13-01 Alka Mackerel Fish

第13部 A Week After The Okutama Lake(全13回)

奥多摩から7日目


(1)Atka Mackerel Fish **********************************************************2753文字くらい



ふと目が開く。

ブラインド越しに、午前中の陽が差し込み、

ちょうど顔の上に帯を作る。

「あ…。」

パチパチとまばたきをした香はがばっと身を起こした。



すでに撩の姿はない。

目が覚めて、一人残されたのは、『あれ』から初めて。

「ね、寝過ごしたかしら?」

慌てて枕元のデジタル時計を手に取る。

8時ちょっと過ぎ。

「い、いけない!急がなきゃ!」



香は、飛び起きて閉まっている扉に向かったが、

あっと、足を止めてUターンをした。

そして、手早く寝床を整えて、窓を開けた。

出かける前の1、2時間で空気の入れ替えをしたいという目論見。

「うー、閉めるの忘れそ。」

冷えた朝の空気を感じ、思わず両腕で自分を抱きしめる。





「早く、お、降りなきゃっ。」

今度こそ、香は階段を駆け下りた。

廊下に続く扉を開けると、かすかに焼き魚の匂いが漂っている。

はっとして、香はキッチンに駆け寄った。

「ご、ごめん!寝坊しちゃったっ!」

戸を開けながら香は早口で謝る。

「あ、あれ?」

誰もいない。



すでに配膳がしてある食卓。

新聞まで取り込んでいる。

「なんだよ、今起しに行こうかと思ってたのによ。」

突然、相方の声が頭の上から聞こえた。

「え?」

振り返ると真後ろで見下げている撩。

「りょ…っ。」

水洗トイレの水が流れる音が耳に入り、

ちょうどすれ違いだったことを悟る香。



「せっかく、ちゅう〜で起してやろうかと思ってたのにぃ〜。」

タコちゅう顔で接近してくる撩に、

反射的に恥じらいミニハンマーをプレゼント。

「ぶっ。」

「きききき着替えてくるからっ!」

熟れたトマトのようになった香は、

ハンマーとキスをしたままの撩の横をすり抜けて

ばたばたと客間に入り込んだ。



「び、び、びっくりしたぁ〜。」

戸を閉めてへなへなと座り込む香。

顔を片手で半分押さえて、溜め息を吐く。

「も、もぉ〜、一体どう対処すればいいのよぉ〜。」

今日も、朝から今までの撩らしからぬ行動に、

心臓が早速バクバクしている。



「と、とにかく、は、早く着替えなきゃ。」

香は、昨日はタイトスカートとタイツ風ストッキングで、

若干足元が冷え気味だったので、

今日は、また動きやすいパンツスタイルで教授宅に行くことにした。

手早く衣装を変え、トイレと洗面所に行き、身支度を整える。




「お、お待たせ…。」

キッチンの扉をそっと開ける。

少し前に買っていた、小さめのホッケの開きがいい色に焼けている。

「おー、早く食おうぜ。冷めちまう。」

撩は、読んでいた新聞をテーブルに置き、

ちゃっちゃかと味噌汁を注(つ)いだ。

「あ、ご飯はあたしがするわ。」

香は、炊飯器から白米をそれぞれによそい、

ホッケ定食が完成。



「あー腹減った!いったらっきまぁ〜すっ!」

はぐっと小ぶりながらも脂の乗ったホッケの身を齧り、

味噌汁をずずっと吸って、

炊きたてのご飯を口に詰め込む撩。

箸を持った香は、メニューを見渡して、謎に気付く。

「……ねぇ、撩。」

「あん?」

まるでリスのように両ほっぺを膨らませている撩が視線を上げた。



「……あたし、あんたに、朝食何作るか言っていなかったわよね…。」

「あ?」

「まんまなんだけど、どーして?」

「は?」

ホッケの開きをくわえたまま、きょとんとする撩。



主食も、添えてある大根おろしも、

ホウレンソウのお浸しも、納豆も、卵も、焼き海苔も、

ワカメと豆腐と油揚げの味噌汁も、

フルーツのリンゴも、みーんな香が夕べイメージしていたメニュー。



ただし、特に分かるように用意していたのではなく、

在庫の食材で出来うるものを頭で考えていただけ。

誰にも伝えていないはずの、そのセットが見事に再現されていた。



「まんまって?」

もぐもぐしながら、撩が聞き返す。

「だから、これあたしが作ろうと思っていたメニューそんまんまなのっ!

ま、まさか、あんた、人の心が読める超能力でも持ってる訳???」

素で驚いている香に、吹き出しそうになる撩。

「んな訳ないだろ!」



ちょっと照れているのが、香にも分かった。

心理学的に、人間の行動や心中を読むのは、確かに得意ではあっても、

それが、SFっぽい超能力であるわけないと分かっていても、

そう思いたくなる程の偶然の一致。



「んなの、おまぁがいつも作っているヤツを参考にして、

冷蔵庫ん中にあるもん見たら、たまたまそうなっただけじゃねぇか。」

関心なさそうに、箸を進める撩。

他にも色々出来る選択肢はあったはずなのだが、

あまりにも見事な一致に、何がどう重なり合ったら、

こんなことが実現できるのか、香は不思議でしかたなかった。



「ほれ、おまぁもさっさと食えよ。時間ねぇんだろ?」

「あ、うん、…頂きます。」



まだ、納得がいかなさそうな、狐につままれた気分の香は、

茶碗を持って箸を伸ばした。

「おいし…。ありがと、撩。」

撩は、味噌汁にとどめをさすように、ずずーと飲んでいる。

「ごめんね、あたしがちゃんと起きれればよかったんだけど、

また寝過ごしちゃって…。」



お陰で、結構ぐっすりと眠れて目覚めの感覚も良く、

疲労もあまり残っていない。

一方で、食事の支度を撩にさせてしまったことを申し訳なく思い、

視線を下げる。



「夕べ、心配するなっつったろ?」

リンゴをフォークでぷすっと刺した撩は、しゃりっと食べた。

「予定がなかったら、ぼくちゃんなぁんにもしないもんね〜。」

照れ隠しと思われるその言動に、香はくすりと笑った。



「そういえば、えっと、誰だったっけ、

お隣のダンサーさん、…まい、

そうそう、次原舞子さんに会った時も、こんなの作ってたわよね。」

「あん?」

リンゴをくわえたままの撩は再度きょとんと顔を上げた。

「ほら、うちから食材持ち出して、

あんた勝手に朝ご飯作って、舞さん怒らせたじゃない。」

「あー、んなこともあったなぁ。」

「もしかして、あんた塩鮭とか焼き魚好きなの?」

「べぇっつにぃ、食えりゃあなんでも構わん。つーか、とっとと食え。

10時には出るんだろ?」

「あ、そうだった。……彼女、元気かな?」

「心配ないだろ。ごっそさんっ。」

ニューヨークにいるはずの彼女、香は暫しその思い出に塗られる。



撩は食器を持って立ち上がった。

「リビングにいるから用意ができたら呼んでくれ。」

シンクにかしゃっと器を重ねる。

「うん。」

香は、本当はゆっくり落ち着いて、撩の作ってくれた食事を味わいたいのだが、

この後、洗濯が控えているので、慌ててご飯をかき込んだ。



「急ぐと、また喉に詰まらせるぞ。」



撩は、通りすがりにそう言いながら、

香の髪をくしゃりとかき回して、キッチンを出て行った。

真っ赤になった香は、また固まってしまったっが、

はっと我に返り慌てて箸を動かし始める。



今日も忙しく過ごすことになりそうだと、

廊下を歩く撩も、テーブルで食事を急ぐ香も、

同時に同じことを考えていた。


*************************************************
(2)へつづく。





むむ、ちょっと撩ちんに飯作らせ過ぎかいな。
いや、とりあえず、関係が変わってからは、
「色々変わっちまった」ということで、
カオリンもびっくり〜という感じです。
マホッケの開き、大きいのが定番ですが、
以前20センチサイズも売られていたので、
これなら朝食向けにしてもいいかと。
やっと(新婚?)7日目です。
次の日になるのは、確実に年を超えてしまいます〜。
こんなスタイルですが、よろしければお付き合い下さいませ〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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