13-13 An Alam

第13部 A Week After The Okutama Lake

奥多摩から7日目


(13)An Alam ***************************************************************4418文字くらい



玄関の扉を開けると、

6階吹き抜けの部分から明かりが漏れている。



「……起きているのか。」



フロアにわずかな気配がある。

階段を上がると、

書籍コーナーの端で香を見つけた。



壁際にあるテーブルにうつぶせになって、寝息を立てている。

傍らには、銃火器と火薬の専門書に、救急救命の関連書籍。

撩は、時折香がこうして自習しているのは知っていたが、

こうして痕跡をまともに見たのは初めて。



香も、ここに並んでいる資料やらなんやらを

自分が読んでいることを撩に知られるのは

なんとなく抵抗があり、

極力痕を残さないように心がけていた。



既に入浴もすませパジャマ姿、

上着を羽織ってはいるが、この時期この空間はかなり冷える。

「香。」

声をかけてみるが、深い眠りのため無反応。

撩は、そっと左耳に触れてみる。

「冷えてんじゃねえか。おい、香、起きろ。」

「……ん、…え?」



目をパチっと開けて、がばっと上体をおこした香。

「あ、お、おかえり。やだ、いつのまにか、うたたねしちゃって…。」

目をこすりながら、前後の記憶をたぐり寄せる。

「は、早かったわね。てっきり明け方かと思ってたけど…。」

自分を見下ろす撩を見上げながら、香は尋ねた。



「行くとこ行くとこでからかわれちまった。早く帰れって、追い返されたよ。」

「あら、それは残念ね………、って、

ええっ!?お店の人も、もう知ってるのっ???」

「ああ、そうらしい。」



珍しく勘が働いた香は、

撩の一言で、新宿界隈に自分たちのことが

知れ渡っていることを知ってしまった。



「はぁ…。」

大きく溜め息をつく香。



「……ご、ごめんね、撩…。

あたしなんかと、そんなウワサが広がるの、…気分、良くないよね…。」



伏せ目で視線をそらしながらそう呟く。

これには、自分にも香にも少々腹が立った。



「おまぁは、どこまで自分を卑下すれば気がすむんだ?」

「え?」

言葉と同時に左上腕を掴み、立ち上がらせると、ばふっと自分の胸に引き寄せた。

「わわっ。」

「お前がよければ、みんなの前で見せつけてやってもいいんだぜ?」



色気色香のある香を他の連中に見せつけてたまるかという、裏腹な思いはあれど、

香の文言をこの表現で否定する。

撩の腕の中にすっぽりと収まった香は、

突然のハグにまだ頭がついて行かず、目をくるくるさせて撩を見上げる。

冷えていた体が温められる。

冷たい右頬に撩の左手が添えられる。

熱が直接伝わってきた。



「それに、ウワサじゃなくて、事実だろ?」



ゆっくり顔を近づけると、香は肩をすぼめてきゅっと目を閉じた。

アルコールの匂いが近くなる。

「あ、…こっちにしとく。」

その声と同時に前髪をかき分けられ、額に温かく柔らかい感触を感じた。

「え?」

イメージより15㎝ずらされた接触。

瞬時に赤くなった香は、パチッと瞼を上げた。

「風呂入ってくっから、先に上に行ってろ。」

撩は、すっと離れると香を置いて脱衣所に向かった。



でこちゅうだけで真っ赤に熟成してしまった香。

「み、み、みんなの前でなんて、ぜ、絶対ムリっ!」

香はぶんぶんと火照る顔を振る。

しかし、てっきり唇にくると思っていた本日4回目のキスが

おでこに急きょ変更となったことに、

やや驚くも、やはり照れと恥ずかしさで一杯一杯。



「うー、どこのキスでも、やっぱり、心臓が止まりそう…。」



まだドキドキしている胸を押さえながら、

香は、本を戻して書籍コーナーの蛍光灯を消した。




ゆっくり7階への階段を上がっていく。

撩の部屋の扉を開けると、固まってしてしまった。

「先に上がってろって言われたって…。」

まるで男が来るのを待ちわびるかのようなベッドでの待機に

恥ずかし過ぎて、なかなか1人で撩の寝床に入れない。



「ど、どうしよう…。」



しばし、迷っていた香は、何かをひらめいた。

「あ、…そうだ。」

また6階に戻り、書籍コーナーの棚下から、

工具箱を持ち出して来た。

再び撩の部屋に入ると、ベッドのサイドランプを一番明るい照明に調節し、

壁際のソファーの端を押し始める。

「よいっしょっと。」



ずずずずと引きずりながら移動したソファーの下には、

抜け道の四角いフタが出てきた。

香は、上着をソファーの上に放り、抜け穴の入り口をパカと開けた。

以前、2度程トラップで煤だらけになり、

掃除をして以来かまっていなかったのだが、

香は、ここにあるものをしかけようと、工具箱の中から必要な小道具を持って、

ペンライトをくわえ、抜け穴に降りて行った。





一方、撩は脱衣所に入ると、カゴの中を見て、眉があがった。

すでに、着替えが用意してある。



「よく出来た相棒だこと。」



嬉しさに、らしくもなく胸がくすぐったくなる。

しかし、これを全部は使わない予定。

「上にちゃんと持っていくから許してねん。」

ご機嫌モードで、衣類をポポンと脱ぎ、シャワーで髪と体を洗った。



新宿の歓楽街の店舗をハシゴすると、

店内の匂いが意外と付くもので、自分の吸わない銘柄のタバコの匂いに、

ホステスの香水の匂い、食べ物の匂いと、

複数の匂い物質を付けて帰ることになる。

香の匂いを堪能するのに邪魔になるので、なるべく念入りに洗いたい。



それに今の季節、寒くて乾燥する故、

不特定多数の人間が集る場所に長く滞在すると、

余計な雑菌も纏わり付いてくる。

さっきは、つい湿っぽい口づけをしようと近付いたが、

風邪の菌でも連れて帰っている可能性もゼロではないので、

寸前で目標地点を変更した。



香とケジメをつけてからの初めての夜の巡回に、

自分でも驚く程、

これまでと違うことを考えている様にくすりと口角が上がる。



とりあえず大急ぎでシャワーをすませ、浴室を出た。

体や髪を拭くのも省略したい気分だが、

そうもいかないかと、最低限の時間で終える。

トランクスだけ履くと、香の用意した衣類を手に持ち、洗面所に入った。



歯を磨いて、ドライヤーで頭を適当に乾かす。

指先に触れる頭部の傷が、鏡に映る度に、

よくこのラインで皮膚を抉(えぐ)ってくれたものだと、

偶然の弾道に感謝さえしたくなる。



「さて、上に行きますかね。」



首にタオルをかけたまま、撩は廊下に出た。

ふと、おかしな所から、おかしな音がする。

「なんだ?」

上を見上げる。

たぶん、自分の部屋のソファーの下の抜け穴から続く秘密の通路あたりが発信源。

やや足を早めて、自室へ向かった。



「香?」



部屋はベッドボードのライトだけが付いている。

開きっ放しの扉から覗くと、そこには香の姿はなく、ソファーがずらされていた。

四角い穴の脇には電気工具入れ。

撩は、扉を閉めて衣類をチェストの上に置き、ソファーの方へ歩み寄った。



「へ?なにやってんだ?あいつ。」



穴の奥から、金属音と人が動く音がしていたが、やがて一仕事終えた香が、

床からひょこっと顔を出した。

「あ。」

しゃがんで自分を見下げるトランクス姿の撩と目が合う。



「なぁにやってんの、おまぁ。」



そういいながら手を差し出す。

パンツしか履いていない撩の姿に目を開いて驚いたが、

香は目の前の大きな手の平に、

ちょっと照れながらも、ゆっくり右手を出した。



「あ、あのね、侵入者に反応するセンサーつけてたの。」

引き上げられながら、そう小さな声で答える香。

「センサー?」

「うん。」

香は、ぱんぱんとパジャマについた埃を払って、

工具箱にドライバーやらペンライトをしまい込んだ。

その間に、撩はパタンとフタを閉めて片手でソファーを元に戻す。



「ここって、下に抜けられるけど、

逆から人が上がって来たとき警報がなるようにしたの。」

「ふーん。」

撩は、どさっとソファーに座った。

このタイミングで何をやってんだかと、若干困惑したが、

この部屋で大人しく待てるまでに至っていない香の心理を読み苦笑した。



「こ、これ、しまってくるね。」

香は、工具箱と電気工具セットを持ち上げようとしたが、

ものを手に取る前に、撩に体ごと引っ張り込まれた。



「んなの明日でいいって。」

「あっ。」



2人の声と、体がぶつかり合う音が重なった。

「ったく、風呂上がりに、体が冷えることばっかりしやがって。」

撩が香の背もたれになっているような体勢に、香はわたわたと暴れ始める。

「ちょ、ちょっと、撩!」

背中に当たる大胸筋に、腰に巻かれた太い腕、

自分の太ももの外側と撩のそれの内側が密着する。

撩は香の右耳の後ろに鼻を埋めた。



「な、なんで、あんたパンツしか履いてないのよっ。ちゃんと服置いてあったでしょっ?」

赤くなりながら、くすぐったさで身を捩る。

「だぁーって、すぐ脱いじゃうんだもん。」

そういいながら、後ろから撩の熱い唇が香の首筋をゆっくり往復する。



「…っあ。」



撩の腕が、後ろから自分の体を包みながら広範囲をさすり上げる。

腰の部分に熱い物がつんと当たる。

それに気付いた香は更に赤さを増す。



「これから、冷えた香ちゃんを、

ゆーっくり、あっためてあげようかと思うんだけどぉ。」



耳朶に唇を寄せながらそう言う撩。

どっかで聞いた台詞だわと、思い返しつつも、

香はその意味を掬い取り、

恥ずかしさと緊張で体がピキンと硬くなる。



「この提案、反対?」



ちょっと意地悪っぽく尋ねる撩に、

香は、これは同意を確認してるんだと、なんとなく感じた。

これまでも、毎回自分の意思を伝える機会をもらっている。

撩の気遣いに、胸の奥がきゅうっと絞られる。

喉の奥がつまってしまい、うまく声が出せない香は、

目を硬く閉じたまま、ふるふると首を小さく横に振った。



撩のふっという呼気が耳のすぐ傍で聞こえる。

「んじゃ、ベッドに行くか!」

そういいながら、撩は香の顎を救い、唇に吸い付くと、

そのままお姫様抱っこで抱き上げて、ベッドに向かった。



「ん、んん…。」



口を合せたまま、そろりと降ろされる。

ぱさりと毛布がかけられ、照明も暗く落とされる。



「今日は、1回だけな…。」



夕べはきつい思いをさせたのではという反省の色が混じる声色。

唇を合せたまま、そう言う撩に、香は異論を言いたかった。

「りょっ、…んんん。」

深く塞がれた口から言葉を出すことを許されない。

髪や体をなでられ、もう体温がかなり上がって来た。

「ふぅ、……んん。」

ちょっとだけ、力を入れて顔を動かし、しゃべらせて欲しいと、

撩から唇を離した。



「っは…、りょ、…あ、あのね、き、気を使わない、で…。」

「香。」

「……りょ、…の、す、好きに、して、…ぃぃ、から。」



撩に組み敷かれている香は、

真っ赤になりながら慣れない言葉を、途切れ途切れに紡ぐ。

(まーた、こいつは、自分のことを二の次にすることばかり考えやがって…。)

「……だから、好きなようにさせてもらうって、前も言っただろ?」

撩は、そう言いながら香の耳介に唇を這わせる。



「あんっ。」



(おまぁの、好きにしてというセリフがどんなに危険か分かってねぇーんだろうな。

ボクちゃん、暴走しちゃいそう〜。)

「今日は何しよっかなー。」

おちゃらけ口調気味で、

香のくせ毛を撫でながらまた唇を重ねる。



今晩で5回目のベットイン。



まだ慣れない香に、嫌がることはしたくないし、させたなくもない。

香の許容範囲をゆっくり経過観察をするつもりだが、

その一方で、自分の欲もどうしようもなく膨らんでいる。

今回は、どこまでステップアップするかと、

甘い口腔を味わいながら、

撩は香の纏うものを

まずは下からゆっくり取り去っていった。


*******************************************
第14部(1)へつづく。





カオリン、
ほぼ連日でもまぁ〜だ疑問を持たずにこんなものだと思っています(合掌)。
当サイトでは、撩の頭の傷は、
きっとあの神宮寺諒一の証拠の一つであるハゲを消してくれたと推察しております。
(「ハゲなかったよ 確か」ってあーゆー会話で「確か」って言わないんじゃないか?と)
知らなかった家族(の可能性大)の出現に、寄り目のシーンが多かったのも、
撩もほぼ確信していたのかも。
言い逃れが一応傷のお陰で出来たとはいえ、
当時DNAでの検査技術がどこまでたぐれるものかは、きちんと調べておりませんが、
もし神宮寺のじいさんが、
DNA鑑定をさせてくれと迫ったら、撩ちん逃げられんかったかもな〜。
(あ、やつならサンプルを取っ替えるのはワケないか)
複雑な思いはあれど、
ただ危険にさらす家族を増やさずにすんだというところは、
まさにファルコンがつけた傷は感謝ものかもしれません。
ちなみに撩の部屋のソファーの下の抜け穴は、
氷室真希編と神宮寺遥編の時に爆発して撩がすすだらけになっています。
一体どこにつながっているやら〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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