15-09 Mean Of 777

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(9)Mean Of 777  *******************************************************3581文字くらい



「あー、腹減ったっ。」

駐車場から階段を上りながら、撩は腕を伸ばしてストレッチをする。

「すぐ用意できるから待ってて。」

香が玄関を開けくぐろうとすると、

撩が寄り目になりながら、香の両肩を掴んだ。



「用だったら、声かけろよ。」

「え?」

振り向いた先には、2メートルオーバーの影が。

「う、海坊主さんっ。」

いきなり階段の脇からのそりと現れた巨体に驚く香。

「入って行くか?」

顎をくいっと動かす撩。

「いや、ここでいい。」

ファルコンは、胸元からマチ付きのA4茶封筒を取り出した。



「報酬だ。」



どさっと重みのある質感が撩の手に渡る。

封は糸で縛るタイプだ。

「へ?あの埠頭の?」

「俺と教授とミックとお前で仕事量に応じて分配した。」

「……半端な金額だな。」

にやりと口角を上げる撩。

「お、お、お互いの、こ、幸運を、しゅ、しゅ、祝して、だっ。」

かぁーと茹で蛸になりながら、ファルコンはそう言った。



香はなぜ金額が半端なことが封を開けていない撩に分かったのか、

『幸運』とは何を意味しているかさっぱりで、

きょとんとした顔のまま。



撩は、ふっと目を細めると、封筒をつまみ上げて揺らした。

「『幸運』、ね…。」

「う、受け取っとけ。」

そう言い残して、ファルコンはどすどすと階段を降りて行った。



「そ、それって、この間の大井埠頭の時の?」

「そ。」

撩が持っていると軽そうに見えるが、封筒の膨らみは決して薄いものではない。

「香ちゃん、数えてみる?」

玄関を閉めながら、寄り目のままつまんだ封筒を揺らす。



階段を上る撩の後ろ姿を香は追うが、

料理の時間や訓練の時間を考えると、

出来たら後回しにしたいが、大事な入金のようなので、

経理担当としても早めの確認はしておいたほうがいいとは思う。



「お昼ごはん食べてから、確認しようかしら。」

廊下を歩きながら撩が振り返る。

「昼飯何?」

「五目ビーフン。」

「じゃあ、俺が作っから、その間にカウントしてみろ。

タコの言った意味がそれで分かる。」

「え?」

話しているうちに、

いつの間にか2人でダイニングキッチンに辿り着いた。

「ほれ。」

封筒をぽいっと渡される。

「わっ、重たっ。」

想像以上の質量に目を見開く。



「ふん。ビーフンは、もう戻してあるんだな。お、キクラゲもあるな。

じゃあ、後は炒めるだけか。」

材料はすでにまとめられていて、

中華鍋もすでに用意がしてあり、

もう一つのコンロには中華スープが作られている。



「ちょ、ちょっと撩!いいわよ!あたしがするわよ!」

自分から料理をしようとする流れに、

もうあれから何度も手を煩わせているのに、

この昼食も作ってもらうことなど、

あまりにも申し訳なく、受け入れがたい。

基本的に撩のための食事作りは

自分が出来る数少ない仕事の一つと思っている香。

なんとか止めようとするも、次の撩の台詞で動きが止まる。



「おまぁの今の仕事はその中身を確認すること。」

「え?」

「束は1つ100だから、束以外をちゃんと数えてみ。」



そう言いながら、手を軽く水に流した後、

撩はそばのカゴにある野菜をちゃっちゃかカットして、

豚肉にエビとイカもサイズを合せる。



「う、うん。わかった…。」

すでに作業を始めてしまった撩の背中を横目で見つつ、

香は、封筒の重さに驚きながら、ダイニングテーブルに座ると、

恐る恐る糸をまわして封を開いた。

そっと覗き込む。



まとまった金額を手にするのは、初めてではないが、

小切手とか、振り込みではなく、ゲンナマでポンと渡される金額としては、

見た目だけで緊張が走る。

さっきの教授からの振り込みに驚いたばかりなので、

滅多にない立て続けの報酬に香の心中は素直に穏やかにはなれない。



「下見、準備、本番で3日使って、けっこう銃火器も持ち出しだったらから、

まぁ、妥当なもんだろ。」

そう言いながら、撩はごま油で溶き卵を先に半熟で炒め別皿にとる。

油をひきなおし、次に豚肉、キャベツ、人参、キクラゲ、イカ、エビを投入。

中華鍋から美味しそうな香りが立ち上る。



「で、でも、受け取る心の準備ができてなかったから、驚いた…。」

出来るだけ封筒から出さずに、また中身を覗き込んで先に束をカウントする。

(え?7つ?な、な、ななひゃくまん??)

もう一度封の口を指で開いて数え直す。

確かに同じ束が7つある。

他の束の帯と違う色の帯でまとめられているやや厚さの薄い紙幣が目に入る。

「これは端数?」

それだけ取り出して、カウントを始める。

銀行員の手つきの様に、器用にパラパラと紙幣の角を指に走らせて行く。

「え?」

一往復数え終わった香は、もう一往復で再チェックする。

「……やっぱり同じ。」



「わかったか?」

ジャーとビーフンと卵を加える撩。

「…撩、…あんた、…なんで開ける前から金額分かってたの?」

「ボクちゃん、重さでだいたい分かっちゃうのぉ〜。」

振り向き様に、くねくねオネェモードで、フライ返しを可愛く持つ。

「紙幣なのに?」

撩の寒いギャグは綺麗に無視して、自分が数えた紙幣の束を封筒に戻す。

「まぁ、硬貨の方が分かりやすいけどな。」

突っ込みを期待してのおちゃらけが流されてしまった撩は、

また中華鍋に向き直ってそう答えた。

「人間メジャーって、女の人のスリーサイズだけじゃなかったんだ。」

突っ込むところはそこかと、ずるっと滑る撩。

「なるほどね、幸運のスリーセブンって海坊主さん言いたかったのね。」

「せぇーかぁーい。」

塩、こしょう、酒を中華鍋に振りかける。



「どうせだったら、7777円も付けてもよかったかもね。」

「ふっ、おまぁ面白いこと考えるな。」

醤油をさらりとかけまわす。

壁面に垂れた茶色い液が蒸発しながら、香ばしい香りを更に広げる。

弱火で加熱していたスープも温度が上がり、湯気が見える。



「これでしばらくは食いつなげそうね。消耗品や備品も買わなきゃならないし。

アパートも修理しなきゃいけないところが結構あるのよねー。」

そう言いながら、ふと思いが過(よぎ)る。



3日で777万という数字は、

資産家以外、まともな仕事をしていたら縁がない日給だ。

命がけでの受注業務とも言えるのに、

それを妥当だとさらりと言った相方の背中を見つめる香。



自分たちは、これが仕事。

食べて生きていくのに、選んだ道。

金額が大きければ大きい程、生命の危険にも晒(さら)される。

自分だけでは、決して出来ない稼ぎ方に、

いかにその相方の仕事を支えていくべきか、

パートナーとしての自身の資質を振り返り、表情を少し暗くする。



ただ今は、出来うる限りのことをしていくしかない。

撩も自分をパートナーとして鍛えることを宣言し、

午後にも本格的にスタートする。

能力の差に落ち込んでいる場合ではない。

パートナーとして最善を尽くすことを第一の念頭に置くべきと、

気分を切り替える。



「撩、お仕事…、お疲れ様でした。」

「はぁ?な、なんだぁ?」

中華鍋の中身を炒めながら、撩は振り向いた。

香からの突然の労(ねぎら)いの言葉に素で驚く。



「だから、仕事して稼いできたくれたってことにっ。」

ちょっと顔を赤らめている香は撩と目が合うと、慌てて視線を逸(そ)らす。

「ら、ラッキーって、無事仕事を終えたからってこと?」

「は?」

撩のターナーが止まる。

「え?だ、だから、たいした怪我もなく仕事が片付いて幸運だってことで、

ラッキーセブンじゃないの?」

撩はがっくり肩を落として、焦げ付く直前のビーフンを炒め直し、火を止めた。



「っんと、こーゆーことには超鈍感なんだよなぁー。」



香は封筒をテーブルに置き立ち上がった。

「ふーんだっ、どーせ、あたしは鈍感ですよーだ。」

むっとした分かりやすい表情で、

食器棚から大皿と中皿を取り出し撩に渡す。



「今回の仕事は、無事だとか何だとかまったく考える必要がねぇくらい、

たいしたことじゃねぇーもんだったの。

それに何で海ちゃんが茹で蛸になりながらあんなこと言ったのか、

おまぁ、まだ分かんねぇの?」

皿を受け取った撩は、

香の分を先によそい、残りの数人前を自分の大皿に盛り付けた。



「そ、そう言えば海坊主さん、

赤くなりながら、しどろもどろになっていたわね…。」

皿をテーブルに置きながら、

香はさっきのファルコンの様子を思い出した。

「えー?、楽な仕事の割に入金が多くてラッキーっとか?」



香は、中華スープを注(つ)ぎながら、考えを巡らす。

席についた撩は、深ぁーく溜め息をつく。

「おまぁ、っんとに分かんねぇのか。」

「え?これも違うの?だったら、あんたにとってラッキーっていったら、

ナンパが珍しく成功したとか、行きつけのお店でかわいい子に会ったとか、

そっちのほうじゃないの?

あれ?でも海坊主さん『お互いの』って言ってたような…。」



ぶすっとしている撩に箸を差し出しながら、香は眉間にしわを寄せた。

「おまぁ、夜までに正解を出せ。じゃないと罰ゲームだな。」

頂きますも言わずに先にばくばくと食べ始めた撩。

「はぁ?なんでよっ!」

納得いかない香はもちろん即座に抗議。



配膳が済んだ食卓に2人が向かい合って座る。

キッチンにはごま油と醤油の香りが漂っていた。


*********************
(10)につづく。




ま、また撩にメシ作らせちまった…。
関係が変わったら、こーゆーところも激変ということで…。
原作中で具体的な額面が出ていたのは、
小林みゆき編とアルマ女王の時の500万の小切手くらいしか
記憶がないのですが、
いまいち相場もよくわからんのでこの辺テキトウです。

先日、環境教育関係の機関誌を調査していたら、
「もりっこ通信」なるものが出て来た。
これが「もっこり通信」に見えてしまったワタクシ、
かなりイってしまっているかもしれん…。

【追記】
この日、1日あたりの拍手が81パチになっておりました。
恐らく過去最高記録かもと思います。
序盤から読んで下さっている画面の向こうの方のお陰と
推察しております。
本当にありがとうございますっ!
2013.02.07.02:34

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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