01-11 Break Up

第1部 After the Okutama Lake Side


(11)Break Up  *****************************************************************2111文字くらい



「あ、冴羽さん。香さんはこの先の右の部屋よ。もう教授も出たと思うわ。」

廊下で会ったかずえが香の現在地を教えてくれた。

「あぁ、サンキュ。」

「何の心配はないわ。少し手首に擦れた痕があるけど…。

香さん、本当に無事でよかったわ…。あなたもね。」

「あんなじゃじゃ馬、連れ去った方の身が危険だぜ。」

「何言ってるの。早く行ってあげて。」

かずえは、全てを承知しているかのような微笑みで撩を促し、その場を離れた。




「香?開けるぞ。」

香は、呼ばれた声ではっと我にかえった。

チャッと扉が開くと、撩が逆光で入り口に立ち、表情が見えにくい。

「どうした?」

香は、椅子に座ったまま放心していたので、

どれくらい時間が過ぎたか全く分からなかった。

が、とにかく撩を心配させないようにと気分を切り替えた。

「あ、あ、あのね、教授にも、かずえさんにも問題なしってお墨付きもらえたわ。」

立ち上がりながら明るく答える香に、撩は演技が少し混じっていることを感じた。



(かずえちゃんが先に診察を終えたってことは、

教授と香が2人でいた時間があったってことだよなぁ。

もしかしたら、教授が香に余計なお節介事でもしたのかもしれないな。)

香のやや不自然な言動から、勘の良い撩はそこまで先読みする。

(まぁ、いっか。)



「もう、みんな帰る準備をしている。俺らもそろそろ動くか。」

「うん。」

撩は、香に手を差し出して、自然とエスコートする。

かぁっと照れを隠せない香。

気絶させられるほどの、衝撃を鳩尾に受けた体で、

拘束されて、銃口を向けられて、

どうして、そんなに気丈に振る舞えるのか。

普通の人間だったら、疲労と恐怖の余韻で口もきけないだろう。

そんなことを考えながら、撩は、香の華奢な肩を支え、

一緒に教会の外へ歩いて行った。



すでに、教会前の広場では、片付け終わった面々が撩たちを待っていた。

「じゃあ、俺たちは教授の家に向かうから。また連絡するよ!」

ミック、かずえ、教授、美樹、ファルコンは目的地を同じにし、

2台の車は出発した。



かすみは、ファルコンと店の打合せをして、見送り、

麗香もかずえや教授のサポートが終え、あとは冴子の手伝いが残るのみに。



「冴羽さん、香さん、私たちも出るわ。」

麗香が言う。

「今日みたいな結婚式なんて、そうそう体験できないわね。」

かすみも続けた。



「心配かけたな。」

祝い事に招待されて、事件に巻き込まれた形になった2人に、

撩も香も、やはり申し訳なく思っていた。

「いーえ、美樹さんも、香さんも、

きっと大丈夫って、最初から思ってましたから!」

かすみが陽気に答えた。

「麗香さん、かすみちゃん…。」



そんな自分たちと向き合っている撩と香の様子を見て、

麗香とかすみは、ふぅと小さく溜め息を重ね、

お互いの顔を見合わせ、声を揃えて言った。

「「あーあ、私たち完全に失恋だわぁ〜。」」

「え?」

「は?」



撩と香は2人の突然のアドリブに同時に驚いた。

ここでも、何も言っていないのに、

目の前の2人が、一歩進んでいることを、

当たり前のように知っているかのような反応に、

香は、さっきと同様の疑問がまた沸いてくる。



「私たちも、もっと素敵な人を見つけましょうね!」

麗香とかすみは、手をとりあって、協力体制をアピールした。

撩は、フッと薄く笑い、香は彼女たちの気持ちを察しながら、

それぞれの車に乗り込む2人を見送る。

「じゃーね!冴羽さん、香さん!お先に〜!」

寸分違わぬセリフがそれぞれの車から聞こえた。



「みんな、行っちゃった、ね…。」

「あぁ、俺らも帰るか。」

車が見えなくなったのを見計らって、

撩は、香の肩を片手で抱き直し、下から掬い上げるように、

軽く触れるだけのキスをした。

ボン!と瞬時に紅潮する香の表情に、

撩は可笑しくて、可笑しくて、

更に困らせて苛めたくなる衝動にかられてしまう。

「香君、これはまだ入門編だぜ?」

悪戯っぽくにやついた表情でそう言いながら、クーパーへと促した。

(はぁ?にゅ、入門編?)

若干パニック気味の香は、言葉を咀嚼できないでいる。



(さて、奥多摩から新宿までの2時間弱。どうやって過ごしますかね。)

引き続き、香への助力を惜しまず、

助手席のドアを開き、手を添えて座らせ、

シートベルトまでつけてやるという

今までの撩では考えられない大サービス。

まだ、香の顔は赤いままで体は化石のようにカチコチなっている。



撩は運転席に乗り込むと、香に問いかけた。

「よっかかってくぅ?手ぇつないでくぅ?」

悪ガキのような表情で返事を待つが。

「っ〜〜〜〜。」

もう、香は言葉も出ないほどにトマト顔。

撩はくすりと笑ってすっと手を出した。

「じゃあ、よっかかってな。」

「ひゃっ!」

短く驚きの声を上げる香。

撩は香の頭をくいっと左の上腕に引き寄せ、

エンジンをかけ教会を出発した。



まさに、人生の節目。

幾度か、紙のようにも薄くなっていた壁、

かと思えば鉛板のような厚さにもなったそれは、

質と強度を変動させながら、

ずっと撩と香の間に居座り続けた心の堰堤。

それが、この奥多摩でやっと崩壊した。



「あいつらに、感謝、だな…。」

撩は、ふと呟いた。

香に聞かせるつもりはなかったが、

つい口から出てしまったセンテンスに、

香も、赤い顔のまま、

「本当に…、そうだね…。」

と、小さく答えた。


***********************************
(12)につづく。





ようやく教会を出発するところまで辿り着きました。
帰路のクーパー。
多くのファンサイトでは不評の及川優希が登場した回で、
当方も第278話の車内の描写がどうしても許せなかったんですよ〜。
これを香ちゃんに置き換えたいっ!
撩の表情も穏やかバージョンにしちゃって下さい。
という訳で脳内補正よろしく〜。
これからの雰囲気は、
海原戦前夜抱き合ったの2人の距離感とイメージを復活ということで、
車内の会話が始まります。


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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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