10-09 A Hamburg Steak

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(9)A Hamburg Steak **********************************************************3594文字くらい



時刻はあっと言う間に夕方。

晩秋の日の入りは早く、

5時台だというのにもう辺りは暗くなり始めている。



香は、一通り他の家事を済ませてから、

夕食の準備に取りかかる。



買ってきたミンチと玉ねぎのみじん切り、

黒こしょう、きざみパセリにパン粉と、

かさ上げのために豆腐も加えて、

具材を混ぜてこね上げ、撩のための巨大ハンバーグを整形する。

付け合わせの

ニンジンのグラッセ、茹でブロッコリ、フライドポテトも

すでに完成。

ごはん、味噌汁、サラダとフルーツを用意し、

主菜をオリーブオイルで焼き上げ、大根おろしとポン酢をかければ、

ちょっとした和風ハンバーグ定食の出来上がり。



「よし、これでいっか。撩を呼んでこなきゃ。」

時間は7時を跨いでいる。



香はキッチンを出ると、一つ思い出したことがあり、

客間へ入り、昼前に脱衣所で見つけた

ペンライトのような単眼鏡のようなものを持って出てきた。



かちゃりと、リビングの戸を開ける。

「撩、寝てるの?」

「んあ?」

結構しっかり休息をとってしまったようだ。

リビングに入ってこようとする香にギリギリまで気付かなかった。



(ボクちゃん、どこまで安心しきってんだか……。)



遠距離からの殺気でも反応できる能力がありながら、

香の気配に身をまかせている己に思わず笑いが出そうになる。

髪をぽりぽり掻きながら、のそりと上半身を起す。



「夕食出来たよ。ね、これなあに?脱衣所に置いてあったんだけど。」

「ああ、忘れてた。海坊主からのプレゼントだ。受け取っとけ。」

(香にした悪戯の代償にしてはお安いもんだろ。)

「え?いいの?でも何これ?」

「ナイトスコープの小型タイプ。

そのサイズなら持ち歩きにも便利だろ。

あー、腹減った。」

撩はうーんと伸びをして立ち上がった。



まだ、単眼ノクトビジョンをいじりながら

訝しがっている香を見てふっと笑う。

そのスキだらけの姿に、意思と無関係につい手が伸びた。

「ひゃあ!」

ガラステーブルの端に驚いた香の足が当たり、

ずっと音を立てて少し位置がずれる。

すっぽり腕の中に収まる香。

この身長差が絶妙にいい。

くせっ毛に鼻先を埋める。



赤く硬くなる香は、水蒸気爆発寸前。

「な、な、なっ…!」

(すっげー可愛いんだけど、いつになったら、この強張りがとれんのかねぇ。)

「あー、ダメだ。…これじゃ、先におまぁを食っちまいそうだ。

メシにしようぜっ。」

「…あ、ぅ。」



突然の抱擁が解けた香は、

単眼鏡を握りしめたまま、赤色化石になっている。

まともな言葉が出ない。

撩は先にリビングを出ようとするが、ちらっと振り返り、一言。



「冷めちまうぞ。」



はっと我に返る香は、単眼鏡を後ろポケットに差し込みながら、

あわてて撩の後について行った。

(も、もう、心停止するじゃないっ。

やっぱり、こーゆーのとーぶん慣れないわよっ。)

火照りながらぎくしゃくして、キッチンに入って行く。



すでに配膳済み。

茶碗に山盛り一杯の白米を盛り付け撩に手渡す。

「はい。」

「さんきゅ。んじゃ、食うか。いっただっきまーす。」

大人数人前の料理を、がつがつとあっという間に減らしていく撩。

美味しそうに食べているので、香はひとまず安心した。



「明日は、何時に家を出るんだ?」

もぐもぐしながら撩は香に尋ねる。

「あ、えっと、

お昼ごはん食べたらすぐのほうがいいな。買い物あるし。」

「りょーかい。」

「かずえさんも、実験のほうがもうちょっとで区切りがつくんだって。」

香も箸を進めながら返答する。



「そっか…。

かずえちゃんも、忙しいのに、あんなじぃーさんの世話もして大変だな。」

「何言ってるの。撩とミックの命の恩人でしょ。」

「ふんっ、長過ぎる付き合いだと、だんだん妖怪に見えてくんの。」

「撩にとって、おじいちゃんくらいになるのかしら?

ねぇ、教授って何才なの?」

「しーらねっ。」

「もう!」

「ごっそさん!」

「は、早っ。もっとよく噛まないと胃悪くしちゃうわよ。」



そういいながらも香は、立ち上がって、食器をさげ、

あらかじめセットしていたコーヒーを注ぐ。

「はい。」

「お、手際がいいな。さんきゅ。」

カップを受け渡す時に、

つとお互いの指先が触れた。

かぁっとなって思わず手を引っ込める香。



撩はカップを持ったまま、またくすくすと笑う。

「香ちゃんって、んと、ウブねぇ〜。」

ちょっとむっときた香は、どもりながらも言い返す。

「あ、あんた、ま、またからかって、面白がっているでしょっ。」

赤い顔のまま、ご飯茶碗を持ちもくもく食べる香。

「んー、だって面白いんだもーん。」

コーヒーをすすりながらにやりとしてみる。



「し、しかたないじゃないっ。」

もぐもぐ。

「あ、あんたも、わ、わ、分かってると、お、思うけど、

あ、あ、あたしはっ、

何から何まで、っ全部あんたが初めてなんだからっ!」

もぐもぐ。

「慣れないのはしょうがないでしょっ!」

食べながら、つい本音が零れる。



頬杖をついて、カップに指を添えたまま、その様子を眺める撩。

目を細めて、ふっと鼻から短い息を吐く。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ、そんなの気にしない、気にしなーい。」

くっとコーヒーを飲みがら、軽い口調での返答。



(これも、コンプレックスの原因なんだろうなぁ。

だーから、俺を満足させらんないとか、

束縛できないとか、言うんだろうなぁ〜。

このウブで慣れない恥じらい100%の香もたまらなくいいのに、

いま、その赤らめてる顔もツボだって分かってねぇーだろうし。)



「ごちそうさま…。」

香は、食べ終わりかちゃりと食器を重ねると、

溜め息をつきながら、シンクに運んだ。

エプロンを着け直し、俯き加減でコックを開く。

(ちょっとくらい、何かしらの経験があれば、

心構えや、マナーや、空気の読み方が分かるかもしれないけど、

全くゼロ…。

色んな意味で心のゆとりがない…。

撩は余裕綽々なのに…。)



「な、なんかね、撩に申し訳なくて、さ。」

「はぁ?」

手の平に預けていた顔が浮いた。

「なーにがだよ?」

洗い物を片付けながら、背を向けたままでぽつりと話す。

「分かんないけど、色々…。」

色々項目があり過ぎて、自分の不甲斐なさに、情けなくもなる。



「おまぁ、心配し過ぎ。」

突然、直近で聞こえた声に驚いて隣を見る。

撩は、何食わぬ顔して、香の洗い終わった食器を持って、

ちゃっちゃか布巾で拭いている。

「うぁ!あ、あ、あんた、な、何、音もなく瞬間移動してんのよっ。」

危うく食器を落としそうになった。

撩は手を休めずに、そのまま続ける。

「いいじゃん、慣れたところから、慣れていけば。」



かちゃっと食器がカゴの中で重なる音がする。

それに、はっとして、水道を出しっぱなしだった香は、

落としそうになった最後の皿を慌てて洗い、洗剤を流した。

きゅっと、栓を止める。

「………。」

香は、まだどう答えていいかわからない。

「ほれ、よこしな。」

水滴がしたたる食器を撩は受け取り、きゅっきゅっと水分を拭き取る。

「だから、そーゆーことが慣れないのよ…。」



撩が食事まわりの手伝いを自分からするなんて、

以前は殆どあり得なかった。

「あー、たまーにしか、しねぇーから。」

かちゃりと、食器を重ねながら、

視線だけ香に動かして、にんまりとした。



「さ、コーヒー煎れてやる。俺もも一杯欲しいし、おまぁ、座ってろ。」

布巾をぱんとはたいて、食器カゴの端にかけ、

香の両肩を後ろから押して、ストンと椅子に座らせると、

撩は、用意されていたコーヒーセットをいじり出した。

ミルを引きながら、撩は思い出したかのように口調を変えて言った。



「そうそう、おまぁが昨日渡してくれた007の小道具。役に立ったぜ。」

「え?あの教授のおもちゃ?」

「一人、やっかいなのが混じっててな、

そいつの気をそらすのに、使わせてもらって大成功。」

お湯を注ぐ撩。

コーヒーの持つ独特の芳香がキッチンに漂う。

「…よかった。」

「ほれ。」

いつものカップを差し出される香。



「あ、ありがと…。」

「今日はさぁ、休息日って予定にしていたのによぉー、

結局おまぁ、いつも通りちょこまか動いて、

全然休めてないだろーが。」

「っんな、な、なに、い、言ってんのっ。昼近くまで寝ていたのにっ、

ややや、休めてないわけ、ないじゃないっ。

生活リズムが狂う方が疲れるわっ。

撩こそ心配しすぎよっ!」

「ふーん、じゃあ、撩ちゃん、どんだけ頑張ったら、

かおりんが一日動けなくなるか試してみよっかなぁー。」

「へ?」



自分のカップを持って、隣に座ってきた撩は、

スケベオヤジモードの弛み顔になっている。

反射でハンマーが出現。

ドン!と地響きがアパートに響く。

キッチンの床と恥じらいハンマーの間に挟まっている撩。

カップだけはこぼさずに死守していた。



「ま、まったく、あんたって何考えてんのよっ!」

真っ赤な顔してしゅーしゅー湯気を出しているのは、

怒りのためではない。

撩もそれは承知の上。



「…し、しどい、香ちゃん…。」



香は、くっとコーヒーを飲んで、シンクでカップを軽く洗い、

エプロンをテーブルに置いた。

「あ、あたし、あ、あ、明日の準備、し、してくるからっ!」

どもりながら、そう言い残して足早にキッチンを出て行った。


************************
(10)へつづく。





「はぢめて」が、ぜぇ〜んぶ新宿の種馬とは、
カオリン、頑張ってくれ…、としか言い様がないっすね〜。
このサイトの本編は、基本3週間の間の出来事としての設定ですが、
1ヶ月後、半年後、1年後、2年後と
慣れるに従って、撩ちんも変態プレイ解放というイメージです。
よって、まだまだカオリンに嫌われないよう、嫌がられないよう、
少しずつ慣れさせるべく、
色々セーブして紳士を演じている種馬であった…。

ここでちょいと教授と海原の年齢考察をば。
幼い撩を拾った海原は、20代から30代手前?、
父親的年齢差として妥当なところは、こんな感じ?
撩と対決した時は、50代くらいかなぁ?
教授、海原よりさらに20歳くらい上かも?
原作末期、撩31、海原50代、教授70代、
これなら、教授にとって孫同然なのもちょっと納得。
教授なら100歳オーバーでの昇天期待できそう〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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