01-14 Uragami Family

第1部 After the Okutama Lake Side


(14)Uragami Famiry *********************************************************2927文字くらい




八王子を抜けて日野に入る頃、再び香が話しかけて来た。

「…撩…、あ、あのね…。」

「なんだ?」

「誕生日で思い出したんだけど…、あの盲腸で入院した時にね…。」

撩は、浦上親子のことがポンと頭に浮かんだ。

「まゆこちゃんと誕生日の話しでもしたの?」

「へぇ?なんで?」



このプロポース事件のことは、忘れようにも忘れられない。

香との別れを本気で覚悟していたくせに、それに耐えきれない予感を抱えていたあの心理状態。

息苦しさが心の端に甦る。



「…だって、ソニアさんが来た時、まゆこちゃん、

誕生日プレゼント持って来てくれたでしょ。」

香は続けた。

「…私から教えていなかったはずだから、

撩がまゆこちゃんに教えたってこと?」

香は、なぜ浦上まゆこちゃんが、香の作った俺の誕生日を知っていたのか、

「謎」の一つとして気にかかっていたらしい。



「あー、あれね。」

俺は香の疑問に素直に答えることにした。

「いや、実はさ、あの時、リビングで休んでいたら、

まゆこちゃんがさ、どぉーしても俺の誕生日を聞きたいって、

ガンとしてひかなくってな…。」

「え?それって、入院中じゃなくて、ウチに来てから?」

「そっ。教えてくれるまでそこから動かねぇっつーから、答えたの。」

「へぇー、そんなことがあったんだ…。」



今となっては、あの『波』も懐かしい思い出。

まゆこちゃんの勘違いだったとは言え、自分の中に『もしも』が渦巻き、

香が自分の元から去っていく想定を思い描くだけでも、言い様のない苦しさを味わい、

自分の本心といやおうなしに向き合わされた。



「いやー、あんときゃ、言い渋っていたらさ、まゆこちゃん、かなりしつこくってな、

どうして教えてくれないの?って、白状するまでくいついて離れなかったからなぁ。」

香は、リビングで2人が押し問答する様子を思い浮かべて苦笑した。

撩がどんな表情で、まゆこちゃんに、自分の誕生日を教えたのか。

押し付けがましいことだったかもしれないと、少し気になっていた

自分が作った撩の記念日。

その日付を、ためらいながらも、まゆこちゃんに言った撩の対応を、

なんだか、とても嬉しく思えた。



「今頃、どうしているかしらね。」

「親子3人、順調に仲良く暮らしているだろうよ。」

香の思考は、まだ思い出の中にあった。

あの入院生活のことや、山荘でレーザー銃に撃たれそうになった時のこと、

まゆこのプロポース予告を聞いた時のこと、

どれを思い返しても、今となっては懐かしいの一言だ。



「…あん時も、ホント色々あったなぁー。」

撩も同じように過去の記憶に思い巡らせていた。

「何が?」

「おまぁが、キャッツで倒れたって電話が来た時とかさ。」

始まりは、香の急性虫垂炎。

「病名を聞いてから脱力したわ〜。」

「何ですって?」

ちょっと不機嫌な顔になる香。

「い、いや、だからなぁ、美樹ちゃんも言ってだろ?

こんな商売しているから、毒でも盛られたんじゃないかって」

確かに、病院でそんなことを話していたようなと、香は思い出す。

「だから、電話で病名聞くまでは、けっこう焦ってたのっ!」

珍しく当時のことを正直に吐露する撩。



香の入院騒ぎから始まった、浦上親子との出会い。

最初の第一報で、自分はたぶん取り乱していた。



— 香、何があっても死ぬな! —

— 俺より先に逝くんじゃない! —



電話を受けて、「香が倒れて入院」という単語が脳に届いた瞬間、

頭の中は、最悪の設定ばかりが映像化された。

香を失うかもしれない恐怖が、一瞬で自分を包み込んだ。

自分が生死をさまよっても感じることのなかった恐怖感、

もう二度と味わいたくない思いだと、撩は思い返した。



病名を電話越しに聞くまで、

わずかコンマ数秒間だったが、あの時は、心底ほっとした。

(でもって、誰も見ていないのを分かっていても、

コスチュームファイルを出して自分をごまかしたりもしたがなぁ。)



それでも、入院中の香に優しくすることもできずに、おちゃらけていた自分を振り返る。

そこに、あの浦上親子の登場。

まさか、事件までからんでくるとは思ってもみなかったが、

揺れ動いた自分の潜在意識、長年抱えた想いが溢れ出るリミッターさえも感じた。



焦ったと言う、撩を意外だわと思いながら、香も続ける。

「まさか、撩も続けて同じ盲腸で入院するなんて、思ってもみなかったけどね。」

そう、山荘で自分が急性虫垂炎になったことも、もはや、今では笑い話だ。

正直、あの痛さは撩も、被弾したと勘違いするくらいだった。

その後、香の適切な機転と行動で、入院することになったのだが、

目の見えないまゆこちゃんと、激痛で動けない自分の2人を抱えて、

よく対処できたものだ、と思い返す。

(さすが、俺のパートナーだよ。)



「……勘違いでよかった…。」

「は?」

目的語のない香の突然の小さな呟きに、驚く撩。

「まゆこちゃんの勘違いで、本当によかったって、そう思ったの。」

当時の撩の心の声を、香が代弁した形になった。



「もし、…本当に浦上さんが私にプロポーズしていたら、

たぶん、…撩は私を表に返そうとして、きっと止めなかった、…そうじゃない?」

撩はギクリとした。

「もしかしたら、無理にでも、つきはなして、多少乱暴な言動をしてでも、

自分の元を去るようにすることを、考えていたんじゃない?」



あの時、入院最終日の夜に、

撩が抱えていた悶々としていた心理を、香は完全に読んでいた。

香は続ける。

「…私も、…本気で迷っていたの。

あたしなんかが、撩のそばにいたら…、撩が、…もっと危険にさらされる、

あたしのせいで、撩が死ぬようなことがあるくらいなら、

…パートナーを辞めた方が、いいのかなって…。」

香はくっと唇を噛み締めた。



「でも…、それでもね、

……あたしは、撩の傍にいたい、離れたくないって思っちゃって…。」

すんと鼻をすする。

撩の身の安全よりも、自分の欲が勝るような心理に、

自分の弱さと醜さを改めて思い起こし、情けなくなる。



「…香。」

撩は、香に視線を向けた。

香があえて口に出さなかった部分まで、その口調と表情で読み取れる。

冗談抜きで、連れて行かれるかもしれなかった事実に、

浦上のプロポーズの相手が違っていたことが、どんなに幸運だったかを知る。



「……離れる必要なんか、もうないだろ?」

香の肩がぴくっと動く。



(俺も…、まゆこちゃんの勘違いで、ほっとしたよ…。)

思っても言葉には出来ず、抱きしめたくなる衝動が込み上がって来る。

しかし、今はハンドルを握っている。

高速での脇見運転を承知で、首を少しのばして、香の髪にキスをし、その衝動を流した。

もちろん、すぐに向き直って安全運転に切り替えたが。

「…りょ…。」

赤く染まった頬で撩を見上げる香。

「お、もう高井戸か。新宿までもうちょいだな。」

近付く道路標識を目で追いながら、話しの流れを変える軽い口調を発する撩。

「……早いね。」

撩の腕に寄り掛かり直し、頭の居場所を落ち着かせる。

「あぁ、おしゃべりしてるとな。」



奥多摩を出た時、最初は、きっと香は疲れて寝てしまうかもしれない、

と思っていたが、会話のネタにつきない。

依頼人の話しや、槇村の話題、共通の思い出に、時間はあっという間に過ぎ、

新宿インターへ降りていった。


*******************************
(15)につづく。






私の中ではまだ答えが出ていないのですが、
第234話の香が入院した一方を受けた撩の
「なにぃ 香が!?入院っ!?」のセリフと表情。
これ、素なのかフェイクなのか、
判断材料がないんですよね〜。
作品中、撩の「素」が出るコマって少ないので、
これも電話先の
美樹ちゃんor海ちゃんorかすみちゃんに対してのフェイクで
やや取り乱しの感を演じているのか、
それとも本気で紡がれた言葉なのか、
次頁の「撩ちゃん編纂都内制服一覧②」の登場を見ると、
やっぱりフェイクか?と思いたくなりますが、
答えは北条さんじゃないと分からないか。

【改変しました】
アドバイスを頂き、一部改変致しました。
2014.01.10.

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
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