17-07 Three Hundred Bullets

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩湖畔から9日目  


(7)Three Hundred Bullets  ********************************************3839文字くらい



地下の防音扉をそっと開ける。

ここの空間は、独特の香りがある。

撩は、木製の折りたたみ椅子に腰を降ろし、洋雑誌を見ていた。

H本ではないことが香にも分かったが、

たぶん、武器庫に放ったらかしにしてあったものだろうと、

考えを巡らせる。



「よし、始めるか。」

そう言いながら立ち上がり、

持っていた雑誌を空いているブースにぽいっと放る。

「まずは、これを着な。」

ほいっと渡されたのは、つるつるのポンチョみたいなもの。

あらかじめ用意されていたそれは、

香がこれから使うであろうブースのテーブルに置いてあった。



「え?なにこれ?」

「硝煙対策。」

「へ?」

「あとこれな。」

指なしの薄手の手袋とゴーグルが手渡される。

「え?」

「さっさと着ちまえ、ほれ。」

有無を言わさず、ゴーグルがひょいと顔にかけられる。

「ちょ、ちょっと待て。」

何が何だか分からずに、とりあえず慌ててポンチョをかぶり、

手袋をつける。

市販のより、若干手首の部分が長い。

ポンチョも裾が長い。



「で、帽子とマスク。これで銀行強盗の出来上がり。」

ぽんと帽子を乗っけられ、マスクが耳にひっかけられる。

「ちょっとっ!これで撃つの?!」

「そ。」

香は困惑した表情で説明を求めた。



「……おまぁは、まだ硝煙やガンオイルの匂いが体にしみ込んでいない。

それを逆に利用すれば、敵さんを欺くのに好都合ってこと。」

「ど、どういうこと?」

しゃべりにくいので、マスクを指で下にずらす香。



「……トラップじゃ、おまえの腕はその界隈に知れ渡っているが、

銃の腕は、おおかた見くびっている輩(やから)が殆どだ。

そこを利用するのさ。」

「利用って?」

「射撃は下手ですって思い込ませておいて、相手が油断しているところに勝機を掴む。」

撩は、香の両肩に手を乗せてくるりとブースに向き合わせた。



「これから、ここで射撃訓練する時は、

硝煙や火薬をかぶらないように徹底する。

このポンチョは、花粉みたいな微粒子が滑り落ちやすい素材で出来ている。

高温にも強い素材だから、熱で穴があくこともない。」

ぴろっとポンチョの端をつまむ撩。

「ここまでガードしておけば、髪や普段の服に匂いが染み付くこともない。

火傷も防げるだろ。」

「りょ…。」

ブースには箱入りの弾が約300発分高く積み重なっている。

香は、ローマンをショルダーバッグから取り出して、

充填されているか確認する。



「今日は、これを全部撃ってもらう。」

「……これ、…ぜ、全部??」

「制限時間は1時間くらいだな。」



ごくりと唾を飲み込む香。

しおりちゃんやマリーが来た時や撃ちまくったことがあった。

しかし、10分もしたら手が痺れてきた経験が脳裏に蘇る。

あれで充分硝煙の匂いがついたと思い込んでいたが、

実際の効果は何ら得られなかったことを思い出していた。




「6発ずつ、素早く当てることと、中心を狙うことを交互に繰り返せ。」

ポンと肩を香の肩を叩く。

「ほれ、耳栓しな。」

「あ、は、はい。」

慌てて使用済みの弾を耳にねじ込む香。

マスクも整える。

(あ、息がしにくいかも。)



射撃とは言え、激しくエネルギーを使うことには間違いない。

ちゃんと呼吸ができるか気になったが、

帽子のツバを整え、足を肩幅に開き、両手でローマンを構えた。

安全装置を指でくっとずらす。



香はいよいよ本格射撃訓練のスタートラインについた。



「……よし、始めてみな。」



その撩の、言葉を合図にローマンから発砲音と硝煙が醸し出される。

最初の6発は、前回の練習同様2円分に全て収まる。

ジャキンと薬莢を落とし、新しい弾を充填する。

ローダーはない。

次は、短い時間で全弾撃つことを優先にする。

その差は明瞭で、見事に的に開いた穴はばらけてしまった。

双方、それは承知の上。

香は悔しく思うも、続けて同じ動作を繰り返す。



撃ちながら香は、計算をする。

だいたい狙いをつけて撃つときは6発を使うのに12秒から15秒。

連発を優先する時は10秒ほど。

構えて狙いを定める時間と、充填時間を加味すると、

18発撃つのに今のところ1分前後、

フルメタルジャケットが入っている箱は300発分。

単純計算では、20分もかからずに撃てる数ではあるが、

そう簡単でないことは、香も分かっている。



たぶん、最初の5分で、手が重たくなり自由がきかなくなる。

多少なりの体験から、1時間で果たして消費できるのか、

素早く新しい弾を入れることができるのか、

ちゃんと的に当てられるのか、

動きにくく見えにくいスタイルでの射撃に、

不安要素は大きく膨らんで行く。

(事故だけは起さないようにしなきゃ…。)

そう思いながら香は続けた。



銃声が響く中、撩は香の斜め後ろにやや離れて立ち、

腕を組んでただじっとその様子を見つめている。





15分経過。

時間の経過と共に、

全ての動きが最初の所要時間よりも確実に長くなっている。

ゴーグルのためか視界が良くない。

バラバラバラと落とされる薬莢は、足下の床が見えなくなる程に転がっている。

すでにブルズアイは、ちぎれ落ちそうなほどに大穴が開けられている。



「はぁ…、はぁ、はぁ…。」



腕にくる衝撃と、銃を支え続けている筋肉の疲労が徐々に集中力を奪って行く。

それでも、指示された通り、

連射と狙い撃ちを繰り返す。

パチンパチンと弾倉に弾を込める音が響く。

心なしか、素早く出来にくくなってきた。

チャキンと弾倉が本体に戻る音が耳にクリアに聞こえる。

ぐっと構える香。

撃鉄に指をかけたとことで、急にマガジンをばしっと押さえつけられた。



「はい、一旦ストップぅ〜。」

「!!」



撩の接近に全く気付かなかったことと、

急な寸止めにかなり驚く香。



「的、とっかえっから、待ってろ。」



撩は、ブース横にあるスイッチを押して、

ずたぼろの的を引き寄せた。

モーターの動く音がする。

素早く新しいのに交換して、また同じ場所に戻す。



そのわずかな間、銃を下に向け、腕を休めることに集中した。

息が整うには、足りない時間ではあったが、この間がとても助かったと、

目を閉じで視覚も無意識に休ませていた。



「ほれ、さっさと続きしな。」

また斜め背後に戻る撩。

「あ、う、うん。」

慌てて姿勢を正す。

マスクから漏れる息でゴーグルの表面がやや曇りがちになる。

目を細めて、トリガーを引く。

轟音と共に、新しい的に連続で穴が開く。

しかし、バラつきが酷い。

中心を狙って撃っているパターンのはずなのに、

しかも、6発とも的の下半分に集中している。

きっとこれは、銃の重さで自分の腕が下がっていることを示していると、

香はまだ半分も消費していない弾を見ながら、

焦りが出始めた。



(しゅ、集中しなきゃ…。)



ゴーグルを手袋の甲でくっと拭って曇りを取る。

マスクでの呼吸もなるべく下に空気が抜けるようにする。

数十回目かの充填に、指が空回りしそうになる。



(あーん、スピードローダーが欲しいっ。)



再び中心を狙って、

やや上腕の角度を上げ気味に微調整する。

ガーン!ガンガンガン!



「ふぅ。」



一応思惑通りに狙えるも、今度は時間がかかり過ぎた。

繰り返しの作業が続く。

無駄な動きを出来るだけしないように意識する。



(この弾だって、ただじゃないんだから、

ちゃんと撃てるようになんなきゃ…。)



射撃場に、銃声と薬莢が落ちる音、充填の音、弾倉が戻る音、撃鉄を引く音が

繰り返される。

分かっていはいたが、その動きが徐々に遅くなっていく。

構える早さも、狙いを定めるのも、箱に伸ばす手も、

全てに素早さが削がれていく。



30分が経過したところで、

ついに、指から弾丸がこぼれ落ちた。

「あ!」

(床に落ちたら探しにくくなる!)

ブースのテーブルにキンと跳ねたところで、香は素早くキャッチした。

「あ、あぶなかった…。」

指先がわずかに痺れ始めた。

一旦、動きを止めて右手を見つめる。

(……これは、たぶんマスクをしているための酸欠の症状だわ。)

弾は残り3分の1。



(まだ、大丈夫、動かせる。)



「つ、続けなきゃ。」

香は、目を細めながら、作業を再開する。

視界の中に、撩がいないので、

まるで一人で打ち続けているような錯覚にもなる。

それでも黙々と打ち続ける。



撩のパートナーとして、少しでも自分に力を付けたい。

ただ、その思い一心で引き金を引き続ける。

撩程まではいかなくても、そこそこ狙った場所に撃てるようにならなければ、

撩の仕事を支えられない。

ただでさえも足手纏いな存在、それを少しでも改善しなければ。

とにかく今は、この300発をちゃんと打ち込めるように、

気力と体力を維持させなければ。

そう思いながら、的に集中する。



「……真ん中に、……当たれっ!」



ガンガンガン!ガーン!ガーン!

腕に伝わる震動が、より骨に響くようになってきた。

真ん中部分に2円分を失った穴が開いている。

的からはみ出た弾痕はない。

しかし、やはり下半分の傾向が見え隠れする。




薬莢を落としたところで、撩が視界に入って来た。

「的3枚目な。」

再びブースに使用済みの的を引き寄せ、新しいものと交換する。

「残り100発いけるか?」

耳栓をしているので、撩の声がとても小さく聞こえたが、

口の動きと一緒に何を言っているかはちゃんと分かったので、

香は、無言で頷いた。

「よし、続きだ。」

そう言って、また香の立ち位置から下がる撩。



再び構える香。

この的交換で短くも息継ぎができた。

集中しなおして、残りの弾丸を撃ち込み続ける。

ただひたすらに、

自分のために訓練を始めたパートナーに答えるられるよう、

いい加減な気持ちは微塵もなくトリガーを引き続けた。


**********************************
(8)につづく。





疑似体験。
1リットルのペットボトルが、だいたいローマンの重さに近いかなと。
これを腕を伸ばして両手で持って3分でもうギブアップ。
実弾を撃った時の経験をたぐりよせようとしましたが、
口径が小さかったのか、あまり振動衝撃は覚えておらず、
パンパンといった感じの軽い音だったような…。
こんなことなら、ちゃんと真面目にやればよかった。
うー、高校生の私にバカと言いたい。
ちなみに、
的はモータでレールを往復するタイプにしてみました。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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