11-05 Rice With Hashed Meat

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(5)Rice With Hashed Meat *****************************************************3045文字くらい



キッチンで、いつも通り手際良く調理をする香。

レンジで牛肉の薄切りを解凍した後、

素早く玉ねぎと炒める。

色が変わってきたら、ボールに汲んだ水をざっと注ぎ強火で煮立て、

十分加熱したところで、ハヤシライスのルーを入れて弱火にし、

マッシュルームを投入。

とろみが落ち着いたら出来上がり。

ゆでインゲンを添えた温サラダとフルーツで定食の配膳は完了。

丁度いい時間。

余裕がある時は赤ワインと手作りのドミグラスソースで煮立てるが、

今日は時間短縮が優先。



「撩はどこかしら?」



エプロンで手を拭きながら、キッチンを出る。

先に、ベッドまわりを整えておこうと7階へ向かう。



すっかり自分と撩の二人の寝室と化したこの部屋に、

足を踏み入れる度に、色々な思いが沸き上がって来る。

香は、窓を全開にし、毛布をばふっとはたいた。

布地の海に新鮮な空気を触れさせる。

枕も2つを並べ直す。

その視覚情報も照れくさく感じ、なんだか直視できない。



ベッドメイクを簡単にしたあと、部屋を見回して、

他に何かすることがないかチェックする。

「出かける前にまた閉めればいっか。」

腰に手を当て、ふっと息を吐き出し、香はリビングに降りて行った。





「撩ぉ?お昼できたよ?」



リビングの扉を開けながら、ソファーで伸びている長身の男を見つける。

顔には2つ折の新聞が被さっている。

香は迷った。

無防備に接近すると、また捕まって心臓に悪い。

決して嫌ではないのだが、慣れない心身にはまだ負担が大きい。

それをからかって楽しんでいる男の思い通りになるのも、

何だか癪(しゃく)だ。

リビングの入り口で、腕を組んでうーんと、しばし考え、

接近戦よりも遠隔戦を選ぶことにする。



「りょー、お昼ごはんできたよー。」

そのままの立ち位置で再度呼んでみる。

「ぐがぁー、ごあ…。」

いびきでの返事は100%寝たフリの証拠。

香は、1tハンマーをぽんと手の平に出して、

狙いを定めひょいっと投げた。

「よっ。」

「でっ!!…ってなー!あにすんだよっ!」

がばっと起きる撩。

新聞越しに顔面にヒットしたミニハンマーがぽろっと床に落ちる。

「あ、起きた起きた。」

胸元で自分に拍手する香。

「冷めちゃうから、早く食べちゃって!

お昼すんだら、すぐ出かけるからね。」

「う〜。」

ソファーに座って鼻を押さえている男。

自分の作戦が一応成功したので、

ご機嫌な口調でそう言い残して香はダイニングキッチンへ戻った。



炊飯器から平皿にご飯を盛り付け、

鍋の中の具をオタマでくるりと円状に流す。

湯気と香りが立ち登り、

食欲をそそる。



「おまぁ、もうちっと、ましな起し方ねぇーのかよぉ。」



顎を押さえながら、キッチンに入ってきた撩が席に着く。

「あんたが、1回で起きないからいけないんでしょ。」

ハヤシライスを撩の前にことりと置き、手を引こうとした時、

くっとその右腕を掴まれて引っ張られた。



瞬間見えた目を閉じた撩のドアップ、

感じた唇の温かい感触。

それは、コンマ数秒で離れ、撩の次の言葉がなければ

何が起こったか理解できなかった。



「俺は、こーゆー起し方のほうがいいな。」

口角をあげた撩の笑みと、がちっと目が合ったとたんに

客観的な情報がやっと脳に入ってきた。

香は、かぁああっと湯気を出し、ざざざっとシンクにまで後ずさりした。

どんと腰に流しの縁が当たる。



「…っあ、あ、あ、…んた、…な、な、にをっ…。」

「んー、こっちの希望を言っただけだけどぉ?」

あまりにも素早い早業に、

香はこれがさっきの仕返しであることに

またペースの主導権を持っていかれたと、

悔しいやら恥ずかしいやらで、耳からプスプスと蒸気が上がる。



「ほれ、すぐ出かけるんだろ。さっさと食おうぜ。いったらっきまぁーす。」

撩の声にはっと我に返り、こめかみを押さえる。

「だ、だから心臓に悪いのよ…。」

こんなことを撩が自分に言ったり、したりすることが、

まだ信じられない。



常備冷凍保存しているオニオンスープが温まり、2人分を注(つ)ぐと、

よろよろしながら、自分の分も配膳する。

「い、いただきま、す…。」

大さじのスプーンでほかほかのハヤシライスを口にぱくっと運び、

鼻でふぅと溜め息をつく。

ちらっと見た相方は、もう半分以上平らげている。



「どったの?香ちゃん。」

頬を膨らませたまま問う撩。

「う〜。」

スプーンをくわえたまま唸る香。

「これ、おかわりしてもいいかぁ?」

すでにカラになった皿を指差して強請(ねだ)る相棒。

「……明日の分までたっぷり作ってあるから、いいよ、好きなだけ食べて。」

香は棒読みで答える。

「ああ?明日も同じかよ?」

撩は立ち上がってセルフでおかわりを盛る。

「……文句ある?」

ジト目で撩を見る香。

「いえ、ごじゃいません…。」

(あちゃ、怒らしちまったかな…。いや、そーゆー空気でもないな…。)

よく見れば、香は耳が赤いまま、もくもくと食べている。

撩は右手でスプーンを持ち、左手で頬杖をついてクスリと笑った。



香がその視線に気付く。

「なによ。」

「うんにゃ、かーいーなーと思って。」

「ごほっ、ごほっ!」

飲み込んだ物の入りどころが悪かったらしい。

気管の異物は構造上右の枝分かれに入りやすいようだが、

かろうじて咳の勢いを借りて除去に成功。



「おいおい、何むせてんだよ。」

撩が立ち上がって、グラスに水を入れて差し出す。

涙目の香と視線が合い、ますます愛おしく感じる。

「こほっ。」

香は、咳き込みながら水を受け取って、荒れた食道に潤いを流し込んだ。

こくこくと、喉の上下運動がまた色っぽい。



「っだ、か、らっ、…あんたが、することなすこと!

今までと違い過ぎるからっ、心臓に悪いのっ!!」

上目遣いで目尻に涙を溜めたままで、勢い良く口から出て来た文句の言葉。

その姿も可愛らしくて、ますますイジメたくなる。



「まぁ、ゆっくり慣れればいいさ。この前もそう言ったろ?」

撩は立ったまま、香の前髪をかき分け、ちゅうと額に吸い付いた。

耳からボンッと蒸気が吹き出る。

香はそのまま、ぷしゅーとテーブルにつっぷしてしまった。

撩はくすくす笑いながら席に戻り、さっさとおかわりの分も口に運んで、

あっという間に平らげた。



「ほい、ごっそさん。おまぁも、早く食わねえと、出るのが遅くなるぞ。」

食器をかちゃかちゃとシンクに運んで、

とりあえずは先にキッチンを出ることにした。

後ろ頭に手を組んでがに股でひょこひょこ廊下を歩きながら、

撩の顔はくすくす笑いが続く。





「んと、香ちゃんは、ウブなんだから〜。」

撩は、リビングに行くと、ベランダに出て煙草をくわえた。

火はつけないまま唇で弄ぶ。

「まぁ、確かに激変だもんなぁー。」

香の反応が楽しくて可笑しくて愛おしくて、

ついついハメをはずしている自分が、なんとも子供っぽく、

過去の己とは、別個体のような今の状況に、

撩自身も慣れるのに時間がかかりそうだと、

苦笑いをしながら自己分析するのであった。



一方香は、撩の言動に振り回されたまま、

つっぷした状態で、まだ湯気が上がっている。



「あ、あたしに、あんなこと、言ったり、したりするなんて、

…りょ、撩のキャラじゃない、よ…。」



体温は上がったまま。

これから買物して教授宅に行かなければならないのに、

切り替えができない。



「…た、食べなきゃ…。」



むくりと起き上がって、溜め息をつきながら、

重たい手でカチャカチャと食事を進めた。

この1週間、よく心臓マヒで死ななかったものだと、

この状況に慣れるまで一体どれくらいかかるのか、

まだ香は頬を染めたまま、ふーと一つ息を吐き出した。


************************************
(6)につづく。






超照れ屋で、奥手でウブのカオリンですからね〜。
合体しちゃった後でも、
しばらくは可愛くドキドキしまくるでしょう。
撩もそれを分かっていて調子に乗って遊んでいます。
ホントはそんなに余裕ないくせにねぇ〜。
カオリンの後退りシーン、
しおりちゃんが目覚めた時のあのカットを応用できればと〜。

【S様ありがとうございます!】
ルー投入修正致しました〜。
2013.12.30.21:18

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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