17-09 Visit Of A Neighbor

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目


(9)Visit Of A Neighbor  ************************************* 2911文字くらい



撩は、香の左指をそっと持ち上げた。

人指し指の第二関節の側面が少し赤くなっている。



「りょっ…。」



無言で、そっと唇を寄せた。

目の前で自分の指に吸い付く男に、目を見開いて驚く香。

撩の舌が皮膚に触れていることが脳に届くと、

瞬時に体温は沸点まで上昇。

目を静かに閉じて指をふくむ様は、

香にとって心臓が爆発しそうなほどの破壊力。



とてもじゃないが直視できないと、

真っ赤な香は自分の激しく動く心音を感じながら、

目を閉じ撩の胸に速攻で顔を伏せた。

片腕は自分の腰にまわされたまま、

密着している腹部からお互いの鼓動が伝わる。

指はそのまま深く根元まで撩の口の中に招かれる。



「ぁっ…。」



ぞわりとした感覚が背筋を上り、

まだ僅かに痺れが残る四肢に、違う震えが伝わった。

指先が感じる、ねっとりとした粘膜の感触と温度が、

思考をどこかに持っていかれるような感覚に繋がり、

香は、右手で撩のシャツをぎゅっと握り込んだ。

ちゅぽんと音がし、香の指は引き抜かれた。



「……水泡できるかもな…。」



右手で香の手先を握ったまま、

親指でそっと患部を撫で上げる。



「……無駄に傷作りやがって、注意しろって普段から言っているだろうが。」

「……ぅ、…ご、…ごめんなさい。」



顔をそらしたまま、そう小さく答える。

香が謝罪の言葉を言う度に、ずきんと胸の奥が痛む撩。

謝らなければいけないのは自分の方だと、

手放せなかった原罪に心が抉られる。



香の目の高さで、撩の右指と香の左指が絡み合う。

そのまま、腰に巻かれた腕が迫り上がって

背中をぐっと押されるのを感じた。

「お疲れさん…。」

思わず顔を上げた香に、柔らかく撩の唇が重なる。




「んんっ…。」



射撃場入口の狭い通路で与えられる熱に

射撃の疲労も手伝ってか、

香は早々に意識がぼやけてくる。

もう口唇の痺れもなくなってきていたが、

これではまた酸欠になってしまうと、

撩のミドルキスを受けながら、眉を寄せて手の指を握り込んだ。



「……客が、来たようだ。」



軽く上唇を合わせたまま、そう呟く撩。

「え?だ、誰か入って来てるの?」

お互い、ゆくっりと離れながら、眉間に皺を浅く作る。

もしかして賊が侵入してきたのではと連想する香。



「……ったく、間の悪過ぎるヤツだ。」



撩は、機嫌が悪いのをあからさまにする。

「は?」

どうやら切羽詰まる相手ではなさそうだと、

この様子から汲み取る香。



「……行くぞ。薬莢の掃除は、俺がしとく。

少なくとも、大量に撃った後は、半日くらいは中に入るなよ。

残り香が移っちまうからな。」

撩は、ビニール袋とバッグを持った香の背中を押して、

一緒に階段を上がって行く。



「……ねぇ、……撩。」

「あ?」

「あんたには、もう体に染み付いた硝煙の匂いがあるわけでしょ?

その、……一緒に、暮らしてて、…一緒の、…べ、べ、ベッドで…

ね、寝たりするのって、……あたしの匂いが変わったりするのに影響、

あるんじゃ、な、ないの、かな?

美樹さんにも、ま、前に、い、言われちゃった、し。」

「はぁ?なんて?」

「ぅ、……だ、だから、…あ、あたしから、りょ、撩の匂いが、…するって、

言われた。」

「へ?おまぁ、美樹ちゃんと抱き合ったりでもしたのか?」

「!!っ」



香の頭の中に、

あの病室で撩とファルコンが、

お互いパートナーに

「ずっと一緒だ」というセリフを使っていたことを知ったシーンが蘇り、

じゅわっと湯気が出る。



「…っあ、…だだだだ抱合ったとか、っじゃなくって!

シーツを変える時とか、お薬渡す時に、そばに近づいたら、

そういいいい言われたのっ。うん!」

必死にごまかす香。



仮に正直に美樹とくっついていたことを話すと、

なぜそんな流れになったかを話さなければならなくなる。

とりあえず、ぼかすことに。

「ふーん。」

「そ、そうなのっ。で、じ、実際はどうなのよっ?」

「あー、あのな、長年銃を使う環境にいるとな、例えば席が隣同士になった距離でも、

敏感なヤツの鼻には、それが分かっちまうんだな。

裏の人間でなくても、オリンピックの射撃の選手なんかもでも同じさ。」

「そ、そうなんだ…。」

「だが、おまぁは、その距離でも分かる様な匂いは極力付けさせないことにする。

さっきも言った通り、敵さんの裏をかくことが目的だ。

俺に匂いっつったって、それはあくまでも俺のであって、

おまぁの体に染み付いたもんじゃねぇし。」

「……あれ、ずっと付けて練習しなきゃダメなの?」

「そ。」

「えーっ!」

「あーゆーのに慣れておくと、いざっていう時、役立つんだぜ。

マラソンなんかでも、高地で訓練すんだろ。あれと一緒だ。」

「うー。」



そんなやりとりをしながら、5階の玄関前まで来たところで、

撩が見えない相手にしゃべり始めた。

「中に入れるつもりはないんだが、何か用か?」



一拍置いて、

階段の影から出て来たのは、白いスーツのミックだった。

「ミック!」

お客とはこのことだったのかと、気配を察知できなかった自分にまた

がっくりとくる香。



「おいおい、せっかくこの間協力してやったのに、

その言い方はないだろ?

カオリ、今日もキュートだ。遅くなったけど、これはお祝い。」



がさっと出された大きな花束で、自分の視界が遮られる。

黄色いサンダーソニアとカスミソウが押し付けられた。

「えええ?お祝い?なななんの?」

「もちろんリョウとのロス」

トバージンと続けようとしたところで、こめかみに銃口が押し付けられた。

「帰れ……。」

「No、No!大事な話しがあるんだよ。埠頭の件で、な。」

つんつんと白い手袋をした指で銃口をずらすミック。

もう何度となくこのやりとりを繰り返しているが、

いつも殺気に冗談は混じっていない。

撩は心底嫌な顔をしたが、香は空気を読めず中に入るのを促す。



「ミック、中で話す?コーヒー出すわよ。」

「香、おまぁ、先に入ってろ。ミックんとこ行ってくるわ。」

「え?」

「すぐ戻る。ミック、話しがあるんなら、

向こうで聞いてやるからさっさと済ませろ。」



訓練で疲れている香を働かせたくないことと、

ミックを香に近付けさせたくないことと、

余計な会話を持ってこさせたくないこととを、

瞬時に判断して場所を変えることにする撩。



「じゃあ、カオリ、リョウをちょっとだけ借りて行くね。」

軽くウィンクを香に送るミック。

同じくらいの背格好の男2人が並んで、

ビルの階段を降りて行った。



「なんだろ、中に入ってもらってもよかったのに…。」



香は、疑問符を頭の上に並べながら、

玄関の扉を閉めた。



3つに増えた荷物を抱えて

吹き抜けに続く階段を昇る足は、やや重たい。

それ以上に、腕に疲労がきている。

1時間、重さ1キロに近い物をずっと平行を保って持ち続けていたことに加え、

射撃の衝撃で筋肉がくたびれているのが分かる。



「服だけ、着替えようなか…。」



香は客間に行き、テーブルの上に花束をかさりと置き、

ドレッサーの上にショルダーバッグを、床にはビニール袋をそっと落とした。

ポンチョの下で汗をかいた上着を脱いで新しいシャツを着る。



「お風呂は寝る前でいいわよね。」

時計をちらりと見る。

2時台後半。

「一休み、しようか、な…。」

香は、そのままばふっとうつ伏せにベッドの上に倒れこんだ。

ほどなく、そのまますーと眠りに落ちていった。


************************
(10)へつづく。





カオリン、色々お疲れたまってます。
昨日に引き続きお昼ねならぬ、夕寝タイム。
サンダーソニアは可愛い釣り鐘型のお花で
花言葉が「祝福」、
ミックのメッセージに使わせてもらいました。
撩ちん、とりあえずお誕生日おめでとう〜。
いつまでも「ボクちゃん、冴羽リョウ、ハタチなの。」と
言ってて欲しいです。
で、その度にカオリンの突っ込みがセットということで。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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