妄想バトン☆冴羽リョウ☆編に答えてみました

大感謝です。拍手累計1万パチパチを頂きました。
本当に本当にありがとうございます。

拍手企画で続けてきました
バトン、アンケートモノですが、今回で第8弾目。
そろそろ手持ち情報がなくなってきました。


どなたか他に作ってやってもいいぞー、という方がいらっしゃいましたら、
是非、面白く楽しいバトン&アンケートモノを発信して頂ければと思います。
設問の規模問わず、その際にはご一報頂けると嬉しいです。


それでは、お時間にゆとりのある方、
ご興味のある方、見てやってもいいぞという方、
お進み下さいませ〜。


今回は「乱馬ダ☆PARADAISU」で紹介されていました、


妄想バトン☆冴羽リョウ☆編


全10問です。



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19-02 0.5 Of A Second (side Ryo)

第19部 Shopping

奥多摩湖畔から10日目


(2)0.5 Of A Second (side Ryo)   *************************************1640文字くらい



魅惑的な香の太腿のチラリズムを

ハンマーの隙間から覗き見して

その動きを楽しんでいた俺。

そのまま、部屋を出て行く香を見送った。



もらった本日2発目のハンマーをころんと床に転がして、

枕の下に両腕を通し、軽く目を閉じる。



「……人間の寿命も、0.5秒、だもんな。」



さっき話した地球カレンダー。

1秒は、約146年という計算だ。

俺ら人間の平均寿命は、そのおおよそ半分。

まばたきしている間に過ぎちまう。

まぁ、俺も香もいまんところ3分の1は使っているワケだ。

残り、3分の2。

0. 3秒を共に過ごすっつーのも、

悪かぁないだろ。



とりあえず、夕べの香の落ち込んだ空気は一掃できた。

まだ、これから色々出てくる可能性は大きいが、

本当は、何度でも言ってやりたい。



お前じゃないとだめなんだと。


お前が必要不可欠なんだと。



不安にさせ、失うくらいなら安い仕事だ、と思いたいが、

そう軽々しく口をついて出て来てくれそうにねぇし。

一度言うだけで精一杯って、情けなくねぇか?



ったく、エロイカの連中には、

今日にでも文句を言ってやらねぇーと、

また何をくっちゃべられるか分かったもんじゃねぇ。



確かに、新宿(ここ)に来てからは、

見回りと香の護衛を兼ねた、遊びのナンパはさておき、

抱くオンナは、極一部の依頼人を除き、

後腐れのない大人の関係を理解しているプロだけを選んでいた。

そのヘンの自己ルールを言わずもがな、

付き合いの長い連中は周知している。



だからと言って、このタイミングはマズ過ぎるだろっ。

色事に超縁遠かった、純真無垢とも言える香にだな、

刺激の強さをちゃんと考慮しろっつーんだよっ。

まだ、たった10日しか経ってねぇーし、

俺も香も色々ゆとりがないっちゅーねんっ!



自分で、眉間にシワが寄るのが分かる。

徐々にではなく、唐突の変化。



香でなくても、混乱するような180度の転換。

そんな中で、

自分以外のオンナを複数知っていることを承知で、

俺と一緒になることを決心するなんぞ、

生半可な心理では出来ないことだろう。

ましてや、男慣れしている訳ではない処女だったあいつが、

どんな思いで、俺を受け入れたのか、

わずかに心理を重ねるだけでも、肺が圧迫される気分になる。



目を閉じたままふーと息を吐き出す。



もう、お前以外とは、考えられない…。



これまで重ねたこのベッドの上での時間が

スライド上映のように瞼の裏に流れる。

とたんに、掛け布団の一部がテントになった。



「あー、今はおとなしくしてろっつーの…。」



と、口で言いながらも、

すでに五感は、

香の嬌声を拾い、

指先にあの肌の質感が蘇り、

口の中で味わった甘い唾液に、

愛液の香り、

目に焼き付けられた身を捩る白い裸体にと、

勝手に脳へ刺激を送る。



想像することすら、罪悪感を覚えていた

この関係が、

長い時間を経て、ようやく同意のもとで現実となり、

今まで知り得なかった香の更なる魅力に、

完全にKO状態。





「ああ!もぉーっ!」



俺は、がばっと起き上がって頭をぶんぶんと振る。



「そーとー、きてるな。これは…。」



手が淋しいってか?

あぐらをかいている自分の膝に置かれた指をちらと見る。

口も淋しいってか?

自分の唇をぺろっと舐める。

あんだけちゅうちゅうしても、まだ足りないってか?

掛け布団の下で、

同意をするように、『息子』も天を向いたままぴくりと頷く。



「あー、お前さんの出番はまだ後だ。」



この離れている時間と距離がもどかしい。

香が先に出てからもう30分くらい経ってるか。

俺も、さっさと着替えて降りるとすっか。



階下の気配を読む。

キッチンでの調理器具の重なる音と、

香の足音が耳に届く。

早々にシャワーを軽く済ませた様子もチェック済み。



「んーっ」



右腕を天井に伸ばし、

左手を右肘にひっかけ力一杯伸びをする。

肩の関節がクチッと鳴る。



香が枕元に置いたインナーを

ごそごそと身につけた。



「俺もシャワー浴びとくか…。」



俺は、外着もチェストから引っ張り出し、

がに股猫背で、まずは浴室に向かうことにした。



**********************************
(3)につづく。





0.5秒。
「地球大進化」では冒頭山崎努氏が「俺の人生たった半秒か…」と
絶句しているシーンがあります。
人生折り返し地点のわたくしも、残り時間どう使うか、
5年先、10年先を見据えて…なんて器用な事はできませんので、
とにかく今を精一杯歩んでいこうと思います。

【御礼】
どちら様か存じ上げておりませんが、
昨日から第1話より読み進めて頂き本当にありがとうございます。
おかげさまで本サイト初の1日あたりの拍手が3ケタ越えの
110パチを頂戴いたしました。
貴重な連休のお時間を当サイトに使って頂き恐縮でございます。
心より御礼申し上げます。
[2013.04.29.13:00]

【1万拍手御礼付録記事】
珍しく連日更新となっております。
28日に引き続き本サイト新記録更新ということで、
29日の拍手が167と過去最高となり、
同時に累計も1万を越えてしまうという、
重なる有り難い数字に、身に余る反響痛み入ります。
お知らせの記事を作ろうかと思いましたが、
こちらでの告知で失礼致します。
本日4/30の1818で拍手御礼付録記事を出させて頂きます。
バトンモノ一区切りかなと。
とにもかくにも、
御礼を表す言葉がいくらあっても足りない気分です。
心理的にまだ不安定さを抱えていますが、
これを支えの一つとして一つ一つ進んで行きたいと思います。
皆様本当にありがとうございました。
[2013.04.30.08:50]

100パチ越え御礼記事

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19-01 Earth Calendar (side Kaori)

第19部 Shopping (全13回)

奥多摩湖畔から10日目


(1) Earth Calendar (side Kaori) ***********************************2697文字くらい



朝の気配を感じる。

目を閉じたまま、意識がはっきりする。



ゴミ捨てどうしよう…。

うーん、今日はいっか。

そんなに溜まってなかったし。



ん?あ、あれ?

……腿に何か挟まって、る。



目を開けると、今あたしは、

撩に後ろから抱き込まれて横になっている。

違和感を覚えるそこに意識を向けると、

あの長いゴム風船にお湯をいっぱい入れて膨らませた様な、

生温かいその物体が内股の最上部から飛び出ている。

正体に気付いて全身フリーズ、体温が一気に上がる。



どどど、どうしたらいいのよぉ!

自分の脚も絡められて動かせないじゃない!



「りょ、撩っ!」

「……んー?」

「……は、は、は、はさ、…は、はさまって、る。」

「んあ?」

「挟まってるんだってばっ。」



「ああぁ?んー、なんだったらまた入れてやろうか?」

より密着してくる撩。

振り返り様に、ミニハンマーを落とすあたし。

「へぐっ!」

そのはずみで抜けてくれた。

「ま、ま、まったくもーっ!」

こんな恥ずかしいこと、朝からなんだっていうのよぉー。

あー、のど乾いた。

た、確か…。



「……撩、あ、あのね…。」

「んー?」

顔に埋まったハンマーをどかしながら、めんどくさそうに答える撩。

「そっちのベッドの下にあたしのグラスがあると思うの。

とってくれる?」

「あー、これか?」

撩が腕を伸ばしている間に、

あたしは上半身をよいしょと起す。

どうしても動きが鈍くなる。

裸なのを思い出して、慌てて掛け布団を握って胸元まで引っ張り上げる。



「ほれ。こんだけしかねぇーぞ。」

「あ、うん、いいの。」

底から1センチだけ残っている液体。

2万年前の氷が溶けた跡。





左手でグラスを受け取って、

くちびるをぬらす。



「……氷、なくなっちゃった。」

あたしは、ベッドボードに向き直り、

カラになったグラスを、静かに撩のグラスのとなりに置いた。



「……2万年前っつったてなぁー、

地球の歴史上では、ほぉーんの一瞬なんだけどな…。」

「え?」

くいっと腕を掴まれて、また撩の腕の中に戻される。

「あっ…。」

お互い何も着ていなくて、

外が明るいから、ものすごく恥ずかしい。



「おまぁ、地球カレンダーって聞いたことがあるか?」

「なにそれ。」



撩はあたしを再度抱き込み、髪の毛に指を絡めながら話し始める。

「地球46億年の歴史を1年365日に置き換えて、

何月何日に何があったかイメージするカレンダーだと。」

「へぇー。」

「地球誕生を元日の0時00分スタートで、

今現在を12月31日の深夜0時寸前で計算すっとな、」

「うん。」

「2万年っつったって、元日に変わる1分半くらい前のもんだぜ。」

「……え?……えええーっっ!!」

目を見開いて、思わず撩の顔を見上げる。

「だっ、だって、2万年って、日本も今の形じゃなかったんでしょ?」

「まぁな、最後の氷河期のピークらしいから、陸地が今より広かったらしいしぃ〜。」

あのバーテンとの話しが重なる。

「んじゃあ、おまぁ、恐竜が絶滅したのは、どれくらい前か知ってるか?」

「え?恐竜?」

「そ、あいつらは、隕石が落っこちまって、一気に絶滅した説が有力らしいが、

それが一体何年前か。」

「えー、テレビで何回かそんなシーン見たことあったけど、

わかんないよぉ。」

「地球カレンダーだとな、クリスマスの翌日。」

「は?」

自分でもきょとんとする顔になったのが分かった。



「12月26日、6500万年前だと。」

「え、え?ちょ、ちょっと待って、26日って……、たった5日、前なの?」

「そ。」

「う、うそっ、もっと昔のことだと、思ってた…。」

「この地球で、生きものらしい奴らが賑わい始めたのが11月18日、

5億5000万年前のカンブリア紀からだ。」

「あ、もうダメ。数字についていけない。」



「つまりだな、千年前、一万年前とか言っても、

地球の歴史の中では、まばたきみたいに短けぇーっつぅこと。」



撩が深いところで何を感じ、何をあたしに伝えようとしているのか、

なんとなく流れこんできた。

けれど、それは決して軽いものではなくずしりと重さのあるもの。

その重さから逃れるように、

あたしは話題を逸らすことにした。



「撩、……あんたさ、昨日から、ウンチクばぁーっかり垂れ流しているけどさ、

今まで、あたしにそんな話し、全然したことなかったじゃない。」

「へ?」

「どっかのスナックかバーでもっこりちゃんの気を引くための豆知識を

ココでわざわざ披露しなくてもいいんじゃないの?」

「は?」



夕べ、奥底にあったどろどろした嫉妬心を

撩のおかげで溶かしてもらったけど、

撩が博学なことを自分に話す度に、

きっと他のオンナにも同じように、感心させて口説いている様子が目に浮かび、

相づちを打つ見知らぬその相手にまで、

ちょっとした心のざわめきがあたしの中で勝手にうずく。

それをつい路線変えの動力にしてしまったのは、無意識だったのかも。



くすくす笑う撩。



「おまぁ、こぉんな話しの内容にまで嫉妬すんのな。」

「し、嫉妬なんかしてないわよっ!」

「かぁーいーなぁー。」

そのまま、また抱き込まれた。



「そ、おまぁの気を引くための無駄な豆知識さ。

いろんな生き物がこの地球で生まれたり死んだり、進化したりしてんだが、

そいつらが途切れずに、今いるっつーことは、

みんなせっせともっこりに励んでんだぜ。」

た、確かにその通りなんだけど、

あんたがそんなこと言うと、

壮大な地球の歴史が全部もっこりモードでみえちゃうじゃないっ。

そ、それに、あ、あたしの気を、ひ、引くため???

なんなのよー、それって!



「どぅ?おれらも見習って朝のい」

もちろんハンマー出現。

今度は10トンでお見舞いして、

朝の講義を強制終了させちゃう。

「遠慮させて頂きます。」

あたしは、そう言うと撩の腕から脱出を図る。



「も、起きなきゃっ。」



あ、あたしの着替えは?

まわりを見回すと、近くに着るべきものがない。

あーん、パンツもボトムも遠いしぃ〜。

手の届くところにあるのは、パジャマの上だけ。

そんなに裾が長くないから、

股下10センチほどしか隠れない。

しかたなしに、それだけ羽織って、ベッドからゆっくりと降りる。

散らばっている服を見るだけで恥ずかしい。

急いで掻き集める。

撩の衣類もつまんで、ベッドの上に。

チェストの上のタオルと2つのグラスも回収。

ほんのりと薫る色々な匂いがまた心を乱れさせる。



と、スリッパはと。

いやーん、床がもう冷たい。

「あ、あたし、とりあえず下に行くからっ。

ご、ごはんまでには降りて来てよっ。」

まだ顔にハンマーの乗せたままの相方にそう言い残して、

撩の部屋をあとにした。



*****************************
(2)につづく。




「地球カレンダー」、
高校時代の生物か地理の時間にこんな話しをうっすらと聞いていた記憶が。
さらにそれを科学番組に仕立てたのはNHKさん。
山崎努氏がナビゲートする「地球大進化」(2004)。
よくもまあ、生命が生き残ってきたもんだと思います。
ちなみに、恐竜絶滅は1990年代は、
まだ6500万年前という表記が主流でしたが、
最近のデータでは6550万年前と少しだけ具体的になっています。


【100パチ越え記事御礼】
17-20の記事にて、本編中初の100パチオーバーを頂戴しました。
本当にありがとうございます。
今後もそのつど対応できるか分かりませんが、
カテゴリー内に新しく「100パチ越え記事御礼」の
コーナーを作りました。
明日の1818で付録記事を更新したいと思います。
内容がプライベートなものですので、
一応パスをかけております。
あーるじゅうはち系ではございませんので、ご注意下さい。
全ての都道府県にお住まいの方へというイメージでございます。
(海外の方ごめんなさい)
あまり期待はされないでくださいね〜。
面白いものではないかもしれませんので。

SS-05 Shadow (side Kaori)

60000HIT企画

原作穴埋めバージョン
1989年9月頃
第231話(完全版23巻) 「愛と悲しみの誘拐犯」の巻
香が伍島あずさを尾行するお話し。


【SS-05】 Shadow ( side Kaori ) *********************************** 3551文字くらい



「……たぶん、自作自演、だな。」

「え?」



伍島社長の邸宅を出てから、あたし達はアパートに戻り、

リビングのソファーに腰を下ろした。

すると撩が先に口を開いた。

なんのことかとすぐには理解できなかったあたしは、

ぽんとガラステーブルの上に投げられた

茶封筒の宛名に目を丸くした。



「な、なにこれ?」

「社長の部屋でみっけちゃった。」



訝しがりながら、そっと封を手にして中身を見てみる。

「!?…っこれって!脅迫状じゃない!」

「そ。」

「ぞ、象牙の密輸?」

「そ、ハナから怪しいとは思っていたんだが、

その内容から見て、ほぼ間違いない。あずさくんが差出人だ。」

「え!」

「しかも、密輸は明日の夜だ。」

「あっ、ホントだ。」

「彼女は間違いなく明日中に行動を起こすはずだ。」

「密輸をやめさせるために?」

「んもぉ〜、あずさちゃんたらぁ、動物のことで頭いーっぱいなんだもんなぁ〜。」

撩は頭の後ろに手を組んで、んーっとのけぞった。

あたしは、封筒と手紙をテーブルの上にそっと戻す。

一瞬、これにあたし達の指紋がついたままでいいのかしら?

と心配になるも、撩が何もそのあたりに言及しないので、

気に留めないことにした。



「香、おまぁ、明日は見張り役な。」

「え?」

「とりあえずぅ〜、朝からお邪魔しちゃってぇ〜、

あずさくんに一日、ぴぃ〜ったりくっついておかんとなぁ〜、ぐふふっ。」

あたしはひょいっと1トンハンマーを投げる。

「でっ!な、なにすんでいっ!」

顎をさすりながら、撩は抗議するも、

あたしは何を言っても明日の未来が変わりそうにない気がして、

言葉少なめで返すことに。

「その、ぐふふってなによ。ぐふふって。」

「いや、仕事に打ち込まねばという

意気込みと気合いに決まっているではないかっ。」

胸を張ってポンと拳で自分の胸板を叩く撩に、

はぁ、と溜め息を出すあたし。



「で、あたしは尾行?」

「そ、車でな。」

「わ、わかった。」

撩は封筒の中に手紙を戻すと、ジャケットの内ポケットに仕舞い込んだ。

そしておもむろに立ち上がる。

「俺、ちょっと出かけてくるわ。メシまでには戻る。」

「そ、そう。」

たぶん、これから裏情報の収集やら密輸に関する小細工やらを整えに、

行くであろうということがなんとなく分かったけど、

あえて言葉には出さないでおいた。



「ちょ、ちょっと!へんなところ行って、

余計なツケとか作ってくんじゃないわよっ!」

「へいへーい。」

撩は片手をひらひらさせながらリビングを出て行った。

気をつけて行って来てね、と言えない変わりの言い回しに、

ふぅと溜め息をつく。



「あずささん…。」



確かに、初めてあずささんと出会った時から、

彼女はターゲットにされている人が持つ特有の

恐怖心によるゆとりのなさというものが

全く見受けられなかった。

それを早くから感じ取り、今日あの短い時間で社長の部屋を特定し、

素早くこんなものを見つけてくるなんて…。

まぁ、人が見られたくない物を隠す場所を絞るなんて、

撩にはお手のもんだろうけどね。



「明日、か…。」



その後、遅く帰宅した撩に軽くハンマーを喰らわし、

食事と入浴をすませ、あたしたちはさっさと休むことにした。



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。



翌朝、早めの朝食を済ませ、

あたしと撩は別々の車であずささんの住むRマンションに向かう。

とりあえず2台とも車内電話が搭載してあるから、

離れても連絡はとれる。

先に、撩が彼女の部屋に向かって、

あたしはマンションからやや離れたところで、車内待機。



「撩のヤツ、まぁーた彼女に

やあらしぃことをしてんじゃないでしょーねぇ??」

心配と不安が沸きつつあったところで、

思ったよりも早く2人が外に出て来て、ちょっと驚く。

車内に常備してある双眼鏡で様子を伺う。



「え?歩いて行くの?」



てっきりクーパーに乗って2人でどっかに行くかと思っていたら、

最初っから予想を裏切られる。

向かう先は、あずささんのマンションから徒歩15分ほどのところにある

最寄り駅裏の歓楽街。



あたしは、気付かれないよう慎重に徐行しながら

2人のあとをつけた。

「っま、まさか、りょぉ〜、ほんっとにホテルに入る気じゃないでしょ〜ねぇ〜。」

握るハンドルに思わず力が入る。

会話が聞こえないので、やりとりはさっぱり分からない。

しかも、あずささんが嫌がっている感じじゃないし〜。

あ!彼女がホテルを指差した!

あそこに入るっていうの???

かろうじて見える看板の名前に、一瞬ひるんだ。



「ホテルアニマルハウスぅ???」



えーっ!も、もしかして、あたしも中にはいんなきゃだめなの?

2人であんなとこ入ったら、撩が大人しくしているワケないじゃない!

ど、どうしよう…。

ううん、出てくるのを待つほうがいい?

だ、だめっ!あずささんが危険だわ!

と、とにかく出入り口が他にないか確認して追わなきゃ!

なんてことを考えながら、駐車する場所を目で探していると…。



あ、撩があずささんから離れたわ。

まったく一人にさせないようにって自分で言ってなかったっけ?

あああっ!あずささん!どこ行くの!



ホテルの入り口で職員となにやら話している撩から、

足早にあずささんが離れる。

「も、もうっ!」

あたしは、あずささんが死角にならないように、

車を少し移動させた。

そもそもこんな場所、心理的に良くないわっ!

角を曲がったところで、

あずささんが路駐している車に素早く乗り込んだ。

「え?」

全てスモークガラス。

中が見えない。

少しだけ運転席の窓が下がり、そこからあずささんの悲鳴が響く。

「キャアアアア」

大きくエンジン音が轟(とどろ)いた。

「冴羽さーーん!!」

グォォォン!

「これか!」

あたしは、すぐにアクセルを踏み、間を少し開けて後を追った。




たぶん、これは撩の計算の範疇。

追跡の失敗は許されないわ。

ばれないように、適当な距離を保って見失わないようにしなきゃ。

たぶん、撩はこの間に、大急ぎであずささんのマンションに戻って、

駐車場に停めてあるクーパーに乗り、

発信器でまずはあたしの居場所を確認するはずだわ。

進行方向が分かれば、きっとすぐに追ってくるはず。



あずささんは、あの車をあらかじめあそこに置いていたのかしら?

マンションの駐車場じゃないところに停めておくなんて、

やっぱり撩をこっちに誘ったには計画的だったってこと?

ん?それでも、撩が来ることなんて絶対的なものじゃなかったし…。

そもそも、あの車はあずささんのもの?

ううん、誘拐劇を仕組むなら、本人の車の可能性は低いわ。

でもレンタルだとそこから足がついちゃうし、誰かから借りたのかしら?

朝はそんな動きしようがなかっただろうから、

昨日の夜のうちに仕組んだってこと?



そんなことを考えながらも、あたしは、

前方に神経を集中させ尾行を続ける。

「……埠頭に、向かってる?」

車窓から東京湾がちらほら見える。

あずささんの車はスピードをあげ、港の倉庫街に入って行った。

これ以上近い距離だとバレてしまうわ。

あたしは、ぎりぎり視界に入る距離を保ちながら

車が止まる場所を見定める。



すると一つの倉庫の前で、あずささんの乗った車が止まった。

あたしも離れた場所の影に停車する。

双眼鏡で確認するも、乗っている人はたぶん彼女一人。

「……さらわれたフリ、か。」

切羽詰まっている彼女を思うと切なくなってきた。

あずささんが倉庫の大きな扉を細く開け、中に入ったのを認めると、

あたしはすぐに車内電話で撩のクーパーに連絡を入れた。



「撩、今横浜の埠頭にいるの。」

『あいよ。もう向かってる。』

「場所は、一番南の倉庫街よ。」

『りょーかい。もうすぐ着くから、大人しく待ってな。』

「なによ!大人しくって!」

『余計なことすんなってこと。

そこからあずさくんが移動するかもしれないから、しっかり見張っとけよ。』

「あ、うん、わかった。」

『んじゃ、あとでな。』

ぷつっと切れた受話器に目をやるも、

なんだか心は複雑な気分。



こうして、久しぶりに仕事らしい仕事の動きをしているのに、

これが依頼人の娘による自作自演の誘拐脅迫事件で、

しかも動物学者である彼女の出来うる範囲の抵抗であり、

さらに、密輸は今夜。

「撩は…、どうやって決着をつけるのかしら?」

たぶん、夕べのうちに撩が色々と手回しをしていたのは

なんとなく分かるけど…。



とりあえず、あたしは車の外に出て撩の到着を待つことにした。

言葉通り、撩はあたしの予想よりも早い時間で現場入り。

聞き慣れたエンジンとブレーキの音に振り返る。



「お早いお着きね 撩!!」

「あそこか」

「ええ あの倉庫の前」

「まちがいない あずさ君をさらった車だ」

車を一瞥する撩。

「ほんじゃ 行きますか」




あたしたちは、建物に近付き

倉庫の扉をわざと大げさに開放した。

撩、どうするかお手並み拝見だわ。




あとは、みなさんご存知の通り。


**********************************
END





シンデレラデートの時も顕著でしたが、
香がきょとんとしたり、怒ったり、くすくす笑ったり、むかぁっとしたりと、
短時間でころころ表情や感情が変わる様が
なんとも愛らしくて、
本編でもそんな場面をちまちまと作っております。
きっと、このあずさの尾行の時も、
緊張したり、怒ったり、戸惑ったり、焦ったりと、
複数の思いが出たり入ったりのカオリンだったのではと。
そんなワケで、
原作ではきっちりカットされた尾行シーンを
勝手に思い描いてみました。
しかし、あの誘拐劇に使った車、
本当にどういう計画であそこから発進できるようにしていたのか、
かなり謎でございます。
カオリンに代弁させてみました。
友人知人に鳥類学者とか森林学者がいたりするもんで、
この伍島あずさ編は生き物屋的にも好きな作品故、
またどっかで使っちゃうかもしれません。
もちろん密輸現場が横浜というのも何の根拠もございません〜。
香の車にも電話付き設定も原作では見受けられなかったネタですが、
携帯も使っていなかった2人が合流するのに、
発信器だけでもなんとかなったかもしれませんが、
とりあえず少し便利にしといてあげました。
というワケで6万ヒット御礼企画でした〜。

18-04 Imseparable (side Ryo)

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リンク記事追記のお知らせ

立て続けで、嬉しい限りです。
リンク記事の追記をお知らせ致します。

下記のサイト様を「は行」にて紹介させて頂きました。
アドレスは貼付けておりませんので
LINK NOTE 2 からお入り下さい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

❏ 095 華 さん    
    Shooting Star
    2013.03.26.〜 / テキスト
    [リョウの記念日にサイトスタート。ビミョーな距離感の設定に甘美な焦燥感が…♡]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

❏ 107 吹雪 さん    
    Another
    2013.04.06.〜 / テキスト
    [これからまた楽しみが増えました。次世代へのバトンを感じる新規サイト様です。]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これから、どのようなお話しが積み重なっていくか
とても楽しみです。



新しくサイトを立ち上げた方や、
イラストやテキストを作っていないけど、
CH100質問、CH50質問などには答えましたという方が
いらっしゃいましたら、
ご遠慮なくお声をおかけ下さいませ。
こちらでよろしければ、
是非ご紹介をさせて頂ければと思います。
もちろん評論、分析、感想などの記事が
少しでもある方もオッケーですよ〜。
【補足】
CHファンサイトとまでは言えなくても、
各種バトン、アンケートにお答え頂いた記事を持っていらっしゃる方は、
それぞれの項目の記事の末尾にご紹介させて頂くというイメージを
考えておりますが、またご連絡を頂いた時に相談させて下さいませ〜。
[2013.05.06]

以上、追記記事連絡でした〜。

18-03 Sitting Position (side Kaori)

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リンク記事追記のお知らせ

リンク記事追記のお知らせです。


mさまより、下記のサイト様をご紹介頂きました。
お知らせに感謝申し上げます。
ここでは、アドレスを繋げておりませんので、
LINK NOTE 1 よりアクセスして頂ければと存じます。

-----------------------------------------------------------------------

❏ 045 紅樹 さん(くれないじゅ)    
    LITTLE PARTY
    2000.02.05.〜 / テキスト (その他カテゴリー内にてCHの更新は停止中)
    [ビミョーな関係の頃の2人のやりとりに、心地よいヤキモキさを感じます。]

-----------------------------------------------------------------------


また、今後 LINK NOTE に掲載されていない
サイト様がございましたら、
ご一報頂ければ助かります。

(華さまのお部屋は、
 現在不具合のため追記を保留とさせて頂いております。
 早く不調が治りますように〜→追記いたしました!)

18-02 Female Ejaculation (side Kaori)

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18-01 Stand By My Side (side Koari)

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お知らせ

CITY HUNTER LINK NOTE について、
お知らせをいくつかまとめて発信致します。


(1)CHサイト検索エンジンの
   サイトマスター様のお名前が佐藤健太様に変更になりましたので、
   合わせてリンクの五十音順を改訂致しました。


(2)ひろぱん様の「銃声倉庫」の一文紹介を全文変更致しました。
   こちらの完全な勘違いのご紹介の仕方をしておりました。
   大変失礼致しました。


(3)和紗様の「Tale of ・・・」を追記させて頂きました。
   五十音順で揃えております。
   和紗様、改めてご連絡に感謝申し上げます。



以上3点でございます。
気がついたら、アクセスランキングで
LINK NOTE が上位10位以内に登っておりました。
ご利用頂き、改めて感謝です。
また変更追記等が出てきましたら
お知らせ出来ればと思います。

17-20 Taste Of Antarctic

第17部 Compensation Of The Bill

奥多摩湖畔から9日目


(20)Taste Of Antarctic **********************************5817文字くらい



口の中の氷がじわじわと溶け、

液体になったものが居場所を求める。

あめ玉を舐めるように転がして、

香はこくりと2万年前の液体を喉に静かに流した。

その動きが撩の指にも伝わってくる。



香は、さっきの突然の口付けも、

今、自分に触れている撩の手や足も、

どうしても、

撩が自分以外のオンナに触れているシーンに置き換わってしまい、

本当は、こうして包まれていることが嬉しいのに、

温かい撩の体温を感じていることに、

どうしようもなく溺れてしまいそうになるのに、

顔も知らない撩を通過してきたオンナのイメージが離れず、

触れられれば触れられるほど、置き換えられた像に苦しさが増していく。



眉を寄せて目を閉じ、

この自分の心の整理のできなさに、

じわっと涙腺が緩む香。



「俺の話しをちゃんと聞け…。」



撩の指は柔らかく香の口を塞いだまま、

小指は顎の骨にひっかけ、親指が頬骨に触れる。

すっと息を軽く吸い込むと、

香の頭の上からゆっくりと話し始めた。



「ずっと一緒だと、言っただろ…。」



撩の腕にくっと力がこもる。



「もし、おまぁが突然いなくなっても、必ず探し出して連れ戻す。」



香の体がぴくんと反応する。





かなりの間が開き、やっと撩が話を続ける。

「………今日、おまぁが回った店で何を聞いたか、

ボクちゃん、だいたい見当がついてんだな。」

「!!」

振り向こうとした香をそのまま抑える。



「……まぁ、あいつらも、悪気があったワケじゃあない。」

香の右腕を掴んでいた左指でやんわりと上腕をさする。

「おまぁのために色々教えてやろうとしたんだろ…。」

香は少し考えてから、目を閉じてこくりと小さく頷く。



「それで、おまぁがショックを受けていることも分かっている。」

香の肩がくっと上がり、

そうじゃないと、首を横にふるふると振った。

否定する香の姿にツキンと撩の胸に何かが走る。



「……強がるな。」



とたんに、ぽろろっと香の閉じた瞼の端から涙が溢れる。

それが、撩の指を伝って顎からつと落ちた。



(……撩に、隠せるワケないか…。)



本当は、こんな弱くて情けない嫉妬に苦しむ姿なんか見られたくないし、

知られたくない。

しかし、この男が何もかもお見通しであることは、

この二言、三言のやりとりで香も分かってしまった。

ふっと体の力が抜ける。

口の中に入れられた氷も少しずつ小さくなっていく。





暫くの沈黙のあと、

香は、目を細く開け、やや冷えた右手の指先を、

自分を抱き込んでいる撩の左腕の表皮にすっと這わせた。

もうここは、自覚している原因を素直に伝えようと、

迷いに迷って心に決める。

ひらがなで、一文字一文字時間をかけて言葉を描く香。



『ちがうの しっと なの』



口を押さえられていてよかったかもしれない。

言葉で音に出して言いたくない文言。

撩はこれを読めただろうかと気にするも、

それが全く心配無用であることをこれから知らされることになる。



一拍置いて、

香は自分の髪の毛にふっと鼻で息をかけられた気がした。

撩は、今自分の表情を見られない位置関係でよかったと、

この体勢を選んだことが正解だったと確信する。

それ程に、この香が自分の腕に書いた文字が嬉しくて、

まさに破顔という表現が相応しいくらいに

得意なポーカーフェイスは完全に崩れていた。

右手に力を入れる訳にはいかないので、

左腕をぐっと絞めて香をより引き寄せる。



「……俺は、香ちゃんから嫉妬されて、めちゃくちゃ嬉しいぜ。」

「!?」

香は閉じていた目をぱちっと開いた。



「そぉーだなぁー、香ちゃんをどうやったら安心させられっかなぁ〜。」

茶色いふわふわの髪に顔を埋めたまま、

ご機嫌な口調でそう言う撩。

香は展開が読めない。



「昨日も言ったがな、…まぁ、確かにこれからも、

エロ本見てぐふぐふ言ったり、

街中でもっこりちゃん見かけたらナンパもすっかもしれねぇーけど、

こいつは社交辞令みたいなもんで、

長年のクセちゅーたらクセだろうから、すぐには治んねぇーだろうしぃ、

依頼人にも、もっこり1発っつーて迫るかもしれんが…。」

撩は一呼吸置いて声のボリュームを小音にした。



「本気でもっこりするのは、今後おまぁ限定だから安心しろ。

おんなじこと何度も言わすな。」



頭の上から聞こえてきた撩の言葉に、

ぼしゅっと湯気が上がる。

「あー、あとな冴子との貸し借りも、ありゃお互い本気じゃねぇーから。」

「!?」

赤くなった香が振り向こうとするが、やんわりと押さえる。

「あいつも、槇村の嫁のようなもんだろ?

手ぇ出せるかってぇーの!

これまでも、なぁんにもねぇーから、気になるんだったらあいつに聞いてみな。」

香は、真っ赤になったまま首をぷるるっと横に振った。

撩はそんな香をくすくすと笑いながら、続けた。



「だ・か・ら、俺がもっこりモードになったら、遠慮なくハンマー降ろせばいい。

おまぁのハンマーだったら、いくらでも受けてやるっつっただろ?。」

香は、エロイカの会話の一部を思い出す。

この男は好き好んでハンマーを食らっていると。

オカマたちのあの時の会話と表情が脳裏に浮かび、

くすっと香も笑いが出る。



段々と香の持つ空気から、

シールドが剥がれて来たのを感じた撩は、

言うか、言うまいか最後まで決めかねていたことを伝えることにした。

すーっと香の持つ甘い匂いを深呼吸で吸い上げる。

愛しい女を抱き込んだまま、口を薄く開いた。



「……あとな、こいつは、もう1回しか言わねぇから、ちゃんと聞いとけ。」



体温が上がって来た香をくいっと抱き直す。

くせ毛に髪を埋め、

香の口を手でふさいだまま、目を閉じた。

小声でゆっくり呟く。



「……おまぁを失いたくないと、思い始めてからはな、

他のオンナに手ぇ出してねぇから…。」



言った本人も顔が赤くなるのを感じる。

こんな表情、見せる訳にはいかないと、

香をよりきつくフィックスする撩。

その香も、湯気を出しまくって身がカチコチになっている。

もともと動けないように拘束しているのだから、

フリーズもくそもないのだが、それに輪をかけて硬質化してしまった。



「おまぁとは、ハヂメテが多すぎて、撩ちゃんもドキドキなのよぉ〜。」

突然オネエ系でおちゃらける撩。

香の体がふるふると細かく震える。



(今日、聞いたことは、ホントだったんだ…。)



撩が、自分のために女遊びをやめていたことを、まさかと思い、

その場では全く信じられなかったが、

撩のこの一言で、

教授とエロイカのおねぇたちの証言が正しかったことを

改めて知った。



涙が止まらない。

撩の初めてが多過ぎるという告白も、

この9日の間に聞いた単語がかちりとはまっていく。



処女も初めて、

身を繋げた相手とそのまま一緒に寝たのも初めて、

キスマークをつけたのも初めて、

エスキモーキスもバタフライキスも初めて、

避妊具なしで行為に及んだのも初めて、

合体しっぱなしで寝たのも初めて、

撩は確かにそう言っていた。



黒く渦巻いていた、あの嫉妬心が、

膨張し過ぎて、自分では処理の仕様もなかった

激しい嫉(にく)み、妬(ねた)みが、

不思議なくらい粉が舞うように流れ去って行く。

それと同調するように、溢れる涙がさらさらと流れ落ちる。

香は、撩の腕にまた指を這わせた。

今度はやや急ぎ目で。



『はなみずでる』



「ああ、わりぃ。」

撩は、左腕を伸ばしてティッシュをパスパスと抜くと、

香の鼻をきゅっとつまんだ。



「んんっ。」



撩の右手はまだ口を塞いだまま。

香は自分の手でティッシュを押さえ涙腺から次々と落ちてくるもの懸命に

拭き取ろうとする。

ついでに、撩の指も当然自分の涙で濡れていたので

合わせてそっと拭き取ってみる。



撩は無言で泣きじゃくる香をそのまままた抱き寄せ、

頭部に顔を埋める。

香は、自分の口を塞いでいる撩の右手首を、くいくいっと引っ張った。

いい加減に解放してほしいのだが、

もちろんびくともしない。



「だーめ、まだしゃべるな。」



撩は、この自分のらしくもない発言の後に、

香に何か言われたり問われたりするのを防ぐために、

わざと声を出させないで居続ける。



「……少しは、安心したか?」



香は、湿りきったティッシュを左手で握りしめ、こくりと頷いた。

ふうと肩の力を落とすと、また撩の腕に指で文字をなぞり始めた。

ゆっくりと、時間をかけて、一画一画を大事に描くように、

人指し指を動かしていく。



『ありがと』



撩は、ふっと口端を上げ、

少しだけ腕に力をこめた。

抱き上げて、抱き締めたいが、まだこの顔は見られたくない。

オペは無事終了。

成功率は決して100%とは言えない術式だった故、

撩も緊張から解放される。



ただ、これで完全ではない。

これから、自分が関わって来た過去のオンナについて、

香がさらに間接的情報や、もしくは直接的情報を見聞きすることは

充分あり得ることだ。

それを今後もどうフォローしていくか、

宿題は残されるも、今日の件については一段落とみてもいいだろうと、

撩は作戦終了の指令を脳に送る。



同時に、香の心拍が落ち着いてきたのを感じた。

抱き込んでいたら、また香の指が左腕をゆっくりと撫でる。



(き?)



始めの人文字から次に移るのに、ずいぶんと間があく。

少し震える指先で、やっとなぞられた2文字目に撩は眉があがった。



(す???)




この後、濁点がつけられて「傷」で始まる単語でも出てくるのか、

いや魚のキスじゃないだろうと、想定外のひらがなの登場に、

思わず香を見下ろし直す。

撩のわずかな体のこわばりを触れられている部分から感じた香は、

続きの文字を伝えてもいいのか、迷い始めた。

自分も、もう恥ずかしさでリンゴ顔になっているのが分かる。

しかし、今の自分の素直な気持ちを

渾身の勇気を絞り出し、伝えてみることにした。

撩の腕に香の白い指がゆっくりと滑る。











かなりの緊張の色が見えるその動きに、

撩の鼓動がおかしな心電図を描く。



『きす したい』



撩は、耳まで赤くなった香を見下ろしながら、

まさに舞い上がる気分を味わう。

思わずぎゅうっと抱き締めた。



「んんんーっ。」



苦しいと訴える香。

撩は、すっと香の口から右手を離し、

両肩をくっと持ってくるんと自分の方に向かせると、

そのまま素早く左右の脇の下に腕を滑り込ませ、

ひょいっと香の体を持ち上げた。



「きゃっ!」



どさりと体同士がぶつかる音に、香が気付いた時には、

仰向けになる撩の上に自分の体が導かれていた。

厚い胸板に右手をついて、

左手は撩の上腕を反射で掴んだ香。

ほぼ全体重が撩にかかっている。

ちゃっかり枕の位置に頭を移動させているところも計算済みの撩。

お互いの顔の距離は約30センチ。

朱色に染まっている香を見つめながら、

撩はにやりとして、香の腰に両腕をまわす。

ようやく顔が見れたと、香は眉を八の字にする。



「……いいぜ。香ちゃん。」



また目的語を略されてしまったが、

香は一瞬、しまった!と身を少し引いてしまう。

文字数が増えても『きすしてほしい』と描くべきだったと

若干後悔した。

自分から口付けをしなければならないような流れにもっていかれてしまったことに、

ボボッと赤味を増す。

さらに、自分が撩を組敷く様な位置関係に重ねて激しい照れが込み上がる。



一方で、一人でツケを勝手に払いに行って、無防備なところに

過多な情報を浴び、心がどろどろになりかけていたものを、

治癒してくれたかのようなこの流れに

感謝の気持ちで一杯だった。



こうして撩を見下ろすのは、ソファーの時から2度目。

香は、こくりと生唾を飲み込む。

頬袋の中には、小さくなった氷がまだ残っていた。

それをそのままに、

初めて、自分から撩の唇に近付く決心を固める。



ベッドサイドのランプだけが自分達を照らしている。

仄暗い中でも分かる程に真っ赤になった香は、

ゆっくりと撩の顔との距離を縮めた。



「あ、あの、……目は、閉じて、くれる?…。」



ふっと鼻から息を出し、

細く笑みを浮かべ、素直にそれに従う撩。

「りょーかい。」

そう言いながら、すっと瞼を下ろす。



深呼吸をする香。

その形のいい目標物を見つめると、さらに体温が上がる。

間を置いて、首を少し傾けながら、

撩がいつも自分にしてくれているスタイルを思い出しながら、

愛を込めて、感謝を込めて、目を閉じ、そっと唇を重ねた。



質感と温度を感じるやいなや、

すぐに離れて行くことを防ぐかのように、

すかざす接吻を返してくる撩。

優しく啄むキスを受けながら、

香はそのまま深く抱き込まれ、横倒しにされる。

いつものように、香の背中がソファー側に向いた。

後ろ頭に撩の左手がまわり顔をより密着させられる。



「ふっ…。」



徐々に湿り気のあるキスに変わっていく。

もう、自分を惑わす残像は見えない。

撩の舌が、残っている氷の欠片に気付く。

もうビー玉くらいにまで縮小していたそれを巧みに移動させる。



「んんっ…。」



まさに一緒に溶かす作業をしているかのように、

艶(なまめ)かしく香の口の中で、氷と撩の舌が動く。

熱い肉の上で、それはみるみる体積を減らし、

全てが液体になったところで、

香がこくりと喉を動かした。



「…っはぁ。」



ゆっくりと唇を離す。

「……おまぁからの初めてのちゅうが南極の味っつーもの、

なかなかシャレたもんだな。」

「……ば、か。」

もう恥ずかしくて一杯一杯、そんな優しい目で見られると、

吸い込まれてしまいそうで、

思わず顔を撩の胸に埋めてしまう。



「りょ…、あ、りが、と。」



途切れ途切れにそう呟いた香。

「んじゃ、もっこりすっかっ。」

明るい陽気な声に、香は、ぱちっと目を開く。

ゆっくり顔を上げると、染まった頬のまま、

上目遣いで撩をじろっと睨んでみる。



「……あんたは、それしか頭にないの?」

「もっちろん。」

言葉と同時に、また顎を掬われ、ちゅうと吸い付かれる。

「んんっ。」

「こいつも、もうカオリン専用だぜ。」

自分の腰につんと当たった熱いモノに、かぁあああと照れが込み上がる。

それをどうしてもごまかすようにしか返せないのは、

長年の習慣か。

唇を合わせたままの言葉が続く。

「どぉーだか。」

「まぁーだ信用してねぇなぁ。

じゃあ、やっぱ体に教え込むしかねぇなっ。」

ころんと体勢がさらに90度回転する。

「あっ。」

見下ろされる香。

「おまぁが、不安になるヒマもないくらい、もっこりしたぁーげる♡」

「……りょ。」



香は瞳の表面に水分を讃えたまま、撩を見つめる。

おちゃらけた言い方でも、最上級の告白に変わりはない。

その言葉が嬉しくて、耐えきれなくなった涙が次々と溢れる。

香は幸せに満ちた微笑みで、

目を閉じながら、撩にしか聞こえないくらいの小声で

「……うん。」

と緩く顎を引く。



瞼に落ちてくる温かい唇を感じ、

香は覆い被さっている撩の大きな背中に

そっと腕をまわした。



********************************************
第18部(1)へつづく。次回はパス付です。





6000文字近く…。
1回でご覧頂くには長過ぎました。
ここまで、皆さんも本当にお疲れさまでした〜。
重ねるとしたら、海原父ちゃん訪問撤退直後、
自分との関係をリビングで香に伝える撩も、
こんな感じで、ライトな口調も使いつつ、
出すべきところは包み隠さず真摯に説明していたのではと。
しかし、乗船する前夜の撩の部屋のあのワンシーンで、
よくあいつもハグ(+添い寝??)でストップかけたよなぁと…。
(い、いや、実際はもしかしたら、ごにょごにょ…。)

【追記】
ちう寸前のシーンに、
撩のセリフを挿入しました。
入れ忘れとった…。
[2013.04.19]


【今後について】
まさかここで更新一区切りしますって言ってしまったら、
モノ投げられそうなので、(私だったら投げます)
ちゃんと第18部の中身を準備させて頂く所存でございます。

年明けから年度末にかけての慌ただしさを
未だ片付けられておりませんが、
皆様からの有り難いメッセージで、
帆にいい風を当てて頂きました。
ひとまず今後もなんとか隔日更新でと
思っております。

しかしながら、閾値が狭いわたくし、
現在も心の中に前進に対するひっかかりも若干残っており、
この心境とどう向き合っていくか、
まだ手探りでございます。

やはり心にゆとりがない時は、
自分だけでは、
なかなか物事に対して肯定的に受け止めにくくなるので、
どれだけ皆さんのお言葉に救われたことか…。

コメントやメールを下さった全ての皆様、そして
拍手、足跡を残して下さった全ての皆様、
カウンターを回して下さった全ての皆様、
本当にありがとうございます。
足下が不安定な連載でございますが、
引き続き、当サイトをよろしくお願い申し上げます。


【100パチ御礼!!!】
なんてことでしょうぅぅぅ。
本編初の100パチ越え。
本当にありがとうございます(嬉涙っ)。
表ブログでは1件のみ、
当サイトでは2回目の3ケタ越え、
人生3回目の100パチオーバーに、
大変恐縮しております〜。
これは、なんかお礼企画を出さんといかんかと、
思っておりますが、
手持ちネタがなくてからに…。
何か沸いてきましたらお知らせしたいと思います。
取り急ぎ御礼でした。
[2013.04.25.21:28]

17-19 Operation

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目


(19) Operation *************************************************** 4527文字くらい




パチン…、プチン…、シュワシュワと氷の中に閉じ込められた

いにしえの空気が

どの楽器でも奏でることの出来ない音をたてながら

撩の部屋に溶けていく。




「……おまぁ、腕は痛くないか?」

床に座り込んでいる香は、突然の質問に驚いた。

「え?」

「昼の射撃で酷使しただろ。」

「あ…、ううん、大丈夫。ただ、これからあれより長くなると、ちょっと辛そう。」

「ま、慣れて行くしかないな。」

「な、慣れるかな……。」

「筋はいいんだ。あとは訓練次第さ。」

「う、うそっ、あ、あたし、…筋、いいの?」

思わず撩のほうを見てしまうが、やはり目を合わせられない。



「海坊主のトラップのスキルを短期間で飲み込んでんだぜ。

筋が悪い訳ないだろ。」

褒める撩が信じられない。

目を伏せる香。

「トラップも銃も、もうとっくにシロウト枠じゃないさ。」

そう続ける撩に、香はグラスを見つめながら少し眉を寄せた。



暫く沈黙が続く。

香は、撩に素人でないと言われても、

自分ではまだ納得がいくような気分にはなれない。

あたしなんかが持っているスキルなんて、と

まだまだ撩を支えるには遠く及ばないと、

否定的な感情が湧く。



「……まだ、……全然だよ…。」



乾いてきた唇を濡らすように、

一口グラスに口をつける。

やや濃いめのアルコールが喉を流れる。



「……ずっと、……足手纏いにしかなってないし。」



カランと氷が鳴る。

そこに、はぁああと、撩の誇張した溜め息が重なる。



「ったく、……いや、俺のせいなんだよな…。」

「は?」



香には、溜め息の理由も、何が撩のせいなのか、

省略され過ぎた言葉に、理解が追いつかない。

また不快な思いをさせてしまうようなことでも

言ってしまったのかと、

会話を振り返るも、どれが該当するのか絞れない。

しかし、一緒に過ごして来た6年のことを考えれば、

思い当たるフシは、それこそ売る程ある。

それは、全て自分が原因なのであって、

決して撩のせいではないのにと、

ちらっと相方を見遣る。



撩も、くっとグラスをあおった。

やや猫背で両肘を膝に預け、自分の脚の間で手に持ったグラスを

ゆるゆると揺らす。

氷の音と、泡の音、それに自分達の呼吸音が妙に耳に響く。



「……撩のせいじゃ、ない、よ。……あたしが」

「ストップ。」

撩は目を閉じて、すかさず香の言葉を止めた。

「?」



今、撩が言った『俺のせい』というのは、

自分が育ててしまった香の自己評価の低さ。

それは、へたしたら、

自分は誰にも必要とされていないのではないかと、

自身の存在価値を揺らがせるほどに

ネガティブな菌糸が深いところまでに伸びている。



料理や容姿のことだけに留まらず、

香がパートナーとして自身に課したものを、

必死で身につける努力をしていたことも、

ちゃんと撩は知っていたのに、

あえて気付かない振りをし、

褒める事もせず、否定する文言ばかりを

何年も投げ付けていた。



これでは、自己肯定しろと言っても簡単にできないことも、

十分分かってはいる。

撩は、表に返すためだったとは言え、

これまで自分がしでかしてきたことを、深く悔やんだ。



しかし、ここで『すまない』と言っても、

また、香は謝るのは自分のほうだとまた言うだろう。

堂々巡りになってしまう。



香は、困惑している。

長い沈黙、

途切れさせられた会話の続きは、

撩の言葉を待つしかないと、

手の中の氷をじっと見つめる。



正直、香にとってこの状況は居心地が良くない。

こんな不安定な心中で撩のそばにいることが苦しい。

できれば、飲み終わったら

今日は客間に戻りたい気分は先ほどと変わらず。

ベッドではなく、無意識に床に座ってしまったのも、

その思いの表れの一つか。

ただ、今日偶然手にする事のできた貴重な氷のおかげで、

深い淵に沈みそうなところをなんとか踏ん張る事ができている。



撩も、さすがにこの後の展開をどう持って行くべきか、

涼しい表情をしながらも、かなり迷っている。

術式を失敗すると、もう二度と一緒に寝られなくなるかもしれないという

最悪のパターンも加味しつつ、

撩は軌道修正のオペに入ることにした。




「……どぉーすっかな…。」



ふいに撩が呟く。

「え?」

「香ちゃん、様子がとぉってもヘンだからさぁ〜。

どうしたら、ご機嫌になるかなぁーと思ってな。」

ぎくりとするも、まだごまかしの体勢をとろうとする香。

「そそそそそんなこと!なななないよっ!」

「おま、その言い方で俺が、はいそうですかって言うと思うか?」

「だだだって、きょ、きょ、今日は、お店のみんなに、と、と、とっても

良くしてもらったからっ、むむむむしろっ、嬉しいこと、い、いいっぱいあったしっ、

き、き機嫌、わ、悪いなんてっ、ななない、からっ!」

すかさず、撩の考えを否定しようとするも、

口は噛みまくるばかり。

より乾いてしまった唇を潤すために、慌ててグラスを傾ける。

少し多めに口に含み、薄めているとは言え、

度数の高いアルコールが喉を熱くする。



撩は、ふぅーと息を細く吐き出した。

「……俺は、お前に足手纏いだと言った事は一度もないぜ。」

「え?」

「そう思った事も一切ない。」

「なっ…、だ、だってっ!」

「あー、いいから黙って聞け。」

ぴしゃりと言葉を遮る撩。



「今更、言葉でどうのこうの言っても、おまぁは信じらんねぇーかもしれんが…。」

撩はグラスの中で氷をころころと転がした。



「もう、随分前から必要不可欠だったワケさ。」



「は?何が?」

きょとんとする香に、

撩の膝から肘がずりっと滑る。



「お、ま、え、がっだよっ。ったく、どぉーしてここまで鈍いかねぇ〜。」



「はぁああ?だって、

撩にとって必要不可欠ってもっこり美人のことじゃないの?」

がくっと頭を落とす撩。

もうオペを失敗しそうな気配がある。

「パイソンとお酒とタバコともっこりちゃんがいれば、

あとはなぁーんにもなくていい的な感じじゃない。」



シリアスモードで話しを進めて行こうとした作戦が、

もう軌道を外れ始めた。

「やっぱ、おまぁ、俺の言うコトぜーんぜん信じてねぇーな。」

残り少なくなった琥珀色の液体をくいっとあおる撩。



慌てて繕おうとする香。

「あ…、ご、ごめん。そ、その、信じていないって訳じゃないのよ。」

くっとグラスを両手で包む。



「………信じてなければ、こ、この仕事なんか、できないでしょ…。」



唇を少し舐めて一拍置く。

「ただ、撩が、……あたしのことを、褒めたりとか、認めたりとか、

今まで殆どなかったから、それが何だかうまく飲み込めなくて……。」

「だよな…。」

撩もカランと氷を鳴らす。



「……香、お前に会う前は、まさにその通りだったさ…。」

「え?」

「酒にタバコにオンナに銃、これだけありゃいいってずっと思ってたさ。」

香は、オンナというフレーズが今日のことで、より生々しく聞こえてしまい、

一瞬顔が曇る。

それを撩は視界の端で見逃す訳がなかった。

「……だが。」

少し間をあけてふっと息を吐き出す。



「何よりも、失いたくないモンが、できちまった…。」



ぴくりと香の肩が揺れる。

また、目的語を略されてしまったが、

この流れで、撩の失いたくないモノがなにを示すか、

さすがに香も分からないとは言えない。

ただ、今の不安定な心持ちでは、

どうしてもそれを肯定的に受け入れられないでいる。



撩と一線を越えた関係になっても、

自分は撩が抱いて来た数多(あまた)のオンナの一人でしかないと。

それを承知で、一緒に居続け、

撩が、もう自分のことを必要ないと突き放すまでは、

パートナーとして撩を支えることを

自分の存在意義のコアとして持ち続けていた。



ただ、今の香は、

自身のリアルな経験と与えられた伝聞系の情報で、

オンナとしてどろりとした粘度のある感情が湧き出してしまい、

自分の中でコントロールできなくなっているのだ。

少しアルコールが回ってきているもの手伝っていたのかもしれない。



撩の真摯な告白とも言える言葉に、

出て来てしまったのは、長い間奥底にしまい込んでいた、

黒いセリフだった。



「う、失いたくないって…、

あ、あたしの代わりはいくらでもいるだろうし、

もし、あたしが突然いなくなっちゃっても、

あんた、全然困んないでしょ?」



香は、ゆっくりそう言うと、

薄くなったバーボンをくいっと飲んでカラにした。

少し酔っていることを自覚する。

自分の言ったことを否定するセリフを待っている己に嫌気がさし

自嘲気味にふっと息を吐き出す。



目を落とすと、グラスの中はまだ小さな氷が残っていて、

それを残すのは一瞬もったいなかと思いはしたが、

グラスを自分の右側の床にそっと置いた。



向き直った時、

がっくりと頭を垂れている撩が視界に入り、

また疑問符が飛び交う。

まるで、どよよ〜んとした空気が描かれているかと思うくらいに、

いかにも落ち込んでいます的な雰囲気を醸し出している。



実は、撩はこの時、冗談抜きで涙が出そうになっていた。

陳腐なドラマだったら、

ここで香をひっぱたいてもおかしくないなと、

動きそうになった腕をくっと押さえる。

こんなことを言わせる原因を作ったのもまた己以外ありえないのは分かっているが、

この状況で、このタイミングではかなりのパンチ力だった。

とりあえず、ぐっとこらえて、

やはり、自分が作り育ててしまったこの悪性の痼(しこ)りを切除するのは

言葉だけではだめだと、唇を噛む。



むくりと上半身を起こすと、

持っていたグラスをぐいっと傾け、ころんとやや小さくなった氷を口に含んだ。

左手でカラになったグラスをベッドサイドに戻す。

その動きをわざと見ないように、目をそらしていた香の背後に、

のっそりとベッドに座ったまま移動して、

床に座り込んでいる香を無言のまま両脚で挟み込んだ。



「な、なによ?」



そのまま、がばりと両腕で香の上半身を包み、

真後ろから香の顎を右手で掬って、喉を反らせる。

やや首を傾けて、覗き込むように香の唇を素早く塞ぎ、

同時に鼻をつまんで口の中にころんと冷たい氷を移動させた。



「んん?!」



そのまま上向きだと、

その冷たい固まりがのどに落ちて詰まってしまうので、

右の指で香の口を塞いだまま、くいっと顔を正面に戻し、

左手で抱きとめると、両膝にくっと力を入れて体温を触れさせる。



撩に囲われてしまった香は、

突然目の前が暗くなり、

迫って来た撩の顔に目を見開いて驚くも、

バーボンの味と一緒に、

素早く口の中に入れられた氷と

声を出すなと言わんばかりに長い指で口を押さえられた状況に、

まったく思考がついていかなかった。



「んんんんー、んー!」



撩の腕をパシパシと叩く香。

まだ口を右手で押さえられたまま。



そんな香の柔らかい髪に鼻を埋めて、

左腕に伝わってくる心音に、指にかかる鼻からの息に、

内腿から伝わる体温に、

今自分の手の中に香がいることを実感する。




(……誰が、…おまぁの代わりが務まるってんだ…。)



まだ身を捩って抵抗している香に、

低い声で頭皮に直接響くかのように呟く。



「おまぁ、しゃべるな…。」



撩の腕に手を添えたまま、

ふっと、香の動きがとまった。



もしかしたら、撩を怒らせてしまったのかと、

だとしたら、謝らなければと、様子を伺おうにも、

この体勢では、まったく撩の顔は見えないし、

言葉も発することができない。



香は、撩の体温と行動に混乱しながらも、

次の動きを待つことにした。


**************************************
(20)につづく。






次回は、第17部ラストでございます。

17-18 Eight To Nine

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目


(18) Eight To Nine ***************************************** 3297文字くらい



8時半過ぎ、

素早く入浴を済ませた撩がキッチンへ戻ってくる。

スウェットとTシャツを纏いラフな格好での登場。

首にはタオル付き。



「おーい、用意できたか?」

「あ、うん。今、冷蔵庫で冷やしてる。これでいい?」

バーボンを指差して、確認をとる香。



「ああ。じゃあ、あとは俺がやっとく。おまぁ、すぐ寝られる準備しとけ。」

「へ?」

「上で飲むぞ。」

「は?」

「寝る前の1杯。」

そう言いながら、撩はさっさと庫内からグラスを取り出した。



「あ、右のがあたしのグラス。」

「了解。」

撩は自分のグラスに4フィンガー分こぽこぽと注ぎ始める。

「おまぁは2フィンガーくらいにしとくか。」

隣りのグラスにはきっちり指2本分。

さっきのミネラルウォーターを取り出すと、香の分だけに追加で注ぎ、

アルコール分を薄めた。

それをそれぞれ大きな手でひょいっと摘み上げ、

そのままキッチンを出ようとする撩。



「りょっ、ちょ、ちょっと待って!上でってどーゆーこと?」

目が合ってしまい、あわててグラスに目を落とす香。

「あん?そんまんまの意味だよ。

ボクちゃんのベッドで一緒に飲むの!おまぁもさっさと上がってこいよ。

せっかくの氷が溶けちまう。」

吐かれるセリフについていけず、

その場で、撩の背中を目で追うだけになってしまった。



「あとは寝るだけって言ったって…。」



米研ぎ、トイレ、歯磨き、ピルの服用、洗濯物の余洗い、

濡れたショルダーバッグと靴の拭き上げと乾燥、

消灯に戸締まり、就寝前の肌のケアと

すべき事案は片手だけでは足りない。



「どうしよう…。」



今の自分の心理状態では、とてもじゃないが、

撩と普通に目を合わせることもできなければ、

一緒に横になることも出来そうにない。

ただ、それを先延ばしにすると、あの貴重な氷が溶けきってしまう。

まさか、それを測っての行動なのか。



今でも、平静に装っていることがギリギリ一杯。

もう、撩にはこんな誤摩化しはバレバレだとは分かっていても、

この情緒不安定な様を晒したくはない。



「……りょ。」



全ては自分の芯のなさ。

分かっていても苦しい。

まだ、胸が詰まり、視界がにじんでくる。



「だめ、笑わなきゃ。」



香は、伏せていた視線をくっと炊飯器に向け、

短い時間で、いかに動くかイメージしながら、炊飯釜を取り出した。



「と、とにかく早くしなきゃ。」



時間はあと15分ほどで9時なる。

寝るには早過ぎる時間だが、

確かに気分はもう横になりたい。

香は、このあとのことをあまり深く考えたくないと、

キッチンですべきことに区切りをつけたら、

小走りで客間へ向かった。





その頃、

撩は持って上がったグラスをベッドサイドの照明の横へ並べ、

ごろんと仰向けになって、両腕を頭の下にくぐらせていた。

相変わらず、氷からはプチプチプチと高周波の音が弾ける。

首に巻いていたフェイスタオルは、

グラスの横で無造作に放られている。



撩は、静かに目を閉じ、

帰宅後からの香の様子を振り返る。

新宿界隈のウワサの渦中、香を一人で外歩きさせたくなかった目論見は、

自分のツケの後始末という形で見事失敗に終わった。



当然、行く先々で香が集中砲火を受けたことは手に取るように分かる。

ただ、連中もある程度の配慮はあったのだろう。

店の名前と店内にいたと思われる面々の人柄を思えば、

香を喜ばせるために、

それぞれが気配りをしていたことが伺える。



しかし、恐らくエロイカの連中は、

香のためと思いながらも、喋らなくてもいい話しまで、

勢いで提供してしまう感がある。

内容は容易に想像がつく。

彼らとの付き合いの長さや、日頃交わす会話から、

香と出会う前の自分のことをべらべらと零すオカマバーの連中が浮かぶ。

それは、たぶん今の香の不安定さの大きな原因となっているに違いないと。



「……どうすっかな。」



あの作り笑顔は、

9月頃から奥多摩に行く前に見せていた貼付けられた仮面と同じもの。

相当、何かを抑えている。



香が教えられたことがだいたい見当がついても、

自分もどう向き合っていいのか正直分からない。

それでも方向修正は必要だ。

しかし、そのやり方次第では

互いに激しいダメージを持つことにもなりかねない。



カランと氷が傾く音がした。

「溶けちまうぞ…。」

リミットを設けるつもりで、グラスを運んだものの、

香がまだ7階に上がってくる気配はない。

洗面所で動く様子がかすかに伝わってくる。



もしかしたら、ここに入れないくらいに、

何かを抱えている可能性もある。

撩は、置き換え思考を思わず想像しまった。

恐らく、香が引きずっているのは過去のオンナの話し。



もし、仮に自分が終生愛すると誓った相手が、

何十人、何百人の男と体を交えたことのある女だと知ったら、

香に限ってそんなことはありえないと、

分かっていはいても、

仮定の中の置き換えと理解はしていても、

それだけで激しく思考が乱れてしまう。



「は…、はは、…こりゃ、上がってこれないわな…。」



わずかだけでも疑似体験してもこのザマだ。

今の香の挙動不審状態に深く納得する。

当然だ。

香は、子供ではない。

一緒に暮らし始めた初期、

朝帰りの自分を迎えた香が、さっと表情を変えたこともあった。

女の勘が掬い取ったその「出来事」に

恐らくおぼろげなイメージを持ちながらも、

気付かないフリを重ねて来たことは撩も分かっている。



ましてや、抱く抱かれるというのが、どんなことなのかを

知ってしまった後で、

少しでも具体的な情報が入ればなおさらだろう。

軌道修正に失敗は許されない。



「やっぱ、ちゃんと言葉で言うしかないか…。」



あんな表情をさせたくて、一線を越えた訳ではないのだ。

愛おしさを感じながら抱いた女は

お前が最初で最後だと、

どうやったら伝えられるのか。

頭の上から、ピキン…と氷と空気が音を奏でる。



「……信じろっつったってなぁ〜。」



はっきり言って、今までの所業が悪過ぎる。

一人の女を愛するようになる自分なんぞ、想定していなかった背景の元、

文字通り世界中のもっこり美人ともっこりワールドを地で行っていたのだ。



「はぁ〜、ボクちゃん、もうカオリンしかだめなのにぃ〜。」



おちゃらけ口調で、ごろんとうつ伏せになり枕を抱く格好になる。

冗談抜きで、もはや香以外では勃たない。

それでも海綿体のコントロールはお手の物だから、

基本、いつでもどこでも息子に血液を送ることは可能だが、

女を抱く時のモードでは、もう香でないと全く反応しないほどに、

パートナーオンリーになっている。

この9日間、愛読書をいくら見ても

ときめかなくなっている自分に苦笑する。



もし、今後拒絶されたら、それこそ生きて行けないと、

最善の策を自身のスーパーコンピューターで算出する。

それが香に通用するかどうか、

ある種の人生をかけた賭けに挑む気分で、香を待ち続けた。



聴覚に、香が接近する気配を感じる。

6階の扉が開き、7階へ続く階段が小さく軋む音が重なる。

時間は9時過ぎ。



「やっと来たか…。」



そう言いながら、よくぞ来てくれたと、心底安心する。

撩は、またごろんと回転して仰向けになった。

足を組み、腕は枕の下。

目を閉じ、これからの動きをシュミレーションする。




開けっ放しの扉の端から、香がそっと顔を覗かせ、

ベッドの上の撩を見遣る。



「りょ…、寝てる、の?」




「うんにゃ。」

瞼を降ろしたまま返事をする。




「ご、ごめんね、遅くなって。……氷、まだ残ってる?」

「こいつら、ずっとぶつぶつ言っていたぜ。まだこねぇーのかって。」

起き上がりながら、ベッドサイドのグラスを手に取り、

左腕を伸ばして香に渡そうとする。

「ほれ。」

「あ、ありがと…。」

いつもよりも速度が遅い歩みで撩に近付き、グラスを受け取る。

表情はまだ自然ではない。



長辺3センチくらいにまで小さくなっているが、

まだその雰囲気は楽しめる。

香は、冷えたグラスを両手で持って、

ベッドに寄り掛かるように床に座り込んだ。

その位置は、本人もあとで気付いたが、海原戦前夜のポジション。

撩も、ベッドから足を降ろし、香の隣りでグラスをカラランと揺らす。



ベッドサイドの明かりだけで照らされた撩の部屋に、

氷から溶け出る空気の音だけが暫く響いていた。


********************************
(19)へつづく。





イメージは海原戦前夜の撩の部屋ということで。
照度、位置関係、雰囲気等借りております〜。

シティーハンターバトンに答えてみました

9000パチパチ、ありがとうございます!
昨日この数字を頂きました。
日々のアクセス重ねて御礼申し上げます。


本当はゆっくりと管理画面も眺めたいのですが、
たまにちらりとアクセス解析を覗くと、
毎日どなたかに拍手を押して頂き、
毎時間どなたかが訪ねて下さりと、
皆様の痕跡に目頭が熱くなり、
ただただ有り難さで胸がいっぱいでございます。


基本、わたくしの妄想でしかない文字列に
皆さんのお時間を頂戴するのも心苦しいところですが、
今後も定期更新が続けられるよう、
気分を少しずつでも上向きにして行ければと思っております。


未だ年度末から続く雑多モノを引きずっておりまして、
目次の空白を作りがちになり、大変申し訳ございません。
CH関係のみなさまからのメールも
お返事を滞らせており、失礼を続けております。
今暫くお待ち頂ければと存じます。


それでは拍手企画恒例の「質問バトンシリーズ」、
今回は、FC2ブログ内サービスの
シティーハンターバトン」に答えてみました。


全7問、少数設問かつ他と被りもありますが、
一応押さえておこうと思います。


以下、ご興味のある方お進み下さいませ〜。



シティーハンターバトン

作者:kslifestyle


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17-17 Fried Rice

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目 


(17) Fried Rice ******************************************** 4941文字くらい



「撩!」

ガチャッとキッチンの扉を開けた香は、

ほぼ配膳が終わっているテーブルに目を見開いた。



「おー、上がったか。もうすぐ食えるぞ。」

撩は、涼しい顔をして、

中華鍋からざっと焼き飯っぽい洋風チャーハンを皿に移した。

時間は、あと10分程で8時になろうというところ。



呆然として入口に立ちっ放しの香は、

色々な感情が、

まるで洗濯機の中でぐるぐるまわっているかのように、

混ぜこぜ状態。



「香?」

座ろうとしない香に、視線を向けた撩もまた混乱した。

「はぁあ?おま、何でまたっ……。」

ぼろぼろと涙を流す相棒に、

俺なんかまたしでかしたっけか?と

心当たりの情報も掻き集めるも、

やはりアリ過ぎで原因が絞れない。



とにかく鍋をガスコンロに戻して、

そばに歩み寄り、そっと抱き寄せる。

たった5時間強、離れていただけなのに、

まるで何日も、何週間も時間を隔てていた疑似感が沸く。



「ぅ、……ヒック、……ふっ、……ヒック。」

腕の中の香はしゃくり上げて声を押さえながら、

まだ涙を流し続けている。

撩は、乾いた茶色い髪に指を深く絡ませ梳き上げる。

どうも、奥多摩から戻って来てから泣かせることが多いかもと、

この1週間あまりを振り返る。

これまで香が撩の目の前でもろに涙を零したのは、

槇村の死後、アパートに来た初日と、

ローマンを渡した時、そして海原戦の時の数回故、

自分の前で芯中の感情を隠せないでいる香に

撩もまた慣れていないのだ。



「どうした?」

「……ご、め…。…ぁ、たしが、食事、作らなきゃ、いけないのに…。

ま、…また、りょ…に、…用意して、…もらって」

「ああ?そんなことで普通泣くかぁ?」

「……タ、タオルも、…き、着替えも、…も、持ってきて、もらった、…の、に。」

「あー、俺としちゃ裸エプロンも捨て難いが、風邪引かせちゃまずいしな。」

撩の突っ込みどころにハンマーも出せないまま、香は小声で続けた。



「……な、なのに、……ぁ、たし。」

(撩の優しさが嬉しいのに、触れてもらって嬉しいのに、温かいのに、

今、自分が抱き締められてるのに、

なぜ、頭の中では自分が自分以外のオンナに置き換わっているの…。)

「……ぁ、…ぁたし…。」

(こんなに撩は、あたしを心配しているのに、どうしてこの靄(もや)がとれないの…。)



涙が止まらない。

このままでは、撩を困らせてしまう。

いや、もう充分困らせている。

切り替えなければと、

香は必死に、込み上がってくるものを押さえ込む。



「……とりあえず、先に食わないか?」



背中を優しくさすられる。

その手の動きでさえ、他の女にも同じように触れているんだろうなと、

また置換の心理が燻(くすぶ)る。



「……話しはその後だ。」

「……ぅん。……ヒック。」



撩は、香の肩を抱いて、白木の椅子に座らせた。

目の前には、

エビと卵とインゲン、タマネギのみじん切りが入った

オリーブオイルとニンニクの香りが香ばしい焼き飯チャーハンに、

香が朝用意した残りものの味噌汁が温められ、

ちぎったレタスと細い千切りキャベツ、笹切りのキュウリと薄切りタマネギに

スモークサーモンを散らしたサラダと、フルーツはリンゴ。

香が入浴している間に、さらっと作られた品々に、

また目が潤んでくる。



「…りょ、…ありがと、ね。…ヒック。」

鼻をすすりながら、目をこする。

「とりあえず食っちまいな。」

「ぃ、ぃただきます…。」



右手でカレースプーンを持つも、射撃訓練の影響のためか、

重たく感じる。

こぼさないように、慎重に口に運んだ。

「やっぱり、おいし…。」

「当然。」

本当は、この後に様子がおかしい香を安心させるためにも、

『ボクちゃんの愛情がたっぷり入っているからねん。』とか何とか

言ってやろうかと思ったが、

とてもじゃないが柄じゃねぇと、あえて飲み込んでしまった撩。

しかし想像しただけで、自分の頬と耳が勝手に熱くなり、

照れをごまかしながら伏せ目でわざとガツガツと食べ続ける。



「………。」

言葉がでない香。



奥多摩から戻って来てから、

一体何度撩の作った食事を味わったことだろうと、

香の目の前の主食がみるみるとぼやけてくる。

撩の顔が見られない。

ぽたぽたとテーブルの上にまた涙が落ちる。

自分のために、これまで殆どありえなかったことをしている撩の姿に、

どうして自分の心はここまで乱気流なのか。



「ご、ごめ…、と、とまらなくて…。」



雫の落ちる音と香のセリフで、対面に向き直る撩。

「な、なんだぁ?涙腺故障しちまったかぁ?」

「ぅん、…そ、…みたい。」



香は、一度立ち上がって、キッチンペーパーを引っ張り出し、涙と鼻水を拭った。

その間に、はぐはぐと食事を進める撩。

新しいペーパーを持って席に戻る香を視界の端で追う。

目と鼻が赤くなり、鼻をすすりながら、なんとか食事を続ける香。



さっき、ショルダーバッグからはみ出ていた領収書と封筒には

3軒の店名が垣間見えた。

それぞれの場所で、

香は色々聞かれたり聞いたりしたに違いない。

様子がおかしいのは、それが原因だと撩は確信する。

しかし、具体的に何があったのか、まだ聞き出すのは早い。

とにかく食後に、ゆっくり聞くことにする。



「……おまぁ、なんでわざわざ傘置いて行ったんだ?」

「あ、……確か、別のもの入れる時、つい出しちゃって、

戻し忘れたのよね…。」

「迎えの連絡よこせばよかっただろうが。」

「……だって、そのままミックとどこかに繰り出しているかもと思ったから…。」

「すぐ戻るっつーただろう。」

「って、あまりすぐ戻った試しないよね。」

「ぐ…。」

いつもの会話に、香の表情から強張りが僅かに薄くなる。

しかし、まだ作り笑顔だ。

撩の目を見ようとしないことも、チェック済み。

しゃべりながらも、さくさくと食事を進める撩はもう殆ど平らげていた。

香は、やっと半分が減ったところ。



「あー、そう言えば、おまぁの部屋にあったあの紙袋は?」

「え?」

「買って来たもんにしちゃ、厳重に包んであったみたいだけどぉ?」

「あ、あれっ!わ、忘れてた!と、とってこなきゃ!」

「あー、俺が行くよ。おまぁ座って食ってろ。」

撩は食事をカラにすると、のんびりと立ち上がって、

香の部屋に向かった。



「は、早く食べなきゃ。」

香も急いで食事を進めた。



客間兼香の部屋で、

撩はさっきチラ見をした領収書を再確認する。

それぞれ半年のツケを3軒分、

支払いに回った様子が脳裏で映像化される。

しかも、宛名が書かれたそれぞれの封筒は全てカラではない。



「ったく、どいつもこいつもお節介だな…。」



撩は、濡れている紙袋の底を押さえながら、

それを持ち出した。



キッチンに戻ると、香もほぼ食べ終わっていた。

「これジャムか何かか?」

「ううん。あ、あのね、南極の氷なんだって。」

「南極ぅ?」

「そう。……ね、撩も一緒に音を聞いてみない?」

「は?」



食器を下げながら、そう提案する香。

まだ、表情はやや強張りがある。

撩がいつも使うロック用のグラスを食器棚から出し、

冷蔵庫から常備している軟水のミネラルウォーターを取り出す。

ざっとテーブルを拭き上げ、

シンクで、あのバーテンダーが梱包した瓶をそっと取り出す。

直径7センチくらいの固まりが、ごろんと撩のグラスに移る。

そこに、そっと水を注いだ。

すぐにあの店で聞いた音がし始める。

両手で大事そうに白木のテーブルの上に運ぶ。



「あのね、これ、カジノのお兄さんがね、特別に出してくれたの。」

「あのバーテンが?」

「うん、2万年前の氷と空気だって…。」

「へぇ…。」

プツプツプツという気泡の弾ける音がキッチンに響く。

渦巻いていた心の乱れが、少しだけ収まってきた。



「200年とか2000年でも驚くのに、

2万年の時間がこうしてここで今の時代に溶けていくなんて、

なんか不思議よね。」

香はバーの時と同じように、頬杖をついてじっとその様子を眺めた。

それは同様の効果をもたらし、荒れてささくれていた心に

まるで潤い成分でも施されるかのように、

気分が僅かずつ落ち着いて来た。




「ぉ、…お風呂、ありがとね…。」

「あん?」

「すぐに、湯船に入ってなかったら、きっと風邪ひいてたかも…。」

「おまぁなぁ、真夏ならまだしも、この季節に傘なしで帰ってこようなんざ、

フツーは選ばないと思うぜ。」

「う…、うん。少し降りが弱くなったから、

これくらいなら大丈夫かなって思ったけど、

読みが甘かったわ…。」

香は、グラスに指をかけて、氷を傾けた。

透明な塊はシュワシュワと小粒の泡を出しながら、

カランと音をたてる。




「夕方ね、……撩のツケを払いに行ったら、みんなに色々優しくしてもらって、

沢山サービスしてもらっちゃった…。」

香が、自分から外出時のことを話し始めた。



「おまぁ、どこに行くかくらい、ちゃんとメモに書いとけよ。」

「あ、ごめん……。

急いでいたから、はしょっちゃった。開店前に行きたかったから…。」

「俺があんだけ一人歩きすんなっつったのに、

わざわざ自分から行くかねぇ。

まさに、飛んで火にいる夏のなんとやら、だぜ。」

はっと顔を上げた香だったが、

頬杖ついて目を閉じている撩が視界に入り、

理由を告げながらも香の視線はテーブルに落とされる。



「だ、だって!撩がいつ戻るかわからなかったし、

半年分も溜まっていたしっ、

報酬が減らないうちに、少しでも早く払いたかったし、

すぐにお店を出れば大丈夫だと思ってたから…。」

「で、結局、大丈夫じゃなさそうだな…。」

「ぅ…。」



香の肩がくっと狭くなり、伏せ目になる。

しかし、香はすぐに正面を向き、

笑顔を貼り付けて撩に答えた。

「ううん!あ、あのね、みんなから、美味しいものを色々出してもらったの。」

視線を合わせないように、わざと指折り数える手元を見る。

「スナックポテトのママさんに、香姫っていうお酒を出してもらったし、

エロイカではすごく美味しいババロア食べさせてもらったの!

で、カジノさんではこれでしょ?

しかも、みんなしてお金半分くらい返してくるんだもの。

もうこんな待遇されるなんて、こっちがついていけなかったわ!」

早口で一気にそう伝える中に、自分からは絶対に言えない内容が

不自然さを強調する。



香は、もてなしてもらった品々を思い浮かべながら、

ふっと軽く息を吐き出した。

みんなが、自分たちのことを気にとめてくれて、

何があっても味方だと言ってくれた。



情けないのは、自分の弱さだ。

目の前にいる男の過去が、

関わってきたであろう顔も名も知らないオンナの姿が、

心の隙を掻き広げようとする。

撩をまともに見れない。

見たら色々と溢れてきそうで。

目の前の、氷から溶け出る泡のように。



「……俺も風呂入ってくっかな。」



がたりと立ち上がった音に、はっとする。

「その氷、半分に割って、ロック2つ作っといてくれ。

風呂上がりに、ゆっくり2万年前にひたってみっか。」

そう言いながら、撩はキッチンを出て行った。

香はキョトンとしていたが、はっと意識を呼び戻し、

指示を実行することにした。



大急ぎで、グラスから氷を取り出し、小さなビニール袋に入れて、

すりこぎでコンッと叩く。

圧縮されて普通の氷より硬いはずだが、

バーテンが偶然アイスピックでいい位置にヒビを入れていたことに加え、

水に浸していたお陰か、

適当なラインで氷はきれいに割れて、2分割される。

もう一つグラスを用意すると、

残っていた軟水を自分でくっと飲んで空にし、

それを自分用に、新しく出したグラスを撩用にして氷を分けた。

とりあえずそのまま冷蔵庫へ仕舞う。

時間は8時20分。



「これも早く片付けちゃお…。」

すぐに蛇口をひねり、シンクの中にある食器を高速で洗い始める。

同時にキッチンまわりも軽く片付け、明日の朝の献立もイメージする。



以前、ファルコンにもらったワイルドターキーがまだあるので、

それをシンク下から取り出し、テーブルに置く。

ラベルに描かれた、七面鳥の精密画を見つめながら、

ふっと息を吐き出す香。



撩の行動一つ一つ、言葉一つ一つが、

今の自分にとって、

醜さを膨張させる刺激剤にしかなっていないことを感じる。

嬉しいのに、逆行して育って行く自分の見苦しい感情が、

撩を困らせる。

できれば、今日はこのまま客間に行って一人で休んでしまいたい。

しかし、この流れでは、それは選択肢には入れられない。



香は、マドラーを用意し、

テーブルに肘をつき、からめた指の上に顎を乗せて、

そのまま撩を待つことにした。



****************************
(18)につづく。






撩ちん、
早くカオリンのしこりを取ってやって下さいな。

17-16 Entrance

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目 


(16)Entrance  ***********************************************4389文字くらい



ミックとの話しが思いの外長引き、

時間はすでに7時前になっていた。



撩は、途中から雨に気付くも、

区切りが悪く、そのままずるずると長話しになってしまった。

注意すべき内容も多々含まれ、自宅アパートの出入り口から

意識が離れていた時間も長かったことを、後で気付くことになる。

ようやく一区切りした時、ミックが、

外が暗くなったのに、

6階リビングに明かりがつかないことを指摘した。



「カオリ、もしかしたら出かけているんじゃないか?」

「あ?」

「買い物にでも出たか?」

「さぁな、俺もう帰るわ。あー疲れたっ!」

「この情報料は、カオリのディナーでオッケーだぜ。」

「うっせ。」



舌打ちをしながら、ミックのオフィスを後にした撩。

小走りで、正面の車道をつっきり、

自宅へ向かう。

やはり6階に明かりはついていないまま。



射撃の疲れで香が仮眠していたとしても、

もう起きて夕食の準備でもしているだろうと、

アパートの駐車場から上がるも、

香の気配がない。



「香?」



急ぎ足で5階までくるも、自宅玄関の向こうには、

パートナーの動く空気はキャッチできない。



「出かけたのか?」



キーをまわして玄関に入る。

暗い室内に、電気を付けながら6階に向かう。

全て消灯されていた。

賊が侵入した痕跡はなし。



キッチンに行ってみる。

照明をつけると、テーブルの上の書き置きが目に入る。



「ちっ、どこに行くかくらい書いておけよ。」



雨が降り始めて15分程。

撩は、香の部屋を覗いてみる。

ソファーの上に、折りたたみ傘が転がっていた。



「あのばか、傘持たねぇーで出かけたのか?」



服装は、発信機付き。

この時間で帰宅しないのは、トラブルでもあったのかと、

思考は一気に拉致監禁を疑う。

クーパーで現在地を確認しなければと、

香の部屋を出たところで、

階段を上る相方の気配をチャッチした。

しかし、その足音は聞き慣れたものではない。



「香?」



素早く玄関先に向かうと、

扉の向こうでキーホルダーがチャリチャリと音を立てている。

開くのを待てずに、

こちらから、ロックをすぐに解除して扉を開いた。



目の前にいたのは、

全身ずぶ濡れで、キーをまさに差し込もうとしたまま固まっている香。

濡れて張り付いた前髪の間から視線が一瞬、自分の顔にそそがれるも、

すぐに逸らされた。

様子がおかしい。



「おまっ、なんつーカッコしてんだ?」



香の表情が強張る。

「あ、あれ?りょ、こ、これから出かけるの?」

(わ、笑わなきゃ。)

水滴を払い落としながらの第一声。

香の足元に水玉模様が広がって行く。



「いや、おまぁを探しに行こうかと出るとこだった。」

(まさか、誰かに襲われたとかじゃないよな。

そんな感じの気配じゃない…。)

「ごめん、遅くなっちゃった。すぐに食事作るね。」

(だ、大丈夫、笑顔で答えられてる。こ、声も明るくしなきゃ…。)

抱えているショルダーバッグと紙袋を抱き直す。



「しっかり、濡れてんじゃねぇーか。」

「と、途中で降られちゃった。」

えへへ、とドジっちゃったという表情を作る香。

「傘いつも持っているのに、今日に限って忘れちゃってさぁー。」

後ろ手に扉をばたんと閉める。



「ちょっと待ってろ。」

すぐに踵を返すと、

撩は脱衣所と玄関をあっと間に往復してきた。

その間に、香は荷物を足元に置き、

重く湿った上着をぎこちなく脱ぎ始める。




「……どうした?何かあったのか?」

バスタオルをばさりとかけられる。

真っすぐに見つめてくる瞳に、全てを見透かされる気分になる。

「ううん、何でもないよ。……タ、タオル、あ、ありがと。」

(……それ以上見ないで。……目を合わせられないよ。)



「どこ行ってた?」

「かっ、買い物っ。」

(そ、そう、伝言には何しにどこへ行くって書いてなかったしっ。)



「……買い物袋ないじゃん。」

「あ…。」

「ウソはもっと上手につけ。」

透視するような視線をずっと向け続ける撩。

「ぅ…。」

目を伏せる香。

顔の筋肉が一気に重力に負けた気がした。

ぽたぽたと雫が落ち続ける。



「……まぁ、今すぐ言えるようなことじゃないなら、あとでゆっくり聞いてやるよ。」

優しい声に、香の胸がぐっと締め付けられる。

油断していたら、髪に触られてしまった。

「おいおい、

髪の毛の中までびっしょりじゃねぇーか!

さっさと風呂入ってこい。」



濡れぐあいが想像以上であることに驚く撩。

頭部が冷えているのが伝わる。

「あ、う、うん。」



奥多摩から戻ってきてから、初めての雨。

11月中旬、油断すれば即発熱は間違いなし。

パンプスの中までしっかり濡れてしまい、

香は、致し方なくストッキングをここでぬぐことにした。

本格的に寒さで体が震える。

玄関に常備してある雑巾で足の裏を軽く拭き上げると、

荷物を持ち直して階段を上ろうとする。



「濡れた服早く脱がねぇーと、風邪ひいちまうだろうが。」

「ははは、久しぶりの雨で急に降って来たから驚いちゃった…。」

作り笑いは、もうバレバレ。

まだ撩にはその原因が掴めない。



(一体出先で、何があったんだ?)



先を歩く香の小さな背中を見つめる。

撩は、その空気を気にかけながら、

客間の手前でまた脱衣所に入った。



客間兼自室に入り、ドレッサーに片手をついて体重を預ける香。

大きく息を吐く。

懸命に切り替えようと、まずは呼吸を整え始める。



撩の過去を気にしたらキリがない。

気にしていたら、この男とは一緒に過ごせない。

ある程度は覚悟していた事案ではあっても、

やはりそれは自分が認知できない遠い所のことであって欲しかった。

そう思いながら、鏡台にぽたぽたと落ちる雫を見つめる。



どれくらいそうしていたのか、背後で気配がしてどきりとする。

再び新しいタオルを持ってくる撩。

「開けるぞ。」

「ま、待ってっ。」

言うより、侵入が早かった。

「何もたついてんだ。」

鏡の前でドアを振り向いた香。

そのままばさっと頭にフェイスタオルを被せられる。

気付いたら、上着のボタンがぷちぷちと外されている。

「え?あ?ひゃあ!」



纏っていた物が脱がされ、

ブラが露になったところで、バスタオルが肩から巻き直される。

濡れた服から体温がどんどん奪われていたのが、

唐突に保温へと変わった。

しかし、撩が自分に触れる度に、

その手が、その腕が、

他の女に触れている様子に脳内の画像が入れ替わってしまう。

ずきりと胸が傷む。



撩の視界の端で、

テーブルの上に横倒しになったショルダーバッグから、

各お店の領収書と請求書がはみ出ているのが見えた。

はっとする。

香に気付かれないように、そこに注意を落とす。

領収書は本日の日付。

湿って一部にじんでいる。



収入が入ったところで、一刻も早くツケを払いに行きたいと思い

行動に移した香の夕方の動きを今認識した。

それぞれの店舗で、香が見聞きした情報を推察する。



(油断したな…。)



「早く、風呂に入ってこい。今、湯船に湯入れてあっから。」

「…ぁ、…りがと。」



肩を抱いて促す。

香は、離れ際に自分のぬれた服を受け取った。

時間は7時半前。

「チャーハンでも作ってやっか…。」

カーテンの奥に入った香を見送った撩は

そのまま隣りのキッチンに向かった。






香は、シャワーを浴びながら、自分の体を観察する。

二の腕に、鎖骨に、胸骨に、乳房の裏にと、

撩の痕跡を見る。

バーでも言われた言葉を思い出す。



—  きゃー!!信じらんないっ!撩ちゃんがキスマーク残してるっ!!  —



撩自身も言っていた。

初めてだと。

それが、自分にとっても、

特別な存在であることを感じさせる重きキーワードであることを

知らず知らずのうちに、拠り所として受け止めていた。



泡を洗い流し、

程よく溜まっている湯船に入って体を沈める。

きっと、撩が最初にタオルを取りに行った時、

湯の出る蛇口を全開にしていたのだろう。

短い時間でたっぷり浸かれる水位になっていた。

香は、膝をかかえて、目をくっと閉じる。



この街に撩と関係を持ったオンナが点在するという事実。

比較的近い位置で、

撩の肌を知っているヒトがいるというだけで、

どうしようもない感情が湧いて出て来て押さえきれなくなる。

そんな自分が、許せなくて、醜くて、汚らしくて、

持て余す感情に潰されそうになる。



自分は、撩しか知らない。

撩は、もう文字通りの百戦錬磨。

オンナの扱いは、プロフェッショナル。

そんなことは、とうに分かっていたはず。

撩と身を繋いだオンナが複数いることだって、

前々から理解していたはず。

それでも、そばに居たいと強く願ったのは自分ではないか。

なのに、この整理できない感情に、

いつも通りの自分が覆い尽くされてしまいそうで。

それを振り払う余力も残っていない。



「……あ、あたしって、やなオンナよね…。」



(こんなことで、心を乱して、やきもきするなんて、

きっと撩も迷惑だわ……。仕事にも差し障りが出る……。)



しかし、いくら切り替えようとしても、

自分と知り合う前の撩のことを垣間知ったことや

一緒に住み始めてから間もない頃のことを思い出し、

どくりどくりと心臓が暴れる。



これはきっと、

嫉妬、ねたみ、つらみ、

もしかしたら恨みや殺意に近いものも育っているかもしれない。

具体的な情報を得てしまったことによって、

その感情が増幅してしまった。

今更、本当に今更そんなことを気にしてもどうしようもないのに。




—  あなたと、私たちは、根本が違うもの。  —

—  商売なの。感情はなし。  —

— あの、撩ちゃんが愛情込めてオンナを抱くなんて皆無だったのよ。 —

—  香ちゃんだけよ。撩ちゃんが心から甘えられるのは…。  —

—  3年近くよ!たぶん!撩ちゃんがオンナ買わなくなったのは!  —




色々な会話の端々がエコーして蘇る。
 
とてもじゃないが、まともに撩と顔を合わせられない。

こんな心理状態では一緒に寝るなどムリに近い。



「ど、どうしよう…。」



(今日は、……自分の部屋で、……休もうか、な。)

それでも、撩はきっとトラップをなんなく突破して

様子を確認しにくるだろう。



「逃げらんない、か…。」



「そ、それよりも、早く夕食作んなきゃ!」

暗い顔をしていてはだめだと、

それは撩に余計な心配と不快感を与えるだけだと、

やるべきことに意識を向ける。

(……いつも通りに、普段通りにしなきゃ。)



浴室を出ると、香ははっとなった。

いつの間にか、インナーと下着が用意してある。

「りょ…。」

初めて自分が何も持たずに浴室に入ったことに気付く。

タオルを持ってきてくれた上に、

湯船も準備して、着替えまで整えてくれるパートナーに、

自分はなんて感情を持ってしまっているんだろうと、

更なる自己嫌悪に陥りそうになる。



香は、重たいものを引きずりながらも、

着替え終わり、髪の毛を大急ぎで乾かした。

やっとの思いで、身支度を整えると、

夕食の準備の取りかかりが遅くなったことを詫びる気持ちで、

キッチンへ向かった。



すると廊下には、ニンニクとオーリーブオイルの香りが漂っている。

「そ、そんな!」

それが意味することを瞬時に理解した香は

慌ててキッチンの扉を開けた。


********************************************
(17)につづく。





かおりちゃん、ちょっとどろどろモードです。

17-15 Autumn Rain (side Kaori)

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目


(15) Autumn Rain (side Kaori) ****************************** 3224文字くらい



あのバーの空間から表に出たとたんに、

現実世界に無理矢理引き戻された気分だわ…。



まるで背中に、

何かがずっしりとのしかかる感じがする。

射撃の疲れなのか、

それとも、ツケの支払いで3軒のお店を巡ったせいなのかしら…。



身体的な疲労もあるけど、

やっぱりエロイカで聞かされた話しの内容が、

胃の中にべっとりとこびりついているようで剥がれない。

それがまるで胃潰瘍のようにちくちくと傷む。

それでも、さっきのバーテンさんの計らいで、

穏やかになれる時間を少しもらうことができたけど…。



「とりあえず、今日のノルマはおしまいね…。」



ひゅうと強いビル風が吹く。

早く歩きたいのに、思うように前に進まない。

低気圧が近付いている時に感じるひんやりとした空気が、

繁華街のアスファルトを撫でて行く。

街路樹の葉が揺れ、

歩道に落ちている枯れ葉はまとまって小さな渦を作る。



「は、早く帰らなきゃ。」



『BARカジノ』は3軒の中でアパートから一番遠い。

あたしは、ビルの間から見える黒い空を見上げ、

小走りで自宅に向かった。



「撩は、もうミックのとこから戻ったかしら?」



出かける時は5時前だったのに、今はもうすぐ7時。

2時間以上経っていれば、もう家に帰ってるかしら。

書き置きに、どこに行くって書かなかったから、

余計な心配をかけているかもしれない。

ううん、むしろ夕食も気にせず、

そのままミックとどこかの店に繰り出していることも

充分考えられるわ。

どっちにしても、早く戻って食事作らなきゃ。




あたしは、そんなことを考えながら、

舗装された道を進んでいたら、

一つ二つと水玉模様が広がって来た。



「やだっ!降ってきた!」



タンタンタンと店舗の屋根や窓に当たる雨音は、

そのうちザーッという砂嵐の効果音と重なった。

暗くなった街を歩く多くの通行人たちも、

急いで傘を出す派と建物に避難する派とに別れる。



「わー、だめっ!傘出さなきゃ!」



あたしは、あわてて雑居ビルの入口に避難して、

ショルダーバッグを開けた。



「あれ?」



がさがさと中身を掻き分ける。

「うそ!」

探しているものが見つからない。

「あーん!傘忘れちゃったっ!」

自分の不注意さに情けなく思いながら、

暫く様子を見るも、

通り雨とは雰囲気が違う冷たい大きな雨滴に、

あたしは三択を迫られた。



このまま濡れてダッシュで帰宅するか。

電話のあるところまで行って、撩に電話して迎えにきてもらうか。

コンビニまで走りビニール傘を買って帰るか。



「うーん…。」



正直、今は撩と顔を合わせ辛い。

心の整頓が全く出来ていない上に、

連絡を入れても撩がアパートにいる保証はない。

傘をわざわざ買うのも、もったいない。

ここは、バーからアパートまで丁度中間地点。

この場所で、いつまでもこうしている訳にはいかないし…。



しばらく、雨足の強さを窺っていたら、

雨雲の隙間に入ったのか、小雨に切り替わった。

「ど、どうしよう…。」

きっと、このまま止むっていう感じじゃないわよね…。

でも、ここからなら走れば10分もかからないはずだし…。

この小雨なら傘がなくても、そんなに濡れないと思うし…。

このチャンスを逃したら、たぶんまた当分足止めだわ。



あたしは、帰ったらすぐに着替えれば大丈夫と心を決め、

氷の入った紙袋と、ショルダーバッグを両腕で包んで、

そのまま小粒の雨の中を走ることにした。



「うわっ…、思ったより冷たい!」



11月の雨の温度を見くびっていた。

小さい水滴が頬や手の平に当たるたびに、そこから冷気が広がっていく。

とにかく急がなきゃ。



あと、アパートまで数百メートルところで、

雨粒が大きくなってきた。

「や、やだっ!」

冷水のようなシャワーに服はみるみる重たくなっていく。



まるで、今のあたしの心の中身をそのまま表しているかのように、

足元からじわじわと冷えていく。

たまった水たまりを避けながら、小走りでただひたすら目的地に急ぐ。

慣れ親しんだこの道のりが、

まるで延々と続く様な錯覚に襲われる。



教授も教会で言っていた。

アメリカ時代も派手に遊んでいたと。

大人の男が遊ぶといったら、

何を指すかくらい分からない訳ではなかったつもりだった。



だけど、自分が具体的な体験をした後に、

改めて聞かされた撩の夜の行動に、

考える必要のないことが、

毒ガスを送り込まれるように膨らんで行く。



あたし以外の女と肌を合わせる男の姿が、

撩に快楽を与えられ身を捩る顔も名も知らない女の姿が、

自分の意思に反して、リアルに映像化されてしまう。



「はぁ、…はぁ、…はぁ、…はぁ。」



自身の呼吸までが、見ず知らずの女の喘ぎ声に聞こえ、

思わず息を止めた。

一瞬転びそうになるも、持っている小瓶のことを思い出し、

転倒寸前で体勢を立て直す。



「……さむっ。」



体温が下がってくる。

晩秋の雨を甘く見ていたことを、少し後悔する。

もう髪の毛は雫が滴り落ちる程に水気をかぶり

ローパンプスもびっしょりと濡れてしまった。



撩が何人の女と関係を持っていても、

これから先、他の女を求めても、

あたしは、……あたしには、撩を責める権利はない。

それは分かっていたはずでしょ。



一緒に暮らしていて、

あいつが女を抱いて戻ってきたことを分かっていたこともあったでしょ。

今更、……何を、今更……。

分かりきっていたじゃない。

あいつは女好きで、こんなことあいつにとっては、

何でもないことを。



それを承知で、撩と一緒にいることを決めたんでしょ。

パートナーとして、撩を支え続けるって。

ずっと一緒にいるって…。



そう、何でもない、何てことないことなのよ。

あいつのもっこり好きは、病気だからっ!

キスだって、体を繋ぐことだって、

あいつにとっては、きっと水を飲むのと同じくらい、

普通のことなのよ!



『おまえじゃなきゃダメなんだよ』って言われたけど、

『愛する者』って言われたけど、

きっとあのセリフも、

他の女にも口説き文句で当たり前に使っているものなのよっ。

その言葉を自分だけだとか、特別だとかなんて、

思い上がりも甚だしいわ。

そもそも、あいつの過去のオンナを気にしていたら、キリがないわよ!



そう強く自分に言い聞かせ、

靄を振り払い、気持ちを切り替えようとしても、

この激しい心のざわめきが収まらない。




「…ぅ。」




雨と一緒に涙も頬を伝う。

これは嫉妬。

簡単なことだわ。

撩に関わって来た全ての女に、見苦しい嫉妬心が見事に育っている。

一線を越える前とは明らかに違う、

このどろどろとした感情に、

収拾をつけることができない。



だめ、これじゃ、撩に煩(わずら)わしがられちゃう。

こんな感情で撩を困らせることはしたくない。

女に束縛されることを好む男ではないはずだから。

あの男は、あたしだけでは絶対満足できるはずがないから。

それを理解していた上で、

撩を受け入れたんじゃなかったの?




頭の中はショート寸前。

こんな気持ちのままでは、アパートの中に入れない。

笑わなきゃ。

何もなかったように、いつも通りの顔で。



「っは、…はぁ、…は、……はぁあ。」



ようやくアパートの前に辿り着いた。

上を向くヒマもなかったので、

6階の電気がついているかを確認できなかった。



「……しっかり、濡れちゃった。」



軽くぴょんぴょんとその場で跳ねると

雨の雫がばらばらと足元に散って模様を作る。



「早く上がらなきゃ…。着替えて食事の準備ね。」



車庫にクーパーはある。

撩は車では出かけていない。

あたしは、冷えつつある体を自分で抱き締め、

作り笑いの準備をしながら、

一段一段アパートの階段を上って行く。

踏みしめる度、パンプスからくちゅっと音がする。



「さむ…。」



通った後には、滴の帯が続く。

少し体が震え始めた。

ようやく5階まで辿り着き、

冷たくなった指で、玄関の鍵を開けようと

キーを取り出したところで、

がばっと扉が開いた。



「きゃ!」



逆光でその輪郭しか見えない相方が、

大きな影として目の前に立ちはだかる。

この時、あたしは

撩の顔が見えなくてよかったと、

ふっと小さく息を吐いた。



*********************************
(16)へつづく。




香ちゃん、これまでは、恥ずかしさが先きにたち、
意識がそんなに向いていなかったことろに、
エロイカで聞かされた情報で、
撩の言葉にまで信じる気持ちをそがれています。
そんな時にこの冷たい雨。
折角、今朝方撩の本心に触れることができたのに、
この感情、やや厄介そうです。

17-14 Bar Casino

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目


(14)Bar Casino  ***************************************** 3717文字くらい



「エロイカ」の裏口から表通りへ出た香は、

明るく振る舞うモードを無意識に解いてしまった。

大きく溜め息がでる。



一気に知らなかった情報が浴びせられ、

これまで、なんとなくとしか感じていなかった

撩と他のオンナとの話しを間接的にかつ具体的に説明されてしまい、

足元は、まるで田植え前の田んぼの泥の中を歩いている気分になっていた。




「……次の、お店はさっさとすませなきゃ…。」

今日渡す予定の残りの封筒をバッグの中で確認しながら、

香は目的地に足取り重く向かう。




「『カジノ』さんも久しぶりかも…。」

ここは、正面からお邪魔することにする。

まだ、看板は出ていない。



「こ、こんにちは…。マスターいます?」

ここもお決まりのように、カウベルがカランと鳴った。

「香さん!」

カウンターの向こうで、若いバーテンダーは持っていた

ビールケースをがしゃんと落とした。

「ご、ご無沙汰しています。あ、あのツケの支払いに来ました。」

慌てて入口に駆け寄る男は、心配そうに声をかけた。

「い、い、いいんですか?出歩いて!」

「は?」

「いや、だって…。赤ちゃんが…。」

「え?あっ!そ、そ、そ、それウソですからっ!」

香は、先日聞いた自身の懐妊説をずばりその耳で聞き、

慌てて否定した。

「ち、違うんですか?ほ、ほんとに?」

「もう!本人が違うって言っているんですから、間違いないです!」

香は視線を足元に落としながら、赤くなってそう返事をする。



「いや、まわりが当たり前のように、そう言っていたものですから…。

大変失礼しました…。」

「はははは、なんでそんな話しがでちゃうんでしょうね〜。」

香は、最後まで言った後に、墓穴を掘ったとはっとした。



「もうこの界隈、お祝いモードですよ。

今日、ここに来て下さってありがとうございます。

どうぞ座って下さい。是非出したいものがあるんです。」

「え、いえ、そんな、ツケを払いに来ただけなんで、すぐにおいとましますから。」

封筒を取り出そうとする香を制して、バーテンダーは席を勧めた。



「香さん、南極の氷を味わってみませんか?」

「な、南極?」

そのままスツールに座らざるを得なくなる香。

「そうなんです。

マスターの知り合いに国立極地研究所に出入りしている奇人がいましてね、

その方を経由して手に入れた特別な氷です。」



カウンターの中に戻って行くバーテンダーを目で追いながら、

いつだかテレビで見たペンギンたちがブリザードの中で耐えている姿が思い浮かぶ。

彼は、業務用冷凍庫を開け奥から、タッパーを取り出した。

それをアイズボックスにいれ、アイスピックで手際よく適度な形に砕いていく。




「ウィスキーを割る時にお出しするんですが、

香さんには氷そのものの味と空気を純粋に楽しんで頂きたいと思いますので、

富士山の地下水を使わせてもらいますね。」

丈の低いグラスの中に、大きな氷の固まりが一ついれられ、

ビン詰めされた軟水をゆっくり注がれた。

そのとたんに、シュワシュワシュワ…と、

氷に閉じ込められている空気が弾ける音が小さく奏でられた。



「……2万年前の空気が溶け出す音です。」

「に、2万年前??」

「地球の歴史に比べたら、2万年という長さはほんのわずかなものですが、

それでも、その当時に南極に降った雪が固まって出来た氷と

その中に閉じ込められた空気を目の当たりにすると、

どこか厳(おごそ)かな気分になってしまいますよね。」



香は、クラスの中で目に見える小さな気泡をじっと見つめた。

「……2万年前、か……。」

頬杖をついて、グラスを傾ける。

「ねぇ、あたし、歴史のことよく分からないんだけど、

2万年前の地球ってどんな感じだったのかしら。」

「ああ、私それ調べたんですよ。お客様にお出しすると必ず聞かれるので。」

苦笑しながら、若い男は答えた。

「最後の氷河期のピークらしいです。今より海水面が100mも低くて、

陸地と島が色々なところでくっついていたみたいですよ。」

氷が入っていたタッパーを冷凍庫に戻しながら振り返る。

「今よりかなり寒かったっていうこと?」

「平均気温は7、8度低かったみたいですね。」

「うわ…。」



今、私たちがこうしているのも、遠い先祖たちが

その氷河期を生き延びてきたからだと思うと、

ぐっと胸を掴まれる気分になった。

全ての命がその数万年、数億年の背景を背負っている。

自分も、撩も、出会う人みんな、命あるもの例外はない。



「なんか、すごい…。」

「でしょ。」

洗い残しのグラスを1つ丁寧に洗い始めるバーテンダーは、

香を優しく見つめる。



「……飲むの、もったいないな……。」

「私も、余程のことがなければ出しませんよ。

それに相応しいタイミングだと思ったからです。」

拭き上げたグラスをことりを置き、目を細めて微笑む。



「香さん、本当によかったですね…。」

「……ぁ。」

何がと言わないカウンターの向こうの笑顔に、

香は思わず薄く微笑み返した。



「どうぞ、味わってみて下さい。」

「ぃ、ぃただきます…。」

香は両手でグラスを持ち上げて、つと唇を寄せた。

こくりと柔らかい冷たい水が喉をじんわりと下って行く。

細かい泡が粘膜にとても心地いい。

「あ、おいし…。」

「本来は、かなり純水に近いものらしいですが、水としての美味しさは申し分なしかと。」

「ほんとにそうね。」



二口、三口と舌の上で転がしながら水を味わう香。

「できれば、氷が全部溶けるまでここで、ゆっくりして頂きたいのですが、

あまりお引き止めする訳にはいきませんよね。」

「あっ、い、今何時かしら?」

「もう6時半過ぎましたので、お夕食を準備する時間じゃないですか?」

(そうだった。さっさと3軒支払いを済ませてくるはずだったのに、

行くとこ行くとこで、もてなしてもらって、

予定より随分時間を使ってしまったわ。)



もう外はすっかり暗くなっている。

南極の氷は、大きくカットされているので、

ちょっとやそっとでは溶けきれそうにない。

「ビンに移して、お持ち帰りができるようにしましょうか?」

「え?」

「ちょっと待って下さい。ここに確か、スクリュー式のフタ付きのビンが…、

あった、あった。」

カウンターの下から取り出されたのは、

ジャムなどを入れる形に近い金のフタのガラス瓶。

「これは、もう熱湯消毒してありますから、

そのまま移してご自宅に持ち帰れますよ。

保冷剤も用意しましょう。」

そう言いながら、テキパキと準備をする男は、

マスターがいないのをいいことに、

香への過剰なサービスを進める。



「あ、そんな悪いわ。溶けるまで居てもいいんでしたら、ここで飲みますよ。」

「いえ、ひきとめた私が言うのもなんですが、

早く帰って頂かないと私が冴羽さんに怒られます。」

にっと口角を上げながら、

紙袋とエアクッション材と、瓶を用意し、

香のグラスを渡すように手を差し出した。

「またお二人で寄って下さい。その時は溶けるまでのんびりお過ごし下さい。」

「……あ、ありがとうございます。じゃあ、…お願いします。」

「かしこまりました。」

飲みかけのグラスを受け取り、器用に広口の瓶へ移す。



「あ、氷に気をとられて忘れていたわ!」

はっと思い立って、がさがさとバッグの中身に手を伸ばす香。

「あ、あの、これ撩の半年分のツケです。金額確認して頂いてから

領収書かなにかを頂ければと。」

「ああ、そうでしたね。僕も忘れていました。」

きゅっと瓶のフタを閉めた男は、素早く梱包して保冷の効いた紙袋を香に渡し、

物々交換のように封筒を受け取った。

そのままレジへ向かい、領収書を記入し始める。

香は、時計を見て帰宅時間を計算する。

(7時までには帰れるかな。すぐに食事つくらなきゃ。)



「香さん、これでいいですか?」

きちんと額面通りに書き込まれた領収書に、香は一安心する。



「ありがとうございます。ご迷惑おかけしました。」

「いえ、たぶん、マスターだったら受け取らなかったかもしれませんよ。」

「え?」

「さすがに、これは僕が勝手にする訳には行きませんが、このタイミングで

冴羽さんたちから、お代を頂くなんて心苦しくて。」

そう言いながら、男は香が持っていた封筒を返した。



「中に割引券が入っていますので、またいつでもご利用下さい。」

「そ、そんな!長いことお支払いできないままだったのに、

むしろ利子を付けてお返ししなければならないくらいなのにっ!」

「お二人とも大事なお客様です。ご遠慮なくいつでもまたお越し下さい。」

「……お、お気遣い、ほ、本当にありがとうございます。

……りょ、撩にも、伝えておきます。」

レジを挟んで向き合う2人は、同じ男を思い描きながら、

くすくすと笑い合った。




「そ、そろそろでなきゃ。」

つま先を出入り口に向けた香にバーテンダーが呼び止めた。

「あ、香さん、傘お持ちですか?」

「え?折りたたみ傘持ってますが。」

「よかった。久しぶりに雨が降るようですよ。昼の天気予報でそう言っていました。」

「ありがとうございます。じゃあ、急いで帰らなきゃ。」

「お気をつけて。」

「おじゃましましたっ!」

カランと音を立てたカウベルが心地良い余韻を残す。



「マスターに報告しなきゃな。」

レジをカシャンと閉めたバーテンダーは、

いつまでも笑みを残していた。


********************************
(15)につづく。





「Barカジノ」はミックがアパートにやってきた後、
撩と2人で飲みに行ったお店ということで、
こんな形で使わせて頂きました。

南極の氷ネタは、長沼毅さんが出演されていたテレビから。
この方、面白すぎるわ。
一方で、「美味しんぼ」第11巻にも
10万年前の氷ネタがありましたが、
空気のはじける表現がちょっと違うんだな。
実際の空気が溶け出す音は、
こちらの映像で疑似体験〜、最初の2分が南極氷ネタです。ご参考まで〜。

【誤植連絡感謝!】
Sさんありがとうございました!
純粋→純水に訂正しました〜。
本当にご一報助かりますぅ〜。
[2013.11.29]

17-13 Orange Bararois

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目  


(13)Orange Bararois  ****************************************2567文字くらい



「今からお酒飲ませちゃうと撩ちゃんに怒られるから、

デザートで勘弁してね♡」

「ママさん…。」

テーブルの上に置かれたオレンジババロアを、

さくさくと切り分けて取り皿に移す主人。



「さぁ、どうぞ!召し上がれ!」

目の前にぐいっと突きつけられた、

可愛い小皿の中でオレンジ色に揺れる軟質固体。

小さく絞られた生クリームの白とハーブの緑の色合いが食欲を刺激する。

ちょっとひるむも、

その甘い香りとちょんと乗せられたミントが香の鼻腔をくすぐった。



「香ちゃん、食べさせてあげましょうかぁ?」

小さなスプーンを持って構える『彼女』。

おでこに縦筋を描きながら、ぶんぶんと首を横に振る香。



「い、いえっ!!

じ、自分で、た、た、食べますっ!い、い、いた、だきますっ!」

慌てて小皿を受け取り、右手にデザートスプーンを持つ。

ゆっくりとそれを差し込むと、ゆるるんとババロアが振るえた。

最初の一口をつるりと舌の上に吸い込ませる。



「あ、美味しい…、オレンジの味がすごく優しくていい甘さ。」

「でしょぉ〜?」

「ほら、ここお酒飲むところだから、甘いデザートってあまり置かないけど、

このコが作るオレンジババロアはリピーターが多いのよ。」

香は、この愛情そのまま味なったような感覚に、

さっきどろりとした感情が育ちそうになったものが

このデザートで消火されるような気分になった。



「ほんとに、美味しいです。」

香は、ほんのり頬を染めて、作った本人と目を合わせる。

しかし、こんなデザートを作れるとは到底思えない容姿とのギャップから、

思わず顔面神経が引きつってしまう。



「香ちゃんに褒められるとすっごく嬉しいわぁぁぁ♡」

両手の平を頬に添えて、くねくね体を波打たせるオネェの様子に、

香は、くすくすと笑みを浮かべた。



「香ちゃんの笑顔って、ほんといいわよねぇ。」

ババロアを口に運ぶ様子を見つめながら、

ママが肘に頬杖をついて、溜め息まじりに呟くママ。

「こんなステキな笑顔をいつもそばで見られるなんて、撩ちゃん羨ましいわぁ。

手放せなくなるの当然だわ。」

「そ、そ、そんなっ!あ、あ、あたし、撩と一緒の時は怒ることばっかりですからっ!」

「そ・れ・は、香ちゃんにかまってもらいたくて、わざと怒らせてんのよっ!」

別の『彼女』が横から割り込んだ。

「そうそう、ハンマーだって嬉しくって受けているだから、撩ちゃんって絶対Mよねぇ〜。」

「え、えむ?」

スプーンを銜えたまま暫し固まる香。

「そ、マゾ!いじめられて痛い思いをすることに快感求めてんのよ!」

「はぁ?」

「オトコって、そんなところがあるわよねぇ。」

「そうそう、香ちゃん、男はいつまでたっても子供みたいなもんだから、

好きなコに意地悪して、気を引くことを狙うような小学生と一緒よ。」

かつて男だった厚化粧の彼女は、まるで絶対的な法則のように断言する。



「でも、香ちゃん、また悩む様なことがあったらいつでも来てちょーだい。」

「そうそう経験豊富なあたしたちが、ちゃぁーんと聞いてあげるからっ♡」

いっきに顔の距離を縮めてくるオネェたちに、

思わず背中がのけぞってしまう香。



「っはいっ、…あ、あ、ありが、と、ぅ、ござぃます…。」

そこで、香ははっと思い出して、

食べかけのババロアをテーブルに置き、

バッグから顔だけ出している封筒を引っ張り上げた。

「あ、あの!これ受けとって下さい!」

ママの手に押し付ける香。

「な、中身を確認して頂いて領収書頂ければ嬉しいですっ!」

「あ、そうだったわね。ちょっと待っててね。」

ママは、厚みのある封筒を受け取って、レジへ向かった。



その間に、香は残りのババロアをつるるんと完食した。

「ご、ご馳走様でしたっ!お、美味しかったです!とっても!」

制作者に向かって頭を下げる香。

「香ちゃんのためなら、いつでも作ったげるわよん♡」

褒められたのが嬉しいことをあらかさまに全身で表現する『彼女』。



「はい、これ領収書。」

戻ってきたママから手渡された封筒は明らかに、

領収書以外のものが入っている。

「ちょっ、ちょっとママさん!まだお金入ったままですよ!」

香は、封の入口をちらっと見て、ママに戻そうとする。

「いーのよ!そのまま持って帰って頂戴!」

香から突きつけられた封筒をそのまま受け取ると、

香のショルダーバッグにぐいっと押し込んだママ。

「ママさん!」

「半分だけ頂いたから、あとの半分はあなたと撩ちゃんで楽しいことに使って頂戴。

また今後はちゃんとツケの請求させてもらうから。ね。」

「ママさん…。」



どうして、新宿界隈の皆は、

こうして私たちに有り余る心配りをしてくれるのだろうと、

香は、涙腺がじわりと熱くなった。

「……あ、ありがとうございます。……でも、やっぱり頂き過ぎですよ。」

「いいの!さ、遅くなると、撩ちゃんが心配するわ。

香ちゃん、この後またどこかのお店に寄るの?」

「あ、今日はあと1軒伺おうかと。」

「そう、もう暗くなっているし、お天気も崩れるみたいだから、気をつけてね。

あ、撩ちゃんに電話して迎えに来てもらおうかしら?」

「あ!いいです!たぶん出かけていると思いますんで。」

「あら、そうなの?」

「こんな時に、香ちゃんを一人歩きさせるなんて、撩ちゃんも酷いわね〜。」

「あ、いえ、私が勝手に出て来たので、撩もミックと何か大事な話しがあるようだったし…。」

「あら、ミックと一緒なの?」

「は、はい。た、たぶん。」

「でも、もう夕食準備の時間でしょ。

引き止めちゃってごめんなさいね。裏口まで送るわ。」

「香さん、また来てね!」

「待ってるからねっ!」

「あ…、その、ま、ま、また寄らせて、い、頂き、ますっ。」

「じゃあね〜!」

センターのソファーから立ち上がった香を皆が笑顔で送り出した。



ママに連れられて、入ってきた裏口まで来る。

「開店準備のお邪魔になってごめんなさい。また撩をよろしくお願いします。」

「何、かしこまったこと言ってんの。いつでも来て頂戴。」

「はい!じゃあ失礼します!」

にこりとして、香は軽く会釈をすると、路地裏から表通りに出て行った。



姿が見えなくなるまで、目で見送るママ。

ふっと上を見上げる。

細長く切り取られた黒い空には、星は見えなかった。

「雨に当たらなきゃいいけど。」

そう呟くと、優しさをまじえた瞳で、

店内に戻って行った。


********************************************
(13)につづく。




「彼女たち」は全然悪意はないのですが、
香ちゃん、心の深いところに腫瘍ができちゃったかもです。
帰宅後、除去手術は撩ちん任せで…。

訪問者リストに足跡を残して下さった皆様へ 2

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17-12 Gay Bar "Eroica"

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目  


(12) Gay Bar “Eroica”  *************************************** 4119文字くらい



「ど、どうしよう…。こんなに返してもらっちゃって…。」



香は、返金してもらった分の金額の大きさに、

お祝いにしても頂き過ぎだと、

指定席がない紙幣に、やや困っていた。

(とりあえず、またいざって時のために、キープかな。)





「えーと、次は…。」

新宿南署方面に向かっていた足が止まる。

「『エロイカ』、か…。」

正直、一人では行きたくないが、パートナーのしでかした後始末も、

またパートナーの役目だと、ぐっとショルダーバッグの紐を握りしめ、

目的地に向かった。



「ついちゃった…。」



5時半過ぎ。

見上げた看板には『ゲイバーエロイカ』と

でかでかと文字が主張されている。

撩御用達のオカマバー。

ここは裏口から入ることにする。

狭い路地にまわり、目的の小さなドアをノックする。



「はぁい?どなたぁ?」



奥から野太い声がした。

「槇村です。」

やや大きめの声で返事をする。

するとドタバタドタバタと複数の体重の重たそうな人間が

ドア向こうに近付いてくるのが分かった。



がちゃりと勢いよく扉が開き、香の鼻先と接触しそうになる。

「きゃっ!」

「香ちゃんっ!よく来てくれたわっ!さささ!中に入ってぇ〜♡」

主人のオカマママの迫力ある登場。

「あ、あのツケの支払いを…。」



香はそのまま2、3人の女の姿をしたガタイのイイ元男たちに、

腕をぐいぐい引っ張られて、店内のセンターへ連れ込まれてしまった。

「いーから、いーからぁ〜!」

二の腕の筋肉が目立つニューハーフの面々は、

もうこれ以上ないキラキラした表情で香を取り囲んだ。



「はい、ここに座ってぇ〜♡」

「きゃあっ!香さんじゃない!」

店内で準備をしていた他の店員が気付いて、どやどやと集ってくる。

「わっ、あ、あのっ、きょ、今日は撩のツケを支払いに来たんで…。」

香はあっというまに、10人程の種無しに囲まれてしまった。

「ツケぇ?」

「そ、そうなの、えっと、こちらも確か半年分未払いがあって、

請求書の金額を、一応揃えてきましたので、か、確認して頂けます?」

封筒をおずおずと出すも、

長身のオカマたちにぐるりと壁を作られ、香も言葉がスムーズに出てこない。



「んんまぁ!撩ちゃんったら、なんで香ちゃん一人にこんなことさせるのかしら!!」

「一緒に来ればいいのにぃ!」

「撩ちゃんの尻拭いだなんて、香ちゃん、かわいそうにっ!」

中には、ハンカチをくわえて涙を流す輩もいる。



「あ、あの、お店の開店準備でお忙しいと思いますから、

あたしも領収書受け取ったら、すぐに帰りますんで…。」

引き止められそうな空気を珍しく読んだ香は、

長居はする気はないことを、やんわりと伝える。



「遠慮しないで、香ちゃん!あたしたち、あなたが来るのを待ちに待っていたのよぉ。」

「え?」

「ほら、普段は、撩ちゃんに傘を届けにくるとか、今日のようにツケの支払いとか、」

「あ、あと、撩ちゃんが酔って持って帰っちゃったウチの備品なんかも

返しにきてくれる時があるでしょっ?」

「撩ちゃんよりも、香ちゃんが、ウチに寄ってくれるほうが、

みんな喜ぶのよ。今日会えて良かったわぁ〜。」

「忙しいの?仕事入っているの?」

立て続けに言葉のシャワーを浴びて、香はたじろぐばかり。



「あ、い、いえ、依頼は全然ないんですけど、

ちょっと通っていた場所があって…。」

「ちょっとあんたっ、ウトイわね!香ちゃん、キャッツのミキさんのお世話をしていたのよ!

ね!香さんっ!」

もうそれもバレているのかと、香は浅く溜め息をついた。



その時、俯き加減になったのがいけなかったのか、

鎖骨下にある赤いうっ血痕がちらりと、すぐそばのオカマの目に入ってしまった。



「きゃああ!カオリさんっ!それってっ!」

そのオカマが、香のカッターシャツの胸元にちょいっと太い指をかけて覗き込む。

「うっそぉぉーー!!撩ちゃんがキスマーク付けてるっっ!!!」

「きゃあああー!!信じらんないっ!撩ちゃんがキスマーク残してるっ!! 」

「えーーーーーっっ!」

「ちょっ、ちょ、ちょっ」

みんなして、香の服を覗こうとするので、香は日本語にならない言葉を発しながら、

慌てて両手で襟元を絞って隠した。



「ちらりと見えちゃったけど……、し、信じられないわぁ……。」

香以上に顔をピンクに染めて、両手を頬に添える「彼女」たち。

「香ちゃん、本当におめでと!あなた、撩ちゃんと、ついに…。

やっぱりウワサは、間違いなかったのねっ!」

おもむろに隣に座ったこの店のママが、涙を流しながら香を抱き込んだ。



「むはっ!く、くるし…!」

「あらあら、ごめんなさいねぇ〜、もう嬉しくって…。」

巨体がゆっくり離れると、香は赤い顔でぷっはぁ〜と深呼吸をした。

「香ちゃん、お祝いよ!折角だから何か飲んでかない?」

「あら、だめよ!撩ちゃんが帰りを待ってんだから。」

「ちょっとくらいいいじゃない!」

「ねぇ、あたしのお手製のデザート持ってくるわ。あれならいいでしょ?」

ガタイのいい「彼女」がにこやかに席を離れる。



「ねぇねぇ、香さぁーん、聞きたいことが一杯あるのよぉー。」

「き、き、聞きたいこと、って?」

香は内心質問攻撃がキターっと、びくついて構えた。

「ちょっと、ちょっと、香さんをいじめちゃダメよ!」

「でも聞きたいじゃなぁーい!

あの撩ちゃんが、どうやって香さんを口説いたのか!」

「あーん!あたしも知りたぁーい!」

「く、口説くって…。」

香は、ソファーの真ん中に座らせられて、

まさに四面楚歌状態。

物理的には全く逃げらそうにない。



言い淀んでいる香の横でふっとママが短い息を吐き出した。

「撩ちゃんね…、いつ頃からだったかしら。

ぱったりとオンナ遊びをやめて、ここに通うことが多くなったのよね…。」

遠い目をして語り始めるママ。



「はぁ?」

「そうそう、あたしもウワサで聞いたことある。

撩ちゃん、表では見境なく女性に声かけているけど、

実際は、プロしか相手にしないって。しかも、かなり厳選しているって。」

「余計なことをしゃべらない割り切ったプロ中のプロでしょ。」

「少しでもリョウちゃんに、気があるようなそぶりがあると、

上手にかわしてたもんねぇ〜。」

香は、唐突に撩の夜の行動の生々しい情報を耳にして、少し気分が悪くなった。



「それがさ、全くそぉーゆーことをしなくなったって新宿界隈がどよめき始めたのよ。」

「3年以上よ!たぶん!撩ちゃんがオンナ買わなくなったのは! 」

「EDじゃないかって、ウワサしてたこともあったのよっ!」

「香ちゃんに、操を立てていたのよ…。」

ママが静かに呟いた。

「は?」

ふいに、教授の話しが脳裏に蘇る。

「撩ちゃんがね、この街にやってきた時は、そりゃ、ウリをしている女の子たちが、

いかにきっかけをつくるか、激しく競い合っていたのよ。」

「撩ちゃん、黙ってればカッコいいしね、謎めいていて、色々知っているし、

外国の言葉も何でもオッケーだから、お店のトラブルもたまに解決してくれて、

昔っから、あっちこっちで引く手数多だったのねぇー。」

「でも、撩ちゃん、1回キリなのに、見る目がかなり厳しくてね、

まず新人には手が届かないのが当たり前だったわ。」

「誰と寝たかを自慢するようなコは、まず相手にしなかったしね。」

「そうそう、ただね、あっち(アメリカ)で、けっこう悲惨なことも多かったみたいでね、

撩ちゃんの顔を知ったオンナは、必ず人質にされるっていう話しがあってね。」

「ひ、人質?」

「そうなの、ウワサだけど、撩ちゃんをおびき出すためのエサに使われて…、

ってここから先は、撩ちゃんの許可なしじゃ、しゃべれないわね…。」

香は一瞬、アパートに泊まり込んだ冬野葉子のことを思い出した。



「そうよ!ママ、ちょっとこの場には相応しくない話題よっ。」

「方向変えましょ!」

「とにかく!あなたのお兄さんと組み始めてから、撩ちゃんに変化が出始めたのよ!」

「ア、アニキと?」

「そして、香ちゃんと住むようになってからは、撩ちゃんの目が変わったわよね〜。」

「そうそう!」

「でもね、時々苦しそうだったわよ…。」

「あたし、別のお店で撩ちゃんが1人で飲んでるところ見たことあったけど、

いかにも悩んでいますって背中して、声かれらんなかったわ…。」



勝手に話題が進んで行く状態に、香は理解が追いつかない。

「たぶん、香ちゃんの幸せについて悶々と考えていたのよ。」

「香ちゃん、あたしたち、ずっとあなたたちのことを応援していたのよ。

そしてこれからもずっと味方よ…。」

「香ちゃん、っんとよかったわぁ…。」

「香ちゃんだけよ。撩ちゃんが心から甘えられるのは…。」

「香ちゃん、撩ちゃんしか知らないだろうから、色々不安になると思うけど、

あの、撩ちゃんがそんな痕を残すなんてありえなかった。

それだけ、香ちゃんが特別だってことよ。」

優しい瞳で見つめられる。



「そうよ、相手もあくまでも仕事と割り切れるコじゃないと、

どんなに可愛いコでも、撩ちゃん逃げてたもン。」

「彼女たちは、商売なの。感情はなし。あったらやってらんないわ。」

「撩ちゃんも、やっと決心したのねぇ!ウワサが本当でよかったわっ!」

香自身はなにも肯定の文言を発していないのだが、

勝手に納得し幸せに浸る元男達。



「私たちの一番の心配事だったんだもの。

いつ香ちゃんから愛想尽かされても可笑しくないことばかりしていたから、

やっとまとまったらしいって情報が流れて、みんな大騒ぎよ。」



次から次へと複数のニューハーフから、頭上直下に注がれる言葉に、

香の脳はあっという間に飽和状態になった。

あくまでも間接的な情報、今この場に撩に抱かれたという女はいなくても、

この街にそういう人が実在することを

再認識されられて、心のやり場がなくなってしまう。

言葉に詰まっていたところに、

さっき席を立った種無し大男が戻ってきた。



「香ちゃぁーん!これお祝いのエロイカ特製オレンジババロアよ!」

香の目の前に、

大きなドーナッツ状のデザートがずいっと持ってこられた。

香は、これを食べ終わらなければ帰してもらえないかと、

瞳を真ん中に寄せたまま、小さく覚悟を決めた。



*******************************************
(12)につづく。






オカマママのカオリンハグは、
ラピュタの終盤、ドーラがシータをハグするシーンと
勝手に重ねてしまいました。
エロイカのみなさん、悪気はないんですよ、悪気は〜。
嬉しすぎてちょっとハメをはずしてしまった彼女たちの
機関銃トーク。
雰囲気は、冬野葉子がエロイカに連れて行かれた
あのシーンがご参考になればと…。

お問い合わせ専用コーナー

お問い合わせ専用コーナー


サイトオープンから1年を過ぎてようやくですが、
正式にお問い合わせの先の窓口を作ることに致しました。


本編中のあとがきもどきでも触れたことがございましたが、
我が家は、やや特殊な事情により日常的にアポなしの自宅訪問や、
固定電話、ファックス、携帯電話(仕事上ネットで公開しているせいもあり)、メール等での
問い合わせや連絡が多く、プライベートにもしわ寄せが生じ、
現在、役場と公的な窓口を作れないかと相談中でございます。


このような状況では、ブログでの一つ一つの記事に対して
返信を十分に果たせないと判断し、
裏も表もコメント欄は閉じている形を選ばせて頂いておりました。
Facebookも必要最低限(以下?)のコメント返ししかできておりません。


一方で、大変分かりにくい設置だったかと思いますが、
記事の内容上、2012年8月26日より、
「訪問者リストに足跡を残して下さった皆様へ」のカテゴリーのみに、
コメント送信可能とさせて頂いておりました。
しかしこの形だけでは、色々な意味で不十分で超不親切なので、
他のWM様からのアドバイスも頂き、
この度のリンク記事公開に伴い、交信ツールを追加させて頂きました。


当初、メールフォームを作ろうとも考えましたが、
まずは試運転でこちらの記事を
お問い合わせ用専用のコーナーとして設置させて頂きます。


本記事のコメント欄をオープンにしておりますので、
コンタクトをご希望の方はこちらをご利用頂ければと存じます。
必要が生じて来た場合は、パス付きにさせて頂くかもしれませんので、
ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。


また、大変申し訳ございませんが、
こちらの要領がかぁ〜なり悪く、お返事の対応が大幅に遅くなる場合が多いと思いますので、
ロスタイムを頂戴できれば有り難いです。
お急ぎの場合は、その旨を添えて頂けると助かります。


リクエストにつきましては、対応できるスキルが皆無(泣っ)でございますので、
恐れ入りますがご了承頂ければと存じます。
パスワードのお問い合わせにつきましてもお答えできませんので、
どうか原作から見つけて頂ければと思います。
誤字脱字等のご指摘は大歓迎です。


上記の件をご承知頂いた上で、
この欄を活用して頂ければ幸いです。



2013年4月1日(月)

プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

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試運転中…

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