに、

訳もなく気恥ずかしさが込み上がってみた。

己の居場所は、闇の部分でしかないというのに、

端から見れば、自分も連れ合いを待っている

旦那その1にしか見えないだろう。



また目の前を子連れの親子が通り過ぎて行った。

両手を母親と父親に繋がれた就学前の園児か。

撩は、ふっと表情が柔らかくなった。



新宿に辿り着く前、こんな場面が近かった時、

過去の血なまぐさい残像がその度に過(よ)ぎっていた。

地雷に吹き飛ばされた子供、

蜂の巣になった血まみれの親子、

切り裂かれたあどけない少女、

黒こげになった幼い兄弟と、

折々に蘇る、人肉の焼ける匂いや腐敗臭。

それがあまりにも日常過ぎて、

感覚が麻痺してくれればまだ良かった。



しかし、ミラーニューロンは正常に働こうとし、

戦地を後にしてからも、

無力な女子供の姿を見ることそのものにも抵抗感が残っていた。

小さなソニアと過ごした時も、

時折被る像に意識が持っていかれそうになった。



それでも、殺しの仕事をする自分の中の矛盾に、

何かの感情を完全に断ち切れないと、

何かが破綻するような自覚もあった。



しかし槇村と出会って、香と暮らし始めて、

ようやく穏やかに

幼き命の情景を受け入れられるようになっていた。



香と初めて体を合せた時、

本気で子供が出来てもいいと思った自分をふと振り返る。



「まぁ、そんとき考えればいっか…。」



撩は、ついつい周辺の環境に飲まれそうになって、

ぼろっとでた無意識の言葉に、はっとしながらも、

誰も聞いていないことを確認して、

うーんと、腕をW型にして伸びをした。





「撩、お待たせ!」

数万円分は入っているであろう買物袋をカートに乗せ、

香がようやく戻ってきた。

端から見たら、こいつも嫁さんか、とふと思う。

「あー、待たせられたっ!行くかっ。」

「うん、急ご!」



車までカートを押して、荷台に食材と生活雑貨を詰め込む。

「あたし、カート戻して来るから。」

がらがらがらと小さいタイヤがアスファルトの上を回る音が遠のくを耳にしながら、

撩はクーパーに乗り込んだ。

タバコに火をつける。

右肘を窓枠にひっかけ、左指でタバコを挟み、

ふーと紫煙を窓の外に流す。

「ガキが出来たらこいつも自粛か?」

「何ができたら?」

「うわっ!」



運転席を覗き込んでいる香に、素で驚かされた。

気配に気付かなかった自分にも、気配を感じさせなかった香にも

そして、ついぼろっと呟いた己の言葉にも、

冗談抜きで驚倒しそうになった。



「な、なんでもねぇよ。早く乗れ。」

車内の灰皿にタバコを押しつけ、動揺を隠蔽しようと平静を装う。

今のは聞かれちゃ、あまりよくないタイミングだったと、

香が主語を拾っていないことを密かに願った。

自分がまだ存在さえもしない子供のことを考えふけっていたことは、

まだ、香には知られたくない。



助手席が開き、香が怪訝そうに乗り込んで来る。

「撩、どうしたの?」

「な、なんでもねぇって。」

珍しくどもっている撩に、不思議そうな視線を送る香。

耳も赤くなっていることに気付き、ますますクエスチョンマークが浮かぶ。



「行くぞ。」

灰皿を閉め、キーをまわし、アクセルを踏む。

「なんとかイメージ通りの時間に着きそうだわ。」

あえて追求はしないでおこうと、

香は話題を変えた。

「急ぐ必要はなさそうだな。」

クーパーは、流れに乗って教授宅へ向かった。


*****************************
(7)につづく。






一応スーパーいなりや、再登場です。
撩ちん、なんだか思考が先走ってまっせ〜。
ミラーニューロン、初めて聞いた方はコチラをクリック。
(なんか小難しいことばかり書いていますが、
要は自分の姿に似たものが壊れている状態を、
自分やもしくは自分の大切な対象に置き換えて共感しやすくなる感覚のことで、
例えば、ミミズが干からびている画像と、人の死体が干からびている画像とでは、
どちらに自分を重ねてしまいやすいかという話し。)

タンパク質の腐敗臭、
以前地元の方がウチに届けてくれたヘビが
受け取り時は生きていたのに、イベント終了後腐っちまって、
庭にものすごい腐敗臭が…。
(初夏だったけど意外と暑い日だった…)
たまたま一緒にいた仲間が、これまた、
たまたま昔住んでいた場所の近くで、
発見が遅れた首吊り自殺があり(なんてこったい)、
その匂いと蛇の腐敗臭が同じだと
証言しちょりました…。
本能的に危機感を覚える匂いでしたね…。
髪の毛が焦げる匂いも不注意で嗅いじゃったこともありますが、
ホント、タンパク質や脂質の変質する臭いはヤバイです。
ベトナム戦争の実録のドキュメンタリーや写真集を
なぜか中学高校の時によく見ていました。
おそらく、こんな臭いは当たり前だったと思うと、
幼い撩がよく心を保って生き延びたもんだとつくづく思います。

というワケで今日は「いい夫婦の日」。
この二人はまさに夫婦以上の関係。
ウチのサイトでも、とりあえず2度目のケジメ・フシメってことで
夫婦にしてやりたいですが、
まずはこの本編が終わらんとなぁ〜。

11-05 Rice With Hashed Meat

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(5)Rice With Hashed Meat *****************************************************3045文字くらい



キッチンで、いつも通り手際良く調理をする香。

レンジで牛肉の薄切りを解凍した後、

素早く玉ねぎと炒める。

色が変わってきたら、ボールに汲んだ水をざっと注ぎ強火で煮立て、

十分加熱したところで、ハヤシライスのルーを入れて弱火にし、

マッシュルームを投入。

とろみが落ち着いたら出来上がり。

ゆでインゲンを添えた温サラダとフルーツで定食の配膳は完了。

丁度いい時間。

余裕がある時は赤ワインと手作りのドミグラスソースで煮立てるが、

今日は時間短縮が優先。



「撩はどこかしら?」



エプロンで手を拭きながら、キッチンを出る。

先に、ベッドまわりを整えておこうと7階へ向かう。



すっかり自分と撩の二人の寝室と化したこの部屋に、

足を踏み入れる度に、色々な思いが沸き上がって来る。

香は、窓を全開にし、毛布をばふっとはたいた。

布地の海に新鮮な空気を触れさせる。

枕も2つを並べ直す。

その視覚情報も照れくさく感じ、なんだか直視できない。



ベッドメイクを簡単にしたあと、部屋を見回して、

他に何かすることがないかチェックする。

「出かける前にまた閉めればいっか。」

腰に手を当て、ふっと息を吐き出し、香はリビングに降りて行った。





「撩ぉ?お昼できたよ?」



リビングの扉を開けながら、ソファーで伸びている長身の男を見つける。

顔には2つ折の新聞が被さっている。

香は迷った。

無防備に接近すると、また捕まって心臓に悪い。

決して嫌ではないのだが、慣れない心身にはまだ負担が大きい。

それをからかって楽しんでいる男の思い通りになるのも、

何だか癪(しゃく)だ。

リビングの入り口で、腕を組んでうーんと、しばし考え、

接近戦よりも遠隔戦を選ぶことにする。



「りょー、お昼ごはんできたよー。」

そのままの立ち位置で再度呼んでみる。

「ぐがぁー、ごあ…。」

いびきでの返事は100%寝たフリの証拠。

香は、1tハンマーをぽんと手の平に出して、

狙いを定めひょいっと投げた。

「よっ。」

「でっ!!…ってなー!あにすんだよっ!」

がばっと起きる撩。

新聞越しに顔面にヒットしたミニハンマーがぽろっと床に落ちる。

「あ、起きた起きた。」

胸元で自分に拍手する香。

「冷めちゃうから、早く食べちゃって!

お昼すんだら、すぐ出かけるからね。」

「う〜。」

ソファーに座って鼻を押さえている男。

自分の作戦が一応成功したので、

ご機嫌な口調でそう言い残して香はダイニングキッチンへ戻った。



炊飯器から平皿にご飯を盛り付け、

鍋の中の具をオタマでくるりと円状に流す。

湯気と香りが立ち登り、

食欲をそそる。



「おまぁ、もうちっと、ましな起し方ねぇーのかよぉ。」



顎を押さえながら、キッチンに入ってきた撩が席に着く。

「あんたが、1回で起きないからいけないんでしょ。」

ハヤシライスを撩の前にことりと置き、手を引こうとした時、

くっとその右腕を掴まれて引っ張られた。



瞬間見えた目を閉じた撩のドアップ、

感じた唇の温かい感触。

それは、コンマ数秒で離れ、撩の次の言葉がなければ

何が起こったか理解できなかった。



「俺は、こーゆー起し方のほうがいいな。」

口角をあげた撩の笑みと、がちっと目が合ったとたんに

客観的な情報がやっと脳に入ってきた。

香は、かぁああっと湯気を出し、ざざざっとシンクにまで後ずさりした。

どんと腰に流しの縁が当たる。



「…っあ、あ、あ、…んた、…な、な、にをっ…。」

「んー、こっちの希望を言っただけだけどぉ?」

あまりにも素早い早業に、

香はこれがさっきの仕返しであることに

またペースの主導権を持っていかれたと、

悔しいやら恥ずかしいやらで、耳からプスプスと蒸気が上がる。



「ほれ、すぐ出かけるんだろ。さっさと食おうぜ。いったらっきまぁーす。」

撩の声にはっと我に返り、こめかみを押さえる。

「だ、だから心臓に悪いのよ…。」

こんなことを撩が自分に言ったり、したりすることが、

まだ信じられない。



常備冷凍保存しているオニオンスープが温まり、2人分を注(つ)ぐと、

よろよろしながら、自分の分も配膳する。

「い、いただきま、す…。」

大さじのスプーンでほかほかのハヤシライスを口にぱくっと運び、

鼻でふぅと溜め息をつく。

ちらっと見た相方は、もう半分以上平らげている。



「どったの?香ちゃん。」

頬を膨らませたまま問う撩。

「う〜。」

スプーンをくわえたまま唸る香。

「これ、おかわりしてもいいかぁ?」

すでにカラになった皿を指差して強請(ねだ)る相棒。

「……明日の分までたっぷり作ってあるから、いいよ、好きなだけ食べて。」

香は棒読みで答える。

「ああ?明日も同じかよ?」

撩は立ち上がってセルフでおかわりを盛る。

「……文句ある?」

ジト目で撩を見る香。

「いえ、ごじゃいません…。」

(あちゃ、怒らしちまったかな…。いや、そーゆー空気でもないな…。)

よく見れば、香は耳が赤いまま、もくもくと食べている。

撩は右手でスプーンを持ち、左手で頬杖をついてクスリと笑った。



香がその視線に気付く。

「なによ。」

「うんにゃ、かーいーなーと思って。」

「ごほっ、ごほっ!」

飲み込んだ物の入りどころが悪かったらしい。

気管の異物は構造上右の枝分かれに入りやすいようだが、

かろうじて咳の勢いを借りて除去に成功。



「おいおい、何むせてんだよ。」

撩が立ち上がって、グラスに水を入れて差し出す。

涙目の香と視線が合い、ますます愛おしく感じる。

「こほっ。」

香は、咳き込みながら水を受け取って、荒れた食道に潤いを流し込んだ。

こくこくと、喉の上下運動がまた色っぽい。



「っだ、か、らっ、…あんたが、することなすこと!

今までと違い過ぎるからっ、心臓に悪いのっ!!」

上目遣いで目尻に涙を溜めたままで、勢い良く口から出て来た文句の言葉。

その姿も可愛らしくて、ますますイジメたくなる。



「まぁ、ゆっくり慣れればいいさ。この前もそう言ったろ?」

撩は立ったまま、香の前髪をかき分け、ちゅうと額に吸い付いた。

耳からボンッと蒸気が吹き出る。

香はそのまま、ぷしゅーとテーブルにつっぷしてしまった。

撩はくすくす笑いながら席に戻り、さっさとおかわりの分も口に運んで、

あっという間に平らげた。



「ほい、ごっそさん。おまぁも、早く食わねえと、出るのが遅くなるぞ。」

食器をかちゃかちゃとシンクに運んで、

とりあえずは先にキッチンを出ることにした。

後ろ頭に手を組んでがに股でひょこひょこ廊下を歩きながら、

撩の顔はくすくす笑いが続く。





「んと、香ちゃんは、ウブなんだから〜。」

撩は、リビングに行くと、ベランダに出て煙草をくわえた。

火はつけないまま唇で弄ぶ。

「まぁ、確かに激変だもんなぁー。」

香の反応が楽しくて可笑しくて愛おしくて、

ついついハメをはずしている自分が、なんとも子供っぽく、

過去の己とは、別個体のような今の状況に、

撩自身も慣れるのに時間がかかりそうだと、

苦笑いをしながら自己分析するのであった。



一方香は、撩の言動に振り回されたまま、

つっぷした状態で、まだ湯気が上がっている。



「あ、あたしに、あんなこと、言ったり、したりするなんて、

…りょ、撩のキャラじゃない、よ…。」



体温は上がったまま。

これから買物して教授宅に行かなければならないのに、

切り替えができない。



「…た、食べなきゃ…。」



むくりと起き上がって、溜め息をつきながら、

重たい手でカチャカチャと食事を進めた。

この1週間、よく心臓マヒで死ななかったものだと、

この状況に慣れるまで一体どれくらいかかるのか、

まだ香は頬を染めたまま、ふーと一つ息を吐き出した。


************************************
(6)につづく。






超照れ屋で、奥手でウブのカオリンですからね〜。
合体しちゃった後でも、
しばらくは可愛くドキドキしまくるでしょう。
撩もそれを分かっていて調子に乗って遊んでいます。
ホントはそんなに余裕ないくせにねぇ〜。
カオリンの後退りシーン、
しおりちゃんが目覚めた時のあのカットを応用できればと〜。

【S様ありがとうございます!】
ルー投入修正致しました〜。
2013.12.30.21:18

CITY HUNTER ファンに 100の質問 に答えてみました。

2012年11月19日の夜、拍手累計5000パチパチを頂きました。
サイト開設から233日目、かな?本当にありがとうございます!

更新を続けながらも、
当サイトでご不快な思いをされる方もいらっしゃるのではと思うと、
自分のパソコンの中だけで楽しむべきだったかと、
たまに消極的な気分に陥ることもあります。

おそらく、好き勝手に吐き散らかしている考察もどきにしましても、
心理描写、性描写、銃描写、生活描写、英語&日本語表記などなどにしましても、
こちらの至らない部分も多々あり、
「ああ、この人分かってないなぁ」と思われるような
ボロ丸出しの箇所も複数ではすまないかもしれません。

共通設定という甘えのもとで、
他の作家さんのご気分に触ってしまうような中身もあるかと思います。

それでも、日々のUA数は200〜400と、表ブログを抜く勢いで、
更新のない日も来て頂き、ありがたくも沢山の拍手も頂戴し、
こんな妄想駄文サイトにお越し下さる方々がいらっしゃる痕跡に、
続けていこうと前向きに舵をとれているところです。

この画面の向こうにいらっしゃる全ての皆様への
感謝とお詫びの気持ちを表す単語は
いくら並べても足りない気分です。

まだ流れの3分の1も進んでおりませんが、
原稿を保存しているPCとワタクシが元気な間は、
引き続き更新をさせて頂きたく存じます。
(PCのほうがかなりヤバイ状態なので早く買い換えたいっ)

拙いサイトですが、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。


前置きが、大変長くなりましたが、
本編以外のお遊びイベントとして、
懲りもせずに、またアンケート企画を作ってみました。
以下、読んでやってもいいぞ〜という方だけお進み下さいませ〜。
まじめに目を通すとかなり時間をとられちゃいますので〜。


では、どうぞ〜。

CITY HUNTER ファンに 100の質問



あ、折り込み式にすりゃよかったか…。→しましたっ!
**************************************************************************************

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11-04 Before Noon

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(4)Before Noon  *********************************************************2315文字くらい



「今日も、なし、ね…。」



撩が地下にいる間に、香は伝言板を見に外へ出た。

呼び出しの暗号がないことを確認すると、

寄り道をせずに、速やかに帰宅。

撩は、射撃場の奥にいながらも、

1Fの出入り口が開く気配をキャッチし、

香の動きを把握していた。



「お、帰って来たか。」



見守りを兼ねたナンパが常だったが、やはり一人で街を歩かせるには、

どこかしら『もしも』が渦巻き、正直気が気でない。

すぐに戻ってきたことに一人安堵する。



香は、とんとんとんと、早足で階段を昇って行き、

そのまま真っすぐ客間兼自室に戻った。



「よし、食事までの間に片付けなくちゃ。」



ショルダーバッグをドレッサーの前に置くと、

両頬をペンと叩いて気分の切り替えをした。

キッチンへ移動し、戸棚の引き出しからエプロンを取り出し、

きゅっと後ろ腰に紐を結んだ。



「さて、まずは掃除機ね。」



廊下に面している物置から、掃除機を引っ張り出して、

掃除を見送っていた6階の吹き抜けのフロアから

始めることにした。

「っんと、ここって無駄に広いのよねぇー。」

ガァーとノズルをフローリングに這わせて行く。

モーターの音がよく響く。

本当は、ゆとりがあれば

普段使っていない階の部屋もちゃんと目を配りたいのだが、

まずは生活空間が優先と、依頼中や今回のような教授宅通いの時は、

どうしても先送りになってしまう。



「誰かに部屋を貸して家賃収入って言っても、

いつ賊が侵入してくるか分からない危険なところに、

長期間人を住まわすのは、やっぱりダメよねぇ。」



いつこのビルごと吹っ飛ばされるか分からない家業。

不審物の有無の確認も含めての日々の掃除に整理整頓は、

自分たちの身を守るための体に染み付いた習慣ともなってしまった。

掃除機をかけながら、香は今の事案が一区切りついたら、

このビルのどこからチェックするかを考え巡らせていた。



一方、撩はひとしきりいつもの筋トレを終え、

汗を拭いてから、6階に上がって来た。

7階の本棚のコーナーで、テーブルを拭いている香を見つける。



(そぉんなとこまで、拭かんでもいいのにぃ。)



いつも快適に過ごせる空間は、彼女の気配りの賜物。

いつでも依頼人が泊まりに来てもいいようにと、

掃除好きの動きにさらに拍車をかける。



(今からそんなに頑張ると、あとでバテるぞ。)



撩は苦笑しながら、

廊下につながる扉を開けてリビングに向かった。



パタンと閉まる音に、香がはっと顔を上げる。

「あら?撩、戻ってきたのかしら?」

台拭きと雑巾とバケツを持って、すっと体を起こすと、

香も脱衣所へ向かって階段を降りて行った。



「次は洗濯物ね。」

今日は午後から出かけるから、外には干せないので、

乾燥機利用になる。

後は、昼ご飯。



「何作ろうかなぁ。」

洗濯機のスイッチを押しながら、冷蔵庫の在庫をイメージする。

「短時間でたっぷり出来るもので、美味しいもの、か。」

ご飯はある。

「マッシュルームの缶はあったわよね。玉ねぎもいっぱいあるから…。

ハヤシライスにしようかな。ルーもあるし。明日にもまわせるし。」



時間は、もう11時台。

朝食を食べ、片付けて、伝言板見に行って、

ゴミの整理をして、掃除機をかけて、

拭き掃除をして、洗濯機をまわして、と動いていたら、あっという間に昼前。

「お肉解凍しておかなくちゃ。」

香は、濡れた手をエプロンで拭きながら、キッチンに向かった。




撩は、リビングで朝読み損なっていた新聞に目を通していた。

香がちょこまかと忙しそうに動いている様子を感じ取りながら、

いつもの速読をこなす。

そこに、電話のベルが鳴った。

「あーん、誰だぁ?」

面倒臭そうに立ち上がる撩。



「はい、冴羽商事…。」

『はぁーい、撩。』

「冴子か。」

チェストによりかかる。

『一昨日はご苦労だったわね。』

「ふっ、かぁーなり気ぃ使ったんだぜ。色々壊しちゃ後がうっせーからな。」

耳をほじりながら、ふっとかすを飛ばす。

『あなたたちの痕跡は適当にごまかしておいたから。』

薬莢だの、トラップの残骸なことを言っているのだろう。

「サツが下手に手ぇ出してたら、

殉職者何人出たか分かったもんじゃねぇぜ。」

『そのようね。感謝してるわ。…ねぇ、撩。』

「あ?」

『クロイツの件の後、槇村のところに行ったの?』

突然話題を変えられた。

「はぁ?なんで?」

『花が供えてあったから。他に来る人はいないだろうし。』

「あー、なんだよ。お前もあいつのところに行ったのかよ。」

『香さんも一緒だったようね。』

「あ?」

『花の意味、あなたちゃんと分かってたんでしょうね。』

冴子も花言葉を読み取ったようだ。

ということは、その先も更に先読みしている可能性が高い。

「あーん、何のことかなぁー?」



『……ふ、まあいいわ。立て続けに、

国際犯罪が2件片付いたから上層部もご機嫌なの。』

ごまかす撩をあえて深く追求しないワザはかえってあとが怖い。

「そりゃ、よぉーござぁーました。」

『ファルコンにも御礼を伝えといて。』

「自分で言いに行けよ。」

『そのうちね。2連続で撩もファルコンも大変だったと思うけど、

こちらとしては助かったわ。ありがとね。

香さんにもよろしく伝えておいて。じゃぁね。』

こちらが、貸し何発だと言う前に、

言うだけ言って、さらりと切られてしまった。

「んだよ、一方的に。」

受話器をじろっと見て、かしゃんと元に戻した。



「あいつも、おみとーしって感じだなぁ。」

どさっと、ソファーに身を預ける。

あれから6日目。

あまりにも濃密な1週間。

それでも、普段通りに過ごそうとする相棒の気配に

ふっと口元が緩む。



かすかにデミグラスソースの香りが漂って来た。

「お、もう昼飯か。」

撩は、ごろんと横になり、目を閉じると、

呼ばれる声を待つことにした。


*********************************
(5)へつづく。




こうしてあっちゅーまに、
午前中は過ぎて行くのであった〜。

【御礼!】
拍手5000パチパチになっていました〜。
皆様のポチッにどれだけ救われていることか…。
明日の1818で改めて御礼を申し上げたいと思います。
取り急ぎご報告まで!
2012.11.19.23:50




11-03 Memory Of Sugar Boy

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(3)Memory Of Sugar Boy  ******************************************************1230文字くらい



「9年前、か…。」



四捨五入すれば、10年近く前のこと。

射撃場に入った撩は、ふと息を吐いた。



(さっきの香の照れ方は、夢の中の俺が、

ナニかやらかしたとしか考えられなかったが、

まさか具体的な過去の年数を説明されるとはな。)



香がプチ家出をして、槇村が探してくれと懇願した時、

撩は香の容姿を知らないことにしていた。

しかし、過去の撩の経験から、

自分の相棒になった相手の家族情報については、

出来うる範囲で把握すべきというある種の習慣があった。

万が一トラブルに巻き込まれた時のために、

顔、名前、性別、年齢、職業、住まいは、基本情報として押さえる。

これは、槇村と組んだ時も当然行っていた。

しかも、槇村には気付かれないように。



あの不世井重工の依頼人と会った公園で視線を送っていたのが、

殺気のなさや雰囲気から、未成年、

もしかしたら槇村の妹である可能性は感じていたが、

たまたま不世井重工の手下らと香がいた場所が重なり、

いたしかたなくの接触となった。



相手は高2の子供であり、槇村の溺愛する妹。

とっさの判断で男扱いをした。

その後、

裏の仕事の存在とそれに兄が関わっているという事実に、

迷い悲しむ少女をどうしたらいいか、

撩なりに迷って移した一連の行動。

今では、懐かしく、かつ重き意味を持つ出会いの記憶。



「……香。」



撩は、ブースに立って、すっとパイソンを構えた。

重さと感触を確認し、目を閉じる。



ドドドドン!ドンドンッ!



連発する銃声。

的に開いた穴は1つ。

目を開けそれを静かに確認する。



「まぁ、今日はこれだけにしておくか。

弾も節約しろって怒られそーだしぃ。」



撩は薬莢を捨てながら、

奥の武器庫へ入り、消耗品の在庫チェックをした。

香には、まだ銃火器関係の入手ルートを教えていない。



「そのうち、言わんとだめだろうな…。」



本音は、まだそこまで関わらせたくない。

武器の不法所持や密売の情報を知ることは、

身の危険度が格段に上がるからだ。

しかし、もう一蓮托生と決めたこれからの生き方に、

商売道具の出入りの情報を香だけ完全にシャットアウトすることは、

もはや出来ない。



「ま、おいおい教えて行くか…。」



またちくりと胸に刺さる。

この罪悪感は、ずっと伴っていくものだろうかと、

撩は苦笑した。



「……まさか、あの時のシュガーボーイが、

俺のオンナになるなんてな…。」



本当は、初めて視線が合ったその時から、

微粒子のような予感が頭の片隅にあったのかもしれない。



幼さを残した様相から、

時を重ねるごとに、

極上の女へと熟れてくる姿を気づかないようにしながら、

このまま、そばに居させては行けないと、

葛藤していた日々。



「我ながら、よくガマンできてたよなぁ。」

髪を描き上げながら、ふと息を吐く。




香の夢の話しで、

初めて出会い言葉を交わした時のことを鮮明に思い出しつつ、

撩は、オペレーションルームの中にあるトレーニングコーナーで、

軽い筋トレをこなした。


**********************************
(4)につづく。





という訳で、当サイトでは、
不世井重工の件の時、
すでに撩はカオリンの個人情報を把握していたと仮定しております。
あの回は、Sugar Boy =槇村の妹の香と分かっていての
一連の行動だとすると、特に後半、
再びクーパーの前に飛び出て来た香に対して、
香が持つ刑事を辞めて何をしているのかという不安を
軽減させる計算までしていたのではと、
深読みしたくなってしまうのですが、考え過ぎかいな?
だって、そうじゃなきゃ現場に連れて行ったりせんだろ〜?と思うのですが〜。
見せることで、香なら何かを掬い取れるだろうと、
撩なりの確信があったのでは〜?
しかし、あの朝の公園でカオリンが雲隠れせずに、
3人で会っちゃったりしてたら、どんな展開になっていたのか。
もう一つの未来の妄想もまた萌えポイント〜。
で、目を閉じてのワンホールショット、もちろん捏造ですが、
ヤツなら可能でしょう〜。

あ、追記。
たぶんあの路地で撩と香の視線が最初に合った時、
奴は多少の殺気を出していたっぽいな〜。
カオリンも「殺される」と直感したわけですし。
つーことは、
やっぱり顔見るまでは香と確定していなかったってことか。
うーん、読み返せば読み返すほどに、
色々深まってきちゃう気分です。

【ホトトギス】
今日、すべての花が散り落ちてしまいました。
今季のピークは、2週間前くらいの
11月第一週。
しかし、奥多摩の緯度経度標高を考えると、
当方の庭よりも、寒気がおりてくるのは若干早いはず。
うーん、それでもやっぱり、
あの結婚式は11月上旬ということにしたいっ。
まぁ、きっと花の咲き具合は大差ないだろうっ。
とりあえず、ホトトギスの花期についての検証終わりっ!

11-02 Prophetic Dream

第11部 Memory Of Chinderella

奥多摩湖畔から6日目


(2) Prophetic Dream  **********************************************************4000文字くらい



(あー、驚いたぁ。もう現実と夢が大混乱だわ…。)



香は自室で赤面しながら着替えた。

ひざ丈のタイトスカートにジャケットで、

カジュアルとフォーマルのちょうど中間のような組み合せ。

薄手だが保温性の高い黒いタイツを履いて冷えを抑えるのも忘れない。



朝の身支度も整えて、新聞を取りに行き、

香は、朝食の準備を進めた。

今日は、和風定食風。

塩鯖に、煮物、お浸し、ご飯、味噌汁。

フルーツの柿は、シーズンのピーク。



配膳を一通り終えて、撩の席を見ながら考える。

「……やっぱり、話さなきゃ、ダメかな…。」

「そんなに言いにくいのか?」

「わっ!」

また、突然現れた相方に、口から心臓が飛び出しそうになる。

「ま、ま、またっ、気配消してっ!」

「怒るのは、お門違いだぜぇ。

これはカオリンのためにやってるのぉ〜。」

首にタオルをかけたまま、

ちょっと顎を反らせて、人差し指をちっちと動かしながら、

撩は意地悪っぽく口角を上げた。

「ぐっ。」

言い返せない香。



「お、今日は魚か。もう食っていいのか?」

席につき箸を持つ撩。

「あ、ちょっと待って。大根おろし用意するから。」

そう言いながら、香はまな板の上にあったカット済みの大根を

しゅわしゅわと音を立てておろし始めた。

「はい、これ。」

大さじで、塩鯖の脇に添える。



槇村と暮らしていた時、お互いが作る食事は、

日常的に焼き魚に大根おろしをセットにして食卓を整えていた。

古(いにしえ)の知恵に科学的根拠が存在していたのを知ったのは

このアパートに住み始めて間もない頃。

この組み合せを定着させた古人の知恵に、

配膳するたびに感心してしまう、と香は短い時間で思いを巡らせた。



「……で、どんな夢見たんだ?」

撩の声で現実に引き戻される。

「……あ。」

香も困った顔をしながら食卓についた。

撩はもぐもぐしながら、その解答を待っている。



香も一口ぱくっとご飯を口に放り込み、

どう説明するか切り出しに迷う。

いただきますも言い損なって、箸を動かしてしまった。



もぐもぐ。

「あ、あのね…。」

もぐもぐ。

箸を休めずに、撩とは目を合わせずに、口を動かす。

「高校の頃の、」

もぐもぐ。

「文化祭の、」

もぐもぐ。

「振替え休日。」



「は?」

「アニキが起しにきたかと思って、たぶんそんなことを言ったんだと、…思う。」

兄と二人暮らしだった時は、自分が寝過ごすことは殆どなかったし、

現実でも、体育祭の振替え休日でも、いつも通り起床していた。

だから、朝寝をしている自分は病気以外あまり考えられないシチュエーション。

恐らく、撩と一緒に寝るようになってから、

自分としてはとんでもない時間に目が覚めたことを繰り返した混乱が見せた夢だろう。

香は、自分なりにそう分析していた。



「にしては、ひどい慌てようだったな。」



平静に装いながらも聞き慣れない用語にやや動揺する。

学校に通っていない撩にとって、

文化祭や振替え休日という単語は、殆ど馴染みがなく、

道行く高校生の会話やテレビの話題などを拾って、

かろうじて知っている言葉でもあった。

それ以前に高校生レベルの年代は興味の対象外だったので、

若干疎い分野の情報に、

香が普通に生徒としての時代を過ごしてきたことと、

自分との差をほんの僅かだけちくりと感じた。



「ぅ…。」

口ごもる香。

「槇ちゃんが、布団にでも潜りこんできたか。」

「ち、ちがうわよっ!アニキがそんなことする訳ないじゃないっ!」

ムキになって怒る香。

思わず『あんたじゃあるまいしっ』と、言いそうになったが、

かろうじて止めた。

赤い顔をしたまま、もくもくと食べる香。



その表情で、撩はピンときてしまった。

これは白状させてみたい、そんな悪戯心がぴょこっと芽生える。

「……夢の中で、お前を起しにきたのは、…槇村じゃあないな。」

食べながらあえて目を見ず言ってみる。

「え?」

どきんと肩が揺れる。

茶碗と箸を持ったまま、目を見開いて撩を見る香。

視線が合うと、かぁーとまた赤くなった。

慌てて食事に集中し直すその姿を見て、撩は確信を持った。



「ふーん、だーれかっなぁー?」

「いいい、い、いいじゃないっ。そんなこと気にしなくてもっ。」

「……女じゃなさそうだな。」

がつがつもりもり食べながら、まだ続ける撩。

ギクっとする香。

絵梨子が来たと言い訳しようとした矢先に先手を打たれた。

(もぉーっっ、撩、絶対分かってて、からかってるっ!)



あまりにも明確に残像が残っている先ほどの夢。

ここまで撩が内容に執着するとは、思いもよらなかったこともあり、

増々、白状する方向へ持っていかれそうな気配に、

さらに焦る香。

「あ、あんたこそ、どーして、そこまで気にすんのよっ!」

口からご飯粒が飛びそうになり、慌てて口元を拭う。

「だぁあってぇ、夢の中に槇ちゃん以外のオトコが出たとなると、

槇村も無視は出来ないと思うぜぇ。しかも、すごーく話したくなさそうだしぃ。」

撩は柿をプスっと刺してあーんと頬張る。



「アニキと撩は違うでしょ!」

「じゃあ、カオリンは俺が他の女の夢見てても気になんないの?」

「はぁ?それって、日常茶飯事じゃない。

酔って寝言で、リエちゃんとか、マリナちゃんとか、ルリちゃんとか、

何人の女の名前聞いたか分かんないくらいなのに、

いちいち気にしてられっかっ!」

ガタタタン!

撩がテーブルからこけた。



「……なにやってんの、あんた。」

「……いや、……ごもっともでございす…。」

フォークをくわえたまま再び席まではい昇ってきた撩。

答えを白状させるために、少し嫉妬心を煽ってやろうと思った作戦は玉砕。

(まさかそう切り返して来るとは、……いや、当然か…。)

撩は、最後の柿を口に投げ込んでぶすっとしたまま、

バツの悪さを隠せないでいる。



「だから、誰の夢に誰が出ようといいじゃない。」

香は、もしかしたら、言わなくてすむかもしれない、と

流れを変えようとした。

「俺は気になるのっ。」

ごっくんと飲み込む音と同時に、半ば焼けクソ気味で撩は言った。

香も主菜、副菜を食べ終わり、自分のフルーツも残りわずか。

フォークに刺した柿を持ったまま、きょとんとした。



「……あなた、……もしかして。」

「あんだよ。」

頬杖を付き、爪楊枝でしーしーと歯の掃除を始める。



「妬いてる?」

「ぶっ。」

爪楊枝が吹き飛んだ。

「ぷっ!」

香は笑いで吹き出す。

形勢逆転状態に、香がやや強気になった。

ふふっと肩を揺らしながら柿を食べる。

「ふふーん、おっかしっ。」

もぐもぐ。

「何がだよっ。」

どう切り返そうか、頭の辞書をめくっていた撩に、降ってきた言葉。



食べ終わった香は、食器を下げてコーヒーの準備を始めた。

「だって。」

ミルを回しながら、穏やかな微笑みで、続ける。

「自分で自分に焼き餅妬くなんて、おかしくって。」



無意識だったか、もう解答を言ったようなもの。

撩は、この一言で、夢の登場人物が、

ミックでもなく、ファルコンでもなく、高校の仲間でもなく、

自分であったことを確信し、らしくもなくほっとした。

一方で、その夢の中の自分にさえも妬いていると、

自覚のなかった心理を指摘され、絶句状態の撩。

イメージしていた形と違う解答方法に、柄にもなく戸惑う。



「9年前の撩だったの…。」

「は?」



お湯を注ぎながら、香はそう言った。

今は1991年11月、夢にでてきたのは、

香が高校2年生の1982年3月26日に初めて出会った、あの時の撩。

香が17才目前、そして仮の誕生日で逆算すると、撩は23才目前。



「そ、正確には、…9年と8ヶ月前、なのかな?。」

香は、ふっと息を吐いた。

撩は少し眉をあげた。



「はい、コーヒー。」

渡されるカップに、撩もふっと表情を柔らめた。

「サンキュ…。」

煎れたての濃茶褐色の液体が揺れる。



香が見たのは、

シュガーボーイと呼んだあの撩が、自分の寝床にやってきて、

起しにきたという夢だった。

「で、その9年前の俺はナニしてたの?」

香も席について、一緒にコーヒーに口をつけた。

「別に…、起しに来たのがアニキだと思っていたら、

あんただったから、驚いた所で、目が覚めたの。」

目を閉じて、カップを持ったまま、ちょっと顔を赤らめ視線をそらす。

「だったら、そーこまで言いにくいってこたぁないんでないかい?」

コーヒーをすする撩。



「そ、それはっ、ちょっと、だ、だから、その…。」

「なんだよ。」

撩のカップはほぼカラになる。

「そ、その。覗き込まれた時、あまりにも距離が近かったらから、

だ、だから、び、びっくりしちゃって…。」

「近かったって、これくらい?」

こつんとおでこに何かが当たった。

「うぁ!」

全視界撩で埋まる。

強烈な恥ずかしさで、視覚情報を感知したとたん、瞼のシャッターが降りる。

ちゅうっと鼻先に吸い付かれた。

右手をテーブルについて、前屈みになり、

左手で香の頬に手を添えている撩。

香は赤煉瓦状態。

形成また逆転。

撩のペースに持って行かれる。

(ま、正夢じゃないっっ!)



「んじゃ、夢の続きは、また今晩ってことで。」

撩は、香の鼻尖からつと唇を離すと、頬にも唇を寄せて、

対面に座っている香から離れた。

「!!」

(こ、今晩?続きぃぃ?)

「んじゃ、撩ちゃん、地下に行って来るからねーん。」

手の平をひらひらさせながら、

そう言い残して撩はキッチンを出て行った。



「もぉおおーっ!一体なんなのよぉーっ!」

しゅうしゅうと湯気を出しながら、頭を抱える香。

途中、攻め側に回れたと思ったが、すぐにペースに巻き込まれ、

結局終始、撩に翻弄されっぱなしだった。



そして、鼻ちゅうもまさに、見た夢の通り。

「やっぱり、夢と現実、混乱しまくりだわ…。」

はぁ、と呆れ気味の溜め息がもれる。

「…9年、…10年近くか…。」

顔を赤らめたまま、ぱたっとテーブルに突っ伏す香。



「……なんとも、…年季の入った初恋よね…。」



しばし、あの時の思い出のコマが頭に浮かんでは消えを繰り返していたが、

閉じていた目をぱちっと開けた香は、

すっくと立ち上がった。



「そうよ、午前中はやることいっぱいあるのよ!

昼過ぎには出かけなきゃいけないんだからっ!」



香は、気分を切り替えつつも、

まだほんのり頬を染めたまま、

片付けに取りかかった。


***********************************
(3)へつづく。






という訳で、
今朝の夢の中身はこんなんでした〜。

【Sさん大感謝!】
もうバカバカバカーっという大間違いをしでかしてました。
これは、かなり恥ずかし過ぎます!(専門のはずだったのにっ)
ご指摘本当に有り難うございましたっ!
関係箇所全面撤去いたしました〜。
改稿、また後日お知らせできればと…(本当にバカ…)。
2013.12.07.01:20

SS-02 Dentist (9)

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SS-02 Dentist (8)

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11-01 Sleep Talking (side Ryo)

第11部 Memory Of Chinderella  (全16回)

奥多摩湖畔から6日目


(1)Sleep Talking (side Ryo) **************************************************2113文字くらい



もうすぐ香が目覚める時間だ。



こいつは、目覚まし時計がなくても、

だいたい毎日決まった時間に起床する。

右腕は自分の枕にし、左腕で香を抱き込み、

頭の高さをキープしてやろうと、

夜のうちに香の頭の下に枕を滑り込ませた。

Tシャツ越しに、香の温度のある呼吸が規則的に届く。



向かい合って、抱き込んで女と横になるなんざ、

今まで殆どありえなかった。

他の女とは、しようとも、したいとも思わなかったのに、

今では、香の体温を感じていないと

眠れないまでになっている。



茶色い髪を見つめながら、

左手で、頭から背中をそっとさする。



失いたくない。



お前が俺の前から居なくなることなど、

想像すらしたくない。

今は、間違いなく、俺のそばにお前がいる。

いずれは、自分も香もこの心臓が止まる日が確実に来る。

ただ、それは限りなく先であって欲しい。



奥多摩でお前と抱き合って、今日で6回目の朝。

まだ一桁だ。

これから、60回、600回、6000回と、

桁を増やしていければいい。



だから、香、焦るな。

ゆっくり慣れればいいから。



左指を香のくせ毛に埋めて、自分に引き寄せる。

「……ん。」

香の目覚める気配は分かりやすい。

そろそろ覚醒するだろうが、今はまだ意識は夢の中。



「…ぁ、……ニキ…。」



「なんだ?槇ちゃんの夢でも見てんのか?」

眉間にしわを少し寄せて、

閉じている瞼の下が緩やかに動いている。



「…だ、…ぃじょうぶ、だから…。」

「?」



「きょ…は、ふりかえ、…きゅ…じつ…だから、

がっこ…は、…や、…す、みなの…。」



「何のこっちゃい?」

「え?」

ぱちっと香の目が開く。

「……。」



視界には俺の赤Tシャツで一杯だと思うが、

まだそれが何だか分かっていないようだ。

香の見開いた瞳が、ふうと上に向き、俺の視線と直線になる。



「きゃああああああっ!」



キーンと耳元で響いたソプラノの悲鳴に、

俺の方が驚いた。目が星になる。

ばさばさっと布が擦れる音がして、気がついたら香は一気に後ずさりし、

布団と一緒にベッドの端から転落寸前。

反射でその細い腕を掴んで、場外落下を未然に防ぐ。



「っと、なにやってんだよ。」



すでに俺のシャツと同じ色に変わってしまった香が可笑しくて、

そのまま、腕を引っ張り、また元の指定席に引き戻した。

「…ぅあ。」

ぱふっと、胸の中に戻って来た香は、目をパチパチさせてる。

「なーんの夢見てたのかな?香ちゃんっ。」

「ぇ?……ぁ。」

更に赤くなる香。



あの寝言で、どっか恥ずかしい場面があったとは思えないんだが。

「槇村でも夢に出たか?」

「ぅ…。」

「学校がとか、なんとか、寝言いってたぞ。」

「っ〜〜〜。」

「な〜にっかなぁ?俺に言えないような、やぁ〜らしぃ夢でも見てたのぉ?」

「っち!ち、ちちちがっ!」

香は、真っ赤になった顔で一度きっと俺を睨むと、

Tシャツを両手で握り込んで、顔を伏せた。

たぶん、この様子じゃ直前まで見ていた夢をはっきりと覚えているのだろう。

香が見た潜在意識下での脳の情報整理に伴う映像がどんなものか、

槇村の名が出て、こんな態度だと、尚更内容を聞きたくなる。



「教えてくんないのぉ?」



抱き込みながら、また顔を上に向かせてみる。

この赤は一体何に例えたらいいんだと思う程に

また茹で上がって、目も潤んでいる。

「な、な、なんでもないのっ。わ、忘れちゃったっ!」

100%ウソと分かるこの言い様に、ますます聞き出したくなった。



「……ふーん、…香ちゃんさぁ、…俺って、自白させんの結構得意なんだよねぇ。」

香の表情がぎくりと変わる。

「……ぃ、ぃ、言わなきゃ、……ダメ?」

泣きそうな顔に上目遣いで目を合わせられた日にゃ、

こっちが白旗上げたくなるだろうがっ!



「都合が悪いことか?」

「………ぅ。」

本気で悩む香がまた愛らしい。

「ぁ、…あ、後で、話すから…。先に、起きていい?」

俺はふっと目を細めた。

「じゃ、予約な。」

そのまま、その口唇に吸い付いた。

「んんっ。」

ライト級でそのまま、ちゅぽんと離れる。



「昨日、おはようのちゅう、もらったからな。」

ぼぼぼっと音がするほどにまた赤面している香。

フリーズしたままの香を、ますますからかいたくなる。

「ご希望なら、今からちゅうの続きでもすっか?準備できてるし。」

布団下の朝もっこを指差す。

予定通りミニハンマー出現。

素直に食らっておく。

さらに顔を赤らめた香は、

口をぱくぱくさせながら、目をぱちぱちさせている。

「ば、ば、ば、ばかっ!あ、あたしっ、朝の、し、仕度してくるからっ!」

がばっと起き上がって、つまずきながら、ベッドサイドを離れる。



「りょ、撩も、今日午後から、で、出かけるから、ね、ね、寝直さないでよっ。」

ノブに手をかけながら、振り向き様にそう言い残した。

階段で踏み外す音が聞こえる。



大丈夫かよ、まったく。

そこまで、動揺する夢なんて、一体何見てたんだ?

さて、どんな話しを聞かせてくれんのかねぇ。



俺は、顔にめり込んだハンマーをころんとどけて、

のそりと立ち上がって伸びをし、ひとしきり筋を伸ばす。



まぁ今日は、香を連れて行きたい場所もあるから、

ヘタにご機嫌損ねるワケにはいかねぇーか。



俺は、夕べ脱ぎ捨てた衣類を纏うと、

階段をにやつきながら降りることにした。


**********************************
(2)につづく。





カオリンはどんな夢を見ていたんでしょうね〜。
という訳で、奥多摩から6日の一日がスタート。
今回は全16回…、また1ヶ月かかるじゃん!
もうちょっと文章のダンシャリができんかのうぅ。
欲張ると、どうしてもこうなっちゃって……(_ _;)。

【お知らせ】
本日からSS-02「Dentist」の続きを連続3回でお送り致します。
更新時間は1818です。
30000Hit御礼企画?ということで〜。
とにもかくにも皆様に大感謝です。

SS-02 Dentist (7)

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お知らせ:3万HIT御礼

本日、まんが博から帰宅したら、

なんとカウンターが3万をオーバーしておりました。

思わず「ほ、ほんとかいな…。」と声が出て、

冗談抜きで、眼鏡を外して目をこすってしまいました。




今や、1日あたりのUA(ユニークアクセス)が

表ブログよりも多いかもと…。




当初、立ち上げを散々迷っておりましたが、

こうして続けられておりますのも、

ひとえに、この画面に来て下さる方々のお陰でございますっ。

本当に本当にっありがとうございますっっ!!




お礼がわりには、程遠いものかもしれませんが、

中途半端なところで終わりにしておりました、

SSの「Dentist」の続きが仕上がりましたので、

明日から、18:18に連続3回で

「その後」をお届けできればと思っております。

あだるてぃな中身ですので、パス付きでございます。

(頭がもうピンクモードでからに…)





これまで、小説と言われるものを全く書いたことがなく、

人生で初めて手を出してしまったのが、

CHの二次ということで、

至らないところだらけですが、

CHへの愛と探究心と好奇心をこの作品を通して

出来うる範囲で表現できればと考えております。




所詮、なんちゃって主婦の妄想で、

みなさまのイメージとずれがあったり、

違和感を与えてしまうようなことも多々あるかもしれませんが、

改めて、画面の向こうの全ての皆様に

深く深ぁ〜く感謝申し上げます!





それでは、明日11/12の18:18に〜。


10-11 So Only You…

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(11)So Only You… ************************************************************3555文字くらい



「あら?」

リビングに撩がいるかと思ったら、不在。

丁度9時台のニュースの時間だったので、

ソファーの長辺側に腰を下ろし、

テレビをつけてチャンネルを合せる。

新聞の番組欄を横目で見ながら、ニュースに聞き耳を立ててると、

聞いたことのある地名が複数耳に入った。

香はふと顔を上げる。



『……と、見られています。

なお、南ガルシア政府は外部からの告発により、

軍事施設に大量のアメリカドルの偽札を隠し持ち、

偽造の造幣工場の建築計画が

政府機関内あったという見解が持たれています。

さらに、国務大臣、厚生大臣などが

麻薬の製造密売に関わっていたという情報も流れ、

現在、ICPOが調査団を送ることを検討中です。

また、昨晩の大井埠頭の原因不明の爆発事故や、銃撃戦なども、

南ガルシア政府の密輸が関連していると思われ、

警視庁による捜査が進められています。

では、次のニュースです。』



「これで、タコが受けた依頼は完全遂行だな。」

「りょっ…。」

また突然現れた男に、

気配をどうして読めないのか悔しい思いが沸いて来る。

撩は遠慮せず、香の右隣にどさりと座った。



「で、あとすることは?」

「ぅ、…と、くに、なぃ。」

近過ぎる撩に、体がそって、逃げ腰になる。

「りょ、撩こそ、今から出かけるんじゃないの?」



いつもなら、『撩ちゃん、飲みに行ってきまぁーすっ!』と、

いなくなってしまうのが常。

ツケで店を渡り歩き、日付けが変わる前に帰るのはマレ。

大概、深夜か明け方における大虎状態(のフリ)での帰宅が日常。



撩は、『あれ』からまだ一度も、夜の街を出歩いていない。

情報収集の名目があることは、分かってはいるが、

『飲み』ではない、外出もあったことを

香はおぼろげながら捉えていたので、

どんな理由にせよ、

無事この場所に帰って来ることを

一人でひたすら待っていた日々。



それが、あの一線を越えた日から、

毎晩一緒のベッドに横になっている。

それ自体、冷静に考えれば信じられないこと。



「あたしなんか、ほっといていいから、飲みに行ってもいいんじゃない?

6日も夜出かけていないなんて、なんか撩らしくないよ。」

香の『あたしなんか』発言に、撩はまたチクリとくる。



「おまぁ、俺に出かけて欲しい訳?」



香の両肩をやんわり掴んで、自分に向かせる。

ちょっとむっすり顔の撩のドアップに、香は軽くパニックになる。

「だだだ、だって!じょ、じょ、情報収集とか、

あ、あ、あるんでしょ?」

「んなことより、こっちが大事なの!」

ばふっと耳に聞こえたのは、自分の顔が撩の胸にぶつかる音。

撩はやっと捕まえたと、

太い腕を香に巻き付け自分に引き寄せた。



「公園でする訳にはいかんかったからなぁー。」

「!?」

香の体温は瞬時に39度オーバー。

耳朶が熱くなっている。

「駅や公園は情報屋がいつもうろついてるからな…。」

香の髪に頬を寄せる。



「……おまぁさ、自分のこと『あたしなんか』って言うのやめろよな〜。」

「え?そ、そんな言い方してたっけ?」

赤い顔のまま疑問符を浮かべる。

「あー、無意識だろうなぁ、やっぱり。」

くしゃりと茶色い髪をかきあげる。



「……お前は、世界一のスイーパーが認めた女なんだぜ。」

「へ?」

一瞬、誰のこと?と疑問符が浮かぶ。

混乱していたら、もの凄く小さな声で、耳元に囁かれた。

この俺と、ずっと、一緒にいられるのは、お前だけだ……。

「!?」



次から次に出て来る撩の糖度を纏ったセリフに、

香は発熱して思考がついて行かない。

今、自分にしゃべっているのも『一体誰?』状態。

腕の中にすっぽり入っているので、撩の表情は見えない。



(し、信じられないっ。う、うそでしょっ!

こ、この男が、こんなことを言うなんてっ。)



「だ、か、ら、教授んところが一区切りついたら、

訓練始めっから覚悟しとけよ。」

(どうだっ!香!いくら鈍感でもこれなら分かるだろっ?

これでお前の自己評価もすこぉーしは高まるんじゃねぇかぁ?

あーくそっ、恥ずかし過ぎて、顔合せらんねぇ〜。)



しばらくしてから、真っ赤に熟れた香が、

撩の腕の中で、ぽつりと話し始めた。

「りょ…さ、……いろいろ、ガマンしてるでしょ…。」

「はい?」

(どぉ〜して、そぉ〜ゆ〜話しになるのかなぁ〜。)



ヒトの心理を読むのが得意な撩でも、

香には通用しないことが多々ある。

この場合もそうだ。



「…あたしを、パートナーにしてさ、

……撩に、…いろんなものを、背負わせってしまっている、よね…。」



あまりにも間違いのない的確な言葉に、

何かがぐさりと胸に刺さる。



(…香、…お前にも、

背負わなくていいものを、俺は背負わせてしまっているんだぞ…。)



抱き込む腕にきゅっと力を込め直す。

その度に思う。

この華奢な体に、一体どれほどのものを抱え込んでいるのか。



(…だめだっ、ここでシリアスモードに流れたら、

ソファーで合体ってなことになっちまうっ。

い、いや、実は、それもいつか♡、と思っちゃいるがっ、

今日は休息日って決めてんだっ!やめやめっ!)



撩は、猿芝居を打って空気と場所を変えることにした。

「撩ちゃん、ガマンなんかしてないもんねぇー。

自由にしてもいいってゆーんだったら、

好きにさせてもらうからねーん♡」

そのまま、香をがばっと抱き上げ、お姫様抱っこ。

「えええ?!」

「ささ、撩ちゃんの部屋にレッツゴー!」

「ちょ、ちょっと!撩っ!」



言うや否や、香を抱き上げた手でリモコンを拾い、

テレビのスイッチをオフにて、ぽいっとソファーに放る。

リビングの照明を消し、廊下も消し、あっという間に7階についた。

撩は、香をいつもの場所にすとんと降ろすと、

ぽぽぽんと自分の服を脱いで、

パンツとTシャツになった。



「むふっ♡良い子は早く寝ましょうねー。」

そう言いながら、香の隣に滑り込んで来て、

ふわりと毛布と掛け布団をかけた。

気がついたら、もう横たわりながら抱き込まれている。



「こっちむけ…。」

後ろ頭にある撩の指から軽く力を感じて、

わずかに顔の角度を変えさせられた。

「りょっ…。」

唇を塞がれる。

「んっ!」

慌てて目を閉じる

受ける刺激はライト級、食べられてしまうようなキスではない。



(や、やっぱり、こ、今晩もぉ??

あーん、嬉しいけど、恥ずかしいけど、

明日のこともあるから、今晩はしっかり寝たい…。

でででも、どどどうしよう。

このまま、また2ラウンドとかいうことになっちゃったら…。

明日、それこそ動けなくなるわよぉ。

いやいや、このもっこり男のこと。

3回でも、4回でも平気そう。

あ、あたし、こんなことで、パートナー、つ、つとまんのかな…。)



そんなことを混乱した頭で考えていたら、

ふっと唇が離れて、撩の優しい声が聞こえてきた。



「さっき、体で分からせてやるっつーたけど、

……今日はちゅうだけな。」

「え?」

「あんれぇ?香ちゃん、シたっかったぁ?」

「っば、ばっ、ばっ…!」

「ここはちゃんと休ませんとな…」



撩が温かい左手で布越しに下腹部をゆっくりさすってくる。

かぁーとなる香。

温度と感触が伝わってくる。

(ぁ、気持ちいい…。)

手を当てられているだけなのに、

まるで本当に手当をされているかのような気分になる。



また唇が降りてきた。

「ぅんっ…。」

啄まれるようなバードキス。

下腹部を優しく撫でられている気持ち良さと、

唇に与えられる心地のいい刺激で、

もう頭の中は、とろみがかかってきた。

相方を寝かせ休ませるのが目的と言わんばかりのテクニック。



(ほんと、撩のキスってずるい…。)



「……おやすみ。」

ぼやける意識の中で、撩の声が聞こえた。

全部、読まれてる。

隠そうとしても、自分の不安や緊張は丸見えの様だ。



「…ん。」



撩の腕の中は、深い安堵感が得られる。

ちょっと高めの体温に、心音、

自分の身長差とぴったりくる体格だからこそ、

体全体が包み込まれるフィット感もある。



小さい頃、兄と一緒に寝ていた時とはまた違った感覚なはずなのに、

どこかしら言葉には言えない共通項もある。

香は、もぞっと動いて、一番頭が安定する場所を見つけて、

そこに落ち着くと、ほどなく、

そのまますーと眠りに落ちた。






「……んと、寝付きいいなぁ。」



撩は、香の髪をそっと撫でた。

自覚のないところでやはり疲れていたのだろう。

睡眠薬なしで、こうも簡単に自分の作戦の効果が出たことに、

やはり今日は一日ちゃんと休ませるべきだったかと、

昼間の香を思い出す。



「もう、俺が他のオンナのところに行く訳ないだろ…。

…お前だけ、だから。…心配するな。」



(……お前は、俺にとって、……最後の女だから。

俺も、お前にとっての最初で最後の男でありたい……。)



大人にしては、あまりにも早い就寝時間。

撩は、香を抱き寄せて、体を密着させた。



(今晩は、ゆっくりこの時間を味わうとするか。)



街の雑踏と香の寝息を聞きながら、

撩も満たされた休息を取ることにした。


********************************
第11部(1)に続く。






やっと第10部一区切りつきました〜。
今更ですが、第○○章にすればよかったかいな。
原作中で、撩は香に
「おれの おまえへの あ… だ。」
とか
「家族のひとりになってほしい…」
とか
「愛する者」
とかとかとか言っちゃってる訳ですから、
まぁ、オーバーライン後も多少の糖度のあるセリフを
頑張って言わせちまってもいいかしらん、と。

ちなみに明日11月11日は「ポッキーの日」。
ちょうど「恋愛軌跡」の斉藤聖 さんが、
「ブログで書いた小ネタログ 04」で、
「ポッキーの話し」を書いていらっしゃいます。
時事感と重ねるにはベストタイミングです!

10-10 Before Retiring

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(10)Before Retiring ***********************************************************2143文字くらい



むくりと起き上がる撩。

ハンマーをころんと転がす。



「まぁーたく…、コーヒー煎れてやったのに、これかよ…。」



憎まれ口を叩きつつも、口は笑っている。

確かに、ちょっと香にとってはヒワイな発言だったかと、

コンペイトウ覚悟でおちゃらけてみたら、

見事に特大恥じらいハンマーを食らってしまった。



本心は、いつか、

自分もくたくたになるまで愛し合ってみたいという願望もあるが、

まだ早い。

とにかく順序立てて、

香に嫌悪感を抱かせないようにするのが最優先。

あれから5日しか経っていない。



「まぁ、のーんびり行こうや。」



撩は立ったまま、コーヒーを飲み終えると、

キッチンの電気を消して、リビングに戻った。



香は、客間兼自室で教授宅へ行くための準備を始める。

「ままま、まったくっ、撩ったらっ!」

顔を染めながら、手を動かす。

あんなことを突然言われて、

上手に言い返せるスキルは全くない。

反面、撩が満足するまで付き合いたいという思いも、

少なからずはあるが、

この慣れていない状況では、到底無理だ。



「はぁ。」



溜め息を一つ吐き、すべきことに集中した。

持って行くものは、そう多くないが、

カバンの中のハンカチやティッシュを新しいのに替え、

手帳とかずえからもらった指示書を照らし合わせながら、

買い物メモを作る。

自宅用と教授宅用で使った領収書の整理に、

カード決済の明細も合せて一つの封筒にまとめる。

明日着る服も一応整えておき、

とりあえず一区切りしたら、

次は脱衣所で乾燥機の中身を確認しに行った。



「もう、今日はお風呂省略でいいわよね。

昼前にシャワー浴びたし。」



そう言いながら、香は乾燥機から衣類を取り出し、洗濯カゴの中に移す。

「あー、もう寝れる準備までしておいたほうがいいかな。」

トイレに寄って、洗面所で歯磨きをすると、

ポケットに入れていた錠剤をぽんと口にいれた。

もはや、今となってはかかせない。



「もう、隠す必要はないんだけどね…。」



それでも、こっそり飲みたくなるのは、数年来の習慣のせい。

これまでは、外出先でのお店や公共のトイレなどで、

服用することが殆どだったから、アパートの中だと余計に、

ばれないかと、かつてのドキドキ感が蘇る。

ましてや、撩の留守の時しか飲んでいなかったから、

相方の気配がある中では、やはり抵抗がある。



「よいしょ。」

香は、カゴを持って客間に移動し、

ベッドの上で洗濯物をたたみ始めた。

撩のTシャツやトランクスが、

大きいのになんだか可愛らしく感じる。



女として愛してもらえるはずはない、

望みを完全に捨てながらも、

初恋の人と一緒に暮らせて、身の回りの世話までさせてもらえることの

有り難さと幸運を、洗濯物を畳みながら、思いふけっていたこと、数知れず。

しかし、それは所詮綺麗ごと。

夫でもない、恋人でもない、本当の家族でもない

男の下着を何の疑問も感じずに洗い続けていた訳ではない。

精神的に弱っている時に限って、

畳み終わるころには、涙が滲んでいた。



それが今は、あの時とはまた違った心境で、

布地に触れる自分に気付く。

撩が纏っていた物でさえもとても愛おしい。

ベッドに座ったまま、畳んだ撩の服を抱えて、

そっと抱きしめてみる。

いっそ自分が、このシャツになりたいとも思ってしまい、

一人で顔を赤くする。



「や、や、やだっ!何考えてんのかしらっ!あたしったらっ!」



わたわたしながら、香は寝間着に着替えて、

畳み終わった自分の衣類をしまい、客間を出る。

脱衣所にタオルを補充し、片手に撩の衣類を持って、

7階にゆっくりあがった。




「あり?」

撩は、香の気配を感じて、

7階に向かっているのを察知した。

「なんだよ、こっちにこないのかよ。まさか、もう寝るんじゃないだろうな?

良い子のおこちゃまでも、まだ早い時間だぜ。」



ぶつぶつ言っていたら、すぐに戻って来る気配もキャッチ。

(なんだ、洗濯物かなにかを持って行ったのか。)

次こそは、リビングに来るかと思いきや、

香のスリッパの音は、

玄関や、吹き抜けのホール、そして、各種窓などに立ち寄り、

何かをチェックしている様子がドアの向こうから伝わってくる。

(あーん、戸締まりと防犯チェックか。)



撩にとって、いつものこの時間は、

夜の新宿に遊びに行くか、というスタイルであるが、

今は、香とのんびりまったりしたい気分で、

早く捕まえたいのだが、

まだせわしなく動いている相棒は、

そんな撩の気分なんぞ知ったことではない。



撩は、見ているテレビを消して、

リビングの扉から顔だけ出して廊下の様子をうかがった。

吹き抜けのフロアに続くドアを開けて戻ってきた香は、

すでにパジャマ姿。



「おま、何やってんの。」

「な、何って、明日の準備と、洗濯物と、戸締まり。今からお米研ぐから。」

当たり前のようにそう言うと、

また、パタパタとキッチンに消えて行った。



「んと、起きてから、ずっと動きっぱなしだよなぁ〜。」

香から発せられたミントの残り香りが鼻腔に届き、

歯磨きがもう済んでいることが分かった。

「ボクちゃも、もう寝るだけにしておこっかなー。」

香が朝食用の米を研いでいる間、

撩も、トイレに行き洗面所で顔を洗い、歯を磨いた。



明日の朝食の準備が終わった香は、

自室で、化粧水と乳液を施し、

槇村の写真をちらりと見る。



「アニキ、…見守っててね。」



香は微笑みを残し、すっと立ち上がると、

リビングに向かった。


*******************************************
(11)につづく。





そうなのよ!
カオリンはすること一杯あるんだからぁ〜。
このアパートの生活空間が維持管理されていることに
撩ちん、もっと感謝してるぞ的言動をしてくれてもいいんでないかい?
え?そんなガラじゃねぇって?

10-09 A Hamburg Steak

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(9)A Hamburg Steak **********************************************************3594文字くらい



時刻はあっと言う間に夕方。

晩秋の日の入りは早く、

5時台だというのにもう辺りは暗くなり始めている。



香は、一通り他の家事を済ませてから、

夕食の準備に取りかかる。



買ってきたミンチと玉ねぎのみじん切り、

黒こしょう、きざみパセリにパン粉と、

かさ上げのために豆腐も加えて、

具材を混ぜてこね上げ、撩のための巨大ハンバーグを整形する。

付け合わせの

ニンジンのグラッセ、茹でブロッコリ、フライドポテトも

すでに完成。

ごはん、味噌汁、サラダとフルーツを用意し、

主菜をオリーブオイルで焼き上げ、大根おろしとポン酢をかければ、

ちょっとした和風ハンバーグ定食の出来上がり。



「よし、これでいっか。撩を呼んでこなきゃ。」

時間は7時を跨いでいる。



香はキッチンを出ると、一つ思い出したことがあり、

客間へ入り、昼前に脱衣所で見つけた

ペンライトのような単眼鏡のようなものを持って出てきた。



かちゃりと、リビングの戸を開ける。

「撩、寝てるの?」

「んあ?」

結構しっかり休息をとってしまったようだ。

リビングに入ってこようとする香にギリギリまで気付かなかった。



(ボクちゃん、どこまで安心しきってんだか……。)



遠距離からの殺気でも反応できる能力がありながら、

香の気配に身をまかせている己に思わず笑いが出そうになる。

髪をぽりぽり掻きながら、のそりと上半身を起す。



「夕食出来たよ。ね、これなあに?脱衣所に置いてあったんだけど。」

「ああ、忘れてた。海坊主からのプレゼントだ。受け取っとけ。」

(香にした悪戯の代償にしてはお安いもんだろ。)

「え?いいの?でも何これ?」

「ナイトスコープの小型タイプ。

そのサイズなら持ち歩きにも便利だろ。

あー、腹減った。」

撩はうーんと伸びをして立ち上がった。



まだ、単眼ノクトビジョンをいじりながら

訝しがっている香を見てふっと笑う。

そのスキだらけの姿に、意思と無関係につい手が伸びた。

「ひゃあ!」

ガラステーブルの端に驚いた香の足が当たり、

ずっと音を立てて少し位置がずれる。

すっぽり腕の中に収まる香。

この身長差が絶妙にいい。

くせっ毛に鼻先を埋める。



赤く硬くなる香は、水蒸気爆発寸前。

「な、な、なっ…!」

(すっげー可愛いんだけど、いつになったら、この強張りがとれんのかねぇ。)

「あー、ダメだ。…これじゃ、先におまぁを食っちまいそうだ。

メシにしようぜっ。」

「…あ、ぅ。」



突然の抱擁が解けた香は、

単眼鏡を握りしめたまま、赤色化石になっている。

まともな言葉が出ない。

撩は先にリビングを出ようとするが、ちらっと振り返り、一言。



「冷めちまうぞ。」



はっと我に返る香は、単眼鏡を後ろポケットに差し込みながら、

あわてて撩の後について行った。

(も、もう、心停止するじゃないっ。

やっぱり、こーゆーのとーぶん慣れないわよっ。)

火照りながらぎくしゃくして、キッチンに入って行く。



すでに配膳済み。

茶碗に山盛り一杯の白米を盛り付け撩に手渡す。

「はい。」

「さんきゅ。んじゃ、食うか。いっただっきまーす。」

大人数人前の料理を、がつがつとあっという間に減らしていく撩。

美味しそうに食べているので、香はひとまず安心した。



「明日は、何時に家を出るんだ?」

もぐもぐしながら撩は香に尋ねる。

「あ、えっと、

お昼ごはん食べたらすぐのほうがいいな。買い物あるし。」

「りょーかい。」

「かずえさんも、実験のほうがもうちょっとで区切りがつくんだって。」

香も箸を進めながら返答する。



「そっか…。

かずえちゃんも、忙しいのに、あんなじぃーさんの世話もして大変だな。」

「何言ってるの。撩とミックの命の恩人でしょ。」

「ふんっ、長過ぎる付き合いだと、だんだん妖怪に見えてくんの。」

「撩にとって、おじいちゃんくらいになるのかしら?

ねぇ、教授って何才なの?」

「しーらねっ。」

「もう!」

「ごっそさん!」

「は、早っ。もっとよく噛まないと胃悪くしちゃうわよ。」



そういいながらも香は、立ち上がって、食器をさげ、

あらかじめセットしていたコーヒーを注ぐ。

「はい。」

「お、手際がいいな。さんきゅ。」

カップを受け渡す時に、

つとお互いの指先が触れた。

かぁっとなって思わず手を引っ込める香。



撩はカップを持ったまま、またくすくすと笑う。

「香ちゃんって、んと、ウブねぇ〜。」

ちょっとむっときた香は、どもりながらも言い返す。

「あ、あんた、ま、またからかって、面白がっているでしょっ。」

赤い顔のまま、ご飯茶碗を持ちもくもく食べる香。

「んー、だって面白いんだもーん。」

コーヒーをすすりながらにやりとしてみる。



「し、しかたないじゃないっ。」

もぐもぐ。

「あ、あんたも、わ、わ、分かってると、お、思うけど、

あ、あ、あたしはっ、

何から何まで、っ全部あんたが初めてなんだからっ!」

もぐもぐ。

「慣れないのはしょうがないでしょっ!」

食べながら、つい本音が零れる。



頬杖をついて、カップに指を添えたまま、その様子を眺める撩。

目を細めて、ふっと鼻から短い息を吐く。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ、そんなの気にしない、気にしなーい。」

くっとコーヒーを飲みがら、軽い口調での返答。



(これも、コンプレックスの原因なんだろうなぁ。

だーから、俺を満足させらんないとか、

束縛できないとか、言うんだろうなぁ〜。

このウブで慣れない恥じらい100%の香もたまらなくいいのに、

いま、その赤らめてる顔もツボだって分かってねぇーだろうし。)



「ごちそうさま…。」

香は、食べ終わりかちゃりと食器を重ねると、

溜め息をつきながら、シンクに運んだ。

エプロンを着け直し、俯き加減でコックを開く。

(ちょっとくらい、何かしらの経験があれば、

心構えや、マナーや、空気の読み方が分かるかもしれないけど、

全くゼロ…。

色んな意味で心のゆとりがない…。

撩は余裕綽々なのに…。)



「な、なんかね、撩に申し訳なくて、さ。」

「はぁ?」

手の平に預けていた顔が浮いた。

「なーにがだよ?」

洗い物を片付けながら、背を向けたままでぽつりと話す。

「分かんないけど、色々…。」

色々項目があり過ぎて、自分の不甲斐なさに、情けなくもなる。



「おまぁ、心配し過ぎ。」

突然、直近で聞こえた声に驚いて隣を見る。

撩は、何食わぬ顔して、香の洗い終わった食器を持って、

ちゃっちゃか布巾で拭いている。

「うぁ!あ、あ、あんた、な、何、音もなく瞬間移動してんのよっ。」

危うく食器を落としそうになった。

撩は手を休めずに、そのまま続ける。

「いいじゃん、慣れたところから、慣れていけば。」



かちゃっと食器がカゴの中で重なる音がする。

それに、はっとして、水道を出しっぱなしだった香は、

落としそうになった最後の皿を慌てて洗い、洗剤を流した。

きゅっと、栓を止める。

「………。」

香は、まだどう答えていいかわからない。

「ほれ、よこしな。」

水滴がしたたる食器を撩は受け取り、きゅっきゅっと水分を拭き取る。

「だから、そーゆーことが慣れないのよ…。」



撩が食事まわりの手伝いを自分からするなんて、

以前は殆どあり得なかった。

「あー、たまーにしか、しねぇーから。」

かちゃりと、食器を重ねながら、

視線だけ香に動かして、にんまりとした。



「さ、コーヒー煎れてやる。俺もも一杯欲しいし、おまぁ、座ってろ。」

布巾をぱんとはたいて、食器カゴの端にかけ、

香の両肩を後ろから押して、ストンと椅子に座らせると、

撩は、用意されていたコーヒーセットをいじり出した。

ミルを引きながら、撩は思い出したかのように口調を変えて言った。



「そうそう、おまぁが昨日渡してくれた007の小道具。役に立ったぜ。」

「え?あの教授のおもちゃ?」

「一人、やっかいなのが混じっててな、

そいつの気をそらすのに、使わせてもらって大成功。」

お湯を注ぐ撩。

コーヒーの持つ独特の芳香がキッチンに漂う。

「…よかった。」

「ほれ。」

いつものカップを差し出される香。



「あ、ありがと…。」

「今日はさぁ、休息日って予定にしていたのによぉー、

結局おまぁ、いつも通りちょこまか動いて、

全然休めてないだろーが。」

「っんな、な、なに、い、言ってんのっ。昼近くまで寝ていたのにっ、

ややや、休めてないわけ、ないじゃないっ。

生活リズムが狂う方が疲れるわっ。

撩こそ心配しすぎよっ!」

「ふーん、じゃあ、撩ちゃん、どんだけ頑張ったら、

かおりんが一日動けなくなるか試してみよっかなぁー。」

「へ?」



自分のカップを持って、隣に座ってきた撩は、

スケベオヤジモードの弛み顔になっている。

反射でハンマーが出現。

ドン!と地響きがアパートに響く。

キッチンの床と恥じらいハンマーの間に挟まっている撩。

カップだけはこぼさずに死守していた。



「ま、まったく、あんたって何考えてんのよっ!」

真っ赤な顔してしゅーしゅー湯気を出しているのは、

怒りのためではない。

撩もそれは承知の上。



「…し、しどい、香ちゃん…。」



香は、くっとコーヒーを飲んで、シンクでカップを軽く洗い、

エプロンをテーブルに置いた。

「あ、あたし、あ、あ、明日の準備、し、してくるからっ!」

どもりながら、そう言い残して足早にキッチンを出て行った。


************************
(10)へつづく。





「はぢめて」が、ぜぇ〜んぶ新宿の種馬とは、
カオリン、頑張ってくれ…、としか言い様がないっすね〜。
このサイトの本編は、基本3週間の間の出来事としての設定ですが、
1ヶ月後、半年後、1年後、2年後と
慣れるに従って、撩ちんも変態プレイ解放というイメージです。
よって、まだまだカオリンに嫌われないよう、嫌がられないよう、
少しずつ慣れさせるべく、
色々セーブして紳士を演じている種馬であった…。

ここでちょいと教授と海原の年齢考察をば。
幼い撩を拾った海原は、20代から30代手前?、
父親的年齢差として妥当なところは、こんな感じ?
撩と対決した時は、50代くらいかなぁ?
教授、海原よりさらに20歳くらい上かも?
原作末期、撩31、海原50代、教授70代、
これなら、教授にとって孫同然なのもちょっと納得。
教授なら100歳オーバーでの昇天期待できそう〜。

10-08 Afternoon Of Ryo & Kaori

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(8)Afternoon Of Ryo & Kaori ****************************************************2784文字くらい



帰宅した二人。

撩は玄関から続く階段を昇りながら、

指にひっかけてる買い物袋をくっと上げた。

「こいつは、キッチンでいいな。」

「あ、うん。」



撩は、さっさか歩くと、ダイニングテーブルに荷物を置き、

キッチンを出ようとした。

まだ納得のいかない顔をしている香とすれ違い様に、

撩は香の頭部にぽんと手を置き、くすりと笑う。

「俺、ミニの中の荷物を武器庫に戻してくっから、

おまぁは、あんまり動き回るなよ。」

「うごっ、…って、そんなわけにはいかないでしょっ。」

抗議する香をよそに、撩はフロアを降りて行った。



(わかんない…。

撩は、自分が自由であることを好む男のはずだわ。

なのに、あたしと同じって…、

自由にしろと言われることは嬉しくないって、

やっぱり矛盾してるじゃない。)

香はこめかみを押さえる。



(撩を、自分に縛り付けるのはできない、そう思っているのに……。)



心の深いところで無意識に押さえつけている醜い独占欲が

今にも暴れ出しそうなイメージに覆われそうになる。

香は、顔を伏せ自分の体をきゅっと抱きしめた。

嫉妬心や占有欲を出したくない。



(こんなの、撩を困らせるだけだわ…。)



持て余す自分の心理状態に、

暫し、そのまま動けないでいた香。

しかし、買い物袋を見て、ハッと思い出し、

これからの動きを大急ぎで計算し始めた。



「そ、そうよ!片付けることがいっぱいあるのよ!」



午前中できなかった洗濯の続き。掃除、ゴミの分別。

布団取り込みに、領収書の整理、

そして夕食作りに、明日の準備。

指折り家事の項目を数えて、まずは、米研ぎから開始した。



「急がなくっちゃ、あっという間に夕方になっちゃうわ。」



炊飯器をセットすると、夕食の下ごしらえを終えてから、

リビングに向かう。

すでに夕方4時前、

ベランダで伸ばしている薄手の掛布団をさらっと撫でてみる。

「大丈夫みたいね。」

数時間しか干せなかったが、一応乾いている。

2つ折りにしてかかえ、7階へと運んだ。



撩の部屋を開けると、窓は閉まっているのに、

空気の入れ替えがすんだあとのような湿度の低さ。

(開けていた時間があったのかしら?)

香は、撩が起床前に香の髪の毛を窓から飛ばしたことや、

出かける前の衣類チェンジの時に

すばやく窓も閉めたことも知る由もなく、

疑問に思いながらも、ベッドメイクをしていく。



(今夜も、ここで一緒に寝ることになるのかしら…。)



まだ、気分転換ができない香は、

今日の夜を撩とどうやって過ごしたらいいのか、

すでに自分の中でぎこちなさを抱えていた。

ベッドの左サイドにすっと手の平を滑らせる。



「りょ…。」



まだ、やっと5日。

気持ちが追いつかない。

こういう時の自分の気持ちをどう扱いかったらいいのか、

全く分からない。



(うーん、悩んでても仕方ないかっ。)

「さてと、次は洗濯機を回して、掃除機ね。」

よっと、立ち上がると、香は静かに撩の部屋を出て行った。



撩は、1階駐車場に降りると、

クーパーの後部座席とトランクに積んでいた銃火器を運ぶ。

がちゃがちゃと音を立てながら、地下射撃場の戸を開けた。

慣れ親しんだ硝煙の匂い。

武器庫の電気を付ける。

きちんと整理された重火器類。



銀狐の一件以来、香に管理の一部を任せている。

教授の家から、勝手に武器を持ち出したことをきつく叱り、

冴羽商事管轄の道具を把握させるべく、

流れとして立ち居入り禁止ゾーンの境界を取り去った。

もう、あの時から手放せないと、

心のどこかで思っていたかもしれない。



毎日忙しい中で、ここもちゃんと掃除が行き届き、

銃も一丁一丁、丁寧に拭かれている。

本当は、人を傷付ける道具を触らせたくはない、

と思う気持ちもまだ残っているが、

自分たちの生きる道にあって然るべきものとして、

避けられない事案でもある。

撩は、各種武器を指定席に戻しながら、

今後の動きを色々と考え巡らせていた。



6階に戻ると、香が廊下に掃除機をかけていた。

「あんまり、働くなよぉ。今日は休日のつもりだったのによぉ。」

午前中の遅れを取り戻そうと、大急ぎでノズルを隅々に這わせる香。

「え?何か言ったぁ?」

吸引するモーターの音で、撩の言うことがよく聞き取れない。

「何でもねぇーよ!」

撩も大きめの声で返事をして、リビングに引っ込んだ。

どさっと、長辺側のソファーへ腰を下ろす。



「はぁ〜。」

(俺の2発のせいで、今日も疲れているだろうに、

香は自分からは、決して疲労感や弱音を吐かない。

初心者なのに、必死になって俺を受け入れ、相当キツいだろうに、

自分のことより、他を優先するのは、もう変えられないサガだろうし…。)



撩はのっそりと立ち上がりベランダに出て、柵に寄り掛かり、タバコを取り出した。

久しぶりに火をつける。

一服吸って気分を落ち着かせる。

(あれからタバコ減ったなぁ。)

香とケジメをつけてからの目に見える変化に、ふっと笑う。



隣の墮天使の気配はない。

取材か、教授宅でかずえと過ごしているか。




「どっから始めっかな…。」



おふざけではない、真剣な訓練。

教官としての立ち場で香に接するのは初めてとなる。

そもそも、

これまでに特定の誰かを長期間教育しようと思ったことはない。

自分を中心的に指導してきた海原やマリーの父親を思い出す。



己を死なせないために、

まったくの手加減なしでの訓練と実践の日々。

これからのトレーニングで香に苦痛を味合せるつもりはなくても、

結果的にそうなるかもしれない。

自分がそれに耐えきれるか、

なんとも軟弱な思考に苦笑する。



気配を消し、同時に気配を読む訓練、護身術、射撃、

トラップ、各種武器の分解組立、

基礎体力の向上に、外科的知識の確認。

メニューは浮かべど、どう進めて行くか、妙案が浮かばない。



「らしくねぇな…。香相手だと、余計なことを考えちまう。」



ふーっと紫煙を細く吐く。



「まぁ、なるようになるさっ。」



撩は、室内に戻るとテーブルの上の灰皿に、

きゅっとタバコを押し付け、

ソファーの短辺にコーナー側へ頭を向け、

ごろりと仰向けになった。

後ろ頭に手を組み、目を閉じて耳をすます。



まだ、リビングの向こうで、

あっちに行ったり、こっちに行ったりして、

せわしなく動き回っている香の気配を感じる。

下手に手伝おうと、手を出そうとすれば、

これが自分の仕事だからと、拒むに決まっている。

ここは、大人しく引っ込んでおいた方がいいだろう。



香の気配が心地いい。

そばに、香の気配があることが、

すっと心を穏やかにしてくれる。

ふと、さっきの買い物帰りのやりとりを思い返す。



(……香、

俺には、もうお前しか目に入らないことを、

お前しかいないことを、

どうやったら伝えられるんだ?)



根底にある撩自身が育ててしまった低い自己評価。

ちゃんと言わない己も悪いが、

人生最大の決断をした。



(こんないい加減な男が、

お前とその思いを共有したいと思うことは、

とんだワガママかもしれないが、

お前と共に生きるために、その努力はさせてもらうからな…。)



そんなことを考えながら、

撩はまどろみに身を任せた。


**************************
(9)へつづく。





カオリン、撩に自分だけ見て欲しいという想いを、
まだ解放できず、
見てもらえる訳ないじゃない、
と、かなりネガティブにとらえてしまっております。
撩は撩で、カオリン中毒が更に悪化。
それに全く気付かない超鈍感娘の香ちゃん、
ここまでくると撩ちん、ちょっと気の毒かも〜。

10-07 Memory Of Sonia

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(7)Memory Of Sonia ************************************************************1473文字くらい



撩は、アメリカ時代の幼いソニアの面影を思い浮かべながら、

香の肩を抱き直した。



「…キャッツで、あいつと再会した時、

俺を狙っていたことはすぐに分かっていた。

そして、あいつがお前をターゲットにすることもな…。」



香は、ソニアに監禁される時に彼女から聞いた話を思い出す。

「海坊主との決闘で、俺が生き残ったら、

家族を奪われた悲しみと苦痛を、俺にも抱かせることが、

あいつが自力で出来る唯一の復讐だったんだ。」

仮の話しとは言え、口に出すときつい。



「……お前を、その、…大事な人間だとあいつに悟られてはならないと思って、

あの時、屋上であんなことを言ったんだ。

ソニアが近くで聞いているのが分かってたからな…。」



「そ、そんな…。」

香は、ソニアが言っていた

『ヘタな芝居をしていたようだけど』というセリフの意味が

今になってようやく分かった。



「結局、ばれちまって、お前には苦しい思いをさせちまったな。」

ソニアの誤解も解け、決闘した二人は幸運にも生き残り、

お互いの記念日を生きて過ごすと誓ったあの日。

それからまた、

いつもの生活に戻り、

いつもの二人に戻ってしまった。



「だ、か、ら、あの自由恋愛ウンヌンの話しは、

なかったことにしよう!うん!」

撩は、間を置いて、口調をころりと変え、香の髪をくしゃりとした。

「これからは、俺がちょっかい出す相手が、

依頼人であろうと、道行くもっこりちゃんであろうと、

おまぁには、十分ハンマー出す資格があるんだぜ。」

立ち止まり、頭頂をわしっと掴んでくいっと、顔を自分に向かせる。

「ぁ。」

潤んだ瞳が撩を見る。

「そして、そのハンマーやらコンペイトウやらを受けていいのは、

俺だけだっつーのも分かる?」

「りょ…。」

まだ表情が暗い。

伏せ目で視線をそらせた香は、まだ悩んでいる。



(まぁーだ、わかんねーかな?遠回しのつもりじゃないんだが…。)



撩は背中を押して、また一緒に歩き出す。

色事に至極疎く、

自分を蔑(さげす)むことが常となっている香の心理を修正するのは、

やや手こずりそうな気配。



「…で、でも、やっぱり、

撩の自由を奪うなんて、あたしが、束縛するみたいなことなんて…。」



撩は、深く大きな溜め息をつく。

「おまぁさぁ、…俺がもし、香ちゃんは自由だから、

他の男のところに行って夜遊びしてきていいよーって言ったら、

嬉しいかぁ?」

自分で言いながら、

もしそんなことがあったらと仮定するだけで、胸が苦しくなる。

「え?」

「どうなんだ?」

「い、いやっ。」

香は顔を青くした。

「そ、そんなこと、あ、あたしが、出来るわけないじゃないっ。」



撩はふっと笑った。

「嬉しくないだろ?…撩ちゃんも同じなのっ。

あーあ、さっきのカオリンの問題発言でボクちゃん傷付いちゃったぁ。」

気付いたらもうアパートの前。



「あとできっちり癒してもらおっかなー。」

「は?」

「ほれ、階段くらいは持たせてくれ。」

撩は、するりと買い物袋を受け取ると、ビルのドアを開け、香を中に促した。

これまで、何度かこの役回りをミックにとられていたこともあり、

地団駄踏んでいた不器用な自分を思い返す。



香は、まだ撩の真意が読めないでいた。

(同じって、ど、どこが同じなのよ…。)

その表情を見た撩は、やや眉を下げて、頭をかいた。

(こいつ、やっぱり分かってねぇーのかよ…。)

階段を上りながら、香を振り返る。

「おまぁ、まーだ、分からねぇって言うんだったら、

撩ちゃんが体できっちり分からせてやっから、覚悟しとけよぉ。」

ちらっと向けられた色を帯びた視線。

「ひっ。」

香は思わず肩をすくめて声が出てしまった。


************************************
(8)へつづく。






原作では、
ソニアが香をファルコンのアジトに連れ去った
3月26日の朝(午前中の早いうち?)から、
決闘当日の3月31日深夜までの5日間、
完全に省略されています。
しかし、関わった人物、
美樹、ファルコン、撩、香、ソニアが
それぞれ、その100時間余りを
どんな思いで過ごしたのか、
これは、穴埋め妄想をするには、かなりキツイの一言です。
例えば、香のその間の食事や入浴、着替えは
一体どうしていたのか、
26日と31日の服装が同じだったということは、
その間は別のものを用意してもらっていたのかとか。
そして、撩と美樹は、
ちゃんと5日、睡眠や食事が出来ていたんだろうかとか、
恐らく、原作内では、ギャンブラーの話しの時に
香がスキー旅行に行ったということ以外では、
アパートから5日もいなくなる設定はなかったと思いますので、
かなり異例なシチュエーションだったはず。
もしかしたら、撩もこっそり、安全を確認するために、
ファルコンのアジトに様子を見に通っていたかもしれませんし。
(撩が複数あると思われるファルコンのアジトの場所を知らないはずないと)
とにかく、この5日間は、
あまりにもそれぞれのキャラが抱えている中身が重過ぎるので、
1990年3月末というのは、
ワタクシにとって、まだ手を出せない領域だったりしてからに。
誰か変わりに手ぇ出して欲しい(他力本願っ)。

プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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試運転中…

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