29-02 Ryo's Arms As A Pillow

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目 


(2)Ryo’s Arms As A Pillow ***************************************** 3108文字くらい



指で感じた圧で目が覚めた。



薄く瞼を開いてみる。

布団の縁(ふち)から少しだけはみ出ている絡んだ右手が、

目覚めの原因と分かるも、

その視覚情報が本当なんだろうかと、

朝一から疑いたくなってしまう。



撩が自分の手を握っている。

交互に滑り込ませている指に、

手の平も空気の逃げ場がないくらいに

ぴたりと合わさっている互いの利き手。



まだ、半開きのままの瞳でそれを見つめながら、

今の状況を分析してみる。

撩は、Tシャツとトランクス姿で、自分の背後に密着し、

4本の足も接地面が最大になるかのように、

もつれて触れ合う。

撩のふくらはぎの筋肉が香の膝下にずしりとかかり、

思わず、重い…と声が漏れそうになった。

香の背面と撩の腹面が隙間なく重なり、

長く太く熱い左腕が、離れるなと言わんばかりに、

腰から肋骨にきつく巻き付いている。



照れと恥ずかしさで、

覚醒した時からじわじわと上がっていた体温は、

額から足の指先まで香を赤く染め上げる。

それでも、

抱きつき絡んでいるモノの方が熱を持っていて、

心地よく温かい。



香は、またゆっくりと目を閉じて、

はぁと湿り気のある吐息を細く出した。



背中で感じる撩の肺の動きが、

耳に届く規則的な落ち着いた呼吸音が、

触れている全ての部分で感じるぬくもりが、

この時間を、もっと長くしたいと思わせてしまう。



毎朝、毎朝、この状態が信じられない。

撩と自分が同じ布団で、

こんなにくっついて一緒に寝ている光景など、

先月までは到底考えられなかった。



こうやって人の体温を感じながら眠りにつき、

目覚めることそのものが、

激レアの出来事。

稀に、依頼人やその連れ子と同じ寝具を使ったこともあったが、

触れ合いながら、というスタイルは近年殆ど記憶にない。




いつが最後だったかと

目を閉じたまま、10代の頃を思い返してみる。

兄と共に過ごしたあの小さな住まい。

あ…と、浮かんだ光景は、たぶん9才前後の自分。

たぶん、その頃まで一緒の布団で腕枕をしてもらいながら、

寝ていた日々が蘇(よみがえ)る。



いつしか、狭いながらも2組の布団が敷かれ、

別々に寝るようになったのは、年齢が二ケタになったあたりかと、

今は亡き槇村との思い出のシーンが瞼の裏に浮かぶ。

それ以降、

誰かとこんなふうに密着して横になることはほぼ皆無。



一人寝が当たり前だったのに、

いきなり今月から、二人寝の生活になってしまった。




腕枕をしてくれたのは、

これまでの人生において、兄と撩、2人だけ。



ただ、槇村の時とは明らかに違う感情の存在は無視出来ない。

心許した相手と、体温を感じながら同じ寝具を使うことが、

こんなにも気持ち良く、心地よく、幸福感を抱けるのかと、

やはり振り出しの ¨信じられない¨ に戻ってしまう。




指の関節に伝わるのは、自分の心音なのか、

トトトと、やや早くなった脈を自覚する。

きっと、もう目が覚めていることは、撩にバレていると確信しつつ、

さらに目をきゅっと閉じて、寝たふりを選ぶことに。



今の時間を見損なってしまったが、

今日の朝は、ゴミ出しはしなくていい日のはずと、

香にしては珍しく、二度寝の惰眠コースに舵を切ろうと、

ごそりと少し体を動かして、枕により頬を埋めることに。



その時、香の唇がつと撩の上腕に触れてしまった。

ちょうど半袖Tシャツの縁がめくれてずれていたのだ。

直に肌へ触れた上唇下唇に、

撩もぴくりと体が動く。

とたんに、熱の塊が、

香の内腿の間からにょっと突き抜けて顔を出した。



「え?」



声が出て、目が見開く。

ぎりぎり布を被っているも、その円柱形のモノは、

白いシルクのパジャマの間をぬって、

その摩擦でぴくんと振り子のように反応する。



「んー…。」



眠気をまとった撩の声と同時に、

右手をつなげたまま、ぐいっと両腕で抱き込まれ、

足の絡みも一段よじられ、

腿の間に挟まれている物が、より強くサンドされる。



「なっ…、ちょ…っ。」



完全な拘束状態。

動けない。

むにゃむにゃと、わざとらしい口の動きが耳に届く。

髪の毛に頬ずりをされる感触が伝わってきた。

しかし、足の間にあるブツがどうにもこうにも気になって、

この体勢を変えなければと、真っ赤になった顔で、

あがいてみることにした香。



「りょ、撩!ちょっと!苦しいんだってばっ!」

「ん〜…。」

より強く抱き込んでくる相方に、

もしかして、これは朝からアレが始まってしまうのかと、

かぁーとなって、どぎまぎとして、ちょっと先まで想像してみるも、

今日の午前中は、

それなりに片付けなければならないことが指折り並ぶ。

今はちょっと勘弁してもらいたいと、

ちらりと思うも、

一方でこのぬくもりの中、

また、されるがままに、甘い時間を過ごしたいと思ったもの事実。



「ね、ちょっと、い、今、何時よ…、う…息できない、ってば…。」



内股で撩のナニが、一層固く大きくなった気がして、

自分の敏感なところとわずかに擦れ合う。

香の中でも、起床と合体の目盛りが押しあいこし始めた。

逃げられない。

もう諦めてしまおうかと思った時、

後ろから、ぐふふぅ〜と怪しげな含み笑いが聞こえる。



「むふふぅ…、あやめちゃーん、すみれちゃーん、チカちゃんもぉ〜、

りょうちゃん、モテモテで、こまっちゃぁ〜う♡」



コンマ数秒の間で、

寝起きながらも、香の前頭葉が高速で情報を解釈する。

これは、ハンマーを待っている寝言を模した台詞。

自分から解放できる自信がないという、

捻(ひね)りを入れた撩なりのメッセージ。

ご希望通りに、

絶妙なタイミングでホンの一瞬緩んだ腕の感覚を逃さずに、

やや控えめの50トンハンマーを登場させた。



「ひぶっ!」



疑似寝言から、撩の上半身がそれに潰されるまで、

1秒かからず。

「まったく!どんな夢見てんのよっ!あ、あたし、もう先に起きるからっ!」

ハンマーから腕だけ出している撩。

頬を染めたまま、するりとベッドから降りた香。

とたんに、ふるっと寒さで身が縮こまる。



「あ、れ?スリッパがない…。も、もうっ!どこやっちゃったのよ!」

ソファー側から、ベッドの周囲を見渡すも、探している物は見つからず。

撩の脱ぎ捨てられた衣類が投げられているだけ。

カーペットからフローリングに素足をひたりと付ければ

より冷たさを感じて、つま先立ちになってしまう。

「うー、冷たい…。さ、先に降りてるからね!」

白いパジャマ姿の香は、両腕をさすり皮膚に摩擦熱を与える。

夕べ部屋に連れ込まれた状況を思い出しながら、

いつまでスリッパを履いていたか記憶をたぐりつつ、

階段を降りていった。








「ふ…。」



ころんと、50トンの塊をベッドの下に転がせば、

今日もハンマーで始まったことを、薄く笑う撩。

一応作戦通りだと、この結果に満足しながら、

組んだ指を後ろ頭に差し込んだ。



「ハンマー出なくなったら、それはそれで、やばいよな…。」



今日の午前は、香の予定通りにしてやらないと、

午後に支障が出ると、分かってはいても、

放し難いこの朝のまどろみ。



「んー、希望としては朝昼晩1回ずつ…、いや、2回ずつぅ?」



決して食事の話しではない。

もちろんハンマーの話しでもない。



「ま、慣れるまでは、な…。」



本当は、起きている間中でも、

身をつなげ、何発でも溢れる愛を注ぎたいと

熱のこもった願望を持ってはいるが、

まだまだ、相手は若葉マーク。

しばらくは、夜の寝る前の合体で抑えておかねばと、

休息日もちゃんと思慮して、

徐々に1日平均6回コースへと、

勝手な未来を思い描く冴羽撩。



「ぐふふ…、楽しみ、楽しみ♡」



にんまりとしたまま、

ごろんと香が頭を乗せていた枕を引き寄せ、

言葉通り抱き枕にすると、

また、叩き起こされるのをベッドの上で待つことにした。



*****************************************
(3)につづく。






撩がワザとつぶやいた女の子の名前は、
全て実在する野生生物の名前です。

あやめちゃん:アヤメ科アヤメ属の草本
すみれちゃん:スミレ科スミレ属の草本
ちかちゃん :キュウリウオ科ワカサギ属の海水魚

ズバリ和名のお名前大好きなんで、
こーゆー機会に登場させて自己満足。
ちなみに、上記3名様、すべて当方の友人知人もしくはそのお子様に
使われていたりして…。

しっかし、槇兄ぃと香がいつから2人暮らしになったのか、
具体的なイメージがよう絞れません。
(少なくとも中学の時はすでに親はいなかった?)
とりあえずは、
男親と一緒にお風呂に入らなくなる女の子の平均年齢に合わせて
別々に寝る時期を妄想してみました。


【リンクノート追記と変更のお知らせ】
小谷野さまの「種馬アンテナ」と臼井さまの「いきあたりばったり」についての
お知らせを1つ前の記事にアップしております。

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リンクノート変更と追記のお知らせ

リンクノートについて2件のお知らせです。


このページでは、アドレスをつなげておりませんので、

お手数でございますが、

リンクノート1よりご確認頂けばと存じます。




(1)新作サーチサイト「種馬アンテナ」を追記させて頂きました。
   年内は試運転ということで、ご利用率、活用率の様子をまずは確認とのこと。
   是非、継続して頂ければと思います。   
    
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❏ 052 小谷野 めぐみ さん    
    種馬アンテナ
    2013.11.22.〜 (年内仮設 or 継続)/ サーチ
    [「いい夫婦の日」よりCHサイトの新作情報をサーチする新しいシステムスタート!]


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(2)臼井ころも様の活動拠点が、ブログからpixivに移行されましたので、
   ご許可を頂き、
   イラストサイトのアドレスを新たに追記致しました。

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❏ 020 臼井ころも さん     
    いきあたりばったり → pixiv へ
    2009.09.09.〜 2013.11.15.pixivに移行/ イラスト / R×Kメイン,BLを含む他ジャンルあり
    [本場の空気が見事に盛り込まれた作風と、香のファッションにも癒されます。]
    【活動拠点をBlogからpixivに移されました。引き続き応援させて頂きま〜す。】

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以上、お知らせでした〜。

29-01 Indulging Time

第29部 Calm Day ?

奥多摩湖畔から15日目


(1)Indulging Time ************************************************ 2655文字くらい



時間帯としては、明け方。

すでに、麓まで紅葉のピークが降りてきている朝、

それなりに肌寒い。



抱き込んでいるそれをまた自分に引き寄せれば、

この掛布団の中だけは、

互いの体から放熱される温かさが逃げることなく

心地よい温度が保たれている。



途中で寝返りをうった香を、背中からぴっちりと包み上げ、

いつものように茶色のふわりとした髪に鼻先を埋める撩。



香の頭は、今は枕に乗ったままで、

首の下を撩の右腕がくぐり、

そのまま白い指と浅黒くも長くバランスのいい指を絡ませ、

双方の右前腕も重ね合わせる。



存在は知っていたが、初めて纏(まと)う上品な花柄のシルクに、

リビングでその布地を見た時から、

剥きたい衝動にかられつつ、

今晩は休肝日ならぬ、休膣日という言葉を勝手に作って、

絹糸の上からの感触だけで、やり過ごすことにした撩。



きっと香なりに気を遣っての夜のコーディネートに、

これを脱がせるのは、また今度なと、

お楽しみを先送りした。

その分というワケになるのか、ならないのか、

レム睡眠時に、ふいに体の向きを変えたのをいいことに、

相方の深い眠りの波を確認できれば、

その度に、耳に頬に首筋にと軽い口付けを繰り返し、

背後から密着して、右手をつなぎ、

左手で届く範囲全てをゆっくりじっくり撫で回し、

薄いすべすべの生地越しに、

体温と感触と匂いを楽しんだ。



本当は、肌に直接己の手を這わせたいと思うも、

それをしたら止めらんねぇーかも、と自らの特性を理解した上で、

セーブをかける。



こんなふうに女を抱き込んで一緒に就寝した記憶は、

殆どない。

それなりに満足させた後は、相応の金を置き、

後腐れなく、華麗に?退場するのが基本スタイルだった過去の像。



少しだけ目を開けて、

薄暗い中で、掛け布団の中からわずかに見えている

交互に絡んだ10本の指を視界に捉える。



こんな手の繋ぎ方などを、他でしたことがあっただろうかと、

部分的な記憶を引っ張りだしてみる。

いや、手首を握るだとか、普通の握手止まりで、

過去にソレ相応の年頃の女の指をこんなふうに組ませたことは

たぶん香が初めてだと、

また一つ自身の初体験を見つけてしまった。



指の間から伝わるかすかな心音。

香の手の甲はシーツに付き下側になり、

撩の右手はその上から重なっている。

尺骨の付け根から、小指の第一関節まで、

そっと自分の親指を動かして、指骨を確かめながら往復させる。

まだ脳が休んでいる状態の香からは反応がない。



己の薬指で香の人差し指を、すすっと動かして擦り合せれば、

指先の先端が触れ合い、指紋を確認するように、細やかに円を描く。

この指で、引き金を引いても、

人命を奪う罪はお前には背負わせない、

そう思いながら、またくっと全ての指に柔らかく力を込めた。

左腕も脇腹から囲い込み、右の肋骨の下に手先を差し込んで

香の体躯を引き寄せる。

すー、すーと静かに聞こえる自発呼吸。



「贅沢だな…。」



つい言葉が漏れた。

これから、こんなふうに抱き合って迎える朝が日常になる。

何年も、何十年も。

互いに生きていさえすれば、

肌のぬくもりを感じながら横になり、

目覚めて朝を迎えることができる。

これを至福の贅沢と言わずして、

なんと置き換えられるのか。



これまでの人生の多くの夜を、

ただ一人、

誰にも触らせることなく、

単なる休息としか言えない仮眠、惰眠を重ねて来た。




遥か昔、恐らく年齢が一ケタの時代は、

ゲリラ生活の中でも、海原やマリーの父親に守られるように、

密着しながら一緒に夜を過ごし、その日その日を生き延びてきた。

安らぎの眠りとは程遠く、

じっとりとした湿度と暑さに耐えながら、

¨おやじ¨に肩を抱かれて座ったままウトウトとしていた

幼き自分を振り返る。



ただ、一度だけ、

ゲリラ軍に従事している現地の娼婦に呼ばれたことがあった。

仕事が済んだ、そのラテン系のスタイルのいい若い女は、

就学前の年齢であった撩をあてがわれているテントに招き入れた。

その少し前に、海原に今晩いいかと許可を貰っていたことを思い出す。

今日だけだぞと、念を押していたやりとりが浮かぶも、

当時の年齢ではその意味も解釈できずに、

手を引かれて寝床へ誘われた。



ただ、一緒に抱きしめながら寝かせて欲しいと、

その女の言葉に、理解と返事をする前に、

身長1メートルにも満たない撩は、抱きかかえられ

少し汚れた寝具の中に連れ込まれた。

優しく包まれた感触に、驚きの方が勝ってしまったが、

両親を失って数年、

母親以外の女に抱きしめられる経験がないままに、

初めて記憶に残る柔らかい腕がメモリーに刻まれた。

テントの入口では、

海原が見張っていることも分かっていたこともあり、

普段の緊張がふと解かれる。

髪の毛を撫でられたところまでは覚えていたが、

じきに意識はうつらうつらと途切れ気味になり、

そのまましっかりと寝てしまう。

気付いたら朝だった。

すでに、女の姿はなく、もたもたと起き上がり外に出てみれば、

タバコをふかしている海原がマシンガンを肩にかけたまま、

テントの脇に座っていた。



『 あの女は、先月息子を焼き殺されたんだ。 』



一人息子を奪われた哀しみを引きずりつつ、

それを一時的に誤摩化すために、

あの女は撩を指名したと、説明された。

後にも先にも、海原がそんなことを許したのはその件だけ。




それ以後は、母性愛を感じるような抱擁とは、

全く縁がなかった。

慈しみや、愛情を込めた触れ合いは、ある種のタブー。

むごたらしくおぞましい戦いの日々、

それが終結した後の生活も、光りが当たらない黒い影のエリアのみ。

女に触れても、通過するだけの関係に、情愛や恵愛は無用だった。



「変わった、もんだよな…。」



自らの生き方や考え方を大変革させてしまった

運命のオンナとの出会い。

もっと早くから、こうして触れ合えるようになっていればと

無駄にした時間を省みる。



やっと半月、

抱きしめて、抱き込んで、

同じベッドで横になることがやっと出来るようになったのは、

今月の上旬のこと。



「やっぱ、贅沢だ、な…。」



もう一度同じ単語がこぼれてしまう。

触れられなかった時間が長過ぎたこともまた、

その有り難さがより重く深く感じさせる。



両足も、また縒(よ)りをかけて絡ませ、

繋いでいる右手の指もぐっと握りしめる。

左腕をさらに深く巻き付かせ、

後ろ抱きのスタイルで更にぴったりと密着させる。

ふんわりとしたくせ毛に頬を埋め、

すーっと鼻で深呼吸をしてみる。



日が昇る前のひととき、

贅沢さを噛み締めながら、

撩は、香の目覚めを待つことにした。


********************************
(2)へつづく。






お待たせ致しました〜。
勝手ながら今回から、
毎週月曜日1919での更新で進めさせて頂きます。
第三幕も、だらだらのんびりの構成ですが、
お時間がございます時に、覗いて頂ければ幸いでございます。

撩を抱き込んだ女性は、「プレデター」でアンナ役を演じた、
エルペディア・カリロさんあたりでイメージして頂ければと…。


【お知らせ】
一つ前の記事にて、リンクの追記&移動を告知させていただいております。

リンク記事 追記と移動のお知らせ

先に御礼を…。

鈍行連載宣言の後に、メッセージを送って下さった皆様、本当にありがとうございます!

心温まるお言葉に、もう胸一杯でございます。

少しずつ返信をさせて頂いておりますので、

今暫くお待ち頂ければと存じます。





本題のリンクノート、追記と移動のお知らせです。
新規サイトさまのご紹介になります。
初めてリンクノートをご利用される方は、
恐れ入りますが、コチラの記事をご確認頂ければと存じます。



今回は、takanoさまのお部屋を新たに「た行」にて
掲載させて頂きました。
タイトル、まさに私たちにとっては、CHはトランキライザーではないかとっ!
(意味を調べて超納得っ)
パス付きですが、CHへの愛と興味関心がある方なら辿り着けるはずっと思います。


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❏ 074 takano さん    
    トランキライザー
    2013.10.31.〜 / テキスト
    [新規サイト様だけど実はっ…!RKの幸せなやりとりのお裾分け、満足度高しです!]


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移動サイトさまの情報をお知らせ致します。

残念ながら、tomatoさまのお部屋が、リンク切れとなりました。
つきましては、末尾の「MEMORIES」に移動させて頂きました。
またどこかでご活躍を拝見できますことを楽しみにしております。
tomatoさま、これまでありがとうございました!


以上、お知らせでした。

連載の今後のついてのお知らせ

11月13日(水)に

第2幕といいますか、

奥多摩湖畔から8日目から14日目の7日間を

終えることが出来ました。

(ここまで持ってくるのに、隔日でも1年と8ヶ月かぁ…)




第3幕について、今後の動きをお伝えしたいと存じます。

結論から申し上げます。

奥多摩湖半後の15日目から

21日目のキャッツ再オープンまでの連載は、

毎週月曜日の19時19分でお届けしたいと存じます。

(月曜日というのは週刊少年ジャンプの発売日だからっ)






10月中に、集中して作業ができると思っていた時間割りが、

諸事情で、メディア対応&一般対応に追われまくり、

残念ながら思い通りの編集を進めることができませんでした。

(白モノで、色々あって、もううんざり&ぐったり…)




ご存知の方もいらっしゃるかもと思いますが、

今年の冬、当方の軽率でかつ無知な行動により、

信用・信頼を失い、問題のある管理人として、

複数の方にご不快な思いをさせてしまいました。

このような状態では、連載継続は許されないと判断し、

3月から4月にかけて、

三分割構成で進めていた章立てを

大幅に変更して、21日間の多くの流れを削除し、

短くした上で連載の区切りをつける作業をしておりました。

(リンクご許可を頂いておきながら、サイトを消す訳にはいかんと選んだ作業でした。)




しかしながら、

数多くの皆様方から有り難い応援のお言葉を頂き、

改編途中で、迷いに迷いましたが、

当初の予定通り、のんびりだらだらの3週間を

隔日発信させて頂くこと決意いたしました。




実のところ、サイトを立ち上げた2012年3月の時点で、

ほぼ全あらすじを、荒削りで仕上げておりました。

この素案原稿がなければ、

連載を2日に1度の頻度で更新するスタイルは

選ばなかったと思います。

整えた貯金記事を、

1ヶ月先の分まで ( 連載初期は2ヶ月分でしたが ) 予約保存し、

自動更新で発信させて頂いておりましたが、

年度末から年度始めにおいて、

精神的にも若干混乱気味の中で、不手際も多々あり、

大量の生原稿を、改稿手術中に失ってしまいました。




自分の要領の悪さに、まさに自爆状態でしたが、

皆様から頂く応援メッセージを糧(かて)にして、

取材メモや章立てメモを手がかりに、

なんとか原稿を復活させ、ここまで辿り着くことが出来た次第です。




このまま、最後まで隔日で進められるかと

計画しておりましたが、

思いのほか、プライベートで慌ただしい事案が続き、

十分な準備が整わないまま、

14日目の区切りを迎えてしまいました。




また今後、来月から数ヶ月間は、

町からの受注業務に、某番組の長期取材対応、

確定申告の準備や、

お年賀状がわりの家族通信作成製本発送作業などで、

さらにタイトなスケジュールが予想され、

休載を選ぶべきかとかなり迷っておりました。




しかし、仮に休載を選ぶと、復活できる日取りが保証できないと感じ、

更新ペースを落とすことで、

連載を途切れさせない選択肢を選ぶことに致しました。





つきましては、

第3幕の内容をネタバレしない程度に宣伝させて頂きます。




初日は、少しだけ訓練タイムが入る平日ですが、

翌日から、某分野の外資系企業がらみで、ボディーガードの依頼が入ります。

2名様ご招待とういうことで、性別の組み合わせはまだ秘密です。

少しだけ青森県が出てきますが、

撩と香がそこまで移動する設定はないはずです(たぶん)。

さっさと解決させて、仲良くさせたいところですが、

取り扱うテーマがややデリケートなところもありますので、

また必要箇所にて解説をさせて頂く所存です。





勝手な申し出で、大変心苦しいところでございますが、

このような形を選ぶことになりましたことを

どうかお許し下さい。

(ただし、不定期にお知らせや短編が入るかもしれません。)





正直申し上げますと、

今現在でも、私の中では、

自分が二次サイトを管理し、取り扱うことに向いていないという思いを

引きずっております。




それでも、前進をさせてもらっている原動力は、

CHが好きであることと、

この「Toad Lily」を立ち上げたことによって

頂戴することの出来たご縁そのものです。

これは、他には代え難い財産を頂いたと感じております。

メッセージを下さった皆様、

交信交流をさせて頂いている皆様、

足跡を残して下さっている皆様、

カウンターを回して下さっている全ての訪問者の皆様に、

重ねて深く御礼申し上げます。





また、本編連載終了後も、気分にスイッチが入ったときは、

時系列を意識したコネタをちまちまと発信したいという

思いはあります。

まだ先のことですが、

連載終了=サイト更新完全終了ではございませんので

区切り後も、こんなサイトでございますが、

また遊びにいらして頂ければ幸いです。





という訳で、次回連載の更新日は、

2013年11月18日(月)の1919となります。





同じCHファンとして、

今後とも何卒何卒よろしくお願い申し上げます m(_ _)m 。





以上、お知らせでした。

(いつもいつも長い文章でごめんなさい!)


2013年11月14日

28-19 Night Of Two Weeks After

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜


(19)Night Of Two Weeks After ************************************* 3192文字くらい



香は、トイレを済ませた後、

洗面所で、

寝る前の必要最低限の仕事を肌に施した。

歯もしゃこしゃこと磨いて、一区切り。



ついっと引っ張ったタオルに、

撩が使ったサインを指先で感じる。

「……ぁ。」

こんなことは、これまで日常だったはずなのにと、

はやり妙に過剰反応してしまい、

頬を染めながらゆっくりと少しだけ湿っているタオルを

口元にそっと押し付けた。

目を閉じて、わずかにくんと布地をかいでみる。

かすかに感じるオトコの痕跡に、くっと胸が締め付けられ、

はぁと小さく熱い息を吐く。



「好き過ぎて…おかしくなりそ…。」



空気だけの極消音でつぶやかれた独り言。

もういちいち心臓に悪い。

あの瞳も、指も、唇も、腕も、髪も、傷跡も、体温も、声も、息も、

撩のパーツの全てが、

自分の心拍を乱してしまう。


「やっぱり、当分慣れないよ…。」



眉間に複雑なシワを寄せながら、

明日の朝の為に、タオルの交換をすることに。

トイレと洗面所からそれぞれ回収すると、

脱衣所から新しいタオルを2枚取り出して、

一方はランドリーバスケットに、

一方は各々の指定席に手早くかけてしまう。

照明をぱちりと消せば、ここでの作業は一段落。



そして、さっきの悩みがまた議題にのぼる。

「撩は、どこかしら…。」

もう自室にいるのか、居間か、

はたまたこの寒い中屋上にでも行っているか、

まずは、一番近いリビングの扉を開けることにした。

かちゃっと音を立てると、

その先には、ソファーに転がる心臓に悪い物体が。

「あ。」

スースーと聞こえる規則的な呼吸に、

ドアを開ける時にもっと静かにすべきだったかと、

発しさせた雑音を気にするも、出してしまったものはしかたないと、

今度は後ろ手に慎重にノブを戻す。



無防備な姿ではあるが、

きっと自分に気付いている。

そんなことを思いながら、恥ずかしながらも撩に触れたいと

ほんのりと体温を求める

母性と雌性の本能が入り交じった感覚が降ってくる。

香は、スリッパのままゆっくりとなるべく音を立てずに

ガラステーブルを回り込み、ソファーの短辺側に近付いた。

Tシャツ越しにサスペンションのように上下する

厚い胸板にどきりとする。

肌に密着している布越しに

わずかに盛り上がった2つの小さな突起にも気付いてしまい、

かぁとなって慌てて目をそらしたら、

今度はベルトのバックルと目が合い、

その周囲に意識が奪われ、さらにじゅわっと赤くなる。



見るだけでこんな反応をしているんじゃ、

とてもじゃないけど、自分から撩にタッチなんて、

この状況ではとても行動に移せないと、

へなへなと冷たい床に座り込んで、半身だけソファーに寄りかからせた。

撩の呼吸音が近くなり、さらにドキドキが増す。



ちらりと電話の横にある時計をみやると、

午後11時前。

まだ大人にとっては早い時間かもしれないが、

昨日今日のことを思い出していたら、急速に眠たさが膨らんできた。

重ねて、さきのタオルくんくんで、妙なところが刺激された香は、

手を伸ばす勇気はまだないけどと、

珍しく自分から撩との距離を縮めてみた。



寄りかかっていた場所のすぐそばに、撩の脇腹が位置する。

目を閉じながら、香はそっと撩の右側面に頬を寄せた。

とたんに薄い皮膚へ体温が伝わる。

緩く収縮と膨張を繰り返す肋骨付近に、

もうバレてもいいと思いながら、頭を預けた。

触れているだけで気持ちがいいと、

このまま眠ってしまいそうな面持ちになる。



すると、長い右腕がごぞりと動いて、

香の髪の毛をくしゃりと軽く鷲掴み、くいっとより密着させられた。

「ぁ…。」

香の頬骨あたりが内と外からさらに赤く染まる。

「もう休むか?」

「ぇ…?」

頭の下に敷いていた左手を抜き出すと、

顔に被せていた雑誌をぽいっと長辺側のソファーに投げ置いた撩。

同時に右手は、優しく茶色い髪の束を掻き揚げる。

香はきゅっと目を閉じたまま、

早く脈打ち始めた自分の鼓動が恥ずかしく、

平静を装うべく、こんなことを言い出した。



「きょ、今日は、縄跳びまだやってなかった…。」

「ああ?」

パジャマに着替えてからするべきもんではないだろうと、

咄嗟に出た香の台詞に、ぷっと吹き出す。

「今日はいいだろ!十分相当の運動したんじゃね?」

そういいながら、撩は素早く上体を起き上がらせると、

香の脇の下にひょいと手を差し込んで引き寄せたと思ったら、

そのまま立ち上がりながら、

左肩によいしょっと担いでしまった。

その弾みで、スリッパがテレビのほうへ飛んでしまう。

「わわわわっ!な、何すんのよっ!」

すたすたとリビングのドアに向かう撩に

じたばたと手足を動かしながら抗議する香。

「んー?良い子は早く寝ましょうねーっ。」

パチンと電気が消され、さっさか廊下を進みながら、

あっという間に7階へ。



「ほれ。」



肩からころんと降ろされたと自分の位置を確認する間もなく、

目の前に弧を描いて、

撩の着ていたジャケットやズボンや靴下が投げられた。

それが床に落ちる音と同時に、

Tシャツとトランクスになった撩は、

ベッドの中に香を抱き込みながら、布団をひっぱりあげ、

素早く就寝スタイルに持っていく。



「ちょ、ちょっと!あ、あ、あんたがこの時間から寝るなんて、

お、お、おかしくない???」

もう抱き枕状態で撩に巻き付かれている香は、

驚きと照れで体温を上げつつ、

この展開についていけないことを訴える。

「んー?もう今日は他にすることないんだろ?」

撩の左手の指が香の額にかかる前髪をかき分けた。

映画の効果音のように、ちゅっと音がする。

「わひゃ!」

肩がぴくんと上がり、そこを降りてきた温かい手がやんわりと包む。



「今晩は充電日、だ。」

「は?」

「ボクちゃんはいつでもチャージできてっけど、

香ちゃんはお疲れだろ?」

「……ぁ。」

抱き込まれて、撩の顔は見えないが、

あの優しさに満ちた表情が思い浮かぶ。

『続き』があるのかと、ドキドキしていたが、

指摘された通り、

確かにこの2日間の往復移動と訓練と+アルファで、

随分とくたびれてしまった。



「ご、ごめ…。」

「ばぁーか、謝るところじゃねって。」

またくいっと抱き直される。

「道は、覚えたな?」

「え?」

「あの場所は、依頼人を匿(かくま)う時にも使う可能性がある。

いざとなったら、一人で行けるな?」

香は、撩の心音を頬の皮膚から感じながら、

目を閉じて往復ルートを思い返す。

「……うん、だ、大丈夫。上からでも下からでも行けるわ。」

ふっと頭皮に風が当たった。

「さすがカオリン。」

さっきと同じ台詞が耳に届く。

また自分の髪の毛に潜っていく撩の指。

「明日はゴミ捨てもなしだろ?」

「え?」

香は唐突の質問に、そうだったっけ?とドキッとしながら、

台所のカレンダーを思い返す。

「た、確かその、はず…?」

自信なさげに答えるも、たぶん大丈夫だと、

明後日捨てるべきものは可燃ゴミだったかと、

ぼんやりとイメージする。

「じゃあ、ゆっくり休め。」

「……ん。」

家事のことを思いめぐらせるのも面倒くさくなり、

もうこのまま、このぬくもりと心地よさの中で、

意識を落としてしまいたい。

「おやすみ。」

顎にするりと指がかけられ、極軽く唇に吸い付かれた。

「ん…。」

いわずもがな¨おやすみのちゅー¨に、

更に赤さを増しつつ、目を閉じたままで、

香も朦朧としながら言葉を返した。



「おやすみなさい…」



ほどなく、撩の腕の中で寝息が聞こえ始めた。

滑るシルクの感触と、柔らかな質感の体、温かさと香りに、

触れ合いながら夜を過ごせる有り難さを

改めて噛み締める撩。

まだ、自分のペースを押し付ける訳には早過ぎると、

折々に休息を与えねばと、

必要以上に若葉マークの香を気遣う撩。

ただ、一般的にすでにヤリ過ぎていることは、

まだ香には認知されていない。



「『続き』は明日、な…。」



そう言って、

もう一度、ほんのりと桃色が残る白い額に唇を押し付ければ、

撩も満たされた面持ちで、

ゆっくりとレム睡眠の波に乗ることにした。


************************************************
第29部(1)へつづく。





みなさんもお疲れさまでした。
やっと一区切りです。

【重要連絡事項?】
明日11月14日の1818で
第29部以降の連載についてのお知らせをさせて頂きます。

28-18 Sort Out

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜 


(18) Sort Out ******************************************************* 2458文字くらい



一方香は、脱衣所で洗濯槽の中身を

乾燥機に移し入れていた。

その表情は、選択肢に迷う顔。



「どうしよう…、お風呂。」



思い返せば、

今朝方、山荘に着いてからすぐにシャワーを浴びて、

髪の毛も洗っている。

撩の手際が良かったのもあり、

情事の痕跡もきれいに拭われている。

それなりに汗はかいたが、

頭皮はどうかと今一度自分の指をくせ毛にくしゃりと通してみる。

洗髪を間1日、2日と置いたときは、

皮脂で指先にいらない艶がついてくるが、

いたってスッキリ壮快。



「今晩は、いっか。」



光熱費節約だと、入浴を見送ることに。

乾燥機に第1弾の洗い物を押し込み終わると、

スイッチをピピピと操作し、作動させる。

すぐに、第2弾の薄い毛布とその他衣類を洗濯機に投入し、

洗剤と漂白剤を入れてスタートボタンを押した。

「毛布とかは明日にしよっかな。」

そこまで済んだところで、

んーと背伸びをしながら、客間に向かった。



ドアを開ければ、

ソファーの上に訓練で持ち歩いた大きなウェストバッグが

口を開けたまま放置されている。



「これ、どうしよ…。」



こまごまとした備品は、これからの仕事でも

もしかしたら携えた方がいいかもしれない物品もあり、

しばし分別に悩む。

とりあえずソファーに腰を下し、一品一品見ていくことに。



「でも、あたしが普段持ち歩いているバッグも、

色々入っているからキツキツなのよねー。」



ローマンを始め、手榴弾やら閃光弾やら、行動食やら、

軽装備でも手帳に折り畳み傘に、財布、

大きめのハンカチ、ティッシュ、手鏡、リップクリーム、

カギ付きキーホルダー、筆記用具、財布に、裁縫道具、エコバッグ、

絆創膏、安全ピンにゼムクリップ、小さく折ったビニール袋、などなど、

結構モノが詰め込まれている。

一応その場に応じて各種ハンマーも出てくることになっている。



「うーん、ヘッドライトは大き過ぎるわよね。持ち歩くんならペンライトの方だわ。」

香は、ヘッドライトのゴムを引き寄せ、

電池が入っている裏蓋を開けた。

必要ないときは電池を抜いておかねばと、

4つの単三電池を取り出した。

「えーと、巾着袋かチャック付きポリ袋は…と。」

鏡台の引き出しを開けガサガサと探し、

ちょうどいい大きさの布袋を見つける。



「あ、あった。」



これにセットで納めて、また夜間の作業が必要な時に準備するか、

それともクーパーのトランクに入れておくか、

また後で考えることにする。

ペンライトはそのまま自分のショルダーバッグへ。

「もうこの地図は早々には使わないかな?」

折り畳まれた国土地理院の地図は、本棚の隙間に挟み入れた。

食べ残した行動食も、開封してしまったので、

近日中に少し加工して食べてしまわなければと、乾パンの残りを確認する。

布ガムテープも残り少なくなり、容量も割に使える長さが短いので、

ごみ取り用にでも使って早く消費したほうがいいかと、

横に取り置くことにする。

ビニール袋に、折りたたみ式ナイフはショルダーバッグの中へ。

「ワイヤーはどうしよう…。」

確かにこれがあれば、対応できる幅が格段と広くなる。

「外ポケットに入るかな。」

ワイヤーの円を少し調整して小さくし、

バッグの外付けポケットに入れてみる。

「あ、はいった!」

普段は工具箱に常備しているものであるが、

持ち歩き用のリストに入れることに決定。



管理するモノが増えると、それなりに手間も多くなるが、

それも致し方なしと、

万が一の時に備えて、日頃の持ち物を再確認し、

撩から渡された小道具の分別に区切りをつけた。



「着替えよっかな。レシートとかは明日でいいや。」



よっとソファーから立ち上がり、

インナーに着替えるべくタンスの前に立つも、

はっと息を飲んで、

引き手に指をかけたまま動きが止まってしまった。



「つ、続きって…車で言ってた、わよね…。」



家事モードになっていた時には、

別の場所にしまわれていた記憶がひょいっと台頭してくる。

とたんに、かぁぁぁと頭のてっぺんから足の指先まで

赤く色が変わった。



「ぅぅ…、ど、どうしよう…。」



決してイヤではない。

ただ、そう何度もしていいものなのか、

とやや疑問に思うと同時に、

自分がおかしなことをしでかしてないだろうか、

他の人と比べたら、ダメなところばかりのはずなのに、

自分では不十分ではないだろうかと、

そんなネガティブな思いはまだまだ潜在している。



「こ、こっちにしようかな…。」



綿100%の長袖の可愛い系パジャマを着ようとしていたが、

引き出しの奥にある

絵梨子の試作品の押しつけに手を伸ばした。



シルク100%のサテン生地に、

白地を基調としたセパレートナイティー。

上品な高山植物の花が全体に施されている。

水色や紫、ピンクの花弁はクワガタソウ属の特徴を表現。

はっきり言って、自分には価格も質も合わなさ過ぎると、

来客用の備品として取り置いていた。

それを選ぼうとしている自分の心理変化にも小さく驚き、

また、顔を赤らめながらゆっくりと花柄の生地を広げた。



香は、ごそごそと来ていた服を脱ぐと、

そっと上着の袖に腕を通す。

つるりと滑る感触がくすぐったいが、

すぐにほんのりと自身の体温によって布地が温まる。

ボトムもくいっと腰まで上げると、

ちょうどいい腰の締め付け具合のゴムに、

快適さをより感じた。



幼稚な格好でがっかりさせたら、申し訳ないと、

ちょっとだけ勇気を出して、

強制的に彼女から手渡された

このセットを着てみることにしたが、

慣れない感触にギクシャクしてしまう。



「…で、どうしよう…。」



着たはいいが、この後どうしたらいいのか、

体が動かない。



この客間で寝るという選択肢は選べない。

なら、撩を呼びに行くべきなのか、

先に上に上がって待っているべきなのか、

それともここでぐずぐず時間を潰して、

向こうから迎えにくるまで待ったほうがいいのか。




「……は、歯っ、磨いてこよ!」



ひとまず脱いだ服をテキパキとたたみ、

そのまま座っていたところへ仮置く。

パタパタとスリッパの音を立てて、

隣りの脱衣所手前の洗面所へそそくさと向かった。


*****************************************
(19)につづく。






絵梨子さん、読者の知らないところで、
カオリンに色々と衣類を押し付けているってことで。

明日11/12は、槇兄ぃの声優さん、
田中秀幸さんのお誕生日!
当サイトでは、
この日が撩と香の初ちゅうの日と設定させて頂きましたっ。(01-13)

28-17 Down & Up

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜   


(17) Down & Up ************************************************** 2640文字くらい



「……とりあえず、見とく、か。」



一応言葉通り、

1階駐車場まで降りてきた撩。

照明をつけ、肩にひっかけた上着に袖を通しながら、

クーパーに近付くと、バクンとボンネットを開けた。

オイルの交換がそろそろ近いかと、

油の臭いがくんと鼻につくエンジンルームをざっと点検。

特に今急ぐべき事案はなしと判断し、

またバンと音を立てて、車体のラインが元に戻る。


駐車場に急々の用はなかったが、

あのままキッチンで香を剥きたくなった衝動を誤摩化すべく、

距離をとって頭と息子を冷却中。

山荘で散々合体した後に、

間を置かずしてキッチンで襲った日にゃ、

さすがに初心者にはキツいだろと、

いや、それ以前にめちゃくちゃ嫌がられそうな場所故、

どうにかこうにか自制する。



この後、片付けやら、荷物の整理やらがある香に

食後のデザートいっただっきまーすと、

趣くままに食いつくワケにはいかんと、

ちゅう止まりにした自分をひとまず褒めておく。



「こいつを持って上がるか。」



運転席のドアをガチャリと開け、

後部座席に無造作に畳んであった薄手の毛布を引っ張りだした。

しばらく出番がなく、ホコリっぽくなっている。

今回の遠出で、

もしかしたら使うことになるかもと思ってはいたが、

未使用のまま。

帰りの車内で仮眠する香にかけてやればよかったかと思うも、

過ぎたことは致し方なし。

いつ最後に洗いに出したか思い出せないことを言い訳に、

駐車場に降りた理由付けに使うことにする。

ついでのこの往復で戸締まりやら警備システムもさりげなくチェック。



また、バタンとドアを閉めると、

ひょいっと毛布を肩にかけ、階上に続く通路へ向かう。

照明を消せば、暗くなる背後。

コンクリートで囲まれた階段を登りながら、

先の香の言葉と、この2週間をぼんやりと振り返る。



「……まだ半月、か。」



ふぅと上向きになり無機質な天井を見上げた。

細かく点滅する蛍光灯が交換を静かに訴える。

歩みはそのままに、ゆっくりと一段一段足を運び、

右肩にかけた毛布の端を指で軽く摘み直し、

左手をくいっとジャケットのポケットに突っ込んだ。

車のキーと、山荘のカギが中でかちゃりと音を立てる。



もう1ヶ月、2ヶ月の時間を重ねているような

濃密過ぎる毎日に、

あれからまだ14日しか経っていないことが

自分でも信じ難い。



激変した生活のなかでも、これまで通りのやりとりも健在し、

この状況に慣れないながらも、

必死についてこようとする香の姿は、

どの場面でも甘く胸が締め付けられる。

己の足音だけが響き、妙に静かな空間の中で、

高度を上げて行くにつれ、明瞭になっていく香の気配。

目を閉じて意識を少し集中させてみる。

耳から得られる情報が、脳の中で映像化され、

どこで何をしているのかをクリアに受信中。



「……随分と、苦しめたもんだよな。」



あまりにも長過ぎたプラトニック期間。

思いを重ねられないままに

過ぎ重なって行くいつも通りの日々。

毎日のように深夜や明け方にこの階段を登りながら、

相方が在宅していることに安心しつつ、

自分のしてきたことをどう誤摩化しおちゃらけるかを

イメージしながら近付くエントランス。



帰る場所に香がいることへの安堵とともに、

わざと受けるハンマーに快感と罪悪感を抱えつつ、

強烈な出迎えがない時は、

淋しさを覚えながら、それを埋めるべく

客間のドアを無音で開けた回数はもう数えられない。



そんなことを懐かしみながら、

ギッと5階の鉄の扉を開けた。

相方の現在地は、6階の脱衣所。

そのままそこに向かって階段を登り、

幅広の廊下を進んで行く。



角を曲がると、

仕切りのカーテンはオープン状態。

香は、ちょうど洗い終わった洗濯物を確認しつつ

撩が山荘に行く前にセットした乾燥機の中の物を

カゴに移している最中だった。



「あれ?それは?」

「あー、クーパーにのっけてあったヤツ、こいつもそろそろ洗い時だろ。」

そう言いながら、ランドリーバスケットにばさりと詰め込む。

「じゃ、じゃあこの後一緒に洗っとくわ。」

「あいよ。」

長居するとまた自制が効かなくなりそうなので、

短くそう言い残し、

大人しくその場を後にする。

とりあえずは、すぐそばの洗面所にひょこひょこと入ると、

軽く手と顔を洗い、いい加減に口を漱いだ。

タオルレールに架けられているのは、いつも新しい清潔なタオル。

それをくいっと引っ張って、

粗雑に濡れたところをわしわしと拭きながらも、

感覚は見えない香の気配を追う。



「ま、邪魔しちゃナンだしな…。」



ホンネは、ハンマーを受けても、

そばの脱衣所にいる香を

そのまま肩に抱えて寝室に持ち込みたいところであるが、

それなりに気を使い、家事に集中させることに。

背中を丸めてジャケットのポケットに両手を突っ込んで、

がに股スタイルでリビングに向かうも、

特に見たいテレビもなし。



「あ…、そーいや…。」



ふと思い出したことがあり、

ジャケットの内ポケットをごそごそとあさる。

ぴっと取り出した紙切れ一枚。

これがなくても、一応数字は正確に記憶されてはいるが、

ナマデータをとりあえず確認。



「んー、ちょいとばかし遅いか…。いや、かけてみっか。」



撩は、受話器を取り上げ、番号を押す。

コールが数回鳴ったところで、

すぐに相手が出た。

手短に、用件を伝えると電話の向こうの人物は嬉しそうに快諾する。

時間と場所を指定して、

打ち合わせがすめば、

「すまないな、休みの時に。」

と小さく謝罪する撩。

相手は、そんなことは気にするなと、香のためならと、

他にも色々と聞きたいところを抑えて、

じゃあ、また、とお互い受話器を置いた。



チン、と接続が切れた音と一緒に、

撩の鼻からもふっと極小の音が出る。

「ま、実験、実験、と。」

そんな意味深な言葉を吐きながら、

そのままソファーの短辺にごろんと身を仰向けに転がした。



「ふん……。」



ソファーの裏から愛読書をごそっと1冊取り出せば、

適当なページを広げてばさっと顔に被せた。

同時に指を組んで後ろ頭に滑り込ませる。

左足だけくの字にして曲げ、

右足はそのまま伸ばした。

長い下肢故、足首から先はソファーよりはみ出てしまう。

鼻から細く長く息が吐き出され、

厚い胸板の平面がゆっくりとその位置を下げる。



クッションの高さが丁度良く、

まどろみ行きのスイッチが入った。

しばし、相棒の動きを読みながら、

入ってもいないのに湯上がりのような心地よさの中で、

撩は、極々浅いウトウトモードに身を任せることにした。


**********************************
(18)へつづく。






海原父ちゃんが冴羽アパート入りした時、
撩は恐らく1階フロアから気配を感じ取ったんじゃないかと。
階段を上がり始める撩の背景に
非常口表示のついたドアがあったので…。
先に気配に気付いたのは海原でしたけど。
ただ、明らかに狭い階段でしたよね〜。
海原氏が昇ってきた階段や、
ミックと香が二人で話した場所と比べると。
一体どこの階段なんだ?
外付けの非常階段?

で、香との生活が始まって、
きっと毎晩不規則な時間に帰宅する撩は、
アパートの階段を上りながら、
階上に意識をより集中していたのではと…。
よくよく考えればどんだけセンサー鋭いんよっ!と思いますが、
シテハンの世界では、
6階リビングから地下の銃声が聞こえるのは常識なので、
慣れた場所での気配フロアー突き抜けキャッチは普通ということで〜。


というワケで、撩が誰に電話をしたかは、
第3幕にて…。
誰からいつ電話番号のメモをもらったか、
覚えている方はスゴい!!!


【お知らせ記事あり】
リンクノートWM名変更と追記サイト様を
一つ前の記事でご紹介しております。

リンクノート変更と追記のお知らせ

ちょこちょこと、部屋の模様替えをさせて頂いております。

リンクノートの変更と追記をお知らせ致します。

アドレスはつなげておりませんので、

お手数でございますが、リンクノートの記事よりアクセスをお願い致します。

リンクノートを初めて利用される方は、恐れ入りますが、

コチラの記事をご確認下さい。





「 and no 」のサイトマスター様がHNを変更されましたので、
五十音順の掲載場所を引っ越しさせて頂きました。


リンクノート1
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❏ 074 多田 さん    
    and no  (アンドエヌオー)
    2013.08.01 〜 / イラスト&テキスト
    [ご連絡ありがとうございました!これからお作が重なっていくこと楽しみです!]

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よろずサイト様です。
ゲストブックにてご挨拶をさせて頂いております。
他多数の引き出しありです。奈良好きの方も必見。


リンクノート2
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

❏ 115 へづ屋 さん    
    達人<チガビト>倶楽部 - CHカテゴリー - 
    2007.10.20 〜 / イラスト
    [2007〜2010年のシテハンのお作が収蔵。雛祭り&唯香&まゆ子ちゃん一押しです。]

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なんだか、慌ただしさの波がまた巡ってきて、
なかなかゆっくりサイト巡りができず…。
何もかも放置して、どっぶりしたいなぁ〜と。

以上、リンクノート関連のお知らせでした。

28-16 Promise

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜    


(16) Promise ************************************************* 4059文字くらい



「おまぁも、¨痛み¨を知ってんだろ?」



「え?」

「家族を奪われた¨痛み¨をさ…。」

撩は、右肘をテーブルの端にひっかけ、

体をシンクの方に向けながら足を組んだ。

持っていたカップを左手でくいっと傾け、

再度コーヒーを口に運ぶ。



「……だから、お前には人殺しはさせない。」



はっと、顔をあげた香。

カップを包んだ指がぴくりと動いた。

「ま、他にも色々理由はあんだけどさ、ローマン渡した時、言ったろ?」

撩とテーブル越しに目が合う。

まっすぐに見つめられ、香の動きが全て止まる。



「おまぁは、まだ誰の命も奪っちゃいない。」



ぴくんと背筋が揺れた。

「たいしたもんだよなぁ、あんだけバズーカ砲ぶち込んでも、

軽傷と気絶止まりで抑えるなんざ、俺でも真似出来ねぇーよ。」

「あ…。」

香はファルコンに教わった裏技を白状することに。

カップを見つめつつ、小さな声が出た。



「あ、あれは、あたしが使う弾は、火薬を少なくしているから、

そ、その、衝撃も弱いのよ。」

マリーや黒蜥蜴の時に使ったものは、すでに細工付きだった。

「銀狐の時は、手加減なしで、全力だったろ?」

「っ!」

そこまでバレているのかと、

香は、くっと目を閉じて俯き加減になる。



「……ということは、あいつも死んでないって、こと、ね…。」



「ま、そーゆーこと。」

香は、はぁと上向きになり、深いため息を吐き出した。

撩と目が合わせられない。

カップを両手の平で包んだまま、視線はキッチンの床に落とされた。



「……ずっと、疑問だったの。

実際死体を確認できたワケじゃないし、

そもそも、後で考えれば、あたし一人で、倒せるはずの相手じゃなかった。

……なのに、あんな形であっけなく終わるなんて、

どうなのかなって、思ってたんだけど…。」



ふっと右手を浮かせると香は自分の前髪をくしゃっと掻き上げた。

「ほら、奥多摩から帰ってからさ、

あたしが銀狐見破ったことを見てた話し、してくれたじゃない?」

「あ?」

「撩が、あたしの気付かないところで、あいつを始末したのかなって…少しだけ思ってた。」

「あー、ヤツは二度と復帰ができねぇーようにしといただけだから。

もう俺らの前には現れないさ。」

香は、撩の言葉を聞いて、

髪の毛に埋めた指をくっと丸めて、すんと鼻をすすった。

「……なんか、情けない、よね。

自分が戦った相手が、死んだかどうかも分かってなかった、だなんて、ね。」

細い眉は下がり、瞳がくっと閉じられる。



銀狐の登場は、

撩にとってもある種のターニングポイントだった。

当時の状況を共に思い浮かべる二人。

「いや。」

コトリとカップを置いた撩は、流しの方を見ながら香の言葉を否定した。

「状況を誤摩化したのは、俺だから。」

「え?」

「言えなかったんだよ、あん時は、な。」

「な、なにを?」



撩の言わんとすることがよく飲み込めずに、

頭から右手が浮いて、きょとんとした表情になる。



パートナーとして、

全力で立ち向かった相手がまだ生きているということなど、

その場ではすぐに伝えられる気分ではなかった撩。




— まだ、しばらくこのままでいいか… —




この機会に表へ返そうと本気で選択していた未来、

それを差し置いて、

香の純真で無垢で一途な行動が、

深い所に沈ませていた心理や願望を

自覚できる水位にまで上昇させてしまった。

あの時、銀狐が生きていることを伝えれば、

きっと香は自分の失態を過大に卑下し、

パートナーの立場を放棄する可能性もゼロではなかった。

それは、選ばせたくない。

その思いが、

当時、銀狐の生死について明示することを誤摩化し遠ざけた。



「おまぁは、あの時、お前なりに力を尽くした。それでいいだろ?」

「………。」



香は、撩の言葉を聞き、テーブルの上でゆっくりと両手の指を絡めて、

くくっと密着させた。

手の甲の白い皮膚が指先に引っ張られる。

「……あ、あたしは…」

「ん?」

目だけを動かして、

コーヒーカップに視線を留める香を見やる撩。



「あ、あの時は、ただ認められたいって…、自分のことばかり考えてた…。」



香の指にさらに力がこもる。

「自分の身は自分で守れるって、ムキになって、トラップをしかけてた…。」

目を閉じて、ゆっくりと息を吐き出す香。

「銀狐を倒さなきゃって、……あいつを殺さなければ、撩のそばにいれない、って

そのことばかり考えて、…今思えば、まわりが見えてなかったんだわ。」



撩はふっと小さく鼻から息を出した。

カップを自分の前に置き直し、

両肘をついて、両手で頬杖をついた。

「そっかー、カオリン、そぉーんなに、撩ちゃんといたかったんだぁー。」

唐突におちゃらけ口調で帰ってくる言葉に、

香はぎょっとして目が開いた。



「あ…ぅ…。」



真面目でかつ大事な話しのはずなのに、顔がぼしゅっと赤くなる。

にやけた表情のままで、撩は続けた。

「まわりが見えないくらい、ボクちゃんが好きだった、ってことぉ〜?」

「ばっ、そ、そそそんなんじゃっ、な」

慌てて否定しようとするも、口元が上手く動かない。

「だっ、だからっ!そ、その時は、アイツを殺したら一体、どうなるのかとか、

撩の気持ちとかを、ぜ、全然考えてなかったってこと!」

乾いた口をぬらすべくあたふたとコーヒーカーップを持ち上げて、

ずずっとすする香。

こくこくと喉を動かして、やや落ち着いたところで、ふーと肩の力を抜く。

ほぼカラになった白いカップをまたテーブルに置いて、

そのまま白い指で包み込んだ。



「ほんと、考えていなかったの…。

人を殺したあたしをアニキとかあんたがどう思うかとか、

銀狐にも家族とか大事な人がいるのかとか、

……ただ、パートナーとして居続けるには、

今の目の前の敵を倒さなきゃって、

それだけしか考えてなかった…。」



22才の初夏、初めて自身が狙撃されるという経験をして、

撩のパートナーでいるということが、

どういうことかを外野から強制的に教えられた。

精神的に幼かった自身を振り返る。



「でもね、ミックの時は違った…。」



オフザケの顔つきだった撩の表情が頬杖をついたまま

すっと感情が見えないニュートラルに入る。

香は、伏せ目でふふっと小さく笑った。



「実はね、……銀狐の時は、

自分がやられることなんてあまり考えてなかったの。

だけどね、ミックをビルの屋上に呼び出し時は、

……相打ちも覚悟してたんだ。」

唇を少し舐めて、当時のことを話し始める。

「勝てる可能性なんて、とても低いことは分かってた。

だけど、銃を撃てなくするくらいのダメージを与えられるなら、

死んでもいいって思ってた…。」

目を閉じれば、ビル崩壊前、あの場所に吹いていた風の感触が甦る。



「撩…。」



ふっと顔を上げて、

相変わらず両手で頬杖をつく男を見つめる。



「あんたの命のためだったら、あたしも命をかけて戦う覚悟は今でもあるわ。」



撩の小指がぴくりと動いた。

「あんたのためだったら、迷いなく敵を撃てる。」

実際、黒蜥蜴の時も反射で体が動いてしまった。

ミックにも脅しと本気の混じった発砲を繰り返したが、

当たるはずもなく、結局は捕捉されてしまった。

まだ技術は、自分の望みと想いに全く重なっていない。




「でも、相手も殺さずに、自分も死なない。

どんな状況でも生き延びる、

あんたのためにも、アニキのためにも、約束する。」



撩は、よっとイスに座り直して、

また右肘をテーブルの縁にひっかけた。

組んだ足の上に、左腕をだらしなく乗せる。

香の大胆でかつ無意識な告白に、密かに動揺しているのを悟られまいと、

体が誤摩化しモードで動いてしまった。




「前にも言ったけどさ、

あんたの死に様を見るまでは、

あたしも死ねないの!

だから、ちゃんと鍛えてもらわないとね。

命を奪わない倒し方をしっかり教えてちょーだい!」

香は腕組みをして、撩をまっすぐ見る。



撩が、そのうち吐かせようと思っていたことが、

香自身から明確な言葉で伝えられた。

くっと撩の唇の端が動く。




「……さっすが香ちゃん。」



言った本人、

愛の大告白に近いことを発言した自覚は全くない。

惚れた愛しいオンナの口から、そんな言葉が吐かれた日にゃと、

もう撩の中の幸せの暴れ馬が

競馬場のスタ—ティングゲートで鼻息を荒くし、

蹄を上下させて地面を鳴らしている。



すぐにでも抱き寄せて吸い付きたい。

さっき、車内でもしたばかりだろ?とどこからか聞こえた気もするが、

この欲求を抑えるつもりはさらさらない。

撩は、テーブルを回るか、下からくぐるか、乗り越えるかと、

瞬時に複数の接近方法を考えるも、

ええい、面倒だと、最短最速を選ぶことにした。



がたりと立ち上がり、

香の腕をぐいっと引っ張って、

小さな頭をくっと引き寄せ、

あっという間に香の唇を塞ぐことに成功。



「ぅんんっ!」



前のめりで体勢を崩しそうになった香は、

とっさに右手をテーブルについて上体を支えた。

揺れた白木の天板の真ん中で重なる影に、

倒れたカラのコーヒーカップ。

お互い焙煎の香りを感じながら、

鼻での呼吸を浅く繰り返す。

相変わらず、匠なタッチで動く撩の柔らかい上唇下唇に

ほどなく落城する香。



「ん…ふ…ぅ。」



ちゅぽんと離れたところで、

甘い声が香の耳元で囁かれる。



「もちろん色々鍛えっから、覚悟しとけよ…。」



語尾と耳朶に感じたキスが重なる。

「わひゃあっ!」

「……約束、…忘れんなよ。」

くしゃりと、いつものように茶色いくせ毛を掻き回すと、

ゆっくりと腕の拘束を解く。

「ボクちゃん、車ん中に取ってくんもんがあっから、下に行ってるわ。」

「ぇ?」

季節外れの完熟トマト状態であるところに、

撩の動きが伝えられた。

「ごっそさーん。」

気がついたら、倒れたカップが起され、パタンとドアが閉められた。

香は両手をテーブルについたまま、

はぁぁぁと脱力して、そのままパタリと突っ伏してしまう。

背中からも上がっている熱い湯気。



「……な、なんで、いつもいつもこーゆー展開になるのよ…。」



不意打ちのキスの多さに、

気持ちが全く追いつかない。



「う、うれしいけど、ね…。」




小さな小さな声でつぶやかれた言葉は、

さすがに撩には届かなかった。



**********************************
(17)へつづく。






再燃してからですが、
いろんな意味で銀狐の再登場の回は考えさせられました。
まさに、一種のターニングポイントだったかもと思います。
01-17で、カオリンが銀狐を見分けた時の会話が出てきます。

ところで、CHに登場する殺し屋は
生き物系のコードネームが多くて結構お気に入りです。
スネーク、銀狐、蝙蝠、黒蜥蜴、毒バリの鼠とか、ファルコンもしかりですね。
あの北尾刑事の時に出てきた3人組や、
プリンセス・ユキの時の催眠野郎の名前が出ていなかったのは残念。
今からでもいいから、この系統で北条さんに命名してもらいたいわ。


【お礼とお詫び】
先に御礼から。11/05に1日当たりのパチパチが233と表示され、
本サイトの最高記録をまた更新しました。
貴重なお時間を使って頂き、本連載にお目通し頂き、本当にありがとうございます。
次にお詫びを。
折々にこちらの欄で、連続拍手をして下さった方へのお礼を発信しておりましたが、
このような場でそういった情報を発信することはよろしくないとの
アドバイスを頂戴し、
今回を最後に、拍手情報のお礼メッセージを打ち止めさせて頂くことに致しました。
ご不快になられた方も少なからずいらっしゃるかと思います。
改めてお詫び申し上げます。
(拍手キリ番は別枠でまた企画と絡めたいと思います)

28-15 No Massacre

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜    


(15) No Massacre ************************************************** 2569文字くらい



「あーっ、くったくった。」



げふっとげっぷを吐き出しながら、腹部をさする撩。

白米と味噌汁の組み合わせは、昨日の朝以来。

牛肉も久しぶりとあって、満足感たっぷりの食事を終える。



撩に食後のコーヒーを出した香は、

食器を下げながら、次の動きに移ることに。



「あたし、洗濯機まわしてくる。」     

「はいよ。」

カップをずずっとすすりながら、一応答えとく撩。

視界の端で、パタンと扉が閉まるのを見留めると、

ふぅーと細く長い息がコーヒーで濡れた唇から漏れた。

左手で頬杖をついて、

右手でカップの縁を上からクレーンで摘むように

ゆらゆらと液体を揺らす。

目は指の隙間から見える黒い液体を捉えつつ、

耳ではしっかり隣りの空間で感じられる香の気配を追っている。



客間から洗い物を脱衣所に運び、ポケットの中身をチェックしながら、

洗濯槽に詰め込まれる衣類と香の姿が

瞼の裏で明瞭に動く。



「……はぁ。」



薄く吐き出される溜め息。

「見回りは明日にすっか…。」

奥多摩以降、

激減している夜遊びをカモフラージュにしたパトロールは、

今晩も先送りすることに。



—  どんな目にあっても、生き抜くから…  —



まだ色濃く残りエコーするあの台詞。

同時に別のシーンも被ってくる。

香が本気で死を覚悟したあの時の表情、

自分のためなら死は怖くないと、

偽りのない強い視線で終焉を受け入れる意志を飛ばしてきた。




「ったく、んとイザとなったら、おっそろしい程に固い決断をすんだよなぁ…。」




両手で白いカップを包んで、わざとずずっと音を立ててすする。

壁の向こうで、ピッという電子音が聞こえた。

洗濯機のスタートボタンが押されたのだろう。

もうすぐ、食器を洗いに戻ってくる。



これまで撩がピリオドに関わった命は、

軽く3ケタは超える。

逆に、救った命もまた同数以上。

香との生活が始まってから、香の目の前で人命を奪ったことも複数回。

そんな場面を目の当たりにしながらも、

そばに居続けることを選んだオンナが、

カチャリとキッチンのドアを開けた。



「あ、あれ?飲みに行くんじゃないの?」



いつもなら、夕食後は夜の新宿を徘徊する時間帯。

なのに、上着も羽織っておらず、

出かける準備をしている様子が全くない姿に、

当然疑問の声が出る。



「んー、今日はやめとくぅ。」

「ふーん。ま、帰ってきたばかりだしね。ウチで飲む?」



シンクの前に移動しながら、そう尋ねる香に、

パチっと目が開く。

きっと、以前なら

¨あんたが夜出歩かないなんて隕石でも落ちてくるんじゃないかしら?¨

¨余計なツケが増えなくて助かるわ¨

的な会話が返ってくるところだが、

その微妙な変化に本人はまだ気付いていない。



蛇口がひねられ、

先の牛肩ロース定食に使った食器が洗われ始める。

「どーっすかな…。」

香の背中を見つめながら、しばし悩む。

「コーヒーのおかわりにしとく?」

「あー、それ終わったら頼むわ。」

酒も飲みたいが、これから話そうとすることを考えると、

まだアルコールは先送りしたい。

「ちょっとまってて。」

素早く洗い物を片付けながら、短く返す香。

きゅっと水道が止まったところで、

やや緊張した空気が撩に伝わった。



「ねぇ、撩…。」

「ん?」

撩はカップに口をつけたまま

シンクの前に立つ香の後ろ姿を見る。

エプロンで手を拭きながら、振り向くその顔には、

少しだけ不安気な色が見えていた。



「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど…。」

「んだよ。」

返事をしながら、

コトリとコーヒーカップを白木のテーブルに置いた。

「あ、あのね、ミックが言ってたんだけど…。」

「ミックぅ?」

「う、うん、教授の家で聞いたの。

あの、クロイツの軍隊を倒した時のことなんだけど…。」

「あー、親衛隊の連中な。」

コーヒーの追加を準備しながら、質問を続ける。

「海坊主さんと2人で100人相手にしたって…。」

2週間前の奥多摩の救出劇の時、

香は負傷し倒れている多くの兵士を見とめながら撩と一緒に森を脱出した。

具体的な人数は、撩とファルコンが埠頭での仕事をしている間に、

ミックからちらりと聞いてしまい、

ある事案がずっと気になっていた。



「まだ、あの時、あの人たち生きていたわよね…。」

「あー、心配すんな。冴子が全員、警察病院に送りつけたってよ。」

「え!そうなの!?」

初めて知った事実に、驚きの声が出る。

「港にいた連中も誰も死んじゃいないさ。」

撩は、目を伏せ、左頬に手を添えて肘をついたまま、

人差し指でカップの縁を押して傾け、くるくると白い陶器を回転させる。

大きく見開いた香の目は、すうと細くなり、

肩も空気が抜けるようにその位置を落とした。



「そっか…。」



「おまぁを助けるために、100人殺しましたっつーのは、

海ちゃんもしたくなかったんだよ。」

実戦での大量虐殺を経験してきている二人にとって、

不用な殺生は無用という暗黙の了解がある。

基本は命を奪わずに戦闘能力を奪う、

しかし、これが可能なのはそれなりのスキルがあるからこそ。



「もし、あいつら全員ぶっ殺してみろ。

そいつらの嫁やら娘やら愛人やらが、

敵討ちとかいいながら、まぁーた、やってくんだぜ。」

撩は、んーっと両手を天井に向けて伸びをした。

「サエバさーん、大好きーっとか言って寄ってくんだったら大歓迎だけどさ、

復讐よ!とか言ってナイフや銃とか持ってさ、

大勢こられたら、めんどくせーじゃん。」

撩は、コキッと肩を鳴らせたら、また頬杖をついて小首をかしげる。



香は、カラのカップに再びコーヒーを注いだ。

自分の分も一緒に用意する。

二人の間に立ち上る白い湯気が、焙煎の香りを室内に充満させる。



「そっか…。」



同じ言葉がより小さな声で発せられた。

「ミックの主義も、理にかなっているかもね。」

ぶっと飲みかけたコーヒーを吹き出した。

「ああ?」

口元を拭いつつ、香を見やる。

「自分に恋させちゃうっていうヤツ。」

「はん!あんなのは主義でもなんでもねぇーよ!」

「ふふっ、美樹さんも、趣味だって言ってた。」

甦る廃墟となった屋上でのシーン。

香は、撩の対面に腰を降ろす。



撩は、このタイミングがまさにチャンスと、

話題の主導権を引き寄せることにした。



「……まぁ、…¨痛み¨の軽減には、ちったぁなるかもしれんがな。」

「痛み…。」



カップを両手で包んだ香は、

2杯目のコーヒーを飲む撩をじっと見つめた。


***********************************
(16)へつづく。






冒頭、クロイツ戦終了後の森を二人で戻る場面を作らせて頂きました(01-06)。
そのお話しの蒸し返しです。
ただね、ほんとあの原作のシーンでは、
倒された親衛隊がぴくりとも動かない状態で、
うめき声も表現されていない画ばかりでしたので、
完全息の根止めちゃってる的な印象も強いのですが、
当サイトでは、上記の理由で
完全意識不明ということにしてしまいました。
あーん、北条せんせい、せめて一人でも、
小さくでよかったので、
うめき声の台詞を入れてほしかったです。
前にも触れましたが、
美樹を狙撃した単品は、即死かなと。
むむ、この殺された唯一の男の嫁やら連れ合いが、
時間をおいてCHを狙いにくるっというお話しも
また素材になるかもと。
ただ、薬物がらみなどの、更正の余地なしと判断した場合は容赦無し、でしょうね。
初期のエンジェルダストに犯された情報屋や
船でのミックとのやりとりを思い返せば…。

28-14 Chuck Eye Roll

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜   


(14)Chuck Eye Roll ********************************************* 3155文字くらい



アパートに到着した二人は、

コンクリート打ちっぱなしの壁に挟まれた階段を登っていく。

意外と抱えている荷物が多い。



香は、ショルダーバックを肩から下げ、

腰に訓練時に巻いていたレンズ用のカメラバッグを再び装着し、

汗を吸った衣類を両手で抱えて、

2本指になんとかひっかけているトッレッキングシューズ。



撩は、さっき買った食料品が入った買い物袋を両手で2つぶら下げ、

ひょこひょこと段差を上がって行く。



「靴よこせよ。」

「え、いいよ。もうすぐだし。」

甘えてこない香に、もっと頼れよと、思いながらも口には出来ず、

そうこうしているうちに、5階の玄関に辿り着いた。

今朝の新聞が刺さったまま。

それを引き抜いて、撩はガチャリと我が家のドアを開ける。

「ほれ、入んな。」

ドアを支えて、先に中に進めと促す。

「あ、ありがと。」

この行動にもまだ慣れない香。

ミックじゃないんだから、と頬がわずかに染まってしまう。



しかし、いつまでも照れているワケにはいかず、

訓練で履いた靴を床に置き、カジュアルシューズを脱ぎながら、

これからの動きをイメージする。



「まずは、コレを洗わなきゃ…。」

「こいつはキッチンでいいな。」

玄関から続く階段から6階に向かうと、

ぞれぞれの荷物を置きに、各部屋へ向かう。



香は、客間に入るとまずは、パチンと電気をつけた。

何だか使う頻度が少なくなっている空間に、

本格的に客間専用となるのかと、しばし荷物を抱えたまま、

ドアの前でたたずんでしまう。

ふうと小息を吐きつつ、

部屋の隅々まで目だけ動かして見渡してみた。



「このタンス、…上に運んだ方がいいのか、な?」



一度、ミックが下着あさりに来た時、

ハンマーで壊してしまい、

致し方なく買い直したのは、海原戦が終わったあと。

撩の部屋で朝を迎えることが日常になりつつある中で、

すでに寝室は上と断言してもいい状態。

乱れたナイティーで、うろうろするのは出来れば避けたい。



「うー、でも撩の部屋に下着とか置くの、なんかやだぁ…。」



格段に便利になるに違いないが、

自分のブラを頭に乗っけているヘンタイオトコがポンと浮かぶ。



と、同時に

パタンと隣りのキッチンからドアが閉まる音がした。

はっと我に返って、今すべきことに頭を切り替えた。



「そ、そうよ!さっさと食事と洗濯物!」



香は、荷物をソファーの上にがさがさと重ね置き、

部屋の明かりを消すと、

まずは、料理だと急いで台所に向かった。




撩は、新聞を持ってリビングに。

香は、撩がテーブルの上に置いた買い物袋から、

すぐに使う食材と、早く冷蔵・冷凍しなければならないものとを、

速やかに仕分ける。



とりあえず、シンプルにアメリカ産の牛肩ロースを焼くことに。

手を軽く洗って、黄色いエプロンを食器棚の指定席からすいっと引っ張りだし、

きゅっと後腰に紐を締めた。

ワークトップには、

半額と貼られた黄色いシールが貼られた発砲トレー。

閉店間際の特別セールを見逃すはずもなく、

すばやく選んで来たメインディッシュ。



「んー、つけあわせは…と。」



もうキュウリやらトマトやらの夏野菜はすでに旬を過ぎ、

加熱調理の必要な脇役を用意しなければならない。

大急ぎで白米を研ぎ、主食、主菜、副菜の準備をしつつ、

買ったモノを指定席へ移す作業も手際よく進めた。




「……なんか、やっとまともな食事って感じだわ。」




厚くスライスされた赤身の肉を、フライパンでミディアムに焼きながら、

塩と胡椒を軽く振る。

ビタミン不足を補うためにもと、レモンを縦に二つに割るも、

1人1/2はもったいないと、もう半分はラップに包んで翌朝使うことに。

「どうせ一気にとったって、流れちゃうって言うしね。」

高校時代の家庭科で習った水溶性ビタミンの特性をうっすらと思い出す。



「これでいいかしら?」



シメジとタマネギとワカメの味噌汁に刻みネギをたっぷりと散らし、

シンプルに焼いた牛の切り身に、

ふかしたジャガイモとニンジンのグラッセ、茹でたインゲンを添え、

カットしたレモンを皿の端に置く。

フルーツは王林。

一応醤油とわさび、大根おろしを用意する。

牛の赤身と醤油は意外に相性がいい。

撩の分の皿は、大皿盛りで香の3倍の分量が盛りつけられている。

基本、3人前がこのオトコの一食分。

ここまで配膳が終わると、

香は撩を呼びにリビングに向かうことにした。






「撩?」

ドアを開けると、誰かと電話をしている。

「あー、わかった。さんきゅーな。

……美樹ちゃんに撩ちゃんが会いたーいって伝言たのむわ。」

電話越しにかすかに怒号が聞こえる。

「わーったよ、じゃあな。」

撩は、くくっと含み笑いをしながら、

まだ途中だった抗議らしき声をカシャンと受話器を置いて切ってしまった。

会話と耳に入った聞き慣れた声で察するに…。



「い、今の海坊主さん?」

「ああ、今かかってきた。」

「なんだったの?」

「んー?今日、伝言板チェックしに行ったんだと。」

「ええ?」

「ったく、頼んでもねぇーのに、おせっかいなタコ坊主だぜ。

なんにもなかったから、安心しろだと。」

「ちょっ、な、なんで海坊主さん、見に行けなかったことなんて知ってんのよ!」

香は、訓練についてみんなが知っているのかと、

更には、あの場所でアンナコトをしてきたことまで、

もしかしてもうバレているのかと、

じゅわじゅわと赤くなって状況を尋ねようとする。

「どうせ教授から聞いたんだろ。」



ファルコンにとって、香は可愛い一番弟子。

今回の訓練のウワサを垣間知り、父性本能的に香のことが心配だったのだ。

伝言板を言い訳に、連絡をしてみたが、

しっかりその目論みは撩に読まれていた。

「なんで帰ってくる時間がわかっちゃったの?」

そもそも、こちらの動きは行き当たりばったり的で、

何時に帰宅するということは、当の本人達も未定のスケジュール。



「あーん?留守電にでも残しておくつもりだったんじゃね?

たまたまオレらが帰ったから出れただけの話しだよ。」

と、言いながら実は、

すでに山荘の管理人から撤退済みの連絡を得た教授が、

余計なことをファルコンに漏らしたことが伺えた。

ちらっと電話のそばの時計をみやる。

丁度9時。



「……みんな、知ってるの?」

赤い顔のまま、肩を小さくして、尋ねてみるも、

答えを聞くのは正直怖い。

撩は、香の心配を分かっていながら、まずは、はぐらかすことに。

「んー?ナニを?」

食事が出来たことを言われなくてもキャッチしていたので、

そのままリビングからキッチンに向かう。



「そ、その昨日から、で、出かけてたことよ。」

撩の後を追いながら、香も廊下に出た。

「教授に口止めっつーのは、無意味っちゅーことだな。」

撩は、後ろ頭に指を組んで、んーっと腕を広げながらそう返した。

「ええ?なにそれ?どーゆーことよ!」

「ミック、かずえちゃん、タコに美樹ちゃんにも、たぶんみぃーんなに筒抜け、

んっと、あのおしゃべりじじいが…。」



片手を腰のポケットに入れ、がちゃっとキッチンの扉を開ける撩。

香が廊下で固まっている。

「まぁ、気にすんな。監視カメラとかは、ぜぇーんぶスイッチ切っておいたから。」

「か、カメラ?」

「覗かれてたまるかっちゅーの。」

あの山荘にそんなモノが仕掛けてあったとは

全く想像だにもしていなかった香。

そのスイッチがオフになっていなかったら、

一体どこまでが筒抜けになっていたのかと、

ちらりと連想しただけで、くらりとよろめく。

こめかみを抑えて、廊下の壁に手をついた。



「どったの?かおりちゃん。」

「〜〜〜…。」



言葉が出ないが、

香はもう知らない場所で無防備なことをする訳にはいかないと、

固く心に誓った。



「ほれ、早く食おうぜ。」

撩は、ひょいと入り口から顔を出す。

「うー…。」

やや混乱気味の頭のまま、

香もキッチンにふらふらと入って行った。


***********************************
(15)へつづく。






たぶん、ミックも、かずえも、美樹も、ファルコンも
訓練と山荘のことを聞きたくてしょうがないかもと。

28-13 White Dress

第28部 Let’s Head Home

奥多摩湖畔から14日目の夕方から夜  


(13)White Dress *************************************************** 2035文字くらい



あの日、

奥多摩の教会で、ほんのコンマ数秒見ることが出来た

香のウェディングドレス姿。



まさか、美樹の衣装を着ているとは全く考えていなかった故、

オフザケでそのまま勢い良く飛びついた。

冗談抜きで、

あの驚き目を見開いた香の表情を認めた瞬間までは、

自分の判断ミスに気付かず、

結局ハンマーで潰される。



……わずかコンマ数秒。



オンナにとって特別な意味を持つ衣に身を包んだその姿が、

しっかり記憶野に焼き付いてしまった。



あれを着させて

他のオトコのトコロに行かせるワケにはいかんだろ、

と、埠頭に向かう時にファルコンと交した会話が甦る。



「……さすがに、ウェディングドレスは脱がせたことねぇーな…。」



もう周りが見えていない撩。

つぶやきが、そばを通る客の耳に届いたことにも気付かない。

このオトコは、周囲の異変に気付く能力は言うまでもなく

ずば抜けて長(た)けているが、

その心配がない時には、

自分中心妄想ワールドにどっぷりひたひた状態。



「これまた、初体験になっちまう、か…?」



んーっ、と両手の指を組んで頭の上で伸ばしていたら、

「なんのことよ?」

と聞き慣れた声と気配。

両腕に買い物袋をぶらさげた香が、不思議なものを見る様な表情で、

撩を見下ろしている。



「ぅ、お!も、もう終わったのかよ。」

何もなかったかのように、よっと立ち上がる撩。

「急いで回ってくるって言ったじゃない。」

若干動揺中であることを悟られまいと

いたって問題なしという雰囲気を作る。



この前の食品売り場でも、

こんな感じで香の登場に気付かなかったことを思い出す。

どうもカオリンの事を考えていると、

危険性のないものに対して、注意力が散漫になると、

当の香の接近にまで感覚が鈍る己に苦笑する。

そこに、閉店を知らせる追い出しメロディーと案内の放送が流れ始めた。



「んじゃ帰るか。」

「食べるの9時過ぎちゃうかも。」

「いいんじゃね?ちょうど小腹がすく頃合いだ。」

自動ドアをくぐり、駐車場に向かう二人。

「で、何が初体験なのよ?」

「あー?」

「あんた、すっごい、やーらしい顔してたわよ。」

会計中にちらっと見た相方の様子を思い出す。

「一体何考えてたの?」

しまった、顔に出てたかと、

誤摩化すか、直球にするか、暫し悩む選択肢。



「まっさか、レジのお姉さんにちょっかい出そうとか思ってたんじゃないでしょーね???」

「ば、ばーか、ちげぇよ。」

クーパーまで辿り着くと、まずは、荷物を受け取った。

「ほれ、よこしな。」

「あ、うん。」

バクンと開けられたトランクに、買い物袋がガサリと2つ置かれる。

「バッグは?」

一緒に中にいれるか短い言葉で問う撩。

「あ、このまま持ってる。」

「んじゃ、行くか。」

バンとハッチを閉め、運転席に向かう。

駐車場の照明に照らされるルーフの向こうの香を

視界の端に捉えながら、シートに先に座れば続いて、香も助手席に収まる。



キーを差し込もうとする撩の手が止まり、

財布の中のレシートのありかを再確認する香の姿をチラ見する。

さっきまで考えていた、白い衣装を纏い、薄いベールを被る姿が、

ぼんやりと重なった。

美樹が着ていた白の布地、

頭が中身だけ香に入れ換えてしまった。



「……香。」



「ん?何か買い忘れ?」

と振り向いたとたんに視界が暗くなる。

顎に、温かい撩の右手の指がかかったと感じたと同時に、

はむっとライトに唇を重ねられた。

瞬時に、ボシュッと顔も体も赤くなる。



「っっっっ!」

突然のことにドアまで体がずり下がってしまった。

ドンと後ろ頭が窓に当たる。



「なななななにすんのよっ!ととと突然っ!!!」

耳から上がる細い湯気。

「んー?だからしたくなったから。」

コーン!と左頬にヒットするミニハンマー。

「でっ!」

「も、もうっ!さ、さっきもそうだったじゃない!

だだだ誰かに見られちゃったら、

恥ずかしいじゃないっ!」

くすりと唇の端をあげながら、ぐいっと左腕を伸ばして、

シートの端で困惑している香の髪の毛をくしゃりと掻き回す。

「確かに、その顔を他の連中には見せたくないよなー。」

「はぁ?」

そのままくっと自分に引き寄せると、

耳元で小さく囁いた。



「おまぁとは、全てが初体験、だからな…。」



「…………ぇ?」

「まっ、これからもよろしくっ、っつーことで、帰るか!」

「は…?」

キーを差し込んだ撩は、グォンとエンジンをふかして、

滑らかに駐車場を後にする。

となりのシートで、まだきょとんとしている香は、

先の店内から今に至までの撩の言動がイマイチ理解できずに、

頭の中は、クエスチョンマークだらけ。



「……ワケ、わかんない。」



何回唇を重ねても、何回体をつなげても、

やはり慣れないことは慣れないまま。

火照らせたままの表情で、

香は座席にゆっくりと座り直した。



ふうと視線を左前方に流してみる。

夜の新宿の見慣れた車窓。

ああ、戻ってきたんだと、自分たちのテリトリー内の光景を

瞳に映しながら、

香は、丸めた左の人差し指をそっと自分の唇に当てた。



***********************************
(13)へつづく。






撩が第三者の前で、
コイツは俺のモンだとアピールするのに、
一体どこまでしちゃうもんなのか、
ハグ&チューくらいまでは、このサイトの設定上では、
年明けくらいから解禁?
それ以上は、撩自身が許さんかも?

【御礼】
10/31より初回から拍手を押して下さっている方に、
御礼申し上げます!

【補足】
撩とファルコンが車内でウェディングドレスの話しをするのは、
05-06で出てきます。
2013.11.16.


プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
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