17-06 Definition Of Sohmen

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目 


(6)Definition Of Sohmen ******************************************* 2728文字くらい



11月中旬、朝夕が冷えてきている。

食事も温かいものが欲しくなり、

香は、麺類がしまってある場所を確認する。

パスタに、うどんに、蕎麦にと保存がきく乾麺が並ぶ。

夏に買っておいた素麺(そうめん)は、そろそろ消費しなければ、

食べるタイミングを逃してしまう。

(まあ、お吸い物とかに少量使ってもいいんだけど、

今日、まとめて料理しちゃおう。)



大きめの鍋に湯を沸かす。

自分は150グラムあれば充分。

(撩は、……素麺っていっぱい食べても、なんか満足しないって感じよね。)

相方の満腹中枢を大人しくさせるには、

いまいちパンチ力がない。

(天ぷらとさつま揚げ加えちゃおうかな。)

練り物系と野菜でカロリーアップを測る。

全部で麺は500グラム、あとは温かい出汁つゆと

刻みネギに、削り節、刻み海苔、炒りごまをトッピング用に準備。

天ぷらも南瓜と秋茄子と竹輪を具材に選ぶ。

竹輪は別に衣を用意して磯辺揚げ。

あとは、冷凍してあったタコ入りさつま揚げを温めれば、

タンパク質は十分摂取できる。

イメージを具体化しながら、テキパキと昼食の準備をする香。




撩が呼びに行く前に台所に入ってきた。

「もうすぐ出来るから。」

「なぁ、ウチにマスクあったっけ?」

白木の椅子に座りながらそう尋ねる撩。

「は?マスク?」

銀行強盗とかが使うフルフェイスの黒い頭巾みたいなのが、頭に浮かんで、

どこかに襲撃でもしに行くのかと、先走ってしまう。



「白い四角いの?」

「そう、それ。」

「えーと、たぶん救急セットの中に、未使用が1つ入っていたと思うけど。」

「あー、じゃあそれ出しといてくれ。」

「風邪とかじゃないわよね。強盗にもで行くの?」

調理をしながら、冗談まじりで聞き返してみる?

「ちげぇーよ。だが、強盗みたいなカッコすんのは、おまぁだから。」

「ええっ?!」



頬杖ついて、にやりとする撩。

「な、なによ!それ!」

「とにかく、マスクと、あと帽子も用意しとけ。」

ますます怪しい姿になるのではと、口元がひくつく。



「おい、天ぷらそろそろ上げた方がいいんじゃないか?」

水分が蒸発し油の中で弾ける音が変化したのを聞き分けた撩、

美味しいタイミングを知っている。

「あ、いけない!」

あわてて取り出す香。

訝しがりながら、食卓を整える。



「天つゆと塩はこれ使って。」

丼の中に盛られた温かい煮麺に、

さつま揚げと天ぷらが並ぶ。



「おまたせ、食べよ。」

「おぅ。」

湯気を挟んで向き合って、箸をとる2人。

「いただきまーす。」

香は程よい硬さの麺を掬い上げてつるるとすすった。。

「うん、久しぶりに作ったけど、こうすれば夏以外でもいいわね。」

つるりんと香の口の中に吸い込まれていく白い麺が、

その愛らしい唇を濡らして艶やかに光らせる。



(まーた、無意識にそんなことするぅ。)

視界に入ってしまったものを払拭するかのように、

撩はずずずずずっっと一気に吸い上げる。

「やだっ!こっちまで跳ねたじゃない!もうちょっと上品に食べてよっ!」

「一度にたっぷり口ん中入れねぇーと食べた気しねぇーのっ!」

麺が口に入ったまま、天ぷらも頬張ろうとする撩。

頬袋がリスのようになる。

もごもごしながら、撩がふと香の方を見た。



「おまぁ、素麺の定義って知ってるか?」

「はぁ?定義?」

「法律で決まってんだぜ。」

「えーっ!!」

しゃべりながらも箸の動きと咀嚼を止めない撩。

「考えたことなかった…。長さとか決まってんの?」

「うんにゃ、決まってんのは乾燥してる時の断面の直径。」

「へぇー。」

「そうめん、ひやむぎ、うどんがそれぞれ断面の大きさで分けられているんだと。」

「はぁー。」

完全に箸が止まっている香。



「断面ねぇ、そうめんの断面って、……2ミリくらい?」

1本箸でつまみ上げてまじまじと白い糸を見つめる。

「それだと、ひやむぎになっちまう。」

「え、じゃあもっと細いの?茹でる前の状態よね。」

うーんと真面目に考える香がまた可愛らしくて、おのずと穏やかな表情になる。

馴染みのある食材なのに、

そんな決まり事があるなんて考えたこともなかった香。



「1ミリじゃあ細すぎるわよね…。うーん、1.5ミリ??」

「はずれ。」

「1.6」

「ぶー。」

「1.4」

「ぶー、っておまぁ、1発で解答しろよ。

コンマ1ミリずつズラしたら当てられるに決まってるだろうが。」

「うー、じゃあこれ最後、1.7?」

「ぶーっ!!」

「えええっー!」

「5回ハズレっつーものなかなかないな。」

ぶすっと表情がご機嫌ナナメの顔になる香。

「どーせ、あたしは的ハズシが得意ですよーだ。」



ぷいっとそっぽを向く香もまたいい、

とこれに萌える自分ってどんだけ惚れてんだと

込み上がる何かを押さえつつ、このやりとりを楽しむことにする。



「正解は1.3ミリ未満が素麺だと。」

「1.3?」

「そ。」

「あー、惜しかった!さっきの1.7か1.3か迷って1.7にしちゃったのよねぇ。残念。

じゃあ、うどんは?」

「おまぁが間違った1.7ミリ以上がうどん。その間がひやむぎだと。」

「へぇー!って、なんであんたそんなこと知ってんの?」

「ボクちゃん、博学だから〜ん。」

くねくね撩を、香は箸と丼を持ったままジト目で撩を見つめる。



「……どうせ、さっきの世界人口とおんなじで、

どっかのキャバクラかスナックで、もっこり美女の気を引くために

仕入れたネタでしょ。」

「あら?バレた?いでっ!!」

すこん!と顎に当たったのは1トンハンマー。

(ちょっとくらいは否定しやがれ!まったくもう!)

むすっとしたまま、黙々と食事を続ける香。



「てて、……まぁ、クイズの的は外してもかわまんが、

射撃の的は外さねぇように、ボクちゃんがしっかりコーチしてやっから、

そのつもりでなっ!」

顎をさすりながら、にやりとそう言い放つ撩。

ギクリとまたその表情を変える香。



「食い終わったらすぐやるぞ。」

「…う、うん、分かった。」

「ごっそさん!」

爪楊枝を銜えながら、キッチンを出て行こうとする撩。

「片付け終わったら、マスクと帽子を持って地下にこい。」

振り返りながら、そう言い残して廊下に姿を消した。

香は、つまみ上げた麺の束を見つめながら、撩のウンチクを反芻する。



「……1.3ミリねぇ。」



つるりんと飲み込むと、慌てて他の料理もカラにした。

「ご、ごちそうさま!」

誰もいなくても、食後の感謝の言葉は忘れない。



「は、早く片付けなきゃ!」

香は大急ぎでシンクに食器を運ぶ。

「どうしよう、夜の下ごしらえもしておきたいけど、…いっか。」

洗い終わった食器をカゴの中にそのままで、

急ぎ足で客間に行く。

ローマンが入っているショルダーバッグを持ち、

室内用の運動靴に履き替えて、

指示された、帽子とマスクを手に、撩の後を追って地下に向かった。


*****************************
(7)へつづく。





そうめんの定義、
管理栄養士の国家試験問題集に
出題されていたのが印象的だったもので。
(落ちたくせに…)


【サリン事件から18年】
この日の天気は、人生の中でも最も明瞭に覚えている快晴。
わたくし、一歩間違っていたら、
地下鉄千代田線の霞ヶ関駅でこの事件に巻き込まれるところでした。
今も、後遺症で苦しんでいる方が多数いらっしゃる中で、
この事件を知り、理解している若い人は年々減少中。
同じことが繰り返されないためにも、
忘れてはならない日として伝えていかねばと思います。
不謹慎ですが、きっと撩と香とファルコンと美樹が
実在していたらなば、この悲劇も未然に防げたかもと…。
改めて命を落とされた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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