SS-02 Dentist (4)

Dentist


(4)**************************************************************************** 3705文字くらい



香は、食器を片付け終わった後、

加茂歯科に予約の電話をし、

午前中掃除ができなかったところに掃除機をかけていた。



(撩は、たぶん地下かね。)



アパートを出る時の外出は、何かしら出かけるぞ宣言がある。

それがないまま玄関の靴がないというのは、たぶんまだアパートのどこかにいて、

消去法で地下であろうと現在地を絞った香。

射撃中だったら、声をかけにくいので、

探しに行かず、出かけることにする。



『買い物に行ってきます。発信機つけてます。』



香は、ガラステーブルにメモを残して、

ポーチを手に取ると玄関を出た。







今日は、特売日。

ついつい水分含量の多いものを沢山買い込んでしまった。

買い物袋4つ。うち2つはマイバッグ。

最近、マイバッグ持参でポイントを出すお店が僅かずつ増えてきたので、

香も持ち歩きがほぼ習慣になりつつある。

安く美味しく沢山撩に食べてもらうための、ささやかな努力。



車で行くには近過ぎて、軽装の歩きでちょうど良い距離のスーパー。

しかし、重装備での道のりは、少々辛い。

アパートまであと数百メートルというところで、

ミックと会った。



「Hi!カオリ!今日もいい笑顔だね!」

さらっと、女性を褒める言葉が出てくるのはお国柄というだけじゃなさそうだ。

「あら、ミック。仕事終わったの?」

「今日は、原稿が早く片付いたんだ。荷物持ってあげるよ!カオリ。」

と、さらりと荷物を全部自分の手に持ち替えたミック。

白い手袋につい目がいってしまう。

が、その素早さに驚くも、レディーファーストが当たり前の生き方故、

なんとかミックの行動にも慣れて来た。



「でも悪いわ、ミック。すぐそこまでだから大丈夫よ。」

荷物を返してもらおうと、買い物袋に手をのばすが、叶わず。

「これ、水物(みずもの)多いじゃないか。ショーユ、ミソ、ミリン、ギュウニュウ、フルーツ。」

(あ、たしかに…。)

「バカリョウは、車も出してくれないのかい?」

と言いながら、ミックは前方の風景の中から殺気を感じた。

撩は、アパートのベランダから自分たちが2人で歩いていることを見ているはず。



(まったく、妬きもち焼くくらいなら、

もっと気軽に香に手を差し伸べてやればいいだろうに。)



思考が撩のヘタレ行動に向いていたら、

香が返事をした。

「ううん、撩はきっと別のことで忙しいと思うから、

あたしは自分で出来ることは自分でしているだけよ。」



以前だったら、

「ほんっと、アイツったら」とリョウを否定する俺に同調していたのだが、

最近は、無意識にリョウを立てる言動が多い。



「何に忙しいのかな?今日だって、

もっこり歯医者を探して、情報屋を訪ねて回ってたって話しだぜ。」

ミックがキャッツで聞いた噂話を口に出してしまった。



「は?もっこり歯医者?」

香は、すぐに渡されたメモのことを思い出す。

「え?ミック、聞き回ってたってホント?」

「あぁ、キャッツで、ミキちゃんやカスミちゃんが、話してたよ。

あいつ虫歯でも出来たのかい?」



香は、撩から聞いた薮さんの話を思い返していたが、

聞き回っていたというのは、撩の話と合致しない。



「ううん、違うの。歯医者に行くのはあたし。」

「え?カオリが?」

「ええ、奥歯に小さな黒い点があるから早めに治療しようかと思って。」



ミックは、この香の話と撩のウワサの接点を探し始めた。

もうアパートの前まで来た。6階のベランダには撩の影。

香は気づいていない。



「ミック、もう大丈夫よ。本当にありがとう。」

荷物を受け取ろうとする香を制して、

「No、玄関先まで運ぶよ。」と

さらにミックは前進する。

きっと断っても強引に実行しそうな感じだったので、

香はあきらめて、アパートの扉の鍵を開けた。



ミックの昔の虫歯の話しなどを聞きながら、

一緒に階段を登って行く2人。

ミックには殺気がどんどん強くなっていくのが分かる。

そして、ふと、思い当たった。



「カオリ、明日なんて歯医者に行くの?」

「加茂歯科医院よ。」

「そっかっ!なるほどっ!謎が解けた!すっきりしたよ!」

もうすぐ目的地だ。

「え?それどういうこと?」

「はい到着。カオリ、そこは安心して治療を受けられるよ。僕もお勧めだ。」



ミックは、玄関のドア越しにビシビシと刺さってくる強い殺気に、

早く撤退しなければと焦っていた。

本当はカオリに別れ際、ご褒美代わりのライトキスでも

頬にしたかったのを諦めて、階段を下りて行く。



「じゃあ、帰るよ。カオリ、またね。」

「ミック、ありがとう。」

ミックは、横顔だけ見せて、片手を上げながら

「No proburem!」と母国語で答えた。

(調子に乗ってライトキスなんかしたら、

それこそドア越しにパイソン撃ち込まれるぜ。)

背中にまだ感じる撩のオーラに苦笑しながら、

ミックは隣のビルへ帰って行った。



香は、ミックのお墨付きももらった加茂歯科医院が

一体どんなところなのか、気になり始めた。

(まさか、ヘンなところじゃないでしょうね?)



香は、玄関の鍵を開けて買い物袋を中に入れた。

「ただいまー。」

撩は、素早くリビングに戻っていたが、

荷物を持つのを手伝って欲しいと香が呼んでくれることを、

ソファーに寝転んで待っていたのだ。

しかし、「ただいまー」の後は、なにもアクションがなく、

よいしょ、と小さな声を漏らしながら、

4つの買い物袋を重そうに運んでいる気配が廊下から伝わって来た。



「ったく、ちったぁ甘えろよー。」

と撩はソファーから立ち上がった。



以前なら、「ちょっとは手伝え!」と怒鳴られていたパターンである。

今回は、ミックにその役割を取られ、

さらに、自分に助けを求めてこない香に、

もやもやした苛立ちが沸いて出て来た。



廊下に出ると、もう香はキッチンの入り口に到着していた。

「おいおい、何だよその大量の買い物は!」

追いついて、後ろから声をかけてみる。

「ふー、重かった。今日は特売日だったの。

普段あまり買えない、いいお味噌とかもあるから、

美味しい味噌汁作ったげる。」

撩が、買い物に付き合わなかったことや、

玄関に迎えに出なかったことに対して何の文句も言わず、

撩のためにと明るく言い切る香に、撩はどこかちくちくしてきた。



「あのね、途中でミックに会ってね、

そこまで荷物運んでもらったの。」

撩は、香がミックと出会ったことをちゃんと報告してくれたので、

内心ほっとした。

ベランダから見ていたことを、香はたぶん知らないはずだが、

ミックのことを、そのままスルーされていたら、

不快な隠し事としてしか受け止めきれなかっただろう。



「ほぅ、あの出しゃばりが。」

何も知らなかったように言ってみる。



「でね、ミックもね、加茂歯科医院のこと知ってたの。

僕もお勧めの歯医者だよ、って。」

と言いながら、香が撩のほうを振り返る。

「え?」

視線の先の撩は見事に白目になっていた。

しかも膝間づいている。

どうしたらここまで眼球がひっくり返るのかしらと、

香も驚きを隠せない。



「ちょ、ちょっと撩、どうしちゃったの?」

駆け寄って脱力した撩の肩に手をかけてがくがく揺すってみる。

トリップ中でまだ戻ってこない。



撩は、今日の動きがどうやら筒抜けであったことを

香のその一言から悟ってしまった。

男の歯医者に診せたくないがために情報集めに奔走したということが、

ミックにまでバレている。

(だぁー、一体誰だよっ!口の軽いヤツはっっっ!)



撩は、開き直って、香に確認することにした。

「あ、戻ってきた。大丈夫?もしかして貧血とか?」

眼球の位置が正常にもどった撩を見て、香はほっとした。

と思いきや、いきなりのハグ。



「ええっ?ちょ、ちょっと、りょ、撩?どうしたの?気分悪いの?」

ひたすら自分のことを心配する愛しい女に、撩は着火寸前。

「……ミックは、何て言ってた?……」

「は?だから、僕もお勧めの歯医者だよって。」

「…他には?…」

「他に?…えーとミックの子どもの頃の虫歯の話しで大変な目にあったとか、

キャッツで撩のうわさを聞いたとか…。」

(キャッツで、か…。)

後半のセンテンスを聞いて、撩は完全に諦めた。

なんだか、イタズラが見つかってバツの悪い子どものような心境だ。

もやもや、イライラの感情が行き場を求めて心の中をざわざわしている。



(……きめた。)

「よし!撩ちゃんが、

診察の前にカオリンの虫歯をチェックしてさしあげましょう!」

「きゃっ!」

いきなりガバ!と立ち上がると同時に、

香を肩に担いでダッシュで自室に向かった。

「ちょ、ちょ、ちょ…、り、りょう!買った物、冷蔵庫に入れなきゃ!」

「んなもん後からでいいだろ。」

「どうしたのよーっ!突然っ!」

香はこれからの展開が見えて来て、体温が上がる。

こうなったら、もう逃げられない。



「俺はいつも突然だっておまぁ言ってなかったけ?」

「…っ、確かに言ったけどー!」

「ささ、食事前の運動をしましょう〜。」

いつのまにか撩のベッドの上、

座ったまま、口を塞がれ、そのままシャツもブラも素早く取られていく。

「んんんんっ!」

あまりにもあざやかな手さばき。

ころんと横にされたと思いきや、

あっという間に2人ともすっぽんぽん。

香は、朦朧としながら、

(ああ、今日の夕食何時に作り始められるの…)

と、我が愛しのパートナーの急襲に、身を任せるしかないのであった。



***********************************************
(5)につづく。





勝手にやってくれ…。
つーても、こーゆー2人も好きでのう♡

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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