11-09 Consultation Time

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(9) Consultation Time  *******************************************************2760文字くらい
 


「美樹さん、お待たせ。教授に診てもらいましょう。」

美樹の病室についた2人は、ベッドまわりを軽く整え、

美樹は上半身を起した。



「痛みはどうかね。」

「動かさなければ殆ど痛みはないです。」

「どれ、傷を見せてもらおうかの。」

「はい。」



美樹はそっと三角巾から右腕をはずすと、少し顔を歪ませた。

羽織っていた着衣を脱いだ美樹の半身に、どうしても目立ってしまう白い包帯。

傷の位置が位置なので、もちろんノーブラだ。

包帯がさらし代わりに胸部にも巻かれている。



教授は器用に、右肩と脇を通る包帯をほどき、ガーゼの部分まで辿り着いた。

メディカルテープをそっとはずし、ガーゼがめくられると

美樹の銃創があらわになった。

円状に盛り上がった境界部分に、傷を縫い合わせた黒い糸が生々しい。

香は、くっと奥歯を噛んだ。

教授は、消毒液を浸したコットンを傷にちょいちょいと当てた。

裂傷治癒の促進剤も塗り、

指で傷の周囲を確かめながら、背中も同じように処置を施した。



「ふむ、前も後ろも化膿もしておらんし、縫い痕も問題なしじゃ。

抜糸まで、あと1週間じゃな。」

教授はカバンから新しいガーゼと包帯を取り出した。

「香君、ちょっとここを押さえててくれんかの。」

ガーゼを施すために仮止めを香の指を頼り、教授はてきぱきと手を進めて行く。

「こっちの端も持ってもらえんか。」

包帯を巻く時も、教授と協力の元で速やかに巻き終わった。

「美樹さん、寒いでしょ。はやく上を羽織らなきゃ。」

香が入院用の前開きの着衣を引き上げ、袖を通させた。

「ありがと、香さん。」

「は、早く、傷が治るといいのにね。」

泣きそうなのをガマンして、後片付けの手を動かす。



撩が人を撃つ所は何度も見ているし、

撩自身が海原戦やファルコンとの決闘でつけられた銃創も知っている。

しかし、縫い糸が残っている状態の銃創を直で見るのは初めてで、

香にとって衝撃が想像以上に大きかった。

女性の体につけられたこの傷は、薄くなることはあっても、恐らく消えることはないだろう。

香は、まるで自分が撃たれたかのような心境になった。



「香さぁーん、気にしちゃ嫌だって言ったでしょ?」

「美樹さん…。」

「何だったら、あとでお風呂の時に、あたしの傷、全〜部見てみるぅ?」

ちょっと色気を塗った声色に、香はボボッと赤くなった。

「いやだ、美樹さぁん、そのセリフ危ないわぁ。」

2人でクスクスと笑い合った。

教授もふっと微笑む。

「あたし、これから食事と衣類の整理があるから、

また準備ができたら呼びにくるわ。」

香は、先ほどのティータイムセットのトレーを持って、

美樹の病室を出て行った。



「美樹くんよ、リハビリの件じゃが、すぐには銃を撃てんはずじゃ。」

カルテをかき込みながら教授が語る。

「はい、承知してます。」

「普段の生活では左手でも十分じゃろうが、銃火器はやはり利き手にかかっておる。」

「そうですね。今のこの肩では、衝撃は受け止めきれません。」

「傷が完全に塞がってから、残り数日をリハビリに費やしても、

銃の腕の感覚が完全に戻るのには少しロスタイムが必要じゃ。」

「ふふ、それまではここで女王様生活ですね。

戻ったら、違う意味で仕事が出来なくなるかも。」

「まぁ、早く店を再開させたい気持ちも、

ファルコンと一緒に仕事をしたい思いも十分分かっておるから、

出来うる限りで協力させてもらおうかのう。」

「ありがとうございます、教授。」



ちょっと間を置いて、教授が出て行こうとしたところに、

撩が入ってきた。

「やっほぉ〜、みっきちゅうあ〜ん。」

「撩、静かに入ってこんか。騒々しい。」

「教授、かまいませんわ。私しかいませんし。」

「えー、もう診察終わっちゃったの?

じゃあ今度は撩ちゃんが診てあげま」

最後まで言う前に、美樹の左手で持っているポットが撩の顔にめり込んだ。

「間に合ってますから…。」

「まったく『外』では相変わらずよのう…。」

「み、美樹ちゃん…、これなら早く退院できるんじゃね?」

「ふっ、そう願いたいわね。」

顔をさすりながら、撩はそばの椅子に座なおした。



「とっころでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどぉ。」

「あら、何かしら?」

「かすみちゃんの連絡先知ってる?」

「かすみちゃん?」

「前はキャッツに住み込みだったけど、今は1人暮らしだろ?

ちょっと彼女に頼みたいことがあってな。

バイトも今休みだろうし。」

「あら?何かしら?」

「へへ…、ひ、み、つ。」

「ふむ、香君がらみじゃな…。」

「教授っ、さっきから余計な説明が多過ぎっすよ!」

美樹は、教授のその一言で、撩が何を考えているか、

なんとなくイメージが湧き、協力すべきと判断した。



「わかったわ、ちょっと待ってて。」

美樹はサイドボードから筆記用具を出し、

左手で器用にかすみの連絡先を書いた。

「はいこれ。」

「サンキュ。」

メモ書きを受け取る撩。

「くれぐれも悪用しないでね。」

「たく、人聞き悪りぃな〜。」



「……ねぇ、冴羽さん、

…香さんって、今まで仕事がらみで、

撃たれたり、大怪我したことないわよね…。海原の時以外は…。」

「な、なに?美樹ちゃん、突然、そんなこと聞いたりして。」

「……冴羽さん、もし、香さんが…。」

「ストップ。」

撩は、手の平をピタッと美樹の前にかざした。

「冴羽さん…。」

撩はすっと立ち上がって、ふっと目を細めた。

「撩…。」

教授も撩を見上げる。



「みーきちゃん、なぁーんも心配するこたぁないから。

早くケガ治して、お店開けてちょーだい!じゃ、また後でな。」

おちゃらけ笑顔とおちゃらけ口調で、そう言いながら、

片手をひらひらさせて、撩は美樹の病室を出て行った。



教授と美樹は顔を見合わせた。

教授は、ふっと顔を緩める。

「……以前の撩じゃったら、

もし香君が今のおまえさんのように被弾するようなことがあったら、

即パートーナーを解消し、

香君の前から姿を消していたかもしれん…。」

「教授…。」

「あやつの言う通りじゃ。もう、なんも心配することはなかろう。

今の撩なら、たとえ香君がどんな状況になっても、

離れることはあるまいて。」

「……そうですね。私も、そう思いますわ。」



美樹は、一瞬過(よぎ)った不安を、今の教授の言葉で一掃できた気がした。

恐らく、香が銃弾を受けるようなことがあったら、

あの男が背負う苦しみは、

例えるものがない程に

果てしなく深いものになるであろうことは、

美樹も教授もファルコンも、そしてミックも冴子も理解している。



決してゼロではない可能性、むしろこの仕事が長く続けば続く程、

その危険は対数曲線的に増えていく。

その中で、共に生きると覚悟を決めた男の後ろ姿を、

美樹は穏やかな想いで思い返す。



「さて、わしは書斎に戻るかの。」

「ありがとうございます、また食事の時に。」

教授はにこやかに病室を後にした。


***************************
(10)へつづく。





当方、実は4回交通事故に遭って、なぜか生きていますが、
2回目の時、左手の平がぱっくり割れて7針くらい縫いました。
その時使われたのが黒い糸だったんです。
何かの映像で見た時は透明な糸だったのですが、
医療系詳しくないので、何が違うんだろうか〜と。
とりあえず宿題にしておきますかね。
しかし、そもそも銃創って縫えんの?
で、ちょっと迷ったんですよね。
ファルコンと美樹が国外で傭兵をしていた頃、
ファルコンが美樹に怪我を負わせるようなミスをするだろうかと。
やむを得ず別行動をしていたとか、
美樹の幼いながらの判断ミスとか、
色々そうなりえそうな原因を考えてみましたが、
やはり、滅多にありえない不幸な偶然が重ならないと、
美樹が負傷することはなさそうな気がしてきました。
小ケガは多少あってもね。
自分を責めて、立ち去ったファルコンと、
もし香が負傷してしまった場合の以前の撩だったらという部分は、
結構重なりそうな感じです。
(男ってすぐ逃げるもん?)

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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