SS-02 Dentist (2)

Dentist


(2)*******************************************************************************2593文字くらい



翌朝、撩のベッドから先にそっと抜け出して、

(もちろん撩はしっかり分かっていてワザト逃がしてやっている)

自分の朝食は先にすませ、相方の分を整え終わると、

洗濯やら掃除やらに勤しんでいる香。



「うぅ、寝不足だわ……。」

香は下腹部をさすりながら、無意識にぼやいた。

「おしりが筋肉痛って感じ…。」



そこへ、珍しく起こしに行く前に降りて来た撩。

「えっ?どうしたの?今日なんかあるっけ?」

洗濯物のカゴを持って必要以上に驚く香に、涼しい顔で答える。

「おまぁ、“おはよう”もなしかよ。」

「だって…。」

と疑問たっぷりの香。

「俺、メシ食ったらちょっと出かけるわ。おまぁ歯医者は明日?」

「へ?あ、うん。今日は雑用がたまっているから、

明日の午前中にでも行くつもりだけど。」

「ふーん。」

と聞いときながらも興味無なさげな返事をしてしまう。

「あー、腹減った!」

と、頭をがしがし掻きながらキッチンへ向かった。

「なんなの、一体?」

どこか違和感を覚えた香だったが、

手に持っていた洗濯カゴのことはっと思い出し、

「あ!早く干さなきゃ!」と

家事モードに入った。




。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


昼前、撩がアパートへ戻って来る。

「かおりー、めしー!」

玄関から、ドタバタと音がする。

「あーら、ナンパは失敗?」

伝言板チェックが終わり、先に帰宅した香は、

撩がいつ帰るか分からず、昼の仕度で困っていたのだ。

ちょっと嫌味を込めて言ってみる。



「ボクちゃん、今日はナンパじゃないのっ!」

ちょっとグレる真似をする撩。

ナンパじゃないのは事実。

「ちょうど今から作るところなの。何が食べたい?」

そう言いながら、香はエプロンを着けて冷蔵庫を開けて食材を確認する。

「カオリンが食べ」

全部言い終わらないうちに、ミニハンマーが側頭部に命中した。

「ぐへっ!」



「…特にご要望はないみたいね!」

と、香はさらりと言いながら、

キッチンの床に転がる撩をきれいに無視して、

高菜チャーハンを作ることにした。

(朝の残りご飯もいっぱいあるし、美味しい高菜漬けも美樹さんからもらったし。)

メニューのイメージを描きながら、卵をたっぷり用意して割り始めた。



そんな、香の後ろ姿を、のそりと白木の長椅子に座り直し、新聞越しに眺める撩。

いつも、自分のために食事を用意してくれる人間がそばにいる、

それ自体、撩が槇村や香に会うまでは考えられなかったことだ。



(あー、俺こんなベタな幸せに浸ってていいのかよー。)



香は、そんな撩の視線に全く気づかず、

ネギを刻み、溶き卵を温めた残りごはんに大量にかけてまぶし、

同時にわかめスープ用の中華出汁と具も整える。

中華鍋が充分熱を持ったところで、

オリーブ油を入れて、白い湯気を合図に一気にご飯を流し込む。

油と食材が美味しそうな音を奏でている。

卵を纏ったご飯は、あっという間にパラパラになり、

高菜漬けとネギの投入と同時に、香ばしい香が更に追加された。

仕上げは、ちょっといいお醤油をかけまわし、

メイラード反応で、醤油の焦げる香が立ち上れば完成。



「はい、おまたせー。」

少し額に汗をかいた香の顔が、また色っぽく見え、

撩は本気でメシの前にカオリンと思ったが、

機嫌を損ねて、仲良しタイムがお預けになるもの苦渋なので、

理性に集合をかけて、食事をすることにした。



「あー、待たせられたっ。いっただっきまーす!」



本当は、そんなに待たせられたという感覚は殆どないが、

とりあえずそう言っておく。

山盛りいっぱいの高菜チャーハンとわかめスープに、フルーツはリンゴ。

(よく、素早くここまで用意できるもんだ。)

言葉とは裏腹な思いが沸くのはいつものこと。

あっという間に、撩の皿は空になった。



「ごっそさん!」

「あんた、ちゃんと噛んでんの??」

相変わらず滅多に『美味しい』と言わない相棒。

関係が深くなっても殆ど変わらないやりとりだ。

ただ、いつも残さず平らげてくれることが、

とりあえずは不安解消にややプラス。

(たまには、具体的に感想を聞きたいけどね。)

そんなことを考えながら香が食べ終わると、

撩がおもむろにポケットから紙切れを出した。



「香、これ薮さんお勧めの歯医者だと。」

「え?」

食器をシンクに運んで席に戻った香は、

突然、薮さんの名が出たので、疑問符が頭の上で複数同時発生した。

薮は、新宿の情報屋としてトップクラスの信頼と実績を持つ老舗だ。

「は?なんで薮さんが?」

「たまたま、薮さんと会ってな、薮さんも歯医者に行きたがっててな…。」

撩は、さりげなく『たまたま』を強調する。

「新宿界隈で、いい歯医者知ってるっていうから聞いといた。」



白いメモ紙を開くと

『加茂歯科医院 03-1919-◎△◎△  新宿◎丁目32-98』

「か、かもしか医院?ぶぷっ!」

香は、院名を読むと突然吹き出した。



「な、なんだよ。おまぁ、その歯医者知ってんのか?」

「ククク、ち、ちがうの!初めて聞くけど、名前が面白くて…。ぷぷぷっ。」

メモを持った指が震えている。

俺は何が何だか分からないままだ。

「名前?何がだよ?」

「だって、加茂歯科でしょ?これ、漢字じゃなかったら、

動物のカモシカを思い出しちゃうんだもの。」

香の口から、意外な単語が出てきた。

「カモシカだって?」

「撩も知っているでしょ。動物のカモシカ。

私本物見たことないから、

シカとカモシカの区別できないかもしれないけど。」



俺は、頭の情報引き出しから野生動物に関するデータを引っ張り出してみる。

(カモシカ、日本にいる野生動物、山間地、山岳地帯が生息地。

確か、特別天然記念物だ。

シカという名でありながら、実際はウシの仲間だっけか。)

「このまま、カモシカ医院って聞くと、

絵本とかで出てくる動物の格好をしたお医者さんが出てきそうで、

思わず笑っちゃった〜。」



香はまだクスクス笑っている。

歯医者の名前だけで、ここまで反応するとは、

だから、香といると展開が読めなくて面白い。

「ほんと、ナイスな名前だわ。

で、薮さんお墨付きのいい歯医者さんってことね。」

やっと本題に戻ってきた。

「間違いはないと思うぜ…。」

そこに行くことを前向きに考えている様子の香に、

バレないようほっと安堵する。



「じゃあ、明日行ってくるわ。撩ありがとう。」

香は、メモを持って自室に向かいカバンの中にしまった。

(予約の電話は、食器洗いが終わった後かけようかしら。)

と、明日のスケジュールを脳内で整理しながら再びキッチンに戻った。

すでに、撩の姿はなかったが、出かける予告はなかったので、

リビングか自分の部屋に行ったのだろうと、

特に気にせずキッチンの片付けに入った。



****************************************
(3)につづく。





加茂歯科医院、実在します。
以前「ズームイン」かなにかで紹介されていて、
看板のエンブレムもカモシカでした〜。
ワタクシ的に大ヒットのネーミングに印象的でした〜。
でも、お話しとは全く無関係で〜す。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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