15-12 Live

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(12) Live *************************************************************3434文字くらい




「ご、ごめんっ!撩っ、大丈夫?あんたなら避けられると思って、

ちょっと本気でやっちゃった…。」

「…………。」

まだ、大事なところを押さえたまま動かない撩。

「ね、ねぇ、し、しっかりし」

そばに寄って覗き込んだとたんに腕を引っ張られた。



「あっ!」



声と一緒にドサリと音がしたが、自分の体が出した音ではない。

撩の腕が自分の背中とフローリングにはいり、

直接の衝撃からのクッションになっていた。

その腕もすぐに滑らかに引き抜かれ、

香は床に縫い止められる。



「りょ…。」



固いフローリングでのこの体勢は初めて。

ふと似たシチュエーションがあったと、香は目を見開いたまま思い出した。

あの時、自分を見下ろしていたのは撩ではなく、

ミックだった。



(そう言えば、あの時、ちょっと背中を打ち付けて痛かったっけ…。)



「……なかなかいい攻撃だったが、…この場合はどーする?」

「え?」

ごめんと、さっきの事を謝ろうと、口を動かそうとしたら、

先に撩の質問が降ってきた。



ミックに組み敷かれた時と同じように、

撩は両手を伸ばしたまま香の手を押さえ、

見下ろしているが、足は違った。

あの時のミックは下半身までの自由を奪っていなかったが、

撩は香の腰から下に体重をかけ、

足で固定し香の四肢を完全にフィックスしていた。



「…ぁ。」



これも訓練だ、そう分かるのに時間はいらなかった。

しかし、体は1ミリも動かせない。



「今、俺はシティーハンターを倒して

殺しのナンバーワンになろうとしているお馬鹿な悪党ね。」



香は、ぴくっとして撩を見上げ直した。

「で、香ちゃんは俺をおびき寄せるために悪党に捕まっちゃったとする。」

ごくりと唾を飲む香。

「女を痛めつけておいたほうが、シティーハンターへのダメージを大きくできると、

トンチンカンな勘違いをしているとしよう。」



撩が何をしようとしているのか、半分くらい想像がついてきた。

まさか、自分が敵の手に落ちて襲われる仮定での

脱出訓練させようというのか。

香の緊張感がくっと高まった。



「で、おまぁをこうして押し倒しましたっと。」

明るいのんきな口調と表情が、この言葉の後すっと変わった。

「……どうする?」

「あ…。」



たぶん手加減はしてくれていると思うが、

押さえつけられた手足は未だ全く動かない。

抵抗する手段がほぼ断たれている。

これが、他の男だったらと思うだけで正常心が保てなくなる。

香は、拉致監禁拘束を複数回経験している過去を思い出していた。



「も、…もし、…相手が1人だったら、…か、顔が近付いてきた時に、

鼻を狙って、…頭突きを、してみる。」

「ほぉ。」

「抜け出せれば、…たぶん一人だったら…なんとかなるかも、しれないけど…。」

香は顔をゆっくり横にそらした。

「けど?…。」

「…チンピラ程度だったら、いいけど、…プロだったら、ダメね。」

目を閉じながらふぅと息を吐く。

「そ、それに、2人以上いたら、抵抗しても、…きっと、無駄だわ。」

香の体から力が抜けたことに気付いた撩。



「……ま、前はね、…も、もしこんなことがあったら、

その場で舌噛んで死んでやろうかと思っていたの。」

撩の腕がぴくりと揺れる。

「で、でもねっ。」

香は顔を正面に向け、真っすぐな瞳で撩を見つめた。



「生きなきゃって、…どんな目にあっても、…生きていなきゃと、思っているから。」

撩は目を見開いた。

「あたしが、…こんなことで、自分から死のうとしたら、

…きっとアニキに、追い返される。」

香の目の表面が潤んできた。

撩の眉が僅かに切なく角度を変える。



香がこのようなことが起こりうることを考えていたのは、

ベッドの上ですでに聞いていた。

それを視野に入れてピルを飲んでいたことも告白していた。

香は香なりの覚悟を以前から持っていたのだ。

最悪の一歩手前、

撩が助けにくる前に自分が犯されるという可能性を。

それを『こんなことで』とあえて言う香に、撩はさらに胸が潰されそうになる。




「……香。」

「ね、無駄な抵抗はしない。これがベストでしょ。」

ふふっと笑いながら、目尻で涙が落ちそうになっている。

撩はずきりと肋間が痛む。



「……他のヤツなんぞに、触れさせることは、はっきり言って論外だが…。」

先ほどの縄跳びでかいた汗の香りがほんのりと鼻腔をくすぐる。

「もしもの時は、…生き延びることを最優先で考えるんだ…。」

撩の右手がふわりと浮き、香の頬にそっと触れる。



「…ぅん。」



香は、解放された左手で撩の腕につと触れた。

「いいか。相手が、どんなに俺を罵る言葉を吐いても、絶対に心を乱すな。」

香は、口をきゅっと噛み締め静かに頷いた。



「まずは、状況を見極めること。相手の力量を測り間違えるな。

そして、決して無理はしない。とにかく俺を信じて待っていろ。」

撩は頬に添えていた右手を茶色のくせ毛に埋め、

香の小さな頭を優しく撫でた。



「わかったな。」

「うん…。わかった…。」

近づいてくる顔は返事を聞いた安堵が混じる表情。

香の右手と撩の左手がゆっくりと絡み、柔らかく唇が重なった。

「ん…。」



— なにがなんでも、生き延びる。 —



無言のうちにお互いの脳にエコーする言葉。

実際に事が起こった時、

それを乗り越えるには相当の努力を課せられるに違いない。

あってはならない未来を、引き寄せないためにも、

普段の意識や訓練が要となる。

香は、ふとあの廃ビルでのことを思い出した。

唇を合せたまま、目も閉じたままで香は撩に尋ねた。



「ね…、りょ…。」

「ん?」



撩は少しだけ顔を浮かせる。

「今、思ったんだけどね…、ミックは、…あの時、

わざと、あたしの足を自由にさせたんじゃ、ないのかな?」

あの時という一言だけで、金的を受けたミックの姿が浮かぶ。

撩は、ふっと口の端を上げ、鼻先を香のそれに触れさせた。



「どうして、そう思う?」



撩の顔が近過ぎるのが分かっているので、恥ずかしくて目を開けられない。

「ミックが本気だったら、

あの状態で、あたしにスキを与えるはずがないと思って。」

撩の唇が左の頬に滑るのを感じて、思わず肩がぴくんと動く。



「あー、おまぁが自分で脱出してなかったら、たぶん撃ってたな…。」

「え?」

香の目がパチッと開く。

「まぁ、あの場で殺しはしなかっただろうが、手足は撃ち抜いてたかもな…。」

くくっと撩も肩を揺らす。

自身も相当の殺気を出していたことを思い出し、

恐らくミックも香の攻撃を受けないと被弾する可能性を考えていたのだろう。



「あのバカ、かずえちゃんがいるのに、

まぁーだお前にちょっかい出そうとしやがって…。」

耳朶をちゅうっと吸われる。

「あ…。」

身を捩る香。

「そ、それは、治療を受ける前のことでしょっ!」

「うんにゃ、教授んところの台所で、あいつ妙なことしようとしてただろ?」

冷えた硬いフローリングでの仰向けが少し辛くなってきたところに、

撩は香をごろんと横抱きにして包み込んだ。



「もうちっと気配を読む訓練もせんとなぁ。」

茶色い髪に指を埋めながら、頬を寄せる。

ついでに足もからめてみる。

汗をかいたあとの残り香りが、これまでと違う体の匂いを醸し

ぞくりと下腹部に熱が集る。



さらに抱き込んできた撩に、香は驚く。

「ちょ、ちょっと撩っ、こ、これも訓練なの?」

胸の中でくぐもった声で香が聞いてきた。

「あ?」

そう言えば、トレーニング中だったと我に返る撩。

香の抱き心地があまりにも良過ぎて、

何の時間だったか一瞬忘却した。



「こ、この状態も、あたし脱出できるスキルはないわよっ。」

もごもごと胸板に埋もれている香は、いつまでも放さないどころか、

さらに深く抱き込まれたことに、

休憩なのか、訓練なのか、ラインが分からない。

そもそも、この男がちょっとでも本気になったら、

全くかなわないのは十分に分かっている。

とにかく、動けないので撩のアクションを待つしかない。



6階の吹き抜けでくっついて転がる大柄な2人。

撩の頭に天秤が浮かぶ。

「うーん。」

半ば真剣に悩む男。



選択1:このままここで香ちゃんと仲良しタイム。

    しかし床が硬い。立ちもっこもまだ早い。

    きっと香も自分が汗をかいているから、嫌がる度合い高し。

選択2:素直に訓練の続きをして、うまいメシを作ってもらって、
 
    シャワー浴びて、すっきりしたら、

    自分の部屋のベッドで仲良しタイム。



かしゃんと、選択2におもりが乗った。



「よしっ!」

がばっと起きた撩は、そのまま香を抱き上げ、素早く立たせた。

「わわっ。」

「次は護身術の入門編だ。」

突然、流れが変わったことにまだ思考がついていけない香は、

きょとんと撩を見つめた。



*****************************************************
(13)へつづく。





今思えば、
少年誌だったからあの程度ですんでいたのかも…?

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: