27-04 Stretched Tea-Grinding Mill

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27-03 Primitive Blood

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27-02 We Do Not Need The Small Tools

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27-01 Confirmation Of The Wound

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26-12 Breeding Season

第27部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目   


(12) Breeding Season ************************************************ 3701文字くらい



タンタンタン、ザァー、と水の音に気付いて、

目が覚めた。



「ぁ、雨?」



明らかに雨が屋根や軒を叩く音に、

思わず声が出る。



「やっと起きたか。」



頭の上から降ってきた声に、驚いて顔を上げた。

暖炉を背にして、横抱きにされている自分に気付く。

目が合ってピキンと赤く固くなる香。

温かいキャメルの毛布の中で、撩の腕枕。

しかも2人ともバスローブ姿。

香は、なぜこんなことになっているのか、

思い出すのに一拍、二拍かかって、納得した。

ふぅと力が抜ける。



「よく寝てたなぁ。爆睡だったぞ。」

「ん……、夕べ、クマが怖くて、よく寝れなかったの、よ…。」

目元を薬指で少し擦りながらそう答えた香。

ゆっくり休めて、ずいぶんスッキリした。

「くまぁ?」

「だ、だって、このへんいるんじゃないの?

もし襲って来たら、どうやって撃つか、ずっとビクビクしてたんだからっ!」

この情報を与えなかったのは

失敗だったか、あるいは良かったのか、

一晩中、自分が思っていた以上に

夜の恐怖と戦いながらのビバーグに耐えた香が、

また無性に愛おしくなった撩。

くすりと笑いながら答えることに。



「もう、この辺のやつらは冬眠してるはずだぜ。」

「え?冬眠???」

「そ、この辺りは、一応ツキノワグマの生息域になってはいるが、

今年はドングリも豊作だったらしいから、

たっぷり食ってさっさと寝ちまってるよ。」

「なんだ…、そうだったん、だ…。」

はぁと更に脱力する香。

目を閉じると夕べ、間近で見た雌鹿を思い出す。



「……シカは、冬眠しないの?」

「しねぇーな。」

撩もあのシカの群れを思い出す。

どんなに、香のそばに行きたいと思っていたことか、と

目の前にいるのに、お預け状態を自主的にくらい、

晴れて解禁されたこの山荘。

体力回復を待ちに待って、目覚めた香とピロートーク。

訓練中に香が何を得たかを本人から聞きたいところではあるが、

撩のほうが、もうそれを二の次にすることを決めていた。



「あいつらはな…、今の季節が繁殖期なんだと。」

「え?」



雨音が強くなる。

「く、熊が?それとも、鹿のほう?」

がくっと頭が落ちる撩。

¨あんたは年中繁殖期じゃない¨というツッコミを期待していたが、

まだ熊の話しにこだわる香。

「あー、このへんの鹿は、秋がいちゃつくシーズン、熊のヤツらは夏と決まってるらしいな。」

一応持っている知識を披露。

「へぇ…。なんか、あんたが動物のこと語るなんて、意外だわ。」

「そーかぁ?ま、ボクちゃんは繁殖期なんざ決まってないけどねーっ。」

明るい口調で、ごろんと半転し、

香を見下ろす体勢に持っていく撩。

唐突に組み敷かれて、目をくるくるさせる香は、

ローブの合わせから見える撩の胸板が近過ぎてドキリとしてしまった。

左の大胸筋には相変わらず目立つ銃創があり、

それが視界に入る度に、生き延びたことの幸運が込み上がってくる。

撩の動きに、もしかしてと、

これからの流れを仄かに期待している自分がとても恥ずかしく、

悟られまいとあがいてみた。



「その説明、いらない。」

「ま、かおりちゃんは、ボキちゃんの生態をジューブン分かってんだもんなぁー。」

左右の頬を包まれた。

顔を動かせなくなる。

まだ強がってみせようとする香。

「動物界一の、ヘンタイ。」

キッとかなり頑張って目をそらさないように努力している様がバレている表情に、

ますますイヂメたくなる衝動に。

「その、ヘンタイと、…ずっと一緒にいるって決めたんだろ?」

撩の顔がじわりと近付いてくる。

くっと香の眉の角度が変わった。



昨晩、寒さに耐えながら、

充填している実弾6発だけで、接近してきた獣を倒せるのかと、

本気で一人、単独での戦いを覚悟していた。

未知の生き物たちの棲む、未知のフィールドで、

自分の持っている体験や知識が殆ど役に立たず、

お願いだから、ここに来ないでと、ただ祈るしかなかった長い夜。

勝てる公算の予測さえもつかない。

遭遇の仕方によっては最悪、

自分が襲われ体を引き裂かれる場面まで想像してしまっていた香。

こんな形で、撩との死別があっていいわけないと、

気を張りつめさせたい思いと、休みたい欲求がぶつかり続けた。



夜を無事乗り切れても、

明るくなった森でも、¨彼ら¨に出会ってしまうことも当然ゼロではないだろうと、

人形を背負って両手がすぐに自由に使えない状態で

尾根筋を歩き続けることも、危険な状態。

反撃できる条件はビバーグ時よりも悪いことを途中から感じ、

一刻も早く山荘に着かねばと、姿なき恐怖の対象を気にしながらの登坂。



それが、今しっかりとした作りの木造山荘の中で、

撩もいて、火もあり、屋根の下で無防備に横になれることが、

たまらなく深い安らぎとなり、

香の胸に込み上がってくる。



意地を張って、何をごまかそうとしていたかを、

見つめてくる撩の瞳で忘れてしまった。




「………こわかった。」

「ん?」

頬を包んだまま、香に触れようとした撩の動きが止まった。

「夜の森が、……あんなに、怖いって感じるなんて、……思っても、みなかった。」

撩から注がれる視線をそらさずに、揺れる瞳で見つめ返す香。

「……撩は、あんな夜が、毎日、だったんだよ、ね?」

聞いてはいけないのかもしれないと思いつつ、

つい言葉に出てしまった。

頬に添えられている撩の指先が少しだけ反応する。

ふっと、目を細めて薄く笑みを見せる撩。

一晩、香が考えていたことがツキンと伝わってくる。



「……今も、こわいか?」



問われた質問には答えずに、香に逆に問う撩。

撩の手の中で、香は小さく顔を横に振った。

「ううん。」

ほんのわずかながらの微笑み。

香は、目を閉じながら自分の腕を毛布の中でそっと動かして、

ローブを着ている撩の背中に手を伸ばした。



本当は、¨撩がここにいるから…¨そう言いたかったが、

あまりにも少女漫画的な台詞ではないかと、

喉の手前でひっかかる。



「……火が」

「あ?」

「火が、そばにある、から…、なんか安心する。」

なぜか別の台詞が出てきてしまう。

しかし、止めた台詞をこのオトコは読んでしまった。

「火、だけじゃないだろ?」

「え?」

目がぱちっと開く。

「ったく、素直じゃないねぇー、香くんはぁ。」

にやりとイタズラを仕掛ける前のような楽しそうな表情。

それが目に入ったとたんに、唇の距離がゼロになった。

「んんっ。」

反射で目を閉じてしまう。

温かい大きな手で顔を包まれたまま、2日ぶりの濃密な触れ合い。

お互い、これが欲しかったと、

間を置いて珍しく香も僅かながら唇を動かしてきた。



雨音と、半分程に減った薪炭が燃える音に、

2人の口元が奏でるスマック音。

一昨日の夜以来の深く激しい口づけに、

一晩のブランクが、2人の中に¨もっと¨と求め合う我欲を沸き上がらせる。



細かく角度を変えながら、吸い付き挟まれ甘噛みもありと、

複雑な刺激を粘膜に受ける度に、香の指が撩の背中で小さく震える。

頬を挟まれたままで逃げられない。

息が出来ないと、苦しさを感じた刹那、

上唇下唇ともにうちゅーと引っ張られ、ちゅぽんと鳴らせて、

やっと解放された。



「っはぁ…。」



胸が上下する。

撩の指が香の前髪をくしゃりと掻き揚げた。

生え際の産毛がしっとりと湿度を帯びる。

「香…。」

「……ぇ?」

名を呼ばれてうっすらと目を開ければ、

色香をまとった瞳で見下ろされる。

「火だけじゃなくて、……俺が、いるから、だろ?」

パチパチとまばたきをする香。

かぁーと更に火照り上がり、ずばり言い当てられたことが悔しくて、

反論する言葉を懸命に探そうとする。



「……ずいぶん、自惚れた言い方ね。」



拘束されたまま、これが精一杯の抵抗。

「間違いじゃないだろ。」

何に対してかよく分からない心地よい敗北感を覚える。

もうこの最初のキスの一撃で頭はとろんと融かされてしまった。

はぁ…と長めの息を吐き出し、目を閉じながら体の力を抜く。

態度でイエスと言ったようなもの。

言葉の返事を待たずして、

撩は香の腰に巻かれたバスローブの紐に指をかけた。



「え?」



ぴくっと体が反応するも、それよりも早くまた口が塞がれる。

「ふっ…、んんっ。」

毛布の中でほどかれたタオル地の帯。

そのまま、キャミソール越しに手を這わされ、肩と鎖骨を露出させられる。

これまでの流れなら、¨ここでいいか?¨と言いそうなところを、

珍しく同意確認の文言省略でコトが進められている。



撩が、唇から首筋へ顔を移動させ、

右肩に着いたナイフの傷跡に、ねっとりと唇を這わす。



「あっ……。」



思わず首をそむけてしまった香の瞼越しに、

暖炉の炎の温かさが見えた。

薄目を開けると、揺らめく薪の火と熾(お)き火の赤が目に入る。

ガスコンロの火とは違う、

心の最深部にまで熱を与えるような暖炉の火炎。

きっとこれのせいだわ、と

頬に触れる撩の髪の毛に、自分の指をつと通す。



羊と駱駝の毛の温かさに挟まれ、

撩の重さを自分の体で受ける幸福感、

一つの試練を乗り越えた後の、

あの独特な心理がまたくすぶってきた。



またくっと目を閉じ、自分の腕と足を遠慮気味に撩に絡ませる。

今の時間を気にすることさえもどかしい。

このまま撩の愛撫に深く溺れたいと、

香は、完全に身を任せることにした。


*************************************************
第27部(1)へつづく。パス付き記事でございます。






やっと充電できた香ちゃん、
起き抜けなのに、ごめんね〜。
撩ちん、少ぉ〜しだけ暴走?
発情期はヒトにあるかないか、
動物生態学的知見と、ホルモンのバイオリズムから見ると、
厳密に言えば「ある」ですね。
女性の場合は排卵日前後にその傾向ありとか。
うーん、今回はカオリンは若干ずれてるかなぁ?
女の子の日は、あと1週間後の予定なので。
撩を欲してやまない発情カオリンも、けっこう(いやかなり)スキだったりして。
で、きっと撩もそんな香ちゃんを、きちんと受け止めてくれるんだな。うん。

26-11 A Little Bit ...

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(11) A Little Bit ∙∙∙ ************************************************* 1611文字くらい



(うー、ローブの紐、解きてぇぇぇ…。)



前みごろの合わせから覗いている

ふくよかな谷間、

撩に密着していることによって、より深く見える魅惑のYの字。

香は完全に安心しきって、

スースーと寝息を立てている。

昨晩は完徹に近かったことをうかがわせる熟睡ぶりに、

ちょっとやそっとじゃ起きそうにない。



目の前にいるのに、触れられない状況を丸一晩体験し、

妙なストレスを溜め込んでいる撩。

やっと抱き込めるまでの時間に持っていったが、

この先は、とりあえずお預け。



上質なムートンラグの上で、

フタコブラクダの毛で織られたやや重たい毛布に包まれ、

程良い輻射熱が当たる距離で横になり、

部屋も十分に加温され、

追加した薪でしばらくは熱源を失うことはない。



炎で材が弾ける音を耳にしつつ、

撩は窓のほうをちらりと見やる。

まだ9時台、外から入る朝日の斜光が、

部屋の壁に木々の揺らめきを映す。



(ちょっとだけ…。)



もっと触りたいモードの撩は、

香が目を覚まさない程度に、前菜のつまみ食いを始める。

左腕を枕にしている香の顔に、そっと右手を添えてみると、

頬がしっとりと手の平に吸い付いてきた。

それだけで、その部位だけにマイクロ波でも当てられたかの様に、

内部からじんわりと熱くなる。



己の片手で全て隠れてしまう、その愛らしい小顔に軽く唇を寄せる。

額に、鼻筋に、頬にと、言葉通り、ちょっとだけのキス。

のつもりが、

つい香の下唇もはむっと挟んでしまった。



「……ん。」



わずかに身を捩るが、すぐにすぅと力が抜け、寝息が続く。

(いかん、いかんっ!起しちまうと、この後に響くっ!)

また深い眠りに落ちたのを確認すると、

寝顔を見つめ降ろしながら、

また右の指を櫛のようにして、香の左側頭をゆっくりと掻きあげる。

自分の左腕は、香の半身にからめ、腰の一番細いところで落ち着いている。

撩は長い息を吐く。

頭は、今はゆっくり寝かせるべき時間だと、分かっているのに、

体は、もっと触れたい、よりキツく抱きしめたいと訴える。



目を閉じて、唇を額に触れさせたまま、左腕をじわりと動かして

バスローブ越しに、

香のボディーラインを手の平に辿わせる。

もうそれだけで、自分の腰が反応してくる。



(匂いかぐだけ…。)



鼻先を緩いくせ毛に刷り寄せ、すーっと吸い込む。

普段とは違うシャンプーとリンスの香りに、

いつもとは異なる場所であることを、再認識させられる。

このまま¨ちょっと○○○だけ¨を繰り返していたら、

いつか最後まで致してしまいそうなので、

落ちそうな坂道をサイドブレーキでぐいっと踏ん張る様に、

ストップをかける。



今、見えるところに傷はないが、

この一連の流れで、こまごまとした痛みを負っているはず。

ある程度は避けられないと思ってはいたが、

やはり、このオンナの体に少しでも何かが残るようなことは

どんな形であっても受け入れ難い。



盲腸の入院騒ぎを思い出す。

執刀医までに、胸苦しさを覚えた。

自分でさえも触れたことがない場所を、見て触れる上に、

肌にメスを這わすことに、治療治癒のためだとは分かってはいても、

激しく抗議をする内なる思い。

それをごまかすために、散々香をからかったことを振り返る。

引き続いて浦上氏の登場。

いい加減に、香と自分自身に素直に向き合えと、どこぞからのメッセージだったのか。

2年前の秋がちらちらと瞼の裏に散って行く。



ガタリと音がしたのは、炭化した薪が重力に負けて火床に落ちたもの。

ふっと目を開ける。

(目が覚めたら、覚悟しとけよ、かおりちゃん。)

起さない程度に、

またぐっと腕に力を込めて、自分のほうへ抱き寄せる。



窓の外の梢に、小鳥の影が数羽分動いた。

すっと太陽の光線が陰る。

関東の一部に残っていた雨雲が、どうやら移動してきたらしい。

少しだけ暗くなったフロア。

燃える暖炉の前に横になる撩と香。

外からの光り加減も、遠慮しているかのようなタイミング。



(下り坂の予報だったが、着いてからで良かったぜ…。)



撩も、またつと目を閉じて

香の目覚めを待つことにした。


*******************************
(12)へつづく。






ようやく次が一区切りです。


【昨日の名月】
見事な満月でしたね〜。
月ネタの二次を読みたくなりました。


【今日ももっこりふれあい広場】
という看板が、バスの車窓から見えた、
と思ったら、「今日もにっこりふれあい広場」でした。
もう色んな意味でダメかもしれん…。
9万ヒットイベント、今暫くお待ち下さいませ…。


【ひーんっ】
十波ちゃ〜ん…(泣っ)。
今月一杯だそうですぅ。

26-10 Nap

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(10) Nap ************************************************************ 2252文字くらい



「撩 …… 。」



困惑する香。

はだけたバスローブの裾からはみ出た両足が絡まる。

茶色い髪の毛の中にある5本の長い指にくっと力が加わり、

ローブ越しに撩の胸板が頬に押し付けられる。

心音が少し早い、そう感じる間もなく、

さらに腰に巻かれた太い腕がぎゅうと圧を与える。

前髪の生え際あたりに、ふぅーと細い息がかかった。

ぴくりと香の肩が動く。



「このばぁーか、俺に万が一のことがあるワケねぇーだろ。」



香は思った。

このオトコは、ファルコンや海原に撃たれた時のことをもう忘れているのかと。

確かに、あの時は自力で動けてはいたが、

一つ間違っていたら、ここにはいなかった。

万が一は自分には関係ないと、断言できる保証はどこにもない。

香の言葉を全面否定するこの台詞を、直球で受け止めるには、

これまで味わってきた撩を失う恐怖の方が大きく勝っていた。



香は、撩のバスローブを両手でぎゅうと握り込む。

目を閉じ、きりっと奥歯に力が入ってしまった。



この唐突の野外訓練で、

香は自分のレベルの低さと体力のなさを思い知らされた。

簡単なトラップにひっかかり、子供一人ゆとりを持って運べず、

夜の森のことさえも無知だった。

こんな自分が傍に居続けたら、

万が一が、千が一、百が一、十が一と、

撩に降り掛かる危険度の確率をより高めてしまう。



撩を失いたくはないと、

このぬくもりを失いたくはないと、そう強く思うのに、

未熟な自分の存在そのものが、相方を失う原因になりかねない。

そんな否定できない事実を、

今回のことで更に確証が上乗せされてしまった気分に陥ってしまう。



無言で体に力が入っている香を抱きしめたまま、

撩は、洗い立ての茶色い髪を

形のいい指でゆっくりと梳きながら優しく撫でる。

とたんに香の肩が小さく上下する。




「……よく頑張ったな。」




頭の上から聞こえたかすれ気味の声。

この声色に、どきりとしてしまう。

頑張らなかった、ワケではないが、十分とは言えない結果のはずなのに、

撩は、この山荘で合流してから、まだ一度も苦言や指摘を言っていない。

それどころか、数字の上では予想外の高得点。

返す言葉に迷っていたら、

撩は、ごろんと体を半回転させ、暖炉側に向かって香を横抱きにする。



「なぁ、……ここがいいか?それとも上に行くか?」

またのいきなりの質問に、訳が分からない。

「な、なんのこ」

「上にベッドがあんだけど、仮眠すんだったら、ここと2階どっちがいいかってこと。」

「かみん…?」

「おまぁ、夕べ殆ど寝てないんだろ?」

「あ…。」

「上も暖房あっけど、まだ部屋が結構冷えてんだな。

んで、ここでもいいんだったら、毛布もそこにあっから取ってくんぞ。」

「………。」

信じられない程に優し過ぎる撩、

こんなふうに、あからさまに自分に気を使う撩の姿を

奥多摩のあの日より前に見た記憶は殆どない。

夕べの不眠を読まれてしまっていることに驚きつつ、

香は顔をわずかに動かして撩を見上げる。

まだ自分の頭に撩の指が乗ったまま。



たった2週間前なのに。

奥多摩でこうして抱きしめてくれたのは、

わずか14日前のことなのに、

早々にこの訓練の準備をし、ゴールで出迎えてくれた撩に、

ふるっと香の瞳が揺らいだ。

今の自分の表情を見られたくないと、パフッとまた顔を伏せる。

撩のバスローブを握ったまま、火の傍にいたい、そう思った。



「……こ、こが、……ぃぃ。」



ぴくりとわずかに動く撩。

くしゃりと香の髪を掻き回し、よっと上半身を起した。

「ちょっと待ってろ。」

香の指が緩む。

立ち上がって、数歩足を動かした撩は、

ソファーに投げてあったキャメルの毛布をくいっと掴むと、

その場でばさりと広げながら、

また暖炉からやや離れた正面でごろんと横になる。

「あ…。」

恥ずかしがるパートナーの反応を見やりながら、

器用に香を抱き込み、2人が包まれるに十分な大きさの茶色いブランケットを

ふわりと覆いかぶせ、香を暖炉側にして、腕枕をしてやることに。



「目が覚めるまで、ゆっくり寝てろ。」



左頬にひたりと大きな手を添えられ、かぁあと火照り上がる香。

火が付いている暖炉の前で、バスローブ姿で、ふかふかのムートンラグの上。

撩とこんなことをしている状況に、

恥ずかしく、照れくさく、嬉しく、これでは気持ちが高ぶって寝られないと、

文句を言いたくなるも、

目を閉じながら、別の理由を言い訳にしてしまった。



「なんか、……いままでと逆の位置、だから、な、なんか、へん…。」

「あー?だったら代わるか?」

片眉だけが動いた撩。

「う、ううん…、このままで、いい…。」



出入り口に背を向ける撩、暖炉に背を向ける香。

これまでは、撩の右腕右肩に頭を預けるスタイルが定番ではあるが、

今日の香は撩の左に寄り添う。

どこか新鮮な気分を覚えながら、

さっきまで苦しさで力が入っていた体からふうとガスが抜ける様に、

緊張感が消え去って行く。



それに気付いた撩は、

頬にそえていた右手を前髪に絡めながら移動させ、

あらわになった白い額に唇を押し付ける。

「ひゃっ。」

「おやすみ……。話しは起きてからだ…。」

くいっと抱き直される。

「ん……。」



香はごぞっと身をよじり、撩によりくっつける場所に落ち着いた。

男の呼吸音と、右耳から伝わる心音と、

暖炉から聞こえる薪の弾ける音が、θ(シータ)派を出させる三重奏となる。



夕べは、人形を抱き込んで夜を過ごしたが、

やっと抱き込まれて休むことができると、

背中をさすられる心地よさを感じながら、

そのまま素直に撩の腕の中で、

体と脳を休ませることにした。


***********************************
(11)につづく。







もうこーゆー環境が整っちゃったら、
あとはスルこと一つでしょ!と。
仲良しタイム、もう少しお待ち下さいませ〜。

θ(シータ)派とは、脳波の一つで、うとうとしている時に、
主に側頭葉から出ているとされています。
アニマルセラビーや福祉園芸などで、このθ派が注目されています。
動物や植物に触れ合うことが、
脳にいい効果があることを裏付けしているとのこと。
これが確実だったら、個人的にもかなり嬉しいのですが、
まだ論文とか報文とかを見つけきれていなくてからに…。

【神谷さんハピバ!】
この方には2つお誕生日があると言ってもいいかもしれませんね。
記念日おめでとうございます!
撩の声はあなた以外はありえません。

【で、りょう君】
昨日の主催イベントで、
小学校5年生のりょう君がお母さんとお友達と参加してくれました。
もう、お母さんが「りょー、きてごらーん。」とか
呼びかけする度に、脳の隅っこがあらぬところに飛びそうに…。
仕事中にCHモードになってしまう自分に苦笑…。
[2013.09.18.08:45]

26-09 30kg

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(9) 30kg ************************************************************** 2053文字くらい



「寝てんのか?」

「え?」

ぱちっと大きな目が開いた。



香は暖炉に向かって、

クッションに体の側面を預けたまま体育座りをしている。

その膝の上に腕を組み、頬を乗せて頭を預けていた。

はっと顔を上げると、もう撩がテーブルにコーヒーを乗せて、

また隣りへ座っていた。

2人が手を伸ばしても届かない微妙な距離。



「ううん!だ、大丈夫!眠たくないからっ!こ、コーヒーありがと、い、頂くわね。」

「探すのメンドーだったから、何にも入ってないぜ。」

両手で持ったコーヒー、器からも手の平に熱が伝わる。

「い、いいよ、こ、これで、じゅ、十分っ!」

かみまくる香は、

撩と同時にカップに口を付ける。

やっかいなもので、撩がしばし離れている間は、

寝不足と疲労のためにまた眠気が再来し、

相方が傍に戻ってきたとたんに、神経が興奮状態となる。



この状況に落ち着かない面持ちを知られたくないと、

香に、おしゃべりモードのスイッチが入った。

「ねぇ、あのコ、一体何キロあんの?」

「あ?」

「あの人形よ、子供にしては重たすぎない?」

ソファーの上で、いつのまにかブランケットをかぶせられているダミー人形を

ちらりと見やる。

「うんにゃ、アベレージのはずだぜ。」

「だって、きっとお米袋よりも重たいはずよ。」

いつもスーパーでまとめ買いする時は、撩が車を出してくれる時は10キロを。

自力の往復の時は5キロをと慣れた重さの食材を比較対象に出す。

「何キロだと思う?」

コーヒーをくいっと飲みながら、そう問う撩。

香は、感じた自分との体重差から背負った感覚を思い出そうとする。

「んー、に、にじゅう、…5くらい?」

「はずれ。」

「は?もしかして、もっと重たいの?」

自分の体重の半分かそれより重いとは思っていたが、

即不正解を言い渡された。

「30、ま、小学生のガキだと4、5年生あたりみたいだな。」

くいっと一気にコーヒーを飲み干す。

「さ、さんじゅう…?」

「そ。」

撩はローテーブルに左肘をひっかけ頬杖をついた。

「おまぁさ、あとでキッチンに行ってみ。」

唖然としていた香は、キッチンという言葉にまたきょとんとする。

「え?」

「ばぁーさんが製粉した小麦粉30キロが1袋(たい)あっから、それが持ち上がるか試してみ。」

「は?ど、どーして?」

「んー、やれば分かるって。」



撩は飲み終わったカップをコトンと丈の低い木製テーブルに置き、

すっと立ち上がると、また薪を二三放り込んで追加した。

細かな火の粉が舞い、パチンパチンと中の材が弾ける。

「同じ重さのモノを?」

かがんでトングを使い位置を塩梅良く整えると、

火の勢いが増して撩の顔がより明るく照らされた。

「そ、ちょっとした心理実験、かな。」

香は、撩のローブに包まれた広い背中を見つめたまま、

会話がよく飲み込めないと、撩の言葉を繰り返す。

「心理実験?」

「ま、脳をいかにダマして、眠っている筋力を使わせるか、だな。」

「よく、分かんない。……でも、子供ってあんなに重たいなんて思わなかった。」

その間に、香もコーヒーを飲み終わる。

「あれじゃ、大人を背負って長時間歩くなんて無理だわ。」

尾根を登りながら、自分にはあれが限界だと悟る香。

そう言いながら、香もカップをテーブルに戻した。

「そーゆー時は、その場を動かずに助けを待つ方が賢い。」

「動こうにも動けないわよ。」

揺らめく炎に照らされている撩が、にやっとしながら香の方に振り向く。

「いや、おまぁだったら、大人の一人や二人くらい背負えるかもしんねぇーな。」

からかい口調で、くくっと肩を揺らす。



目が合った香は、その瞳の奥にあるものを、

心の深いところで感じ取ってしまったような気がした。

つま先から脳天までぴりっと何かが走り、じわりと体温が上がる。

からかい口調には、こっちも本音を誤摩化すモードで返すのが常。

目を合わさなければ、

¨どうせあたしは色気のない怪力オンナですよーだっ¨と

言い返す予定だった。



しかし、広葉樹の薪が燃える火の熱にほだされたのか、

それが映り込んでいる相方の瞳孔に翻弄されてしまったのか、

違う台詞が出てきてしまった。



「これじゃ、……こんな体力じゃ、

……撩に万が一何かがあって、動けなくなった時、

一緒に、逃げらんない、じゃない。」



目を合わせたまま、頬を染め、下がり気味の細い眉の表情は、

こんな調子では、何かあった時、撩を守ることが出来ないと、

自分のふがいなさを醸し出していた。

すぐに伏せ目になり、顔の上半分が前髪の陰になる。




眉を上げる撩。

はぁと、今日何度目になるか分からない深い溜め息。

右手に持っていた火ばさみをポイと積み上げられている薪に投げやり、

大股で香に近付く。

上背の半分に斜光があたり、長い影が動いた。

足音で接近の気配に気付いた香は、はっと顔をあげる。

撩の動きは早かった。

捕獲された。

そう気付いた時は、撩に強く抱き込まれてしまい、

クッションを枕代わりにしたのは相方で、

香は撩の上に重なる様に密着し、2人でラグの上で転がっていた。


*******************************
(10)につづく。






本当は、35ぐらいにしようかと思ったんですけどね…。
中1の娘、ついに私の高校生の時の体重と同じになりやがった。
で、先日試しに背負って、
家の階段を少し登って感覚をチェック。
1往復だったらなんとか移動可。
しかし下りはやばし。
もちろん意識がある状態なので、背中の乗り降りは自力で出来、
楽なもんでしたが、この状態で近隣の低山を登れって言われたら
やっぱりダメですわ。
以前、我が家の自主防災訓練も兼ねて
旦那(176cm)を背負って階段を登ろうとしたのですが、
足が一歩も上がりませんでした…。
背骨が潰れるかというくらいの負荷に、
結論「だめだこりゃ」と…。
というワケで、
我が家は防災を意識する9/1、1/17、3/11あたりの
日付けでは、非常食チェックと共に、
でかくなった子どものおんぶも訓練?とかいいながら、
家族のスキンシップチャンスです。
小さい頃はイヤってほど抱っこしていましたが、
年があがってくるとおのずと
ハグも抱っこもおんぶも激減するんですよね〜。
この訓練が出来るのも期間限定かな〜。

【台風18号】
該当地域の皆様、どうかお怪我などなさらないよう、
無事この暴風雨等を超えられます様お祈り申し上げます!
[2013.09.16.07:22]

リンクノート追記のお知らせ

香ちゃんの干支に当たる年だから?と
どこかにその理由を求めたくなるくらいに、
この平成25年は、新しいサイト様が複数誕生されています。
2013年同期生の方々は既に二ケタを超えておりますので、
ますますCHの魅力のスゴさを痛感です。


というワケで、今回も新規サイト様1件と、
お気に入りのブックマークでパチンコシティーハンター関係のファイルの中に
間違って仕舞い込んでいた倉庫サイト様1件をご紹介致します。
ゲストブックにてご挨拶をさせて頂いております。
(どうりてお気に入りサイトのブックマークの中から見つけきれなかったワケだ…)


毎度のことでございますが、
ここではリンクをつなげておりません。
お手数をおかけいたしますが、LINK NOTE 2よりご入館下さい。
初めてLINK NOTE をご利用される方はお手数ですがコチラの記事をご一読頂ければと思います。



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❏ 118 ホークアイシオン さん
    鏡花水月......xyz
    2013.09.14.〜 / テキスト
    [新規サイト様!ついに始動!鷹の目での切り口で紡がれるお作に期待大です!]

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❏ 133 みさこ さん
    なつかしアニメをキャラ弁で ( CHカテゴリーでリンク)
    2006.09.16.〜 2009.03.03. Last Up / キャラ弁紹介
    [もうあまりにもスゴ過ぎて絶句です。多作品も多数掲載、時間を忘れます。]

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残念ながら、今年の3月31日からリンクをさせて頂いておりました
いくつかのサイト様が、閉鎖、及びサーバーのリンク切れ等で
閲覧出来ないお部屋になっております。
またサイト開設日などの数字の誤植がございましたので、
後日、合わせてお知らせ致します。


また、当サイトのリンクはCH検索エンジン様と逆の形で、
ワタクシの方からご挨拶に伺っておりますが、
もちろんSNS上でCHファンを表明されている方からの
ご連絡も承っております。
リンクノートへの掲載を希望されているウェブマスターの方がいらっしゃいましたら、
サーバーの形式はお気になさらずに、お気軽にご一報頂ければと思います。
CHが好きということだけが必須条件、
内容は二次創作に限りませんので、語り、分析、書評、100質問等の
記事が1つでもあればオッケーです。
推薦のご連絡も同様ということで。
(二次創作1点だけの方もリンクさせて頂いておりますので〜)
ご縁が繋がる場所の一つになれば幸いでございます。


あ〜、この内容は「リンク記事公開のお知らせ」に
追記した方がいいかも?
うー、後でしま〜す。


以上、リンクノート追記のお知らせでした〜。

26-08 Weizenbrot

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(8)Weizenbrot ****************************************************** 2647文字くらい




「おまぁ、何やってんの?」



暖炉の前でほっぺを叩きまくっている相方に声をかける撩。

「あっ。」

ドアが開くのに気付かなかったことに、はっと驚いたが、

撩の姿に、もっと驚いた。



「ああああああんたも、な、なんでガウンなのよっ!」

「あーん?スープ湯煎であっためてる間に、俺もシャワー浴びたんだよ。悪いか。」

「だっ…、なっ…、あん…、そんなかっ…。」

おそらく、¨だって、なんで、あんたがそんな格好する必要があるの¨とでも言いたかったのか、

もう口パクで、頬への連打と熾き火で火照った顔を更に赤らめて、

目をくるくるさせている香。

実は、撩のバスローブ姿を見るのはお初。



首からタオルをかけ、香とお揃いの白いバスローブを纏った撩は、

パートナーの反応が面白くて、ふっと薄く笑いつつ、

両手に持っている大きなスープカップをゴトリとローテーブルに置き、

よっと言いながら、クッションを背もたれに腰を降ろした。

ぴくんと肩が上下する香。

一気に目が覚めた。



「冷めないうちに飲めよ。」

¨さめ¨違いの言葉掛けに、まさに夢が覚めないうちに飲んでしまおうかと、

ギクシャクしながら、両手でカップを持ち上げる。

「いっ、いた、だき、ますっ。」



どうしてこうも自分はドキドキとしているのか、

冷静沈着な撩と相反する様に、

バレたくないと思いつつ、緊張しながら口元に器を近付けた。

湯気の中にトウモロコシの甘い香りも漂う。

香は、濃い黄色のとろりとした液体を口元を細めてこくりと喉に流した。

昨日のミルクティーの缶以来の温かい食事。

パチパチと薪が燃える音も心地いい。



「はぁ…、おいし…。」

「ただの非常食だけどねん。」

撩も片手でくいっとカップを傾ける。

「パンは固いやつだから、スープに付けて食えよ。」

ヴァイツェンブロートは、ドイツパンの一つ。

「たぶん、教授おかかえの管理人が、焼いたモンだな。」

撩はそのままハグッとスライスされた欧州風のバンをかじる。

フツーの食パンあたりでいいと思っていたが、

かえっていい食材を出してもらい、雰囲気作りの演出に不本意ながらプラス効果。

「あ、あんまり、見たことのないパン、ね。」

ジャムがついていないほうを1枚選び、

ちょいっとパンの端をスープに浸して、愛らしい口でぱくりと食む。

「ん、おいし…。」

小麦の味がする、そんな第一印象。

「なんか、味が濃いね。」

同じ主原料のはずなのに、昨晩食べた輸入物の乾パンとは大きく違う味わいと風味に、

より意識がハッキリする。



「ね、管理人って?」

「あー、だからここを管理しているばぁー様がいるの。教授のお友達。」

「こ、ここって、ペンションか貸別荘とかじゃないの?」

「だから言っただろ、教授のアジトの一つだって。」

「で、でも、…。」

高級ホテル並みの品々に、落ち着いた内装が施され、

どうみてもこの後、使用料を取られてしまいそうな雰囲気に、

香は気が気でない。

「あー、いいから気にすんな。」

そう言いながら、撩はさっさと食べ終わってしまった。

「って、言われても……。」

続けようとする香の言葉を遮る様に言葉が重なる。

「ごっそさん、コーヒー持ってくっから。」

「あ、ありが…、じゃなくて、あたしがいれようか?」

「いーの、おまぁはそこで食ってろ。」

立ち上がった撩は右手をひらひらさせながら、フロアを出て行った。



「うー、こ、この雰囲気、……た、耐えられない。」



撩が色っぽ過ぎる。

腕まくりされた袖から覗く前腕の浮き出た静脈に、

ローブからはみ出ている胡座(あぐら)をかいたふくらはぎに、

合わせから垣間見える美しい胸板に、

少し湿り気の残る黒髪が、いつもより前髪を長く見せ、

その全てが、強烈な色香を漂わせ、

さっきまで主導権を握っていた副交感神経が、

あっという間に交感神経の支配に置き換わる。



あの時の言葉通り、山荘で待っていたとしたら、

夜の内に入浴すればいいものを、

なぜ、わざわざこのタイミングで同じ様にシャワーを浴びに行ったのか。

やはり、訓練中終始様子を伺っていたのではないかと、

ジャケットについていた木屑を思い出す。



「一体、どこに隠れてたっていうのよ…。」



全く気配を感じなかったことを振り返り、

尾行されていたとしたら、それにも気付かなかったことに、

やや気分が落ち込んでしまう。



動きがしばし止まっていたが、

まずは食べねばと、気をとりなおして、

もぐもぐと口を動かしながら、スープもすする。

それにしても、こんな場所で、こんな姿で、

もし、これで撩に触れられたりしたら、

一気に何もかもが真っ白になってしまいそうで、

まだ心臓がぱくぱくと高鳴り始める。

自分だけ勝手に緊張していることが、若干苦々しくも感じ始めた。

本来なら、

この訓練について自分なりの報告などをしなければならないのだろうが、

気持ちは、

撩にもっと近付きたいと思っている自分がまた情けなく、

撩を¨このもっこり男がぁ!¨と天誅を食らわせていたことさえも

恥ずかしくなってしまう。

これではヒトのことは言えないではないかと。



そんな考え事をしながら、

残りのドイツパンを全て食べ終わると、カップの中のスープもカラにして、

少ない食材にもかかわらず、体も温まりお腹にもたっぷり溜まった。

「……おいしかった。」

ことりと器をローテーブルに置いた香は、

暖炉の炎を見ながら、はぁと熱い息を吐いた。






一方、撩はキッチンでインスタントコーヒーを2杯分作りながら、

大きく長い息を吐き出す。

「あー、やべぇ…。」

破壊的魅力に爆発的悩殺力、それを本人が全くもって自覚していない。

間近でみるバスローブ姿の香は、撩にとっても初体験。

平静を装い、立ち上がろうとする息子を抑えに抑え、

まだ早いと必死でセーブする。



「あいつの疲労回復の方が先だろうが…。」



夕べはろくに寝ていないはずと、その中での重装備登坂は、

香の体に大きな負荷を与えているはず。

到着して早々に、大人の時間にするワケにはいかんだろうと、

当初からイメージしていたタイムテーブルにちゃんと従えと脳に命令する。

しかし、体は納得してくれておらず、

勝手に香のバスローブを剥くシーンが目の裏で合成されてしまう。



「だぁあああーっ!だめだっつーのっっ!」



ブンブンブンと首を振る撩。

一応、湯気があがる黒い液体入りのカップが2つ揃う。

「数時間くらいだろ?我慢しろっつーのっ!」

そう自分に言い聞かせ、片手で2人分のカップの耳の持ち

はぁとまた息を一つこぼしながら、

暖炉のある部屋に向かった。


*************************************
(9)につづく。






ヴァイツェンブロートは、今では洒落たこだわりのパン工房でしたら、
取り扱いは珍しくないものですが、
1991年代は、まだそんなに認知されていなかったパンかもと。
薄ーくスライスして、スモークサーモンとか、
ベビーリーフとか、クレソンとか、カットしたプチトマトとか乗っけて
イタリアンドレッシングとかけて朝食に、と思いましたが、
ここは、生鮮食品がない設定にしておりまして断念…。
カオリン、また別の時に撩ちゃんに作ってあげてね。
木イチゴジャムは、クサイチゴジャムあたりで。
今年、初めて作ってみましたが、
これは色んな意味で市販は困難だわぁ…。
知り合いのペンション経営者が個数限定で販売中。
気になる方は調べて見てね。

26-07 Mouton Rag

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝 


(7) Mouton Rag ****************************************************** 2347文字くらい



「こっちとこっち、どっちがいい?」



暖炉のあるリビングに戻ったとたんに尋ねられた。

撩の手には、ミネストローネとコーンクリームの缶。

バスローブ姿でノブを握ったまま、きょとんと立ちすくむ香。

トレッキングシューズを指でぶらさげ、

その腕で脱いだ着替えを抱え脱衣所を出て、

緊張しながら扉を開けたら、この第一声。



「は?」



ラベルを読んで、やっと質問の意味が分かった。

「朝メシ、温めてくっから選びな。」

「あ、じゃ、じゃあ、コーンに、しよっか、な。」

「あいよ。」

撩は、これまた涼しい顔で、

香が入ってきたドアから缶を持って出て行く。

しかし、その時、

視界の端に見えたスリッパを履いている香の踝(くるぶし)に

靴擦れの痕が撩の目に入ってしまった。

廊下に出たとたんに表情が曇る。

「まぁ、仕方ない、よな…。」

そう言いながらも、納得がいかない顔でキッチンに向かう撩。

持っている缶に思わず力が入ってしまった。



一方、1階リビングで置き去りの香、

自分が浴室にいる間、部屋は十分に温まり、

木製のローテーブルと4つの大きなクッションが

暖炉からやや離れた前方にセッティングしてある。

トーストされて香ばしい個性的なパンの芳香が、

香の鼻腔をくすぐった。

そこにはトレーに並んでいるスライスされた色の濃い欧風ブレッド。

半分には、赤いジャムが乗せられて、

果実の形が残っているそれは、木イチゴ系を思わせた。



「なんなのよ、この状況は…。」



まるで紅葉シーズンを狙って、

別荘持ちの金持ち夫婦が休暇にでも来たような雰囲気に、

何かが間違っているんじゃないかと疑い始める香。



パチパチと音を立てている暖炉の炎に、

広い窓から見える美しい広葉樹の彩りに、

ガラス越しに聞こえる耳心地よい野鳥のさえずり。

時間はまだ朝の9時前。

木立を通して入る斜光は、

小風になびく枝葉によって心地よく揺らいでいる。



12時間前に置かれていた真っ暗な森の環境とは打って変わって、

温かい屋根の下、

これから2人きりでの食事が始まろうとしていた。

いつもと違う場所、違う姿、それだけなのに、

自分の意志とは関係なく、心臓がドキドキと早鐘になっている。



あまりにも、自分たちには似合わない環境、

これもまた、実は夢でしたと、目が覚めてしまうんじゃないかと

強く思ってしまう程に、不慣れでレアな組み合わせ。

もしかしたら、自分はまだあのミズナラの下で寝ているんじゃないかと、

たまに、起きて朝の支度をしていたら、

途中で実際はまだ布団の中であることに気付くパターンを複数回経験しているので、

それと同じオチかもしれない、と本気で疑ったりもする。



ガタリと燃えた薪が折れて、火床に落ちた。

その音に、はっと我に返る。

暖炉の熱を感じるのに丁度いい距離で

クッションが転がされているところをちらりと見る。



「ここに座れってこと?」



香は、腰を降ろす前に、

入浴後の水分補給がしたいと思い、

先ほど、撩が外したウエストバッグがどこにあるかを探した。

「あ、あった。」

靴を揃えて床にゴトリと置き、着替えもぱさりと仮置いて、

ソファーの上に移動させられていたソレに手を伸ばす。

中から取り出したのは飲みかけのペットボトル。

「もうカラにしてもいいわよね。」

まだ十分に冷えている水を、香はこくりこくりと喉に流す。

「はぁ、残しといてよかったわ…。」

飲む以上に発汗していたのを自覚はしていたが、

節約しながらの水分補給は、最後の最後まで解除することは出来なかった。

またカラのボトルをバッグに戻す。



その傍に、撩の上着とパイソンも投げてあるのが目に入った。

少し前屈みになり、

そっといつものジャケットに触れると、

小さな木屑が腕の部分に付着しているのに気付いた。

指でぴんぴんと跳ねて飛ばすと、撩が昨晩どこにいたのか、

聞かなくてもぼんやりとイメージが浮かぶ。

しかし、たぶん本当のことはきっと話してくれないだろうと、

この件の真実の追求は最初から諦めることに。



香は、セットされたテーブルのほうに向き直ると、

暖炉の前の羊の毛皮にゆっくりと足を運ぶ。

スリッパを履いている足をはみ出させるようにして、

緩慢な動きで腰を降ろした。

「うわ…、きもちい…。」

広くて白いムートンラグに指をそっと埋める。

クッションに寄りかかり体重を預けたと同時に、

これまでの疲れがどっと降りてきた。



「はぁ….。」



やっと座れた、と声が出そうになる。

「80点、か…。」

そんなに高得点でいいのだろうかと、自身の中では反省点が多くある。

香は上向き加減で目を閉じた。

「……まだまだ、だわ。」

体力的にも技術的にも、たかだかこんな短い時間の訓練で、

ここまでへばっている自分が情けない。

左の頬に暖炉からの熱を感じる。

クッションに頭を預けたら、瞼が急に重たくなってきた。



なんだかんだ言いながら、夕べは殆ど熟睡できていない。

色々と、ポジティブなことネガティブなことを悶々と考え、

途中、シカの群れに驚かされ、

エマージングシートで守られていたとは言え、

そこそこの寒さに耐えねばならなかった上に、

クマの存在が大きな恐怖心となって、

うとうとを繰り返しながらの12時間だった。



「仮眠、したいな…。」



この寝不足では、今日の日中はまともに動けない。

ダメージの大きさに、また気分を暗くしてしまう。

「だ、だめっ!これじゃ寝ちゃうじゃないっ!」

頭を預けていたクッションからがばりと起き上がり、

目をごしごしとこする。



しかし、座っているところが心地よく、

炎の温かさも絶妙で、室内の気温も申し分なし。

毛皮と暖炉の火が、

心の奥深いところに安堵を与えているようで、

ますますもって副交感神経が台頭してくる。



揺らめく火を見つめながらぼーっとしてしまい、

やはり途中でカクッと頭が落ち、はっと引き戻される。

「い、いけないっ!」

香はブンブンと頭を激しく振って、

熾き火でほんのり染まった頬を

ペンペンと両手で痛いくらいに繰り返し叩くのであった。


************************************
(8)につづく。





暖炉の火は理屈なしで
安心感も深部に伝わってくるような気がするのよね〜。

たぶん原作中も、2人きりでの外泊というお話しは
なかったと思いますので、
仕事でなくプライベートタイムでの山荘の時間をカオリンにプレゼントです。
(お泊まりじゃないですが)

【御礼】
9万ヒットありがとうございます!
お知らせにて、リンク追記情報1818でアップしておりま〜す。
[2013.09.12.13:19]

リンクノート追記のお知らせ

まずは、9万ヒットの数字を頂戴しましたことを
ここに来て下さった全ての皆様に御礼申し上げます。

キリ番企画の方、現在思案中でございますので、
今暫くお時間を頂ければと思います。

今回も2件のサイト様を、新たにリンクノートで
ご紹介させて頂きます。

足跡からご縁がつながりました和那様と、
お気に入りブックマークの中が多過ぎてうっかり見落としてしまい、
今になって慌ててご挨拶に伺ったマリーゴールド様のお部屋です。
(マリーゴールド様には、carrie marigoldの方にもメッセージをお送りしております)


ここではリンクをつなげておりませんので、
各 LINK NOTE よりご入館下さい。
初めてLINK NOTE をご利用される方はお手数ですがコチラの記事をご一読頂ければと思います。




LINK NOTE 1
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❏ 034 和那 さん    
    chocolate kiss
    2013.09.03. 〜 / テキスト & イラスト
    [新規サイト様!CHへの愛を感じる見事な場面の切り取り方に引き込まれます。]

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LINK NOTE 2
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❏ 130 マリーゴールド さん    
    想ひ出倉庫
    2006.09.01.〜 2009.06.29.Last Up / イラスト
    [CHカテゴリー以外のところでもRKが隠れていますっ。他ジャンルも多数あり。]

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CHが好きと、SNSで発信して下さっている方が
お1人、またお1人と増えていっていることが
ファンとしてこの上なく嬉しく思っております。
4月以降、新たに追記させて頂きました皆様、
改めて今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

26-06 Bathrobe

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(6) Bathrobe ********************************************************* 3252文字くらい



「ああっ!棒がジャマで脱げないじゃない!」

慌てて左腿に巻いているガムテープを外して、

非常用に持ち歩いていた木の枝をバタバタと外す。



「ふーっ、間に合った…。」



立派な水洗トイレ、

きれいに掃除され、消耗品もちゃんと備えてあり、

芳香剤代わりになっているラベンダーのドライフラワーまでお洒落に飾ってある。

ペーパーもダブルの柄付き香料付きで厚手の高級品。



「こ、ここって、アジトというよりも、ペンションじゃない…。」



用を済ませた香は、

手を洗いながら想像していた山荘とかなり違うことに戸惑う。

ガムテープを丸めて、枝を拾い上げると、

そっとレストルームから顔を出す。



撩は先ほどと同じ暖炉の前で、しゃがんでトングを手に薪をいじっている。

「ね、ゴミ箱ある?」

「あ?」

唐突の質問に、振り向く相方。

「これ、捨てたいんだけど…。」

くしゃくしゃの布ガムテープを見せる香。

「あー、こっちのソファーの横にゴミ箱あっから。」

指を指す場所は、丁度香から死角になっている。

ややぎこちなさを纏って、撩のいる方に近付くが、

トレッキングシューズとフローリングが刷れる音が重たく響き、

さらに歩みを緩めて暖炉に近付いた。



ソファーの陰に藤で編まれた円柱のカゴが目に入る。

「あ、ここね?」

遠慮気味にガムテープの塊を落とす香の後ろから撩が声をかける。

「そいつは、こっちによこしな。」

「あ…。」

持っていた枝をひょいっと取られて、

暖炉の燃料にされてしまった。

ボウッと乾いた音と共に、枝が黒くなっていく。

「もう用なしだろ?」

「あ、うん。」

なんでこんなモノを持ち歩いていたのか聞いてこない撩に、

理由は全てお見通しかと、

あえて香も腿に縛り付けていた理由を説明することは

見送ることにした。



「先に風呂行ってくっか?バスローブもあっから。」

「え?い、いいの?」

「いーの。」

撩は涼しい顔をして腕を伸ばし、薪の位置を調整する。

材が動く度に細かな火の粉が舞い上がる。

実は、撩はこっそり客間から香の服を持ち出してここに持ってきているのだが、

今は、他の部屋にしまってあり、

持参していることはナイショにしておくことにする。

バスルームには、別の衣類のセットがあり、

それを纏って戻る香を密かに楽しみにしている撩。

そんなことをおくびにも出さずに香に進行方向を指示する。



「あっちの扉の奥がバスルームだ。さっさと行ってこい。」

「あ、う、うん、ありがと…。」



困惑気味に、撩が指差した扉に向かう。

もっと壊れそうな山小屋みたいなところを思い描いていた。

なのに、山荘というより別荘的な宿泊施設の雰囲気に、

そこで、撩と2人きりというのが、

どうにもこうにも気恥ずかしく、言葉もうまく出てこない。



指示された浴室も脱衣所も、

美しく快適で、ホテルのような空間に、

開き戸を持ったまま香は固まってしまった。



「……なんかスゴすぎない?」



木製ハンガーにクリーム色がかった白いバスローブが2着。

チェストの上には布ばりしたカゴ、

その中には香用と思われる新しいキャミソールとショーツ。

いかにも高品質の大きなバスタオルにフェイスタオルがセットされ、

棚には、タオルの予備が十分に積まれている。

床には、ふかふかの広いバスマットに、品のいいスリッパ。

洗面台の鏡も大きく、洗面ボールも広くて深い。

歯磨きセット、新しい石けんも備えてある。

淡いマーブル模様は天然の大理石かと、

自分にとって場違い過ぎる高級感に体が更に動かなくなる香。



「ま、まさか、あとで宿泊費とか請求されるんじゃないでしょうね…。」



まだ泊まってもいないのに、いらぬ心配をし始めるが、

コーナーに設置している洗濯機と乾燥機がふと目に入る。

「あ…、この服とかここで洗ったら乾かせるかしら?」

しかし、まだ香はここの滞在予定時間を知らない。

「んー、すぐ帰るんだったら、ダメね。」



それ以前に、自分の服にはペイントの汚れがあり、

肩も破けている。

ガムテープで補修している肩の穴は、

今日ここでは修理不可、カジュアルシャツとトレーナーも切り傷があり、

裁縫道具が必要。

いつも持ち歩いている簡易ソーイングセットは、

撩の車に置きっぱなしのバッグの中。

とてもじゃないが、車内だけならまだしも、

これをまた着て人が沢山いるような外は歩けない。



「どうしよう…。」



とりあえず、考えるよりもまずは汗を流さなきゃと、

纏っていたダウンのベストから、フリース、シャツ、トレーナーと

順にごそごそと脱ぎ始める。

ピンクのカジュアルシャツは、自分の汗をたっぷり吸って重たくなっていた。

こんなものを着て、もう一晩外にいなければならないようだったら、

低体温症で遭難は間違いなし。

とりあえず脱ぐものを脱ぐと、フェイスタオルを1枚手に取って、

前を隠しながら浴室に、と思ったところではたと足が止まる。



「ここって、カギは?」



振り返ると、脱衣所には頼りないがロックが一応付いている。

香は慌てて腕を伸ばして、サムターンをカチリと回す。

あれから、スキあらば一緒に入ろうコールを言い続けるもっこり虫。

とてもじゃないがその提案をのめる心境には到底なれない。

ベッドの中でなら、

恥ずかしくても撩なら全てを許し受け入れられると思いつつも、

浴室は全く別問題。



「うー、これじゃ、心細いじゃないっ。」

香は、はっと思い立って、がらっと浴室のガラス戸を勢い良く開ける。

「ま、窓は??」

ない。

そのかわり、天井に大きめの換気口。

悲しいかな、

上からぶら下がっているスケベ顔の相棒がぼんやりと見えてしまった。

「の、のんびり浴びてらんないわ!」

いつ襲撃がくるか分からないと、

せっかく脱衣所と同等の快適な水回りにも関わらず、

香は、備え付けのシャンプーとリンスとボディーソープを使い

超特急で全身の汗を洗い流した。






「はぁー、さっぱりしたぁ。」



持ち込んだタオルでくしゃくしゃと軽く髪の毛の水毛と取り、

簡単に体を拭き上げる。

かさぶたになっていた右肩の傷が少しふやけ、

右腿の打ち身は、青紫に変色していた。

木のトゲが刺さった左指の穴は塞がってはいるが、赤い点となって残っている。

かがんで両方の踝(くるぶし)を確認すると、

右足の外側は赤くなり、左は薄く皮が剥けていた。

そして、撩が残した各所の吸い付き痕は、一晩明けて一段薄くなっている。

自分の体の傷を一通り見終わると、

たった半日かそこらで、よくもまぁここまで傷を重ねたものだと、

情けなくなってしまった。



「撩なら、無傷で当然なんだろうな…。」



慣れないフィールドで、色々と気を取られてしまったのもあり、

廃ビルや埋め立て地などの都市的環境とは全く違う場所で、

自分の注意力が追いついていなかったことを思い知らされる。



「はやく着替えなきゃ。」



脱衣所に出て、

訝しがりながら用意されていたインナーを手に取る。

未開封、未使用のショーツとキャミソールは

黒のシンプルなデザイン。

香は、どうしてこんなものまでちゃんと揃っているのか理解に苦しみながら、

透明なポリプロピレンフィルムの包装を開封する。



「し、シルクぅ?」



手触りから、覚えのある質感に目が見開く。

とりあえず、着るものはこれしかないので、

致し方なくショーツに足を通しキャミソールに腕と首を通す。

肌触りの良さを感じつつ、この後、これを着て帰宅した後、

洗ってどこぞに返さなければいけないのかと考え始めてしまう。



「安くはないわよ、これ…。」



体が冷え始めたので、

急いで厚いタオル地で織られている白のバスローブを纏う。

冴羽家には、そんな洒落たモノを置いている訳がないので、

これまた滅多に着ないものに緊張する。

この姿で撩のところに行かなければならないのかと、

他に選択肢を探そうにも、どうしようもないので、溜め息を吐きながら諦めることに。

一応、脱いだものをたたみ、

柔らかいスリッパを履き、

洗面台に備え付けているドライヤーとブラシで髪の毛を乾かした。

汗と汚れを一通り落とし、すっきりとする。



「はぁ…。この後、どうするのかしら?」



溜め息を吐きながら、

改めて脱衣所と洗面所を見回す。

目的地にゴールしたはいいが、

その後の展開が全く読めない香は、

自分には縁がなさ過ぎる環境で、

とてもじゃないが落ち着けそうにはなかった。


***************************
(7)につづく。





確か、原作冴羽家ではバスローブが出て来たシーンはなかったと思うのですが、
もし、あったよ!と見つけた方は教えて下さ〜い。
マリーとホテルに行った時、
撩のバスローブが出て来たくらいかなと…。

そういえば、
今日は、ルパン初代の山田さんのお誕生日。

26-05 80 Point

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝   


(5) 80 Point ********************************************************** 2308文字くらい




「りょ……?いる、の?」



まだ、整わない呼吸の中、

そっとドアの隙間から中を覗き見る香。

広い1階居間がダイレクトに見える空間のその奥に、

相方の広い背中を見つけた。

窓からの外の光りを横から受け、

炎の明かりでうっすらと縁取られた輪郭にどきりとする。



そして、急に安心感が沸き上がり、目元に水気がじわりと込み上がる。

同時に、きっと撩の考えていた予定の時間より

遅くなったに違いないと、ドアの外に立ったまま、

タイムオーバー覚悟の心理は反射的に謝罪の言葉を吐かせてしまった。



「ご、ごめん、なさい…。遅くなって…。」



暖炉の前で、片膝をついている撩、火バサミを持つ腕がぴくんと動く。

パチパチと弾ける音を出しながら、

熾(お)き火になりつつある炎を見つめる。

どうして、そこで誤るんだと、

膝にひっかけている腕にぐっと力が入ってしまった。

撩は、ふっと軽く息を吐き出し、ゆっくりと立ち上がる。

持っていたトングを、薪の山にカシャリと立てかけ、半開きにしたドアの方に体を向けた。

香の茶色い前髪のみが、扉の枠の端から覗き見えて、

白い息だけが外の空気に揺らめいて動いている。

自分から入ってこようとしない姿に、またずきりとオトコの胸が絞られた。



撩は、わざと足音を立てながら入り口に近付いて行く。

徐々に見えてくるドアの外の香の姿、

人形を背負っているため、背中を曲げて頭の位置も下がり気味、

顔を見ることができない。



撩の腕は、ドアをぐいっと押し開けて、

同時に片足の先で、ドアストッパーをトンと一押しして解除する。

おそらく香は、時間制限内にはミッションが終わらなかったと

勝手に思い込んでいる。

どんな言葉をかけてやるべきか、

多くの初体験をこなし、

体力的にギリギリの重労働を経てきた相棒に、

その戻ってきた姿だけで、撩の表皮にちりりと切ない電流が流れる。



選ぶべき言葉が出てこない。



無言のままでいる撩に、香はきっと怒っていると勘違いをし、

更なる詫び言を重ねた。



「ご、ごめん、……し、失格だよね。」



このバカと、声が出そうになった撩。

香のこめかみの汗がぽたりと2人の間に落ちる。

撩の大きな手がゆっくりと動き、前髪をくしゃりと搔き上げた。

疲労感が混じる表情で、

やっと顔を上げた香は、見下ろしている撩と久しぶりに視線を合わせる。

そこに、時計のアラームが鳴った。

「え?」

「ごーかく。時間内に着けたじゃん。」

「え?」

「ほれ、背中向けな。」



撩は、香をドアの内側に招き入れ、扉を閉めると、

ひょいっとダミー人形を受け取った。

力なくぷらんと手足が揺れ、そのままお姫様抱っこで、

ソファーの上に横たわらせる。

ついでにテーブルの上で鳴っていた時計も停止させた。

時間は朝の8時半。



やっと重さから開放された、香は戸口前で背中を丸めたまま、

はぁと片膝を床に付いた。

「こいつは、これでお役目御免だな。」

そう言いながら、撩は香の後ろにまわり腕を伸ばすと、

ウエストバッグのプラスチックバックルをパチンと外した。

どさりという音と共に、急に腰回りが軽くなり、ぎょっとしたところで、

正面から脇の下に撩の手が入り込み、起立させられる。

よろっとバランスを崩しそうになった香。

そのままぎゅーっと強く抱きしめられてしまった。

「あっ……。」

香は、汗だくのままで撩の腕に囲われて、

汚れているのに、臭いもあるのにと、下着も付けてないのにと、

恥ずかしさで一瞬抵抗をしようと思ったが、

込められる両腕の力に、安心感も重なり素直に体を預けることにした。



撩は、ノーブラのこともすぐに分かったが、

汗で濡れている背中のことも全く気にせずに

右手を香の髪の毛に埋めて自分の胸に小さな頭を押しつけた。

左腕はしっかりと腰回りに絡めさせる。



やっと触れられたと、この瞬間をどんなに待ちわびたことか、

欠乏していた感覚を得られたことが、

直通で自分の満足につながってくる。



背骨を伝う汗に、息の乱れ、まだ整わない心拍に、

無事の到着を褒めなきゃだめだろと、言葉を選ぶ撩。




「……おつかれさん。」




ぴくりと香の体が揺れた。

耳のすぐそばで聞こえたその言葉に、

やっとミッション終了の区切りを感じ、

はぁと脱力する。

「ま、80点くらいかな?」

「は?」

「とりあえずどーする?メシくう?それともシャワー浴びてくるか?」

抱き込んだまま、にやっとして香の瞳を見つめ下ろす。

まるで、夫の帰りを待っていた嫁が

¨お風呂にする?お食事にする?¨と言う台詞と同じではないかと、

きょとんとする香。

「え?」

「一応、一通りそろってるぜ。」

「ここって…。」

「んー、教授のアジトのひ・と・つ♡」

疲労と到着した安心感で考えがうまくまとまらない。

「そ、その前に、と、トイレいかせて!」

急に思い出したかのように、

顔を赤らめてそう言うと香は撩から離れようとした。

太い腕が拘束を緩める。

「あー、あそこの階段の下のドアが手洗いだ。さっさと行ってこい。」

「あ、う、うん、ありがとっ。」

ダッシュで駆け込む香を目で追う撩。

そう言えば、あいつは夕べ一回も用足ししていなかったなと、

寒さと発汗でそっちには水分がいかなかったかと、苦笑する。

落ちていたカメラバッグを拾い上げ、

ソファーにどさっと投げ置く。

香が連れてきた人形には、

長椅子にあった2枚のブランケットのうち1枚をかぶせて、

「任務終了な。」

と声をかけた。



撩は、再び暖炉に向かい、

薪を追加して火力をアップさせる。

「きょぉ〜はぁ〜、いちにちぃ〜、ここで、のんびりぃ〜♪」

ここからすぐに帰るつもりはない。

アパート以外の非日常的な場所で、

邪魔が入ることなく過ごせるとあったら、

無為に滞在時間を短くする必要はなし。

香の体力回復も含めて、夕方までにここを出られればいいかと、

撩は、窓の外の赤や黄色の葉を見ながら、

また燃料を追加した。


*****************************
(6)につづく。





やっと合流〜。

【お詫び&お礼】
やっとこっちの「記事の管理」画面をいじれた…。
今月になってから初めてのまともなログイン…。
もっとゆっくりかまいたいのにぃ…。
9/6より初回からお読み頂き拍手を残して下さっている方、
大量のパチパチをありがとうございます!
気がついたらお問い合わせコーナーにも
有り難く嬉しいメッセージが溜まっており、返信が遅れて申し訳ございません。
現在、コメントが入ったことをメールでお知らせしてもらえる
機能を使っておらず、ログインしないと確認できない状態で、
対応が更に後手後手になってしまい心苦しいところでございます。
お返事、少しずつ送らせて頂きますので、
少し猶予を頂けると有り難いです。
本当は、もっともっとCHとその関連にかける時間を増やしたいのですが、
実生活での時間配分がめちゃくちゃヘタクソで、
サイト管理も滞らせている始末…。
本編の手術も同時並行ですが、
できるだけ休載にならないよう努めたいと思います。
こんなサイトですが、皆様のご訪問に改めて感謝申し上げます。
[2013.09.08.18:18]

【拍手最高記録】
9/8の1日あたりの拍手数が157と過去最高を頂きました。
合わせて御礼申し上げます!

26-04 Fireplace

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(4)Fireplace ********************************************************* 1703文字くらい




(あの切り株まで辿り着ければ、もう大丈夫だな。)



ふっと口角をあげる撩。

読み通り、想定していた休息ポイントで、

一時停止をした相棒を確認すると、

朝日を横から浴びながら、一足先に山荘に上がることにした。



トレイルを抜けて、ジャケットに手をつっこみ、

ひょいひょいと中庭的空間を直進。

ドアの前に立つと、

まるで、俺んちという遠慮の欠片もない手つきで、

ディンプルキーを2つ使い、上下ある2つのカギ穴を回した。

ロックは問題なく解除される。

本来だったら、こんなに簡単に侵入は出来ないが、

今だけセキュリティーは低レベル。

土足でそのまま入れば、広い居間に暖炉、

その前には羊の毛皮のラグが二畳分は敷かれ、

立派なソファーにテーブルがセットされている。



「どこの山荘も、似たような作りだこと…。」



そう言いながら、

テーブルの上の小さなデジタル時計のアラームをセットする。

香がここに入ってきてから鳴るように、

裏フタのネジを回した。



小細工がすむとおもむろに

暖炉のわきに積み上げてある十分乾燥した薪をいくつか持ち上げ、

ガラガラと火床の上にある金網の上に無造作に並べる。

細い枝も一緒に何本か突っ込み、ポケットのライターを探す。

「新聞紙かなんかねぇか?」

昨晩の下見の時に、確認しそこなっていた。

壁と一体化している物置棚の開き戸を開けると、ちゃんと古新聞も備えてあるのを発見。

「さっさと燃えてちょぉーだいな。」

暖炉の前に膝をついてしゃがむと、

ジッポのオイルを少しだけ材に振り撒き、

新聞紙と小枝から着火させる。

火は勢い良く成長して、順調に薪本体を炎で包んだ。



「こんなもんか…。」



赤い揺らめきが撩の顔を照らす。

あとは相棒をここで待つだけ。

どうやって疲れ果てたパートナーを迎えようか、

自分の登場の仕方の演出を、

ステンレス製の火ばさみで薪を微調整しながら妄想中。

やはりカッコいい出迎え方に越したことはない。



「ドアは開けといたほうがいいか?」



閉めていると、かえって警戒心を大きく持たせてしまう。

どうせ香のこと、建物を見つけたら人形をどこかに避難させ、

山荘のまわりを調べようとするに違いない。

それもまた訓練と言いたいが、

ここがゴール。

もうこれまでの経緯だけで十分だと、

一刻も早く相棒を掻き抱きたい。



「よっと。」



撩は膝に手を当て、勢いをつけて立ち上がり、出入り口に向かった。

全開すると、折角暖炉で温め始めた部屋の暖気が逃げてしまうが、

都合がいいことに、

この扉にはちゃんとドアストッパーが付いていた。



「半開きにしときゃ、分かんだろ。」



足でコンと支柱を下げて、中を覗ける幅で玄関ドアを開放する。

外からすぐに冷たい空気が流れ込んでくるが、

いずれ、この部屋の温度の方が勢いを増すだろうと、

再び撩は暖炉に向かい、更に太い薪をくべる。

ぶつかった材が、小さな火の粉を舞い上げ、ぼうっと燃え上がった。

撩の目の中にもその光りが映り込み、

久しぶりに見るナマの炎が燎火にも見え、

原始の血を騒がせる。



「うーん、ボクちゃん、セーブできるかしらん…。」



一晩溜めた自分勝手なストレスは想像以上に膨張中。

午後3時から翌朝8時という、

たった17時間という間が開いただけなのに、

すでに待てない自分に苦笑する。



「ん?」



敷地内に香が到着した気配をキャッチ。

「やっと来たか…、ってあいつ何やってんだ?」

消しているつもりの足音も、暖炉の前の撩に伝わってくる。

どうやら思った通り、ダミー人形をどこかに仮置きし、

周囲をさぐっている様子がうかがえる。



「ったく、さっさと入ってこいよ…。」



かがんで、火ばさみを持った腕を伸ばしたまま、

はぁとがっくりとうなだれてみる。

いや、本来ならば褒めてやるべき行動ではあるが、

これ以上到着時間を伸ばすなと、

今、自分が立ち上がって外に香を回収しに行きたい気分をぐっと抑制。



やがて、特に問題がないことに納得した香は、

また重いものを背負っていることが分かる足取りで、

玄関のドアにゆっくりと近付いてきた。



緊張感が漂うその気配に、また苦笑する。

撩は、もうそのまま暖炉に向き合ったまま、

香の登場を待つことにした。


******************************
(5)へつづく。





うずうずしている撩ちん。

ちょっと長いですが、火について思うところを…。
何年か前の「子ども白書」で、
平成生まれの世代では、火に対する経験度がかなり浅く、
マッチの存在や使い方を知らないのは珍しくなく、
日常的に、木が燃えるところを見たり、
熾き火の色を知っていたりする
若い世代がかぁ〜なり少ないとのことでした。
確かに、
ガスコンロとIHの普及(あ、IHや電子レンジの電磁波有害説はニセ科学の可能性大…)で、
学校行事のキャンプファイヤーや、
夏のバーベーキュー以外では、
ナマの火の光りと熱を体験できる場がなくなっとると…。
我が家は、幸運にも庭にブロック釜を設置でき、折々に調理に使っていますが、
地方においても、こーゆーことは今やレアな部類かもと。
出来たら将来的には、
ペレットも併用できる薪ストーブを導入したいところですが、
当分リフォームは出来そうにないので(金もないし…)、
まわりの仲間が持っている暖炉や薪ストーブに恩恵を便乗させてもらっています。

薪や材が管理下で燃えている様は、
祖先が火を使い始めた少なくとも160万年前から
刷り込まれた心の深部に与える何かがあるようで、
薄暗い中で放たれる炭火や熾き火のあの赤さは、
いつまでも見ていたい気になっちゃいます。
というワケで、この章(「部」って表現しちゃってますが)は、
この順調に燃えている暖炉の火を、一つのキーポイントにしております。

26-03 Goal

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝    


(3) Goal ******************************************************* 1140文字くらい



感覚的に15分歩いて3分休憩、

こまめな休息が、疲れを軽減させることを歩きながら修得した香。

一歩一歩前進して行くと、

トレイルの路肩に

ちょうど腰を降ろすのにちょうどいい切り株が目に入った。

やっとそこで、背中から重さを一度解放すことに。



「よっと…。」



チェーンソーできれいにカットされたと思われる切り口には、

数えられる年輪が100近くある。

小さなテーブルにもなりそうな、切り株の根元に寄りかからせるように

人形を降ろそうと、香も背負ったままかがんで腰を落とした。



「ふーっ。」



背中から熱が引いていくのが分かり、

ぶるっと小さく震える。

一体どれくらい登坂できたのか、

腰のカメラバッグから地図とボトルを取り出す。

先に水分補給だと、飲み過ぎに注意して喉を動かすが、

気分は一気に残りを流し込んでしまいたい衝動にかられる。

それをぐっと抑えての給水に、水分不足を感じ始めた。



「あ、あと、どれくらい、かしら…。」



地図を指でなぞりながら、時間も確認する。

明け方出発してから既に2時間経過。

長針と短針は朝の8時を示していた。



「うそぉ!もうこんな時間なのぉ?」



どうりて太陽も高くなっているはずだと、

途中途中で時間を確認できなかったことは、

自分の感覚だけでは、アテにならないことを思い知る。



「ん?だけど、もうちょっとじゃない?」

周囲の地形がそんなによく見えるわけではないが、

尾根の両サイドから確認できる手前と奥の地形と、

等高線の入り方を見ながら、

もうすぐ標高800メートルのところに手が届くことを知る。



「い、いかなきゃ!」



ここでのんびりしている場合ではない。

香は、地図とボトルを慌ててバッグに押し込め、

ここで食べようと思っていたチョコのことも忘れ、

人形をかかえて切り株に座らせると、

また反転して背中から腕をとり、よっと言いながら背負い上げる。

両腕で人形の腰から腿を支え、また本ルートに戻る。



「も、もうすぐ、よっ……。」



自分にも人形にも言い聞かせるようなつぶやき。

歩き始めて間もないところで、

バンダナをおでこに巻くのを忘れたと、気ばかりが焦って

しようと思っていたことをいくつかし忘れてしまった。

「あ、チョコも…。」

しかし、それ以前にゴールが近いと感じ、

傾斜を進む足も力が入る。



「あと、少し、じゃない、かな?はぁ、ふ…、はぁ…。」




やがて上り坂が途切れ、

視野を覆っていた樹木のトンネルの出口が見える。

尾根を上がりきった先には、

広く開けた森の空間が出てきた。

その真ん中に建つ立派な山荘が香達を出迎える。



「つ、ついたぁ…。」



第一印象は、自分がかつて拉致され連れ込まれた

北條のぼんぼん所有のアノ山荘と似ている、

そんなことが思い浮かんだ。


******************************
(4)へつづく。





短いですが、到着の様子ということで…。
完全版23巻、第239話で登場した、
カオリン拉致現場の山荘をレイアウトの参考にと。
暖炉の前の柵と、とカオリンが座っていた
1人用ソファーは削除しちゃいます。
すでにあの山荘でクリスマスツリーが2つも飾ってあったのは、
ちょっと気が早い感じも…。
これもここでは使いませんということで〜。

26-02 Sunrise

第26部 Mountain Villa

奥多摩湖畔から14日目の朝  


(2)Sunrise ********************************************************** 1903文字くらい



ずっと下向きで、ひたすら尾根道を登っていた香の目に、

右からきらっと光りが差し込む。



「ん?な、なに?」



てっきり鏡か何かが反射したものが目に入ったかと思いきや、

稜線の向こうから、日の出がお目見えした。

といっても、まだほんのわずかに頭が出ているだけ。

向こうの尾根の木々の形がきれいにシルエットで浮かび上がる。

気付かないうちに、空も随分と明るくなってきた。



「お日様出ちゃった、ね…。」



時間は、6時半頃。

あれから30分ほど歩き続けているが、まだゴールは遠い。

人形を背負っているので、

顔をあまり上げることができず、主な視界は、自分の足回り。

紅葉最盛期の森の中、

それを独り占めしている贅沢な環境のはずなのに、

周囲の赤や黄色を楽しむゆとりは殆どない。



ただ、足元に落ちている多種多様な葉の形と色を目にしながら、

葉っぱだけで種類が分かったら楽しいだろうなと、

モミジやイチョウくらいしか知らないことを

ちょっと残念に感じたりもした。



こめかみから、頬を伝って汗がぽたりぽたりと落ち始める。

吐く息は相変わらず白く、

さきほどから踝(くるぶし)あたりに、わずかな痛みを覚えるようになった。



「く、靴ずれ、おこしちゃった、かしら……。」



歩くのにさほど問題はない痛さだと、

立ち止まっても背中の人形を降ろして背負い直す労力を考えると、

そのまま前進したほうがいいと、さらに尾根道を進む。

昨日、渡されたばかりのトレッキングシューズ、

足に馴染まなくて当然。

やや眉を寄せながら、とにかく上を目指す。



東の空がますます明るくなり、

端しか見えていなかった太陽が、もうすっかり顔を出している。

陽が一つ分動くのに要する時間は約2分、

目標物が近い低い位置の動きは、より早く太陽が移動しているように見える。

目を細めながら、ちらりと尾根向こうの景観をみやる。

右半身が木々の隙間から照らされ、そこから陽の温度を感じ、

恒星の持つ熱エネルギーが衣服を通過し肌に届く。



「ふぅ…、い、いま、どのへんだろ…、はぁ、…ふっ。」



地図を見たいが、休息する都合の良い場所もなく、

陽の昇る角度で時間を読めればいいのだが、香にはそのスキルもなく、

本当にゴールがこの先あるんだろうかと、

だんだん不安になってくる。



汗も、額から眉を越えて、目に入ってきた。

ぬぐいたいけど、手は使えず。

こんなことなら、バンダナをおでこに巻いておけばよかったと、

一つ反省点が浮かび上がる。

手術の時に、執刀医が汗をふいてもらうシーンがポンと浮かんだ。

(うー、あたしも、ふいてもらいたい…。)

背中も全面にじっとりと発汗。

夕べ、タンクトップもブラも取り去ったので、

直(じか)に、カジュアルシャツとトレーナーに染みていく。



昨日の夕方、ロッジの捜索前に自分の左腿に巻き付けた

40センチの枯れ枝はそのまま。

額に巻きたいバンダナは首まわりに。

黒のフリースの右肩にはガムテープの修繕の痕。

両腕には、蛍光ピンクの格子模様が入る。

そんな姿で、ダミー人形を抱えてひたすらの登坂。



「つ、杖が欲しぃ…。」



自分に腕力があって、片手で背負っている重さを支えられるのであれば、

そこらへんに落ちている枝から長いものを選んで

ステッキがわりにしたいところ。

しかし、とてもじゃないが、背中の人形は両手の支えをなくしたら、

とたんにずり落ちること必至。

両手を使えず、時間も見れず、

もし足元のバランスを崩して、転倒したら間違いなく顔から着地だと、

重量に耐えつつ細心の注意を払いながら一歩一歩を重ねて行く。



そうこうしているうちに、

太陽がずいぶん上まで移動している。

香は一旦立ち止まって、一時停止のみの休憩をとることにする。

これで座ったりしたら、また復帰が一苦労。

はぁと息をついて、呼吸が整うのをしばし待つ。

激しく酸素を使っていることを自覚するこの運動に、

普段使っていない筋肉も動員されていることを感じる。



「こ、これ、明日か、明後日には、き、筋肉痛、かな?」



よいしょっと、若干ずれた人形をまた背負い直す。

そこに、また鳥の声が近付いてきた。

エナガ、コガラ、ヤマガラの混群が樹上を鳴きながら通過していく。

夕方より朝のほうが、鳥達が賑やかだと、

彼らのおしゃべりを耳にしながら、

香は、休憩に一区切りつけ、再出発することに。

ずいぶんと楽になった気がすると、休息の効果を実感しながら、

先へ進む。



できることなら、

手ぶらでのんびり、紅葉の森を歩きたかったと、

撩と一緒に、歩きたかったと、

ちらりと思うが、観光で来た訳ではない。

これは、訓練と、また言い聞かせて、

香は、尾根筋の一本道をゆっくりと登っていった。


***********************************
(3)につづく。






野鳥を登場させたので、生き物効果音について少々。
CHのアニメでは、かなりの野鳥の鳴き声が
音響として使われていています。
映画やドラマを見る時も、つい生き物考証的視点から、
監督のこだわりや作品への愛を探したりも。
しかし、近年の映像作品にはがっかりさせられるコトが多く、
季節や環境から大きく外れた自然音響の使い方がかなりあり、
折角のいい脚本、いい配役の仕上がりなのに、
自然考証がイイカゲンなばかりに、
作品全てが曇って見えてしまうことも…。
(歴史考証でも同じことが言えるかもしれませんが、こちらはド素人なもんで)
一方で、CHはかなり良い効果音の使い方がよく見られるので、
DVD-BOXを入手できたあかつきには、
全作品の生物演出を拾い出そうと目論んでおります。
(そんなヒマあんのか?←家族の声)
というワケで、
クーレンズのCHコラポモノ(なんでカオリンがないんだっ)を買うのをガマンして、
DVD-BOX用の貯金をちびちび積み立てて行こうと思いますぅ。
早く欲しいよぉ〜。

プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


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