17-10 Mick's Office

第17部 Compensation Of Bill

奥多摩から9日目


(10) Mick’s Office  ***************************************** 4391文字くらい



無言でミックのオフィス兼自宅に到着した2人。



「どっかの店じゃなくてもいいのか?」

玄関を開けながら、そう問うミック。

「めんどくせぇ。話しがあるんなら、とっとすませろ。」

「じゃあ、まぁ中にはいれよ。」

室内に撩を促す。



無遠慮に、

冴羽アパートを見下ろせるリビングのソファーに遠慮なく腰を降ろす撩。

キッチンでミックが冷蔵庫を開ける。

「ビールでいいか?」

返事も待たずにぽいっと350ml缶を撩に放る。

一瞥もせずに、無言でそれをキャッチする撩。

「で?」

ぷしゅっと栓を空けながら、

対面のソファーに深く座るミックを目で負う。




「敵を欺くためっていうのは、フェイクだな…。」

缶に口をあてながら目を細めて小さく呟く金髪男。

「ああ?」

「おまえ、カオリに硝煙の匂いがつくのがそんなにイヤなのか?」

「……聞いてたのか。」

「ああ、しっかりとな。」

「言っただろ。一つの作戦だよ。相手の油断させるためのな。」

「違うな。」

「しつけーな。」



ふっと小息を出すミック。

「リョウ…、あんな対策しなくても、

カオリには俺らのような染み付いた匂いはつかないんじゃないのか?

20年、30年と銃器を使い続けている俺らとは、

スタートが違い過ぎる。」

「だからこそだよ。」

「……そっか、……わかった。」

「あ?」

「カオリといちゃつく時、匂いがすると嫌なんだろ。」

ドン!!

ミックのこめかみに赤い線が走り、髪の毛が一房持っていかれた。

背後の壁には、めり込んだ弾の痕。



「あぶねえ!何すんだよっ!」

「……お前の大事な話しっつーのは、これか?」

「……ふ、……いや、……色々聞きたいことがあるんだよ。」

人差し指で、乱れた髪をぴっと跳ねるミック。

「俺、帰るわ。」

薄々と分かってはいたが、埠頭云々というのはウソだと悟った撩は、

空き缶をぐしゃりと潰してコーナーのダストボックスにシュートすると、

立ち上がろうとした。



「おいおい、待てよ。あれからこんな時間なかなか取れなかったんだぜ。

ファルコンの式から9日、どうだ?」

タバコに火をつける撩。

「なにが?」

「幸せか?」

「ぐっ、ごほっ、ぐほっ!」

煙にむせる撩。

「聞くまでもなさそうだな。」

ミックは、ソファーに体を深く預ける。



「……本気で愛したいと、初めて思ったのが香だ。

リョウ、お前もそうだろ…。」

次に何を言い出すのかと、言葉を待つ撩。

「俺が空港でお前に言ったことと、

船から戻ってきた時に言ったことを覚えているか?」



撩は、自宅のベランダを見ながら言葉を返した。

「……ああ。」

「身を切り刻まれる思いで、お前に托したんだ……。」

ミックも撩と同じ方向を向く。



「幸せにしろよ。」

とあの時と同じことを言ったミックは、ん?と視線を上に投げた。

「いや、違うな。幸せっていうものは、自分が決めるものだ。

訂正。……香を悲しませないでくれ。

そして香の笑顔を曇らせないくれ。

これが、俺の一番の願いだ。」



「……よくしゃべるな…。」

「俺の希望であり、女神であり、命の恩人であり、

愛とは何たるかを教えてくれた唯一の女性が香だ。」

「……ミック、同じセリフをかずえちゃんの前で言えるのか?」



「もう、言ってあるさ…。」

ミックはふっと息を吐き出す。

「それでも、俺とかずえは共に生きることを決めた。」

「あーあ、かずえちゃん、かわいそうになぁ〜、

こぉーんなやつの面倒なんか見なきゃよかったのに。」



ミックは、表情を崩す撩を横目で見ながら続けた。

「……リョウ、お前がリハビリを受けている時、教授がつきっきりだったんだろ?」

「……ああ。」

思い出したくない記憶に、撩はミックからの視線を逸らす。

「じゃあ、分かるよな。」

「なにが?」

分かってはいるがわざと聞き返してみる。

「カズエが、どんな状況に置かれていたか、だよ。」

「………。」

「それを俺らは乗り越えたんだ。もう、これ以上の試練はないってくらいのな。」



撩は、禁断症状で苦しんでいた己の姿を思い出す。

暴れるのを押さえるための強力な拘束帯に

舌を噛み切らないために銜えさせられた猿轡(さるぐつわ)。

排泄物も、口から溢れる吐瀉物(としゃぶつ)も唾液も、

汗も、体をかきむしった血の流れも、

なにもかも教授が繰り返し清めてくれた。

満足に食べることも寝ることも出来ない状態、

意識も現実と夢を激しく往復し、幻覚幻聴で脳が塗り固められ、

体と心がばらばらに粉砕されるような激痛は、

いっそこのまま殺してくれと懇願したくなる程。

絶望と苦痛の泥沼で泳ぎ続けた数ヶ月間。

山を乗り越えた時、教授の顔や体に残る傷に、枯れたはずの涙が頬を伝った。



恐らく、かずえもミックの振り払う腕や足で、

痣をいくつも作ったに違いない。

もし、同じ状況で、香が自分の看護をすることになったら、

果たしてそんな姿を晒すことを自分が耐えられるのか、

そう置き換えてイメージした時、

脳はそこで考えることを強制的に閉じさせた。



「カズエがいたからこそ、香への愛の形が変わったんだよ…。」

「は?」

「そうだな、何て言うんだ?日本語で?

しいて言えば、父親が娘を心配するような愛か?」

「父性愛かよ。」

「そうだ、それだ。たぶんファルコンも似た様なもんだと思うぜ。」

「ミック、お前いつ香の父親になったんだ?」

「……忘れもしない27年前、俺が初めて女の味を知ってしまったあの時に、

相手の女が身ごもったのがカオ」

ずずずずずんんんん!!

「ミック、おまぁ5歳で初体験かよ…。」

珍しく撩がハンマーを出現させた。

ノーマルの100トン。

ミックはソファーにめりこんだまま、手足をぴくぴくと振るわせた。

「リョ…、お、まえ、も、ハ、ハ、ハンマー、だ、出せるんだ…。」

「原作ちゃんと読め。」



カチッとジッポに親指をひっかけ、火を灯す。

「帰る。」

2本目のタバコを銜えて立ち上がった撩。

「待てって!」

ハンマーをごろんと転がして、呼び止めるミック。

「まだ何かあるのか?」

「……どんな訓練を予定しているんだ?」

「あ?」

「香を鍛えるんだろ?教授の別荘の一つを借りるんだって?」

「ちっ。」

一番知られたくないヤツに情報が漏れたことに、

素で舌打ちをする。



「協力するぜ。」

「いらねぇ。」

「どの場所を使うんだ?」

「俺がぺらぺら喋ると思うのか?」

「いや、カオリが心配でな。」

「父性愛でか?」

「まぁ、それもあるが…。カオリは自分から弱音を吐かないタイプだから、

限界ギリギリまで耐えて、

そのツケを自分でどっぷりかぶってしまいそうだなと思ってな。」



撩はさっきの射撃訓練の様子を思い出す。

それだけでなく、自分の今までの曖昧な態度に対して、

香は様々なものを諦め耐え抜こうとしていた。

心の破綻が訪れる前に得ることができた最上のきっかけに、

いかに幸運だったかを思う。



「ミック、お前こそ、かずえちゃんに我慢させるようなことをしてんじゃないのか?」

「いや、その心配は全くないね。」

「なぜ?」

撩は片眉を少し上げた。

「常にカズエが優位だ。」

ミックは苦虫を潰した様な照れの表情で続ける。



「……こう言われたよ。

『ミック、あなたはこれまで数えきれないほどの女と寝て来たんでしょうけど、

おシモの世話までしたのは、

あなたのお母様を覗いては、私だけのはずよね。』ってね。」

「ぶっ!」

撩はパシっと口を押さえた。

「始めはさ、オシモってなんのことか分からなかったからさ、

カズエの強気の空気がどうしても分からなかったんだけどさ、

意味を知ってショックだったよ。」



金髪を白い手袋で掻き上げるミック。

肩を振るわせて笑いをこらえている撩の背中にムっとして、

履いていたスリッパを背骨に向かって投げつける。

「おい、そこ笑い過ぎだ。」

「ぅうく、くくくっ、さ、さっすが、かずえちゃん!」



「撩、お前だっていつ何時、

カオリにシモの世話してもらうことになるか分かったもんじゃないぞ。」

「う、うっせえ!俺がそんなヘマするか!」

「どーだか。……だがなリョウ、

積極的で強気な大和撫子の魅力を知ったら、

優位に立たせるのも悪くはないぜ。」

「あ?」

ミックは、ソファーに座り直して、自分の両手に視線を落とした。



「……俺の手は、いくらカズエに触れても、その感覚が分からないんだ。」

「ミック……。」

白い手袋の下は、感電で焼けただれ引きつったケロイドの残る黒ずんだ皮膚。



「だから、カズエがそれを補うように積極的なんだよ。

まぁ、俺だって手が使えなければ

他の使えるところを駆使しているけどなっ。」

「ノロケだったら、他でやってくれ。帰るぞ。」

「……リョウ、お前が羨ましいよ。」

立ち上がった撩が動きを止めた。



「その手でカオリの柔らかい髪に触ったり、しっとりとした頬に触ったり、

その指でいろんなことしてんだろぉぉ?

ああくそっ!娘が嫁にいった気分ってこんな感じなんだろうなぁー!

オレのカオリがぁぁぁ。」

頭を両手で抱えて髪をかき回すミック。



「いつお前の香になったんだ?」

「言っただろ、香は常に俺の心の女神であり希望さ。」

はぁと溜め息をつく撩。

ちらっと窓の外を見下ろすミック。



「まだ、ここにいろよ。

今戻ると香がお前の世話で、せっかくの休息時間が短くなってしまうだろ。」

「ああ?」

「さっきの射撃で疲れているはずだ。リビングには気配はないから、

たぶん客間で仮眠していると思うぜ。」



ミックに指摘されなくても、そんなことは分かっていた。

しかし、元相棒の言うことも最もだと思い、

致し仕方なく、どさりとソファーに腰を降ろした。

「まぁ、伝達事項が色々あるから、ゆっくり話そうや。」

「伝達事項?」

眉間に浅くシワが寄る撩。

「ああ、お前がアメリカを出てから、この十数年で向こうでどんな動きがあったか、

俺の知っていることを教えておこうと思ってな。」

「なんでぇ?」

「カオリを守ることにも繋がる。

あと、俺が教授宅で過ごしている時に、結構有益な情報ももらっているから、

それも合わせて、俺らが関わってきた輩(やから)の現在進行形を伝えておくよ。」

「そりゃまたおせっかいな話しだな。」



撩はまたタバコを銜え直した。

「損はしないと思うぜ。」

「はぁ、長くなりそうだな。手身近に頼むぜ。」

「ふっ、じゃあ‘78年のあの事件から話すかな。」

「はぁ?そこまで遡んのかよっ!」

「当然。」

「恨み、つらみってものは、10年、20年で縮小するもんじゃないからな。」

「うげぇ、聞いてらんねぇ。」

「全てはカオリのためだ。どんな形で表に出てくるかわからないだろ?」

「まぁ…な。」



マリーとかかわったデビッド・クライブのことを思い出す。

考えてみれば、マリーもソニアもミックも海原も、

アメリカから渡って来た連中はみな

自分を消すために接近してきた。

今後同じことが起こらないということは断言できない。



「話すんなら、さっさとしてくれ。」

窓の外を見ながら、紫煙を細くたなびかせる撩。

「OK!」

ミックは、この提案を受け入れた元相棒にふっと顔を緩ませた。


************************************
(11)につづく。





撩が自らハンマーを出した場面は、
浦上まゆこ編にて、
カオリンがジッポを撩の部屋に届けにくるシーンでノーマルハンマーを、
神村愛子編の倉庫で賊を倒すシーンで1トンハンマーを使っています。
振り返ると、結構サブキャラもかなりハンマー出してますね〜。


【プライベート話しですいません】
お返事等まだ溜め込んでおりまして、
申し訳ないです。
ちょっと色々きつきつなところに、
事故の連絡が入り大きな喪失感を抱えております。
ここから先は、読んでもいい方だけお進み下さい。










ニュースをご覧になられた方もいらっしゃるかもしれませんが、
北アルプスで遭難滑落し亡くなった2人の女性のうち、
一人は、私の妹とも呼べるような親しい後輩でした。
ご主人から連絡を受け、もう立てないくらいのショックを受け、
今も嗚咽感がとれません。
弔電を打ったり、関係する友人知人に連絡をまわしながらも
まだ信じられない気分です。
近隣では高齢者の方の葬儀にはよく立ち会うのですが、
20年来の付き合いのある仲間の早すぎる迎えに、
もう何をして何を言っていいのやら、まさに頭は真っ白です。
CHファンとして、この今を生きていることの幸運を
改めて振り返る機会を様々なサイト様から頂いております。
ただ、今回は私の人生にとって初めてとも言える、
親戚以外での身近すぎる死の事実に、
頭の理解が追いつかない気分です。
それでも、
生き得なかった人の分までと言うのはおこがましいかもしれませんが、
とにかく生きていかねばと思います。
沈みっぱなしでは、きっと後輩も困るでしょうから、
出来るだけ早く浮上したいところですが、
ちょっと時間が必要かもしれません。
一緒に4000mの山頂に降り立った彼女との思い出を胸に、
一歩一歩前進していきたいと思います。
もうすぐカオリンのお誕生日なのにダークな話題で失礼いたしました。
お返事等今暫くお待ち下さいね。
[2013.03.28.23:59]

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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とりあえず作ってみた
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