15-06 Reika

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(6)Reika  ***************************************************************3035文字くらい



「よぉ。」

「りょ、撩っ!」

ドア枠に左肘をつけてこめかみに拳をあて、

足を組んで入り口に立つ姿は、お決まりのスタイル。



「これ見たぜ。」

ぴろっとメモ紙を出す。

「あーら、やあっと気付いたの?撩らしくないわねぇー。」

事務テーブルから立ち上がり、

腕を組んでにやりと口角を上げる麗香。

自分がどんな角度でどんな振る舞いをしたら一番よく見えるか知っている動きに、

心の揺れを隠そうとする麗香の心理を感じ取る。



「よっぽど香さんとべったりしているみたいねぇー。」

「は?」

いきなりのセリフに思わずきょとんとする。



「お茶煎れるから待ってて。」

そう言いながら、ソファーに促す。

「コーヒー切らしているの。緑茶でいいかしら?」

撩はどさりと腰を下ろした。

「あー、あんまり長居しねーから。」

「まぁ、そう言わずにどうぞ。

ここでは悩みを相談しにくる人には、

まず美味しいお茶で気分を和らげてあげるの。」

「ボクちゃんは、ここで和らげて欲しいんだけどぉー。」

わにわにと関節を細かく動かして、ふくよかな胸元に指をかけようとしたら、

ゲストハンマー100トンを食らった。

「ぐへっ!」

床とサンドになる撩。



一拍置いて、ポットのお湯を注ぐ音が心地よく響く。

「ほんっと、美樹さんの言う通り、相変わらずを振る舞っているわけね…。」

「あぁ?」

ハンマーの下から声だけ出す。

「この前、あなたたちが来る前にお見舞いにちょっとだけ顔を出しに行ったのよ。」

小さめの湯のみを自分と撩の前にことりと置き、

対面のソファーに座って足を組む麗香。



「あれから姿をあまり見ないと思っていたら、教授のところに通ってたのね。」

ハンマーをどけて、よいしょと座り直す撩。

「あー、タコもかずえちゃんも忙しかったらから、

香がちょっと手伝いに行ってだんだよ。」

「ふーん。」

麗香はにやにやしながら指を絡ませた手に顎を乗せる。



「本当はさぁー、色々聞きたいことはあるんだけどさぁー、

みんなが今はそっとしておいてやろうって、

協定結んでいるようだから、勘弁してあげるぅー。」

撩はぶっとお茶を吹き出した。

「はぁああ?何だよっ!その協定ってーのはっ!!」

「あら?知らないの?

奥手な香さんに気遣っての皆の配慮なのよぉ。

いきなり色々根掘り葉掘り質問攻撃にあったら香さん可哀想でしょ?」



撩は、教授の言っていた「総攻撃」という言葉を思い出した。

ごくりと生唾を飲む。



「そろそろ、みんなうずうずしてきているようだから、

まぁ、くれぐれも外歩くときは気をつけてね。」

「は…、なーんのことやら…。」

すでに心当たりがありすぎて、ごまかすセリフが浮かばない。

視線をそらし、緑茶をくっと飲む。

確かにクライアントへの気遣いが伝わるいい茶葉を使っている。



「で、私もこの後すぐ出かけるから、

トンネルの用件だけさっさと話しちゃいましょ。」

麗香も美しい姿勢で緑茶をすっとすする。

「俺はそんまんまでもいいけどなぁー。」

「まぁね、そのほうが何の出費も出ないしね。」

「アレは俺たちの愛のトンネルじゃなかったっけ?

それを塞ごうって、そぉんなもったいないことしていいのぉ?」

とたんパシャっと顔に緑茶が浴びせられた。

けっこう熱い。

すくっと立ち上がった麗香は、

悲しそうな目で撩を見下ろす。



「……撩、もし今のようなことを、香さんの前で言ったら、…撃つわよ。」

「麗香…。」

滴をしたたらせながら麗香を見上げる撩。



「香さんを守るために、最善の選択をしたいの…。」

少し眉があがる撩。

麗香はカラになった自分の湯飲みを流しに持って行く。

「……隠し扉で、見た目は繋がっているか分からないようにリフォームのが

一番いいと思うんだけど。」

背中を向けていた麗香は、

くるっと撩のほうを向いてシンクに背を預ける。



「有事の非常口として有効利用しましょう。香さんにもそう伝えて。

工事が入る時は連絡するから。」

「あー、俺とタコでそんな細工簡単にできるぜぇ。」

手元にあるおしぼりで顔を拭きながら返事をする撩。

「……そうね。ウチワでしたほうがより安全かもね。」



麗香は机の引き出しを開けて薄い紙を取り出した。

「これ設計図。じゃあ、正式に依頼しちゃおうかしら。

こっちのビルの分の修繕も含めて。

期限はいつでもいいわ。気が向いたら取りかかって。」

「んー、まぁ追々な。」

ふうと緊張が抜けた表情を麗香は一瞬だけ見せた。



「……美佐子が気にしていたわ。あの2人どうなったの?って。」

「あ?美佐子って、…あの女医の?」

自分の肛門裂傷を治療した医者の日下美佐子を思い出す。

大学病院に残るよりも無医村を選んだ才英。



「そう、この前電話で話したんだけど、こんなこと言ってたわ。」

腕を組み直してにやりと麗香が微笑む。

「『冴羽さん、あの手錠の紐を切ることは思いつかなかったのかしら?

よっぽど一緒にいる理由が欲しかったのかもね。』って。」

ガタタタンッ!

ソファーごとひっくり返る撩。

「ねぇ?手錠なんて、あなただったら針金1本あれば簡単にはずせちゃうはずでしょ?

なのに2日間繋げたまんまだったのぉ?」

倒れたソファーから覗き込む麗香。



「撩って、ヘンなところで可愛いことするわよねぇ。」

「ぼっ、ボクちゃんもこのあとお出かけがあるのぉーっ。

じゃあねぇーっ。」

瞬間移動のように影が走り、ドアに向かって突風が吹き抜け、

撩の姿は消えてしまった。

それでも、しっかり設計図はジャケットの内ポケットにしまわれたを

麗香は見ていた。



「ぷっ。」



緊張しながらも、

流れの主導権を持ち続けた勝利感に浸るも、

ふうっと溜め息をつく麗香。



「痛い、…失恋だなぁ。」



ソファーに身を沈め、目を閉じ、ゆっくりと天井を仰ぐ。

自分の人生を預けてもいいと思った男は、

すでに別の女と人生を共にすることを決めていた。

あれ以上の男とは、

もう巡り会えないという妙な確信もある。



きっとこれからどんな男と付き合っても、

無意識にあの男と比較してしまうだろう。

未だ槇村に想いを寄せている姉も

きっと似た思いを抱えているかもしれない。



叶わぬ望み、叶わぬ想い。



これを背負っていくには、今の自分には重た過ぎる。

仲のいい2人をそばで見せつけられるのも、いわば拷問のようなもの。

それでもここから逃げるような真似はしたくない。

自分が新しい目標を見つけるまでは、

できうる限りあの2人をサポートすることと、

ようやく自分の気持ちと決着をつけた。



恋敵であったはずの香を応援したい、助けたいと思わせるのは、

香が持つ独特の雰囲気からなのか。

ただ、あの逞しい腕も、厚い胸板も、見つめる優しい瞳も、

仕事で依頼人に向けられることはあっても、

プライベートでは基本全て香のもの。

終生自分には手に入らない。

そう思い返すだけで、ずきりと胸が痛くなる。

目尻につと一筋流れた。



奥多摩の結婚式から8日。

クロイツの親衛隊に拉致された香を

救出し戻ってきた撩の姿を見て、

すぐに感じたあの空気の違いを思い出す。

ウワサでしか聞いていなかったが、

きっと、この1週間であの2人が急速に距離を縮めたことは

美樹の話しを聞き、

撩本人に会って間違いないと確信させられた。



ふぅーと細く息を吐き出す麗香。

テーブルの上の自分が書いた撩へのメモが残っている。

あえて置いていったのだろう。



「さて、出かけなきゃ。」



ぱちっと目を開け、すっと立ち上がり、倒れたソファーを元に戻すと、

上着とカバンを手にした。

ロングヘアを右手でさらりと後ろに流す。

気分を切り替えて、クライアントの元へ向かうことにした。


********************************
(7)へつづく。




麗香の立場も、ミック以上に切ない役柄ですよね〜。
ところで、日下美佐子編で、どうして手錠を外せなかったのか、
手錠をしたまま、カオリンが翌日どうやって着替えたのか、
ギモンに思っていたのは、ワタクシだけではないはず。
ぜったい、撩はあんなもの簡単に外せちゃうはずですがな〜。
ということは、あーたー、なにか他の目的あったんとちゃう?というのが
美佐子と麗香の出した答えです。
だれか、この手錠でつながれたままの一晩、書いてくれぇ〜(また他力本願っ)。

2012.01.31.
うう、慌ただしくてサイト巡りができないっ(禁断症状がぁ…)。

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プロフィール

きまりも

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since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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