15-07 Mean Of Hummer

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(7)Mean Of Hammer  **************************************************3685文字くらい



「あーあ、首元まで濡れちまったな…。」



受け取った設計図を、

武器庫の奥のテーブルの上に投げ置き、

ブースに起きっ放しだったグローブと縄跳びを回収しながら、

自分のTシャツの胸元を引っ張る。

「ヘタな芝居しやがって…。」

麗香の一句一言を思い出す。



彼女もかなり辛い気分を味わっていることは間違いないだろうが、

その想いに答えてやることはできない。

それでも、香を守るためと断言した麗香の強さに、

冴子の姿が被った。



「野上家もハガネの女揃いだな…。」



しかし、まさか日下美佐子の話しが出てくるとは思わなかったと、

夏の初めを振り返る。

依頼中、麗香は別件で忙しかったので、

直接の様子は殆ど知らないはずと思っていたが、

考えてみれば高校の時からの親友という関係、

電話などで色々と情報を得ていることになんら疑問はない。



「ヘタな芝居してたのは、俺のほう、か…。」



射撃場の戸を閉め、階段を昇る。

あのドタバタ劇を思い出してくくっと肩を揺らす。

「Hand cuffsか…、い、いや、まだ早過ぎるかっ。

いや、でもやってみたい気も…、だぁーだめだ!まだ、だめだっ!

ちきしょっ!余計な妄想のネタが頭から離れんっ。」

一人階段を昇りながら、自分の頭部をゴツっと叩く。



玄関に入り、吹き抜けのフロアに寄り、

書籍コーナーの壁側のテーブルに手に持っていたものを置いた。

リビングに入ると、すでに洗濯物も干してある。

キッチンから音がするので、香が昼食の下ごしらえ中であることを察知する。

どさっとソファーに腰を下ろした。

ここもすでに掃除機をかけ終わっている。

横になろうと思ったが、胸元が気になったので、

脱衣所にタオルを取りにいくことにした。



「あら?どっか行ってたの?」

キッチンから出てくる香と鉢合わせになる。

「ああ、地下に道具取りに行ってた。」

「もうすぐ出れるから、もうちょっと待ってて。」

何の道具か突っ込むことも省略して、

そう言い残し、ばたばたと小走りに吹き抜けに向かう香。

たぶん午後のことを考えて大急ぎで家事をこなしていたのだろう。

少し息切れ気味の呼気が気になった。



「バテるぞ、あいつ。」



苦笑いしながら脱衣所でタオルを一枚つまむと、

襟元をごしごしとこすりながら、

またリビングへ戻ることにした。



「コーヒーじゃなくてよかったぜ。」

長辺側の端に座ってTシャツにタオルを押し付ける。

だいたい湿り気をとったところで、

香がリビングに入ってきた。



「おまたせ。」



変なところで観察力がある香は、

少しだけ縁の色の変わったTシャツと、

ガラステーブルの上のタオルを見て、すぐに謎を感じた。



「あんた、何かこぼしたの?」



イメージとしては飲んでいるものを零して服が濡れたという状況証拠だが、

コーヒーの色ではない。

撩は正直に言うことにする。



「あー、さっき麗香のところに行ったら、茶ぁぶっかけられた。」

「はぁあ?」

「地下のトンネルを隠し扉にするんだと。メモ書きがあったらから

ちょっくら話し聞きに行ったらこれだ。」

ちょいっとTシャツをつまんでみる。



香は小さく溜め息をつく。

「はぁ…。あんた、またいつも通りに振る舞って、

麗香さんにちょっかい出したんでしょ。」

ほぼ正解だが、麗香の怒りを買った文言は伏せておくことにする。

「あ・た・り。」

香は腕を組んで相方を見下ろす。



「そーねー、撩から、女の人にちょっかい出すのを取り上げたら、

なんか撩らしくなくて気持ち悪いし…。でも被害に遭う人ほっとけないし。」

「おい、なんだよそれ。」

「でも、依頼人の気分を紛らわせようとして、もっこりしていたのも分かるし…。」

香は腕を組んだまま左の指で小さな顎を支え、視線を遠くに外す。

「あ?」

撩は少しだけ片眉をあげた。

香がそこまで読んでいたことをここで初めて知る。



「だいたいどこまで本気かよくわかんないし…。」

顎にそえていた指をこめかみに当て、うーんと目を閉じて思案する香。

「その気になった依頼人からは逃げてたしねぇ。

そもそも、あんたのスケベ顔見ちゃうと、反射でハンマー出ちゃうし…。」

勝手に分析を始める香。

「第一、よけられるくせに、なんでまともに食らうのかギモンなのよねー。」

「あー、それって、一昨日いや、その前の日あたりに話さなかったっけかぁ?」



やっぱり買い物帰りに話したソニアの時のことを、

100%理解している訳ではなかったらしい。

撩は、少し腰を浮かせて香の服をひっぱり、自分の腕の中に抱き込んだ。

「わわわっ!」

突然伸びてきた腕に驚くも、なんとか体勢を立て直した。



「っな、なに、なに?」

「ったく、この鈍感さと敏感さの落差はすげえな。」

ちょっとムスっとした撩のアップ。

「はぁ?どういう意味よっ?」

ソファーの端、お姫様抱っこスタイルで撩の腕に抱かれているシチュなのに、

素で返事をしてくる香に、くくくっと撩の肩が揺れる。



「かおりちゃんのハンマーは、ボクちゃんに関心があるから、出るもんであって、

もし無関心だったら、そのままスルーされる訳だろ?」

「え?」

「コンペイトウもハンマーも

香ちゃんの愛情が具現化したもの、違うか?」

「ぁっ、…ぁっ、…ぃ?」

見開いた目を白黒させてパチパチまばたき、

水銀計の赤が上昇するように香の顔が染まっていく。



「だ・か・ら、よけられる訳、ないだろ?」

わざと嫉妬という単語を使わずに解説する撩。

そのまま香の顔をくいっとあげさせ、

ぱくっと唇に吸い付いた。

本日4回目。

「んーっ。」

話しがよく分からないと、抗議の声を出そうとするが、飲み込まれる。



唇を合せながら、撩は続けた。

「これまで通り、いくらでもハンマー出しちまってもいいから、

おしおきだろうと恥じらいハンマーだろうと、何発でも受けてやる。」

「ってことは、やっぱり相変わらずを貫き通すのね…。」

撩の胸をぐいっと押し、つっと香が距離を置いて、

火照った顔のまま、じとっと撩を睨んだ。



「そのほうが俺たちらしいんじゃね?」

「飲んで遊んでツケ溜め込んで、

朝帰りして、ナンパして、依頼人えり好みして、夜這いして、

そしてあたしがハンマーしてって感じ?」

「そ。」



至近距離でお互いの瞳孔を見つめる。

2人だけの時以外は、どう振る舞うか、暗黙の了解で選択がなされる。

「でも、ホントにもっこりするのは、おまぁだけ。」

また不意打ち的に鼻先を吸い付かれる。

「うひゃっ。」

肩がすくんで体が伸び上がり、反射で撩から離れようとする。



「だ、だめっ、…や、や、やっぱ慣れないっ…。あ、あんたが、そ、その、ぁ、あたしに、

そんな、せせせ、セリフ吐くなんて、……し、信じらんない、よ。

誰かと、と、と、取り違えてない???」

撩の腕の中で、どもりながらじたばたする赤い香。



女扱いしなかった期間があまりにも長過ぎた。

撩が甘いセリフを使う程、

香の脳は何かの間違いと、素直に享受することを拒否している。



「こら、逃げるな。」

ぐいっと香を引き戻して抱き込む。

「わっ、ちょ、ちょっとっ。」

撩は目を閉じ、はぁと溜め息を吐いて、

香の髪に頬を寄せる。




「お前は、槇村香、俺の終生のパートナー、だろ?」




香の動きが止まった。

長くて太い指が、香の顎を優しく撫で、上を向かせる。



「りょ…。」

「何度も言ってるだろうが。ゆっくり、慣れればいい…。」



最後の言葉尻と唇の温度を感じるタイミングが同じになり、

香も見開いていた目をそっと降ろした。

長い睫毛が濡れ、行き場を失った水滴が頬をつと伝っていく。



「ん…。」



バードキスが繰り返されるうちに、

だんだん熱のある触れ合いになっていく。

香の舌が撩の口につるりと引き込まれ、歯や上顎にあたり、肩が激しくびくりとする。

その動きに、撩は勢いをふと和らめた。



「あー、だめだ…。ブレーキ壊れちまう…。」



唇を軽く合せたまま器用に喋る撩。

その声にはっとして、香は慌てる。



「そ、そうよっ!伝言板見に行かなきゃ!」



出かける前だったことを、ようやく思い出し、撩から脱出を試みるが、

力でかなうはずもなく、さらに焦りが増す。

「かおりちゃーん、行く前に一発ど」

たこちゅうの顔が目に入ったとたんに、ケジメをつけろハンマー100トンが出現。

地響きと共に床とハンマーのサンドになる撩。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

柄を握りしめて肩で息をする香。



「あ、あんた、自分でブレーキかけらんないからって、

あたしにハンマー出させないでよ…。」

赤面したままハンマーを撤収させ、のされた撩の手を引いてリビングを出る香。

「ほら、さっさと行くわよ。伝言板確認して、戻って食事して、訓練でしょ!」

ずるずる床を引きずられる撩。

「ボ、ボクちゃん、も、だめ…。」



玄関まで降りてきて、靴を履きながら香は溜め息をつく。

「あんたが車で行こうって言い出したんでしょうが。

運転できないんだったら、あたし一人で歩いて行ってくるから、家で待ってて頂戴っ。」

当初の目的と手法を思い出した撩は、がばっと起きて後ろから香の両肩を掴む。

「うんにゃっ、今はだめだ。行くぞ。」

ぶすっとした表情で復活して、一緒に玄関を出る。

「さっと行って、さっと済ましちまおう。」

そう言いながら、2人で駐車場に降りて行った。


*****************************
(8)につづく。





次原舞子編で、香はすでに、撩のもっこりが、
依頼人の気分を紛らわせる効果があり、
撩もそれをわかっていてもっこりしていることを認知していましたよね。
それを加味しなくても、この二人のやりとりは、
安心感や楽しさ面白さを与えるパワーがあることを、
原作中の依頼人たちも、私達読者も同じ気持で感じていたのかもと思います。

2013.02.02.20:10
やっとこっちいじれた…。
目次放置で申し訳ないです。
年に30回程地元のラジオ番組でしゃべる時間があるのですが、
その度に、生き物ネタからシテハンねたに持って行きたくなる
衝動にかられそうになったりして〜。
今日も抑えるのが大変だったぜ…。
繁殖期ネタは危険、危険。
しばし、慌ただしさは続きそうなので、
色々と対応が遅れがちになりますが、
更新は予定通りですので、
お手すきの折にお立ち寄り頂ければ嬉しいです。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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