11-06 The Scene Of Supermarket

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(6)The Scene Of A Supermarket *************************************************3440文字くらい



食器を洗って、今晩の分の米を研ぎ、アレンジ用に昨日の残りを使った、

ミニハンバーグを解凍目的で冷凍庫から冷蔵庫に移し、

卵の個数を確認する。

まだ顔が火照ったままの香は、

家を出る前にすべきことをなんとか片付け、

撩の部屋の窓も閉め、自室に戻りショルダーバッッグと上着をとり、

やっと出発できる準備が出来た。

予定より若干遅れ気味。



「撩、もう出れる?」

リビングに顔を出すと、ベランダで惚けている撩がいた。

「あ?もう準備できたのか?」

火のついていないタバコをくわえたまま振り返る。

香は、その画になる姿にドキリとする。

ノーマル、かつ素の真面目な顔は、立っているだけでも様になる。

やっと冷めた熱が、またじわじわと上がってくる。



「じゃあ、撩ちゃん、トイレ行ってくっから、先に玄関行ってろ。」



入り口で、すれ違い様に髪をくしゃりとからめられる。

思わず、へなっと座り込みそうになったが、

扉の端を掴んで立ち直った。



「忘れもんはないか?」

「だ、大丈夫。持って行くものは、そ、そんなにないから。

買い忘れだけないようにしなきゃ。」

玄関でローパンプスを履きながら、交わす会話にも、まだどきまぎする。



「行くぞ。」



促されて、我が家を出る。

階段を下りる足音が妙に耳に響く。

少し先を進む撩の広い背中を見ながら、すぅーと息を吸う香。

撩の体が纏う諸々の匂いをかすかに感じる。

普段、撩の後ろ頭を見下げることは少ない。



(どうして…、どうして……、

こんな風変わりな男を、好きになってしまったのかしら…。)



殺しが仕事のスイーパー、裏の闇の中で生きてきた男。

その腕と知識は世界一、

法の枠外がライフワークで、超もっこりドスケベ変態男。

もうこの男の傍でないと

生きて行けないとも思える存在にまでなってしまい、

終生同じ道を歩んで行くと決意までさせた唯一の男。



その男の残り香が、衷心から安心するもので、

香はまたすっと鼻でなびく空気を吸い込んだ。

さっきまで、高血圧のままだった血流が落ち着いてくる。

撩の言うとおり、ゆっくり慣れていけばいい。

ずっと傍にいると誓ったのだから。

そんなことを考えていたら、あっという間に1階駐車場に着いた。



「ほれ、乗りな。」

クーパーの助手席を開けて、香の小さな背中をそっと押す撩。

手の平の温度が温かい。

「ぁ、ぁりがと…。」

せっかく落ち着いた心拍がまた上がってきた。

血圧が上がったり下がったり、心筋がせわしない。

「じゃあ、出るぞ。」

開いたシャッターをくぐり、赤い車は勢い良く出発した。



「いつもの店でいいな。」

「う、うん。まとめて買うから、カゴ4つ分くらい必要かも。」

香は、火照りがバレないようにと、なるべく普通を装って返事をする。

手元のメモ書きに目を走らせながら、

今晩のメニューと、自宅用の買い出しに底値の情報を整理する。



「美樹ちゃんも、早く復活してもらわねぇーと、キャッツが開かねぇからな。」

「そ、そうね。あ、あたしも伝言板見た後、

キャッツに寄らないと、なんか調子狂っちゃって。」

「タコが一人で店番やっても、客が逃げちまうしな。」

「全治3週間って言ってたから、……あと2週間ね。」

「はぁーあ、つまんねぇーの。」

そんな会話のやりとりをしながら、店に到着。





「ちょっと急いで買物しなきゃ。かずえさん、待ってるわ。」

そう言って香はカートにカゴを上下と子供席に計3つ積む。

「撩は、レジが見えるとこで待ってて。」

そう言って大急ぎで店内を回り始めた。



「んと、よくちょこまかと動くもんだこと。」



エスカレーターとレジの間にあるベンチにどさっと腰を下ろし、

ポケットに手を入れる。

「っと、ここは禁煙か。」

待っている間、手持ち無沙汰代わりのタバコがだめとなると、

手も目も行き場に困る。



「はぁ。」



足を組んで、左手で頬杖ついて、周辺を見渡す。

隣のベンチにも、自分と同じくらいの男が待ちぼうけ状態。

かちっと目が合う。

お互い距離がそこそこ近かったせいか、

向こうが声かけしてきた。



「……あなたも、奥さん待ちですか?」

「あ?…あぁ、まぁそんなとこです。」

奥さんというフレーズに、どきりとする。

そこに、その男の連れ合いが戻ってきた。

「あなた、待たせてごめんなさい。」

カートには、3、4歳くらいの女の子が座っている。

「じゃあ、行こうか。お先に。」



男は撩に軽く会釈をして3人でその場を去って行った。

無意識に撩はその後ろ姿を目で追ってしまった。

普通の家庭、普通の幸せ、それを間近で見せつけられたようで、

表現しがたい何かが湧いて出て来る。



ふと視野を広げてみた。

親子連れに、女性単独、恋人か夫婦同士か、

若いペアから、老熟のカップルまで、

様々な組み合せが目に入る。

頬杖をついたまま、しばし周辺観察に意識が向く。



「ぱぱ、これ、かってほしい!」

「ママに相談してみようか。」

「あなた、今日は魚でいいかしら?」

「お前に任せるよ。」

「あら、これ安いわね。買いだわ。」

「おかしいわね、買物メモがなくなったわ。忘れてきたのかしら。」



元来、聴覚も視覚もスバ抜けている撩の耳に、

様々な会話が飛び込んで来る。

ありふれた日常の風景で交わされる人々の会話。

今、自分がその普通の日常の風景に同化していることに、

訳もなく気恥ずかしさが込み上がってみた。

己の居場所は、闇の部分でしかないというのに、

端から見れば、自分も連れ合いを待っている

旦那その1にしか見えないだろう。



また目の前を子連れの親子が通り過ぎて行った。

両手を母親と父親に繋がれた就学前の園児か。

撩は、ふっと表情が柔らかくなった。



新宿に辿り着く前、こんな場面が近かった時、

過去の血なまぐさい残像がその度に過(よ)ぎっていた。

地雷に吹き飛ばされた子供、

蜂の巣になった血まみれの親子、

切り裂かれたあどけない少女、

黒こげになった幼い兄弟と、

折々に蘇る、人肉の焼ける匂いや腐敗臭。

それがあまりにも日常過ぎて、

感覚が麻痺してくれればまだ良かった。



しかし、ミラーニューロンは正常に働こうとし、

戦地を後にしてからも、

無力な女子供の姿を見ることそのものにも抵抗感が残っていた。

小さなソニアと過ごした時も、

時折被る像に意識が持っていかれそうになった。



それでも、殺しの仕事をする自分の中の矛盾に、

何かの感情を完全に断ち切れないと、

何かが破綻するような自覚もあった。



しかし槇村と出会って、香と暮らし始めて、

ようやく穏やかに

幼き命の情景を受け入れられるようになっていた。



香と初めて体を合せた時、

本気で子供が出来てもいいと思った自分をふと振り返る。



「まぁ、そんとき考えればいっか…。」



撩は、ついつい周辺の環境に飲まれそうになって、

ぼろっとでた無意識の言葉に、はっとしながらも、

誰も聞いていないことを確認して、

うーんと、腕をW型にして伸びをした。





「撩、お待たせ!」

数万円分は入っているであろう買物袋をカートに乗せ、

香がようやく戻ってきた。

端から見たら、こいつも嫁さんか、とふと思う。

「あー、待たせられたっ!行くかっ。」

「うん、急ご!」



車までカートを押して、荷台に食材と生活雑貨を詰め込む。

「あたし、カート戻して来るから。」

がらがらがらと小さいタイヤがアスファルトの上を回る音が遠のくを耳にしながら、

撩はクーパーに乗り込んだ。

タバコに火をつける。

右肘を窓枠にひっかけ、左指でタバコを挟み、

ふーと紫煙を窓の外に流す。

「ガキが出来たらこいつも自粛か?」

「何ができたら?」

「うわっ!」



運転席を覗き込んでいる香に、素で驚かされた。

気配に気付かなかった自分にも、気配を感じさせなかった香にも

そして、ついぼろっと呟いた己の言葉にも、

冗談抜きで驚倒しそうになった。



「な、なんでもねぇよ。早く乗れ。」

車内の灰皿にタバコを押しつけ、動揺を隠蔽しようと平静を装う。

今のは聞かれちゃ、あまりよくないタイミングだったと、

香が主語を拾っていないことを密かに願った。

自分がまだ存在さえもしない子供のことを考えふけっていたことは、

まだ、香には知られたくない。



助手席が開き、香が怪訝そうに乗り込んで来る。

「撩、どうしたの?」

「な、なんでもねぇって。」

珍しくどもっている撩に、不思議そうな視線を送る香。

耳も赤くなっていることに気付き、ますますクエスチョンマークが浮かぶ。



「行くぞ。」

灰皿を閉め、キーをまわし、アクセルを踏む。

「なんとかイメージ通りの時間に着きそうだわ。」

あえて追求はしないでおこうと、

香は話題を変えた。

「急ぐ必要はなさそうだな。」

クーパーは、流れに乗って教授宅へ向かった。


*****************************
(7)につづく。






一応スーパーいなりや、再登場です。
撩ちん、なんだか思考が先走ってまっせ〜。
ミラーニューロン、初めて聞いた方はコチラをクリック。
(なんか小難しいことばかり書いていますが、
要は自分の姿に似たものが壊れている状態を、
自分やもしくは自分の大切な対象に置き換えて共感しやすくなる感覚のことで、
例えば、ミミズが干からびている画像と、人の死体が干からびている画像とでは、
どちらに自分を重ねてしまいやすいかという話し。)

タンパク質の腐敗臭、
以前地元の方がウチに届けてくれたヘビが
受け取り時は生きていたのに、イベント終了後腐っちまって、
庭にものすごい腐敗臭が…。
(初夏だったけど意外と暑い日だった…)
たまたま一緒にいた仲間が、これまた、
たまたま昔住んでいた場所の近くで、
発見が遅れた首吊り自殺があり(なんてこったい)、
その匂いと蛇の腐敗臭が同じだと
証言しちょりました…。
本能的に危機感を覚える匂いでしたね…。
髪の毛が焦げる匂いも不注意で嗅いじゃったこともありますが、
ホント、タンパク質や脂質の変質する臭いはヤバイです。
ベトナム戦争の実録のドキュメンタリーや写真集を
なぜか中学高校の時によく見ていました。
おそらく、こんな臭いは当たり前だったと思うと、
幼い撩がよく心を保って生き延びたもんだとつくづく思います。

というワケで今日は「いい夫婦の日」。
この二人はまさに夫婦以上の関係。
ウチのサイトでも、とりあえず2度目のケジメ・フシメってことで
夫婦にしてやりたいですが、
まずはこの本編が終わらんとなぁ〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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