17-04 Only Monday?

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目


(4)Only Monday?  ***************************************************3521文字くらい



「何つくろ…。」

冷蔵庫を開けて食材をチェックする香。

いつもなら、前日の晩にイメージが出来上がり、

冷蔵庫の開閉は手短かに済ませるが、

今朝は、ぱっとメニューが決まらない。

(ああ、冷気がもったいない。)

一度、パタンと扉を閉める。



「9時半前までには食べ終わりたいな…。」



いつもなら、ゴミ捨て前には仕度を整えているのが日常だったが、

撩と寝室を共にするようになってから、

朝の習慣が若干、いや、かなり狂わされている。

今も、照れと寝不足で頭がうまく回転しない。



「よし!決めた!」



香は、気分をなんとか切り替えて、

今日も和食メニューで整えることにした。



その頃、浴室の撩はずたぼろになりながらも、

実に幸せそうにシャワーを浴びていた。

壁一枚隔てたとなりの空間に、香が食事の準備をしている気配を感じ取る。



「ったく、かおりちゃんのウブさは、ツボだね〜。」



恥じらい照れまくり焦りまくる香の仕草が、

たまらなく愛おしく、分かっていて、

ついそういう場面にもって行きたくなる。

キス一つで、真っ赤に茹で上がる様に、

場慣れしたオンナとは違う反応に、

偽りのない心拍の動きに、

自身がかえって煽られ余裕をなくす。

が、それを悟られたくないので、

繰り返し、ごまかしとからかいの文言が連発する。



「だぁって、かぁ〜いいんだもんなぁ〜。」



ぐふっと厭らしさ100%の笑みを浮かべてくねくねオネエモードで

おちゃらける撩。

端からみると変態以外何者でもない。



一緒にいるだけで、心地良い。



自分がこんな相手に巡り会えるとは、

何の奇跡が働いたんだかと、泡を流しながら思いにふける。

共に生きて行く、

そう決めたことに揺るぎはない。



「……2人で、…シティーハンター、だもんな。」



泡が落ちきった裸体をそのままに、

滴る雫を気にすることなく脱衣所に出る撩。

タオルでがしがしと水気を取りながら、

今日のトレーニングのメニューをイメージする。



「……今回は、完全防備、だな。」



そう呟くと、赤Tシャツとスウェットを素早く着込み、

足取り軽くキッチンへ向かった。



扉を開ける前から、焼き魚の香りが鼻腔をくすぐる。

「あー、腹減った!」

そう言いながら、キッチンの扉を開ける。

白木のテーブルの上には、アジの干物を焼いたものに、出汁巻卵、

インゲンの胡麻和えに、海藻サラダ、フルーツは林檎のフジが添えられている。

いつも自分が座る席には、畳まれた朝刊。



「お、今日も和食か。」

ガタリと席につく撩の前に、

てんこ盛りに山型を描いた茶碗が無言でゴトリと置かれる。

目を合わさずに、そのままガスレンジの前に戻り、

味噌汁を注ぐ香。

千切り大根と刻み揚げの具に、白ネギを散らす。



伏せ目でトレーを運んでくるオーラーは、

まさに『あたしは今機嫌が悪いの』を発している。

今度は、溢れないように配慮してか、コトリと普通に配膳される。

撩は、縮こまって、新聞の端から香の様子をビクビクと伺う。

自分の席に腰を降ろした香は、箸を持つと手を合わせた。



「いただきます。」



小さな声は、余計な文言を言いたくないモードの表れか。

無表情でぱくぱくと食べ始めるパートーナーに、

撩はどう話しを切り出そうか悩むことに。



「お、おまぁさぁ、なに怒ってんの?」

「………。」

「おれ、なんかしたっけな?」



いや、心当たりはありすぎるが、と

すっとぼける撩に、香はキッと鋭い視線を投げる。

もう本日ハンマー3発食らったことを忘れたのかと、

またこんぺいとうを出現させたくなった。

しかし、香の目はすぐに逸らされ、再び無言無表情になる。

もぐもぐと動いていた口が、咀嚼と嚥下を終えると静かになった。



「……撩、……あたし、ゴミ出しの日は、自分の部屋で寝たいんだけど。」



目をぱちくりして、固まる撩。

「ああああ?なんでぇ?」

新聞がぱさりと床に落ちる。

じろりと睨む香。



「毎週水曜は、古新聞と容器包装類の日、

木曜日はビン缶にペットボトル、第1第3土曜日は不燃ゴミ、

火曜と金曜は燃えるゴミ、

この日の前日はあたし一人で寝る。」

「はああああ?ちょ、ちょっと待てっ!!」



長年の据え膳を耐え抜いて、

我慢に我慢を重ねて来たことがようやく解禁となり、

香と一緒に同じベッドに寝られる喜びを

しみじみと味わっていたこの9日間。

それが、突然の「一緒に寝ない宣言」にエアーハンマーを心臓に食らう撩。



「つーか、それって平日は月曜日のみっつーことじゃねぇかっ!」

「うん。」

テーブルに両腕をついて立ち上がる撩を気にせず、涼しい顔の香。



「撩……、奥多摩から戻ってきてから、今日しかゴミ捨てられてないの。

しかも、ぎりぎりで。この意味分かる?」

「ぐ…、そ、それは…。」

「あんた、『俺がしとくから気にせず休め』って言ってたことがあったけど、

結局回収の日にちゃんと出せてないの。」

「あ、……だ、がな。」



無表情で続ける香。

「あたしは、あんたと違って、

午前中はやらなければいけないことがいっぱいあるの分かっているわよね。」

香は、抑揚をつけずに理由を告げる。

「このままアパートがゴミ屋敷になると困るでしょ?」



いや、困るのは俺だとばかりに、この提案を断固阻止したい撩。

立ったまま頭を片手でがしがし掻いて、どさっと椅子に座りなおす。

規則正しい生活習慣に生活リズムを身につけている香にとって、

朝起きられないというのは大きな抵抗であり、日常生活に支障が出始め、

新たな悩みとなり、

出した結論が先の発言となった。



撩は出された朝食に手をつけられないまま、

頬杖をついて、脳をフル回転させる。

日曜の夜と、第2、第3金曜日の夜しか一緒に寝れらないというのは、

断じて受け入れられない。

(今更、独り寝が出来る訳ねーだろっ。)

しかし、香の宣言に冗談は混じっていない。

なら、こちらも冗談抜きで交渉するしかない。



撩は、すっと立ち上がって香に背を向けた。

片手は腰のポケットにつっこむ。

「……香、…おまぁは、俺と一緒に寝るのがそんなに嫌か?」

「え?」



おふざけの色がない言い様に、香はどきりとして、箸が止まる。

撩がそんなことを言い放つことに、激しく驚く香。

これまで、散々拒否をしていたのは、どこの誰だと、

まるで別人のような文言に何も言い返せない。

その赤いTシャツの広い背中が、肩を落としているその角度が、

淋しさ悲しさをより演出しているかのようにも見えてくる。



「そ、そ、そんなんじゃ、ない、わよ…。」

明らかに動揺が混じった声色に、

撩は流れを変えられる手応えを感じた。

「朝、起きられないのが、イヤなのっ!」

頬を染めて、照れ隠しに再び箸を進める香。



「俺は、…おまぁと寝られなくなるほうが嫌だ。」

「!!!っ」



香の箸がぽろっとテーブルに転がった。

この男がよくもまぁダイレクトにそんなことを口にできるものだと、

ボシュっと赤くなりながら、素直に驚く。



まだ、撩は背を向けたまま、表情は見えない。

「朝、ちゃんと起きれて、ゴミ捨てられればいいんだろ?」

求めている結果はそれであることは間違いない。

「……ぅ、ぅん。」

撩は、自分が落とした新聞を拾いテーブルの上に置くと、

そのままゆっくり香の背後にまわった。

目の端で撩の動きを追っていた香は、この展開に心拍が忙しくなる。

「…りょっ。」

ふわりと撩の熱を持った太い腕が香を包む。

「……悪かった。」

自分の右のこめかみに撩の唇が当たり、肩がびくりと跳ねる。

「……善処する。」

「りょ…。」

「だから、別に寝るなんて淋しいこと言うなよ。」

香の体温が急上昇する。

この声に弱いことを分かっていて、

この流れを作ったのはお互い承知済み。



「……もし、おまぁが客間に逃げても、ボクちゃん夜這いに行っちゃうから。」

ややおちゃらけ口調でのセリフに、これも冗談は入っていないと

直感で確信する香。

もう全身ストロンチウムを燃やしたような緋色に染まっている。

こんなセリフは、本来自分以外のオンナに向けられていたもののはず。

相方の変貌振りに、まだ心が追いつかない。

返す言葉も見つからず、ただただ撩の言動に恥ずかしさで一杯になる。



「……今日は、午後から射撃すっから、しっかり食っとけ。」



頬にちゅっと軽く触れたものがナニか分かった時には、

既にその熱の主は自分から離れ食卓につくところだった。

頂きますを省略して、撩は食事を始める。

涼しい表情で、心の中では自身の勝利にガッツポーズを作る。

(よっしゃ!これで一緒に寝ない宣言はなしってことでっ!)

ちらっと香を見遣ると、まだ赤い化石のまま。



「おいおい、冷めちまうぞ。」

はっと我に返る香。

「ぁ、…ぅ、うん。た、食べる、わ。」

油が足りないロボットのような動きに、

勝者のゆとりで撩は苦笑した。


******************************
(5)につづく。






ゴミ捨ての曜日は、現在の冴羽アパート周辺の番地のもので、
1991年当時はどうだったかは未調査です。
また、小さなペットボトルが一般に普及しはじめるのが、
1996年頃かららしいで、このあたり時系列は若干無視しております。
しかし、ペットボトルのお茶の普及のせいか、
急須を使ったことがない大学生がかなりいると
先月メディアで取り上げられていて結構驚きました。
まぁ、私の世代も昭和初期の生活用品や農機具を見て
何だか分からんというものありますが…。何だか複雑な気分です。

思い出しネタ。
完全版6巻第56話「危険な国からきた女!」の
P162で、この男カオリン後ろハグで、
「またすぐやきもちやいて おれは 結婚の相手は きみしかいないと
思ってるよ……」とかほざいてた時代があったんですよね…。
この後即10トンハンマーでしたが。
今見るとうわぁーという一コマ。
この台詞、どっかで本人に思い出させたい気分です。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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