29-11 Switch

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目


(11) Switch ******************************************************* 2215文字くらい




バン!

まずは、洗面所の扉が閉められた。



ジャーッと節約無視で激しく水を流す。

バシャバシャとハイビスカス色になった顔から熱をとろうと

まんべんなく肌に水飛沫を浴びせかけた。



(お、おかしい…、おかしいわよっ…。)

撩じゃなくて、¨自分¨が。

(さ、さっきの、リップクリームだってっ…)



洗面台に両手をついて俯き加減に、排水口を見つめる。

顎からぽたぽたと雫が垂れ、

前髪もうっすらと濡れてしまう。

冷たい水温で、少しだけ肌の温度が落ち着いた。



(りょ、撩の、やーらしい本なんて、そのへんにあるのは普通じゃない!)



じっくりゆっくり眺めたことがある訳ではないが、

リビングに撩の部屋に地下の射撃場にと

露出度の高い冊子やポスターがあるのは当たり前で、

文句を言いながら、片付けていたのは自分であって、

ある程度は触り慣れていて、見慣れていたものだったはず。



時折、

撩と他の女がこんなことをしているのだろうかと、

中身が開かれたままのページを視界の端に捉えるたびに

ちくりと痛みを感じていた。

写されている女性のスタイルの良さに落ち込みながら、

自分は撩の好みでないと、

撩とはこんな関係にはなれるはずがないと、

あり得ない未来として無理矢理情報処理をする。

強制的にそれらを見なかったことにして、

スイッチをオフにし、

掃除をしていたことを思い出す。




(スイッチ…?)




自分の中の切り替え部品がぼんやりと見えた。

確か、天野翔子の依頼の時に、

セスナの機内にそれこそ露出の高い

洋物系の写真を貼りまくったことがあった。

その時は、完全にスイッチオフになっていたのだ。

撩の飛行機恐怖症を治せるかもしれないという

ただ一つの目的のために、

両面テープを使って、せっせと作業をしていた自分を振り返る。

全く気にならなかった各種裸体の数々。

なのに、さっきの写真1枚で一気に自分の頭の中が

夜の仲良しタイムに持って行かれてしまった。



(ま、前は、こ、こんなこと…、なかった、のに…。)



ちょっとした刺激で、スイッチがオンになってしまう。

唇に何かが触れるだけで、

撩の姿を見るだけで、

撩に触れられるだけで、

性交に関わる情報をちらっと見ただけで、

自分の方が、

昼夜問わず撩に抱かれたいと強く願う意識が持ち上がってくる。



「だっ!だめじゃない!こんなんじゃっ!!!」




思わず声が出て、

顔をブンブンと振りながら正面を向いた。

鏡に映った顔は、まだほんのり赤い。

目を合わせられず、また俯き目を伏せる。

撩のことをこれまで散々変態オトコだと罵ってきたが、

まるで自分も、

そんなことばかりを考えている助平と同じではないかと、

この半月で、

変わってしまった感情の受信具合に

自分の意識がついていかない。






「これじゃ…、ほ、ホントに、仕事に差し障りが出る…。」



撩といることが平常心を保てない事態に、

自分を責める香。

「だ、だいたい、いちいち、いちゃつき過ぎなのよ!」

撩にも責任があるんじゃない?と、

ドン!と洗面ボールの縁を叩く。

「い、嫌じゃ、ないんだけど…、さ…。」



折角、切り替えて家事に集中していても、

ことある度に襲撃をしかけてくる相方の起爆剤。

もし、ハンマーを受けてもらえなければ、

たぶん、

そのまま台所でもリビングでもコトが進むことをきっと止められない。

自分がそれを望んでしまいそうで、

どうしてこんなことを思うようになったのか、

激しく困惑する。

決して本気で拒絶したい訳ではない。

撩に触れてもらう

心地よさや気持ちよさ、安心感やぬくもりを知ってしまい、

むしろ、許されるのなら、

ずっと一緒にくっついていたいと脳が欲し、

ホンネの優先順位は十分自覚している。

しかし、タテマエ上はそーゆー訳にはいかないのも分かっている。



あれから2週間、

唐突に変わった環境と関係に、

体も心もまだまだ適応していないと、

自身の順応能力の乏しさを痛感する。

小中高のクラス替えや進学時などに味わった変化への対応は、

それなりに上手く乗り越えていたはずなのに、

男女の関係に関わる事案には、

何もかもが初めて過ぎて、

26年の人生経験が殆ど役に立たない。



「な、慣れて、ない…、せいなの、かな…?」



撩の言動に対する動悸息切れ発汗発熱、

これではまるで、昼のワイドショーか何かで見た

更年期障害ではないかと。

慣れて症状が軽減されるものなら、

積極的に慣れなければとちらりと思うも、

とてもじゃないが、

上手に切り返せるような自分は想像できず、

現実的ではない。



「はぁ〜…、いったいどうしたらいいのよ…。」



洗面台の縁に指をかけたまま、

へなへなと膝を着いてしまった。

こんな状態では、

今リビングに戻って、一緒に昼食をとるなんて、

出来そうにない。

ソファーに座ったら座ったで、

きっと、まるで園児のようなからかい口調で、

なぜ勝手に赤らんでいるのか、しつこく絡んでくるに違いない。

本人も言っていた。

あのオトコにとって、自白させることは得意技の一つ。



いやらしい写真を見て、撩に抱かれたくなりました、

なんて、間違っても言える訳がない。



気分が落ち着くまでは、そばに居れない。

スイッチがまだオンのまま。

「捨てなきゃ…。」

香は撩のコレクションを

生活空間から完全排除しよう、と心に決めた。

自分が慣れないうちは、また同じことが繰り返され、

いざという時に、大きな弊害が出てしまう。

依頼人が宿泊する時のことも考えて、

古紙回収の日を確認しなければと、

赤い顔のまま眉を寄せ、早く体温が下がるのを狭い洗面所で

静かに待つことにした。



********************
(12)につづく。





カオリン、重度のリョウちん依存症へ。
サエバ氏はソレ以上にカオリン中毒。
二人とも互いを欲する重篤なホリック患者として、
むさぼるようにいちゃついて欲しい。

環境教育の業界で学生時代に思ったこと、
色んなスイッチがあって、
それが押されるきっかけが一つあれば十分。
CHにスイッチが入るまでは、
ミニなんてただの赤い車でしかなかったのに…。


ーーーー2014.01.27.の時事お知らせーーーー

【金さんのブログ更新!】
近況報告ありです!

【訂正感謝!】
3ヶ所誤変換発見ありがとうございます!
2014.01.27.20:34

スポンサーサイト

29-10 Unaltered

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目


(10)Unaltered  *************************************************** 2730文字くらい




「なっ…!」




香は、今日はリビングでサンドイッチを食べようと、

一通りのセットを運んできた。

扉の前で広いトレーを片手で持ち直し、

空いた手でドアを開ける。

「りょー、ここで食べ…。」

と近付きながら、

ソファーの長辺側で

仰向けになって転がっている相方をみやれば、

顔にはいつもの愛読書。

その裏表紙から折り込みページがぱらりとはみ出ていた。

洋物かつフルカラーの無修正。

そこで、冒頭の声が出た。



ガラステーブルのそば、

中腰のままトレーを置く直前のスタイルで、

ピキンと固まってしまった香。

目がその写真から離せない。

つま先から赤い目盛りが音を立てて垂直に登っていく。

瞬く間に、見えている皮膚は

ショウジョウトキの羽根色に染め上がった。



布を一切まとっていないその男女の絡み。

モデルばりのコーカソイド系、

男は黒髪で女はショートの茶髪。

その組み合わせだけでも、

否が応でも自分たちを重ねてしまうのに、

印刷されているそのページの構図は、

カメラマン渾身自慢のワンカットと主張するがごとく、

枠一杯を使い切る。

流線型のシワを残した黒い布地を背景に、

自分の膝の上に女を座らせ後ろから抱き込む男。

2人の足は完全開脚状態。

ライティングの効果か、

レンブラントの油絵のような明暗の仕掛けで、

筋肉と骨格の凹凸がはっきりと浮き上がり、

顔の毛穴まで見えるようなピントの合わせ方に、

全ての体毛も汗もきめ細やかに映し出されている。

女はきつい姿勢で振り返り気味に首を反らせ、

男は左肩より覆い被さるよう、女の舌を吸い付きながら、

右腕を背後から伸ばして、左の乳房を言葉通り鷲掴みにし、

左腕は女の脇腹から絡ませて、

陰毛を隠すように無骨な指が覆っている。

女の白い左腕は、男の頭の引き寄せ、

添えられている指は優しさよりも

激しさを含んだ髪の掴み方。

右手では、自分の右の乳房の形を変えるように指先が食い込み、

人差し指と中指の間から、色の濃い乳首が見えている。

そして、全く隠されていないソコは、

明らかにアレが深く“入って”いた。



眉を寄せ、キツく閉じられた瞼に、

苦悶とも恍惚とも言える表情は、

全く見ず知らずの外国人であるにも関わらず、

その写真を見たとたんに、

香の頭の中では、問答無用で自分たちに置き換わってしまった。



ガシャシャンッ ! ! !

「うわっ、な、なんだよっ。」



撩が飛び起きる。

その勢いで、愛読書は床にバササッと落ちていった。

コーヒーやリンゴジュース、

各種サンドイッチに、ヨーグルト、フルーツが乗った

大きめの四角い木製トレーが、

激しい音を立てて、

20センチ上からガラステーブルに着地したと

発信源を見て得心するも、

香は中腰のスタイルで目を見開いたまま、愛読書があった元場所から、

視線を動かせず、全身を真っ赤にしていた。



トレーの中身は、そのままの垂直移動に一部耐えきれず、

やはりコーヒーとジュースは、容器から跳ね散っていたが、

さほどの被害ではない。



「ほえ?」



香の気配にはもちろん気付いていたものの、

グータラしていることをツッコまれるかと思っていた撩。

飛び起きたフリをして、ハンマーを想定したイメージで、

わざと両腕を使いガードをする素振りを見せていた。

が、香の状態は想定外。

トレーの音も、苛立ちを表現した演出かと思っていたら、

どうやら本気で手から意識が離れて落としたものらしいことが、

なんとなく分かった。



「か、かおりしゃん?ど、どったの?」



まだ、まばたきもせずにソファーのコーナーあたりを

凝視したまま、湯気があがっている香に、

撩もまだ状況把握が追いつかない。



「…………。」

「…………。」



アクションがないことに先にしびれを切らしたのは撩。

ひょいと顔を動かして、

香の視線のライン上に割り込んだ。

「なぁ、食わねぇの?」

一応、まだ持ってこられたコーヒーからは湯気が上がっている。

同じく、香からもまだ湯気が上がっている。

視界に侵入してきた、小学生のような表情の撩に、

息を吸うのを忘れていたことを思い出して、

すはっと自発呼吸が再開する香。

瞳に意識が戻ってくる。



「は…。」



小さく漏れた声と同時に、止まった思考が再起動。

「おまぁ、何赤くなってんの?」

撩が腰を浮かせて、香の左のこめかみに向かって腕を伸ばす。

「…っ!」

撩の指がつと触れたとたんに、

香の体が反射で後方に引っ張られた。

しかし、立っていたところはテーブルがある一段下がった床面故、

スリッパから出た右の踵(かかと)が

段差に激しくぶつかってしまった。

バランスを失った体は、物理の法則に従って、

そのまま仰向けに倒れ…、



「きゃああ!」

「おわっとっ!」



たと思ったら、衝撃がこない。

どさっと耳に入った音は自分の体が発したものではないらしい。

後頭部くらい強打するかと体が予測していたが、痛みもなし。

まだ頬が染まったままで、うっすらと目を開けると、

目の前には、自分を覗き込んでいる撩の困惑した顔。



「ったく、おま…、何やってんだよ…。」



フローリングと自分の背中の間には、

撩の右腕が差し込まれ、その手は香の二の腕を包み、

左腕は香の腰を引き寄せていた。



「あ…。」



床との衝突を免れたのは、明らかに撩のとっさの行動で、

自分が守られたからと、理解する香。

どうも自分の感情の受け皿の状態が芳(かんば)しくない。

置かれている状況が分かったとたんに、

まるでフローリングが

熱したフライパンに変わってしまったかと錯覚するくらいに

背中から全身に渡って一気に熱伝導が起きる。

腕の中で、更にぼしゅっと茹で上がる香に、

理由はともかく、たかだかこんな触れ合いでも、

激しい照れや恥ずかしさを見せる香が

愛おしくてしょうがない撩。



くすっと笑って、

左手を熱くなっている香の頬にひたっと触れさせた。

「ひゃあっ!」

びくんと反応する体に、ますますイタズラをしかけたくなる。

「んと、どったの?こーんなに赤くなっちゃって…。」

フローリングの段差部分で、

撩に抱きとめられたまま仰向けになっている香は、

自分の過剰反応に理解が付いていかず、

混乱と照れで神経に高い電圧がかかる。

目をくるくるさせていたら、

撩が、ちゅうぅ〜の準備をしながら、顔を近付けてきた。



しかし、轟音とともに撩が口付けをしたのは、

香ではなく冷たい木目の床だった。

出て来たのは、なぜか331トンハンマー。




「も、もうっ!あ、朝も、ひ、ひ昼も、なななに考えてんのよっ!

ああああたしっ、と、トイレいってくるから、

さ、先に、たたた食べてていいからっ!!!」

バタン!と、壁面が揺れ、

リビングのドアが壊れそうなくらいの勢いで閉められた。






「な、なんで…???」



ハンマーの下で、

逃げた香の気配を追いながら、

挙動不審の原因がまだ分からない撩であった。



********************
(11)につづく。






沸騰の理由は次回で…。
どこかのお部屋で拝見した、撩のコレクションで
こっそり勉強しようとする香のシチュもスキなんですが、
そのうち、学習タイムを作ってやりたいなと。

【もっとじっくりどっぷりしたいのに…】
サイトのログイン、Twitter&FBのログイン、
もっとまとまった時間でかまいたい思いとは裏腹に、
千日紅さんのお言葉を借りれば、まさに「隙間時間」状態での現実逃避。
つまみぐいじゃなくて、しっかり食べてエネルギー補給をしたい…。
(女の子の日が終わって解禁まで耐える撩?)
CHがらみでも、色々先送り事案蓄積中。
少しずつこなしていきたいと思います。
基本、CHに使っている時間は至福なので。
2014.01.20.

頂いた情報やお問い合わせについて

更新日に、沢山の方に来て頂き、

有り難さを胸に抱きながら、

もくじ貼り付けをさせて頂いております。

今回は、メールやコメント欄で複数ご連絡を頂いた事案について、

恐らく他の方も気になっている内容かもと思い、

こちらで、まとめてお知らせしたいと思います。




【 お問い合わせ その1 】

ヤフーやグーグルの二次サイト検索で、

「Toad Lily」が上位ページに出なくなったのはどうしてですか?


というご連絡を頂きました。



実は、他サイト様からのアドバイスを頂き、

2012年12月16日より、試験的に検索よけのタグを使わせてもらっています。

「はじめに」の一番下にちょろっとお知らせ文を入れましたが、

分かりにくい表示で申し訳ございません。

公式情報を求められて、間違って訪問する方を出来るだけ防ぐためと、

皆様のリンクを預かっておりますので、

二次サイトに関するマナーサイトなども参考にし、検索よけを導入致しました。

ブックマークからではなく、検索から訪問される方もいらっしゃると聞き、

心苦しいところでございますが、ご了承頂ければと存じます。





【 お問い合わせ その2 】

新規サイト様の情報と、未掲載更新停滞サイト様の情報はチェック済みですか?

追記掲載を希望します。


というお問い合わせを頂きました。



申し訳ございません。

年末より慌ただしく、

こちらの認知が遅れておりましたことと、

お声かけの前にお作を一通り拝見してから、

ご連絡を差し上げております故、当方からのアクションが大変遅くなっております。

先日、7日ぶりに足跡一覧を確認致しましたところ、

新規サイト様と復活サイト様の足跡を頂戴していたことに、

日付けを随分過ぎてから気がついた次第で、

対応がもたつき気味になっております。

当サイトのリンクノートは、参加希望型ももちろん承っておりますので、

早めの掲載をご希望のサイトマスターの方は、ご一報頂ければ助かります。

CHファンサイトが増えることは、

RKに愛を注ぐ皆さん共通の希望だと思いますので〜。





【 お問い合わせ その3 】

どうして◎◎さんのサイトは、リンクに掲載されていないのですか?

というお問い合わせを頂きました。



上記の、まだこちらからお声かけをしていないサイト様以外で、

未掲載のサイト様につきましては、

リンク記事公開のお知らせ」の(6)で、

触れさせて頂いております。

全ては、こちらの失態と粗相によるものでございますので、

相手様方に、掲載を求められるようなご連絡は差し上げないよう

お願い申し上げます。

掲載を辞退されたサイト様は、現在5件様ですが、

伏せ字でもサイト内でお知らせすることは控えさせて頂きます。

大変恐れ入りますが、

他のサイト様からのリンク等でご訪問下さい。

もちろん、辞退された方でもご連絡を頂ければ、

速やかに掲載の対応をさせて頂きます。





情報を下さった方々には、改めて御礼申し上げます。

年度末まで修羅場とまではいかなくても、バタバタしているかもしれませんので、

その他対応が後手後手になりそうですが、

月曜日の1919は、ちゃんと更新できるよう努めていきたいと思います。

以上、お問い合わせに関してのご連絡でした〜。

(今回はカオリンちゃんバースデータイムで更新:墓地の決闘の名シーンもこの時間だったし)


【もう誤植ばっかしで〜】
Nさん、ご連絡感謝!
訂正入れました!
ありがとうございます!
2014.01.15.00:30


29-09 A Public Telephone Booth

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目 


(9)A Public Telephone Booth  *********************************** 1718文字くらい




「お昼はサンドイッチでいい?」

「あー、まかせるわ。」



1階駐車場にクーパーを入れた後、

車外に出た2人は、まずランチの相談をする。

階段に向かうところで、ふいに撩が足を止めた。

「あ、俺、地下寄ってから上がるわ。」

「うん、分かった。先行ってる。」

特に何の用だと確認しなくてもいいかと、

香もそのまま何の疑問も持たずに5階の玄関を目指した。

その背中をちらりと見やり、

相棒の気配が遠のいたのを確認したところで、

撩は、再びアパートから外に出る。

目指すは一番近い公衆電話。

大通り沿いに比較的便利な位置で設置されているそれは、

固定電話からでは都合が悪い時に

ちょくちょくと利用している。



狭い空間に体半分だけ入れて、

折りたたみ式のガラス戸は半開きに。

ごそごそと二つ折りの財布から

どこぞのバーの開店3周年記念に押し付けられた

テレホンカードを取り出して、

指定の位置に差し込めば、

記憶している番号をちゃっちゃと押してみる。

すぐに相手につながると、

簡単に用件だけ伝えて、

その表情は若干すまなそうに眉が少しだけ下がる。

「手間かけて悪いな。」

そう言えば、受話器の向こうの相手は繰り返し気にするなと、

明るい口調で返してきた。

「じゃ、下で待っててくれ。あとは打ち合わせ通りっつーことで。」

意味深な会話を終えて、

受話器をカシャンとフックにかけると、

ふっとわずかに唇の片端だけが上に動いた。

ピーピーピーと高い電子音は、

カードを引き抜けばピタリと黙る。



「さてと…。」



電話ボックスから、のそりと体を出せば、

進路は家路と、ジャケットのポケットに両手を突っ込んで、

一見、だらしなさそうに歩く。

そのくせ、異変に対して

常にチューナーを合わせている鋭い五感はもちろん健在で、

とりあえずは、周囲に何も問題なしと、

アパートへ向かった。



エントランスまで戻って来た撩。

ちらりと6階ベランダを見上げるも、

香はきっと昼食の準備をしているはずと、

自分の出入りを見られていないことを確信してから、

駐車場に入り、階段を昇って行った。

気配を消さずして我が家に戻れば

相方の気配が明確に読み取れる。



「やっぱキッチンか。」



撩は、そのままリビングの扉を開けると、

ソファーにどさりと腰を降ろした。

今度は、長辺側にごろんと仰向けになり、

このところ夜の巡回数が少ないことを思い起こす。

真面目に見回ったのは、確か1週間前。



「今晩あたり、またちょっと行ってくっかな…。」



足を組んで、後頭部に組んだ指を滑り込ませ、

はぁと一息つく。

目を閉じて、午後の動きをイメージしてみた。

ランチ後はともかく、

本当は、夕食→入浴→すぐに仲良しタイムに持っていきたい。

その方が、ゆっくりいちゃつけるし、

香の翌日の負担も軽減される(かもしれない)。

しかし、折々の縄張り内パトロールも重要な仕事の一つ。

香を守るためにも、おろそかにするワケにはいかない。

顔馴染みのカワイ子ちゃんがいる店でのバカ騒ぎも悪くはないが、

香と過ごす時間と比較すれば、

どちらを体と脳が欲しているか、考えるまでもない。




「……まだ、連れて歩くのは、…ダメだ、な。」




香に面通しさせておいたほうがいい情報屋もいる。

緊急避難場所としての、裏の顔のある店も教えておいたほうがいいだろう。

各所に隠してある¨道具¨についてもまた

共有情報にしておきたい。

しかし、まだ早い。

夜の新宿を2人で出歩いたところで、

順調に目的地へ到着させてもらえないのは明確なこと。

5メートル歩くごとに野次馬に呼び止められるに決まっている。



「んー…、まぁ、来月、かな?」



一気に全部こなすワケにはいかないので、

まずは、少し落ち着くであろう日取りを選んで

12月に一部ご案内という日程を組み立て中。



「ま、少しづつな…。」



とりあえず、今日は一つ実験を試みる予定がある。

「お手並み、拝見ってか…。」

撩は、目を閉じたまま、

くいっと左腕を伸ばせば、

ソファーのコーナーの裏に指先を差し込んだ。

引っ張り出したのは、カモフラージュ用の愛読書。

それをばさりと顔に被せれば、

また壁の向こうで感じる心地よい気配をまどろみに重ねて、

しばしの休息タイムをとることにした。


********************
(10)につづく。







公衆電話、最近はホント使わなくなりました。
私が学生の頃は、
まだ財布にテレカが複数枚入っているのは普通でしたが、
今は滅多に使うこともなく…。
公衆電話そのものも撤去されまくっているので、
この先どうなるのかしら〜と。
テレカの生き物系デザインだけは、使用未使用に限らずキープ中。
シテハンのテレカもオークション各種出ていますね〜。
全部欲しくなる〜(金ないのに…)。
http://auctions.search.yahoo.co.jp/search/(シティーハンター)テレホンカード/0/

【直しました!】
訂正入れました!ご連絡感謝!
2014.01.13.20:52

29-08 Arbeit ?

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目


(8)Arbeit ? ******************************************************** 2234文字くらい




「残念…、今日も、なし、か…。」



撩と一緒に車で家を出て、

いつも通り伝言板の前で、肩を落として直立不動。

目だけ動かして、隅々まで読み取れる日本語を確認するが

求めている該当情報はなし。

そう言えば、これまで英語で書かれていたことはないわねと、

もしかしたら、

今後XYZ以外の文字が母国語以外という可能性も

ゼロじゃないことを、ちらりと思う。

丁寧に写し取るか、カメラで撮影し現像後に撩に訳してもらうか、

またその時選べる対応を想定しておかねばと、

頭の隅に留めることに。



ふぅと、一息吐き出して、

カジュアルシューズのつま先が、たっと東口出口に向かうが、

はたと動きを止めて、ショルダーバッグの紐をくっと持ち直す。

念のため、怪しい人影や気配がないか、

ざっとあたりを見回してみた。

雑踏が構内に響き、

昼前にもかかわらず、相変わらず人口密度が高い。

特に違和感はなし、と香は撩の待つ場所へ足を早めた。







「なかったわ。

伝言板経由の仕事って、夏以降全く来てないのよね〜。」

助手席に乗り込みながら、報告と愚痴をこぼす香。

橘葉月のそれが最新であったことを思い出す。

「あ、そ…。」

「あっそうって、あんたこのまんま仕事なかったらどうすんのよ!」

「あーん?なんとかなんじゃない?

それにぃ〜、今月ただでさえもボクちゃん働き過ぎだもん。」

キーを回し、エンジンをかければ、

そのまま赤い車は駅前から大通りへ。



「あ…。」



そう言えばと、香は指先を唇に当てて思い返す。

クロイツ戦は、依頼や仕事とは言えなかったが、

大きな事件を一つ解決したことには間違いない。

ファルコンの依頼の補助は、

報酬も入り、これは間違いなく仕事となった。

それに、あれから折々に生活に組み込まれている

自分に対する訓練指導も、

お互いが生きるためという目的のもと、

インストラクターというべきか指導官というべきか、

決してグータラしている時間とは重ねられない

ある意味、仕事のための仕事をしているとも言える撩。



確かにこの2週間は、色々な事案で密度が高い。

撩が、働き過ぎと発言する気持ちも分からなくもないが、

こうも伝言板に何もない日が続くと、

暗号の存在そのものが、完全に忘却されてしまうかもと、

若干不安になってしまう香。



「んー、だ、だからって依頼がないことは、あんまり喜べないわよ。

まぁ、世の中それだけ平和ならいいんだけど、ね。」

と、複雑な表情になりながら、流し目で車窓を流れる風景を追う。

贅沢はできなくても、そこそこ食べていければいい。

救いの手を求める声がなければないで、

収入がゼロということを、そのままにしなければいいのだ。

考えがすぐに切り替わったところで、

おもむろに対策を口に出す。



「年内に仕事入りそうになかったら、

あたしバイトしよっかな…。」

「はぁ???」

撩が素っ頓狂な声をあげて香の方に視線を向けた。

「ほら、来月とかクリスマス商戦で、

配達員や売り子が必要な業種、結構あるのよ。」

香は、今朝の新聞の折り込み広告に入っていた

求人チラシをカサッと取り出す。

スーパーの安売り宣伝と一緒に持ち出して来たものだ。



「ケーキの配達員募集とか、フライドチキンとピザのデリバリーとか、

こっちのデパートは梱包作業の補助とかあるのよ。」

「なぁーんで、そんなもん持ってんだよ。」

外でのバイトと聞いて、心中穏やかではなくなる撩。

「あら、だって、これまでだってさ、

仕事こなくて光熱費払うのどうしようって

厳しかったことが一度や二度じゃないのはあんたも知ってるでしょ?

エロイカとかエレクトラのママに、あんたがツケばかり増やすから、

お店でバイトしないかって誘われたことも、何度もあったのよ。

ちゃんと、いざっていう時の稼ぎ口も情報持っておかないと困るでしょ?」

腕組みをして、早口に説明する香を運転しながらちらりと見やる。

以前ならば、“勝手にしたらぁ?”と

強がって無関心を演じていたが、関係が変わった今、

同じ言葉は出てこない。



自由を奪うつもりはないが、

無用な行動で自分と離れる時間を作らせたくない上に、

不特定多数の目の下に、クリスマスコスチュームを着た香を

晒すことは、全く持って許しがたい。

ましてや、自分の行きつけの店でのバイトなど、

客層が知れているからこそ、させられるワケがねぇーだろ、と

この2週間で、自覚以上に独占欲が急成長している撩にとって、

香がどこぞでアルバイトという選択肢は、

完全シャットアウト。



「んなこと、する必要ねぇーって。」

一応、落ち着いているフリをして口に出してみる。

心の中では、

(だぁーっ!だめだっつーの!そんなん、させられるかってーのっ!)

と本気で叫ぶ自分がいる。

「だ、か、ら、いざとなったらよ!」

チラシをガサガサとしまいながら、まだ対策案を語る香。

「美樹さんからも、かすみちゃんが動けないときは、助けてねって言われてるし。

今度、ビラ配りする時のチラシも増刷しなきゃね。」

かすみの名前が唐突に出て来て、わずかに肩がぴくりと動くが、

家計のことで、頭の中は各種計算中の香はそれに気付かず。



「いざとなったらねぇ…。」



正面に向き直り、小さくつぶやく撩。

右腕を窓枠にひっかけて、片手でハンドルを持つお決まりの姿勢で、

アクセルを踏む。

表情筋は、好きにすれば?という凪の穏やかな容相ではあるも、

胸中、実際にそーゆー話しになったら、

ものによっては全力で阻止せねばと、荒波を水面下で抑えながら、

固く誓う撩であった。



********************************
(9)へつづく。




平成生まれの方に「現像」って通じるのか
ちょっと心配。
中学生ではダメだった…。

香ちゃんのアルバイトシリーズだけでも、
多くのお作が発信されているので、
まとめて読みあさりたい気分です。
(ヤキモキする撩がたまらなく楽しい)

原作中では、XYZを書き残したのは、
殆ど全部が日本語圏の文字と人物だったような。
撩レベルであるならば、
どの国のどの人種からも依頼が入ってもおかしくないと
思いますが、そーゆーのって、
カオリンにナイショの裏シゴト?
こっそりチェックして、消しちゃってるとか。
こーゆーのコネタする時間が欲しい…。


ーーーー2014年01月06日の時事的あとがきーーーーー

って添え書きしておかないと、
タイムラグのある方に、不親切なあとがきもどきなもんで…。

本年最初の本編更新記事にお越し頂きありがとうございます。
西暦の数字も変わってしまい、午年となりました。
拙い未熟なサイトでございますが、
本年もよろしくお願い申し上げます。

今のうちに謝罪という感じですが、
年末から実生活の方が、思った以上に慌ただしくなり、
ここにロクイン出来る時間が、かなり細まってきそうな感じです。
年度内には、色々とケリをつけたいところですが、
頂いた各種メッセージへの反応がさらに遅くなるかもしれません(泣っ)。
カオリンのような人に、家事その他を手伝って欲しいと
本気で思う今日この頃ですが、
色々ともたつくかもしれませんということを
予告&先にお詫びをお伝え致します。

2014年も、CH好きなネットワークが、
さらに楽しく輪を広げていければと思います。
この1年も、
素敵な作品との出会いや
ファンの繋がりが積み重なって行きますように!

【追記】
開夢(はるむ)さんのお部屋新作更新!

プロフィール

Author:きまりも
since 2012.03.31.

中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。

ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



アンソロ完成!お疲れさまでした!

やっとまともに表示できたっ!2013.12.15

かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: