15-19 If…

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(19)If… ********************************************************3028文字くらい



食器を片付け終わり、明日の朝食の分のコメを研ぎ、

軽くキッチンまわりの整頓をし、

その間にヤカンでお湯を沸かす。

ついでに、いつもの錠剤も服用し、

グラスに撩が用意していたペットボトルの水を注いで、喉に流す。

コーヒーの仕度が整うと、カップを2つトレーに載せた。

そこで、動きが止まる香。



「い、今、近付くのは、な、なんか危険な気が、する…。」



この数日、

タヌキ寝入りしている撩に何度捕獲されたことか。

まだこの後、自分はすることがある。

報酬の中身を分けて、撩のツケの請求書と、

備品・消耗品購入リストを照らし合わせなければならない。

これまでの流れだと、コーヒー飲み終わったら、

そのまま撩の部屋へ連れて行かれる未来が見える。



できたら今晩中に片付けて、明日にはさっさと支払ってしまいたい。

一緒にゆっくり飲みたいけれど、予定が狂わされそうなので、

香は迷いを振り払って、自分のカップをテーブルに戻し、

1客だけトレーに乗せて運ぶことにした。




「りょ、撩?コーヒーお待たせ。」

「あーさんきゅ。」

リビングのソファーの短辺でコーナーに背を預け、

長い脚を組んで仰向けになり、いつもの雑誌を読んでいる撩。

香は、捕まったら困るので、

思わずテーブルの一番遠いところにカップを置いてやろうかと迷ったが

かえって不審がられるかもしれないと思い直し、

撩のそばにそっと置いた。

自分の分だけであることに、撩の眉が少し上がる。



「あ、あたし、家計簿と帳簿をつけなきゃいけないから、あっちで片付けてくるわっ。」

そう言いながら、後ずさりをしてリビングの扉を慌てて閉めた。

しっかり挙動不審である。



撩は、そんな香の反応をまたクスクスと肩を揺らして小さく笑った。

「…んなに、怯えなくたっていいっつーのに…。」

右手を伸ばしながら上体を起し、カップを手にとった。

くっと口をつけると、いつもの味に安堵する。



「……あれから、8日、か…。」



飲み終わったカップを人差し指にひっかけ、ぷらぷらと揺らし、

左腕は膝にあずけ、やや背を丸めて目を閉じる。



もし、

ファルコンと美樹の結婚式で、騒動が起きず、

そのままキャッツで平和に二次会の流れになっていたら、

自分たちはどうしていただろうか。



いずれにしても、ケジメをつけたファルコンとミックを前に、

きっと主観的にも客観的にも、お前達はどうするんだと、

仲間に突っ込まれながら、

向き合わざるを得なかったことは間違いない。

ただ、そこから思い切った前進には、

そう簡単には繋がらなかったであろう。



たまたま、クロイツがあの場を狙ってきたが、

もし、違う輩(やから)によって

違う場所で違う時に

同じように香が連れ攫われていたら、

何が違っていたのだろうか。



毎回繰り返される拉致監禁に救出。

香が危険な目に遭うことを、関係を変える足がかりにするようなことは、

やはり今までも出来なかった。

仮に、手を出した連中のお陰で、自分たちがまとまったとなると、

きっかけが外付けの暗部に起因する事実は動かせなくなる。

後々その負の思い出をずっと引きずることになり、

唇を合わせる度に、抱く度に、

その記憶が脳裏をかすめることになる。

かといって、

日常生活の中で、

唐突に切り替えるきっかけを作れる勇気は持ち合わせていなかった。



そんな中で予告もなしに招待された件(くだん)の式。

ファルコンと美樹が血を流してまで、

自分たちに機会を与えてくれたのだ。

それを無為無駄にする訳にはいかないと、

パイソンを片手に森を走りながらそう考えていた。



拘束された香を見つけた時、

全てが片付いたら渡すべきものとして、

そばに生えていたあの花を手折り、

袖口に忍ばせた。



それを思えば、あの2人の式という日に重なったことは、

何の力でチェスのコマが動かされたのか。

同じ裏の仕事で生き、

特別な女を一人決めた世代が比較的近い同類の挙式、

こんな大事件とも言える出来事は、

恐らくこの先立ち会えないと断言できる。



あるとしたら、ミックがかずえと式だろうが、

あの2人は、自分たちでこの運命を共に掴んだ。

一方でファルコンと美樹に関しては、

自分と香がその架け橋としてお節介をしたペアでもある。

その2人のけじめを目の当たりにして受けた心理的影響の大きさは、

他に類するパターンを想像することは出来ない。

クロイツの攻撃で、ファルコンの軽傷、美樹の重傷ということが、

最大のマイナス点ではあるが、

4人とも、この業界にいるからこそ

今回の事案を前向きな理解で共有できている。



撩は、カップをテーブルに置いて、

んーと伸びをすると、

またごろんとソファーに転がった。



恐らく、あのトラブルがなくても、

式の夜には何らかの形で、

自分たちも極々小さな一歩を進めても

おかしくはない心理をくすぶらせていた違いない。



それが有り難くも、緑に囲まれた美しい風景の中で、

まるでヒーローが姫を救出するような映画のワンシーンのように、

決して小さくはない最初の一歩を踏み出すことができたのだ。

くすぶっていた熾き火に一気に新鮮な空気が吹き込まれ、

炭火の熱の勢いが、

間の壁を瞬時に溶かし落としたようなイメージが重なる。



「あれが、薄暗い地下とか汚れたアジトだったりしていたら、

気分も盛り下がるだろうなぁ〜。」



くくっと細く笑う撩。

恵まれ過ぎた人生の分岐点。

頭の下に組んだ両手を滑り込ませ、また目を閉じる。



あの2人の結婚式のタイミングで、クロイツの襲撃があり、

お互いの心を、言葉で交わしてしまった流れに、

いい加減にケジメをつけろと、

まるで用意されたようなシナリオに素直に従って、今に至る。





ー 撃って 撩!! それであんたが生きのびられるんなら…

  あたしの命であんたの命が助かるなら本望よっ!! ー




ー おれは何がなんでも愛する者のために生きのびるし

  何がなんでも愛する者を守りぬく…!! ー





「あ〜んなこと言われちまって、

あ〜んなこと言っちまった後に、

なぁ〜んにもせんワケにはいかんだろ…。」



キスだけで、暫く様子を見ていくつもりだったのが、

あれよあれよという間に、

寝具を共に使うようになってしまった。

ストップが効かなかった自分に苦笑する。

己を止められなかったというのも、相当の我慢の限界であったのだろう。

それを受け入れた香もまた、深部に仕舞い込んでいたものが、

本人の自覚以上に膨らんでいたのかもしれない。



血塗られた闇を拠点に生きることは変えられない。

その闇で共に生きることを、香は自らの意思で選んだ。

その黒い業界にかかわりながらも、

白さを失わずに、灯火を絶やさないミューズそのもの。



「あいつらが、式を挙げなかったら、どーなっていたことやら…。」



お互いくすぶりながらも、繰り返される同じ毎日に、

きっと最悪な形で何かが誘爆され、

関係が修復不可能な流れで崩壊していたかもしれない。

それを回避できただけでも奇跡。

贅沢過ぎる演出に、あらためてこの巡り合わせに幸運を思う。



ふと、先日仰向けの自分の胸の上で香が全体重を預け、

2人一緒にソファーでまどろんだ記憶が浮かぶ。

自分の鼻先に香のネコ毛がくすぐっていた感覚が蘇る。

思わず、右腕がその体を抱き寄せようと動くが、

空を掴み、はっと目が開く。



「ったく、こりゃホントに重症だな…。」



がばっと起きた撩は、さっさと寝る準備を済ませて、

香を自分の部屋に持ち込むべく、

カップもそのままに、足取り軽くリビングを出て行った。


*****************************
(20)へつづく。




これは、他の設定を否定しているワケではございませんので、
あくまでも、当サイト内でのお話しでございます。
日常の中で、突然の初ちうとか、
どっかのバカチンがカオリンに手ぇ出そうとして
撩ちんぶち切れバージョンも大好物ですので〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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