17-01 Statistics

第17部 Compensation Of Bill   全20回

奥多摩湖畔から9日目   


(1)Statistics ******************************************************* 2706文字くらい



外が明るくなり、

ハシブトガラスの野太い鳴き声が耳に届く。

その刺激で、寝返りを打った香。



「ん…。」



その拍子で、ずるりんとモノが抜ける。

(あ、とれた。)

とりあえず一安心する撩。

自分に一度背中を向けた香が、

また身じろいで体を動かし撩と向かい合う。



「ぅ……ぅん。」



香の瞼がふるっと震える。

そっと薄く目を開ける様子を撩は気配で感じ取る。



いつものポジションで、撩の右肩口が枕代わり。

枕役の男はまだ瞼を閉じている。

香は、ふと自分の体の状況把握に意識が向いた。

まるで下腹部に体に風穴が空いている感覚にやや驚く。



(……アソコがすーすーする。)



べたつき感もあるので、

早くシャワーを浴びて洗わなきゃと思いながらも、

撩の体温と心音を拾い、まだ離れたくない気分にもなる。




(……ちゃんと、聞いていたから。)




ファルコンが言い残した、『お互いの幸運を祝して』の意味。

(てっきり、もっと違うものだと思っていたら……、

まさか教授が言っていた『あのセリフ』と同じだったなんて……。)




—  本当に幸運なのは、おまえさん達に会えたあの男共じゃよ…  —





「…ぁたしも、…りょ…と、…会えて」

「幸運か?」

「!!!っ。」



先に言われてしまったことと、またこの男が寝たフリをしていたことに、

混乱と腹立たしさと恥ずかしさが一気に湧き出る。

寝起きで、ややぼぉっとしていた頭も瞬発的に目が覚めた。

口パク状態の香を見つめながら、また柔らかく抱き直す撩。



「……おまぁにとっては、俺と出会わなかったら、

……違う幸運があったかもしれないんだぜ。」



己で言っておきながらスギリとくる。

抱き込みながら、鼻先を柔らかい髪に埋める。

自分と出会わなければ、

この兄妹が引き裂かれることはなかったであろう皮肉な巡り合わせ。



「……ううん。」



香は撩の胸に頬を寄せた。

肌と肌がくっつく感触に、

このまま皮膚を通り抜けて沈んでしまいたくなる。



兄がきっかけを作ってくれた。

この先の人生を共にしてもいいという相手と出会うことができた。

それだけでも幸運であることなのに、

共に暮らし、

共に思いを交わし、

共に体温を重ねることが出来るまでになり、

これを幸運と呼ばずに何と言おうか。



「……撩と、…一緒に、…いられるだけで、…幸運過ぎるよ…。」



撩の鼻から、軽く吐気が出る。

もし、生きる時代が少しでも違っていたら…。

もし、お互いが出会うことのないかけ離れた場所に住んでいたら…。

重なってしまったレールの不可思議さに

おのずと口端が上がる。



「おまぁさぁ…、今の世界人口の数って知ってるか?」

突然の出題に目が開く。

「え?」

「この地球に今何人の人間がいるかってこと。」

「ぅ…、わ、分かんなぃ…。」

高校時代に、世界史で習った気もするが綺麗に忘却。

撩がまた、ゆっくりと香の髪に指を絡める。



「……約52億…だと。」

「…52…。」

「そんなかでぇ〜、ばあさんとか、ガギとか除くとぉ〜、

世界中の美女ともっこりっつぅーてもぉ、

適正年齢は10分の1以下でぇ〜、それでも僕ちゃんが出会えるもっこりちゃんは、

数億人いるワケであってぇ〜。」

おちゃらけ兼おふざけ口調で統計の話を始める撩。

香は、そんな撩をきょとんと見つめている。

撩は左手を香の髪にくしゃりと埋めた。



「その数億分の1、なんだよな…。」



香の瞳孔が一瞬面積を増やした。

「宝くじの高額当選並、かそれ以上、か?」

ニッと唇の端が上がる。

「りょ…。」

「な?超ラッキーだろ?」



日本史、世界史、地球生命史と色々な年表を引っ張りだしても、

恐らく全ての生き物の出会いが同じ条件下といえるかもしれない。

人間でも、たった50年、100年と生まれ出てくる時期や場所が違うだけでも、

絡む歯車が全く違ってくるのだ。



今のこの時代に、この街で、この年齢で、撩と出会うことができた。

香の涙腺がじわりと反応をする。

表面張力で広がるそれを撩は黙って見つめていた。



「りょ…。」



まばたきで、滴がゆっくりと零れ落ちる。

頬を落ちきる前に、撩の唇がそれを受け止めた。

香は目を閉じたまま、自分の頬に滑る温かい感触に浸る。

撩が自分から、今の状況を『幸運』と言い切ったことに、

込み上げる何かを感じる香。

ぼやけた記憶ながらも耳に届いていたあの時の声が蘇る。




— ……最大の、幸運は… —

— ……か、ぉり… —

— ……おまぁに、…出会えた、こと…だよ —



途切れ途切れに聞こえた、撩の告白。

奥多摩で「愛する者」と言われたことが、

偽りでないことを、重ねて証明する文言に、嬉しさで破顔しそうになる。



が、この甘い空気に自分の方が耐えきれなくなってきたので、

照れ隠しに、いつもの2人に戻す会話を選ぶことにした。



「……撩、あんた、……なんで世界人口の数なんてチェックしてんの?」

「あ?」

「今とおーんなじコト、ナンパの時にも言って、口説き文句に使ってんでしょっ。」

「あっ、い、いや、それは、そのぉ〜…。」

視線が泳ぐ撩。

否定をしないところが撩らしく、これはハンマーを待っている流れだと、

香も動きをなんとなく読み取った。



「あはは…、で、で、出会いの確率をだ、な、と、統計学的に、せ、説明するのに、

わ、わっかりやすい、かっなぁーと。」

スコーンと、顎にミニハンマーを投げる。

「ぐはっ!」

これまた美しくヒット。



香は、緩んだ撩の腕から抜け出そうとするも、

下半身の重さで、眉間に皺が寄る。

ベッドサイドに手をかけて、上半身をゆっくりと起す。

それに伴い、はらりと毛布が重力に負けて落ちてしまう。

「ぁっ…。」

小さく声をあげて慌てて端を掴んでたくし上げるも、

自分のナイティーがどこにあるかすぐに見つけきれない。



「ほれ。」

香の背中のキャンバスを見つめながら、

右腕で頭を支え、左腕をぬっと突き出す撩。

その手には、香の3点セットが一式掴まれていた。

「ぁ、ありがと…。」

受け取りながら、頬を染める香。



「どうせ、こんまんまシャワーだろ?そんまんま行ったらぁ?」

再度1トンハンマー出現。

「がっ!」

「あ、あんたと一緒にしないでっ!」

湯気を出しながら、毛布の中でごぞごそと衣類を身に着ける香。

出られる格好になって、ふとベッドサイドの時計を見る。

「ああーっ!今日可燃ゴミの日だったっ!急がなきゃっ!」

隣でひっくり返っている撩をしっかり無視して、

家事モードへきっちりスイッチが入る。

ティッシュがたっぷり入ったゴミ箱を抱えて、

香は慌てて部屋を飛び出て行った。



「か、かおりひゃん、…せっかくのピロートークに

ツゥーヒットはないんでねぇの…。」



バタバタと階段を下りる足音を聞きながら、

どこか嬉しそうにぼやく撩。

今日も冴羽アパートでは、

朝から2発のハンマーでスタートした。


*****************************
(2)へつづく。





2013年現在、世界人口は70億以上という統計が出ていますが、
1991年当時は、約52億という数字があげられています。
22年で約18億増加。
類似サイズの哺乳類の個体数としては異質な数。
環境問題を語るとき、無視出来ないデータに、
どう向き合うか、なかなか複雑な気分です。
いずれにしましても、
こう考えると全てが奇跡的なご縁です。
画面の向こうのみなさんに
こうしてこの画面を見て頂けるのも、
数字では計れない幸運だと思っています。

というワケで、9日目がスタート。
また全20回という超メタボな中身ですが、
今回は後半でお店が複数軒出てきますので、
回数が増えてしまいました〜。
どんな一日になることやら…。

【追記:50000hit感謝!】
油断していました。5ケタ目がかわっとる…。
お詫びの記事でも触れましたが、
二次業界のルールやマナーを知らないまま
始めてしまったサイト故に、
複数の方にご迷惑をおかけしてしまい、
いわばしこりがついた状態の更新に、
この数字を頂いてもいいのだろうかと、
カウンターを見返しております。
毎回同じような表現で国語力の乏しさに歯がゆいところですが、
改めて、ここに来て下さる全ての皆様に深く深く感謝申し上げます。
先日、拍手企画でおまけモノを出させて頂いたばかりですが、
こちらも恒例記念として、SSを1本アップしたいと思います。
明日3/11の1818で更新させて頂きます。
雑な仕上がりで申し訳ないのですが、
節目企画の付録ということで、
お手すきの折りにご覧頂ければ幸いです。
2013.03.10.23:59

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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