10-08 Afternoon Of Ryo & Kaori

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(8)Afternoon Of Ryo & Kaori ****************************************************2784文字くらい



帰宅した二人。

撩は玄関から続く階段を昇りながら、

指にひっかけてる買い物袋をくっと上げた。

「こいつは、キッチンでいいな。」

「あ、うん。」



撩は、さっさか歩くと、ダイニングテーブルに荷物を置き、

キッチンを出ようとした。

まだ納得のいかない顔をしている香とすれ違い様に、

撩は香の頭部にぽんと手を置き、くすりと笑う。

「俺、ミニの中の荷物を武器庫に戻してくっから、

おまぁは、あんまり動き回るなよ。」

「うごっ、…って、そんなわけにはいかないでしょっ。」

抗議する香をよそに、撩はフロアを降りて行った。



(わかんない…。

撩は、自分が自由であることを好む男のはずだわ。

なのに、あたしと同じって…、

自由にしろと言われることは嬉しくないって、

やっぱり矛盾してるじゃない。)

香はこめかみを押さえる。



(撩を、自分に縛り付けるのはできない、そう思っているのに……。)



心の深いところで無意識に押さえつけている醜い独占欲が

今にも暴れ出しそうなイメージに覆われそうになる。

香は、顔を伏せ自分の体をきゅっと抱きしめた。

嫉妬心や占有欲を出したくない。



(こんなの、撩を困らせるだけだわ…。)



持て余す自分の心理状態に、

暫し、そのまま動けないでいた香。

しかし、買い物袋を見て、ハッと思い出し、

これからの動きを大急ぎで計算し始めた。



「そ、そうよ!片付けることがいっぱいあるのよ!」



午前中できなかった洗濯の続き。掃除、ゴミの分別。

布団取り込みに、領収書の整理、

そして夕食作りに、明日の準備。

指折り家事の項目を数えて、まずは、米研ぎから開始した。



「急がなくっちゃ、あっという間に夕方になっちゃうわ。」



炊飯器をセットすると、夕食の下ごしらえを終えてから、

リビングに向かう。

すでに夕方4時前、

ベランダで伸ばしている薄手の掛布団をさらっと撫でてみる。

「大丈夫みたいね。」

数時間しか干せなかったが、一応乾いている。

2つ折りにしてかかえ、7階へと運んだ。



撩の部屋を開けると、窓は閉まっているのに、

空気の入れ替えがすんだあとのような湿度の低さ。

(開けていた時間があったのかしら?)

香は、撩が起床前に香の髪の毛を窓から飛ばしたことや、

出かける前の衣類チェンジの時に

すばやく窓も閉めたことも知る由もなく、

疑問に思いながらも、ベッドメイクをしていく。



(今夜も、ここで一緒に寝ることになるのかしら…。)



まだ、気分転換ができない香は、

今日の夜を撩とどうやって過ごしたらいいのか、

すでに自分の中でぎこちなさを抱えていた。

ベッドの左サイドにすっと手の平を滑らせる。



「りょ…。」



まだ、やっと5日。

気持ちが追いつかない。

こういう時の自分の気持ちをどう扱いかったらいいのか、

全く分からない。



(うーん、悩んでても仕方ないかっ。)

「さてと、次は洗濯機を回して、掃除機ね。」

よっと、立ち上がると、香は静かに撩の部屋を出て行った。



撩は、1階駐車場に降りると、

クーパーの後部座席とトランクに積んでいた銃火器を運ぶ。

がちゃがちゃと音を立てながら、地下射撃場の戸を開けた。

慣れ親しんだ硝煙の匂い。

武器庫の電気を付ける。

きちんと整理された重火器類。



銀狐の一件以来、香に管理の一部を任せている。

教授の家から、勝手に武器を持ち出したことをきつく叱り、

冴羽商事管轄の道具を把握させるべく、

流れとして立ち居入り禁止ゾーンの境界を取り去った。

もう、あの時から手放せないと、

心のどこかで思っていたかもしれない。



毎日忙しい中で、ここもちゃんと掃除が行き届き、

銃も一丁一丁、丁寧に拭かれている。

本当は、人を傷付ける道具を触らせたくはない、

と思う気持ちもまだ残っているが、

自分たちの生きる道にあって然るべきものとして、

避けられない事案でもある。

撩は、各種武器を指定席に戻しながら、

今後の動きを色々と考え巡らせていた。



6階に戻ると、香が廊下に掃除機をかけていた。

「あんまり、働くなよぉ。今日は休日のつもりだったのによぉ。」

午前中の遅れを取り戻そうと、大急ぎでノズルを隅々に這わせる香。

「え?何か言ったぁ?」

吸引するモーターの音で、撩の言うことがよく聞き取れない。

「何でもねぇーよ!」

撩も大きめの声で返事をして、リビングに引っ込んだ。

どさっと、長辺側のソファーへ腰を下ろす。



「はぁ〜。」

(俺の2発のせいで、今日も疲れているだろうに、

香は自分からは、決して疲労感や弱音を吐かない。

初心者なのに、必死になって俺を受け入れ、相当キツいだろうに、

自分のことより、他を優先するのは、もう変えられないサガだろうし…。)



撩はのっそりと立ち上がりベランダに出て、柵に寄り掛かり、タバコを取り出した。

久しぶりに火をつける。

一服吸って気分を落ち着かせる。

(あれからタバコ減ったなぁ。)

香とケジメをつけてからの目に見える変化に、ふっと笑う。



隣の墮天使の気配はない。

取材か、教授宅でかずえと過ごしているか。




「どっから始めっかな…。」



おふざけではない、真剣な訓練。

教官としての立ち場で香に接するのは初めてとなる。

そもそも、

これまでに特定の誰かを長期間教育しようと思ったことはない。

自分を中心的に指導してきた海原やマリーの父親を思い出す。



己を死なせないために、

まったくの手加減なしでの訓練と実践の日々。

これからのトレーニングで香に苦痛を味合せるつもりはなくても、

結果的にそうなるかもしれない。

自分がそれに耐えきれるか、

なんとも軟弱な思考に苦笑する。



気配を消し、同時に気配を読む訓練、護身術、射撃、

トラップ、各種武器の分解組立、

基礎体力の向上に、外科的知識の確認。

メニューは浮かべど、どう進めて行くか、妙案が浮かばない。



「らしくねぇな…。香相手だと、余計なことを考えちまう。」



ふーっと紫煙を細く吐く。



「まぁ、なるようになるさっ。」



撩は、室内に戻るとテーブルの上の灰皿に、

きゅっとタバコを押し付け、

ソファーの短辺にコーナー側へ頭を向け、

ごろりと仰向けになった。

後ろ頭に手を組み、目を閉じて耳をすます。



まだ、リビングの向こうで、

あっちに行ったり、こっちに行ったりして、

せわしなく動き回っている香の気配を感じる。

下手に手伝おうと、手を出そうとすれば、

これが自分の仕事だからと、拒むに決まっている。

ここは、大人しく引っ込んでおいた方がいいだろう。



香の気配が心地いい。

そばに、香の気配があることが、

すっと心を穏やかにしてくれる。

ふと、さっきの買い物帰りのやりとりを思い返す。



(……香、

俺には、もうお前しか目に入らないことを、

お前しかいないことを、

どうやったら伝えられるんだ?)



根底にある撩自身が育ててしまった低い自己評価。

ちゃんと言わない己も悪いが、

人生最大の決断をした。



(こんないい加減な男が、

お前とその思いを共有したいと思うことは、

とんだワガママかもしれないが、

お前と共に生きるために、その努力はさせてもらうからな…。)



そんなことを考えながら、

撩はまどろみに身を任せた。


**************************
(9)へつづく。





カオリン、撩に自分だけ見て欲しいという想いを、
まだ解放できず、
見てもらえる訳ないじゃない、
と、かなりネガティブにとらえてしまっております。
撩は撩で、カオリン中毒が更に悪化。
それに全く気付かない超鈍感娘の香ちゃん、
ここまでくると撩ちん、ちょっと気の毒かも〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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