11-10 Can I Help You?

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(11)Can I Help You?  *****************************************************4765文字くらい



香は、台所に戻ると、まずは米研ぎを始めた。

今晩の夕食の下ごしらえを簡単にすませ、

次の作業に移ろうと思った時には、もう4時を回っていた。



「いけない、乾燥機見てこなきゃ。」



乾燥機がある脱衣所は、

もう一度美樹の部屋の前を通らなければならない。

進行方向に向かっていたら、

撩と鉢合わせになる。



「っと。」

「あら?なんで、撩ここにいるの?

あ…、あんた、まさか美樹さんにちょっかい出しにいったんじゃないでしょうねぇ?」



ちょうど病室を数歩出たところの撩。

さっきの会話の余韻が残り、

らしくもなくセリフがスムーズに出てこない。



「へ、へん!教授が邪魔だったから、出て来たんだよーんだ。」

「まったくもー。」

「あ、そうだ。……おまぁ、今日はここを何時頃出れそうだ?」

「うーん、夕食食べて片付け終わった後も、ちょっとすることあるから。

なんで?」

「うんにゃ、なんでもねぇー。」

「撩さ、さっきから、違う意味でヘンよ?どうしたの?」

「ああ?」

「お店を出る時から、なんか調子狂ってない?」

「あー、気のせいだろ。俺、ちょっくら調べもんがあるから、書斎にいるわ。」

「…うん、わかった。」



そう言い残すと、

撩はがに股でひょこひょこと廊下の奥に消えて行った。



「何、調べるんだろ?」

香はまた訝しがりながら、小走りで脱衣所へ入った。

慌てて乾燥機の蓋を開ける。

かずえの指示書通り、

既にひとしきり終わった布類が収まっている。

「よいしょ。」

香は、それらをカゴに移して、和室に向かった。




「あ、ここね。」

その部屋には、アイロン台とアイロン本体が用意してあり、

すぐに作業に取りかかることができた。

教授の寝間着から、美樹の入院着に下着、タオルに、ベッドのシーツと、

見た目よりも結構な量があり、

手際良く進めても、これまたあっという間に時間が過ぎて行った。





「……はぁ、ようやく終わったわ。かずえさん、これ今まで一人で?

あ、明後日からは本当にフルタイムか…。大変だわ。」

香は、今日明日でお役目御免と言われても、引き下がりにくく感じた。

「さてと、指定席に戻さなきゃ。」



丁寧に整われた布の数々を手持ちとカゴで運び、

香は、指示書を思い出しながら、教授の寝室、脱衣所、リネン室と、

それぞれの場所に収めてきた。

(ほんと、何だか看護婦か家政婦になった気分かも。)

最後に、美樹の衣類を風呂敷に包んで再び病室に向かった。



ノックをしての再訪問。

「美樹さん、何度もごめんなさい。洗濯が済んだものを持って来たの。

ここでいい?」

香は、ベッドそばの椅子の上に衣類の入っている風呂敷を置いた。

「何から何まで悪いわぁ。」

読んでいた本を脇に置く美樹。



「ううん、これかずえさんがもう仕上げてくれていたものなの。

あたしはアイロンをかけただけ。じゃ、また後で呼びに来るから。」

「夕食、楽しみだわ。」

「あ、あまり期待しないで。がっかりさせちゃうかもしれないし。」

「もう、ほんと香さん謙遜しすぎよ。」

「美樹さんこそ、褒め過ぎよ。」

くすくすと笑い合う。

「じゃあ、またあとで。」

「ええ。」



一人でいるよりも、こうして気心の知れた仲間、

もう一人の姉とも言えるような相手と

飾りなく交わす会話の投げ合いが心地いい。

もし、こうしてここに通う役回りがなかったら、

もっと暗く落ち込んでいたかもしれない。

多少忙しく慌ただしくなっても、

ここにこられる巡り合わせに香は感謝した。





「さてと、今日のメインディッシュは…。」

香は台所に立つと、食材に手を伸ばそうとした。

しかし急に、台所の入り口で何かの空気を感じ、動きが止まった。

(撩?…ううん、違う。この距離で、こんな気配を感じさせるヤツじゃない。)



「う、海坊主さん?」



振り返っても、誰もいないそこに、視線を走らせると、

右袖から影が動いた。



「か、か、香、な、何か手伝うことはないか?」



やや顔を赤く染め、どもったセリフを吐きながら、

ファルコンがのっそりと入ってきた。



「だ、大丈夫です。」

「そ、そうか。」

「あー、み、美樹の部屋にいるから、な、何かあったら呼んでくれ。」

「あ、ありがとう。海坊主さん。」

「ふ、ふん!」

そのままギクシャクしながら、台所から巨体が出て行った。



「どうしちゃったのかしら?

海坊主さん、なんか妙にギクシャクしちゃって。

で、でも、美樹さんのところに行く前にこっちに顔だしてくれたなんて、

何だか気を遣ってもらってるみたい。」

香は気を取り直して、準備にかかった。



メニューは、クリームシチューと、サケのムニエル、サラダ、フルーツ。

美樹、ファルコン、教授、自分と撩、そして遅く帰って来るかずえの分で、

6人前だが、やはり大食らいがいるので、

10人前以上を用意しなければならない。



大鍋にぶつ切りの鶏モモ肉が炒められ、

オリーブオイルの香りが立ち上る。

一口大に切り分けられた野菜が投入される。

油が回ったら、水をたっぷり入れて煮込み開始。

その間に、副菜を作り、ムニエルの下ごしらえをする。



「本当は、ホワイトスースから作りたかったけど、

今日はルーで横着させてもらお。」

ここで、夕食を作るのは4度目。

洋食が多いので、明日の昼は和食のメニューにしようかと、

食材とスケジュール表を確認する。



ふと、今日の撩の様子が頭に浮かぶ。

「聞き間違いだったかしら…。」

あの時、買い物が終わって車を出発させる前に、

撩がぼそっと呟いた独り言。

(ガキができたら…って言っていた気がする。バキ?ザキ?ダキ?

ううん、やっぱり『ガキ』よねぇ。)

持っていたタバコから、

自粛というのもきっと喫煙のことかもしれない。

聞き間違いでなければ、その呟きは一体何を意味するのか。



「たたた、たぶん、美樹さんと海坊主さんの所に赤ちゃんが出来たらってことよねっ。

そうよ、お店でもタバコ吸えなくなるかもしれないし!」

(でも、あの時の慌て様は、たぶん『素』っぽいわよね…。)

つい先ほど、教授の部屋で目が点になっていた撩も、

おふざけやフェイクと言った計算した表情ではないと感じた。



「撩、どうしちゃったのかしら?」



長くあの男と一緒にいて、あんな顔を見た記憶はあまりない。

車椅子のこずえのところへの通いがバレた時や、

マリーの時に、結婚話しで慌てふためく姿に似ているが、

また違った感じもする。



そんなことを考えていたら、大鍋のフタがカタカタと鳴り、

鍋の縁に吹き出そうな飛沫がジュっと音を立てた。

「あ、いけない。」

香は慌てて弱火にした後、

たっぷりのパセリをみじん切りにし始めた。

が、ふと、その包丁を持つ手が止まる。



「こおぉらっ!撩っ!料理の邪魔するんじゃないのっ!」

パーンという音と、悶絶する声が重なる。



「ぁ、ああ!ミック?!」



香のタイトスカートから見えている魅惑的な黒い太腿を、

後ろから手を伸ばして触ろうと、

気配を消してしゃがんで接近していた白いスーツの男が、

顔にフライパンを受けて台所の床に仰向けに転がっていた。



「ご、ごめんなさいっ!

てっきり撩かと思って手加減なしでやっちゃった。

だ、大丈夫?」



白い手袋をはめた手の平をぴくぴくさせていた墮天使は、

フライパンの柄を持ちながら、よいしょっと上半身を起した。

「や、やぁ、カオリ。今日もキュートだねぇ。」

白い顔に赤い鼻血がより鮮血に見える。

受け身でちゃんと100%で食らわないようにしているが、

鼻血は演出の一つ。

「ああ!血が出てるっ。ちょ、ちょっと待って、ティッシュもって来るわ!」

「No、No!自分で持ってるから。

ボクが調子に乗ってイタズラしようとしたのが悪いんだ。

カオリは謝ることはないよ。」

スーツの内ポケットから、小さなペーパータオルを出して鼻血を拭うミック。

「しかし、驚いたな。よくボクがそばに来たことが分かったね。」



ミックは、完全とまではいかなくても、気配を消し、

香にタッチできるものだと思って接近したのだった。

「え?あははは、撩のスケベオーラと似ていたから、てっきりあいつだと思って…。」

バツが悪そうな香に、ミックはなるべく自分の驚きを隠そうとした。



後ろをとらせなかった香。

少なくとも気配を消していた自分の接近をキャッチできたセンサー。

フライパンを食らうのは、目的達成後と読んでいたのに、

元スイーパーに手を触れさせなかったことは、

ミックにとって大きなショックだった。



「ミック、仕事は?」

動揺を隠しながら答えるミック。

「ああ、区切りが良かったんで、今日はこっちに泊まろうかと思って。」

「そっか、かずえさんのことは聞いてる?夜には戻るって。」

「だから、今日はカオリの手料理を食べにきたのさ。」

「かずえさんも忙しくて大変そうだけど、ミックも毎週締切があるんでしょ?」

「No Probulem!ちゃちゃっと終わらせて、しっかり稼いでるから心配ないよ。

ところで、何か手伝うことはないかい?」



ファルコンと同じセリフに、香はクスリと笑った。

「さっきも、海坊主さんが同じこと言いに来たわ。」

「Oh!先を越されたか!」

「大丈夫、もうあと15分ほど煮込めば出来るし、魚も焼くだけだから。

気持ちだけもらっておくわ。」

「そっか、もっと早く来るべきだったね。」

ミックはテーブルの椅子に座って、頬杖をついて足を組んだ。

まな板に向かう香の後ろ姿を愛おしそうに眺める。



「……カオリ。」

「え?」

「……俺と組んだ時にも言ったけど、

こうして生きていられるのもカオリ、君のお陰さ。」

香は目を見開いてミックに振り返った。

「……ミック。」

「……あの時、……カオリが俺を止めなかったら、俺はここにはいなかった。」



香は、一度撩の元を離れ、ミックの所に転がり込んだ、

この夏のことを思い出した。

オフィスでまじめな会話を交わした時の内容は、

今でも受けた衝撃が生々しく思い出される。



あの船で、香がミックに飛びつき動きを止めなかったら、

確実に撩に息の根を止められていたと。

そして、撩はミックが一番苦しまない方法を選び、

体の全ての急所に6発の弾丸を一瞬で撃ち込むつもりだったであろうと、

静かに語るミックの姿と、今そこに座る青い目の男が重なった。



「おかげで、カズエとも出会えた。」

すっと立ち上がったミック。

「感謝してるよ。カオリ。」

「ミック…。」

「じゃあ、教授のところに行って来るから、またディナーで。」

本当は、かずえにはすまないと思いながらも、

命の恩人であり、初めて本気になった女である香を、

この場で抱き寄せたいという思いもあったが、

台所の外にいる男に気付いたので、諦めて結局触れることが出来ないまま、

その場を後にした。



「ミック…。」

香はしばし固まっていたが、

はっと思い返して、再び料理に取りかかった。




台所から離れた通路で対峙する2人の男。

「おい、かずえちゃんがいねぇーのに、なにのこのこ来てんだよ。」

「当然、カオリの美味しいディナーを食べにきたのさ。」

「お前の皿には、俺が毒を盛ってやる。」

「フフーンだ。……ところで、リョウ、

お前、カオリにもう訓練でも始めたのか?」

「あ?」

「……いや、何でもない。」

「……あいつの訓練は、ここの通いが終わってから始めるつもりだ。」

「ほぉ!」

ミックが片眉をあげる。

「お前も、気付いたようだな…。」

「……ああ。」

撩は、さっきのミックと香の台所でのやりとりを途中から盗み聞きし、

何があったか分かっていての話し。



「……あいつは、病院の屋上で俺たちが話していた時、

どうやら近くにいたようだ。」



撩は、奥多摩で香が口にした『種族維持本能なのかな?』というセンテンスから、

あの場にいたことを確信していた。

「な、なんだって?じゃあ、あの時の会話は聞かれちまったってことか?」

撩の話しに、今度は両方の眉が上がる。

「ということは、俺たち2人とも、

カオリの気配に気付けなかったってことだよな。」

ミックが複雑そうな顔で答えた。

「ふっ、敏腕スイーパーの男2人もいながら、な。」

そう言いながら、撩は後ろ頭に手を組んで上を見上げる。

「お笑い草だな。鍛えるのが怖くなりそうだ。」

ミックも溜め息まじりに言う。

「……だな。」

「まぁ、がんばれよ!」

ミックは撩の背中をパンと叩いた。


*************************************
(11)につづく。






手伝うことないかい?のくだり、
「ラピュタ」のワンシーン、
ドーラの息子たちがシータの調理中に訪問する場面が
勝手によぎりました。

カオリン、原作の所々で気配を消していることが描かれていましたよね〜。
ただ、浦上親子宿泊時の時に、2度ほど香の登場に驚く撩が描かれていますが、
これが素なのかフェイクで驚いているフリをしているのか、
前後からはなかなか読み取れなくって〜。
いずれにしましても、終盤の香は
無意識に気配を消すことを身につけているいるような感じです。
病院の屋上でミックと撩が語っているシーンも、
おそらくあの2人は
香に気づいていなかったことを伺わせるやりとりと表情をしています。
よって、奥多摩湖畔で香が「これも種族維持本能なのかな?」と
聞いてきた時には、撩はまじめに驚いていたのかも〜。
それの照れ隠しが、あの「ば…ばぁか!!」だったら、なんか可愛いぞ〜。

【Sさまご連絡感謝!】
リネン室修正いたしました!
もう頭では分かっていたのに、
商売上生物分類学者の「リンネ」をよく使うためか、
指は、人物名を打っちまいました…。
発見ご指摘、本当に有り難いです!
ご協力に改めて感謝申し上げます!
[2013.12.11.08:26]

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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