15-11 Rope Jumping

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(11)Rope Jumping  *****************************************************4418文字くらい




「早かったな。じゃ、やるか。」



吹き抜けの中央にあるテーブルで

座って足を組んでいたTシャツ姿の撩は、

持っていた縄跳びを、香にぽいっと投げ渡した。

「わっ、と。」

驚いて受け取る香。

「な、縄跳び?」

「そ。」

「こ、ここで?」

「そ。」



縄跳びをほどいて、両端のグリップを持つ香。

「わぁ…、懐かしい。何年振りかしら?」

両脚で紐を踏み、きゅっと長さを揃える。

「たぶん、小学生か中学生以来かも。」



ひゅひゅひゅん、といきなり二重飛びを軽く数回すると、

感触を思い出し、少女時代の記憶が蘇る。

「まずは、普通に飛んでみろ。俺がストップって言うまでな。」

「あ、うん。」



言われた通り、ノーマルの跳び方を始める。

パシパシパシパシと、縄跳びの紐と床が接触する音が、

規則的にフローリングに響く。

「早さはこんなんでいいの?」

飛びながら、撩に尋ねる香。

「今日はな。」

テーブルに肘を付いて顎を右手に預け、

椅子に座ったままで足を組む撩は、

寄り目でさらっと答える。



「あ、数えなくていいの?」

縄をまわしながら、思い出したように聞く香。

「俺がカウントしてる。」

「あ、ありがと…。で、でもホント懐かしい。」



疲れを見せないで、香は淡々と続ける。

飛んでいる位置も殆どぶれず、姿勢もいい。

手首をまわす動きも無駄がない。

飛ぶ高さも必要最低限。



撩は、なかなかのスタイルに高得点を付けた。

最初は1分間に60回のペース。

これを5分やって約300回、これを2セットが今日の縄跳びのノルマ。

ジョギングよりも消費カロリーが高い運動故、

最初に急激に進めると無理がくる。



「なんか、この早さならいつまでも出来そう。」

「調子に乗るとバテるぞ。」

「すごく気持ちよく飛べるから、これだけで結構楽しいかも。」

「おまぁ、しゃべり過ぎ。」

「あ、ごめん。」

飛びながら、ペロッと舌を出した香は、殆ど疲れを見せずに続ける。

ヒュヒュヒュヒュと、空気を切る音と、

パシパシパシパシと、床が叩かれる音、

タンタンタンタンと、香が床を蹴る音が

規則正しく重なっていく。



縄跳びは、基礎体力を上げるのに効果的な運動の一つ。

まずは、土台を固めておかなければならない。

普段からエアロビなどで有酸素運動をしている香は、

そこそこの運動神経は供えている。

そこにプロの指導が入れば、ファルコンのトラップ同様、

すぐに飲み込み能力がアップすることは撩も分かっていた。

しかし、いずれ表に返さなければと、

あえて銃の訓練も格闘技も教えることは殆どしなかったのだ。

揺れる茶色の髪を眺めながら、そんなことを考える撩。



「じゃあ、いったんやめー。」

「え?おわり?」

パシと床から一つ音がして、縄は止まった。

「うんにゃ、5分休憩。」

「ふぅ。」

動きを止めたとたんに、じわりと背中に汗が浮いてきた。

「…ねぇ、ちょっと『はやぶさ』出来るか試していい?」

「はぁ?ハヤブサぁ?」



撩の返事を待たずに、

香はすっと息を吸うとグリップを持った手を正面に伸ばした。

タンッと高く垂直跳びをすると、腕をクロスさせてあやとびの二重飛びに

挑戦してみた。

1回は成功が、連続で縄をまわそうとしたら、足にひっかかってしまった。

「ったた!っと、ざ、残念っ。昔は続けて飛べたんだけどなー。」

また続けてしようとする香に、撩は目を丸くして声をかける。

「おいおい、休憩って言ってんだろ。

それになんだよ、そのハヤブサっつーのは。」

「あ、あのね…。」

香は学校が作った「なわとび検定」の思い出を話そうとした。

しかし、途中まで出かかって、はっと言葉を飲み込んだ。



これは、義務教育を受けていれば分かる文化の一つ、

学校にもよるが、

縄飛びを児童や生徒の体力作りに導入して力を入れているところもある。

しかし、撩がこの単語を知らないことに、生い立ちの違いを強調するようで、

香は説明することを少し躊躇した。



「なんだよ。」

しばしの沈黙は撩の質問で途切れた。

黙っているのも、訝しがられるので、話すことにした。

「あ…、あのね、…縄飛びをクロスさせて飛ぶのを

『あやとび』って言うのは聞いたことある?」

「ああ。」

「その『あやとび』の二重飛びが『はやぶさ』っていう技なの。」

「なんだそりゃ。」

「『むささび』って呼んでる子もいたけど、

『はやぶさ』のちょっと違うバージョンだっていう子もいたわ。」

「ふーん。」

「学校で勝手に名前つけていたみたいだけど、たぶん全国区のはずよ。

転校生の子も知ってたし、

今の小中学校でも取り入れているところあるんじゃないかしら。」



「ふーん、じゃあ、一番難しい技は?」

撩はにやりとしながら聞いてきた。

「え?」

「なんかランク付けがあんだろ?最上級の技はなんてヤツ?」

「えーと、確か『後ろ三重跳び』だったかな…。」

クラスの男子ができっこねーと、騒いでいた記憶がある。

「貸してみな。」



撩は香の持っていた縄飛びをすっと取り上げると、持ち手を握り、

縄を伸ばした。

予備のアクションなしに、いきなりヒュヒュヒュンと空気がなった。

「こうか?」

さらりと実演してみせた撩を見てぽかんとする香。

「…あんたって、ほんと、なんでも無駄に器用にできちゃうのよねー。」

「無駄っちゅーのはなんだよ。」

「そのまんまの意味っ。」

ぷいっと視線をそらす香。



「全然疲れてなさそうだな。じゃあ続きすっか。」

縄跳びをポンと香の手に返し、また椅子に座る撩。

今度は背もたれを足で挟むようにして、逆向きに腰を下ろした。

腕を組んで顎を乗せる。

香はそこで、初めてテーブルの脇の別の椅子の上に、

タオルとミネラルウォーターがあるのに気付いた。

(あ、あれ?いつ用意したんだろ?)

「つ、次は?」

「さっきと同じ、普通の早さで300回。」

「ええ?さっき300回跳んでたの?」

「そ。」

「驚いた。自分で数えてなかったから。」

「ほれ、続き。」

「あ、うん。」



縄跳びを構え直して、再び縄を回転させる香。

てっきり、すぐに武術でも始まるかと思っていたので、

いきなり縄跳びを渡され面食らったが、

なんだか、何かの映画で見たボクサーの姿を思い出し、

きっと基礎トレーニンングなのかもしれないと、

気を引き締めて取り組むことにした。



しばらく安定した跳び方を続けていたが、

だんだんと、撩に見られているのがなんとなく恥ずかしくなり、

一瞬、意識が縄跳びから離れた。

そのとたんに、足に縄が引っかかってしまう。

「あ…。」

慌てて体勢を立て直し、再開する香。

にやっと口角をあげる撩。



「おまぁ、今集中力途切れたろ。」

「え?」

「んと、分かりやすいなぁー。」

「んなっ、だ、だ、だれだって、そんなじぃーっと見られれば気になるでしょっ!」

顔をやや赤らめながら言い返す香。

リズムがやや乱れるが、なんとか持ち直す。

「ふ、おまぁさ、跳びながらよく会話できんなぁ。32+98は?」

「ええ?」

いきなり算数の問題を出す撩。

「跳びながら答えてみ?32+98は?」

「え?えーと、…2、…8。…10、えーと、ひゃく…」

ここで引っかかってしまった。



「はい、失格ぅー。」

「なによ、もうちょっとだったのにっ。」

悔し混じりに言い返す香。

また跳び始める。

「答えは130でしょ。」

「会話は無理なくできるけど、計算は苦手ってところか。」

「縄跳びしてなくっても、二ケタ以上の暗算は辛いわ…。」

普段、電卓ばかり使っているので、頭の体操が不足しているのを自覚する。

「ま、これも訓練だな。」



2セット目の終盤で、やや息があがってきた。

こめかみから一筋、二筋と汗が流れる。

背中はすでにしっとりしていて、

ハイネックとトレーナーを着ているので、体も熱を逃がせず火照ってきた。

自分で数えていないので、いつ終了か正確に掴めないが、

そろそろゴールかもとイメージをたぐる。



「りょ…、も…、そろそろ?」

「お、勘がいいな。あと20回。」

「ぁ、汗が目に、入る…。」

片目を細めながら、香が呟く。

まるで、情事の時のような掠れた小声に、濡れた前髪、やや荒い息づかい、

染まった頬、それらが、もっこりタイムを思い出させ、

撩の息子が反応しそうになる。

(やべやべ、大人しくしろっ。)

慌てて血液をよそへ流す。



「はい、終了。」

「っはぁ〜。」

腕を止めて、膝に手をつき、前屈みで息を整える香。

丸くなった背中が大きく上下する。



「な、縄跳びって、こんなに疲れるもんだったっけ?」

久しぶりに跳んだせいか、2セット目はかなり疲労している。

昔に比べたら体重も重たくなっているので、

身軽さが比べ物にならないのは仕方ない。



「走るよりカロリー食うからな。」

香にポイッとフェイスタオルを投げる。

「あ、ありがと。」

上体を起し、タオルで顔を拭く香。

「これ、まずは1週間な。」

「え?縄跳びを?」

「そ。普通の早さで1分60回前後、5分やって300回を1セット。

休憩入れてもう1セット。わかったか?」

「うん。」

「じゃあ、準備運動終わり。休憩したら、次は簡単な護身術だ。」

ぽいっとミネラルウォーター入りのペットボトルを投げた。

「わっ。」

いつも投げられたものをギリギリで受け取る香。

「飲み過ぎんなよ。」

「ぁ、ありがと。」

きゅっとキャップをまわし、少しだけ口に含む。

ついでに縄跳びも結んで、テーブルの上に置いた。



そんな香の呼吸や顔色、汗の出方などをちゃんとサーチして、

体調管理もさりげなく確認する撩。

(あんまり疲れさせると、夜に響くしな…。)

そう考えたとたん、顔はにへらっと弛み、もっこりが元気になる。



撩のスケベ顔に気付いた香は、ぎょっとした。

椅子の背もたれのスリット越しに見える物体も同時確認し、

また反射でミニハンマーがスコンと跳ぶ。

「ぐがっ!」

「あ、あんた、な、なに昼間からもっこりしてんのよっ!」

「ってー。」

顎をさすりながら椅子の背もたれで脱力する撩。



香は、エロ本も、ビデオもなにもない状態で、撩が何を妄想していたのか

さっぱりだった。

「ま、まさかテーブルの下にH本隠してるんじゃないでしょうねっ。」

タオルを首にかけボトルを置き、木製テーブルの下を覗き込む香。

当然何もない。

「あれ?」

とたんがばりと抱き込まれた。

「わわっ!」

対面式で撩の腕の中に収まった香。



「おまぁ、鈍感にも程があるぞ。」

香を見下ろす撩。

「ななな…。」

顔をぼぼぼっと染める香。

「さて問題。こーゆー場合、脱出を試みるとしたら、どう動けばいい?」

「え?」



もう訓練が始まっているのかと香は、ピクンと体が反応した。

トレーナーの下の体のラインにうずうずしながらも、

撩は香の目を見る。

ガンッ!

「だぁあっ!」

「やっぱこうでしょ?」

予兆を見せずに香の右足は鋭角に曲がり、

撩の股間にヒットした。

股を押さえてお尻を付き上げた状態で床に突っ伏す撩。

絶句悶絶中。



くるのは分かってたが、香の瞳にらしくもなく心が揺らぎ、

いつもだったら目の動きで分かるタイミングが読めず、

手加減のない攻撃をまともにくらった。



(ボクちゃんのほうが夜に響くかも…。)

撩は、香の素早い動きに油断した己を恨んだ。


********************************************************
(12)につづく。




なわとび検定文化、娘現在進行形です。
エアー縄跳びでも効果があることは、スポーツ栄養学で習った気が…。
ああ、腹の上のぽにょをなんとかしたい…。

【訂正のお知らせ】
もう大間抜けなミスをしてしまいました。
最新のバトンアンケート
冒頭で自分の年齢力一杯間違っておりました。
ファン歴、15年ぢゃなくて25年でございます。
数字の間違い、大変失礼いたしましたっ。
ご指摘Nさんありがとうございます!

【もうミスばっかぁ〜】
ケシさんありがとうございます!
130になおしました!
ひーん、違う式になおした時に解答の方修正しわすれ〜。
やっぱりバタバタしていると、
こんなんばっかでぇ(泣っ)。

たぶん、こんなのがまだまだ出てくると思います。
ご一報頂けると助かります。
みなさんのセンサーが頼りですぅ。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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