15-13 The Art Of Self-Defense

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目



(13)The Art Of Self-Defense  *************************************3158文字くらい




落ちていたタオルを拾った撩は、それをテーブルの上に置き、

地下から持ってきた薄手のグローブを手に取ると、

香につと向き合った。



「こいつをつけて、手足が届くところまでこい。」

「え?」

「このへん。」

くいっと手首を掴まれ、

間を80センチくらいの間隔にセッティングされた。

「おまぁ、一応本気モードで、3カ所俺を攻撃してみな。」

「は?3カ所?」

香は渡されたグローブを慌ててつける。

練習用の小さめのハンドカバーのようなものだ。

「そ、連続で素早く。」

「ど、どこでもいいの?」

「当たんねーから心配すんな。」



片眉を上げて、やってみなと煽る撩の表情にちょっとむっときた香は、

目の前の長身の男のどこを狙おうかちょっと考えをめぐらせた。

あまり考えていると目の動きで読まれてしまう。

当たらないと言われたら、当てたくなるのが人間心理。

多少の運動神経を供えている香は、

言われた通り本気で素早く手足を動かした。



パシッ、パシッ、パシッ



四肢同士がエネルギーを逃がしながらぶつかる音が3連続響く。

「ほぉ、なかなかじゃん。」



1発目は、撩の顔側面を狙っての右パンチ、

2発目は、鳩尾を狙っての左パンチ、

3発目は、頸動脈を狙っての右足の甲を使っての蹴り。



いずれも撩に涼しい顔をされたまた、

左片手でやんわりと受け止められてしまった。

右足を地につけた香は眉を寄せて呟いた。

「う、悔しい…。」

「いや、大したもんだぜ。」

動き、狙い、位置、いずれも及第。

相手が撩だから平然と対応できるが、どっかのチンピラだったら、

気は失っているであろう攻撃。



「おまぁ、今まで柔道とか合気道とかしたことないよな?」

警察学校では、女性に合気道を身につけさせるが、

香はそれに近いものをすでに供えている気配がある。

「うん、全然。ただ、撩の動きを今まで見てきたから、

それの見よう見真似、かな?」

「ふーん。」

確かに6年以上一緒に過ごす中、

香の前で素手でザコを黙らせたこと数知れず。

それを自習しての、この身のこなしは、指導の如何(いかん)で、

際限なく伸びる芽を持っていることを感じさせた。



「もいっちょ試してみるか。」

「え?何を?」

「片足キック3連発。」

「は?」



きょとんとする香の肩をやんわりと掴み、

体の軸を撩に対して少し斜めしてみる。

「この距離で、この体勢で、左足を軸にして。」

すっと香から再度1メートルほど離れた撩が、

自分の顔の前に敬礼をするような形で右手をかざした。



「この高さで、顔と喉と腹を狙って、連続して足で攻撃してみろ。」

「ち、近いよ…。」

「だから当たんねーから。」

「む。」



香はちょっと考えた。

顔の高さは足がぎりぎり届くか届かないか、

ダメージを与えるには厳しい位置。

「撩、だめ。あんたの顔の高さは、届くかもしんないけど、力を入れらんない。

喉とお腹と弁慶でどう?」

「おいおい、おまぁ、敵にわざわざこうしますって教えんのかよ。」

「はっ!」

「おっと。」

ヒュヒュヒュっと空を切る音がする。

撩は足の位置を動かさないまま、のけぞる形で、香の足先から数ミリ間を置きかわした。

「うーん、何だか当たんないと練習してる気になれない…。」

「これはお前の動きを確かめるためのチェック。」

「サンドバッグかなにか欲しくなるわ。」

「女の腕や足で、男の体を攻撃したら、ヘタすると骨折だぜ。」

撩は香の左腕をそっと取った。

「だから、受け流すことが基本。」

「受け流す?」

「そ、力を使わずに、関節技とかを利用して相手の動きを封じ込める。こんな感じで。」

「あ!」

いつの間にか撩は香の後方にまわり、香の左腕は背中に持って行かれてしまった。

痛みはないギリギリの角度。

以前、ラトアニアの大統領暗殺を狙ったテロリストや、

海原に船の中でこの体勢を取られ連れて行かれた時のことを思い出し、

香はごくりと唾を飲んだ。

この姿勢では、はっきり言って逃げ出す術を知らない。



「こ、これって、どうしたらいいの?」

「やってみな。」

脱出を促す撩。

少し身を捩る。



「ん…、たぶん実践だったら痛さで動けない、と、…思う。」

「ふん、じゃあそのまま前屈みになって、右手が床に着いたら、

力一杯後ろ蹴りしてみな。」

言われる通りに動かしたら、右足が気持ちよく伸びた。

「っと、あぶねぇ、あぶねぇ。」



寸でで躱(かわ)した撩は、思った以上の成果に感心する。

「あ、これいけるかも。痛がっている振りして屈(かが)むと怪しまれないかな。」

感覚を掴んだ香は、体勢を直した。



「じゃあ、今度はおまぁが俺の腕を後ろ手にまわしてみな。」

ぬっと出された太い腕に、一瞬たじろいだ香。

「あ、片手じゃ、無理。」

「両腕を使っても可。あ、グローブはずせ。」

「あ、うん。」

香はグローブをはずして、テーブルの上に置くと、視線を撩に向けなおす。

両手でも持て余しそうな丸太のような前腕。



「こうやっておまぁを掴もうと、悪党の手が伸びてきたとする。」

スローな動きでわにわにと指を動かして香に接近する右腕。

「やーん、なんだかやーらしぃー、ハンマー出ちゃいそう。」

「うっせ!真面目にやってんだっ!」

香は射程距離に入った撩の手首を両手でぱしっと掴んだと同時に、

右足を勢いよく前進させ素早く撩の背後に回った。

撩の腕はくの字で背中に押し付けられる。



「お、やるじゃん。」

「で、でもだめ。あんたの腕太すぎ…。」

「そのまま俺の背中に体重かけてみ?普通の男だったらこれで動けなくなるぜ。」

「こう?」

香は、右半身を撩の背中に預ける形でより腕を鋭角に曲げると、

撩の体がそのまま床に近付いていく。

「上出来、上出来。」

振り返りながらにやっと香を見る視線は、どこか色を帯びている。

香は、その目にどきりとして、力が緩んだ。

「スキあり。」

撩は、なんの苦もなく香をくっつけたまま

右腕をくるんと動かして、そのまま後ろから抱き込み床に腰を下ろした。

「わわっ!って撩には全然効かないじゃない!」

「そりゃな。」

「…こ、これも、だ、脱出訓練?」

赤くなりながら撩の方を見ようとする香。

「この場合、どうする?」



香は、またかと思ったが、まともに試みても脱出できるワケがないと悟る。

自分の肩にぐるっと巻き付いている撩の腕が目の前にある。

後ろ頭突きはきっと避(よ)けられる。

ちょっとだけ考えに頭を巡らせる。



(これは、…反則、かな?)



そう思いながら、香はいたずらをする気分で、

撩の腕を小さな舌でぺろんと舐めた。

「うぁっ!」

一瞬緩んだ撩の腕から、するりと滑らかに脱出した香。

すぐさま立ち上がって距離を取る。



「へへ…。力じゃかなわないから、裏技使っちゃった。」

(は、初めて撩の腕舐めちゃった。)

舐められた腕を押さえて呆然としている撩。

目をぱちくりしていたが、ふっと肩を落として目を閉じる。

「……やるな、香。」

ゆらっと動いたかと思った撩が、いつの間にか真っ正面からのハグ。



「?!」

「ったく、折角残しといた俺の理性を一気に吹っ飛ばしやがって…。」

腕の中で、胸板に顔を押し付けられた香の耳に、妙に色っぽい撩の声が届く。

「は?」

そのまま仰向けでテーブルに上半身をぐいっと押し付けられた。

香に覆い被さった撩はゆっくりと近付き、白い首筋に唇を這わせる。

「ひゃあっ!ちょ、ちょ、ちょっとっ!撩っ!なにやってんのよっ!」

「撩ちゃん、今のでブレーキ壊れちゃったぁ〜。」

「は?」

そのまま耳朶をぱくっと挟まれる。

「あんっ!」

トレーナーの裾から、するりと温かい手が侵入してきた。

「訓練おーしまいっ。もっこりタイムにしま」

どごぉおおおおん!

100トンハンマーが体の側面にヒット、

そのまま本棚にハンマーごと飛んで行く。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。」

テーブルの上から起きあがる香。

「こ、これじゃ、く、訓練に、ならない、じゃない…。」

本棚からどさっと落ちる撩。



「シャワー、浴びてくる…。」

香はこめかみを押さえながら

足取り重く吹き抜けのフロアを出て行った。


********************************
(14)につづく。




ならんだろうなぁ〜。
リアルではせっかくのバレンタインですが、
ウチの撩はハンマーくらいました。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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