15-03 All The Firtst Time

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(3)All The First Time  **************************************************3143文字くらい



香は、夕べの内に整えていた食材で食卓を用意する。

玉子かけご飯に、焼き海苔に、市販の胡麻豆腐、

味噌汁、水菜のお浸し、漬物にフルーツ。



「これでよしっと。」



さてこれから、撩を呼びに行ったほうがいいのか、

それとも起きてくるまで放っておいて、

ラップ付きの朝昼兼用にしたほうがいいか、

二択、三択を思い描いていた。



「うーん。」



さっきのことを考えると、恥ずかし過ぎて顔を合わせられない。

頬を火照らせながら腕を組み、右手を顎に添えて思案していると、

自分の背後で空気がゆらぐ気配がした。



「え?」



振り返ろうとしたと同時に、がばりと大きな腕に包まれる。

「っきゃあああっ!」

「かーおりーん、まだまだ気配を読む訓練が足りないなぁ。」

「りょ、撩っ!」

香の左頬と撩の右頬が触れ合う。

撩も軽くシャワーを浴びて来たようで、しっとりと髪が濡れている。

一気に血圧が高くなり、

パンサーカメレオンのレッドタイプのごとく変色する香。



おもむろに顎を掬われ、本日2度目のキスを肩越しに受けた。

「んんっ。」

ライトに唇だけを啄まれる。

「おはよ。」

ちゅぽんと離れると、見下ろしながら香を見つめる。

「ぅ…ぁ、…ぉ、ぉ、は、…よ。」

真っ赤な顔に潤んだ目で、しどろもどろに出てくる返事に吹き出したくなる撩。

「撩ちゃん、さっきもおはよって言ったけど覚えてる?」

「へ?」

「覚えてねぇーな。」



くすりと笑うと香の髪の毛を離れ際にくしゃりと掻き回し、

席につきながら続けた。

「さっきの慌て様は、なかなか見事だったしなぁ〜。」

頬杖をついてにやにやと香を見つめる撩。



さらに赤くなって、耳から激しく蒸気が出る。

「おまぁ、ハヂメテの時よりもパニクってただろ?」

香は、もう口を鯉のようにパクパクするだけで、声が出ない。

後ずさりして、シンクの端に腰がドンと当たる。



「いやさ、俺だってちゃんと抜いて後始末したほうがいっかて思ってたんだけどな、

おまぁがきゅうーって吸い付いて離さないもんだから、

まぁいっか、ってそんまんま寝ちゃったワケよ。」

卵をぱかっと割り、小鉢でしゃかしゃかと混ぜる撩。

「あ、味噌汁頼むわ。」

視線を香にむけると、

焦点が合わない赤い顔のまま、へなへなと座り込んでしまっていた。



「おいおい、なぁーに脱力してんだよ。」

撩は、くすくすと笑いながら席を立ち、

ガステーブルのところにある鍋の中の味噌汁を2人分注(つ)いだ。

ことりと椀をテーブルに置くと、香の腕を掴んで立ち上がらせる。



「ほれ、メシにしよーぜ。」

抱き上げて、腕の中で目を合わせさせる。

顔には恥ずかしいという文字が書いてあるかのように、

全面に毛細血管が浮き出ている。



「すげー、気持ちよかった。撩ちゃん、人生初体験しちゃったっ♡」

おちゃらけ口調で言ってみる。

目を見開いた香の瞳孔と虹彩に自分が映り込む。

「は、…はつ?」

信じられないという表情に、ちょっとチクリとくる。

香が、自分にされていることが他の女にも施されていると思い込んでいることが

直通で伝わって来た。



「そっ。初めてっ。入れっぱなしで寝ちまったのは。」

「……………。」

香の目元の涙腺から溢れるものが見える。

「この前、言っただろぉ。俺だって初めて尽くしなのっ。

キスマーク付けたのもお前が初めて。

一緒にそのまま寝ちまったのも、おまぁが初めて。

それにバタフライキスもエスキモーキスもお初って話しただろ?」

まばたきをしないままで、香の目の端から玉の粒が零れて頬を伝った。

「もひとつ言うとバージンもナマも初めてっ♡」

ここでミニハンマーが顎にヒットした。

「ぐわっ!」

「……もうっ。」



香は照れくささで一杯一杯になり、シャツを掴んで撩の胸に顔を埋めた。

撩の気持ちよかったという言葉に救われる。

それだけでなく、

撩自身も初めてのことばかりであることも、こんな形で告白され、

どうしようもなく嬉しさが込み上げて来た。

入れ替わるように、恥ずかしさが急速に縮小していく。



「……また、そのまま寝ちまっていい?」



撩が香を抱き込みながら耳元でそう小さく囁いた。

かぁと体温が上がった香だが、目をきゅっと閉じて、

しばしの沈黙の後、わずかに顔を縦に動かした。

もしかしたら、また恥じらいハンマーが飛ぶかと思っていたが、

可愛い肯定の仕方に、

撩はニヤっとすると、がばっと香の肩を持って向き合い、

またちゅうっと紅唇に吸い付きポンと離した。

「んっ…。」

これで本日3度目。



「よし、じゃあメシにしよう!今日は午後に護身術を教えてやる。

さっさと食って、用事片付けちまって、準備しとけ。」

まだ火照っている香は、今日の予定の宣言にやや驚く。

「え?護身…?!」



香から離れた撩は、丼に盛られた白米の上に溶き卵をかけて行く。

「ほれ、おまぁも早く座って食えよ。」

醤油をかけまわし味を整えたら、さっそく焼き海苔でくるんで頬張っている。

「ぁ…、うん。」

体温がまだ元に戻らないまま

おずおずと席につき、箸を持って手を合わせた。

「ぃ、ぃただき、ます。」

自分もちゃかちゃかと照れを残しながら、生たまごをかき混ぜる。



食事をかき込みながら、撩がまた話し始めた。

「あー、おまぁ、伝言板見に行くの、車で行くぞ。」

「は?なんで?」

「途中で顔見知りに会ったりすると、何言われっか分かったもんじゃねぇ。」

「…ぁ、…そう言えば、夕べそんなこと言ってたわね。」

「おまぁが、妊娠したっていう話しまで流れているからな。」

「ぶっ!ごほっ!ごほっ!」

力一杯むせる香。



「はぁああ?な、な、ななな、なんでぇ?」

「知るかっ!俺が聞きたい!」

さっき引きかけた顔の赤さがまた復活した香。

「つぅーワケで、出る時は声かけろ。」

「あ、…ぅん。分かった…。」

まだ涙目で胸を押さえる。



確かに表を歩かないほうがいいような気がしてきた。

食事をしながら、今日の動きをおおまかにイメージする。

この後、食器を洗って、洗濯物を干して、第2弾の洗濯機をまわして、

ベッドのシーツを取り替えて、昼ご飯の準備をして、伝言板見に行って、

食事をして、撩の訓練受けて、夕食作って、お風呂入って…。



「今日も、あっという間に過ぎちゃいそう…。」

「いいんでない。そんだけ充実してるっつーことだろ。」

「内容によるわ。仕事で充実してればいいんだけどねぇー。」

「撩ちゃんとの夜の営みもじゅ」

ここで中型恥じらいハンマーが飛ぶ。

「ぐへっ!」

「黙って食え。」

「は、はひ…。」



青筋を立てつつも顔を赤らめる香。

撩も、そんな香が可愛らしくて目の端でその表情を楽しむも、

とりあえずさっさと食事を終わらせることにした。





「ごっそさん。リビングにいるわ。」

そう言って、素早く朝食を片付けた撩は

新聞を持ってキッチンを出て行った。



今日も、綺麗に残さず食べてくれた。

一度だけ、一線を越えてからの夕食のとき、「うまい」と言ってくれた。

それだけで十分。

憎まれ口をききながらも、

今までも自分が作る料理を全て残さず食べてくれている。

きっとそれが、捻くれた撩の表現の一つ。

そんなことを考えながら、香も食事を終える。



「ごちそうさま…。」



立ち上がって、2人分の食器をシンクに運ぶ。

同時にヤカンに火をかけ、湧かしている間に食器を洗う。

「護身術か…。」

これまで撩が素手で闘う姿を何度も見て来ている。

初めて出会った時も、

銃を持った7人の男たちをものの十数秒で片付けてしまった。

見よう見真似で、自主的に体を動かしたことが何度かあるが、

いまいちコツが掴めない。

撩からの訓練に、一体どんな内容が待っているのか、

やや不安になりながらも、パートナーとして、

ちゃんと教えられたことを身につけなければと、士気を高める。



食器を洗い終わると同時にヤカンがなり出す。

いつも通りの手際で、コーヒーをいれる。

ミルで挽くのは、もう日常。

トレーに1つだけカップを載せてリビングに運んだ。


****************************************
(4)へつづく。





というワケで、撩ちゃんもハヂメて尽くし。
たぶん1991年頃はまだ、
卵かけごはん専用の醤油は店頭になかったと思いますが、
いつごろから出始めたんかいな。
→調べてみた。2000年代に入ってからとのことらしい〜。

【直しました〜】
Sさん、ここの煎れるも変えました〜。
ご連絡感謝です!
2014.01.18.00:40

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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