10-10 Before Retiring

第10部 A Holiday

奥多摩湖畔から5日目


(10)Before Retiring ***********************************************************2143文字くらい



むくりと起き上がる撩。

ハンマーをころんと転がす。



「まぁーたく…、コーヒー煎れてやったのに、これかよ…。」



憎まれ口を叩きつつも、口は笑っている。

確かに、ちょっと香にとってはヒワイな発言だったかと、

コンペイトウ覚悟でおちゃらけてみたら、

見事に特大恥じらいハンマーを食らってしまった。



本心は、いつか、

自分もくたくたになるまで愛し合ってみたいという願望もあるが、

まだ早い。

とにかく順序立てて、

香に嫌悪感を抱かせないようにするのが最優先。

あれから5日しか経っていない。



「まぁ、のーんびり行こうや。」



撩は立ったまま、コーヒーを飲み終えると、

キッチンの電気を消して、リビングに戻った。



香は、客間兼自室で教授宅へ行くための準備を始める。

「ままま、まったくっ、撩ったらっ!」

顔を染めながら、手を動かす。

あんなことを突然言われて、

上手に言い返せるスキルは全くない。

反面、撩が満足するまで付き合いたいという思いも、

少なからずはあるが、

この慣れていない状況では、到底無理だ。



「はぁ。」



溜め息を一つ吐き、すべきことに集中した。

持って行くものは、そう多くないが、

カバンの中のハンカチやティッシュを新しいのに替え、

手帳とかずえからもらった指示書を照らし合わせながら、

買い物メモを作る。

自宅用と教授宅用で使った領収書の整理に、

カード決済の明細も合せて一つの封筒にまとめる。

明日着る服も一応整えておき、

とりあえず一区切りしたら、

次は脱衣所で乾燥機の中身を確認しに行った。



「もう、今日はお風呂省略でいいわよね。

昼前にシャワー浴びたし。」



そう言いながら、香は乾燥機から衣類を取り出し、洗濯カゴの中に移す。

「あー、もう寝れる準備までしておいたほうがいいかな。」

トイレに寄って、洗面所で歯磨きをすると、

ポケットに入れていた錠剤をぽんと口にいれた。

もはや、今となってはかかせない。



「もう、隠す必要はないんだけどね…。」



それでも、こっそり飲みたくなるのは、数年来の習慣のせい。

これまでは、外出先でのお店や公共のトイレなどで、

服用することが殆どだったから、アパートの中だと余計に、

ばれないかと、かつてのドキドキ感が蘇る。

ましてや、撩の留守の時しか飲んでいなかったから、

相方の気配がある中では、やはり抵抗がある。



「よいしょ。」

香は、カゴを持って客間に移動し、

ベッドの上で洗濯物をたたみ始めた。

撩のTシャツやトランクスが、

大きいのになんだか可愛らしく感じる。



女として愛してもらえるはずはない、

望みを完全に捨てながらも、

初恋の人と一緒に暮らせて、身の回りの世話までさせてもらえることの

有り難さと幸運を、洗濯物を畳みながら、思いふけっていたこと、数知れず。

しかし、それは所詮綺麗ごと。

夫でもない、恋人でもない、本当の家族でもない

男の下着を何の疑問も感じずに洗い続けていた訳ではない。

精神的に弱っている時に限って、

畳み終わるころには、涙が滲んでいた。



それが今は、あの時とはまた違った心境で、

布地に触れる自分に気付く。

撩が纏っていた物でさえもとても愛おしい。

ベッドに座ったまま、畳んだ撩の服を抱えて、

そっと抱きしめてみる。

いっそ自分が、このシャツになりたいとも思ってしまい、

一人で顔を赤くする。



「や、や、やだっ!何考えてんのかしらっ!あたしったらっ!」



わたわたしながら、香は寝間着に着替えて、

畳み終わった自分の衣類をしまい、客間を出る。

脱衣所にタオルを補充し、片手に撩の衣類を持って、

7階にゆっくりあがった。




「あり?」

撩は、香の気配を感じて、

7階に向かっているのを察知した。

「なんだよ、こっちにこないのかよ。まさか、もう寝るんじゃないだろうな?

良い子のおこちゃまでも、まだ早い時間だぜ。」



ぶつぶつ言っていたら、すぐに戻って来る気配もキャッチ。

(なんだ、洗濯物かなにかを持って行ったのか。)

次こそは、リビングに来るかと思いきや、

香のスリッパの音は、

玄関や、吹き抜けのホール、そして、各種窓などに立ち寄り、

何かをチェックしている様子がドアの向こうから伝わってくる。

(あーん、戸締まりと防犯チェックか。)



撩にとって、いつものこの時間は、

夜の新宿に遊びに行くか、というスタイルであるが、

今は、香とのんびりまったりしたい気分で、

早く捕まえたいのだが、

まだせわしなく動いている相棒は、

そんな撩の気分なんぞ知ったことではない。



撩は、見ているテレビを消して、

リビングの扉から顔だけ出して廊下の様子をうかがった。

吹き抜けのフロアに続くドアを開けて戻ってきた香は、

すでにパジャマ姿。



「おま、何やってんの。」

「な、何って、明日の準備と、洗濯物と、戸締まり。今からお米研ぐから。」

当たり前のようにそう言うと、

また、パタパタとキッチンに消えて行った。



「んと、起きてから、ずっと動きっぱなしだよなぁ〜。」

香から発せられたミントの残り香りが鼻腔に届き、

歯磨きがもう済んでいることが分かった。

「ボクちゃも、もう寝るだけにしておこっかなー。」

香が朝食用の米を研いでいる間、

撩も、トイレに行き洗面所で顔を洗い、歯を磨いた。



明日の朝食の準備が終わった香は、

自室で、化粧水と乳液を施し、

槇村の写真をちらりと見る。



「アニキ、…見守っててね。」



香は微笑みを残し、すっと立ち上がると、

リビングに向かった。


*******************************************
(11)につづく。





そうなのよ!
カオリンはすること一杯あるんだからぁ〜。
このアパートの生活空間が維持管理されていることに
撩ちん、もっと感謝してるぞ的言動をしてくれてもいいんでないかい?
え?そんなガラじゃねぇって?

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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