SS-02 Dentist (5)

Dentist


(5)****************************************************************************** 3603文字くらい



「予約時間は9時だったわよね。」

香は、寝不足がちな目をこすりながら、

朝食の準備と、掃除、洗濯を進める。


昨晩、遅い夕食を食べ、遅い入浴と思っていたら、

お風呂でも仲良しタイムになり、

またそのまま撩の部屋へ拉致された。


幸せな時間には、間違いないが、翌日に予定を控えている身としては、

多少の選択権が欲しいところ。

しかし、本当に疲労困憊している時やケガ、病気、生理中の時なんかは、

ちゃんと弁(わきま)えてもらっている。

(こうして、動けるということは、

あいつも私の余力を計算した上でことに及んでいるのかしら…。)



「はぁ、眠い。」

まだ部屋から出てこない相方。

香は、撩の朝食にラップをかけて、置き手紙を残して、家を出た。

(昼前には戻ってこれるわね。)



駅に寄り、伝言板を見た後、

昨日もらったメモの歯医者まで、徒歩で行くことにする。

駅の反対側、比較的近い場所だ。



「ここか。」



シンプルな作りのビルの3階に加茂歯科医院はあった。

予約時間の10分前に受付窓口に到着。

多くもなく、少なくもなく患者が待合室で各々順番を待っている。



「薮さんとミックのお勧めって他と何が違うんだろう?」

確かに、花や観葉植物、上品な絵画が飾られ、

流れている音楽も、θ波(しーたは)が脳から出そうな心地良いゆらぎの曲。

椅子や壁紙も、まるで歯科医院とは思えない、女性好みのお洒落系ばかり。

(こういうところが違うのかな?)



問診票を書き初診の手続きを済ませ、呼ばれるまで待つことに。

と、香はふと気づいた。

(女性の患者さんが多いわね。)

違う。多いというのは間違いだ。正確には女性しかいない。

(へぇー、こんなこともあるんだ。)



特に気にせずに、近くにあった雑誌を手に取り、順番を待つことにする。

そんなに長く待たされることなく、

「槇村香さん、2番へお入り下さい。」

と促される。

最初に、初診ということでレントゲン室に通された。

歯を固定するために、消しゴムサイズの紙質の塊を噛み、撮影してもらうこと数枚。



「では、3番の前でお待ち下さい。」

案内された場所は、久しぶりに見る治療台。

小学校の時の検診か何かで、行ったきりの歯医者さん。

キーンという他の患者さんが受けている治療の音に、思わず身がすくむ。

ふと、まわりを見渡すと、女性だけ。

女性だらけと言ってもいい。

治療している医師も歯科衛生士もみな美人だ。

(あれ、男の歯医者さんはいないの?)



ちょっと気になり始めたところに、声がかかった。

「槇村さん、どうぞこちらへ。」

治療台に緊張しながら座る。



「初めての方ですね。私は、ここの医院長の加茂葵といいます。」

撩好みのもっこり美女に、香はつい緊張してしまった。

「よ、よろしくお願いします。」

「ここは、私たち3人姉妹で医師をしていまして、あそこで治療しているのが妹たちです。」

香は、左となりに目を向けた。

同じような診察台があと2台ある。

「へぇー、ご姉妹で同じ道で同じ職場ってステキですねー。」

素直に驚く香。

「歯医者って恐怖を感じる場所の一つなので、

みなさんに少しでもリラックスして過ごしてもらえたらと思っています。」

葵はニコっと微笑んだ。

「じゃあ、さっそく診せてもらいますね。椅子が倒れますのでご注意下さい。」

モーターの音と共に、背もたれが20度程まで傾く。

そばにいた助手らしき女性が、香の顔にそっと不織布のような生地をかぶせる。

明るさを保ったまま視界が塞がれた。



「では、お口を開けて下さい。」

香はあーんと口を大きく開いた。

「最初は、一通り全部の歯をチェックしますねー。」

「ふぁい。」

口を開けたまま返事をする香。

葵の指が、口の端にあたる。

そっとやさしく触れてるのが分かる。

あの小さな丸い鏡のついたスティックが、

自分の歯茎の側面を滑っていく。



突然それが、撩の舌の動きと重なった。

いきなり思考が撩との甘い情事に向いていく。



(や、やだっ!あ、あ、あたしったらっ!こんな時、何考えてんのっ!)

赤くなったのが、自分でも分かった。

そんなことを感じていると、ふわりと目隠しが取られた。

「はい、一度そこのコップでお口をすすいで下さい。」



突然の放熱を沈めたくて、すすぎ用の水をそのまま飲みたくなったが、

かろうじて、すすぐ目的のみに使った。

香は、大人になってから、

口のまわりを撩以外の人にこんなに触れさせるのは、

初めてのことで妙に反応している自分にかなり困惑した。

「とてもいい歯並びで、お手入れも丁寧にされていますね。

歯石もないですし、美しい口腔ですわ。」

いきなり褒め言葉が並び、また香は驚いた。



「そ、そうですか?」

特別きれいに磨こうとしていたのではなく、ごくごく普通にしていただけなのだが、

歯の専門医にそう断言され、どことなく照れくさかった。

(そっか、私は並びいいんだ。あまり気にしたことなかったわ。)

「問診でありました、上の奥歯の黒い点ですが…。」

(そう、それをとってもらいにきたのよ!)

香は、本来の目的を思い出した。



「よく見つけられましたね。

本当に小さくて、肉眼でぎりぎり見えるかどうかのサイズです。」

(え?だって、うがいするとき、上向いたら見えたんだけど。)

「この大きさなら、ほんの少しだけ削って、

再石灰化を促す薬剤と歯磨き粉で対処できます。」

「そうなんですか?」

葵は、再び不織布をそっと香の顔に被せた。

「では、さっそく処置をしますね。そのまま口を開けていて下さい。」



香は、言われるがままに開口する。

唇に葵の指がつっと触れる。

頬の内側に、長い指が入っているのが分かる。

大口を開けて、目隠しをされ、されるがままの香は、

口の中で、器具や医師の指が動いていることに、違う刺激を感じ、

だんだん恥ずかしくなってきた。



(はぁ、撩の舌がほっぺの内側に入っている時に、感覚が似ている…。)

また下唇を葵の指がつと触れた。

どきっとする香。

改めて医師が女性で良かったと、この医院を紹介してくれた薮さんに感謝した。

これが、男の医師だったら、きっと色んな意味で耐えきれなかったかもしれない。



(撩以外の男の人の指が自分の口に入ったり、

唇と指が触れるなんて想像もしたくないわ。)



そんなことを考えているうちに、

香は無性に、撩とキスをしたい甘い衝動にかられていた。

(な、な、なんで、こんなこと考えちゃうの?)



虫歯を削るための道具が、患部に当てられ、

キーンと高い音を出して、歯と接する。

香は、思わず目をきゅっとつむたが、

「はい、これで虫歯は削り取れましたから。」

とあっという間の葵の処置に、また驚かされた。

「あとは、再石灰化の為の薬剤を塗りますので、もう少しそのままでお願いしますね。」



先が鍵になっているスティックが歯に当たるのが分かる。

丁寧な動きであることが、シロウトながら伝わってくる。

その時も、葵医師の柔らかな細い指が、口の周辺や頬に触れ、

香はまた脳がトリップしそうになった。



「はい、終わりました。お疲れ様でした。」

治療台が自動で起き上がり、香の上半身が床と垂直になる。

「また、お口をすすいでくださいね。」

「あ、はい。」

ライトを動かしながら葵は優しい表情で語りかけた。 

「また様子を見たいので、次回の予約を受付で確認して下さい。

1週間後くらいでいいですか?」

葵の笑顔にどきっとしながら、香は答えた。

「は、はい。お世話になりました!」

前掛けをはずされ、看護士に促されて、待合室へ移動した。



「ふぅー。」

香は、どきどきしながら、そっと自分の唇を指で撫でた。

(撩に触れて欲しい…。)

と、思ったとたんにボッと顔が赤くなった。

(ほ、ほ、ほんとうに、さ、さっきから何を考えとんのじゃあ〜)



「槇村さん。」

「ぁ、は、はいっ。」

受付から呼ばれ、ちょっとドキッとする。

あまり待たされずに、支払いと予約の手続きをする。

再石灰化を促す歯磨き粉が処方され、説明を聞いた。

おつりを受け取る時、香は受付の美女に尋ねた。



「ここは、女性に人気なんですね。患者さん、みなさん女の方で驚きました。」

受付嬢は、クスっと笑って答えた。

「あら、入り口の看板ご覧になりませんでした?」

「え?」

「この加茂歯科医院は、女性専用の歯医者なんです。」

「ええ?女性専用?」

「はい、男性の歯医者さんが苦手な女性のために、

職員も全員女性で、患者さんも女性のみ受け付けております。」

「へぇー。」



「理由は様々ですが、

男性に治療されることに抵抗をお持ちの女性の方が結構いらっしゃるので、

院長がかねてから、

女性が安心して心地良く治療を受けてもらえるように、

思案して始めた取り組みですなんです。

全国でも珍しいみたいですね。」



香は、今日何度驚かされただろうかと、初めて知った事実に、

なるほどと痛く感激した。

最初に女性が多いなぁ、と思ったのは気のせいではなかったのだ。

薮さんやミックが勧めた理由と、この受付嬢の話しが合致した。

そして、同時に撩の気持ちが胸に流れ込んで来た。

香は、うれしくて、受付嬢もはっとするような笑みで、答えた。

「本当に有り難いわ。来週もよろしくお願いしますね。」

と、幸せな気分で加茂歯科医院を後にした。



(早く撩に会って、

頬でも髪でも唇でもどこでもいいから、

撩に感謝のキスをしたい。)

そんな気持ちで一杯だった。

香は、頬を染めたまま小走りに近い歩みでアパートへと急いだ。



************************************************
(6)につづく。






歯科医 加茂葵(カモアオイ)の名前は、
ウマノスズクサ科のフタバアオイの別名からもらいました〜。
ずばり種名が苗字や名前に当てられているのに勝手にときめくワタクシ、
オリキャラもそれで統一したいと密かに目論んでおりますが、
そうそう出演はないかも〜。
しかし、加茂で始まる他の植物は
カモガヤとか、
カモジグサとか
カモノハシとか(動物だけではなく植物にもこの名があるのだ!)、
どうひねっても人の名前にならんもんばっかで、
結局、葵ちゃんつけちゃいました。
ちなみに、みんなに嫌われている?プリンセス優希の
及川姓も「オイカワ」って魚がいるので、
名前だけは好きなのよ。

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: