13-08 Transmitter & Bug

第13部 A Week After The Okutama Lake

奥多摩から7日目


(8)Transmitter & Bug   ************************************************3323文字くらい



家路に向かうクーパーの中で、

撩はおもむろに、

ポケットからキラリと光るものを取り出した。



「これ、教授がおまぁにって。」

「え?」



ぽんと手に乗せられたものは、

ピンク色のサクラソウをかたどったブローチ。

緑色の葉っぱも忠実に形造られている。

「え?え?何これ?」

「盗聴器兼発信機だと。防水機能付き。

裏の小さな穴のポッチを針で刺すと起動すっから、スイッチのオンオフ忘れんなよ。」



香は、目の高さにまでブローチを持ち上げ、

まじまじと観察する。

「こ、これ、可愛過ぎて、あたしには似合わないわよ。」

このセリフに撩の胸にちくりと何かが刺さる。



「心配するな、フォーマルカジュアル両方対応できるデザインだし。」

できたらここで、それに似合う服を買ってやるよ、

とでも言えればいいのだが、

妙なプライドが邪魔をして、とてもじゃないが、音に出せない。

「そ、そうか、な?じゃ、じゃあ、つける時はちゃんと言うね。」

香は、ショルダーバッグにそっとそれをしまう。



これまでの、発信機や盗聴器は、

おおむね教授に注文して作ったものだ。

柏木圭子の時に、初めて香に発信機を付けていることを伝えたのだが、

それまでは、当然一緒に洗濯されて防水機能も低かったので、

すぐに壊れてしまい、

かなりの頻度で発信機付きボタンの縫い直しをこっそりとしていたのだ。



注文する度に、

教授にはなぜ内緒にしておくのかと、散々からかわれたが、

発信機のことを香に教えてからは、破損が殆どないので、

暫く追加の品は必要なかった。




「ねぇ、撩…。」

「あ?」

「いつごろから、あたしに発信機付けてたの?」

香は、前々から気になっていた質問を、思い切ってしてみることにした。



「あーん?言ってなかったけか。」

今この場で、この問いが出てくるとは思っていなかった撩。

「うん、柏木さんの時に初めて知って驚いたもん。」

撩は、正直に言ってしまおうか、やや躊躇する。

しかし、関係が変わった今、

隠しておくことも得策ではないと思い、

この後のこともある程度予感しつつ白状することにした。



「えーと、……最初、から…。」

「え?」

「だ、か、ら、…初めっから…。」

「えええーーーーっっっ!」

いつもよりオクターブ高い声が車内に響く。

撩の耳にも突き抜けた。



「んなに驚くなよぉ。」

「だだだだって、それってっ、あたし、まったくプライベートなかったって訳じゃない!

ししししかも、盗聴器にもなってんでしょお!」

香は真っ赤になって、顔を両手で覆ってしまった。

このままだと、車外に飛び出かねない。



「あー、ちょっと待てよ、24時間監視ってワケじゃないだろうが。

おまぁに何かあった時にしか、チェックしないもんだから、

そんな四六時中追いかけたり聞いていたりしねぇって。

盗聴器付きだってあまり付けてなかったし。」

「だって!し、し、知っててつけるのと、知らずにつけさせられているのじゃ、

全然違うわよ!」

まだ顔を押さえている香。

「あーんっ、てっきり柏木さんの時より、少し前からだと思ってたーっ。」

「たいして変わんねえだろ。」

「たいして変わるわよっ!」

「第一、おまぁ、ボタン付きの服そのものを着ることが少なかっただろうが。」

「う…、そう言えば…。」

立木さゆりと一緒に拉致された時、トレーナーだったことを思い出した。



「それに、一緒に洗濯しちまって、すぐ壊れたから、

そういくつもつけていた訳じゃないって。」

「もっと、は、は、はやく、教えてくれればよかったのに…。」

「あー、それはだな…。」

(うー、言えん。お前を守るために、針仕事してたって、言えん…。)

「香ちゃんが、よそにオトコつくってないか確認しなきゃと思ってたからよん。」

言い終わった直後、車内でハンマーが炸裂。

「く…、こ、この狭いところで、よく100トンが出せましたね、か、香ちゃん…。」

「運転に支障がないように、微調整はしましたんで…。」



香はやや上向きで、大きく溜め息をついた。

再び左手で両目を隠す。

もはや、いつどんな服を来て、どんな独り言を零したか、

正確な記憶をたぐり寄せることは不可能と断言できる。

ボタン付きの服を着ることが少なかったのも事実で、

どこまで撩が発信機を使っていたか、

今では知る術もない。



ただ、撩と暮らし始めてからの初期の頃、

絶対に聞かれて欲しくない独り言、泣き言を

自分の部屋で声に出していた自覚がある。

兄を失ってから、

突然降り掛かる強烈な喪失感に、何度も涙を流し、嗚咽していた。



発信機の存在を知ってからは、意識して拾われないように、服を確認していたが、

まさか最初からだったとは、結構なショックを受けた。

自分の弱い部分が丸出しになった声を、撩が聞いていないことを、

ただ祈るしかなかった。



いつまにか、ハンマーが消え、

普通に運転している撩がぼそりと口を開く。



「……おまぁが心配しているようなことは、聞いてねぇーから安心しろ。」



香の肩がぴくりとぶれる。

「…………それって、…聞いちゃってる、って言っているのと同じよね…。」

「…あ、れ?」

「……りょ、……知ってるんだよ、ね…。」

「だから、聞いてねぇって。」

香は、まだ手で目を覆っている。

「もう、5年も6年も前の話しなんて、撩ちゃん記憶上書きされて、きれいに忘れてんの!」



「………。」



「だから気にすんなって。」

お互い口に出さずも、何を聞いたのか聞いていないのか、

明確にイメージされる。



(やっぱ気付いちまった、か……。)

運転中であるが、撩は最後の手段だと、左腕を伸ばし強引に香の肩を抱き寄せた。

頬と肩が触れると、そのまま香の髪の毛の中に指を絡ませる。

香が何に気付いてしまったか、手に取るように伝わってきた。

小さく肩が揺れてる。



「…ご、…め、…なさい。りょ、撩に、…言っちゃいけないことを、

…あ、あた、しは、…。」

(あーもぉー、どうして、こいつは、どーでもいーことにこんなに敏感なんだぁ?)

「だー、かー、らー、何にも聞いてねえって。聞いてても覚えてねぇって。」





『アニキ、…どうして?』

『アニキとあいつが、…出会わなければ、

アニキはこんなに早く、…死ななくてもすんだかもしれないのにね…。』

『たった1人の家族だったのに…。』

『あたし、…これからどうしたらいいの?』





まだ、香が自分のことを『オレ』と言っていた頃。

香の内なる心の悲鳴は、

普段の生活では、決して垣間見せることはなかった。

ただ一度だけ、

明らかに様子がおかしいと感じ、病気じゃないか確認するために、

撩はクーパーの中で発信機をオンにしてしまったことがあったのだ。

撩もまた、胸が潰される思いだった。

すべて紛れもない事実。

自分と関わりさえ持たなければ、

違う生き方をしていたであろう兄妹の行き着いたところに、

深く暗い懺悔の海に突き落とされる思いもあった。



信号が赤になる。

停止線で止まるクーパー。

撩は、ふぅと息を吐いて、抱き寄せている香をさらに引き寄せ、

右手で香の左手首を掴み、顔から手の平をひっぺがした。



「ぁっ…。」



泣き顔でぼろぼろの香にそのまま、すくい上げるように唇を重ね、吸い付いた撩。

夕方5時台後半、もう辺りはライトが必要なほどの暗さだが、

横断歩道を歩く通行人の一部がそれに気付き、

目を見開いて口を押さえる女性、

ひゅうっと口笛を吹く若者と、それぞれに反応している。



「んんっ…。」



撩は静かに目を閉じ、ぱくぱくと香の唇に刺激を与える。

歩道の信号機が点滅し始めたところで、ちゅぽんと離れた。



「はぁ…。」



右手をハンドルに乗せ、

左手は香の左肩を包んだまま、撩は諭すような口調で話し始めた。



「いいか、香。何度も言うが、俺は何にも聞いていないし、何も覚えていない。

お前が、今気にしている中身は知らんが、

とにかく何にも聞いていないから、安心しろ。」

アクセルを踏んで前進する。



「りょ…。」

「いいか?わかったなら、返事しろ。」

笑顔で迫られる。

「…ぅ、…うん。」

眉を浅い八の字にした香は、これは撩の配慮だと直感的に感じていた。

きっと聞いている。

口走ったことを後悔してもしかたないが、

撩を傷付けたことには間違いない。

それを、こうして解決しようとする撩の気遣いに、

ぐっと胸が押さえつけられる。



「早く帰って、メシ食おうぜ。」

「うん…。」

香の肩を抱いたまま、

スピードをあげてアパートへ向かった。


*********************************************
(9)へつづく。






おもいっきり捏造です。(基本捏造だらけだけどさ…)
公式には、柏木圭子の時に初めて香に発信機をつけていたことが明かされますが、
当サイトでは、香が撩のアパートに引っ越してきた時から、
安全管理のために香に内緒でこっそり付けていたということにしております。
それを言うか、言うまいか、短い時間ながらも結構迷い、
関係が変わったという背景の元、
正直に伝えてしまったシチュを作ってしまいました〜。
これは、カオリンでなくてもショックは大きいと思いますが、
初期の頃から持っていた、香を守るという撩の強い決意の現れの一つとして、
カオリンにも受け止めてもらいたいと思います。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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