17-11 Snack Bar "POTATO-KUN"

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目


(11)Snack Bar “POTATO-KUN” ********************************* 3992文字くらい



ふと目が覚める香。

時計を見る。

「4時か…、うわっ、1時間半も寝ちゃったの?」

驚きとともに上半身が飛び上がる。

ちょっとの休息のはずが、

また無意識に睡眠単位1個分を使ってしまった。

比較的すきっりしている。

しかしながら、若干腕が痛い。



「明日、筋肉痛かな…。」



ベッドから降り立つと、

さっきミックから貰った花束が

テーブルの上でそのままになっていた。

「あ、いっけない!」

慌てて手に取りラッピングがカサリと音を立てる。

花が弱っていないことを確認すると、

キッチンに運び、シンクの桶に水を貯めて、

包装紙とアルミホイルとティシュを取り除き、

調理バサミで切り口を少し落とし、新しい細胞を露出させる。



「どこに飾ろうかしら…。」



そんなに大きくない花束。

以前、沙羅が隠れた倉庫に向かい、適当な大きさの花瓶を探してみる。

「あ、あった。これでいいかな。」

小さな紺色のガラス製で四角柱。

キッチンに戻り、花瓶を軽く洗って水を注ぎ、花を生けてみる。



「うーん、リビングでいっか。」



香は、花瓶を抱えて居間に向かう。

ミックの言いかけた祝いの言葉が分からないまま、

ソファーの長辺側の後ろにあるリビングボードの上に指定席を作る。

そんなに香りが強いものではないが、

可愛い彩りにこの空間が少し温かくなる。



「これでよし、っと、次は…。」



香は、再びキッチンに向かい、夕食分の米を研ぐ。

(今日は何にしようかな…。)

メニューが決まらない。

味噌汁は朝の分がある。

「うーん、後で特売の何かがあったら買ってこようかな。」



脱衣所に行って、

帽子、ポンチョや、手袋、マスク、さっき脱いだ上着を洗う準備をする。

ビニール袋の中は、確かにあの射撃場の匂いが色濃く残ってた。

「これは洗濯機はダメね。」

ポンチョはバケツに浸け置き洗いをすることに。




リビングに再度戻り、時計を見る。

「ああっ!もう4時半!開店前に行かなきゃっ!」

香は、教授とファルコンから入った収入をあてに、

さっさと撩のツケを払ってしまいたいと、

今日の夕方には、何軒かのお店を尋ねることにしていた。

なにせ半年分以上はたまっているのだ。

(できたら、3軒くらいはまわりたいわ。)



しかし、まだ撩がミックのところから戻ってきてない。

「すぐ戻るって行っていたけど。まさか、また何か仕事とかするのかしら?」

撩を待つことも考えたが、

とにかく一刻も早くツケの支払いに行きたい。

「伝言を残していけばいいか。」



香は出かける準備をしながら、各お店からの請求書と支払い金額を整え

封筒に詰めると、宛名を書き、店長に渡せる手はずを整えた。

そして、大急ぎでキッチンで撩にメモ書きを残す。

すぐに帰宅できることを目論での一筆。



『ちょっと出かけてきます。香』



「もう、何か聞かれても、いいわっ!支払いの方が優先!

適当に流せばいい!って……。」

つと汗がこめかみから伝う。

「……で、できるかしら…。」

撩があれだけ嫌がっている事案、

妊娠説まで飛び交っている渦中に、一人で行っていいものだろうかと、

一瞬迷うも、やはり次いつ払えるか分からないツケの清算を選ぶことにした。

「さっさと支払ってお店から出ればいいのよっ!うん!」

くっと立ち上がる香。



夕方5時前、アパートを出る。

向かうは新宿2丁目方面。

射撃の疲労が若干残るものの、

足早に、ローパンプスで目的地に歩みを進めた。






「まずは、『スナックポテトくん』ね。」

入口前で、一旦深呼吸する香。

まだ、看板は出ていない。

そっと、ドアを押して隙間から顔をのぞかせた。

カランと銅製の鐘が鳴る。



「こ、こんにちはー。ママさんいます?」

「あーら!香ちゃんっ!」

カウンターのテーブルを拭いていた主人が目の前にいた。

店内には彼女1人だけ。

「ご、ごぶさたしてます。

あ、あの撩のたまったツケを支払いに来ました。」

「まぁー、わざわざ?」

ママは、台布巾をテーブルに置いて、

エプロンで手を拭いながら嬉しそうに香に近付いた。



「そんなのいつでもよかったのに。

こっちこそ撩ちゃんにはお世話になっているんだから。」

「ええ?ご迷惑をおかけしてばかりじゃないかと…。」

「いいから、いいから、香ちゃん、ちょっとこっちに座って行きなさいよ。」

ショルダーバッグから、封筒を取り出そうとした香の肩を押して、

スナックの主人はカウンターに導いた。

ストールに無理矢理座らせられる香。



「ね、お祝いさせて!ちょうど良かったわ!飲んで欲しいものがあるの♡」

「え?あ、あの…。」

「あなた達のことを聞いて、すぐに注文したのよ。

つい2日前届いたばかりなの。」



ママは、しゃべろうとする香を遮って、カウンターの中に入り、

業務用冷蔵庫を開けると、あるビンを取り出した。

ラベルを見て、香は頬が染まった。

「あ…。」

ラベルに書かれている焼酎の銘柄は『 香姫 』。



「ね、香ちゃんぴったりのお酒でしょ?」

にこやかに説明するママは、きゅっと栓を開けて、

素早くハイボールを作り始めた。

「噂を聞いてね、お祝いにはこれしかないっ!て思ってたのよ。」

からんと氷の傾く音がする。

香は、ある程度覚悟していたので、ちょっとだけとぼけることにした。



「あ、あのウワサって…。」

「決まっているじゃない、撩ちゃんがやっとケジメつけたって。

キャッツのあの2人の結婚式の話しと一緒に、

もう話題はもちきりなのよ♡」

「は、ははは…。」

かぁぁぁと体温が上がる。

もうごまかせないかと、

香は座ったまま小さくなって全身を赤らめた。



「はい、どうぞ。まだ早いから少し薄めに作ってあるわ。」

「いいんですか?頂いて?」

「だって、香ちゃんのためのお酒なのよ。なに遠慮してるのっ。」

「あ、ありがとうございます。」



香は、遠慮気味にグラスに手を伸ばした。

レモンの香がほっとさせる。

つっと口をつけると、実に飲みやすい風味で、お酒に弱い香も楽しめる1杯。

「おいし!」

「でしょ?」

作り終わったママは、カウンターから出て来て、香の隣に腰を降ろした。

「高知のね、菊水酒造さんのお酒でね、実は原材料がパンなんですって。」

「パ、パン??」

「そうなの。面白いでしょ。」

女主人は、照れながらお酒を味わう香の横顔を見つめて、

ふっと表情が緩んだ。



「香ちゃん、本当によかったわ……。今まで長かったものね……。」

「!!っ。」

香は、お酒を吹きそうになった。

「ママさんっ。」

「まったく撩ちゃんったら、こぉんなかわいい子をずっとほったらかして、

酷いわよねぇ〜。とっくの昔から香ちゃんにメロメロだったくせにねぇ〜。」

「ごほっ!ごほっ!ぐっ、っっ。」

「あらあら、大丈夫?」

「は、はい…。」

むせる香の背を優しく撫でた後、

両指を組んで頬杖をつく主人は、視線を酒類の並ぶ棚に送る。



「ちょうどね、あたしがこのお店を始めた頃に、撩ちゃんも新宿に来たみたいでね。

そう、もう11年くらい前になるのかしら?

その時から、あのスケベっぷりは変わってないけど、

たぶん、あなたのお兄さんと出会ってからかしらね、

雰囲気が随分と変わってきたのよ。

最初の頃は、言葉数も少なかったしね。」



香ははっと顔をあげた。

「え?アニキのことも知っているんですか?」

「もちろん、撩ちゃんが、このお店に連れてきたこともあったのよ。

その時、緑茶ありますかって聞かれたから、

お店中、大笑いしちゃってっ……。」

目尻に皺を寄せながら、くすくすと笑うママの姿に、香はきょとんとする。



ふぅっと視線を流して、香を見つめるママ。

一拍置いて香の左耳の上の髪につと指を伸ばした。

「ふぇ?」

「香ちゃん、ほんと、綺麗になったわ…。」

「は?」

「たっぷり愛されてるみたいね!」

にっと微笑んで、すっと立ち上がるママ。

ぼしゅっと頭部から湯気が吹き上がる香。

なぜこのセリフが今出るのか訳が分からず、口がぱくぱくしてしまう。

「ちょっと待ってて、今領収書持ってくるから。」

「あ、は、は、はい!」



その間に、香は作ってもらったお酒の残りをくっと飲み干した。

カウンターのレジにまわったママは、ゆっくり戻ってくる。

それに合わせて、バッグから封筒を出した香。



「あ、あの、これがたぶん半年分のツケになると思います。

中身を確認して頂けますか?」

外身からも厚さが分かる茶封筒をママは受け取る。

「あら、撩ちゃん、こんなに溜め込んでたのね。」

「も、申し訳ないです…。」

肩幅が狭くなる。

ママは、受け取った金額をさらさらと領収書に記入して、

ぴっと冊子からちぎった。

そして、おもむろに、封筒から紙幣を半分取り出すと、

香に領収書と一緒に手渡した。



「えええ?」

「受け取って頂戴。お店からのお祝い。」

「そそそ、そんな!これは、だだだめですよ!撩の飲み食い代なんで、

ちゃんと受け取って下さい!」

「受け取ったって、ちゃんとハンコ付きで書いたわよ。」

「だだだだだけどっ!」

「いいの、いいの。」

「こここ困りますっ!」

「また気軽にお店に寄ってちょうだい。

顔を見せてくれることが、私たちの元気につながるから。ね!」

「ママさん…。」

「『香姫』はキープにしておく?持って帰る?」

「え?」

「また撩ちゃんと一緒に来た時、作ってあげましょうか。」

「…ぁ、…じゃあ、お店に、…置いといてもらえますか?」

「分かったわ、ちゃんと冷やしておくから、いつでも飲みにいらっしゃい。」

「ママさん、…ありがとう。」



ぐずっと鼻をすすって、少しのアルコールで気分もほかほかしてしまい、

女主人の心使いに、胸がくっと掴まれてしまった。



「じゃあ、そろそろおいとまします。次のお店に行かないと…。」

「引き止めてごめんなさいね。」

「いえ、本当にありがとうございました!お、お邪魔しましたっ。」

頬を染めて笑顔で会釈する香を、ママは片手をあげて優しく見送る

「……ほんと、良かったわ…。」



カランカランとドアベルの鳴る中、

彼女はしばらく香が出て行ったドアを見つめていた。



***********************
(12)につづく。





完全版15巻・第141話「勇者と腰抜け」の巻で登場した、
スナックポテトくんのママ。目元のホクロが印象的でした。
あの時は3ヶ月分でしたが、今回は半年分ということで、
日下美佐子編あたりから溜め込んでいた設定にしております。
「香姫」実在しますが、
たぶんこの時代には販売されていなかったと思われます。
とりあえずネーミング優先ネタということで〜。
とうワケで、まずは1軒目でした。


【追記】
お問い合わせを頂きましたので、追記いたします。
2/28の「お詫び」の記事で、1ヶ月分の自動更新後、
新年度以降について明記しておりませんでした。
とりあえずは、この第17部はちゃんと節目まで
持って行きたいと思いますので、
4月1日以降も17-12からご覧頂けます。
その後も続けたいのですが、
とにかく気分を上向きにできるよう、
春の気温の上昇に便乗したいところです。


【いよいよ明日…】
正直、リンク記事の公開は、若干の恐怖心もあります。
ご挨拶に伺うのも、
緊張感で脂汗を手ににじませながらの送信で、
仕上がった記事に、
またこの人はとんでもないことをしてくれたと、
受け止められる可能性もゼロではないでしょうし、
一時期、本気で記事作成を中止にしようかと
かなり悩みましたが、
多くのWM様から有り難い返信を頂戴し、
エンプティーに近かった燃料を注いでもらいました。
こんなブレが拭えないサイトですが、
ガス欠にならないよう、
じんわりと徐行運転をさせて頂ければと思います。
改めてご連絡を下さったサイトマスターの皆様
ありがとうございました。

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リンク記事公開のお知らせ

リンク記事公開のお知らせ


明日、3月31日(日)は、
当サイトを開設公開を始めてから
丁度1年になります。
そして、香ちゃんのお誕生日。


原作終了から20数年経っても
あなた達に興味関心を持っている人、
愛を注いでいる人がこんなにいるのよ、という
香ちゃんへ(+とりあえず撩も)のプレゼントという意味合いも込めて、
明日の夕方に「 CITY HUNTER LINK NOTE 」を
公開させて頂く予定です。


件数が3ケタを越えますので、
サイトマスター様のお名前を五十音順にて、
あ〜な行までの前半を18:18で
は〜わ行までの後半を19:19で
その他裏サイト限定リンクを同じく19:19で
更新致します。


以下項目別に、
きっかけや経緯、内容についてなどをお伝え致します。
リンク記事をご利用される方はご面倒をおかけ致しますが、
お目を通して頂ければと存じます。
(全部で14項目っ、長いですよ〜)




(1)読ませて頂いたサイト様全てにお声かけプロジェクト

私が、読ませて頂き、楽しませて頂き、
学ばせて頂き、感動を頂いたサイト様に
お礼とご挨拶とリンク依頼をお伝えしたいと思いついた時、
当初は、他のサイト様のように
少しずつリンクサイトを追加する形を思い描いておりました。

しかし、今までHNしか存じ上げない方に
メール・メッセージを送る経験が殆どなかった上に、
これまで交流のなかったサイト様に
いきなりリンクさせて下さいとお願いするのは
失礼なことにならないか、
新参者の私がこのようなお声かけをしていいのか、
最終更新から年数が経っているサイト様とご連絡がとれるのかと
悶々と迷い、色々と考えあぐねておりました。

また、自分の中でどのサイト様を
リンクをするかしないかのライン引きも出来ず、
どうしたものかと、
他のサイト様のリンクの仕方を参考に見させて頂いておりました。
そして、0か1かを選ぶなら1だと、それならば、
私が認知しているCH二次サイト様と
CHに関心を示していらっしゃるサイト様へ出来うる範囲で
ご挨拶とお願いに伺おう!
と思い切って方針を固めたのが昨年の秋でした。
(これを決意するには、結構時間がかかりましたが〜)





(2)検索エンジンの中のリンク切れ

私を含めて多くのCHファンの方が
「CHサイト検索エンジン」を活用されてきたかと思います。
しばらく新規更新がなく、
もしかしたらこのままなのかなと、気になっておりましたが、
2011年2月6日から2年と20日を経て
2013年2月26日に再稼働されました。
しかし再稼働当初検索エンジンに登録されていた195件のうち
3分の1以上がリンク切れもしくは閉鎖になっており、
すでに一部は新管理人様によって区分された模様です。
さらに多くの新規サイト様誕生に伴い、
現在閲覧可能なお部屋の情報整理が必要かと感じるようになりました。
その流れから、検索エンジンも参考にさせて頂き、
検索エンジンに登録されていないサイト様もプラスしたイメージの
五十音順リンク記事をまとめてみました。





(3)五十音順で札所巡礼

年明けから、
リンクフリーを明記されていらっしゃるサイト様も含めて、
新参者としてのご挨拶と御礼、
そしてリンクのお願いに回り始めました。
有り難くも、
すでに当サイトをご存知のサイトマスター様もいらっしゃり、
温かいお言葉で励まして頂いたり、
ご感想を頂いたりと、
お忙しい中、ご丁寧な返信と共にリンク快諾のメッセージを
数多く頂戴致しました。
改めて、つながりを下さったWMの皆様に
深く感謝申し上げます。





(4)「NOT LINK FREE」でご連絡が取れなかったケースについて

みなさんもご存知の通り、
CHファンサイトでは、
「リンクフリーではありません」と
明記されていらっしゃるところもございます。
もちろんご連絡をとらせて頂きましたが、
メールフォーム機能が無効になっていたり、
掲載されているメールアドレスでは
エラーで戻って来たり、
コメント欄でもご連絡が得られなかったりと、
選択できる様々なツールでアクセスを試みた結果、
掲載のご許可を確認することができなかった
「NOT LINK FREE」のサイト様は、
残念ながら未掲載としております。
五十音順で見当たらないWM様のお名前に
気付かれましたら、
恐れ入りますが検索エンジンにて覧頂ければと存じます。
(S様、M様の2件が該当サイト様です)

【追記】
M様のサイトのリンク切れを確認いたしました。
(2015.01.27)




(5)リンクについての説明がないサイト様でご連絡が取れなかったケースについて

今回、最後の最後まで迷った事案でございます。
一部のサイト様に下記の項目が全てあてはまる事例がございました。
① リンクについての案内表記等なし。
② WM様に連絡ができない。
③ どなた様の現行サイトにもリンクされていない。
④ ネットの検索でかなり後半のページでないと拾えないサイト様である傾向が強い。
⑤ サイト開設が概ね5年以上前。
上記のように折角のCHサイト様が存在を認知されにくい状態は
業界の財産を手の届きにくいところにいつまでも放置することになり、
CHファンにとっても大きな損失と感じました。
本来でしたら、WM様のご許可を正式に得るべきですが、
同人関係のリンクマナーに関する情報を参考にし、
上の5件に該当するお部屋を、
虎の尾を踏む覚悟でリンクさせて頂きました。
もし、該当される方がリンク記事にお気づきになられ、
削除等のご希望がございましたら
お手数でございますが、ご一報頂ければと存じます。
お知り合いの方のご連絡でも結構でございます。
一行紹介のところでも呼びかけをさせて頂いております。





(6)リンクフリーで未掲載のサイト様について

然るべき理由を頂いております。
脱稿等ではございませんので、
ご了承頂ければと存じます。





(7)閉鎖サイト様も同じく3ケタ越え

今回は約160件(2015.01.27現在約180件)の
ファンサイト様をリンクさせて頂きましたが、
同時に、閉鎖サイト様も
ほぼ同数の160件(2015.01.27現在約250件)ほど
あることが分かりました。
皆様にそれぞれの事情がおありだったと思います。
2010年より前のCHファン業界を知らない私にとって、
閉鎖されたサイト様のCHワールドとは
一体どんなものだったのかと、
当時のリアルな空気を味わえないことに、
もっと早くにこの世界の存在に気付けばよかったと、
着火のきっかけの遅さを悔やんだリも致しました。
しかしながら、
現行の閲覧可能サイト様の中で、
閉鎖された方のお作が一部残されている場合もあり、
まさにお宝的存在になっています。
現在、開設されているあまたのCHファンサイトが、
この先も引き続き閲覧が出来ることを願ってやみません。





(8)バナーについて

当初のイメージでは、サイト様の紹介欄に
バナーの添付を考えておりました。
皆さん、それぞれに素敵なデザインで、
個人的に堪能させて頂いておりますが、
今回のリンク記事では、
断腸の思いでバナーを割愛させて頂きました。
バナーをお持ちでないサイト様、
複数のバナーをお持ちのサイト様、
デザインが折々に自動変更されるバナーをお持ちのサイト様、
過去のバナーがメインサイトでは拾えないサイト様、
バナー倉庫をお持ちのサイト様、
と様々なパターンがございます。
掲載可能なものを全て張り付けしたいという思いもありましたが、
レイアウトを優先させて頂き、
文字列だけのリストアップとなっております。

[追記]
張り付け方がなんとなく分かりましたので、
少ぉ〜しずつバナー張り付け作業をしていきたいと思います。
2013.12.15.

⇒バナー付け完了!2015.09.13.





(9)紹介文の変更等について

こちらの一方的なイメージで
各サイト様の一行紹介をさせて頂いております。
また、サイト開設日やジャンルなどを
合わせて掲載させて頂きました。
一部の方には、文面を確認して頂きましたが、
場合によりましては、
若干サイト内の具体的な中身に觝触している感もある表記も含まれております。
WM様で内容変更の希望をされる方がいらっしゃいましたら、
4月1日より
問い合わせ用の記事を設置する予定でございますので、
ご連絡を頂ければ、出来るだけ早く対応させて頂きます。
また通し番号も今後変化する可能性大です。
あくまでも更新日時現在のデータということで、
また新規情報等をキャッチできましたら、
追記をしたいと思います。





(10)pixivでも

サイトをお持ちの方も、お持ちでない方も
pixivで多数のCH関連作品が投稿されています。
「city hunter」「シティ—ハンター」「冴羽リョウ」「槇村香」などの
検索でテキスト、イラストが数多く閲覧できますので、
こちらのSNSも要チェックです。
こちらは今のところリンクの対象外とさせて頂いております。
(色々と難しそうなので〜)
[追記]
添付ご希望のご要望を複数頂きましたので、
ご許可を頂けたサイト様から順にpixivも付けたいと思います。
この作業も超鈍行予定。
2013.12.15






(11)ワタクシの表ブログについて

一応CHカテゴリーの引き出しを2010年より作っているので、
どさくさ紛れに、表ブログもリストに混ぜてしまおうか一瞬迷いましたが、
仕事用でもあり、個人情報にすぐ辿り着けてしまうので、
現段階ではリンクリストには
未掲載とさせて頂くことに致しました。
今回リンクのお声かけをさせて頂きましたサイト様には、
自己紹介を兼ねて、既にお伝えしておりますが、
表ブログのアドレスを教えて欲しいという方は、
同じく4月1日より開設します「お問い合わせ専用記事」より、
ご連絡頂ければと思います。
メールアドレスが開通した方で秘密を守って頂ける場合に限り
(さらにお友達になってもいいぞって方だとなお嬉しい)
こっそりお伝えできればと思います。
自力で辿り着いた方も、
きまりもと○○○○が同一人物であることは、
内緒でお願いしますね〜(2013.11.23.追記)。
ただし、けっこう生き物の死体やら
カエルやらサンショウウオやらが出てくるので、
苦手な方はおススメできません。





(12)改めてお詫び申し上げます

今回、リンクのご挨拶をさせて頂くにあたり、
こちらの軽率でかつ無知な行動で、
多くの方にご迷惑をおかけし、
ご不快な思いをさせてしまいました。
二次の世界の慣習を知らないままで
サイトを開設してしまったことを、
深く反省しております。
まだ認知できていないマナーも多くあると思いますので、
皆様のご教授が頼りでございます。
厳しくご指導頂ければと存じます。




(13)掲載を希望される場合について

当サイトのリンクは
CH検索エンジン様と逆の形で、
ワタクシの方からご挨拶に伺っておりますが、
もちろんSNS上でCHファンを表明されている方からの
ご連絡も承っております。
リンクノートへの掲載を希望されている
ウェブマスターの方がいらっしゃいましたら、
SNSの形はお気になさらずに、
お気軽にご一報頂ければと思います。
(HP、Blog、pixiv、TW、FB、mixi、各種小説サイトなどネットで閲覧できれば可)

CHが好きということだけが必須条件、
内容は二次創作に限りませんので、語り、分析、書評、100質問等の
記事が1つでもあればオッケーです。
推薦のご連絡も同様ということで。
(二次創作1点だけの方もリンクさせて頂いておりますので〜)
ご縁が繋がる場所の一つになれば幸いでございます。

【注】ただしサイトの内容に著しく反社会的な内容や、
不快感や違和感を含むものなどがあった場合は、見送らせて頂くこともございます。
[2013.09.18.追記]

【補足】
暫く更新が確認されなかったサイト様が記事を更新された場合や、
閉鎖・休止、イベント情報などのお知らせが発信された場合は、
連載中のあとがきやCH専用Twitterで宣伝させて頂く場合がございます。
ご都合がよろしくない方はご一報頂ければと存じます。
[2013.09.26.追記]




(14)終わりに

今回のリンクのご挨拶巡りで、
原作・アニメの「シティーハンター」が持つ魅力が
いかに大きいかを、改めて感じさせられました。

サイトをお持ちでなく、
コメント欄でもよくお見かけする方や、
サイトの表面にはお出にならない方々の皆さんも含めると
きっとCHに心を寄せているファンの方の数は相当数だと思われます。
この一つの作品を通して、
様々な思いを共有できる幸運に
深く感謝申し上げます。

各サイト様のシテハンワールドで、
皆さんの幸せな時間が増えますように。



以上、長くなりましたが
リンク記事を公開させて頂くにあたっての
経緯と内容についての解説でした。


2013年3月30日(土) カオリンバースデーイブにて

(2015.01.27.少し改変)

17-10 Mick's Office

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目


(10) Mick’s Office  ***************************************** 4391文字くらい



無言でミックのオフィス兼自宅に到着した2人。



「どっかの店じゃなくてもいいのか?」

玄関を開けながら、そう問うミック。

「めんどくせぇ。話しがあるんなら、とっとすませろ。」

「じゃあ、まぁ中にはいれよ。」

室内に撩を促す。



無遠慮に、

冴羽アパートを見下ろせるリビングのソファーに遠慮なく腰を降ろす撩。

キッチンでミックが冷蔵庫を開ける。

「ビールでいいか?」

返事も待たずにぽいっと350ml缶を撩に放る。

一瞥もせずに、無言でそれをキャッチする撩。

「で?」

ぷしゅっと栓を空けながら、

対面のソファーに深く座るミックを目で負う。




「敵を欺くためっていうのは、フェイクだな…。」

缶に口をあてながら目を細めて小さく呟く金髪男。

「ああ?」

「おまえ、カオリに硝煙の匂いがつくのがそんなにイヤなのか?」

「……聞いてたのか。」

「ああ、しっかりとな。」

「言っただろ。一つの作戦だよ。相手の油断させるためのな。」

「違うな。」

「しつけーな。」



ふっと小息を出すミック。

「リョウ…、あんな対策しなくても、

カオリには俺らのような染み付いた匂いはつかないんじゃないのか?

20年、30年と銃器を使い続けている俺らとは、

スタートが違い過ぎる。」

「だからこそだよ。」

「……そっか、……わかった。」

「あ?」

「カオリといちゃつく時、匂いがすると嫌なんだろ。」

ドン!!

ミックのこめかみに赤い線が走り、髪の毛が一房持っていかれた。

背後の壁には、めり込んだ弾の痕。



「あぶねえ!何すんだよっ!」

「……お前の大事な話しっつーのは、これか?」

「……ふ、……いや、……色々聞きたいことがあるんだよ。」

人差し指で、乱れた髪をぴっと跳ねるミック。

「俺、帰るわ。」

薄々と分かってはいたが、埠頭云々というのはウソだと悟った撩は、

空き缶をぐしゃりと潰してコーナーのダストボックスにシュートすると、

立ち上がろうとした。



「おいおい、待てよ。あれからこんな時間なかなか取れなかったんだぜ。

ファルコンの式から9日、どうだ?」

タバコに火をつける撩。

「なにが?」

「幸せか?」

「ぐっ、ごほっ、ぐほっ!」

煙にむせる撩。

「聞くまでもなさそうだな。」

ミックは、ソファーに体を深く預ける。



「……本気で愛したいと、初めて思ったのが香だ。

リョウ、お前もそうだろ…。」

次に何を言い出すのかと、言葉を待つ撩。

「俺が空港でお前に言ったことと、

船から戻ってきた時に言ったことを覚えているか?」



撩は、自宅のベランダを見ながら言葉を返した。

「……ああ。」

「身を切り刻まれる思いで、お前に托したんだ……。」

ミックも撩と同じ方向を向く。



「幸せにしろよ。」

とあの時と同じことを言ったミックは、ん?と視線を上に投げた。

「いや、違うな。幸せっていうものは、自分が決めるものだ。

訂正。……香を悲しませないでくれ。

そして香の笑顔を曇らせないくれ。

これが、俺の一番の願いだ。」



「……よくしゃべるな…。」

「俺の希望であり、女神であり、命の恩人であり、

愛とは何たるかを教えてくれた唯一の女性が香だ。」

「……ミック、同じセリフをかずえちゃんの前で言えるのか?」



「もう、言ってあるさ…。」

ミックはふっと息を吐き出す。

「それでも、俺とかずえは共に生きることを決めた。」

「あーあ、かずえちゃん、かわいそうになぁ〜、

こぉーんなやつの面倒なんか見なきゃよかったのに。」



ミックは、表情を崩す撩を横目で見ながら続けた。

「……リョウ、お前がリハビリを受けている時、教授がつきっきりだったんだろ?」

「……ああ。」

思い出したくない記憶に、撩はミックからの視線を逸らす。

「じゃあ、分かるよな。」

「なにが?」

分かってはいるがわざと聞き返してみる。

「カズエが、どんな状況に置かれていたか、だよ。」

「………。」

「それを俺らは乗り越えたんだ。もう、これ以上の試練はないってくらいのな。」



撩は、禁断症状で苦しんでいた己の姿を思い出す。

暴れるのを押さえるための強力な拘束帯に

舌を噛み切らないために銜えさせられた猿轡(さるぐつわ)。

排泄物も、口から溢れる吐瀉物(としゃぶつ)も唾液も、

汗も、体をかきむしった血の流れも、

なにもかも教授が繰り返し清めてくれた。

満足に食べることも寝ることも出来ない状態、

意識も現実と夢を激しく往復し、幻覚幻聴で脳が塗り固められ、

体と心がばらばらに粉砕されるような激痛は、

いっそこのまま殺してくれと懇願したくなる程。

絶望と苦痛の泥沼で泳ぎ続けた数ヶ月間。

山を乗り越えた時、教授の顔や体に残る傷に、枯れたはずの涙が頬を伝った。



恐らく、かずえもミックの振り払う腕や足で、

痣をいくつも作ったに違いない。

もし、同じ状況で、香が自分の看護をすることになったら、

果たしてそんな姿を晒すことを自分が耐えられるのか、

そう置き換えてイメージした時、

脳はそこで考えることを強制的に閉じさせた。



「カズエがいたからこそ、香への愛の形が変わったんだよ…。」

「は?」

「そうだな、何て言うんだ?日本語で?

しいて言えば、父親が娘を心配するような愛か?」

「父性愛かよ。」

「そうだ、それだ。たぶんファルコンも似た様なもんだと思うぜ。」

「ミック、お前いつ香の父親になったんだ?」

「……忘れもしない27年前、俺が初めて女の味を知ってしまったあの時に、

相手の女が身ごもったのがカオ」

ずずずずずんんんん!!

「ミック、おまぁ5歳で初体験かよ…。」

珍しく撩がハンマーを出現させた。

ノーマルの100トン。

ミックはソファーにめりこんだまま、手足をぴくぴくと振るわせた。

「リョ…、お、まえ、も、ハ、ハ、ハンマー、だ、出せるんだ…。」

「原作ちゃんと読め。」



カチッとジッポに親指をひっかけ、火を灯す。

「帰る。」

2本目のタバコを銜えて立ち上がった撩。

「待てって!」

ハンマーをごろんと転がして、呼び止めるミック。

「まだ何かあるのか?」

「……どんな訓練を予定しているんだ?」

「あ?」

「香を鍛えるんだろ?教授の別荘の一つを借りるんだって?」

「ちっ。」

一番知られたくないヤツに情報が漏れたことに、

素で舌打ちをする。



「協力するぜ。」

「いらねぇ。」

「どの場所を使うんだ?」

「俺がぺらぺら喋ると思うのか?」

「いや、カオリが心配でな。」

「父性愛でか?」

「まぁ、それもあるが…。カオリは自分から弱音を吐かないタイプだから、

限界ギリギリまで耐えて、

そのツケを自分でどっぷりかぶってしまいそうだなと思ってな。」



撩はさっきの射撃訓練の様子を思い出す。

それだけでなく、自分の今までの曖昧な態度に対して、

香は様々なものを諦め耐え抜こうとしていた。

心の破綻が訪れる前に得ることができた最上のきっかけに、

いかに幸運だったかを思う。



「ミック、お前こそ、かずえちゃんに我慢させるようなことをしてんじゃないのか?」

「いや、その心配は全くないね。」

「なぜ?」

撩は片眉を少し上げた。

「常にカズエが優位だ。」

ミックは苦虫を潰した様な照れの表情で続ける。



「……こう言われたよ。

『ミック、あなたはこれまで数えきれないほどの女と寝て来たんでしょうけど、

おシモの世話までしたのは、

あなたのお母様を覗いては、私だけのはずよね。』ってね。」

「ぶっ!」

撩はパシっと口を押さえた。

「始めはさ、オシモってなんのことか分からなかったからさ、

カズエの強気の空気がどうしても分からなかったんだけどさ、

意味を知ってショックだったよ。」



金髪を白い手袋で掻き上げるミック。

肩を振るわせて笑いをこらえている撩の背中にムっとして、

履いていたスリッパを背骨に向かって投げつける。

「おい、そこ笑い過ぎだ。」

「ぅうく、くくくっ、さ、さっすが、かずえちゃん!」



「撩、お前だっていつ何時、

カオリにシモの世話してもらうことになるか分かったもんじゃないぞ。」

「う、うっせえ!俺がそんなヘマするか!」

「どーだか。……だがなリョウ、

積極的で強気な大和撫子の魅力を知ったら、

優位に立たせるのも悪くはないぜ。」

「あ?」

ミックは、ソファーに座り直して、自分の両手に視線を落とした。



「……俺の手は、いくらカズエに触れても、その感覚が分からないんだ。」

「ミック……。」

白い手袋の下は、感電で焼けただれ引きつったケロイドの残る黒ずんだ皮膚。



「だから、カズエがそれを補うように積極的なんだよ。

まぁ、俺だって手が使えなければ

他の使えるところを駆使しているけどなっ。」

「ノロケだったら、他でやってくれ。帰るぞ。」

「……リョウ、お前が羨ましいよ。」

立ち上がった撩が動きを止めた。



「その手でカオリの柔らかい髪に触ったり、しっとりとした頬に触ったり、

その指でいろんなことしてんだろぉぉ?

ああくそっ!娘が嫁にいった気分ってこんな感じなんだろうなぁー!

オレのカオリがぁぁぁ。」

頭を両手で抱えて髪をかき回すミック。



「いつお前の香になったんだ?」

「言っただろ、香は常に俺の心の女神であり希望さ。」

はぁと溜め息をつく撩。

ちらっと窓の外を見下ろすミック。



「まだ、ここにいろよ。

今戻ると香がお前の世話で、せっかくの休息時間が短くなってしまうだろ。」

「ああ?」

「さっきの射撃で疲れているはずだ。リビングには気配はないから、

たぶん客間で仮眠していると思うぜ。」



ミックに指摘されなくても、そんなことは分かっていた。

しかし、元相棒の言うことも最もだと思い、

致し仕方なく、どさりとソファーに腰を降ろした。

「まぁ、伝達事項が色々あるから、ゆっくり話そうや。」

「伝達事項?」

眉間に浅くシワが寄る撩。

「ああ、お前がアメリカを出てから、この十数年で向こうでどんな動きがあったか、

俺の知っていることを教えておこうと思ってな。」

「なんでぇ?」

「カオリを守ることにも繋がる。

あと、俺が教授宅で過ごしている時に、結構有益な情報ももらっているから、

それも合わせて、俺らが関わってきた輩(やから)の現在進行形を伝えておくよ。」

「そりゃまたおせっかいな話しだな。」



撩はまたタバコを銜え直した。

「損はしないと思うぜ。」

「はぁ、長くなりそうだな。手身近に頼むぜ。」

「ふっ、じゃあ‘78年のあの事件から話すかな。」

「はぁ?そこまで遡んのかよっ!」

「当然。」

「恨み、つらみってものは、10年、20年で縮小するもんじゃないからな。」

「うげぇ、聞いてらんねぇ。」

「全てはカオリのためだ。どんな形で表に出てくるかわからないだろ?」

「まぁ…な。」



マリーとかかわったデビッド・クライブのことを思い出す。

考えてみれば、マリーもソニアもミックも海原も、

アメリカから渡って来た連中はみな

自分を消すために接近してきた。

今後同じことが起こらないということは断言できない。



「話すんなら、さっさとしてくれ。」

窓の外を見ながら、紫煙を細くたなびかせる撩。

「OK!」

ミックは、この提案を受け入れた元相棒にふっと顔を緩ませた。


************************************
(11)につづく。





撩が自らハンマーを出した場面は、
浦上まゆこ編にて、
カオリンがジッポを撩の部屋に届けにくるシーンでノーマルハンマーを、
神村愛子編の倉庫で賊を倒すシーンで1トンハンマーを使っています。
振り返ると、結構サブキャラもかなりハンマー出してますね〜。


【プライベート話しですいません】
お返事等まだ溜め込んでおりまして、
申し訳ないです。
ちょっと色々きつきつなところに、
事故の連絡が入り大きな喪失感を抱えております。
ここから先は、読んでもいい方だけお進み下さい。










ニュースをご覧になられた方もいらっしゃるかもしれませんが、
北アルプスで遭難滑落し亡くなった2人の女性のうち、
一人は、私の妹とも呼べるような親しい後輩でした。
ご主人から連絡を受け、もう立てないくらいのショックを受け、
今も嗚咽感がとれません。
弔電を打ったり、関係する友人知人に連絡をまわしながらも
まだ信じられない気分です。
近隣では高齢者の方の葬儀にはよく立ち会うのですが、
20年来の付き合いのある仲間の早すぎる迎えに、
もう何をして何を言っていいのやら、まさに頭は真っ白です。
CHファンとして、この今を生きていることの幸運を
改めて振り返る機会を様々なサイト様から頂いております。
ただ、今回は私の人生にとって初めてとも言える、
親戚以外での身近すぎる死の事実に、
頭の理解が追いつかない気分です。
それでも、
生き得なかった人の分までと言うのはおこがましいかもしれませんが、
とにかく生きていかねばと思います。
沈みっぱなしでは、きっと後輩も困るでしょうから、
出来るだけ早く浮上したいところですが、
ちょっと時間が必要かもしれません。
一緒に4000mの山頂に降り立った彼女との思い出を胸に、
一歩一歩前進していきたいと思います。
もうすぐカオリンのお誕生日なのにダークな話題で失礼いたしました。
お返事等今暫くお待ち下さいね。
[2013.03.28.23:59]

17-09 Visit Of A Neighbor

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目


(9)Visit Of A Neighbor  ************************************* 2911文字くらい



撩は、香の左指をそっと持ち上げた。

人指し指の第二関節の側面が少し赤くなっている。



「りょっ…。」



無言で、そっと唇を寄せた。

目の前で自分の指に吸い付く男に、目を見開いて驚く香。

撩の舌が皮膚に触れていることが脳に届くと、

瞬時に体温は沸点まで上昇。

目を静かに閉じて指をふくむ様は、

香にとって心臓が爆発しそうなほどの破壊力。



とてもじゃないが直視できないと、

真っ赤な香は自分の激しく動く心音を感じながら、

目を閉じ撩の胸に速攻で顔を伏せた。

片腕は自分の腰にまわされたまま、

密着している腹部からお互いの鼓動が伝わる。

指はそのまま深く根元まで撩の口の中に招かれる。



「ぁっ…。」



ぞわりとした感覚が背筋を上り、

まだ僅かに痺れが残る四肢に、違う震えが伝わった。

指先が感じる、ねっとりとした粘膜の感触と温度が、

思考をどこかに持っていかれるような感覚に繋がり、

香は、右手で撩のシャツをぎゅっと握り込んだ。

ちゅぽんと音がし、香の指は引き抜かれた。



「……水泡できるかもな…。」



右手で香の手先を握ったまま、

親指でそっと患部を撫で上げる。



「……無駄に傷作りやがって、注意しろって普段から言っているだろうが。」

「……ぅ、…ご、…ごめんなさい。」



顔をそらしたまま、そう小さく答える。

香が謝罪の言葉を言う度に、ずきんと胸の奥が痛む撩。

謝らなければいけないのは自分の方だと、

手放せなかった原罪に心が抉られる。



香の目の高さで、撩の右指と香の左指が絡み合う。

そのまま、腰に巻かれた腕が迫り上がって

背中をぐっと押されるのを感じた。

「お疲れさん…。」

思わず顔を上げた香に、柔らかく撩の唇が重なる。




「んんっ…。」



射撃場入口の狭い通路で与えられる熱に

射撃の疲労も手伝ってか、

香は早々に意識がぼやけてくる。

もう口唇の痺れもなくなってきていたが、

これではまた酸欠になってしまうと、

撩のミドルキスを受けながら、眉を寄せて手の指を握り込んだ。



「……客が、来たようだ。」



軽く上唇を合わせたまま、そう呟く撩。

「え?だ、誰か入って来てるの?」

お互い、ゆくっりと離れながら、眉間に皺を浅く作る。

もしかして賊が侵入してきたのではと連想する香。



「……ったく、間の悪過ぎるヤツだ。」



撩は、機嫌が悪いのをあからさまにする。

「は?」

どうやら切羽詰まる相手ではなさそうだと、

この様子から汲み取る香。



「……行くぞ。薬莢の掃除は、俺がしとく。

少なくとも、大量に撃った後は、半日くらいは中に入るなよ。

残り香が移っちまうからな。」

撩は、ビニール袋とバッグを持った香の背中を押して、

一緒に階段を上がって行く。



「……ねぇ、……撩。」

「あ?」

「あんたには、もう体に染み付いた硝煙の匂いがあるわけでしょ?

その、……一緒に、暮らしてて、…一緒の、…べ、べ、ベッドで…

ね、寝たりするのって、……あたしの匂いが変わったりするのに影響、

あるんじゃ、な、ないの、かな?

美樹さんにも、ま、前に、い、言われちゃった、し。」

「はぁ?なんて?」

「ぅ、……だ、だから、…あ、あたしから、りょ、撩の匂いが、…するって、

言われた。」

「へ?おまぁ、美樹ちゃんと抱き合ったりでもしたのか?」

「!!っ」



香の頭の中に、

あの病室で撩とファルコンが、

お互いパートナーに

「ずっと一緒だ」というセリフを使っていたことを知ったシーンが蘇り、

じゅわっと湯気が出る。



「…っあ、…だだだだ抱合ったとか、っじゃなくって!

シーツを変える時とか、お薬渡す時に、そばに近づいたら、

そういいいい言われたのっ。うん!」

必死にごまかす香。



仮に正直に美樹とくっついていたことを話すと、

なぜそんな流れになったかを話さなければならなくなる。

とりあえず、ぼかすことに。

「ふーん。」

「そ、そうなのっ。で、じ、実際はどうなのよっ?」

「あー、あのな、長年銃を使う環境にいるとな、例えば席が隣同士になった距離でも、

敏感なヤツの鼻には、それが分かっちまうんだな。

裏の人間でなくても、オリンピックの射撃の選手なんかもでも同じさ。」

「そ、そうなんだ…。」

「だが、おまぁは、その距離でも分かる様な匂いは極力付けさせないことにする。

さっきも言った通り、敵さんの裏をかくことが目的だ。

俺に匂いっつったって、それはあくまでも俺のであって、

おまぁの体に染み付いたもんじゃねぇし。」

「……あれ、ずっと付けて練習しなきゃダメなの?」

「そ。」

「えーっ!」

「あーゆーのに慣れておくと、いざっていう時、役立つんだぜ。

マラソンなんかでも、高地で訓練すんだろ。あれと一緒だ。」

「うー。」



そんなやりとりをしながら、5階の玄関前まで来たところで、

撩が見えない相手にしゃべり始めた。

「中に入れるつもりはないんだが、何か用か?」



一拍置いて、

階段の影から出て来たのは、白いスーツのミックだった。

「ミック!」

お客とはこのことだったのかと、気配を察知できなかった自分にまた

がっくりとくる香。



「おいおい、せっかくこの間協力してやったのに、

その言い方はないだろ?

カオリ、今日もキュートだ。遅くなったけど、これはお祝い。」



がさっと出された大きな花束で、自分の視界が遮られる。

黄色いサンダーソニアとカスミソウが押し付けられた。

「えええ?お祝い?なななんの?」

「もちろんリョウとのロス」

トバージンと続けようとしたところで、こめかみに銃口が押し付けられた。

「帰れ……。」

「No、No!大事な話しがあるんだよ。埠頭の件で、な。」

つんつんと白い手袋をした指で銃口をずらすミック。

もう何度となくこのやりとりを繰り返しているが、

いつも殺気に冗談は混じっていない。

撩は心底嫌な顔をしたが、香は空気を読めず中に入るのを促す。



「ミック、中で話す?コーヒー出すわよ。」

「香、おまぁ、先に入ってろ。ミックんとこ行ってくるわ。」

「え?」

「すぐ戻る。ミック、話しがあるんなら、

向こうで聞いてやるからさっさと済ませろ。」



訓練で疲れている香を働かせたくないことと、

ミックを香に近付けさせたくないことと、

余計な会話を持ってこさせたくないこととを、

瞬時に判断して場所を変えることにする撩。



「じゃあ、カオリ、リョウをちょっとだけ借りて行くね。」

軽くウィンクを香に送るミック。

同じくらいの背格好の男2人が並んで、

ビルの階段を降りて行った。



「なんだろ、中に入ってもらってもよかったのに…。」



香は、疑問符を頭の上に並べながら、

玄関の扉を閉めた。



3つに増えた荷物を抱えて

吹き抜けに続く階段を昇る足は、やや重たい。

それ以上に、腕に疲労がきている。

1時間、重さ1キロに近い物をずっと平行を保って持ち続けていたことに加え、

射撃の衝撃で筋肉がくたびれているのが分かる。



「服だけ、着替えようなか…。」



香は客間に行き、テーブルの上に花束をかさりと置き、

ドレッサーの上にショルダーバッグを、床にはビニール袋をそっと落とした。

ポンチョの下で汗をかいた上着を脱いで新しいシャツを着る。



「お風呂は寝る前でいいわよね。」

時計をちらりと見る。

2時台後半。

「一休み、しようか、な…。」

香は、そのままばふっとうつ伏せにベッドの上に倒れこんだ。

ほどなく、そのまますーと眠りに落ちていった。


************************
(10)へつづく。





カオリン、色々お疲れたまってます。
昨日に引き続きお昼ねならぬ、夕寝タイム。
サンダーソニアは可愛い釣り鐘型のお花で
花言葉が「祝福」、
ミックのメッセージに使わせてもらいました。
撩ちん、とりあえずお誕生日おめでとう〜。
いつまでも「ボクちゃん、冴羽リョウ、ハタチなの。」と
言ってて欲しいです。
で、その度にカオリンの突っ込みがセットということで。

17-08 Hypoxia

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目 


(8)Hypoxia ********************************************************** 3372文字くらい



残り54発。

終盤になると、さすがに全身に疲労物質がまわり始める。

腕を支えられなくなる。

足もふらつき、関節ががたついてきた。

酸欠の症状が若干進行し、足の指先と唇がぴりぴりとし始める。

時計をちらりと見る。

あと15分で開始から1時間。

あと9回の充填でゴール。



香は、たぶん実戦でこういう状態で発砲することもありうるだろうと、

ぼんやりと思う。

自分が負傷していたり、

低温や高温で体力を消耗していたりする状況でも、

的確な判断と行動ができなければならない。

日常では産み出されにくい、五感の限界状態を今体験させられていると

何気なく感じ取った。



(だ、大丈夫、落ち着いて撃てば、時間内には撃ち終わるはず…。)



香は、震える指で一つ一つ銃弾をつまみ上げ、

パチンパチンと奥に押し込む。

ローマンがとても重たく感じる。



(慌てちゃダメ、急ぐときっと暴発させちゃう…。)



銃も落しかねない。

ゴーグルの中で目に汗が入り、

目をきゅっと閉じて、その邪魔な水気を追いやろうとする。

油断すると、マスクの蒸気でまた視界が曇る。

香は、意識して集中力を掻き集めた。



ガンガンガンガンガン!



まだ、なんとか3円分には収まる。

(まずいわ、腕の痺れが酷くなってきた…。)

ずっと支え続けている手首から二の腕が悲鳴をあげている。

(もうちょっとだから頑張れっ!)

繰り返し撃ち続けるも、弾道がぶれてきたのが目に見えくる。

足と手の指先の痺れが徐々に広がって強くなってくる。

唇もまるで炭酸を塗っているかのように、

何かが表皮で弾けているようだ。



(あと、も…ちょっとなのに…。)



足を踏ん張りなおすと、かかとで薬莢を踏んでしまって、

少しバランスを崩した。

「あっ!」

膝が落ちそうになったところで、

撩が右上腕をとり、香を支えた。

「りょ…。」

「まだやれるか?」

覗き込む撩をゴーグルの奥から見つめる香。



(……たぶん、撩は今のあたしの状態を全て分かっている。)

香は、残りの弾数を確認する。

(あと2回…。)



途中で終わらせたくはない。

指示されたメニューをこなせなかったということだけは

どうしても避けたい。

四肢が痺れる感覚に、まともに打ち込める確率はもはや期待できない。

姿勢を戻すと、

香は、自分の右の指を見つめ、ゆっくりぐーとぱーを繰り返す。

(なんとか、指は動かせる。)



「……つ、続けるわ…。」



撩は、ふっと短い息を吐き、無言で後ろに下がった。

ローマンの重さが2倍にも3倍にもなったような錯覚に陥り、

自分の腕にも鉛がぶら下がっているような気分にもなる。

慎重に弾を込め、

少し勢いつけてガシャンとシリンダーを戻す。

両手でしっかりと支え、グリップを握る右手に意識を集める。

左はもう支えるので精一杯。

腕を伸ばすのがかなりきつい。

ゴーグルの奥の瞳は、険しい視線となる。

人指し指が引き金にかかる。



ガンガンガンガンガン!



「はぁ、…はぁ、…はぁ。」



呼吸がしにくい。

今すぐにでもマスクを取り去りたい。

(でも、あと1回…。)

薬莢を落とし、

最後の弾を箱から取り出す。

(ああ、なんか指の感覚がないかも…。)

視覚情報だけで、なんとかローマンに弾を収める。

(これが最後、もう一息だからっ!)

自分を励ますも、

3枚目の的もすでに中心部は円形が見えない。

(あの穴の中に打ち込んでラストよ……。)



「はぁ、…はぁ、…はぁ」



呼吸に合わせて腕が上下し、照準が定まらない。

(だめ、揺れる…。)

眉間に深い皺が寄る。

(息止めなきゃ…。)

ぶれが収まったその瞬間、香は一気に最後の6発を撃ち込んだ。





「……お、終わった…。」



銃口からゆらゆらと薄い煙があがる。

香はゆっくりと腕を降ろした。

俯き加減で、ふうーと息を吐くと、思い出したかのように

マスクに指をひっかけ、ぐいっと取り去った。



「っはぁー。」

力一杯空気を吸い込む。

「はい、おつかれさん。」

背後から撩が近付いてくる。

「……も、これ脱いでいい?」

汗で中が蒸して熱い。

「だーめ。」

「はぁ?」

「ここでは脱ぐな。外に出てからな。」



撩は、ダチョウの羽根で作られた埃払いを手にして、

香の上から下までかぶってしまっている火薬のカスをはたき落とした。

撩が作業しやすいようにと、少し体を動かしたら、

いきなり反射が働いた。

「あつっ!」

「あ、ばか!銃身に触んじゃねぇよ!火傷すんだろが!」

ふいに熱くなっている銃身に指が触れてしまった。

左の人差し指の側面を慌てて自分の口に入れる。

「ほれ、一通り落としたから、ローマンはそこに置いて、

さっさと外に出て、とっちまえ。」

「あ、…うん。」



ブースに熱くなった自分の銃をごとりと置くも、

まだ足先が痺れて、床に散らばる薬莢をうまく避けて歩けない。

もたついていたら、撩が正面にやってきた。

「よっ。」

伸びてきた腕に気をとられた瞬間、天地が逆さまになった。

「わわわっ!」

撩は、右肩に香を担いでそのまま射撃場を出て行く。

「ちょっ、ちょっと!」

撩の背中に鼻をぶつけ、帽子も途中で落ちてしまった。

降ろされたのは、出入り口のすぐそば。

「ほれ。」

すとんと足をつかされたが、まだ若干ふらつく。

壁に手をつけ、

体勢を立て直していたら、撩の腕が香の首の後ろにまわり、

ポンチョのボタンをはずして、そのままスルリと床に落とされた。

ゴーグルも香が手を伸ばす前にめくり取られてしまう。

「あとは手袋とっちまいな。」

撩は、一度射撃場の扉を開けて

落ちた帽子とショルダーバッグをさっさと取ってくると

すぐに出入口を閉めた。

開いている左手で素早く後ろポケットから買い物袋を取り出し、

テキパキとマスク、ポンチョ、帽子、ゴーグル、指なし手袋の5点セットを詰め込む。



「こいつをあとでしっかり洗っておきな。」



ぬっと出された袋とバッグを、香はきょとんとして受け取った。

汗が引いて、少しふるっとする。

マスクをとってから数分、やっと指先の痺れ具合が減退してきた。

前髪の生え際は、汗で産毛が光っている。



「まだ…、しびれるか?」

「え?」

「おまぁ、自分から全然言わねぇーからなぁ。」

そう言いながら、撩はくいっと香を抱き寄せた。

「あ…。」

突然の抱擁に驚く香。

かぁああと顔が熱くなる。

確かに撩には、指先が痺れて来ただとか、唇がピリピリしてきただとかは、

一切言っていない。

言葉に出すと、それはただの泣き言にしかならない。

ただ、自分の鈍い動きで、

きっと悟られているのではという思いはあったが、

こうもダイレクトに問われると、素直に返事ができなくなる。



「酸欠気味だったのを、俺が分からないとでも思ってたか?」

「……ううん。……バレてるかなとは、思ってた。」

「どうして何も言わなかった?」

「…ぁ、…頑張れば、…なんとか、終わらせることができるかと思っていたから。」

「……ムリすっと、事故に繋がるだろうが。」

「…ご、…めんなさい。」

香の謝罪の言葉に、ずきりとくる撩。

ぐいっと抱き込む腕に力を込めて、香の頭部に鼻を埋めた。

帽子で守られていた髪には、殆ど硝煙の匂いはついていない。



「……まぁ、よく頑張ったな。初めての長時間射撃にしちゃ、上々だ。」

「……え?…でも、あまり真ん中に当たんなかったから、悔しくて…。」

「普通、初心者があんな条件下で撃つと、後半はだいたい円の外だぜ。

おまぁ、最後まで場外はなかったじゃん。」

「……そっか…。」

撩の胸に頬を寄せて、だんだんと静まってくる痺れの様子を伺った。

「次は、1時間半で弾数増やすからな。」

「え?…えええ?!」

思わず、撩を見上げる。

1時間300発でも、かなりきつかったのだが、

さらに延長戦が控えていることに、

香はぎくりとなった。

「出来そうか?」

至近距離で覗き込まれる。

「う…。」

今回のダメージの原因は、あのマスクのせいだと確信した香。

「……通気性のいいマスクが欲しい…。スピードローダーも使いたい。」

「あーん?それじゃあ訓練にならん。」

「ぐ…。」

「縄跳びもそのうち、マスク付きな。」

「……ぅ、……わ、わかった…。」

はぁ、と脱力して照れながらも撩に体重を預ける。

結構疲れてしまった。



何かのマンガで、

マスクをして剣道の練習をしているシーンを見たことがあったが、

まさか、それをこのような形で導入されるとは思ってもみなかった香。

これに慣れるまでの道のりは、決して短くなさそうだと、

撩の腕の中で、うっすらと考えていた。


**********************************
(9)へつづく。





カオリン、お疲れさまでした。
的が何発で交換かというものイイカゲンですので〜。
ちばてつやの「俺は鉄平!」のワンシーンに、
マスク付き剣道の練習風景が出てきます。
酸欠状態、当方極稀に喘息発作が出てしまい、
過呼吸状態で手足唇の泡立ち感を実体験。
薬がなかったらヤバかった苦い思い出があるので、
無理はしないと心に決めていますが、
なかなか思惑通りには行かなくて…。

17-07 Three Hundred Bullets

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目  


(7)Three Hundred Bullets  ********************************************3839文字くらい



地下の防音扉をそっと開ける。

ここの空間は、独特の香りがある。

撩は、木製の折りたたみ椅子に腰を降ろし、洋雑誌を見ていた。

H本ではないことが香にも分かったが、

たぶん、武器庫に放ったらかしにしてあったものだろうと、

考えを巡らせる。



「よし、始めるか。」

そう言いながら立ち上がり、

持っていた雑誌を空いているブースにぽいっと放る。

「まずは、これを着な。」

ほいっと渡されたのは、つるつるのポンチョみたいなもの。

あらかじめ用意されていたそれは、

香がこれから使うであろうブースのテーブルに置いてあった。



「え?なにこれ?」

「硝煙対策。」

「へ?」

「あとこれな。」

指なしの薄手の手袋とゴーグルが手渡される。

「え?」

「さっさと着ちまえ、ほれ。」

有無を言わさず、ゴーグルがひょいと顔にかけられる。

「ちょ、ちょっと待て。」

何が何だか分からずに、とりあえず慌ててポンチョをかぶり、

手袋をつける。

市販のより、若干手首の部分が長い。

ポンチョも裾が長い。



「で、帽子とマスク。これで銀行強盗の出来上がり。」

ぽんと帽子を乗っけられ、マスクが耳にひっかけられる。

「ちょっとっ!これで撃つの?!」

「そ。」

香は困惑した表情で説明を求めた。



「……おまぁは、まだ硝煙やガンオイルの匂いが体にしみ込んでいない。

それを逆に利用すれば、敵さんを欺くのに好都合ってこと。」

「ど、どういうこと?」

しゃべりにくいので、マスクを指で下にずらす香。



「……トラップじゃ、おまえの腕はその界隈に知れ渡っているが、

銃の腕は、おおかた見くびっている輩(やから)が殆どだ。

そこを利用するのさ。」

「利用って?」

「射撃は下手ですって思い込ませておいて、相手が油断しているところに勝機を掴む。」

撩は、香の両肩に手を乗せてくるりとブースに向き合わせた。



「これから、ここで射撃訓練する時は、

硝煙や火薬をかぶらないように徹底する。

このポンチョは、花粉みたいな微粒子が滑り落ちやすい素材で出来ている。

高温にも強い素材だから、熱で穴があくこともない。」

ぴろっとポンチョの端をつまむ撩。

「ここまでガードしておけば、髪や普段の服に匂いが染み付くこともない。

火傷も防げるだろ。」

「りょ…。」

ブースには箱入りの弾が約300発分高く積み重なっている。

香は、ローマンをショルダーバッグから取り出して、

充填されているか確認する。



「今日は、これを全部撃ってもらう。」

「……これ、…ぜ、全部??」

「制限時間は1時間くらいだな。」



ごくりと唾を飲み込む香。

しおりちゃんやマリーが来た時や撃ちまくったことがあった。

しかし、10分もしたら手が痺れてきた経験が脳裏に蘇る。

あれで充分硝煙の匂いがついたと思い込んでいたが、

実際の効果は何ら得られなかったことを思い出していた。




「6発ずつ、素早く当てることと、中心を狙うことを交互に繰り返せ。」

ポンと肩を香の肩を叩く。

「ほれ、耳栓しな。」

「あ、は、はい。」

慌てて使用済みの弾を耳にねじ込む香。

マスクも整える。

(あ、息がしにくいかも。)



射撃とは言え、激しくエネルギーを使うことには間違いない。

ちゃんと呼吸ができるか気になったが、

帽子のツバを整え、足を肩幅に開き、両手でローマンを構えた。

安全装置を指でくっとずらす。



香はいよいよ本格射撃訓練のスタートラインについた。



「……よし、始めてみな。」



その撩の、言葉を合図にローマンから発砲音と硝煙が醸し出される。

最初の6発は、前回の練習同様2円分に全て収まる。

ジャキンと薬莢を落とし、新しい弾を充填する。

ローダーはない。

次は、短い時間で全弾撃つことを優先にする。

その差は明瞭で、見事に的に開いた穴はばらけてしまった。

双方、それは承知の上。

香は悔しく思うも、続けて同じ動作を繰り返す。



撃ちながら香は、計算をする。

だいたい狙いをつけて撃つときは6発を使うのに12秒から15秒。

連発を優先する時は10秒ほど。

構えて狙いを定める時間と、充填時間を加味すると、

18発撃つのに今のところ1分前後、

フルメタルジャケットが入っている箱は300発分。

単純計算では、20分もかからずに撃てる数ではあるが、

そう簡単でないことは、香も分かっている。



たぶん、最初の5分で、手が重たくなり自由がきかなくなる。

多少なりの体験から、1時間で果たして消費できるのか、

素早く新しい弾を入れることができるのか、

ちゃんと的に当てられるのか、

動きにくく見えにくいスタイルでの射撃に、

不安要素は大きく膨らんで行く。

(事故だけは起さないようにしなきゃ…。)

そう思いながら香は続けた。



銃声が響く中、撩は香の斜め後ろにやや離れて立ち、

腕を組んでただじっとその様子を見つめている。





15分経過。

時間の経過と共に、

全ての動きが最初の所要時間よりも確実に長くなっている。

ゴーグルのためか視界が良くない。

バラバラバラと落とされる薬莢は、足下の床が見えなくなる程に転がっている。

すでにブルズアイは、ちぎれ落ちそうなほどに大穴が開けられている。



「はぁ…、はぁ、はぁ…。」



腕にくる衝撃と、銃を支え続けている筋肉の疲労が徐々に集中力を奪って行く。

それでも、指示された通り、

連射と狙い撃ちを繰り返す。

パチンパチンと弾倉に弾を込める音が響く。

心なしか、素早く出来にくくなってきた。

チャキンと弾倉が本体に戻る音が耳にクリアに聞こえる。

ぐっと構える香。

撃鉄に指をかけたとことで、急にマガジンをばしっと押さえつけられた。



「はい、一旦ストップぅ〜。」

「!!」



撩の接近に全く気付かなかったことと、

急な寸止めにかなり驚く香。



「的、とっかえっから、待ってろ。」



撩は、ブース横にあるスイッチを押して、

ずたぼろの的を引き寄せた。

モーターの動く音がする。

素早く新しいのに交換して、また同じ場所に戻す。



そのわずかな間、銃を下に向け、腕を休めることに集中した。

息が整うには、足りない時間ではあったが、この間がとても助かったと、

目を閉じで視覚も無意識に休ませていた。



「ほれ、さっさと続きしな。」

また斜め背後に戻る撩。

「あ、う、うん。」

慌てて姿勢を正す。

マスクから漏れる息でゴーグルの表面がやや曇りがちになる。

目を細めて、トリガーを引く。

轟音と共に、新しい的に連続で穴が開く。

しかし、バラつきが酷い。

中心を狙って撃っているパターンのはずなのに、

しかも、6発とも的の下半分に集中している。

きっとこれは、銃の重さで自分の腕が下がっていることを示していると、

香はまだ半分も消費していない弾を見ながら、

焦りが出始めた。



(しゅ、集中しなきゃ…。)



ゴーグルを手袋の甲でくっと拭って曇りを取る。

マスクでの呼吸もなるべく下に空気が抜けるようにする。

数十回目かの充填に、指が空回りしそうになる。



(あーん、スピードローダーが欲しいっ。)



再び中心を狙って、

やや上腕の角度を上げ気味に微調整する。

ガーン!ガンガンガン!



「ふぅ。」



一応思惑通りに狙えるも、今度は時間がかかり過ぎた。

繰り返しの作業が続く。

無駄な動きを出来るだけしないように意識する。



(この弾だって、ただじゃないんだから、

ちゃんと撃てるようになんなきゃ…。)



射撃場に、銃声と薬莢が落ちる音、充填の音、弾倉が戻る音、撃鉄を引く音が

繰り返される。

分かっていはいたが、その動きが徐々に遅くなっていく。

構える早さも、狙いを定めるのも、箱に伸ばす手も、

全てに素早さが削がれていく。



30分が経過したところで、

ついに、指から弾丸がこぼれ落ちた。

「あ!」

(床に落ちたら探しにくくなる!)

ブースのテーブルにキンと跳ねたところで、香は素早くキャッチした。

「あ、あぶなかった…。」

指先がわずかに痺れ始めた。

一旦、動きを止めて右手を見つめる。

(……これは、たぶんマスクをしているための酸欠の症状だわ。)

弾は残り3分の1。



(まだ、大丈夫、動かせる。)



「つ、続けなきゃ。」

香は、目を細めながら、作業を再開する。

視界の中に、撩がいないので、

まるで一人で打ち続けているような錯覚にもなる。

それでも黙々と打ち続ける。



撩のパートナーとして、少しでも自分に力を付けたい。

ただ、その思い一心で引き金を引き続ける。

撩程まではいかなくても、そこそこ狙った場所に撃てるようにならなければ、

撩の仕事を支えられない。

ただでさえも足手纏いな存在、それを少しでも改善しなければ。

とにかく今は、この300発をちゃんと打ち込めるように、

気力と体力を維持させなければ。

そう思いながら、的に集中する。



「……真ん中に、……当たれっ!」



ガンガンガン!ガーン!ガーン!

腕に伝わる震動が、より骨に響くようになってきた。

真ん中部分に2円分を失った穴が開いている。

的からはみ出た弾痕はない。

しかし、やはり下半分の傾向が見え隠れする。




薬莢を落としたところで、撩が視界に入って来た。

「的3枚目な。」

再びブースに使用済みの的を引き寄せ、新しいものと交換する。

「残り100発いけるか?」

耳栓をしているので、撩の声がとても小さく聞こえたが、

口の動きと一緒に何を言っているかはちゃんと分かったので、

香は、無言で頷いた。

「よし、続きだ。」

そう言って、また香の立ち位置から下がる撩。



再び構える香。

この的交換で短くも息継ぎができた。

集中しなおして、残りの弾丸を撃ち込み続ける。

ただひたすらに、

自分のために訓練を始めたパートナーに答えるられるよう、

いい加減な気持ちは微塵もなくトリガーを引き続けた。


**********************************
(8)につづく。





疑似体験。
1リットルのペットボトルが、だいたいローマンの重さに近いかなと。
これを腕を伸ばして両手で持って3分でもうギブアップ。
実弾を撃った時の経験をたぐりよせようとしましたが、
口径が小さかったのか、あまり振動衝撃は覚えておらず、
パンパンといった感じの軽い音だったような…。
こんなことなら、ちゃんと真面目にやればよかった。
うー、高校生の私にバカと言いたい。
ちなみに、
的はモータでレールを往復するタイプにしてみました。

17-06 Definition Of Sohmen

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目 


(6)Definition Of Sohmen ******************************************* 2728文字くらい



11月中旬、朝夕が冷えてきている。

食事も温かいものが欲しくなり、

香は、麺類がしまってある場所を確認する。

パスタに、うどんに、蕎麦にと保存がきく乾麺が並ぶ。

夏に買っておいた素麺(そうめん)は、そろそろ消費しなければ、

食べるタイミングを逃してしまう。

(まあ、お吸い物とかに少量使ってもいいんだけど、

今日、まとめて料理しちゃおう。)



大きめの鍋に湯を沸かす。

自分は150グラムあれば充分。

(撩は、……素麺っていっぱい食べても、なんか満足しないって感じよね。)

相方の満腹中枢を大人しくさせるには、

いまいちパンチ力がない。

(天ぷらとさつま揚げ加えちゃおうかな。)

練り物系と野菜でカロリーアップを測る。

全部で麺は500グラム、あとは温かい出汁つゆと

刻みネギに、削り節、刻み海苔、炒りごまをトッピング用に準備。

天ぷらも南瓜と秋茄子と竹輪を具材に選ぶ。

竹輪は別に衣を用意して磯辺揚げ。

あとは、冷凍してあったタコ入りさつま揚げを温めれば、

タンパク質は十分摂取できる。

イメージを具体化しながら、テキパキと昼食の準備をする香。




撩が呼びに行く前に台所に入ってきた。

「もうすぐ出来るから。」

「なぁ、ウチにマスクあったっけ?」

白木の椅子に座りながらそう尋ねる撩。

「は?マスク?」

銀行強盗とかが使うフルフェイスの黒い頭巾みたいなのが、頭に浮かんで、

どこかに襲撃でもしに行くのかと、先走ってしまう。



「白い四角いの?」

「そう、それ。」

「えーと、たぶん救急セットの中に、未使用が1つ入っていたと思うけど。」

「あー、じゃあそれ出しといてくれ。」

「風邪とかじゃないわよね。強盗にもで行くの?」

調理をしながら、冗談まじりで聞き返してみる?

「ちげぇーよ。だが、強盗みたいなカッコすんのは、おまぁだから。」

「ええっ?!」



頬杖ついて、にやりとする撩。

「な、なによ!それ!」

「とにかく、マスクと、あと帽子も用意しとけ。」

ますます怪しい姿になるのではと、口元がひくつく。



「おい、天ぷらそろそろ上げた方がいいんじゃないか?」

水分が蒸発し油の中で弾ける音が変化したのを聞き分けた撩、

美味しいタイミングを知っている。

「あ、いけない!」

あわてて取り出す香。

訝しがりながら、食卓を整える。



「天つゆと塩はこれ使って。」

丼の中に盛られた温かい煮麺に、

さつま揚げと天ぷらが並ぶ。



「おまたせ、食べよ。」

「おぅ。」

湯気を挟んで向き合って、箸をとる2人。

「いただきまーす。」

香は程よい硬さの麺を掬い上げてつるるとすすった。。

「うん、久しぶりに作ったけど、こうすれば夏以外でもいいわね。」

つるりんと香の口の中に吸い込まれていく白い麺が、

その愛らしい唇を濡らして艶やかに光らせる。



(まーた、無意識にそんなことするぅ。)

視界に入ってしまったものを払拭するかのように、

撩はずずずずずっっと一気に吸い上げる。

「やだっ!こっちまで跳ねたじゃない!もうちょっと上品に食べてよっ!」

「一度にたっぷり口ん中入れねぇーと食べた気しねぇーのっ!」

麺が口に入ったまま、天ぷらも頬張ろうとする撩。

頬袋がリスのようになる。

もごもごしながら、撩がふと香の方を見た。



「おまぁ、素麺の定義って知ってるか?」

「はぁ?定義?」

「法律で決まってんだぜ。」

「えーっ!!」

しゃべりながらも箸の動きと咀嚼を止めない撩。

「考えたことなかった…。長さとか決まってんの?」

「うんにゃ、決まってんのは乾燥してる時の断面の直径。」

「へぇー。」

「そうめん、ひやむぎ、うどんがそれぞれ断面の大きさで分けられているんだと。」

「はぁー。」

完全に箸が止まっている香。



「断面ねぇ、そうめんの断面って、……2ミリくらい?」

1本箸でつまみ上げてまじまじと白い糸を見つめる。

「それだと、ひやむぎになっちまう。」

「え、じゃあもっと細いの?茹でる前の状態よね。」

うーんと真面目に考える香がまた可愛らしくて、おのずと穏やかな表情になる。

馴染みのある食材なのに、

そんな決まり事があるなんて考えたこともなかった香。



「1ミリじゃあ細すぎるわよね…。うーん、1.5ミリ??」

「はずれ。」

「1.6」

「ぶー。」

「1.4」

「ぶー、っておまぁ、1発で解答しろよ。

コンマ1ミリずつズラしたら当てられるに決まってるだろうが。」

「うー、じゃあこれ最後、1.7?」

「ぶーっ!!」

「えええっー!」

「5回ハズレっつーものなかなかないな。」

ぶすっと表情がご機嫌ナナメの顔になる香。

「どーせ、あたしは的ハズシが得意ですよーだ。」



ぷいっとそっぽを向く香もまたいい、

とこれに萌える自分ってどんだけ惚れてんだと

込み上がる何かを押さえつつ、このやりとりを楽しむことにする。



「正解は1.3ミリ未満が素麺だと。」

「1.3?」

「そ。」

「あー、惜しかった!さっきの1.7か1.3か迷って1.7にしちゃったのよねぇ。残念。

じゃあ、うどんは?」

「おまぁが間違った1.7ミリ以上がうどん。その間がひやむぎだと。」

「へぇー!って、なんであんたそんなこと知ってんの?」

「ボクちゃん、博学だから〜ん。」

くねくね撩を、香は箸と丼を持ったままジト目で撩を見つめる。



「……どうせ、さっきの世界人口とおんなじで、

どっかのキャバクラかスナックで、もっこり美女の気を引くために

仕入れたネタでしょ。」

「あら?バレた?いでっ!!」

すこん!と顎に当たったのは1トンハンマー。

(ちょっとくらいは否定しやがれ!まったくもう!)

むすっとしたまま、黙々と食事を続ける香。



「てて、……まぁ、クイズの的は外してもかわまんが、

射撃の的は外さねぇように、ボクちゃんがしっかりコーチしてやっから、

そのつもりでなっ!」

顎をさすりながら、にやりとそう言い放つ撩。

ギクリとまたその表情を変える香。



「食い終わったらすぐやるぞ。」

「…う、うん、分かった。」

「ごっそさん!」

爪楊枝を銜えながら、キッチンを出て行こうとする撩。

「片付け終わったら、マスクと帽子を持って地下にこい。」

振り返りながら、そう言い残して廊下に姿を消した。

香は、つまみ上げた麺の束を見つめながら、撩のウンチクを反芻する。



「……1.3ミリねぇ。」



つるりんと飲み込むと、慌てて他の料理もカラにした。

「ご、ごちそうさま!」

誰もいなくても、食後の感謝の言葉は忘れない。



「は、早く片付けなきゃ!」

香は大急ぎでシンクに食器を運ぶ。

「どうしよう、夜の下ごしらえもしておきたいけど、…いっか。」

洗い終わった食器をカゴの中にそのままで、

急ぎ足で客間に行く。

ローマンが入っているショルダーバッグを持ち、

室内用の運動靴に履き替えて、

指示された、帽子とマスクを手に、撩の後を追って地下に向かった。


*****************************
(7)へつづく。





そうめんの定義、
管理栄養士の国家試験問題集に
出題されていたのが印象的だったもので。
(落ちたくせに…)


【サリン事件から18年】
この日の天気は、人生の中でも最も明瞭に覚えている快晴。
わたくし、一歩間違っていたら、
地下鉄千代田線の霞ヶ関駅でこの事件に巻き込まれるところでした。
今も、後遺症で苦しんでいる方が多数いらっしゃる中で、
この事件を知り、理解している若い人は年々減少中。
同じことが繰り返されないためにも、
忘れてはならない日として伝えていかねばと思います。
不謹慎ですが、きっと撩と香とファルコンと美樹が
実在していたらなば、この悲劇も未然に防げたかもと…。
改めて命を落とされた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

17-05 Inner Reserves (side Kaori)

第17部 Compensation Of The Bill 

奥多摩湖畔から9日目  


(5)Inner Reserves (side Kaori)  **************************************2262文字くらい



まんまと言いくるめられたわ…。

ズルい、ズル過ぎる…。



朝食が終わり、食器を洗い、相方にコーヒーを出し、

洗濯物を干し、台所の拭き掃除をするあたし。



分かってはいるのよっ。

あれは、あたしを論破するための演出だって。

しゃべり方も、一つ一つの動きもっ!

分かってて当てられちゃうんだから、

あたしって、……救い様がないわ。



思わず雑巾に力がこもる。



た、確かに撩と離れて寝るってわたしも嫌だけど、

ああでも言わないと、本当に朝困ることが多過ぎるんだものっ!

はぁ、次のゴミ出しできる、かな…。



昼ご飯は簡単にしよう。

確か、夏の残りの素麺(そうめん)があったらから、

煮麺(にゅうめん)でも作ろうかな。

で、床、シンク、テーブル、冷蔵庫にと…、

拭けるところは一通り拭き上げたわね。



小さなバケツで雑巾を絞り、それをかかえてとりあえず脱衣所へ。

汚れた水をお風呂の排水溝に流し、軽く漱ぐ。

ひっかかった埃や髪の毛を回収して、

脱衣所のゴミ箱へ捨てて、バケツは指定席へ。

雑巾は別洗いするから、洗濯機のわきに仮置きしておく。

洗面所で、手を洗って、次の予定に頭を巡らせる。






「撩、あたし伝言板見に行ってくる。」

リビングでごろ寝していた相方に声をかける。

「あ?夕方でいいだろ?」

「ううん、ゆとりがあるときは午前中と夕方の2回チェックしてるの撩も知っているでしょ。

最近1回だけが続いているから、とりあえず今行ってくるわ。」

「じゃあ、行くか。」

「あ、撩はゆっくりしてていいよ。」

「は?」

「あたしが車運転してさっと行ってくる。

姿を見られなきゃいいんでしょ?キー貸してくれる?」

「駅前駐車すんのに、一人はまずいだろ。着替えてくっから待ってろ。」

「ちょ、ちょっと、いつまで一緒に見に行くつもりよっ。」

「とーぶん!」

あたしはどこか納得がいかないままで、

昨日に引き続き、一緒に駅に向かうことに。






車内で、あたしはぼそっと聞いてみた。

「ねぇ、撩、あたしがみんなにからかわれるのが、そんなに嫌なの?

そんなこと言っていたら、あたし一人じゃ外出もできないよ?」

「おまぁ、根掘り葉掘り聞かれるかもしんねぇーのに、言い返すことできんの?」

「う…。」



あれから9日……。

クロイツ親衛隊の事件と美樹さんの結婚式の後の噂は、

あたしたちを知る新宿界隈では、すっかり共有の情報となっているみたい。

色々聞き出し、話題のネタの餌食として

そのタイミングを喜々として待っていると、撩から聞いた。



「で、でもそうも言ってられないじゃない。」

あたしも、いつも伝言板を確認したらキャッツでおしゃべりコースという習慣が、

禁断状態で普段とかなり調子が狂わされている上に、

こうも毎回、撩が一緒だと、自分の仕事としての位置付けも

心理的に霞がかかってくる。



「とりあえず、さっさと見に行ってこい。」

いつの間にか駅前に着き、停車。

あたしは眉を八の字にして東口に入って行く。

駅は相変わらずの混雑振り。

伝言板には、文字は沢山あれど該当する暗号は見当たらない。

ごく稀に、すみっこに小さく書かれることもあるので、

とりあえずもう一度端から端までチェックする。



「……やっぱ、ない、か。」



まわりに不審な人物がいないか、念のためざっと周囲を見回してみる。

特に異常は確認できない。

あたしは、足早にクーパーに戻ることにした。





「なかったわ。」

ドアを開けながら、そう撩に伝えた。

「ほいよ。」

エンジンをかける撩、ふと思い出したように、こっちを見る。

「おまぁ、他に寄るとこないか?」

「え?」

「ついでだから、買い物とかあったら寄っていくぞ。」

「………。」

きょとんとするあたし。



「なんだよ。」

もしかして、撩は自分で気付いていないんだろうかと思うくらい、

今までにないセリフがあまりにも多い、多過ぎる。

今のもそう。

自分から、どっかついでに、だなんて言うヤツじゃなかった。

あたしが頼んでも、面倒くさそうに、あらかさまに嫌々な態度で、

日常生活に協力してくれること自体が極稀だったのに…。



あたしは、撩らしくないセリフに脳の処理がついていかず、

目を閉じてこめかみを押さえる。



「な、なんだ?頭でも痛いのか?」



手を伸ばしてきた撩は、あたしの手首を掴んで顔からどけると、

もう片方でぺたりとおでこに触れて来た。



「っうわぁ!」

「熱はないな…。」

思わず後ずさって、助手席の窓にガンっと後ろ頭がぶつかる。

「った!」

「おいおい、なにやってんだよ。買い物とかいいのか?」

あたしは、おでこと後ろ頭を押さえて、撩を見直す。

おふざけではない表情。

たぶん、今あたしは顔が真っ赤だ。

熱はないなと言われたばかりなのに、完全に発熱状態。



「……ぅ、うん、だ、大丈夫。帰ってお昼、た、食べよ。」



口元がまともに動かない。

もう恥ずかしくて、目が合わせらんない。

「んじゃ行きますか。」

軽い返事のあと、クーパーは駅前から家路に向かう。



徒歩でも動ける短い距離のドライブに、

このやりとりだけで、あっぷあっぷ。

余裕綽々の撩と、余裕皆無のあたし。

これってやっぱり経験の差、かなぁ…。

助手席に深く座り直して、上向き加減になり、はぁぁと息を吐き出した。



「なんだ?盛大な溜め息だな。」

運転中の撩は、にやついて視線をちらっとよこす。

「べ、別にっ!」

説明する気もさらさらないので、

ぷいっと車窓に顔を向けて、腕組みをした。

撩はふっと細く笑うと、

スピードをあげて、家路に向かう。

車窓を眺めていると、瞬く間に

愛車は我が家のガレージに滑り込み指定席に収まった。


****************************
(6)につづく。





もちろん撩も余裕のフリです。
カオリンよりも実はゆとりはないかも?


【1週間ぶりにログイン…】
自分であとがきに何を残したかも忘れておりました。
こちらをなかなか構えず、
もくじの白紙が続きご迷惑をおかけしております。
もうちょっと自分の要領が良ければいいのですが…。
年度末の重複事案が来週再来週でピークになりそうなので、
なんとか24年度を乗り切りたいところです。
きっと他の方も年度末はなにかと慌ただしいと思いますが、
近隣でインフルB型が流行り始めましたので、
お互い健康には配慮して、満開桜を愛でたいものですね。
(2013.03.18.21:45)

17-04 Only Monday?

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目


(4)Only Monday?  ***************************************************3521文字くらい



「何つくろ…。」

冷蔵庫を開けて食材をチェックする香。

いつもなら、前日の晩にイメージが出来上がり、

冷蔵庫の開閉は手短かに済ませるが、

今朝は、ぱっとメニューが決まらない。

(ああ、冷気がもったいない。)

一度、パタンと扉を閉める。



「9時半前までには食べ終わりたいな…。」



いつもなら、ゴミ捨て前には仕度を整えているのが日常だったが、

撩と寝室を共にするようになってから、

朝の習慣が若干、いや、かなり狂わされている。

今も、照れと寝不足で頭がうまく回転しない。



「よし!決めた!」



香は、気分をなんとか切り替えて、

今日も和食メニューで整えることにした。



その頃、浴室の撩はずたぼろになりながらも、

実に幸せそうにシャワーを浴びていた。

壁一枚隔てたとなりの空間に、香が食事の準備をしている気配を感じ取る。



「ったく、かおりちゃんのウブさは、ツボだね〜。」



恥じらい照れまくり焦りまくる香の仕草が、

たまらなく愛おしく、分かっていて、

ついそういう場面にもって行きたくなる。

キス一つで、真っ赤に茹で上がる様に、

場慣れしたオンナとは違う反応に、

偽りのない心拍の動きに、

自身がかえって煽られ余裕をなくす。

が、それを悟られたくないので、

繰り返し、ごまかしとからかいの文言が連発する。



「だぁって、かぁ〜いいんだもんなぁ〜。」



ぐふっと厭らしさ100%の笑みを浮かべてくねくねオネエモードで

おちゃらける撩。

端からみると変態以外何者でもない。



一緒にいるだけで、心地良い。



自分がこんな相手に巡り会えるとは、

何の奇跡が働いたんだかと、泡を流しながら思いにふける。

共に生きて行く、

そう決めたことに揺るぎはない。



「……2人で、…シティーハンター、だもんな。」



泡が落ちきった裸体をそのままに、

滴る雫を気にすることなく脱衣所に出る撩。

タオルでがしがしと水気を取りながら、

今日のトレーニングのメニューをイメージする。



「……今回は、完全防備、だな。」



そう呟くと、赤Tシャツとスウェットを素早く着込み、

足取り軽くキッチンへ向かった。



扉を開ける前から、焼き魚の香りが鼻腔をくすぐる。

「あー、腹減った!」

そう言いながら、キッチンの扉を開ける。

白木のテーブルの上には、アジの干物を焼いたものに、出汁巻卵、

インゲンの胡麻和えに、海藻サラダ、フルーツは林檎のフジが添えられている。

いつも自分が座る席には、畳まれた朝刊。



「お、今日も和食か。」

ガタリと席につく撩の前に、

てんこ盛りに山型を描いた茶碗が無言でゴトリと置かれる。

目を合わさずに、そのままガスレンジの前に戻り、

味噌汁を注ぐ香。

千切り大根と刻み揚げの具に、白ネギを散らす。



伏せ目でトレーを運んでくるオーラーは、

まさに『あたしは今機嫌が悪いの』を発している。

今度は、溢れないように配慮してか、コトリと普通に配膳される。

撩は、縮こまって、新聞の端から香の様子をビクビクと伺う。

自分の席に腰を降ろした香は、箸を持つと手を合わせた。



「いただきます。」



小さな声は、余計な文言を言いたくないモードの表れか。

無表情でぱくぱくと食べ始めるパートーナーに、

撩はどう話しを切り出そうか悩むことに。



「お、おまぁさぁ、なに怒ってんの?」

「………。」

「おれ、なんかしたっけな?」



いや、心当たりはありすぎるが、と

すっとぼける撩に、香はキッと鋭い視線を投げる。

もう本日ハンマー3発食らったことを忘れたのかと、

またこんぺいとうを出現させたくなった。

しかし、香の目はすぐに逸らされ、再び無言無表情になる。

もぐもぐと動いていた口が、咀嚼と嚥下を終えると静かになった。



「……撩、……あたし、ゴミ出しの日は、自分の部屋で寝たいんだけど。」



目をぱちくりして、固まる撩。

「ああああ?なんでぇ?」

新聞がぱさりと床に落ちる。

じろりと睨む香。



「毎週水曜は、古新聞と容器包装類の日、

木曜日はビン缶にペットボトル、第1第3土曜日は不燃ゴミ、

火曜と金曜は燃えるゴミ、

この日の前日はあたし一人で寝る。」

「はああああ?ちょ、ちょっと待てっ!!」



長年の据え膳を耐え抜いて、

我慢に我慢を重ねて来たことがようやく解禁となり、

香と一緒に同じベッドに寝られる喜びを

しみじみと味わっていたこの9日間。

それが、突然の「一緒に寝ない宣言」にエアーハンマーを心臓に食らう撩。



「つーか、それって平日は月曜日のみっつーことじゃねぇかっ!」

「うん。」

テーブルに両腕をついて立ち上がる撩を気にせず、涼しい顔の香。



「撩……、奥多摩から戻ってきてから、今日しかゴミ捨てられてないの。

しかも、ぎりぎりで。この意味分かる?」

「ぐ…、そ、それは…。」

「あんた、『俺がしとくから気にせず休め』って言ってたことがあったけど、

結局回収の日にちゃんと出せてないの。」

「あ、……だ、がな。」



無表情で続ける香。

「あたしは、あんたと違って、

午前中はやらなければいけないことがいっぱいあるの分かっているわよね。」

香は、抑揚をつけずに理由を告げる。

「このままアパートがゴミ屋敷になると困るでしょ?」



いや、困るのは俺だとばかりに、この提案を断固阻止したい撩。

立ったまま頭を片手でがしがし掻いて、どさっと椅子に座りなおす。

規則正しい生活習慣に生活リズムを身につけている香にとって、

朝起きられないというのは大きな抵抗であり、日常生活に支障が出始め、

新たな悩みとなり、

出した結論が先の発言となった。



撩は出された朝食に手をつけられないまま、

頬杖をついて、脳をフル回転させる。

日曜の夜と、第2、第3金曜日の夜しか一緒に寝れらないというのは、

断じて受け入れられない。

(今更、独り寝が出来る訳ねーだろっ。)

しかし、香の宣言に冗談は混じっていない。

なら、こちらも冗談抜きで交渉するしかない。



撩は、すっと立ち上がって香に背を向けた。

片手は腰のポケットにつっこむ。

「……香、…おまぁは、俺と一緒に寝るのがそんなに嫌か?」

「え?」



おふざけの色がない言い様に、香はどきりとして、箸が止まる。

撩がそんなことを言い放つことに、激しく驚く香。

これまで、散々拒否をしていたのは、どこの誰だと、

まるで別人のような文言に何も言い返せない。

その赤いTシャツの広い背中が、肩を落としているその角度が、

淋しさ悲しさをより演出しているかのようにも見えてくる。



「そ、そ、そんなんじゃ、ない、わよ…。」

明らかに動揺が混じった声色に、

撩は流れを変えられる手応えを感じた。

「朝、起きられないのが、イヤなのっ!」

頬を染めて、照れ隠しに再び箸を進める香。



「俺は、…おまぁと寝られなくなるほうが嫌だ。」

「!!!っ」



香の箸がぽろっとテーブルに転がった。

この男がよくもまぁダイレクトにそんなことを口にできるものだと、

ボシュっと赤くなりながら、素直に驚く。



まだ、撩は背を向けたまま、表情は見えない。

「朝、ちゃんと起きれて、ゴミ捨てられればいいんだろ?」

求めている結果はそれであることは間違いない。

「……ぅ、ぅん。」

撩は、自分が落とした新聞を拾いテーブルの上に置くと、

そのままゆっくり香の背後にまわった。

目の端で撩の動きを追っていた香は、この展開に心拍が忙しくなる。

「…りょっ。」

ふわりと撩の熱を持った太い腕が香を包む。

「……悪かった。」

自分の右のこめかみに撩の唇が当たり、肩がびくりと跳ねる。

「……善処する。」

「りょ…。」

「だから、別に寝るなんて淋しいこと言うなよ。」

香の体温が急上昇する。

この声に弱いことを分かっていて、

この流れを作ったのはお互い承知済み。



「……もし、おまぁが客間に逃げても、ボクちゃん夜這いに行っちゃうから。」

ややおちゃらけ口調でのセリフに、これも冗談は入っていないと

直感で確信する香。

もう全身ストロンチウムを燃やしたような緋色に染まっている。

こんなセリフは、本来自分以外のオンナに向けられていたもののはず。

相方の変貌振りに、まだ心が追いつかない。

返す言葉も見つからず、ただただ撩の言動に恥ずかしさで一杯になる。



「……今日は、午後から射撃すっから、しっかり食っとけ。」



頬にちゅっと軽く触れたものがナニか分かった時には、

既にその熱の主は自分から離れ食卓につくところだった。

頂きますを省略して、撩は食事を始める。

涼しい表情で、心の中では自身の勝利にガッツポーズを作る。

(よっしゃ!これで一緒に寝ない宣言はなしってことでっ!)

ちらっと香を見遣ると、まだ赤い化石のまま。



「おいおい、冷めちまうぞ。」

はっと我に返る香。

「ぁ、…ぅ、うん。た、食べる、わ。」

油が足りないロボットのような動きに、

勝者のゆとりで撩は苦笑した。


******************************
(5)につづく。






ゴミ捨ての曜日は、現在の冴羽アパート周辺の番地のもので、
1991年当時はどうだったかは未調査です。
また、小さなペットボトルが一般に普及しはじめるのが、
1996年頃かららしいで、このあたり時系列は若干無視しております。
しかし、ペットボトルのお茶の普及のせいか、
急須を使ったことがない大学生がかなりいると
先月メディアで取り上げられていて結構驚きました。
まぁ、私の世代も昭和初期の生活用品や農機具を見て
何だか分からんというものありますが…。何だか複雑な気分です。

思い出しネタ。
完全版6巻第56話「危険な国からきた女!」の
P162で、この男カオリン後ろハグで、
「またすぐやきもちやいて おれは 結婚の相手は きみしかいないと
思ってるよ……」とかほざいてた時代があったんですよね…。
この後即10トンハンマーでしたが。
今見るとうわぁーという一コマ。
この台詞、どっかで本人に思い出させたい気分です。

17-03 Residue

第17部 Compensation Of Bill 

奥多摩から9日目


(3)Residue **************************************************  2409文字くらい



6階に戻ってきた香。

書籍の並ぶ吹き抜けに立ち寄り、

テーブルの上にある縄跳びを確認する。



「あれ?あたし、昨日運動靴どこやっちゃったっけ?」



昨日のトレーニングを思い返して、

脱衣所の一角が頭に浮かぶ。



「あ!あそこだわ。」



慌てて、室内用のシューズの居場所へ飛んで行く。

洗濯機の脇に置いたままだった。

モノを目視でチェックして、自室に着替を取りに戻り、

再び脱衣所へ。

「あー、これも今スイッチいれちゃお。」

香は、ランドリーバスケットの中身を確認しながら、

洗濯槽に移しスタートボタンを押した。

「よし、じゃあ、やろっかな。」

指2本で室内履きの運動靴をぶら下げて、

リビングに寄り、時計を持って再び吹き抜けに戻る香。



「確か、5分間を2セットだったわよね。さっさと終わらせちゃお。」



テーブルに置き時計をごとりと置く。

「今度ストップウォッチでも買ってこようかしら。

1個、トラップの計測用に工具箱に入っているけど、

いちいち持ち出してくるもの面倒だしね…。」



香は、縄跳びをほどき、足で踏むとくっと伸ばした。

すっと息をすって、タンと床とロープがぶつかる音が最初に1回響く。

それを皮切りに、小気味よいリズムで、空気が切れる音と、香の着地の足音が

安定して重なっていく。



もちろん、その音と気配をキャッチしている素っ裸の撩。

一応腰から下は掛け布団の下、腕を後ろ頭に組み、ベッドの上で仰向けになったまま、

くすりと口角をあげる。



最初の5分が終わりかける頃、

どういう訳か、香の困惑する気配が寝室まで伝わってきた。



「いやーんっ!」



その声に、撩の目がぱちっと開く。

「あ?な、なんだ?」

撩が声を出したとたんに縄跳びの音が止まった。

上半身を起す撩。

耳をすませてみる。



「な、なによっこれ!」



照れと焦りが混じった香の声に、

何事かと、そっと寝室を出て階下をこっそりと見下ろす。

香は、縄跳びを放り投げ、顔を赤らめながら、

慌てて吹き抜けから出て行くところだった。

行き先は浴室。

撩は、なぁーんとなく理由が分かってしまった。



「こりゃ、大変なこって。」



思わずにやつき、肩を揺らした。

原因がおおよそ判明したところで、撩はまた後ろ頭に指を組み、

ベッドにどさりと仰向けになった。



一方、浴室に飛び込んだ香は、全身真っ赤になっている。

「も、もうっ!!これじゃ、縄跳びもまともに出来ないじゃないっ!」

脱ぎ取った下着は、まわっている最中の洗濯機に大急ぎで放り込んだ。

シャワーのコックを慌ててひねり、

水圧をやや高くして、全身に飛沫(しぶき)を当てる。

特に下半身は念入りに流すことにした。



夕べの一戦の汗を流す前に、ついでに縄跳びのノルマをこなしてから、

一緒にべたつきを流そうと目論んでいたら、

あえなく、縄跳びは中断せざるを得なくなった。

飛んでいるうちに、

慣性の法則で体の中に残っていた撩のアレが落ちてきて、

香の下着をしっかり濡らしてしまったのだ。



「うう…、計算外だわ…。」



これまでは、撩がある程度ベッドの上で拭き取るなどしていたが、

今回は、たっぷりと出て来たので、

頭にクエスチョンマークもたっぷりである。

それもそのはず。

香本人は気付いていないが、昨晩は(昨晩も?)抜かないまま、

というよりも抜けないまま朝を迎えて、

何も事後処理なしで、今に至るのだ。

香は、この一件で何かを学習してしまった。



シャワーを浴びながら、

縄跳びの続きをどうするか考えを巡らせる。

「あと半分だったけど…。」

体と髪を洗い終わると、訓練の時間と内容によっては

夜も入浴しなければならないのかと、

頭には水道料金とガスの明細書がぽんと浮かぶ。

「ふ、不経済だわ…。でも、大事な訓練だし…。」



泡を流し終わり、滴をある程度落とすと、

香ははぁと溜め息を付きながら、

浴室の扉をかちゃりと開けた。

「お、出たか。次俺な。」

何食わぬ顔して、すっぽんぽんで、香と入れ違いで浴室に入る撩。



香は、事態を飲み込むのに、

神経系の伝達スピードが人生最大級の延滞モードになった。

パタンと戸がしまる音、シャワーの水音に、はっと我に返り、

ギギギギと硬くなった首を後ろに振り向かせた。

確かに、いる。

幻であったかのような、一瞬の光景に、

香はやっと状況を理解した。

恥ずかしさと、照れと、混乱と、意味不明の腹立たしさが一気に湧いてくる。



香はしばしの硬直後、

バスタオルをくっと掴んで、ぐるっと自分に巻き付けると、

バンッと浴室の扉を開けた。



「あんれー?香ちゃん、一緒に入りたくなっちゃった?」

のんきにシャワーを浴びている撩に、

渾身の恥じらいハンマープラチナバージョン100トンを振り落とした。

轟音&震動の後、しゃわーと水が降り注ぐ音だけが残る。

香は、赤いまま無言で浴室を出ると、

さっさと身を整え、脱衣所から離れた。



髪の毛にタオルを巻いたまま、ばさっと客間のベッドに倒れ込む。

「はぁ…。」

うつ伏せのまま、ちらっと時計を見る。

「8時半、か…。」

朝からドタバタして、本日3発目のハンマーを使い、

なんだかどっと疲れてしまった。



(た、確かに、今まで撩のハダカなんていくらでも見てきたけど、

あんな突然で明るいところで、しかも、また気配けして!

近過ぎるし!なんも隠してないし!せめて腰にタオルくらい巻いてよっ!)



関係が変わってから、まだベッド以外では、

もといベッドでも美し過ぎる相方の筋肉を直視できない香にとって、

心構えが出来ていないところにあの場面は刺激が強すぎた。



「んとにもー、冗談抜きでこっちの心臓がもたないわよっ!」

再度溜め息を吐く。

「今日、夕方にはツケの支払いにまわりたいのよね…。

でも、射撃訓練するって言ってたし…。」

今日のスケジュールも慌ただしくなりそうだと、

時間配分を計算する。

「朝ご飯、……作らなきゃ。」

香は、むくっと起き上がって、髪を揉みながら客間を後にした。


**************************************
(4)につづく。





シャワーの最中の乱入を抑えていた撩ちん。
カオリン、
やっぱり頑張れとしか言葉がかけられません。
タイトルの英訳、残渣は本来なら適切な単語ではないかもと。
代替品が見つかったら変更するかもしれません。

17-02 Garbage Day

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目    


(2)Garbage Day ***********************************************1443文字くらい



リビングの時計は午前7時45分。

自治会のルールでゴミの日は、

朝の8時までに集積所に置くことになっている。

冴羽アパートの隣のファーストフード店そばの電柱周辺が、

隣数軒分のビルのゴミ置き場となっている。



香は、大急ぎでキッチンの前に撩の部屋のゴミ箱を置き、

そのまま直進して客間に飛び込む。

まずは外に出られる着替えを選ぼうとするも、

タンスの引き出しに手をかけた時、ふと思い出すことがあった。



「あ…、確か毎日しろって言われたわよね…。」



ジーンズを履こうと考えていたが、

長袖Tシャツとトレーニングウェアのパンツを選び、

素早く着替えた。

「うー、下着はあとからでいいや…。」

この後、浴室に向かうことを思い、とりあえず外身だけチェンジ。

ドレッサーの前でかるく髪を整えて、

跳ねた寝癖をごまかした。



「は、早く下に行かなきゃっ。」



自分の部屋のゴミ箱は、殆どカラであることを確認して、

再びキッチンに向かう。

廊下を進む足はすでに駆け足。

夕べのうちにまとめようと思っていたものが、

撩のカップを洗っている時にその持ち主の登場で、

そのまま連れて行かれてしまったものだから、

各部屋のゴミ箱の回収をし損なっていた。



「い、急がなきゃ!!」



8時まであと5分。

藤のダストボックスのビニール袋を引っ張り上げる。

撩の部屋のゴミ箱の中身を都推奨の収集袋へ合流させる。

ふわりと微かに香ってくるクリの花に似た匂いに、どきりとするも、

撩の一部だった命のタネがこうして焼却処分されることに、

どこかしらちくりとくる。



「あー、だめだめっ!」



色々思い出して、赤面し、

思考が飛びそうになるのを、慌てて引き戻す。

キッチンまわりに何か一緒に捨てる物はないか見回すが、

特にキャッチできなかったので、

次はリビングへダッシュ。



ソファーの裏にあるゴミ箱の中身を回収。

買い物袋を常にセットしてあるので、

これも引っ張り上げて口をきゅっと結ぶ。



「とりあえずこれでよし!」



生活空間のゴミを一通り回収して、

キッチンでぎゅっと大きなゴミ袋の口を縛る。

前回捨て損なった可燃ゴミ1袋も合わせて、2つの袋を

それぞれ片手で持ち上げる。

残り時間あと1分。



「い、いけない!急がなきゃ!間に合わなくなっちゃう!」



この界隈の可燃ゴミの収集日は火曜日と金曜日。

これを逃すと、また次に先送りである。

玄関を飛び出て、脱兎のごとく一気に階段を駆け下り、

1階駐車場を勢い良く開ける香。



8時ジャスト、まだ収集車は来ていなかった。

「ほっ、ま、間に合った…。」

カラスよけネットをめくりながら、ゴミ袋をどさりと積み重ねる。

安心感から、どっと体から力が抜けた。




「んーー!いい朝!」


アパートの入口に戻りながら、右肘を左手で包んで天空に腕を伸ばす香。

伸びをしていたら、

隣の探偵事務所の窓に見知った影が目に入る。



「……麗香さん!」



出窓に腰を下ろし、

ワイシャツ姿一枚でコーヒー片手に新聞を見ている商売敵。

美樹の結婚式以来、お互いの姿を初めて確認する。

9日振り。

声は届かずとも、お互い目が合うとくすりと笑い、双方とも片手をあげた。

『おはよう、久しぶりね』の合図。



麗香もあの日以来、仕事でばたついているので、

2人をからかいに行こうにも、なかなかゆとりがない。

そのうち遊びにいくからね、と意味深なウィンクを返し、

手をひらひらと地上にいる香に送った。

もちろん香はそのサインの含むところは気付かないまま、

アパートの扉を開けて中に入って行った。


**************************************
(3)につづく。






ゴミ捨て間に合ってよかったよかった。
この時代にカラス除けネットがあったかどうかは未確認。
私が区内のカラスのねぐら入り調査を手伝ったのは、
93年から95年くらいだったかな?
2011年で都内カラス16600羽の数字も。この15年で明らかに右肩下がり。
ごみ捨てのシチュエーション、
はのほさん宅のお話しにちょこっと似ているかもです。
ご連絡済みでございます。
はのほさん返信ありがとうございました!

SS-04 Brooch

50000万ヒット記念企画


原作穴埋め、1989年10月下旬頃。
第245話(完全版24巻)「コートの秘密!?の巻」で
登場した盗聴器の猫のブローチが香に手渡されるお話し。


SS-04  Brooch (side Kaori) *************************************2729文字くらい



「ほれ。」

「え?」



キラリと光り弧を描いてあたしの方に飛んでくる何か。

「わわっ。」

慌てて両手を出し、胸の前で受け止める。

「な、何これ?」

固い金属片のような感触。

そっと手の平を開けてみた。



「?」



首をかしげる。

猫の顔を象(かたど)ったブローチのように見えるけど…。

あたしは、いつも通り伝言板を見に行って昼前に帰宅。

撩に、お昼に食べたい物を一応聞いてからキッチンへ行こうと、

リビングのドアを開けたとたんに、これが放られた。




「教授が、おまぁにって。退院祝いだと。」

撩はソファーに寝転がったまま億劫な空気で答えた。

「え?きょ、教授がぁ?な、なんで?」

「さぁーねぇー、ボクちゃんにはなんにも出さねぇーでやんの。あーつまんね。」



ついこの間、あたし達2人は、

揃いも揃って急性虫垂炎で入院した。

その時出会った浦上まゆこちゃんの事件が無事解決し、

また日常が戻ってきたところで、

この出来事。



「どうして教授が入院のこと知ってるの?あんた話したの?」

「うんにゃ、あのじぃーさんのこったから、こんな情報筒抜けなんだろ。」

「そ、そっか…。あ、お礼のれんら」

「あー、しなくていいよ。俺から言っといた。」

「そ、そう…。」



あたしは、ブローチを目の高さに持って来てマジマジと見る。

指先に違和感を覚えて、裏をひっくり返してみた。

「それ、発信器兼盗聴器になっているから、

仕事が入っている時はスイッチオンにしとけ。」

「は?盗聴器?」

「試作品だと。」

「はぁー、だから裏にへんなのがついてるのね。」

安全ピンや爪楊枝で押すであろう小さな凹スイッチの場所を確認して、

また表面をひっくり返す。



「……キャッツのマークみたい。」



あのエンブレムにそっくり。

「あたしより、美樹さんのほうが似合うかもね…。」

可愛くシンプルな猫のデザインに、

あたしにはこれが似合うような要素がない気がして、

少しだけ口調が暗くなった。



ソファーの短辺側でドアの方に頭を向けて仰向けに転がっている撩は、

持っていた雑誌をばさっとガラステーブルに投げた。

「……そいつは、スーツでもカジュアルでもどっちでもつけられるさ。」

むくっと起き上がると、

ソファーに座ったまま、んーっと伸びをする。



「あー腹減った。メシは?」

「あ、今から作るわ。何が食べたい?」

「食えりゃあいい。」

「もう!たまには作る側が助かるような要望とか言ってよね!」

「だから、何でもいいって。」

撩は頭をぼりぼり掻きながら、面倒臭そうに答える。

「何でもいい、が一番困るのよっ。」



あたしは、リクエストを聞くことを諦め、

撩に背を向け廊下に出た。

キッチンに進みながら、

肩から下げていたショルダーバッグにブローチをそっとしまう。

ボタン付きの服じゃない時は、

とりあえずこれを持ち歩いた方がいいわね。



正直、今まであたしに分からないように付けられていた

ボタン型の発信器は、折々の洗濯やクリーニングで

付けたり外したリが面倒だから、

こういうアクセサリー系のほうが断然助かる。

でも、敵を欺くには

ボタンとかベルトの部品とかの方がいいのよね…。



あたしは、荷物を白木の椅子の上に置き、エプロンをまとった。

「何つくろ…。」

冷蔵庫を開けて庫内チェック。

「パスタ系にしよっかな。」



だけどアクセサリー系の小道具は初めて。

ただ素直に身に付けるには、ちょっと抵抗があるのよね…。

たまぁーに、あたしがイヤリングやネックレスをつけると、

撩はあからさまに苦い顔して、

こう言うの。



— そんなもんは、もっと似合うカワイ子ちゃんが付けてナンボのもんだろぉ ー
 
— アクセサリーも付けられる相手を選びたいんでねぇのぉ? —



どうせ男女には必要ないだろうという表現にずきりとしながら、

本気で傷付いたことを知られない様、

その度にハンマーを出してごまかすの。



だから、できるだけこんなものは使いたくないのに…。

今回は、あいつから依頼時には付けとけって…。

使ったら使ったで言われることはきっと一緒。



ベーコンとバジルソースを取り出し、

冷蔵庫をパタンと閉める。



うーん、せっかく教授からプレゼントもらったのに、

なんだか気分が沈んでいくなんて、

まったく誰のせいよ、誰のっ。



パスタが入っている引き戸を開け、

スパゲッティを400グラム取り分けた。

あたしは100、撩は300…で足りるかな。

かがんでシンクの下から30センチ鍋を取り出して、

たっぷりと水を注ぎコンロにごとりと座らせる。

フタをして火をつけて、次はベーコンを切らなきゃ。



まな板を前に包丁を手にしたところで、

また余計なことを考えてしまう。



そうよ、いちいち撩の言葉に落ち込んでる場合じゃないのよ。



ワケのわからない腹立たしさと悲しさにまかせて、

厚いベーコンをざくざくと切り分ける。

美樹さんから分けてもらった、本格的な手作りベーコン。

ログハウス住まいの知り合いが、

いい豚肉を使って自家製の薫製器で燻し上げた

塩以外無添加の一品。

次はイノシシ肉で作りたいんだとか。



なんかもったいないな。

少しずつ使いたいけど、

でも撩にはたっぷり食べてもらいたいし…、

うーん、まぁいっか。



「撩のためなら…、か。」



包丁を動かしながら、思わずつぶやきの声が出てしまった。

はっとして口元を押さえる。

指先についた薫製の香りがくんと鼻に届く。

自分の頬が染まるのが分かった。



も、もうっ!

今、腹立ててなかったっけ?あたしったら!



動きが止まったあたし。

手元のまな板と包丁とベーコンを見つめる。



……たぶん、うれしいんだわ、これって。



教授からの退院お祝いって分かっているけど、

撩からあーゆーモノ受け取ったの、

は、初めて、なのよ、ね…。



思わずくすりと鼻から軽い息が出て、口元がにやついた。

たった、これだけのことで…、

撩からのプレゼントではないと分かっているのに、

撩から手渡された、もとい手渡しじゃなくて放られたけど、

ただ、撩を経由したけなのに、

たったそれだけで、嬉しいだなんて…。



「……あたしって、なんてお安いのかしらね。」




こんな調子だったら、もし直接撩から何かもらっちゃったりしたら、

どうなっちゃうのかしら。

まぁ…、そんな心配はしなくてもいいんだろうけど、ね。




「ふん、仕事の時つけろって言ったの撩なんだから、

またぐちぐち言ったらハンマーだからね。」



あたしは、どこかくすぐったい気持ちが沸き上がり、

それをかき消すように、

またベーコンを切り始めた。



バッグの中に収まっている小さな仕事用のアクセサリー、

その後、すぐに絵梨子の件で、

ブローチが役立つことになるとは、

この時のあたしは知る由もなかったけどね…。


********************
END




うーん、何だかよくまとまりませんでしたが、
腹が立ったり、沈んだり、喜んだりと、
気分が上下して忙しい香ちゃんでした。
ベーコンとバジルのスパゲッティ、
話しの中で最後まで作らせられんかった…。

【忘れてはならない日】
9.11、1.17、3.11と1が並ぶ日取りで
忘れてはならない数字と重なり、
今日もまた、振り返るべき日が巡ってきました。
生きたくても生き得なかった多くの人々の思いは
あまりにも重たく、
安易に陳腐な言葉では触れることもはばかられますが、
生かされていることに改めて感謝しながら、
多くの命を犠牲にして得られた教訓を
しっかりと次世代に伝えていかねばと思います。

17-01 Statistics

第17部 Compensation Of Bill   全20回

奥多摩湖畔から9日目   


(1)Statistics ******************************************************* 2706文字くらい



外が明るくなり、

ハシブトガラスの野太い鳴き声が耳に届く。

その刺激で、寝返りを打った香。



「ん…。」



その拍子で、ずるりんとモノが抜ける。

(あ、とれた。)

とりあえず一安心する撩。

自分に一度背中を向けた香が、

また身じろいで体を動かし撩と向かい合う。



「ぅ……ぅん。」



香の瞼がふるっと震える。

そっと薄く目を開ける様子を撩は気配で感じ取る。



いつものポジションで、撩の右肩口が枕代わり。

枕役の男はまだ瞼を閉じている。

香は、ふと自分の体の状況把握に意識が向いた。

まるで下腹部に体に風穴が空いている感覚にやや驚く。



(……アソコがすーすーする。)



べたつき感もあるので、

早くシャワーを浴びて洗わなきゃと思いながらも、

撩の体温と心音を拾い、まだ離れたくない気分にもなる。




(……ちゃんと、聞いていたから。)




ファルコンが言い残した、『お互いの幸運を祝して』の意味。

(てっきり、もっと違うものだと思っていたら……、

まさか教授が言っていた『あのセリフ』と同じだったなんて……。)




—  本当に幸運なのは、おまえさん達に会えたあの男共じゃよ…  —





「…ぁたしも、…りょ…と、…会えて」

「幸運か?」

「!!!っ。」



先に言われてしまったことと、またこの男が寝たフリをしていたことに、

混乱と腹立たしさと恥ずかしさが一気に湧き出る。

寝起きで、ややぼぉっとしていた頭も瞬発的に目が覚めた。

口パク状態の香を見つめながら、また柔らかく抱き直す撩。



「……おまぁにとっては、俺と出会わなかったら、

……違う幸運があったかもしれないんだぜ。」



己で言っておきながらスギリとくる。

抱き込みながら、鼻先を柔らかい髪に埋める。

自分と出会わなければ、

この兄妹が引き裂かれることはなかったであろう皮肉な巡り合わせ。



「……ううん。」



香は撩の胸に頬を寄せた。

肌と肌がくっつく感触に、

このまま皮膚を通り抜けて沈んでしまいたくなる。



兄がきっかけを作ってくれた。

この先の人生を共にしてもいいという相手と出会うことができた。

それだけでも幸運であることなのに、

共に暮らし、

共に思いを交わし、

共に体温を重ねることが出来るまでになり、

これを幸運と呼ばずに何と言おうか。



「……撩と、…一緒に、…いられるだけで、…幸運過ぎるよ…。」



撩の鼻から、軽く吐気が出る。

もし、生きる時代が少しでも違っていたら…。

もし、お互いが出会うことのないかけ離れた場所に住んでいたら…。

重なってしまったレールの不可思議さに

おのずと口端が上がる。



「おまぁさぁ…、今の世界人口の数って知ってるか?」

突然の出題に目が開く。

「え?」

「この地球に今何人の人間がいるかってこと。」

「ぅ…、わ、分かんなぃ…。」

高校時代に、世界史で習った気もするが綺麗に忘却。

撩がまた、ゆっくりと香の髪に指を絡める。



「……約52億…だと。」

「…52…。」

「そんなかでぇ〜、ばあさんとか、ガギとか除くとぉ〜、

世界中の美女ともっこりっつぅーてもぉ、

適正年齢は10分の1以下でぇ〜、それでも僕ちゃんが出会えるもっこりちゃんは、

数億人いるワケであってぇ〜。」

おちゃらけ兼おふざけ口調で統計の話を始める撩。

香は、そんな撩をきょとんと見つめている。

撩は左手を香の髪にくしゃりと埋めた。



「その数億分の1、なんだよな…。」



香の瞳孔が一瞬面積を増やした。

「宝くじの高額当選並、かそれ以上、か?」

ニッと唇の端が上がる。

「りょ…。」

「な?超ラッキーだろ?」



日本史、世界史、地球生命史と色々な年表を引っ張りだしても、

恐らく全ての生き物の出会いが同じ条件下といえるかもしれない。

人間でも、たった50年、100年と生まれ出てくる時期や場所が違うだけでも、

絡む歯車が全く違ってくるのだ。



今のこの時代に、この街で、この年齢で、撩と出会うことができた。

香の涙腺がじわりと反応をする。

表面張力で広がるそれを撩は黙って見つめていた。



「りょ…。」



まばたきで、滴がゆっくりと零れ落ちる。

頬を落ちきる前に、撩の唇がそれを受け止めた。

香は目を閉じたまま、自分の頬に滑る温かい感触に浸る。

撩が自分から、今の状況を『幸運』と言い切ったことに、

込み上げる何かを感じる香。

ぼやけた記憶ながらも耳に届いていたあの時の声が蘇る。




— ……最大の、幸運は… —

— ……か、ぉり… —

— ……おまぁに、…出会えた、こと…だよ —



途切れ途切れに聞こえた、撩の告白。

奥多摩で「愛する者」と言われたことが、

偽りでないことを、重ねて証明する文言に、嬉しさで破顔しそうになる。



が、この甘い空気に自分の方が耐えきれなくなってきたので、

照れ隠しに、いつもの2人に戻す会話を選ぶことにした。



「……撩、あんた、……なんで世界人口の数なんてチェックしてんの?」

「あ?」

「今とおーんなじコト、ナンパの時にも言って、口説き文句に使ってんでしょっ。」

「あっ、い、いや、それは、そのぉ〜…。」

視線が泳ぐ撩。

否定をしないところが撩らしく、これはハンマーを待っている流れだと、

香も動きをなんとなく読み取った。



「あはは…、で、で、出会いの確率をだ、な、と、統計学的に、せ、説明するのに、

わ、わっかりやすい、かっなぁーと。」

スコーンと、顎にミニハンマーを投げる。

「ぐはっ!」

これまた美しくヒット。



香は、緩んだ撩の腕から抜け出そうとするも、

下半身の重さで、眉間に皺が寄る。

ベッドサイドに手をかけて、上半身をゆっくりと起す。

それに伴い、はらりと毛布が重力に負けて落ちてしまう。

「ぁっ…。」

小さく声をあげて慌てて端を掴んでたくし上げるも、

自分のナイティーがどこにあるかすぐに見つけきれない。



「ほれ。」

香の背中のキャンバスを見つめながら、

右腕で頭を支え、左腕をぬっと突き出す撩。

その手には、香の3点セットが一式掴まれていた。

「ぁ、ありがと…。」

受け取りながら、頬を染める香。



「どうせ、こんまんまシャワーだろ?そんまんま行ったらぁ?」

再度1トンハンマー出現。

「がっ!」

「あ、あんたと一緒にしないでっ!」

湯気を出しながら、毛布の中でごぞごそと衣類を身に着ける香。

出られる格好になって、ふとベッドサイドの時計を見る。

「ああーっ!今日可燃ゴミの日だったっ!急がなきゃっ!」

隣でひっくり返っている撩をしっかり無視して、

家事モードへきっちりスイッチが入る。

ティッシュがたっぷり入ったゴミ箱を抱えて、

香は慌てて部屋を飛び出て行った。



「か、かおりひゃん、…せっかくのピロートークに

ツゥーヒットはないんでねぇの…。」



バタバタと階段を下りる足音を聞きながら、

どこか嬉しそうにぼやく撩。

今日も冴羽アパートでは、

朝から2発のハンマーでスタートした。


*****************************
(2)へつづく。





2013年現在、世界人口は70億以上という統計が出ていますが、
1991年当時は、約52億という数字があげられています。
22年で約18億増加。
類似サイズの哺乳類の個体数としては異質な数。
環境問題を語るとき、無視出来ないデータに、
どう向き合うか、なかなか複雑な気分です。
いずれにしましても、
こう考えると全てが奇跡的なご縁です。
画面の向こうのみなさんに
こうしてこの画面を見て頂けるのも、
数字では計れない幸運だと思っています。

というワケで、9日目がスタート。
また全20回という超メタボな中身ですが、
今回は後半でお店が複数軒出てきますので、
回数が増えてしまいました〜。
どんな一日になることやら…。

【追記:50000hit感謝!】
油断していました。5ケタ目がかわっとる…。
お詫びの記事でも触れましたが、
二次業界のルールやマナーを知らないまま
始めてしまったサイト故に、
複数の方にご迷惑をおかけしてしまい、
いわばしこりがついた状態の更新に、
この数字を頂いてもいいのだろうかと、
カウンターを見返しております。
毎回同じような表現で国語力の乏しさに歯がゆいところですが、
改めて、ここに来て下さる全ての皆様に深く深く感謝申し上げます。
先日、拍手企画でおまけモノを出させて頂いたばかりですが、
こちらも恒例記念として、SSを1本アップしたいと思います。
明日3/11の1818で更新させて頂きます。
雑な仕上がりで申し訳ないのですが、
節目企画の付録ということで、
お手すきの折りにご覧頂ければ幸いです。
2013.03.10.23:59

”してぃはんた”でバトンに答えてみました

拍手8000パチパチ企画です。

2013年3月8日の夜に総拍手数が上記の数字となりました。
こんな誤字脱字オンパレードの駄文サイトに
毎日拍手を落として下さり本当にありがとうございます。
もうどんな言葉で日頃のお礼をお伝えしたらいいのやらと、
続けるべき文も出てこない状態です。

お問い合わせを多数頂きましたが、
今のところ閉鎖を選択することはないと思っております。
ただ、このままの形で継続をするかどうかは現在思案中であります。
年度内はバタバタしております故、
こちらに傾ける時間がなかなか取れず、
お返事等も遅れたままで本当に申し訳ないです。

17部、18部までは通常通りの予定ですが、
また方針が見えてきましたらご連絡できればと思います。

改めてご迷惑をおかけした皆様にお詫び申し上げます。



で、本題の拍手企画です。
区切りがいい時に本編以外のオマケものをと始めてみましたが、
シテハンがらみのアンケートものがこんなにあるとは思いませんでした。


今回は、唐草童子さまプロデュース、FC2ブログサービス内登録バトン

”してぃはんた”でバトン


全10問です。


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16-04 Mean Of Fortune

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

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試運転中…

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