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13-09 Seven Times Dinner

第13部 A Week After The Okutama Lake

奥多摩から7日目


(9)Seven Times Dinner   ***************************************************3990文字くらい



「さぁて、今日はどうやって、

上まであがろっかなあーっ。」



アパートに着き、

車庫のシャッターを閉め、

クーパーに鍵をかけると、

助手席から出てきた香に、

撩はつと詰め寄った。



「え?…あ、…ぅ。」



まだ、

若干気分がブルーなままの香。

鼻が付きそうなくらいの超至近距離に

思わずのけぞるが、

ミニの車体が邪魔をして

それ以上体を動かせない。

しかも撩の表情はおふざけでなく、

香が弱い少し笑みの混じったノーマルの真面目顔。

顎に温かい指がつと引っかけられた。



「んんっ…。」



唇が触れる直前に慌てて瞼を落とし、

甘い衝撃に必死に耐える。

「1週間前と一緒でけってーい♡」

口を合せたまま撩はそう言うと、

真っ赤になった香をひょいを担ぎ上げ、

そのままスタスタと階段を昇り始めた。

歩く震動が

接触している唇から一緒に伝わってくる。



奥多摩から帰ってきた時、

同じように家の扉まで昇っていった。

しかし、

今回はその時より深く撩が入ってこようとする。

火照る香の体を支えている右腕も、

あの時より香を寝かせる形になり、

前は撩の首にまわしていた香の腕も、

撩の腕に必死にしがみついている。



「ふ…、う…、…んん。」

体が熱くなる。

「りょ…。」

少し隙間が出来た口から、

思わず名が零れ出た。

「……気分転換できたぁ?」

撩は唇を合せながら、

そうおちゃらけて聞いてくる。



もう玄関前に着き、

撩の左手は

香を支えたまま器用に動き鍵を開け放つ。

「足、気ぃつけろ。」

ドアの端にぶつけないように注意が促され、

香は伸び気味だった膝小僧から下をくっと下方に向けた。

やっと上体を起こした撩は、

香を抱き上げたまま、くるりと半転して、

玄関に入った。

「ほい。」

静かに降ろされる。



ずっと目をきつく閉じていた香は、

ゆっくり瞼を上げた。

「はぁ…。」

少しよろけてしまい、

撩の腕をひしっと握り込んでしまう。

「…な、なに、考えてんのよ、あんたは…。」

真っ赤な顔をしたまま、

やや荒くなった息でそう聞き返した。

「んー?だから気分転換♪」

ふらつきながら靴を脱ぎ終わると、

用意されたスリッパに目を見開く。

撩はもう自分のそれを履いて

先に階段を上がろうとしている。



「ほんっと、信じらんないっ……。」



前はこんな気遣い、

自分には絶対するようなヤツじゃなかったはずと、

家に戻ると余計に、

あの奥多摩前後の変化について行けず、

驚き、混乱し、たじろいでしまう。

「かーおりーんー、早くメシにしようぜー。」

呼ばれて、はっと我に返り、

溜め息をつきながら自分も撩の後を追った。



赤らめた顔で広い背中を見つめながら、

あのことは聞かなければよかったと、

さっきのことを未だに後悔していた。

今や、

発信機と盗聴器を携えるのは日常ではあるが、

意識をしていなかった時、

漏れ出た音はもう戻せない。

撩の気遣いがまたちくりとくる。

自分を守るために施されたものであるのに。



(ごめんね、撩…、

 もう、あの時のようなことは考えてないから…。)

きゅっと目を閉じ、

心の中でそっと詫びる。



「メシの準備はすぐ出来んだろ?」

廊下を歩きながら、

振り返り気味に撩が尋ねてきた。

「え?あ、うん、全部温めるだけだから…。」

「んじゃ、りょーちゃん、とーいれっ!」

そのまま撩は脱衣所の方向に、

がにまたスタイルで進んで行った。




「……さっさと作ろう。」



香は、

キッチンに入ると荷物を置き、

手を軽く洗って、

エプロンを素早く身に付けた。



まずはコンロに火をつける。

ハヤシライスを温める鍋、

ミニハンバーグを焼き上げるフライパン。

その間に、

先に卵をとき、

冷蔵庫からサラダの材料を出して、

切り分けと盛り付けをささっと済ます。

レンジでご飯とスープを温め、

別のフライパンを用意して、

強火で熱したら、オリーブオイルを馴染ませ、

半熟プチプレーンオムレツを作る。

平皿に盛ったご飯の上に、

ハンバーグとオムレツを乗せ、

ハッシュドミートをかけ流せばほぼ完成。

彩りに鉢からちぎったイタリアンパセリを飾る。

スープを配膳すれば、

いつもの食卓が整った。



そこへ撩がキッチンへ入ってきた。

「お!前より豪勢じゃん。」

顔を明るくして席につく。

香はドレッシングをテーブルに置いて、

ヤカンに弱火で火をかけた。

「じゃ、食べよ。」

香がエプロンを外しながら席につくと、

撩は『待て』も出来ないとばかりに、

スプーンに手を伸ばした。

「いっただっきまーす!」

いつものように、がつがつとスプーンでかき込み、

頬袋を膨らませている。



「あー、あんた、

 お昼ごはん満足に食べずに席立っちゃったから、

 お腹減ってたんでしょ。」

「んあ?」



香は、

撩が数人分食べることを見越して作った豚汁が

思いの他余ったので、

かずえ達の夕食の主菜を煮込みうどんに変更したのだが、

撩は、教授の話しを嫌がって

おかわりをせずに逃げたのだ。

それを思い出して、

今の撩のがっつきように納得する。



「べぇっつにぃ〜。」

撩はもしゃもしゃしながら答える。

「ボクちゃん、いざとなれば、

 3、4日食べなくても平気だもーん。」



お気軽モードで返ってきたそのセリフに

香はギクリとした。

教授宅で、

何度か話題に上がった戦場での食生活。

満足に食べられることからは縁遠い世界。

そんな場所で育ってきたとなれば、

今のセリフも当然、

そんなことを考えながら、

香は自分の前の食事を見つめた。



「……そうね、

 …食べられるだけ、有り難いわよね。」

ぱくっとハヤシライスを口に運ぶと、

いつもより何となく味わい深く感じた。

それが、ましてや愛しい人と囲む食卓であれば

なおさら贅沢さが増す。

お互い、生きて屋根のあるところで、

温かい食事をすることが出来る、

今までごく当然と思っていたことに、

無性に感謝の念が湧いてきた。

誰のお陰で今、こうしていられるのか。

香は、じわっと頬を赤らめた。



「んあ?どーかしたか?」



視線を上げた撩が

目を少し大きくして香を見る。

「え?…う、ううん。な、なんでもないよ。」

赤い顔のままぶんぶんと首を振る香に、

きょとんとしながらも、

既に皿をほぼカラにしている撩。

「あ、お、おかわり、あるわよ。」

「たのむわ。」

香が立ち上がり平皿を受け取った。



正直、嬉しい。

自分が作った物におかわりを求められることに、

兄と暮らしている時も

そうだったと同じ思いを振り返る。

同じセットを用意している間に、

撩はさっさとサラダを平らげてしまい、

おかわりを受け取った。



「はい、どうぞ。」

「サンキュ。」

つと触れた指先に、またドキリとする。

肩が揺れた香を見て撩も薄く笑う。

「おいおい、皿落とすなよ。」

「あ、ご、ごめん。」

慌てて片手を添え、丁寧に渡し直す。



「んと、香ちゃんて、ウブよねぇ〜。」

撩はオネエ言葉で、

スプーンを持ったまま頬杖をつく。

「っな、なによっ。」

席に座り直す香を視線で追っている相方を気にしながら、

ちょっとふてくされる。

「当分、慣れないって前から言ってるじゃないっ。」

かっかと言い返しながら、

香は主菜を頬張った。



まだあれから1週間しか経っていないのだ。

しかも、濃密過ぎる7日間の流れ。

ころっと変わった相方の態度に、

脳が追いつかない。

撩は、おかわりのハヤシライスをかき込みながら、

香をちらっと見る。



「まぁ、慣れさせる努力は惜しまねーから、

 そのつもりでなっ。」

ぼんっ!と頭部が爆発するかと思うほどに香の顔は赤くなった。

耐えきれず左手でこめかみを押さえる。



「……な、なんかね。

 …不満、って訳じゃないけどさ…」

香が頬を染めたまま話し始めた。

「今までずっと…、

 あんたに女扱いされなかったこと自体が、

 なんか、…こう、

 パートナーとして

 傍にいられる特権?みたいな感じを持っててさ、

 こんな関係になったら、

 …もうここにいられなくなるとかと思ってたし、

 そもそもあんたが、

 絶対望んでないって考えていたから、

 きゅ、急過ぎて、

 やっぱり色々気分が追いついていないのよね…。」



かちゃりと香のスプーンが音をならす。

撩は、最後の一口を頬張りながら、

低い声小さなで一言返した。



「望んでいなかった、…訳ないだろ…。」



極小の音量で聞こえた呟き。

「え?」

「おまぁこそ、

 俺を男として見ていなかっただろうがっ!」

急に口調を強くして、不機嫌顔で膨れる撩。

口に運ばれるモノが勢いを増す。

「はぁ?」

「平気で、

 俺の前でキャミソールとか、ミニスカートとかで、

 肩やモモ露出したり、ヘソ出したり、

 無防備にソファーで寝ちまったりっ、

 それこそ

 オトコに襲って下さいって言っているようなもんなんだぜっ!」



「は?」



むすっとした顔で撩は続けた。

「あー、ボクちゃん、

 よくガマンしてたよなー。俺って偉い!」

撩の訴えに、キョトンとする香。

「ごっそさん!あー食った、食った。」

撩は食器をシンクに運び、

戻りすがら香の髪をくしゃりとかき回した。



「夏の薄着は、俺の前だけにしろ。」

「は?」

撩は、そう言い残してキッチンを出て行った。

香は、スプーンを持ったまま、石化中。



「なに、…それって。」



自分には、

色気のかけらもないと思い込んでいる香にとって、

自分がどんな格好をしようと、

撩は無関心と思っていた。

まさか、それをガマンしていたと零すとは、

全く想像だにもつかないことに、

また屈折した思いが過(よぎ)る。




「顔は隠していた訳じゃないわよね…。」




以前、

拓也に撮影された自分の下着姿の写真を思い出した。

自分の顔やヘアスタイルを変えた時の撩の反応に、

若干の共通項を感じる。



「アルマ女王の身代わりになった時も、

 撩もっこりしてたわよね…。

 あ、そうそう水着のオーディションに出たときもだわ。

 ったく、あいつ、あたしをどーゆー目で見てたのよっ!?」

はぐはぐと口を動かしながら、

昔のことを思い巡らす。



「……撩は、…いつから、なんだろう…。」







— 望んでいなかった、訳ないだろ — 




かすかに耳に届いたさっきのセリフが蘇る。

いつから、そう望んでいたのか。

今思えば自分は、

出会ったあの17歳のころからもう、

撩に心を完全に奪われていたのだ。



「ううん!もう、どうでもいい!早く食べよ!」



香は、顔をぶんぶんと振って

目の前の食事を片付けるのに専念した。


**********************************
(10)につづく。





鈍感カオリン、このあたりはまぁーだ納得がいかないようです。
撩ちんには、今後も色々とフォローしてもらわんといかんので、
ひとつひとつ乗り越えて行きましょう〜、って感じです。
ところで、キッチンのガスコンロは2口しかなかったわよね…。

【タイトルに「s」足りませんでしたっ】
「Seven Time Dinner」に複数形付け忘れ!
「Seven Times Dinner」に修正いたしました!
Tさんありがとうございました!
&ちょっと改稿。
(ほんと下手くそな文章だ…(><))
(20190.04.21.13:01)



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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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