01-12 To East (side Ryo)

第1部 After the Okutama Lake Side


(12)To East (side Ryo) *********************************************************1331文字くらい




奥多摩から新宿までは、国道411号線沿いをひたすら東に進む。

中央自動車道を使えば、2時間もかからない。

狭いクーパーの中で、2人だけ。

エンジン音が響く。



いや、今まで何度となく、

香と2人きりで車に乗ることはしてきているが、

「あんなこと」の後だ。

どうにもこうにも自然体になれず、どことなく緊張している。

自分も香も。

俺が照れてんのか?……ったく、らしくねぇなぁ。

しばしの沈黙が続く。



「……撩は、どこもケガして、ない?」

まだ奥多摩町を出ないうちに、香がふと聞いて来た。

「ああ、上着はぼろっちくなったが、血なんかどこも出てやしないよ。」

「よかった…。」

「………お前こそ…。」

続きの言葉につまった。

生きるか死ぬかの際どいやりとりが、ついさっきあったばかり。



とは言え、人数こそ多けれど対処方法は心得ていたから、

香を救い出す自信は十分あったし、

今回の事件も、今までの経験値からすると、

本当の生死の境を彷徨うという状況からは、まだ遠い方だ。



しかし、元々表の世界で普通に学校に通い、

兄という家族と至って平凡に過ごしてきた香にとっては、

俺と6年以上も一緒に生活してきた中で、

それまでの一般的な暮らしとは比べ物にならない程、

危険な体験を繰り返しているのだ。



「…よく頑張ったな…。」

あの時、死を悟った香の表情が甦る。

俺のために、命を投げ出すことを本気で決めた顔、

目を閉じた時、香は何を思っていたのか……。

腕によりかかる香の頭を、信号待ちの時に、

左手でくしゃくしゃと撫でた。

軟らかい猫毛は、これが出来るから心地良く飽きない。



「………誕生日を…。」

「ん?」

「あの時、…もうこれで、

…生きて一緒に誕生日を過ごせなくなるかもって、思ってたの…。」

香は、ゆっくり続けた。

「…もう、死んでも後悔しないって、…本気で覚悟したけど…、

アニキと撩にごめんって思いながら、目を閉じたの…。」

以心伝心か、テレパシーか、

俺がなんとなく聞きたいけど聞けないなと、思っていた

「あの時」のことを、香が自分から話してくれた。



「……死なせやしないって、言ったろ?」

「……。」

香の返事がない。その代わりに、

俺の左腕に自分の右腕をそっとからめてきた。

「……でも、今のままじゃ、きっと…。」

この最初の出だしで香が何を言おうとしているか、すぐ読み取れた。

「大丈夫だ。」

「…せめて、身を守るための技術を少しでも身につけたい。」

何度も何度も拉致監禁され、依頼人を守ることも、

自分の身を守ることも、このままでは不十分だと、

香自身が身をもって分かっている。

「……そのことについてなんだが、…俺に腹案がある。」

「え?」

「ウチに帰って、落ち着いたら、そのうち、ゆぅーっくり相談しような。」

「?」

一体なんのことだろうと、不思議そうに俺の顔を見つめる香。

うあ、ツボだ…。

その長いまつげの下から見えるくりくりとした色の薄い虹彩の瞳で、

必殺上目使い、首かしげ。

はぁ、きっと本人は無意識なんだろうなぁ〜。



らしくなく香の視線だけで揺れる心を鎮め、

気をとりなおして、運転に集中する。

青梅市の手前まで来た。

同じ東京でも新宿とは本当に風景が違うもんだ。

視界に広がる緑はどこまでも柔らかかった。


*****************************
(13)につづく。





さて、帰路です。
香ちゃんのクロイツ直後の心理として、
撩との距離がいきなりゼロになったことよりも、
パートナーとして、連れ去られた落ち度のことの方が
重くのしかかっていたのではと感じました。
ツボだと撩に思わせた香の顔は、
第309話の指輪を抜かれた後撩を見上げるカオリンでどーぞ。
車内でのやりとりで、
気分をポジティブに切り替えようとする香は、
次である話題に触れることに…。



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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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