11-14 The Yamashita Park

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩から6日目


(14)The Yamashita Park  ****************************************************3519文字くらい



香は、車窓の風景が南下していることに気付いた。

区内を抜けて首都高速1号線に入っている。

急いでいるのか、かなりスピードが速い。



(このまま行くと横浜方面だわ。帰りが遅くなっちゃう。)



教授宅を出て来たのは、午後9時前。

もう30分以上車を走らせている。

その間、撩は右肘を窓枠にかけ、ただ黙って前方を見て運転しているだけ。

さっき越えたのは多摩川だろう。

香は、撩が一体どこに連れて行く気なのか、やや心配になってきた。



(まさか、とんでもないところに行く気じゃないでしょうね…。)



たぶん、声をかけてもごまかされる気がして、

香も致し方なく、

無言のまま車窓を見続けた。



湾岸沿いを走る首都高の夜景が、香の瞳を流れていく。

今日の疲れもややでてきて、

少しうとうとし始めた頃、横浜市内で高速を降りた。

教授宅を出てから4、50分くらいだっただろうか。

普通の運転では、1時間以上はゆうにかかる距離のはず。



香は、目に入った案内看板にはっとした。

「ここは…。」

「あと、もうちょっとな。」

やっと口を開いた撩は、まだ前を見据えたまま。

香は、撩が何を考えてるのか、

自分に関する色恋ごとへの極端な鈍感さ故、

この時点では全く読めなかった。



そして、視界に入ってきた見覚えのある風景。

クーパーが止まった場所は、『あの時の』公園だった。



「りょ…。」



香が目を見開いて撩を見る。

エンジンを切ると、撩はシートベルトを外し、ドアを開けた。



「こいよ。」



そう言って、撩は先に鉄製の白い柵のところまで足を進めた。

香は、ゆっくり車から降りる。

少し寒く感じる風が、潮の香りを運んで来る。

久しぶりに嗅ぐ東京湾の匂い。

撩の後をついて行こうとした香の足が止まった。



撩が立っている場所、まさにそこは、

あの時、

12時の霧笛の音で魔法が終わってしまった場所、

そのものだった。



夜10時前、公園には、若干の人の気配があったが、

暗がりで、僅かな明かりの元、

テリトリーは気にならない距離。



撩は、立ち止まっている香に、

振り向き様にちょいちょいと指で招いた。

香は、わずかに足が震えるのを感じながら、

静かに撩に近づいて行く。



自分が最初に勘違いして乗ると言い張っていたレストランの船も

あの時と寸分違わぬ場所にある。

あの夜と同じ立ち位置にやっと辿り着いた香。



この状況に何と言ったらいいか言葉が出てこない。

1週間前、奥多摩で撩が自分にキスをする時に、

シンデレラの正体は分かっていたと吐露した。

プラスの思い出ともマイナスの出来事ともどちらにも分けられない

あの夜のことが、走馬灯のように思い出される。



このタイミングで、

ここに自分を連れて来た撩が一体何を考えているのか、

まだイメージすらも出来なかった。



香の心臓がトクトクトクと存在を訴える。

暫くの沈黙に、

海の方を見てポケットに手を突っ込んだままの撩が、

ようやく口を開いた。



「……何度も、お前の名を呼びそうになったよ。」



どきんと香の肩が揺れた。

海に顔を向けたまま続ける撩。



「……よく最後までもったもんだよなぁ。」



撩のくせ毛が夜風に揺れる。

「りょ…。」

「おまぁは、いつも通り『撩』って呼ぶからさ、

俺もつい出そうになったのを、抑えるのはけっこー大変だったんだぜ。」



撩がふうと香に視線を向けた。

香の胸が高鳴る。

撩はのんびりとしたコマ送りで歩み寄り

香との距離を縮めた。

そして、あの時と同じように香の上腕に両手をすっと添えると、

大きく開いた香を目を優しく覗き込む。

香の耳にバクバクと大きく心音が響く。



「仕切り直し、しないか?」

「し、仕切り直し?」

「そ、思い出の仕切り直し。」



撩は、左手を香の右肩から顎に滑らせた。

少し乾いた指先が温かい。



「ぁ…。」



もう全身が赤くなっているのが自覚できる程に体温は上がり、

撩を見る目は潤んで揺れている。



「……香。」

「りょ……。」



「……だ、か、ら、目ぇつぶれって言ったろ?」



香の目の端には零れそうな滴が落下を耐えている。

ここに連れてこられた目的を教えてくれたことに、

今、ここであの続きを求めてもいいということに、

驚きと嬉しさと戸惑いと照れが同時に沸き上がってくる。



香は撩を見つめたままふわりと笑った。



「りょ…。」



ゆっくり瞼を閉じる。

撩は、その柔らかい微笑みに

自分の中で何かが弾け溢れ出てきそうな気がした。



押しやられた涙がつと頬を伝ったと同時に、

撩はゆっくりそっと唇を啄んだ。

あの時の、寸止めの続きが1年と8ヶ月経った今、

ちぎれたフィルムの帯がつながるように、

時間が重なった。



香にとって、

むしろ後悔の念が強かったあの「都会のシンデレラ」の出来事を、

撩のこの行動で、

苦かった部分だけが綺麗に押し流され、なくなっていく。

香は、外にも関わらず、

もっと求めたいという想いが沸き上がって来て、

つい自分からも撩の下唇を遠慮気味に挟んだ。

それを合図にしたかのように、撩の腕は香を深く抱き込み、

香も広い背にそろりと手を回した。

もう、何度目か分からない口付けなのに、

双方とも、どこか鮮度のある高ぶりを感じていた。

お互い顔の角度を僅かずつ変えながら、

ミドルキスへと変わって行く。



「んん…。」



鼻だけで息をしている香の吐息が乱れ気味になる。

口腔内で舌が触れ合い、音を奏でる。

香の涙腺から湧き出てくる分泌液は、閉じている目尻からもぽろりと零れ、

鼻の奥にも落ちて来て、いよいよ呼吸困難になってきた。



「ふっ…、んん。」



撩は、全周をちゅうと吸い上げ、

また音を立てて、名残惜しげにつっと唇を離した。



「はぁ…。」



香は吸い損なっていた空気を深く取り入れて吐き出した。

そのまま腕の中に香をしまい込んだ撩。



「……ホントは、こーゆー展開にしたかったんだぜ。」



香の髪に鼻先を寄せながら、

撩は目を閉じてそう小さく呟いた。

「りょ…。」

涙が潮風で急速に乾いていく。



「どうする?」

「な、なにが?」

僅かに顔を動かして撩を見上げる香。

「このままホテル行くぅ?」



香を抱き込んだままで、顔を合わせる撩。

かぁーと更に赤さを増す香。

同時に、あの時の撩のセリフが蘇る。

ぷっと香が顔を赤らめたまま小さく吹き出した。



「……『君をゆっくりあたためてあげるよ』っか…。」



小声でそう呟き、くすくすと笑いが零れる。

「お?」

「撩……。」

ふぅと目だけ動かして相方を見上げる。

「ん?」

「あの時、……もし、あたしが、そのままついって行っていたら、

……どうしてた?」



撩は、香を抱き込んだまま目を見開いて

上半身だけ少し伸び上がった。

上目使いで、まさかそんな質問をされるとは思わなかったので、

流れを香に持って行かれそうになる。

ふっと表情を柔らめて、香の小さな顔を両手で挟み込んだ。

少し頬が冷えているのが伝わって来る。



「ふっ、…そぉーだぁなぁー。ベッドに押し倒したところで、

『ゲーム終了〜』って言ってたかもな。」

「ふーん?あの時、そんな度胸があったの?」



涙がたまったままの目でいじわるっぽく聞き返す香。

まだ撩と触れ合うことが出来るようになってから、

そう日は経っていないのに、

どこか強気になってこんな言葉を返している自分に少し驚く。



「今は、あるぞ。」



すぐにそう答えた撩。

顔を両手で挟まれたまま、

またちゅうっと唇を吸われる。



「……行くか?」



唇をつけたまま問う撩。

「……ううん、帰ろ。…あたしたちの家に。」

撩は一瞬眉を少し上げたが、

そのまままたゆっくりと香を抱き直した。

「……香。」

「…ぁ、りがと、りょ…。十分過ぎるわ…、仕切り直し。」

また、頬を滴が伝っていく。

潮風が体を撫で、茶色い髪を揺らす。



もう魔法はいらない。





「で、でも、どうして、……今日、なの?」

「あ…、いやな、……早いほうがいっかと、思ってな…。」

「な、なんで?」

「あー、同じ日付の日に…とも思ったんだがな、

3月まで待つ気が失せちまった…。」



これは本音だ。

忙しい教授宅通いの最中であるにもかかわらず、

やや遠目の寄り道。

あの時、奥多摩の湖畔で、

香と分かっていてシンデレラデートをした時のセリフを

思わず口走ってしまい、

香に重たい気分を背負わせてしまっていた。

それを一日でも早く払拭させたい、

そう思って至った撩の行動。



あの切ない『都会のシンデレラ』の思い出が、

ここに一緒に来たことによって、

いい部分だけを残し、2人の共有の記憶に置換された。

ここでないと、この場所でないと、

出来なかったメモリーの上書き作業。



香は、ふぅーとゆっくり息を吐き出し、肩の力を抜く。

撩の腕の中が温かい。

しばらくこのままでいたい思いもあったが、

船のレストランのほうから、人の動きがある。

海の夜風もかなり冷たい。



「帰るか…。」

「……ん。」



知っている面子の前ではまだとても出来そうにないが、

ここでは寄り添って歩いても、そうそう顔見知りに会うことはない。

香は肩を抱かれながら、クーパーに戻った。



「着くまで寄っかかってな。」

撩は運転席に戻ると、

隣に座っている香の頭を引き寄せ、自分の左腕に預けさせた。

「ん。」

香は、日中の疲れが表面に出て来たのか、

そのまま目を閉じて撩の体温と車の震動に身を任せた。

「家まで寝とけ。」

「……ん。」

穏やかな表情の2人を乗せて、

クーパーは再び首都高に入り、北北東に向かった。


********************************
(15)につづく。






あぅ〜、
高校生の時、ホントすぐ傍まで行っておったのにぃ〜。
神奈川県民8ヶ月しておったのにぃ〜。
横浜の隣りの市に住んでおったのにぃ〜。
どうして、足を運ばなかったのか、
んと悔しいっす。
という訳で、当サイトでは、こんな形で
都会のシンデレラデートを取り上げてみました。
イメージ、大崩しでしたらホントごめんなさいっ!
で、更にすんまへん。公園内車が進入できるかどうか未確認。
都内からの所要時間もデタラメですぅ〜。
そのあたりは見逃してやってくらはい…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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