01-08 Miki

第1部 After the Okutama Lake Side


(8)Miki  ***********************************************************************2970文字くらい




扉を開けると、簡易ベッドに横になる美樹がいた。

失血のためか、少しだけ顔色が悪く見える。



「美樹。」

「…ファルコン…。」

美樹がそっとファルコンの腕に手を伸ばした。

手術のためにドレスを脱がされ、

薄手の掛け布団からは、両肩が露(あらわ)になっている。

「大丈夫よ。何も心配いらないわ。」

その様子を撩と香は、無言で見つめていた。



「ふふ…、しばらくは教授のところで休養ね。」

「ああ、ゆっくり休むんだ。」

「あら、あなたもね。」



笑顔を見せる美樹に、少し安心したものの、

やはり香は謝らずにはいられなかった。

目に映る、負傷した花嫁に、

汚れ傷んだタキシードを着る花婿。

「美樹さん、海坊主さん、ごめんなさいっ!

……私たちのせいで、

……結婚式に、……大事な式の日に、こんなことにっ…。」



「ストップ!」

美樹は、左手を挙げて香の謝罪を止めた。

彼女は、意識が戻った時ミックや冴子から、

自分が狙撃された理由や、香が攫われたこと、

撩とファルコンが救出に向かったことを

ざっと聞いていたのだ。



「謝っちゃダメ。」

「え?」

「ねぇ…、香さん、

これ、もし立ち場が逆だったら、香さん、私になんて言う?」

「え?」

「香さんがベッド、私がそこに立ってるの。」

「あ…。」

香は、美樹の言わんとすることがぼんやりと分かり、

胸の前で両手をきゅっと包み込んだ。

「そ、そうね…、きっと、あたしも…『謝らないで』って言っちゃうかも…。」

「でしょ?」

美樹はふっと笑った。

「香さん、私たちは何があっても大丈夫。

むしろ、このことをずっと気にして、

香さんたちを許せないって、私が考えているなんてことを、

あなたたちに思われてたら、それこそ悲しいわぁ。」



香は、美樹の心使いが痛い程伝わってきたが、

それでもやはり、結婚式という女性にとって特別な日に、

自分たちが原因で、銃で撃たれ、

手作りのウェディングドレスを血で染めさせたのだ。

沸き上がってくる申し訳なさで

ポーチにぐっと力をこめた。



「香さん、わたし、元傭兵よ。こんな傷、いくつもつくっているの。

撃たれたのも初めてじゃないわ。」

「でも……。」

「はい、もう謝るのはおしまい!!」

気丈に振る舞う美樹に、

撩もチクッとくるものがあった。



「……分かったわ…。美樹さん。ゆっくり休んで

早く怪我を治してお店に戻ってきて…。」

「もちろんよ…。」

微笑んで美樹は答えた。

「何よりも、あなたたち3人が無事に戻ってこれて、

本当によかったわ…。」

「美樹さん…。」



そこにかずえが入ってきた。

「香さん、ちょっと診察しましょう。」

「?」

かずえは、香の手首の擦り傷を指差して、

「奴らに捕まった時に、縛られたんでしょ?

連れ出されるときも鳩尾(みぞおち)に……。」



香は、窓ガラスが割れてクロイツの部下が入ってきた時のことを思い出した。

(そうだった。お腹を殴られて、気を失ったんだった。)

「教授に見てもらって。香さん。」

美樹が退出を促した。



ついて行こうかと撩が迷っていたところに、美樹が声をかけた。

「あ、冴羽さん、ちょっと待ってくれる?」

本音は、さっきの会話で初めて知った

香が鳩尾を殴られたという事実に、気が気でなかったが、

ここは自分も美樹とちゃんと話をしなければと、向き直った。



傍のイスを引き寄せて腰を下ろしながら、口角をあげる。

「やっぱ、謝らせてくんねぇーの?」

ダメモトで言ってみる。

「そう、だめ。謝っちゃ。」

美樹は悪戯っぽく笑った。

が、少し話し過ぎたのか、一息深呼吸した。



「美樹、無理はするな。こんなもっこり男、相手にしなくてもいい。」

「何だと!タコ坊主!」

「さ、え、ば、さん。私、聞きたいことがあるんだけどぉ。」

意味深な口調で美樹は続ける。



「あなた、香さんを救出してから、何にもなかったの?」

「は?」



いきなり現場を知っているような見透かされた一言に、

撩はにわかに動揺した。

その気配を感じたファルコンは、意地悪っぽくにやりと微笑んだ。

「この状況での救出劇でしょ?

なぁんにも無いはずは無いと踏んでいるんだけどぉ?」

この一言で、

ポーカーフェイスが得意なはずの撩の額には、

汗がうっすら滲んできた。



彼女は、海原の船で自分たちがガラス越しのキスをしたことを、

ナマで目撃している唯一の女性。

ファルコンは目が見えないので、

現場の雰囲気だけは知っている。

後に美樹からその状況を聞いて、

ガラス越しにお互いの手の平を合せている風景も

イメージ済みだろう。

そして美樹が香を妹のように大事に思っていることも、

撩もファルコンも重々承知済み。



クロイツから香を救出した時、

途中までは、ファルコンが現場にいた。

しぶとく反撃しようと銃を構えたクロイツを、

香に気づかれないように潰してくれたのもファルコンだ。



(きっと、あいつのことだ。

香の気配の違いも気付いているだろうし、待たされた時間を逆算して、

何があったかは、だいたい察しがついているだろう。

それが美樹ちゃんに伝わるのも時間の問題か…。)



しばらく何も言えないままでいる撩に、

美樹はゆっくりと続けた。

「……私には、聞く権利があると思うんだけど…。どう?冴羽さん?」

(まいった…。)

ソニアが来た時にも同じセリフを言われたことがある。

撩は、眉をハの字にして頭をがしがし掻いてみた。

「『け・じ・め』はつけられた?」

(まったく、美樹ちゃんの先読みした推察力はかなわないな…。)

もう、どうあがいても誤摩化すことは出来そうにない。

ふっ、と軽く呼気を出し、顔の緊張を解く。



「………あぁ。」



撩は、観念して、

肯定の言葉を短く口に出した。



撩の返事と穏やかな表情を確認した美樹は、

心から安心したように、微笑みを浮かべた。



「そう、…よかった。本当に…。

……私たちの結婚式が、きっとあなたたちにも、

…いいきっかけになる、そう思っていたわ。」



ふぅ、と一呼吸置いて、美樹は続けた。

「あなたたちは、本当にじれったいんだから…。いくらなんでも時間かけすぎよね。」

嬉しそうにクスッと笑う。

「香さんを泣かせるようなことがあったら、私とファルコンが容赦しないからね…。」



撩自身、一度「けじめ」を本気で覚悟したことがある。

海原の船から戻ってきた後だ。

あの時、一時的な香の記憶喪失に

つけこんでごまかし甘えるようなことをしなければ、

たぶん、もっと早く変化があっただろうし、

冷静になる時間をなどと言い訳しながら、

調子に乗って元の生活に戻して、

香に悲しい思いも苦しい思いも

させずにすんでいただろう。

(それもこれも、俺の決断力が足りなかったせいなんだがな…。)



『愛する者を守り抜く。愛する者のために生き延びる。』



香の前で素直に己の口から出た言葉はまぎれもなく本心。

これを強く決心するのに、

確かにファルコンと美樹の式は、

撩にとって大きな後押しとなった。



(俺たちのことまで考えての結婚式となんとなく感じてはいたが、

……感謝してるよ。海坊主、美樹ちゃん。)

「……わかってるよ。」

美樹の問いに、やや間を置いてそう答えた撩は、

ゆっくり立ち上がると、

振り向き様に軽くウインクをしてそっと部屋を出た。



撩の表情と口調で、

心底安堵した美樹は視線をゆっくりとファルコンに送った。

「……ファルコン…。あなたも、無事でよかった。」

「……美樹…。」

「これからも色々ありそうだけど、末永くよろしくね…、あなた…。」

「……ああ。」

ファルコンは、

美樹の手にそっと自分の大きな手を重ねた。


****************************
(9)につづく。





ファルコンと美樹がパートナーを組み結婚に至ったのも、
撩と香の大きな協力があったという背景を考えると、
撩と香が人生の節目を得るのは、
やはりファルコンと美樹の結婚式と同じ日であって欲しいと、
勝手に思い描いています。
連載の設定上とホトトギスの花期を考えると
時期は11月上旬かなぁ?と。
ホトトギスきりぎり咲いているっていう感じですが。
ここは北条先生の日付明記が欲しかったぁ〜。
そしたら同じ日に結婚しようという
ファンもいたかもしれないのにぃ。
(撃たれちゃかなわんですが)
連載時の時間軸や服装を見返すと、
撩がファルコンの頭に「Happy New Year」と落書きしたコマは、
あまり適切ではなかったかもと思います。
「Happy Wedding」や「Congratulations!」のほうがひっかかりがなくて
よかったかも?
美樹の態度やセリフは、
木ノ下林檎さんの「Sweet Factory」で紹介されている
「Daily new beginnig」と偶然雰囲気が重なりました。
これも一つの共通設定かもしれませんね。



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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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