10-06 A Shopping Bag

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(5)A Shopping Bag  **********************************************************3051文字くらい



二人で歩いて新宿駅東口に向かう。

あれから車での移動が多かったので、

この街を並んで歩くのは、

奥多摩から戻って初めてかもしれない。



見慣れた風景、聞き慣れた雑踏。

まわりはいつもと変わらないのに、

変わってしまった自分たちの関係が、

いやに対比して、

二人そろって周囲からの視覚聴覚情報に妙に敏感になる。



(もう、知る所には知れ渡ってるかもしれんな…。)



遠くから感じる情報屋の視線に、

撩は彼らなりの配慮を感じた。



「家で、ゆっくりしててもよかったのに…。」

隣で歩く香が正面を向いたまま目だけ撩のほうに視線を送る。

「んー?ボクちゃん、ついでにもっこりちゃん探してんのぉ。」

とぼけたふりの口調に表情。



香は、なんだか久しぶりに聞いたセリフに、

今までだったら、このぉーとか言いながら、

ハンマーを投げていたところなのだが、

ふっと表情が緩む自分に驚いた。



しかし、撩はもっと驚いた。

(おいおい、香ちゃーん、ここはハンマーだろ?なーんで笑ってんのぉ?)

ハンマーを受ける体勢を準備していた撩は拍子抜けしてしまった。

頬をポリポリかいて、

頭にクエスチョンマークを浮かべたまま、

ひとまず駅構内に一緒に入って行く。




「……今日も、なし、ね。」

「だな。」

伝言板の隅から隅まで確認したが、依頼はなし。

半分安心、半分残念。

(まぁ、今のタイミングでの依頼はないほうが助かるけどね。)

教授のところへ通っている間は、そっちに集中したいので、

とりあえずほっとする。



「あたし、これから買い物するけど、撩どうする?」

「あー?明日も買い出しあるんだろ?」

教授の所に行く前の買い物で自分たち用の食料も一緒に購入するのは、

これまでの流れから読める。

「うん、今日は夜の分だけ。」

「んー、まぁ、ついてくよ。」

「いいよ、別に。荷物少ないし。」

「だから、好きにさせてもらうっつーとるだろうが。ほれ、いくぞ!」

結局、いつも買い出しに行くお店に2人で向かった。



(うーん、やっぱり普段は、

ここで、『ボクちゃんナンパに行ってきまーす♪』じゃないの?

ほら、かわいい子、さっきから何人もすれ違っているのに、

見向きもしないなんて、撩のキャラじゃないわ…。)

先に歩き始める相方の背中を追いかけながら、

香は眉を浅くハの字にした。





店内に入り主菜を選べる場所に向かう。

結構賑わっている。

「何が食べたい?」

精肉コーナーのあたりを歩きながら、香が聞いてくる。

(お前の作るもんは何でも旨いって、

……言えねぇよなぁ。

そんなん口に出せる柄じゃねぇし。)

「食えりゃいい。」

つい、いつものセリフが出る。

「そーよーねー、あんたって、具体的に何が食べたいって、

今まで言った試しがないもんねー。」

食べ残したことがほぼゼロであることも思い出し、

先日の教授や美樹の会話が脳裏をよぎる。



「まぁいいわ、えーと今日の特売品は…と。」

香は、食材捜索モードに切り替えた。

ひき肉に、大根、豆腐などをカゴに入れて行き、

必要最低限を買い込みレジに並ぶ。



(お、今日はハンバーグかぁ?)

撩はカゴの中の面子を見つつ、

周囲に注意を払い、異変がないか、

はたまた会いたくない知り合いはいないか、

ざっとサーチする。



(いま、あの界隈の連中に話しかけられるのは、

色んな意味でヒジョーにマズイ気がすっから、

できるだけ避けとかねーとな。)



「撩、行こ。」

サッカー台で、買い物袋1つ分に食材を詰めた終わった香が呼び掛ける。

「貸せよ。」

手を差し伸べる撩。

「いいよ。なんかねぇー、

そーゆーところが撩らしくなくって、混乱するのよ。」

「ああ?」

撩は、ぽかんと口をあける。

香は、撩のいる反対側に買い物袋を持ち直し、

歩みを進めながら思う所を言ってみた。



「だってさ…、これまでは、

あたしが買い物付き合ってって言っても、すごーく嫌がってたし。」

店外へ出て、人ごみの中を歩きながら、これまでを回想する。

「買い物帰りに、あんたとばったり会って、荷物ぐらい持てって言っても、

ナンパで忙しいって、いなくなっちゃうし。」



あいてる手で髪をかきあげる香。

「いっつもそれが当たり前だったからさ…、

やっぱりこの状況って、なんか撩らしくないのよねぇ〜。」

「……ふ〜ん。」

撩は、手首を後ろ頭に組んで、上向き加減ではぁと溜め息を履く。



あれから、まだ5日。

変化に慣れていないのは分かる。

まだ混乱から抜けきれず、逆に甘えてこない香に

撩は少々カマをかけて、

香の潜在意識を引き出してみることにした。



「……じゃあ、さ、おまぁ、

俺がこのままナンパに行っちまってもいいの?」

「え?」

香は、驚いて撩のほうを見た。

この流れで出てくる撩のセリフに心構えが出来ていなかった。

「ぁ…ぅ。」

思わず立ち止まりそうになったが、

目をそらし、ペースを変えず前進する。

少し悩んで、香は口を開いた。



「……あ、あたしには、…依頼人以外で、

…その、ちょっかいを出している撩に、口を出す権利は…。」

「はぁああ?!ちょ、ちょっと待ったっ!」



撩は後ろ手に組んでいた手がほどけてしまい、

思わず足を止めた。

「お前、何言ってるか分かってんのか?」

撩の意外な反応に香も目を見開く。



「……だって、あんたが言ってたんじゃない…。

自由恋愛に、…口出すなって…。」

香は、ソニアが来た時に撩に屋上で言われたセリフを

小声で繰り返した。

「あ…。」

撩も思い出す。

「か、香、それはだな…。」

歩みを止めないまま、

香は、撩が説明しようとするよりも先にゆっくり語り出す。



「……撩は、もう百戦錬磨でさ、

たぶん、何百人単位で付き合ってきた人がいる訳でしょ…。

……あたしなんか、…そのうちの1人で、

仕事のパートナーだから、たまたまそばに居て、

一緒に暮らしてても、

……撩が、…そ、その、…あ、あたしだけで、…満足できる、訳ないから、

……あんたが、他のヒトのところに行くのを、

引き止められる訳、…ない、じゃない。」

後半は涙声。



(このばかっ、何思い違いしてんだよっ!)



撩はまさかの発言に、ずきりとくる。

(まずは、ソニアの時から説明せんといかんな…。)



香は、足早に抜け道の公園の敷地内に入ろうとしたが、

エントランスで撩に肩を掴まれた。

「香、ちょっと待てよっ!」

(あー、泣かせちまったか…。)



香は顔を伏せそらして、撩と目が合わないようにした。

零れそうな涙を見られたくない。

自分が思わず口走った行(くだり)を酷く後悔した。

(しまったな…、

あ、あたし、なんでこんなこと口にしちゃったんだろ…。

こんなこと撩に言わなくてもいいことなのに…。)



「あー、見ないから、少し落ち着け。」



香が何を考えて、今まで抱かれていたのか、

共に専属であり続けると思い込んでいたのは、

自分だけだったのかと、

胸にツキリと痛みが走る。



香にそんなことを言わしめてしまったのは、

結局全て己の過去の言動。

どう方向修正すべきか、撩は言葉を選び始めた。



公園の入り口、人通りの多い公衆面前。

ここで、抱き込みラブシーンを周囲に見せる訳にはいかない。



「ま、とりあえず帰ろうや。」



撩は、近場の死角になっているベンチにでも座って、

落ち着いて話しをするべきか迷ったが、

ここは、情報屋のテリトリー。

ぐずっている香と公園で長時間いると、

後で何を言われるか分かったもんじゃないと思い、

そのまま公園を一緒に突っ切ることにした。



香の肩を左手でそっと抱く。

鼻をぐすっとすする香は、まだ顔を見せようとしない。



「………香。

そのままちゃんと聞いてくれ。

……先に、ソニアが来たときのことを、説明しておく。」



昼下がりの公園を歩きながら、

撩は、ゆっくり話し始めた。


****************************************
(7)へつづく。






そうなんです。
香ちゃん「撩があたしだけで満足する訳ないじゃない」的思考が、
深いところまで巣食っています。
これもぜーぶん撩のせい。
ちなみに、スーパーマーケットは、
原作の北尾刑事のところに出て来た「スーパーいなりや」を
イメージしていますが、
お店の雰囲気は、
当方が世田谷でよく利用していた「ピーコック」を重ねています。
一応、新宿区には高田馬場店があるけど、冴羽アパートから遠いな…。
今後、何度か登場予定です〜。
サミットも考えたけど、やっぱり生き物系のネーミングが好きでからに。
(ピーコックはクジャクのことだけんっ)
今のプライベートでは、
イオンと生協と地元の直売所が殆どなんですけどね〜。

【いつの間にかサイトオープン7ヶ月目〜】
やっとこちらをいじれる時間ができました〜。
バタバタしていたら、31日。
明日から、もう11月じゃないですか…。
まだ、ホトトギス咲いています。
日々、皆様に訪問して頂いているからこそ
持続エネルギーが充電されている気分です。
本当にありがとうございます。

【コメント&メッセージ等非設定について】
先日、メールが繋がっている方から、
裏も表もどうしてコメント出来ない設定にしているのですかという
ご質問を受けました。
実は、我が家は、ある事情で
日常的に不特定多数の方から
自宅訪問や固定電話、携帯電話(仕事上表ブログで公開しちゃってるし)、
メール等での問い合わせがかなり多く、
ネット上の対応まで手が回らないと判断し、
裏も表も今のような形をとらせて頂いております。
本来なら自然科学系の公共施設が担う役割を
個人のウチがなぜか受けている状態故、
プライベートにも無視できない影響が出ているところなので、
現在この状況をなんとかするために、
役場の関係機関と相談中です。
いい流れができましたら、
今後こちらに訪ねて下さる皆様と
交流がしやすくなるなるよう形を変えて行ければと思います。
こんな自己満足サイトですが、
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げま〜す。
(現在、完全シャットアウトではなく、
一部の記事にコメント欄を開けておりますので、
通報、ご指摘等ございましたらご利用頂ければと思います。)

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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とりあえず作ってみた
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