11-11 Cream Stew

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(11)Cream Stew  ************************************************************3872文字くらい



「よし、これで弱火にすればいいわね。」

香は、くつくつと音を立てているクリームシチューの中に

おたまをゆっくりと回しながら、コンロの火を調節した。

「みんなを呼んでこなきゃ。」

すでに、食卓には配膳が整い、

あとはメインディッシュが加わるのを待つだけ。

エプロンを外して奥の部屋に呼びに行くことにした。






「食事が出来ましたよー。」

ノックをしたあと、教授の書斎の扉を開ける香。

男3人がそれぞれに反応する。

「どれどれ、行くとするかの。」

「カオリ、楽しみだよ。ここまでいい匂いがするよ。」

「ただのシチューよ。あまり期待しないで。」

「あー、腹減ったっ。さっさと食っちまおうぜ。」

面倒くさそうなフリをしながらも、

食事の時間を一番楽しみにしているのはこの男なのだ。



「あたし、美樹さんたちも呼んでくるから、先に行ってて。」

戸口でそう言うと、

パタパタとスリッパの音を立てて美樹の病室に向かった。

「……香君には、これからもちょくちょく来て欲しいのう。」

「Professor、カズエ専属でも十分贅沢です。」

「ほほ、花は多いほうがよい。」

面白くなさそうに目を合わせる撩とミック。

お互い、命の恩人故に頭が上がらないが、

はっきり言ってこの爺様は古稀を過ぎていても油断がならない。





「美樹さん、海坊主さん、お食事出来ましたよ。」

美樹の部屋に声をかける香。

「ありがと、香さん。さ、ファルコン行きましょ。」

美樹は、さっき撩がかすみの連絡先を聞きに来たことを

香に伝えようかと一瞬迷ったが、

きっと訓練絡みのことならば、内密のほうがいいかもしれないと、

出てきそうになった言葉を飲み込んだ。

外が見える廊下を歩きながら、

一部がライトアップされている庭園の彩りを見やる3人。



「この4,5日で随分紅葉が進んだみたいね。」

美樹がふっと表情を和らげる。

「そうねー、この分じゃあっという間に、新しい年が来ちゃいそう。」

香が続ける。

「寒くなってきたから、体が温まりそうなのを用意したの。」

「ふふ、いい香りがもうするわよぉ。」

嬉しそうな美樹に、香もほっとする。




食堂につくと、すでに撩とミックと教授は席についていた。

テーブルの上には、ムニエルと付け合せの皿に、サラダと秋のフルーツ、

軽くトーストされた薄切りのバケットとロールパンがカゴに入っている

「すぐ持ってきますから。」

香は、そのまま台所に行き、大鍋をワゴンキャスターに乗せた。

「よっと!」

かなり重い30センチ鍋だが、カラになること間違いなし。

ゴロゴロゴロとキャスターを鳴らしながら、そんなことを考える。

「おまたせ!じゃあ、注(つ)ぎますね。」

やや深めのスープ皿に、

野菜と鶏肉がたっぷり入ったシチューが注(そそ)がれる。

「カオリ、手伝うよ。」

すかさずミックが立ち上がり、

ミニトングで小鉢に入ったみじん切りのパセリをつまんで散らし、

それぞれの席の前にすっと無駄のない動きで皿を置く。

まるで高級レストランのウエイター気取り。

「あ、ミックありがと、助かるわ。」

気遣いにちょっとドキリとする香。



「ほほ、役目を取られたのう。」

「なんのことです?」

面白くなさそうに答える撩。

その空気を読んで、腕組をしたままニヤつくファルコン。

分かりやすい気配に、美樹もくすりと笑う。



「パンとライスが選べますけど、今ご飯が欲しい人います?」

香がみんなに尋ねる。

炊飯器とライス用の器は、大鍋の脇にある。

「いや、後でいいよ。先に食べよう。欲しい奴はセルフな。」

ミックが提案して、香も席につく。

「じゃあ、食べましょう。頂きます。」

「いっただきまーす!」

まるで小学生が大好物を出された時に嬉々として発するような声で

ミックが第一声を出し、湯気が立ち上るシチューをスプーンですくった。

「This is delicious!Very good!うまいよっ、カオリ!」

ニンジンやカブを咀嚼しながら、

もごもごと和洋混在の感想を言うミック。



「そ、そう?ピザ用のチーズと牛乳をたっぷり入れてあるの。

市販のルーだけど、ちょっとコクを出したいと思って。」

「サケもいい焼き加減よ。」

美樹がムニエルを食べながら香を褒める。

褒められることに、やはり慣れない香はどもりながら答える。



「あ、…ほ、ほんとはシチューの中にサケを入れようと思ったんだけど、

ま、前に作った時に身がバラバラになっちゃって、

そ、それで、別に焼くことにしたの、よ。」

照れ隠しにぱくぱくとサラダやパンを口に頬張る。

「いずれにしても、いい組み合わせだよ。」

ミックが続ける。

「組み合わせ?」



次々と口に料理を運びながら答えるミック。

「ああ、クリームシチューのチーズやミルクにはカルシウムが含まれているだろ?

サケにはビタミンDが多いから、一緒に食べると吸収率をよくするのさ。

このサケの色素だって体にいい成分だし、加えてたっぷりの野菜、

栄養学的にも相性のいい組み合わせなんだよ。」

ミックのウンチクに、香はへぇーと素直に感心する。



「ほほ、わしのような年寄りにも嬉しいメニューじゃな。」

スプーンを動かしながら、教授も加わる。

「え?そうですか?」

「ふむ、こういった料理は多く作るほどにうまいもんじゃ。」

「でも、食べ物の組み合せって面白いわよねー。」

美樹が思い出したように話し始める。

「だって、夏のビールと枝豆なんて、

もとはドイツのお酒に日本の野菜の組み合わせでしょ。

それが、まるで当たり前のように定番になっているし。」

香も頷く。

「天ぷらだってそうよね。あたし、何かのテレビで見たことあるんだけど、

もともとポルトガルから日本に伝わった料理法だって言ってたわ。」

「それが日本の食べ物と相性がいい料理法ってなんだかすごいわよね。」

美樹も食事をしながら反応する。

「山菜の天ぷらとか、もう純日本料理って感じなのにねー。」

女性軍は食べ物の話しで口調も盛り上がる。



「あー、そういえば随分山菜食べてないわ…。

小さい頃にアニキとつくしを摘みに行って、

あたし沢山採り過ぎちゃったら、アニキが食べられるって料理してくれて…。」

香が幼少時代の思い出を語る。

「あ、知ってる!つくしのキンピラね。

ねぇ、香さん、春になったらみんなを誘って

山菜摘みにどっか行かない?」

シチューを口に運びながら、美樹が提案する。

「あ、それ楽しそう!」

「ほほほ、山菜ならここでも十分採れるがのう。」

「え?」

美樹と香が同時に教授に振り返る。

「ここの庭には、ノビルにヤブカンゾウ、

ヨモギにゼンマイ、ワラビにフキも生えとるぞ。」

「えー!ホントですか?」

「人の手が適度に入っているところに、食える草花が結構生えるもんじゃ。」

「Oh!それ、取材できないかな?日本の食べられる山野草は、特集に使えるぜ。」

ミックもパンをかじりながら、身を乗り出して話しに参戦してきた。

「俺は、小さい頃から狩猟を教わっていたから、

北米の森の中の食い物だったらある程度は知っているけど、

日本のはまだ勉強不足だから、是非教えてほしいな。」

「教授、じゃあ春先おじゃましてもいいですか?」

「もちろん、好きなだけ摘んでいくが良い。」

「やった!」

「撩、おまえも野外で食えるもん詳しいんじゃないのか?

あっちにいる頃は、何が毒で何が薬になるか色々教わったんだろ?」

急に、撩に話しを振ってきたミック。

香も美樹もドキリとする。

ミックはきっとわざと聞いている。

教授も含めて皆が同時にそう感じた。

さっきから口数が少ない撩。

手を止めずに、もぐもぐと食事を進める。

この問いにどんな言葉を返すのか、香と美樹はこくりと唾を飲んだ。



「……さぁなぁー、昔のことなんてすっかり忘れちまった。」



明瞭に覚えているに違いないが、言いたくないのだろうと、

全員がそう確信する。

香は、幼い撩が食べ盛りの時期に、

どんな思いで中米の森の中で可食のものを得ていたのか、

その姿をちらとでも連想しただけで、胸が苦しくなった。

表情が沈んだ香に気付いた美樹は、話題の温度を変えることにした。



「……でも、食べ物の出会いの妙(たえ)も素敵だけど、

人と人との出会いと、その組み合わせも素敵よねー。」

「は?」

香がきょとんとする。

「だって、あたしとファルコン、ミックとかずえさん、そして香さんと冴羽さん、

食べ物の話し以上に、ものすごい出会いの妙(たえ)じゃない?」

ぼぼっと香が赤くなり、撩がぶっとサラダを吹き出し、

それまで沈黙していたファルコンはフルーツをフォークから落として蒸気を吹き出す。

「ね?ファルコン?」

更に茹で蛸になったファルコンは、言葉が全く出てこない。



ミックがみかねて代わりに答えた。

「That`s right!ミキの言うとおりだよ。

俺もリョウもあっちにいる頃は、

こんな出会いは全く想像していなかったからね…。」

「ほほほ、どれも味わい深そうじゃの…。」

教授の言葉に、香とファルコンは同時に耳から湯気が出る。



「あ、あたし、そ、そ、そろそろ飲み物の準備して、きき来ます!」

香は、残りの食事を大急ぎで食べ終わると、

自分の食器をかちゃかちゃと重ねて、自分と一緒に撤収させた。

会話をしながらも、みなそれぞれほぼ食器がカラになっている。



ファルコンは、照れがのこったスキンヘッドのままのっそりと立ち上がり、

持てる分だけの食器を集め、香の後を静かに追った。

そんなファルコンを目で追いながら、教授がぼそりと呟く。

「……撩よ、また役回りを先取りされたのう。」

「だから、なんのことっすか?」

すっとぼける撩。

そのやりとりをくすっと笑いながら見つめる美樹。

「素直じゃない奴…。」

ミックは頬杖をついて、

機嫌の悪そうな撩の足をテーブルの下でコンと蹴った。



*************************************
(12)につづく。





あ、あとがきもどきをすっかり忘れておったっ!
1泊2日家をあけとったもんで、
ど忘れです。
サケの色素はアスタキサンチン、カロテノイド系の
フィトケミカル。
卒論がキチン・キトサンとβ-カロテンがテーマだったので、
ついこんな話しを絡めてしまいました〜。
2012.12.02.23:00

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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