01-19 Living Room

第1部 After the Okutama Lake Side


(19)Living Room  *************************************************************** 3823文字くらい




キッチンに残った撩は、

食器や鍋を洗って一通り片付け終えた。

清潔な台所、

整理されている調味料に調理器具。

冷蔵庫も食材が無駄なく管理されている。

男勝りな元気のよさを持つ一方で、

こうして家事全般のマネージメントが

きちんとこなせる二面性につくづく感心する。



「しっかし、遅いなー。」




(40分以上入っているか…。

まっさか、湯船で溺れてんじゃないだろうな。)

途中までは、

浴室の音を耳が拾っていたので、気配は感じていたが、

やや心配になり、

脱衣所のほうに向かってみた。

すると、

カーテンの向こうからドライヤーの音が聞こえてくる。

(お、上がってたか。

さっきの疲れている様子から、

風呂で寝てんじゃないかと思ったが、

大丈夫だったようだな。)



不安がとれた撩は、そのままリビングに向かった。

電気をつけ、ソファーの長辺にどさっと座る。

天井を見上げながら、

右肘をソファーにひっかけ、

左手は髪をかきあげる。

頭の中は、

これからの展開について考えを巡らせ始めた。



今日、

長年深く閉じ込めていたお互いの想いを

ようやく通じ合わせることが出来た。

気分としては、すぐにでも香を抱きたい。




海原戦の時、またここに戻れたら、

あの時の「続き」をすることに、

邪魔をするものは殆どなかった。



なのに、

それから触れたくても触れられない状況を作ってしまったのは、

愚かなる自分自身。

高いフラストレーションを抱えていた時間の長さもハンパではない。



深く抱き込んだことによって知ってしまった、

細く柔らかくしなやかな体。

深く入り込んだことによって知ってしまった、

甘く温かい口内。

ぬくもりや感触や匂いに濃厚かつ急接近したことによって、

もっと、という願望が膨張し、

長年押さえ込んで来た箍が

ピキピキと歪(ゆが)み歪(ひず)みを作っている。



しかし、ほんの5、6時間前に、

初めてまともなキスをしたばかり。

(そのままの勢いでバージン頂きまぁ〜すっつぅーのは、

あまりにも節操がないよなぁ。)



今までと180度変わってしまった自分の言動が、

香に混乱を招く程になっているし、

急激な変化は、

お互いの心にも身にもよくないかもとも思う。



かと言って、

ゆっくり関係を進めようにも、

ぎくしゃくした雰囲気が長期間続くのも

出来れば避けたい。

もちろん香のペースに合わせることも

重きを置かなければならない。

しかし、香はこの手のことに

「超ド級」が付く照れ屋で、

恥ずかしがり屋で、奥手で、鈍感なはず。

その歩みがティーンズよりも鈍行なることは、

容易に想像できる。

香がそういう関係を受け入れられるまで、

じっくり待つというスタイルを取ったとしても、

下手したら、

身を繋ぐまでまた6年くらいかかるかと、

なまじ冗談にはならない予感も。




(やっぱ、俺がリードするしかねぇか…。)




と言っても、自分も初めて尽くし。

本気になった相手とも初めての上に、

これまで処女も避けていたのでバージンもお初、

用が済んだらさっさと部屋を出ることが当たり前だった故、

ピロートークなんざしたこともない。




(…はぁ、今までの経験が何にも役に立ちそうにねぇな…。)




そもそも、

香に自分と一線を越える覚悟ができているのか、

本人の意思確認も、もちろん重要だと念を押す。

しかし、香のこと、

自分がこんなに悶々としていることなんて、

これっぽっちも勘付いてない様子。

元をただせば、

その鈍さ疎さの原因も自分が作って育てたようなもの。




もう何年も何度も自分に繰り返し言い聞かせてきたことが、

また文字列で浮かぶ。




決して手を出してはいけない女、

女として見てはいけない女、

自分に縛り付けてはいけない女、

いつか表の世界で普通の生活を送らせるべき女、

心底大事に思う女だからこそ、

まともに触れることさえもままならなかった女。



それ故、己に暗示をかけるがごとく、

香にはひどい言葉ばかりを投げかけてしまった。

それが、

香の女性としての美しさの自覚を必要以上に

削いでしまったのは否めない。




幾度となく、風呂上がりの無防備な姿に翻弄され、

幾度となく、夏の薄着にまどわされ、

幾度となく、寝ている香を掻き抱きたいと思ったか。




そんな我慢も、

お互いの気持ちを確かめ合った今は、

過去の事しにしてもいいところまできている筈。

とは言え、

香と一線を越えるというのは、

今までの女関係の一線とはあまりにも意味が違い過ぎる。



あだやおろそかには、

とてもじゃないが越えられないライン。



一度抱いてしまったら、

それこそもう表へは返せない。

そんなことは、

とっくの昔からもう十分に承知している。




後戻りはできないのだ。

境界線を越えたら、

裏の世界という血なまぐさい闇の部分に、

深く身を堕とさせてしまう。

さらに、

今までのシティーハンターのパートーナーとしての位置づけに、

シティーハンターの女という肩書きが付加される。



自分に恨みつらみを持っている輩(やから)に、

おびき出す餌として、

より注目される素材になるのは必至。

過去に、何度も身を拘束されている事実を思うと、

今後も十分類似のことは起こりうる。



普通の女性が得られる幸せ、安全な生活、

たった一人の家族であった兄、

香から奪い取ってしまったものを思うと、

また揺らぎそうな気分にもなる。

しかし、

香は全てを承知で、

自分と一緒にいることを選び取った。




(お前は、俺よりも強いかもしれないな……。)




決意を固めることに、

臆病だったのは、むしろ自分のほうだ。

もう香を手放せなくなっていると、

随分前から自覚していたのに。

今までの関係を壊すことに怯え、逃げていた。

一歩を踏み出すことを先送りし続けていた。

守り続け愛し続けることへの自信があっても、

香の人生を変える覚悟と決心が出来ていなかったのだ。



だが、

もうこれ以上曖昧な関係を続けるには、

お互いにもう限界が来ている。

ただ、一度越えたラインは、

もう取り消しはできない。

だからこそ、

その先の未来を考えずに、行動する訳にはいかない。




「どうすっかなー…。」




食事の時の様子を思い起こすと、

思っている以上に疲労がたまっているのが

ありありと見て取れる。

早朝から、出かける前の家事をして、

式に出られるよう衣服を整え、

夕食の下ごしらえまでして、慌ただしく出発したのだ。

そして往復4時間の車移動の上、

奥多摩で花嫁も花婿も撃たれ、

自分は拉致拘束され銃口を向けられるという

生死の堺を意識した緊張感に晒(さら)され、

かつ大きな人生の転換期も重なり、

何もかも初めてという状態に大混乱し、

疲労がない訳がない。




(俺が我慢の限界だからと言って、

疲れている香に無理強いは絶対ダメだよな。

ヘタしたら、

二度と触れることが出来なくなる可能性だってある…。)




まだ、考えがまとまらないうちに、

リビングに香の気配が近づくのが分かった。

首にタオルをかけて、

手には水の入ったグラスを持ち、

ゆっくりと扉を開けて中に入ってくる

パジャマ姿の香。

長風呂だったせいか、

ほのかにピンクがかった体は、

ほかほかに温まっているようだ。



「……撩、

お風呂ありがとう。ちょうどいい温度でよかったわ。」

撩は、L字型の対面に座ろうとする香を制して、

「こっちこいよ。」

と自分のとなりのクッションをパフパフとたたいた。

一瞬、恥ずかしそうに身が固まったが、

たぶん離れて座っても、

撩が移動してくるかもと思い、

素直に、

撩の隣に少し間を開けて腰を下ろした。



嗅覚をくすぐるシャンプーと石けんの香りに、

くらっときそうになる。

香は、手にしていたグラスを口に運び、一気に飲み干した。

濡れた唇と、

上下する白い喉の動きに目を奪われる。




(…やべぇ。)




「ふー、やっと水分補給できたわ。

さっきキッチンで1杯飲んだんだけど足りなくて、

こっちに持ってきちゃった。」

長風呂で、随分喉が渇いていた模様。

香がガラステーブルにコトッとグラスを置く。

それと同時に、

撩は香の華奢な肩と細い腰にするりと手を回し、

自分の方に少し勢いをつけて引き寄せ両手で抱き込んだ。

どさっと体同士がぶつかる。

「ひゃっ!」



たったこれだけでも、

過剰に飛び上がる香の反応は当分楽しめそうだ。

「まぁだ慣れない?」

クスクス笑いながら聞いてくる。

「っと、と、と、当然でしょっ!」

風呂上がりでほてった体が、更に赤くなる。

「じゃあ、これからいーっぱい仲良くして、慣れてもらわんとなぁー。」

「え?」

(あー、いかん、いかん。ここでちゅーなんてしたら、

きっと止められなくなる。

初めてが、リビングで無理矢理なんてもっての他だ。)

ひとまず移動することにした。



「よし、寝るか!」



そう言うと、本日3回目のお姫様抱っこ。

「ええええ???」

ドアに向かい、電気を消して、リビングを出る。

展開が読めていない香は、この状況に驚き、

進行方向が客間でないことに、更に焦る。

「ちょ、ちょ、ちょっとっっ!撩!どこに行くのよ!」

腕の中でばたつく香に、当たり前のように言ってみる。

「もちろん俺の部屋。」

「は?」

香は、それがどういう意味か、

まだイメージが繋がらないらしい。




「続きは帰ってから、って言ったろ?」

「へ?続き?」

(…やっぱり通じなかったか。)





嘘をついたり、

ごまかしたりすることが至極苦手な香嬢。

この表情が、

” 続き ” のことを知っているけど

知らないふりしています、

というものではなく、

本当に分からないことを表しているのはよく分かる。



この手のことに縁遠かった香だからこそ、

致し方ない反応なのかもしれない。

あの奥多摩でのキスの先に、

どんな続きがあるのか、

香にとっては、おそらく未知数の世界。



そうこう考えているうちに、

7階の部屋に辿り着いた。

そっと戸を閉めると、

撩は、

柔らかい表情で

優しく香をベッドの右寄りに降ろした。



********************************
(20)につづく。




あとがきもどき、
というか言い訳コーナーというべきか…。
さてさて、
やっとこさベッドまでやってきました。
他のサイトさんでも、散々表現されている
撩のもやもや心理を掻き集めたような中身になっちまいましたが…。
「守り続け愛し続けることへの自信があっても」のくだり、
どこかのサイト様でお見かけしたイメージがこびりついて
離れなかったので、必死にその情報元を捜索。
カフェオレ様のお部屋で拝見したセンテンスでした。
すいません!ちょっとだけ調理して使わせて頂きました。
事後報告で申し訳ないですっ!
また、撩は処女はいやがるタイプで、
ミックは処女アサリが好みというのも、
複数の作家さんの発信に超納得です。
撩ちん、もんもんと悩んでいます。
さてカオリンどーする?


【脱字発見感謝!&若干改稿しました〜】
細く柔らかくしなやか体⇒細く柔らかくしなやかな体
「な」が抜けていましたー(><)。
過去の事していい⇒過去の事にしていい
「に」が抜けてましたー(><)。
mさん発見感謝!
2016.02.07.02:46
若干改稿
2017.02.13.21:55



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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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