15-20 Searching Kiss

第15部 Mean Of Luck  

奥多摩から8日目


(20)Searching Kiss  ********************************************* 3641文字くらい



香は、客間兼自室で、

撩のツケの仕分けを終え、帳簿もつけ終わり、

インナーに着替えて、乳液まで施し、

寝る前の細々としたことに一区切りつけていた。

しかし、雑務に頭を使っていたら、

『お仕置き』のことが頭からやや離れてしまっていた。



「さて、歯を磨こうかな…。」



明日の夕方、各お店が準備を始める頃に、

まとめて支払いにまわりたい。

全く無警戒で洗面所に移動し、香は翌日の予定を頭にイメージしながら、

しゃこしゃこと歯磨きを続けた。

この時、目を閉じていたのがいけなかった。



「もう済んだのか?」



突然聞こえた撩の声に、ビクリと肩が上がる。

目を見開くと、鏡に長身の男が自分を覗き込むように映っている。

泡だらけの口から、声にならない抗議が漏れる。



「ぐっ、ごほっ、ひょっ、ふぁんた、ひつのあにっ!」

(訳:撩、あんたいつのまに!)



慌てて歯ブラシを口から抜き出し、

コップの水を口に含んで大急ぎで漱(すす)いだ。

「あ、あ、あの、撩もここここ使うのよねっ。

あたあたあたあたしっ、もももう、終わるからっ、

ちょちょちょっとままま待っててっ。」

急な男の登場に、先ほどのやり取りを一気に思い出し、

何の心の準備も出来ていなかった香は、

何とか日本語に聞こえる文言で、わたわたしながら、

このまま連れていかれるんじゃないかと、酷く警戒しつつ、

ぎこちない手つきで、バタバタと歯ブラシを洗い、

その場を離れようとした。



鏡越しの撩はふっと笑い、

自分から不安定な動きで距離をおこうとする香の頭をくしゃっと

軽く鷲掴みにする。

「うひゃ!」

「……香。」

「な、な、な、に?」

「戸締まり頼むぜ。」

「へ?」

何秒きょとんとしていたことか。

撩が水をじゃーと出す音にはっと我に返る。

撩の広い背中が視野の半分以上を占め、また動悸を覚える。

「ぁ…、ぅ…っと、戸締まりね…。み、見てくる。」

じりじりと後ずさりしながら、

よろけるように廊下に出てくる香。



(な、何なのよぉー。)



恥ずかしさと照れとで、いちいち心臓に衝撃がくる。

とりあえず、消灯と後片付けとトラップの見回りに、

いつも通り5階の玄関から7階の書籍コーナーまで、

パタパタとスリッパの音を立てて見回ることにした。



「あとはここだけね…。」



リビングに入ると、

撩の飲んだコーヒーカップがテーブルの上に置かれたままだった。

「もう、シンクにまで持って行けないのかしら。」

香は、リビングの窓の鍵を確認して、

カップを持ち上げると、そのまま電気を消してキッチンに向かった。



流しで洗おうとすると、ふと

飲み口に残る液体の痕が薄く乾いているのが目に入った。

一瞬、自分の手が止まる。

そこに撩のあの唇が触れていたということに、

どういう訳か、かぁっと頬が染まってしまった。



「はあ?な、な、なんで?」



香はぷるぷると頭を振って、蛇口をひねった。

きゅっきゅっとカップを洗い、かしゃりとカゴの中に置く。

「ふぅー。」

自分の手をキッチン用のタオルで水気を取ると、

パジャマ姿の香はこめかみを押さえた。

「こんなことで、反応するなんて…。」

これまで殆ど気にしなかったことに、より一層過剰反応している。



「こ、これじゃ、まともに顔も見れないよ…。」



キッチン用のタオルで手を軽く拭い、

振り向こうとしたら何かに顔面衝突した。

「った!」

「なぁーにやってんの、おまぁ。」

「りょっ…。」

鼻を押さえながら、上を見上げる香。

そこにはにんまりと口角を上げている男が、

首にタオルをひっかけ、

スウェットとTシャツ姿で自分を見下ろしている。



「もうあとは、寝るだけだろ?」

小首をかしげながら尋ねてきた。

「…ぅ。」

後ずさりするにも、シンクが腰にあたり動けない。

「で?結局海ちゃんの言ってた『幸運』の意味はわかんねーまんまか?」

ぎくっと肩関節が鳴るかと思う程に、香の上半身が縮こまる。

撩は、そんな香をにやにやと見つめながら、

太い両腕をシンクに預け香を挟み込んだ。



「ひっ。」



肉食獣に捕獲されるというのはこういう気分のことをいうのか。

いつだか動物番組で見た動画が頭に浮かぶ。

サバンナで体格のいいクロヒョウが、

トムソンガゼルの幼獣をずるずると樹木の上に運び上げるシーンと

自分の心理が重なってしまった。



これはもう逃げられない。



ごくりと生唾を飲み込む香。

瞳の中に、怯えの色を読んだ撩は、ふっと目を細めた。

シンクの縁から両手を浮かせ、やんわりと香の左右の手首に触れる。

びくんっと揺れる大きな瞳の香が、まさにレイヨウ類のそれに見えてくる。

撩の2つの手はじわじわと腕を遡り、硬くなった肩を経由して、

首筋をするりと撫でると香の頬をそっと包み込んだ。

香の心音が小指にあたる顎下からトトトトと伝わってくる。



「んなにびくつくなって…。おまぁが嫌がることはしねぇーから。」



鼻を押さえていた手元は、自分と撩の胸部に挟まれる。

ゆっくり近付いてくる撩の顔。

見上げた状態の香は、撩の二つの目を交互に見つめながら、

接触するまでの短い間、

お仕置きと言っていたはずなのに、嫌がることをしないというのは

一体どういうことなのかと、

発言の矛盾に理解がついていかないと、考えていた。



「んんんーっ」

大きく口を塞がれる。

強い吸引と圧力が、香の薄い皮膚に熱と湿度を一気に与える。

反射的に自らの視界も硬く塞いでしまう。

挟まれた右手は撩の胸部でTシャツを握り込み、

左手は、男の脇腹の布地をきゅっと掴んでしまった。



細かく角度を変えながら、撩の舌が歯と唇の間を滑る。

「ふぅ…んんっ。」

顔を大きな両手で固定されているので、

つい引き気味になりそうな動きが許されない。

ふいに顎が引かれて、歯列と歯列の間に隙間が出来たと思いきや、

上あごの天井をねっとりと舐め上げられた。



「ぅん…ん。」



自分のものではないアミラーゼを含む液体が味蕾に触れる。

ほんのり甘く、ミントの香りを伴ったそれが、

くちゅりと音を立てる。

口蓋の奥で行き場を失ったお互いの唾液が、こくりと香の喉を落ちていった。

撩と対峙した時から上昇を続けていた体温はそれによって瞬発的に加速し、

熱い湯船に長時間浸かっていた時のように、

全身がのぼせ上がってきた。



自分の口の中で、全ての壁面に触れようとする男の舌の動きに、

香の息は鼻腔を通る分だけでは、間に合わなくなる。

感覚に耐えきれずTシャツを握りしめている指が細かく震え出す。

撩は、おかまいなしに深く濃いサーチンングキスを続けながら、

柔らかい髪に指を埋め、クシのように掻き上げ、

一方の手の平は、頬から下降し服の上から背中を丁寧にさする。



「ん…、んんんっ…。」



鼻にかかった小さな声が、苦しさを訴える。

粘膜から届く刺激があまりにも甘く激しく、

指先から始まった震えは、つま先にまで広がってしまった。

下腹部がじんわりと熱を持ち始めているのを自覚する香。

もう立っていられないかもと、

中断を求めようとしたその刹那、

今度は自分の舌が、撩の口の中に引き込まれた。

「んんーっ。」

歯があたり軽く甘噛みされると、そのとたん香の中で何かが弾けてしまった。

指が白くなる程に握り込んだ手が、Tシャツに皺を作る。

全身を真っ赤に染めた香はかくっと下肢の支えを失った。

しかし、倒れ込むことなく、撩の腕の中でその体重を預ける形になったが、

それでもまだ口元は解放されることがなかった。



体の震えもまだ止まらず、必死に撩のシャツにしがみつく。

目元は、緩んだ涙腺から出た水気でしっとりと濡れ、

外に流れるはずの分泌物は、鼻の奥に落ちていく。

撩の舌が自分のそれを表裏共に愛おしく擦り合せられる。

長く深く熱を持った口付けに、香は意識の糸がちぎれそうになる。



吸引力がふと弱まると、お互いの上唇下唇を合わせられたままの状態で、

するっと自然に自分のもとに舌が帰ってきた。

同時に液体も流し込まれ、また反射で嚥下せざるを得なくなる。

自分以外の唾液を再度飲み込んでいるという事実が、

思考回路をパチパチとショートさせた。

一瞬、目を閉じているはずなのに、目の前が真っ白になり、鼻からの息も震える。

酸欠気味の脳に、許容量オーバーの刺激が与えられ、

短く浅い呼吸が、肩の上下を激しくさせていた。

香の唇を周回するように撩の舌先が滑らかに動く。



「ぅ…。」



香が完全に脱力しきっていることを確認した撩は、

いつもの区切りの合図で全唇をちゅうと吸い上げて、

ぽんと音をたてながら、ようやく香の唇から離れた。

額には汗がにじみ、背中もしっとりとしている。



「……キスだけで、イっちゃった?」



ふわりと体が浮いたように感じた香は、

細い眉を浅いハの字にして、目を閉じたまま、抱き上げられていることを知る。

頭がぼやけて、返事ができない。

息が荒いまま、何とか意識を保とうと試みる。



「…りょ…の、…キ……スって、……ズる、ぃよ…。」



朦朧とする香は、やっとそれだけ口に出す。

「今更だろ?」

撩はふっと優しい目で香を見つめながら、

そのまま抱きかかえた腕で扉を開け消灯する。



パタンと閉じられた暗いキッチンで、

一滴の雫がタンと流しに落ちた。



**************************************
第16部(1)につづく。




あーあ、連れて行かれちゃった…(合掌)。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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