11-16 Where Is My Pajamas?

第11部 Memory Of Chinderella 

奥多摩湖畔から6日目


(16)Where Is My Pajamas ?  ************************************************3481文字くらい



香は、撩の部屋へそっと入る。

電気をつけると、チェストを開けスウェットとトランクスを選び出した。

この前は、着替えを届ける前に撩がやって来たので、

その前に置きに行かなきゃと、大急ぎで脱衣所に向かう。



そおっとカーテンを開けてみた。

シャワーの音が扉越しに聞こえる。

とたんに顔が赤らんでしまう香。

やはりとてもじゃないが、この空間に一緒に裸で入るなんて、

恥ずかし過ぎて、到底出来そうにない。

脱衣カゴの中にあるパイソンを見ながら、

持って来た衣類をギクシャクしながらぱさりと置いた。

(さっさと買ったモノ片付けなきゃ。)

香は、足早にキッチンへ入る。



急々で冷蔵庫に入れる物はないが、

各指定席にそれぞれを移動させるのに手間がかかる。

一気に大量に買い込みをする時は、この作業が大変なのだ。

「缶はここっと、塩と砂糖の予備はこっちと。」

手を動かしながら、またさっきの思考に意識が向いていく。



(死ぬ訳にはいかない。生きなきゃ。

どんなことがあっても…。)



残された愛おしい男が背負わざるを得なくなるその重き責苦は

絶対に味合せたくない。



(ならば、逆は?)



もし、撩が先に逝ってしまうようなことがあったら。

撩のいない世界で生きる意味は見い出せない。

きっと、迷わず後を追ってしまうだろう。

その覚悟は出来ている。

撩を失うかもしれない恐怖は、今まで何度も何度も味わっている。

恐らく、これからも程度の差はあれ、それは繰り返されることは

容易に想像がつく。



(でも、逃げないから…。)



香は、目を閉じ持っていた最後の物品であるオリーブオイルの瓶を

両手でぎゅっと握った。



(あなたのパートナーであることから、逃げ出さないから、

そばであなたをずっと支えて行きたいから…。)



撩の命を守るためなら、自分の命は惜しくない。

奥多摩で撩の目を見ながらそう言い放ったのは、

間違いなく本心。

しかし同時に、撩に重い十字架を背負わせないためにも、

なにがあっても生き続けなければならない。

そして、もし撩が先に死を迎えたら、自分の死も迷いはない。



本当は、あまり考えたくないことではあるが、

あれから1週間、激変した関係の困惑の中で、

導き出した答えの一つを再確認する。

ふっと瞼を開け向きなおる。




「さ、終わった。あとは明日の朝ご飯か。」



持っていたものを所定の位置に置き、

なんとか気分を切り替えた香は、お米は夜の分まで研ぎ、

炊飯器の予約スイッチを入れた。

キッチンの後片付けをした後、香は脱衣所に続く廊下に向かう。



「あら?撩、まだ出てないの?

いやにのんびりしてるわね。珍しい…。」

香は、着替えを取りに行く前に、洗面所で歯磨きとトイレをすませ、

自室に戻った。



「あー、今日もあっと言う間だったわ。」



伸びをしながら、タンスを開けた。

着替えを取り出すと、廊下を歩く撩の気配を感じた。

キッチンに入る扉の音がする。



「あ、上がったわね。じゃあ、あたしも入ろ。」



香はパタパタとスリッパの音をたてながら脱衣所のカーテンを開けた。

湿度が高い。

服を脱ぐと、少し薄くなった撩のキスマークがいやでも目に入る。

かぁっと赤くなった香はぷるぷると頭を振って、

浴室の戸を開ける。



「あ。」

湯船がたまっている。

「……撩が、…してくれたんだ。」

てっきりシャワーだけで済ませているかと思っていたら、

お湯を溜めていたから時間がかかっていたことが分かった。



(ごめんね、またハンマー出しちゃって…。)



自分が湯船の準備をすべきだったと、

撩にセルフでさせてしまった申し訳なさも重なり、

自分にも湯船に入って温まれと言う撩の無言の指示に、

さっきの自分の行動へ若干の後悔を思う。



(だ、だってっ、恥ずかしいのはどうしようもないんだものぉ。)



照れが冷めないまま、

体と髪を洗って、湯船にゆっくりと身を沈ませる。

「あ…、気持ちいい…。」

快適と感じる温度と見事に合致している。

時間と比例して、じわりと芯まで温まっくる。



「ふ…。」



香は少し上向きに顔をあげ、目を閉じ軽く息を吐いた。

「明日で一区切りか…。」

手でお湯をすくって、ぱしゃりと顔を洗う。

「明日は10時には出なきゃね。」



明日のスケジュールをイメージして、しばらく湯に浸っていたが、

そろそろのぼせそうになってきたので、

ゆっくりと立ち上がり、シャワーのコックをひねった。

じんわりとかいた汗を少しぬるめの湯で流す。

滴が一通り流れ落ちたところで、香は脱衣所に出た。



「ええ??」



思わず声が出た。

カゴの中の着替えがなくなっている。



「はぁあ?どういうこと?」



代わりに置いているのは、

大きめのバスタオル1枚とフェイスタオルが2枚。

そして、いつもは洗面所に置いてあるドライヤーがタオルの上にあった。

カゴの中をよく見ると、いつも使う化粧水と乳液まで入っている。



「こ、これ、撩の仕業??」

香は、まだ事態が飲み込めない。

「あ、あたしの着替え、一体どこに持ってっちゃったのよっ!」



とりあえずこのままだと、湯冷めしてしまうので、

急いでフェイスタオルで体と頭を拭いて、

バスタオルを体に巻き、

訝しがりながら化粧水と乳液を施して、

ドライヤーで髪の毛をいつもは使わない強風の設定で乾かし始めた。



(なんだか、注文の多い料理店の逆バージョンじゃないっ!

何考えてんのよぉ、あいつはぁ〜。)



大急ぎで髪を整える。

「うー、肩が冷えてくるぅ。は、早くパジャマ取りにいかなきゃ…。」

とりあえず、ドライヤーと使ったタオルを洗濯機の上に置き、

さっきと同じように、

そおっとカーテンを開けた。



「きゃあああっ!」

「はい、ごくろうさん!んじゃ、行こっかぁ!」



一瞬のうちに、抱き上げられ、

お姫様抱っこになっていることに気付いたのは、

廊下の角を曲がった時だった。



「りょっ…!」



撩は一応、服は来ているが、自分が用意したスウェット上下ではなく、

一緒に持っていったノースリーブシャツに、トランクスだけ。



「カオリンのパジャマは、

ボクちゃんの部屋にちゃぁーんと運んでおいてあげたからぁ。」



トントントンと実に軽いステップで7階へ続く階段を昇って行く撩。

バスタオルだけしか纏っていない赤くなった香は

目をぱちぱちさせながら、口もぱくぱくと声が出せずにいた。

あっと言う間に、キングサイズのベッドがあるところまで辿り着く。

部屋の扉も器用に閉められ、サイドライトの淡い光源だけが目に入る。



「はい、到着〜。」



そっと香を横たえると、今日はやや厚手の毛布をふわりと被せて、

自分も潜り込んで来た。



「んじゃ、続きをしましょうかぁ〜。かおりちゃんっ!」



妙にテンションの高い撩は、覆い被さりながら、

Wの文字型になって投げ出されている香の腕に

手の平を尖端へ向かって這わせていき、

両手に指を絡ませた。



「つ、つ、つづっ?」



あっという間に寝具の中に連れ込まれた香は、

まだ驚きから抜け出せず、

火照ったまま、まともに単語も出てこない。



「朝の夢の続きでもいいしぃ、港の続きでもいいしぃ〜。

さっきのご褒美の残りでもいいしぃ〜。」



撩は、赤く硬くなっている香が愛おしくて、

ふっと柔らかい表情になる。



「……そんなに、カチコチになるなって…。」

「っだ、…だ、だってっ、…そ、そんなこと、ぃ、われてもっ。」



近過ぎる距離。

かかる息の音と湿度。

指の間から感じる心音。

触れている全てのとこから感じる温もり。

風呂上がりのシャンプーや石けんの匂いに混じる男の香り。

五感全てが得ている感覚が、

動と静が混合されて自分の中に流れ込んでくる。



「っま、まだ、な、な、慣れないんだから!

……っし、し、仕方ないじゃない!」



潤んだ目は眉間にしわを寄せて、きっと撩を見つめ返す。

「んと、かあいいなぁ〜。」

鼻先にちゅうと吸い付かれた。

「うひゃ!」

更にぼぼぼっと赤い色が香の肌に上塗りされる。

その唇の温度と感触だけでも、心臓が跳ね上がる。



「……いいか?」



少し切なさが混じった黒い瞳で、

20センチほど離れた場所から見下ろされる。

明日は寝坊が出来ないという心配や、

もしまた2ラウンドコースだったらどうしよう、と

少し戸惑いの色を見せるも、

香は、自分が写る撩の瞳孔を交互に見ながら、

赤い顔のまま、

眉を浅く八の字に寄せてゆっくりと目を閉じ、浅く顎を引いた。



ふっと呼気を軽く出した撩。

「……今日のテーマは、時短とステップアップだな。」

「え?」

撩は、パチっと目を開いた香を見下ろしながら自分の左手をほどいて、

香の頬に手の平をひたりと当てた。

少し冷めてきている柔肌に、カイロのような温かさが伝わる。



「ジ、ジタン?ステップアップ?」

「そ。……香、……逃げるなよ…。」



そう言うと、撩は顔の角度を変えながら、

香の唇と自分のそれとを、ゆっくり隙間なく重ね合わせた。


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第12部(1)へつづく。次はパス付きになります。






時短という言い回しが、1990年代にあったかは未確認。
たぶん、平成ではあたりまえの表現が、
CH時代には認知されていなかったものが多数あると思います。
知っていたり、気付いたりしたものは、
使い分けて行きたいところですが、
たぶん、いや間違いなく混在しての表現になるかもと。
時代背景、どこまですくい取ろうか迷うところです。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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