15-18 Deep-Fried Chicken

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(18)Deep-Fried Chicken *****************************************2732文字くらい



「たられば〜。」

ふざけた言い回しで帰宅を告げながら、キッチンの扉を開ける。

テーブルの上にはすでに、

ポテトサラダがガラスボールの中にてんこ盛り。



エプロン姿で、ガスコンロの前に立っている香は、

顔だけちらっと向けて、撩のほうを見る。

「あ、おかえり。もうすぐご飯できるから。」

いたって落ち着いた通常の空気。

今朝方、あれだけパニックになっていたはずの気配は微塵もない。

すぐに向き直る香の無防備な背中に、

また抱き込みたい衝動が込み上がってくるが、

今、怒らせたらこの後何かと面倒なので、

ここはとりあえずガマンしておく撩。



ダイニングテーブルにつこうとしたら、

香がメインディッシュを手に振り返り、テーブルに置いた。

「お!もう食っていいのか?」

「手くらい洗ってきなさいよ。」

目の前には、鶏モモの空揚げが山盛り。

たっぷりの千切りキャベツとキュウリの笹切りにちぎられたパセリ、

茹でたブロッコリたちがその存在を引き立てる。



ちらりと撩の手元を見た香があれっという顔になる。

「手ぶらだけど、何買ってきたの?」

「あー、注文しただけ。」

「はぁ?もしかして、エッチビデオとかじゃないでしょうねっ。」

「ち、ちげーよっ!」

(つーか、そんなもんの補充なんぞもう必要ないしぃー)

と、口に出したらまたハンマーをくらいそうな独り言を頭の中で呟く。



「で、『幸運』の意味は分かったか?」

シンクで手を流しながら、聞いてみる。

「へ?」

「まだ、だめか。」

香が渡してきたタオルで手を拭いながら、にやつきながら再度問う。

「せっかく海ちゃんが持ってきてくれたメッセージに、おまぁ、まぁ〜だ気付かねぇの?」

タオルをポンと香の手の平に返す。

むっとした顔になった香は、味噌汁と炊きあがった白米をよそいながら、

昼間のやり取りを思い返す。



「だ、だってっ、あんたと海坊主さんとの間にあったお互いの『いいこと』って、

あんまり共通項ないじゃないっ!」

テーブルに配膳しながら、取り皿も持ってくる。

「海坊主さんにエッチな話題でラッキーだなんて考えられないし、

今回の仕事がらみじゃないって言うんだったら、ますます分かんないわよっ。」

席に戻った撩の顔をきっと見つめて文句を続ける。

「ふーん、タコにしては結構いいヒントを言ってたんだけどなぁ。」

頬杖をついて、まだにやにや顔で目を合す。



香も席について、箸を取る。

首をかしげながら、困った表情で斜め上の空を見つめ、ふぅと息を吐くと、

伏せ目になり、ぷるぷると首を振った。

「だめ、分かんない。とりあえず食べよ。揚げたてなのに冷めちゃう。

いただきまーす。」

「へいへい、いただきやす。」



今は考えることより食うことだと、切り替えた香に苦笑しながら、

撩も箸を持った。

昼の運動でいつもより空腹だったのか、

普段は無意識なのか食卓を共にする時、

撩が先に食べ始めてから自分も食べ始める香が、

撩とほぼ同時に空揚げを頬張った。



「んっ、おいしっ。今日は無性に揚げ物が食べたかったのよねー。」

はぐはぐと動く口元、

実に健康的な食欲に、撩もさりげなく香の体調チェックをする。

(大した疲れはなさそーだな。夜も運動だぞ、香ちゃん♡)

口におかずをたっぷり頬張ったまま、

思わずまたにへら顔になる。



「ぐへっ!」

スコンとこめかみに当たったのはミニハンマー。

「まーた、やぁーらしぃーこと考えてたでしょっ!」

「ってぇー、あにすんだよっ、カオリンが元気で何よりって思ってただけだっつーのにぃ。」

「さっきの顔でその内容を信じてもらえると思ってんの?」

涼しい顔ではぐはぐと食事を進める香。



後ろからのハグと、エッチ本の必要のなさを口に出すことを押さえて、

とりあえずはハンマーを出させないようにしていたが、

ここで飛んでくるとは、やや計算外。

無意識に顔の筋肉が緩んでしまった己を小さく恨む。



「どうせ、出かけ先でかわいい子にでも会ったんでしょ?」

完全に自分がその妄想の対象であることをかけらも感じていない香に、

撩は深く溜め息をつく。



「かおりちゃーん、意味が分かんなかったら『罰ゲーム』っつたろ?

ボクちゃん、どんなお仕置きしよっか悩んでんのぉ〜。」

空揚げを刺した箸を1本ずつ両手に持って、ぶりっこスタイルでくねくねする撩。

「ひっ…。」

香は、そのいや〜な空気に思わず背が反り、

茶碗をまたかしゃんと落とした。

殆ど中身が残っていない器は体勢を崩さず、

そのままテーブルに着地した。



「あ、あ、あたし、きょ、きょ、今日は、トレーニングで、ちょっと疲れたから、

じじじじ自分の部屋で、ね、ねよっか、なー……っと。」

香の顔が脂汗付きで2色になった。

おでこは青筋が縦線で装飾されるかのようにブルーになり、

頬は絵の具をベタで塗ったかのように赤くなる。



「香君、何か言ったかな?」

今度は撩が涼しい顔をして、食事のラストスパートにかかった。

ギクリという音が聞こえてきそうなくらい、

エアー茶碗を持っている香が硬直する。



「な、な、なんのことかしらぁ〜、は、はやく、たたた食べて、はやくねぇーよおっと。」

香は、また鬼ごっこが始まるような気配に、

ごくりと唾を飲んだ。

落としたお茶碗を持ち直し、残りの食事を口に運びながらも、

カチカチと器同士が揺れる音は、

最後の空揚げがなくなるまで聞こえていた。

撩は、フフーンという既に勝ち誇った顔で、

視界の端にそんな香の姿を見留めながら、

先に食べ終わる。

「ごっそさんっ!あー、食った食った。コーヒーたのむわ。」

そう言いながら、片手をひらひらさせて、リビンングへ向かった。



「………。」

ほぼカラになった自分と撩の器に視線を落とす香。

この手のことに鈍感な香でも、

このやりとりであっち方面の身の危機を直感的に感じ、

さらに顔色の2色がより発色する。

「っだ、だだだだってっ、分かんないモンは分かんないんだもんっ。」

箸を持ったまま両手で顔を隠す香。

おそらく客間兼自室に逃げ込むのは不可能。

『幸運』の意味の解答も分からない。

このまま撩の得体の知れないお仕置きを待つのは

精神的にもちそうにない。



香がテーブルに突っ伏すと、かしゃんと食器が鳴った。

あの777万円が意味するラッキーセブン、

ファルコンが言い残したフレーズを何度思い返しても、

該当するモノが出てこない。



「港であったことだったら、あたしに分かる訳ないよぉー。

そうじゃなかったら、なんなのよぉー。」



香は、いくら考えても出てこない答えに、

大きく溜め息をつく。



「……と、とりあえず、片付けて、…コーヒーいれよっかな…。」



むくっと上体を起こすと、

殆ど残飯が残らない食卓に、ほっとしながらも、

どうやって、この後をやり過ごすか、

もやもやと考えつつ、シンクに食器を運んだ。


***********************
(19)へつづく。




食器が鳴るシーンは、
シュワちゃん主演の「トゥルーライズ」で
ヘレンが食卓でごまかすシーンあたりを参考に〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
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